説明

水稲用苗床及び水稲用苗床の作製方法

【課題】本田等へ移植後の水稲栽培に必要な肥料成分が供給できる育苗箱施肥法において、移植後の活着が良好な健苗を育成することができる水稲用苗床、及びその作製方法、それを用いた栽培方法を提供する。
【解決手段】肥料成分として化学合成緩効性窒素肥料を含有する粒状肥料を、床土層、肥料・種子層、及び覆土層の上方から片寄ることなくに施用することによって緩効性肥料層を形成させた水稲用苗床、及びそれを用いた栽培方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水稲用苗床に関する。詳しくは、全栽培期間中の施肥量及び施肥回数を少なくできるような積層構造を有する水稲用苗床、苗床の作製方法及び苗床を用いた水稲の栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、新しい農業技術が開発され、それに伴って農業機械、農業資材などの技術革新が進んだ結果、農作業の大幅な省力化が実現されている。水稲栽培においては、時限溶出型の溶出機能を有する被覆肥料が開発され、全量基肥施肥法が実用化した。更に、育苗期間の肥料の溶出を極少に抑制した被覆肥料を用いた育苗箱全量施肥法が新たに開発され、普及しつつある(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。
【0003】
種子と同時に施用できる肥料は、少なくとも育苗期間、肥料の溶出を極少に抑制する必要がある。このとき、溶出量が育苗時に必要な肥料の量を超えると発芽障害などの生育遅延が発生し、苗が枯死する場合がある。高度な時限溶出機能の付与を達成して流通する被覆肥料であっても、溶出を抑える技術と溶出させる技術が相反するため、溶出が開始しても溶出速度が上がりにくい(緩慢である)傾向がある。このため、育苗中の苗の生育は、従来の追肥を行う育苗方法と比べて、葉色が淡く軟弱になりやすい。また、移植後も、十分な肥料成分が被覆肥料からすぐに溶出するわけではなく、移植前から活着するまでの間は、養分の供給が少ない低栄養状態で環境ストレスに弱い状態が持続することから、冷害、風水害などを受けやすく、活着不良などによる欠株となりやすいことがある。
【0004】
【特許文献1】特開平7−236352号公報
【非特許文献1】庄子貞雄編集、金田吉弘著「新農法への挑戦―生産・資源・環境との調和―」博友社、1995年3月20日発行、p.203−220
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、本田などへ移植した後の水稲栽培に必要な肥料成分を供給できる育苗箱施肥法において、例えば、移植後の活着が良好な健苗を育成することができる水稲用苗床、及びその作製方法、それを用いた栽培方法を提供することなどを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前述の課題を解決するため鋭意研究を重ねた。その結果、(a)化学合成緩効性窒素肥料を含有し、(b)粒子径0.5mm以上の粒子を70質量%以上含有し、最大粒子径が2.0mm以下であり、(c)速効性窒素含有率が粒状肥料中の全窒素成分に対して10%以下であり、(d)一粒あたりの平均質量が0.1〜5mgである粒状肥料を用いて、床土層、肥料・種子層、覆土層から形成される層の上に緩効性肥料層を形成させた水稲用苗床、及びそれを用いた栽培方法によって、前記課題が解決されることを見出し、その知見に基づいて本発明を完成した。
【0007】
1. 床土層、床土層の上に位置して時限溶出型の被覆窒素肥料と種子とを含有する肥料・種子層、肥料・種子層の上に位置する覆土層、及び覆土層の上に位置する緩効性肥料層を有する積層構造の水稲栽培用の苗床であり、緩効性肥料層が、下記の条件を満たす粒状肥料を含有する層である水稲用苗床。
(a)化学合成緩効性窒素肥料を含有する。
(b)粒子径0.5mm以上の粒子が70質量%以上であり、最大粒子径が2.0mm以下である。
(c)速効性窒素含有率が粒状肥料中の全窒素成分に対して10%以下である。
(d)一粒あたりの平均質量が0.1〜5mgである。
【0008】
2. 化学合成緩効性窒素肥料が、脂肪族アルデヒド縮合尿素、オキサミド、及び硫酸グアニル尿素の群から選ばれた少なくとも1つである項1記載の水稲用苗床。
3. 化学合成緩効性窒素肥料が、アセトアルデヒド縮合尿素、イソブチルアルデヒド縮合尿素、ホルムアルデヒド加工尿素肥料、グリオキサール縮合尿素、及びメチロール尿素重合肥料の群から選ばれた少なくとも1つである項1記載の水稲用苗床。
4.
化学合成緩効性窒素肥料が、アセトアルデヒド縮合尿素である項1記載の水稲用苗床。
5. 粒状肥料が、難水溶性リン酸肥料及び/または撥水性物質を含有する項1〜4のいずれか1項記載の水稲用苗床。
【0009】
6. 時限溶出型の被覆窒素肥料が、その累積窒素成分溶出率が施用した時点から10%に達する迄の期間をd1(日)とし、その累積窒素成分溶出率が10%を超えて80%に達する迄の期間をd2(日)とした場合、d1が育苗期間と等しく、かつd1/d2が0.2以上である溶出パターンを有する項1記載の水稲用苗床。
7. 肥料・種子層または緩効性肥料層が浸透移行性の殺虫作用及び/または殺菌作用を有する粒剤を含有する項1〜6のいずれか1項記載の水稲用苗床。
【0010】
8. 床土層を形成し、床土層の上に時限溶出型の被覆窒素肥料と種子とを含有する肥料・種子層を形成し、肥料・種子層の上に覆土層を形成し、次いで、覆土層を形成した直後から苗の移植直前までのいずれかの時期に、(a)化学合成緩効性窒素肥料を含有し、(b)粒子径0.5mm以上の粒子を70質量%以上含有し、最大粒子径が2.0mm以下であり、(c)速効性窒素含有率が粒状肥料中の全窒素成分に対して10%以下であり、(d)一粒あたりの平均質量が0.1〜5mgである粒状肥料を用いて覆土層の上に緩効性肥料層を形成する水稲用苗床の作製方法。
9. 緩効性肥料層を形成する時期が、苗の移植10日前から移植直前までのいずれかの時期である項8記載の水稲用苗床の作製方法。
10. 粒状肥料と殺虫作用及び/または殺菌作用を有する粒剤を用いて、緩効性肥料層を形成する項8または項9記載の水稲用苗床の作製方法。
11. 項1〜7のいずれか1項記載の水稲用苗床を用いる水稲の栽培方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水稲用苗床では、苗の生育および移植後の活着に必要な肥料成分を、片寄ることなくかつ十分に施用できるので、葉色良好な健苗を育成でき、移植後の活着も良好である他、分げつの確保が期待できる。本発明で使用する粒状肥料は、小粒ながら苗の生育に悪影響を与えないように制御された肥効を長時間維持できることから、苗の倒伏がおこりにくい。更に、本発明の苗床は肥料と農薬を同時に処理できるため省力化栽培に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の水稲用苗床は、床土層、床土層の上に位置して時限溶出型の被覆窒素肥料と種子とを含有する肥料・種子層、肥料・種子層の上に位置する覆土層、及び覆土層の上に位置する緩効性肥料層を有する積層構造になっている。緩効性肥料層に用いる粒状肥料は、化学合成緩効性窒素肥料を、該粒状肥料中の窒素肥料成分の主成分(最も多い成分)として含有する。該粒状肥料は、粒子径0.5mm以上の粒子を70質量%以上、好ましくは90質量%以上含有し、かつ該粒状肥料の最大粒子径が2.0mm以下、好ましくは1.5mm以下である。粒子径が上記の範囲であれば、主成分である化学合成緩効性窒素肥料が適度の速度で溶出して緩効性肥料として機能する。該粒状肥料は比較的小粒であり、比較的均一であるため、種籾当たりの施肥粒数が確保でき、施肥量のばらつきも少ない。
【0013】
本発明で用いられる粒状肥料は、苗が本田へ移植された後、稲の根元に1株当たり1粒以上保持されることにより、肥料成分が効率よく稲に吸収され、高い肥効を発揮できるようにするため、粒状肥料1粒あたりの平均質量は0.1〜5mg、好ましくは1〜3mgである。粒状肥料1粒あたりの平均質量が上記の範囲であれば、肥効制御が容易で、苗1株(または種子1粒)当たり適度の施用粒数にすることが容易であるため、施肥量にばらつきが出にくく、均一で安定した肥効が発揮される。ここで、粒状肥料1粒あたりの平均質量は、100粒の質量を計量して求めた平均値である。
【0014】
本発明では床土層及び覆土層に培土や培地(以下、培地という)が用いられる。培地の基材(以下、培地基材という)は、育苗に要する水分を保持し得るものであれば何れの材料であっても使用することができる。具体的には、土壌の他、軽量かつ保水性に優れる植物性繊維材料や、鉱物系材料を挙げることができる。
【0015】
土壌としては、沖積土、洪積土、火山性土、鹿沼土、ボラ土(日向土)、及び腐植土などの天然の土壌及び浄水場発生土を挙げることができる。本発明においては、これらを熱などで殺菌した殺菌土が好ましい。このような殺菌土としては、赤玉土((株)ソイール製、赤土系殺菌土)や黒玉土((株)ソイール製、黒土系殺菌土)、殺菌ボラ土を挙げることができる。
【0016】
植物性繊維材料としては、ピートモスやヤシガラ(ヤシの果皮から外果皮及び内果皮を除去し取り出された中果皮から更に剛長繊維及び中短繊維を取り出した残滓物など)、樹皮、木材パルプ、もみ殻、大鋸屑などが挙げられる。鉱物系材料としては、例えば、焼成バ−ミキュライト、ベントナイト、ゼオライトなどが挙げられる。また、バーミキュライトを焼成する際に残存する焼成残渣を用いても構わない。更に、これらの混合物でも構わない。
【0017】
培地基材には、必要に応じて粒状綿などの人工繊維、木炭、くん炭などの有機物の炭化物、パーライト、尿素樹脂発泡体などの土壌改良材を配合することもできる。水稲用苗床に含まれる培地基材の割合は、特に限定されないが、苗床に対して、10〜70質量%の範囲であることが好ましい。尚、培地基材のかさ密度は、特に限定されないが、0.2〜0.7g/cmであると育苗箱の軽量化するうえで好ましい。水稲用苗床における床土層と覆土層の割合は、特に限定されないが、苗床に対してそれぞれ5〜90容量%と90〜5容量%であって、かつ床土層と覆土層の容量の和が50〜95容量%の範囲であることが望ましい。
【0018】
本発明で用いられる培地基材には、必要に応じて窒素(N)、リン酸(P)、加里(KO)などの成分を含有するの肥料を添加することができる。添加量の目安は、慣行育苗培土に準ずるが、培地基材における含有量がそれぞれ1g/L以下である。
【0019】
培地基材には、育苗期間に培地基材由来の病虫害や、種子や植物体によって持ち込まれた病虫害、徒長抑止などへの対応や、培地の物理性や化学性を改善するなどの目的で、殺菌剤、殺虫剤、植物成長調節剤、界面活性剤、pH調節剤などを本発明の効果を阻害しない範囲において適量を含有させることもできる。
【0020】
本発明において、肥料・種子層は、床土層の上に位置し、時限溶出型の被覆窒素肥料及び種子を含有する。肥料・種子層は、何れの手順によって形成されてもよく、例えば、時限溶出型の被覆窒素肥料と種子の混合物を、床土層の上に積層させて形成されてもよく、床土層の上に先ず時限溶出型の被覆窒素肥料を積層させ、次いでその上に播種することにより形成されてもよく、または、床土層の上に先ず播種し、次いでその上に時限溶出型の被覆窒素肥料を積層させることにより形成されてもよい。
【0021】
本発明で用いられる時限溶出型の被覆窒素肥料は、樹脂を有効成分とする被膜材料によって窒素肥料を含有する芯材を被覆したものである。樹脂としては、オレフィン系樹脂、ジエン系樹脂、ワックス類、ポリエステル、石油樹脂、天然樹脂、油脂及びその変性物などの熱可塑性樹脂、及び該樹脂から選ばれた2種以上の混合物、ウレタン系樹脂、アルキド系樹脂などの熱硬化性樹脂などを挙げることができる。これら樹脂にタルクなどの無機粉体、澱粉などの有機粉体、界面活性剤、充填材、添加剤を被膜材料として添加してもよい。
【0022】
芯材の窒素肥料としては、硫酸アンモニウム、尿素、硝酸アンモニウムの他、イソブチルアルデヒド縮合尿素、アセトアルデヒド縮合尿素などが挙げられ、これらの中でも、肥料成分当たりの単価が安い尿素が好ましい。芯材には、窒素肥料のほかに必要に応じて他の肥料を含有させてもよい。他の肥料とは、例えば、リン酸肥料、加里肥料の他、植物必須要素のカルシウム、マグネシウム、硫黄、鉄、微量要素やケイ素などを含有する肥料である。また、芯材には硝酸化成抑制材や農薬を含有させてもよい。
【0023】
好ましい時限溶出型の被覆窒素肥料の例は、特開平6−78684号公報、特開平4−202078号公報、特開平4−202079号公報などに記載されている。具体的な商品名は、チッソ旭肥料(株)製の苗箱まかせとLPコートSとLPコートSS、三菱化学アグリ(株)製のエムコートS、住友化学(株)製のスーパーSRコート、セントラル合同肥料(株)製のセラコートUとセラコートR、宇部興産(株)製のユーコート、などである。特に好ましいのはチッソ旭肥料(株)製の苗箱まかせである。
【0024】
時限溶出型の被覆窒素肥料の累積窒素成分溶出率は以下の方法にて求めることが可能である。被覆窒素肥料10gを200mL水中に浸漬して25℃に静置し、所定期間経過後に被覆窒素肥料と水とに分け、水中に溶出した窒素成分の溶出累計量を定量分析により求める。さらに、上記被覆窒素肥料10g中の全窒素量を定量し、該全窒素量に対する上記溶出累計量の割合を百分率で示したものを累積窒素成分溶出率とする。具体的には、特開2005−319417号公報に記載の方法が例示できる。
【0025】
測定はこの方法にしたがった。すなわち、被覆窒素肥料10gと予め25℃に調整をしておいた蒸留水200mLとを250mLのポリ容器に投入し、25℃設定のインキュベーターに静置した。3日後該容器から水を全て抜き取り、抜き取った水に含まれる溶出累計窒素成分量(窒素成分累計溶出量)を定量分析により求めた。定量分析は、例えば、肥料分析法(例えば、農林水産省農業環境技術研究所著,「肥料分析法(1992年版)」、(財)日本肥糧検定協会発行,1992年12月,p.15−22、山添文雄ら著,「詳解肥料分析法 改訂第1版」,養賢堂発行,1973年1月,p.35−62、に記載された方法に準じて行った。累積窒素成分溶出率は被覆窒素肥料10g中の全窒素量に対する上記溶出累計窒素成分量の割合を百分率で示したものである。
【0026】
時限溶出型の被覆窒素肥料は、水中または土壌中に施用した時点から一定期間溶出が抑制される溶出抑制期間と、一定期間経過後速やかな溶出を開始する溶出期間とからなる溶出パターンを有する。上記被覆窒素肥料は、累積窒素成分溶出率が施用した時点(0%)から10%に達する迄の期間をd1(日)とし、累積窒素成分溶出率が10%を超えて80%に達する迄の期間をd2(日)とした場合、d1/d2が0.2以上となる溶出パターンを有する。d1/d2は、0.3以上であることが好ましい。育苗期間中の累積窒素成分溶出率は、10%以下であることが好ましく、より好ましくは5%以下であり、特に好ましくは3%以下である。育苗期間中の累積窒素成分溶出率が小さい被覆窒素肥料を用いた場合には、育苗後期に生育障害や生育過多が発生する可能性が低くなる。累積窒素成分溶出率が極めて小さい被覆窒素肥料は、製造が容易でないのでコスト高になりやすい。
【0027】
水稲苗の育苗期間は、稚苗(葉齢2〜3葉)で移植する場合は15〜25日であり、中苗(葉齢4葉以上)で移植する場合は30〜35日であり、成苗(葉齢5〜6葉)で移植する場合は35〜40日である。被覆窒素肥料は、育苗期間における地温を基に、肥料成分の溶出挙動を予測することができるため、例年の平均地温のデータがあれば、ある程度、育苗期間中の累積窒素成分溶出率やd1を予測することができる。したがって、平均地温における被覆窒素肥料の溶出挙動のデータがあれば、育苗期間中における望ましい累積窒素成分溶出率またはd1を有する被覆窒素肥料を選択して使用することが可能である。
【0028】
肥料・種子層の形成に当たり、上記の被覆窒素肥料の施用量は、一例を挙げると窒素保証成分40%の被覆尿素の場合、標準的な育苗箱(300mm(縦)×600mm(横)×30mm(深さ))当たり400g〜1200gが実用上好ましい。
【0029】
時限溶出型の被覆窒素肥料には温度依存性がある。d1の温度依存性を示す係数が、1.1〜3.5の範囲であることが好ましく、更には1.5〜3.0の範囲であることが好ましい。温度依存性とは、温度の変化に伴いd1が変動することであり、その指標としては温度が10℃変化した際のd1の変動割合(温度依存係数(Q10))で示される。例えば、温度が10℃上昇若しくは下降して、d1が1/2もしくは2倍になった場合には、温度依存係数が2であると云う。従って温度依存係数の最小値は1である。
【0030】
化学合成緩効性窒素肥料は、有効成分の溶出が、肥料が受ける化学分解の速度に依存する肥料である。具体的には、財団法人農林統計協会発行の「ポケット肥料要覧 2004」(p.104)に記載されている、アセトアルデヒド縮合尿素、イソブチルアルデヒド縮合尿素、ホルムアルデヒド加工尿素肥料、グリオキサール縮合尿素、やメチロール尿素重合肥料などの脂肪族アルデヒド縮合尿素や、オキサミド、硫酸グアニル尿素などである。これらの中では脂肪族アルデヒド縮合尿素が好ましい。
【0031】
脂肪族アルデヒド縮合尿素は、特に限定されず、直鎖状、分岐のある鎖状、環状などの何れの分子構造を持つ脂肪族アルデヒド縮合尿素であっても使用することができる。具体的には、肥料取締法(普通肥料の公定規格、肥料の種類)に記載のアセトアルデヒド縮合尿素(CDUまたはOMU)、イソブチルアルデヒド縮合尿素(IBDU)、メチロール尿素重合肥料、ホルムアルデヒド加工尿素肥料、グリオキサール縮合尿素などを挙げることができる。本発明においては、これらのうち1つ以上を任意に選択し使用すればよい。好ましくはアセトアルデヒド縮合尿素の1種である2−オキソ−4−メチル−6−ウレイドヘキサヒドロピリミジン(以下、「CDU」という)、イソブチルアルデヒド縮合尿素、メチロール尿素重合肥料であり、特に好ましくはCDUである。
【0032】
化学合成緩効性窒素肥料は、アンモニア態窒素、硝酸態窒素、及び尿素態窒素の窒素成分を含むことがある。この窒素成分を速効性窒素という。粒状肥料に含まれる速効性窒素含有率は、粒状肥料に含まれる全窒素成分に対し、窒素換算で10%以下である。速効性窒素の含有率が上記の範囲であれば、粒状肥料の量が多過ぎた場合であっても、生育の遅れ、葉色異常、枯死などの生育障害が起こり難いので、化学合成緩効性窒素肥料の特徴を損なうことが少ない。この傾向は、化学合成緩効性窒素肥料として脂肪族アルデヒド縮合尿素を用いた場合に顕著である。速効性窒素を含有しない化学合成緩効性窒素肥料は、合成後に精製工程が必要となるのでコスト高になりやすい。このことを考慮して粒状肥料に含まれる速効性窒素の割合は、0.1〜10%であることが好ましく、1〜10%または1〜8%であることがより好ましい。
【0033】
速効性窒素の割合(百分率)は、公知の肥料分析法に準拠して測定し求めることができる。例えば、農林水産省農業環境技術研究所著「肥料分析法(1992年版)」((財)日本肥糧検定協会発行、1992年12月、p.15−22)に記載の方法を挙げることができる。
【0034】
本発明の粒状肥料は、化学合成緩効性窒素肥料のほかにリン酸成分、加里成分などを含有してもよい。粒状肥料の中に化学合成緩効性窒素肥料とリン酸肥料とが共存する場合、リン酸の含有量によっては肥効の調節が不安定になるおそれがある。化学合成緩効性窒素肥料として脂肪族アルデヒド縮合尿素を用いた場合、この傾向が特に強い。このため、粒状肥料に含まれるリン酸の全含有率(全リン酸含有率ともいう)は、化学合成緩効性窒素肥料に対してP換算で0.01〜5%の範囲であることが好ましい。この範囲であれば、化学合成緩効性窒素肥料の肥効を制御できる。なお、全リン酸含有量はキノリン重量法(第2改訂詳解肥料分析法、養賢堂発行、に記載の方法)で測定することができる。
【0035】
リン酸肥料は水溶性よりも難水溶性の方が好ましい。難水溶性のリン酸成分はク溶性リン酸から水溶性リン酸を除いた成分である。該成分を多く含む肥料として、具体的にはリン鉱石、熔成リン肥などである。有機肥料に含有されるリン酸成分のうち、難水溶性のものは好ましく用いることができる。上記のク溶性リン酸、水溶性リン酸は、肥料分析法(例えば、農林水産省農業環境技術研究所著,「肥料分析法(1992年版)」,(財)日本肥糧検定協会発行,1992年12月,p.28−37)によって測定できる。
【0036】
水溶性リン酸成分が過剰に存在すると、化学合成緩効性窒素肥料の肥効制御が損なわれる場合がある。化学合成緩効性窒素肥料として脂肪族アルデヒド縮合尿素を用いた場合、この傾向が特に強い。そこで粒状肥料中の水溶性リン酸成分の割合は、化学合成緩効性窒素肥料に対して、P換算で0.5%以下であることが好ましい。水溶性リン酸成分を含有するリン酸肥料、普通化成肥料、二成分複合化成肥料、高度化成肥料、有機質肥料などの肥料を、粒状肥料の造粒助剤の用途などに用いるときは、水溶性リン酸成分の含有量と、水に対する溶解度を考慮して使用することが好ましい。
【0037】
難水溶性リン酸肥料は、難水溶性リン酸肥料を下記式で示される質量比で30℃の2質量%クエン酸水溶液に浸漬後、含有するリン酸成分の80%が該クエン酸水溶液に溶出するのに要する時間が0.1〜2000分の範囲である溶出特性を有するものである。
式:難水溶性リン酸肥料/2質量%クエン酸水溶液(質量比)=0.013
【0038】
上記の溶出時間は具体的には次のような方法で測定することができる。300mL容のポリ瓶に難水溶性リン酸肥料2gと30℃に加熱した2質量%クエン酸水溶液150mLを入れ、30℃の振とう恒温槽中で振とうする。経時的に該クエン酸水溶液の上澄みを少量ずつ取り、水で希釈後、希釈液中のリン酸成分をイオンクロマトグラフィーによって定量する。この測定値から溶出曲線を作成することにより、難水溶性リン酸肥料が含有するリン酸成分の80%が溶出するまでに要した時間を求めることができる。
【0039】
該溶出時間が0.1〜2000分の範囲であれば、化学合成緩効性窒素肥料、その中でも特に脂肪族アルデヒド縮合尿素の無機化速度を容易に制御することが可能である。難水溶性リン酸肥料の該溶出時間が0.1〜2000分の範囲であるためには、該難水溶性リン酸肥料は水に対する溶解度が低く、単一の結晶で構成されていることが好ましい。更に、形状が粒子状である場合には粒子内に空隙が少ないものであることが好ましい。
【0040】
難水溶性リン酸肥料の溶出時間を0.1〜2000分の範囲に調節する方法は、特に限定されないが、例えば、次のような方法である。難水溶性リン酸肥料を粒子状としその粒子径を調節する方法、粒子状の難水溶性リン酸肥料の表面を水不溶性あるいは疎水性の物質で被覆する方法、難水溶性リン酸肥料の微粉末と該リン酸肥料以外の水不溶性あるいは疎水性の微粉末とを混合し造粒する方法などが例示される。
【0041】
そのうち、難水溶性リン酸肥料を粒子状としその粒子径を調節する方法は、比較的簡便に実施可能であり好ましい。その際の粒子径は使用する難水溶性リン酸肥料の種類や、要求される溶出時間によって異なるが、製造面、或いは尿素−脂肪族アルデヒド縮合物の無機化速度調節の面から0.01〜0.5mmの範囲であることが好ましい。
【0042】
化学合成緩効性窒素肥料の肥効調節を目的として、粒状肥料に撥水性物質を含有させることができる。撥水性物質の添加により、化学合成緩効性窒素肥料や難水溶性リン酸肥料の土壌中における溶解を抑制し、化学合成緩効性窒素肥料の肥効を広い範囲で制御することが可能となる。この撥水性物質の粒状肥料の添加効果は、化学合成緩効性窒素肥料が脂肪族アルデヒド縮合尿素である場合に顕著である。
【0043】
撥水性物質としては、天然ワックス、合成ワックスから選ばれた1種以上を適宜使用するのが好ましい。天然ワックスとしては、キャデリンワックス、カルナウバワックス、ライスワックス、木ろう、ホホバ油などの植物系ワックス、みつろう、ラノリン、鯨ろうなどの動物系ワックス、モンタンワックス、オゾケライト、セレシンなどの鉱物系ワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタムなどの石油ワックスが挙げられる。合成ワックスとしては、フィッシャー・トロプシュワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスなどの合成炭化水素、モンタンワックス誘導体、パラフィンワックス誘導体、マイクロクリスタリンワックス誘導体などの変性ワックス、硬化ひまし油、硬化ひまし油誘導体などの水素化ワックス、12−ヒドロキシステアリン酸、ステアリン酸アミド、無水フタル酸イミド、塩素化炭化水素などが挙げられる。この中でも、硬化ひまし油及びその誘導体が化学合成緩効性窒素肥料の無機化速度を制御するのに効果的である。
【0044】
粒状肥料中の撥水性物質の割合は、化学合成緩効性窒素肥料、および必要に応じて含有される難水溶性リン酸肥料や水溶性成分の総質量に対して0.1〜20質量%の範囲であることが好ましく、更に好ましくは1〜15質量%の範囲である。撥水性物質の割合が上記の範囲であれば、撥水性物質の効果が十分であり、且つ製造コストの上昇が少ない。
【0045】
粒状肥料は、特開2003−212682号公報、特開2005−67923号公報などに記載された方法により製造することが可能である。例えば、化学合成緩効性窒素肥料、リン酸成分、加里成分、水溶性成分、撥水性物質、造粒助剤、結合材、水などを混合し、転動造粒法、圧縮型造粒法、攪拌型造粒法、押出造粒法などを用いて造粒する。必要に応じ、撥水性物質の融点以上500?以下の気体を用いて造粒された粒子の乾燥を行う。このようにして得られた粒子を振動篩機などで分級して粒度分布を調整することにより粒状肥料が得られる。
【0046】
本発明においては、本発明の効果を損なわない範囲であれば、粒状肥料は化学合成緩効性窒素肥料のほかに、速効性窒素、難水溶性リン酸肥料、撥水性物質、その他の肥料、各種造粒助剤、結合材など含有してもよい。その他の肥料は、リン酸(P)成分や加里(KO)成分を含有する肥料、骨粉、油かす、肉かすなどの有機質肥料、石灰質肥料、苦土質肥料、ケイ酸質肥料、微量要素肥料などの無機肥料、などを挙げることができる。
【0047】
造粒助剤としては、ベントナイト、クレイ、カオリン、セリサイト、タルク、酸性白土、軽石、珪砂、珪石、ゼオライト、パーライト、バーミキュライトなどの鉱物質、モミガラ、オガクズ、木質粉、パルプフロック、大豆粉などの植物質などを挙げることができる。本発明においては必要に応じてそれら造粒助剤の中から1種以上を選択して用いればよい。
【0048】
結合材としては、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、グリセリン、ゼラチン、糖蜜、微結晶セルロース、ピッチ、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、アルミナゾル、セメント、ポリリン酸ナトリウム、リグニンスルホン酸塩、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、界面活性剤、デンプン、熱硬化性樹脂原料などを挙げることができる。本発明においては必要に応じてそれら結合剤の中から1種以上を選択して用いればよい。
【0049】
本発明の水稲用苗床では、主として移植後の病虫害防除に用いられる農薬を含有させてもよい。具体的には、肥料・種子層または緩効性肥料層に殺虫作用及び/または殺菌作用を有する粒剤を含有させることができる。農薬は肥料・種子層に予め混合してもよいし、播種や施肥に合わせて施用してもよい。農薬活性成分は浸透移行性を有するものであることが好ましい。このような農薬の具体例を下記に挙げるがこれらはあくまでも例示であり限定されるものではない。農薬活性成分は1種であっても、2種以上の複合成分からなるものであってもよい。農薬活性成分としては植物によって合成され、植物体内に蓄積する低分子の抗菌性物質であるファイトアレキシンを誘導する物質も例示できる。
【0050】
殺虫作用のある農薬の例は、(E)−N1−〔(6−クロロ−3−ピリジル)メチル〕−N2−シアノ−N1−メチルアセトアミジン(一般名:アセタミプリド)、1−(6−クロロ−3−ピリジルメチル)−N−ニトロイミダゾリジン−2−イリデンアミン(一般名:イミダクロプリド)、O,O−ジエチル−S−2−(エチルチオ)エチルホスホロジチオエート(一般名:エチルチオメトン)、1,3−ビス(カルバモイルチオ)−2−(N,N−ジメチルアミノ)プロパン塩酸塩(一般名:カルタップ)、などである。
【0051】
別の例は、2,3−ジヒドロ−2,2−ジメチル−7−ベンゾ〔b〕フラニル=N−ジブチルアミノチオ−N−メチルカルバマート(一般名:カルボスルファン)、(2−イソプロピル−4−メチルピリミジル−6)−ジエチルチオホスフェート(一般名:ダイアジノン)、5−ジメチルアミノ −1,2,3−トリチアンシュウ酸塩(一般名:チオシクラム)、(E)−N−(6−クロロ−3−ピリジルメチル)−N−エチル−N’−メチル−2−ニトロビニリデンジアミン(一般名:ニテンピラム)、(±)−5−アミノ−1−(2,6−ジクロロ−α,α,α−トリフルオロ−p−トルイル)−4−トリフルオロメチルスルフィニルピラゾール−3−カルボニトリル(一般名:フィプロニル)、O,O−ジプロピル−O−4−メチルチオフェニルホスフェート(一般名:プロバホス)、などである。
【0052】
別の例は、5−ブロモ−3−セコンダリ−ブチル−6−メチルウラシル(一般名:ブロマシル)、エチル=N−〔2,3−ジヒドロ−2,2−ジメチルベンゾフラン−7−イルオキシカルボニル(メチル)アミノチオ〕−N−イソプロピル−β−アラニナート(一般名:ベンフラカルブ)、2−クロロ−4,6−ビス(エチルアミノ)−1,3,5−トリアジン(一般名:CAT)、3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチル尿素(一般名:DCMU)、1−ナフチル−N−メチルカーバメート(一般名:NAC)、2−イソプロポキシフェニル−N−メチルカーバメート(一般名:PHC)、などである。
【0053】
殺菌作用のある農薬の例は、ジイソプロピル−1,3−ジチオラン−2−イリデン−マロネート(一般名:イソプロチオラン)、(1RS,3SR)−2,2−ジクロロ−N−[1−(4−クロロフェニル)エチル]−1−エチル−3−メチルシクロプロパンカルボキサミド(一般名:カルプロパミド)、(RS)−2−シアノ−N−[(R)−1−(2,4−ジクロロフェニル)エチル]−3,3−ジメチルブチラミド(一般名:ジクロシメット)、5−メチル−1,2,4−トリアゾロ〔3,4−b〕ベンゾチアゾール(一般名:トリシクラゾール)、などである。
【0054】
別の例は、2’,6’−ジブロモ−2−メチル−4−トリフルオロメトキシ−4−トリフルオロメチル−1,3−チアゾール−5−カルボキスアニリド(一般名:チフルザミド)、1,2,5,6テトラヒドロピロロ〔3,2,1−ij〕キノリン−4−オン(一般名:ピロキロン)、N−(1−シアノ−1,2−ジメチルプロピル)−2−(2,4−ジクロロフェノキシ)プロピオンアミド(一般名:フェノキサニル)、3−アリルオキシ−1,2−ベンゾイソチアゾール−1,1−ジオキシド(一般名:プロベナゾール)、(E)−2−メトキシイミノ−N−メチル−2−(2−フェノキシフェニル)アセトアミド(一般名:メトミノストロビン)、などである。
【0055】
本発明の水稲用苗床は、床土層を形成し、床土層の上に時限溶出型の被覆窒素肥料と種子とを含有する肥料・種子層を形成し、肥料・種子層の上に覆土層を形成し、次いで、覆土層の上に覆土層を形成した直後から、苗の移植直前までのいずれかの時期に、(a)化学合成緩効性窒素肥料を含有し、(b)粒子径0.5mm以上の粒子を70質量%以上含有し、最大粒子径が2.0mm以下であり、(c)速効性窒素含有率が粒状肥料中の全窒素成分に対して10%以下であり、(d)一粒あたりの平均質量が0.1〜5mgである粒状肥料を用いて緩効性肥料層を形成することによって作製することができる。
【0056】
粒状肥料を施用するのは、上記のように育苗開始直後から移植直前までのいずれの時期でもよいが、移植10日前から移植直前までのいずれかの時期が好ましく、移植10日前から移植前日がより好ましい。これは、移植直前は作業が忙しく、均一に施用するのが困難であるからである。また、育苗開始日に近いほど、本田における緩効性肥料層の肥料の肥効持続期間が短くなるため、育苗期間別の対応が必要となる。従来の箱処理用殺虫作用及び/または殺菌作用を有する粒剤は、粒状肥料と同時期に施用できるため、ほとんど作業時間はかからない。
【0057】
本発明の苗床を用いた水稲の栽培方法は、従来の育苗箱全量施肥法における栽培方法に準じて栽培すれば、従来技術の移植前後における水稲苗の環境耐性を強化することができ、栽培管理がより容易になるため好ましい。
【実施例】
【0058】
以下実施例によって本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例により限定されない。
【0059】
用いた試験方法は下記の通りである。
(1)被覆窒素肥料の溶出挙動
実施例及び比較例の被覆窒素肥料を10gとあらかじめ25℃に調整をしておいた蒸留水200mLとを250mLの蓋付きポリ容器に投入し、25℃設定のインキュベーターに静置した。7日後、該容器から水を全て抜き取り、抜き取った水に含まれる尿素量(尿素溶出量)を定量分析(ジメチルアミノベンズアルデヒド法 「詳解肥料分析法 第二改訂版」養賢堂)により求めた。水を抜き取った後のサンプルは再度該容器に入れ、該容器に再度蒸留水を200mL投入し同様に静置した。尿素溶出率の累積値が80%に達する迄この操作を繰り返した。
【0060】
その後該被覆窒素肥料を乳鉢で磨りつぶし、その内容物を水200mLに溶解後上記と同様の方法で尿素残量を定量分析した。累積尿素溶出量と尿素残量を加えた量を尿素全量とし、水中に溶出した尿素の溶出累計と日数の関係をグラフ化して溶出速度曲線を作成し、累積窒素成分溶出率10%及び80%に至る日数を求めた。累積窒素成分溶出率が溶出測定開始から10%に至る迄の日数を「d1」、それ以降に溶出率が80%に至る迄の日数を「d2」とし、d1/d2を算出した。
【0061】
脂肪族アルデヒド縮合物尿素(CDU)の合成例
尿素60gを水60mLに溶解し、濃塩酸8.5mLを加え、氷冷下にアセトアルデヒド30gを滴下し、50℃で4時間攪拌しながら反応させ析出した結晶を濾過し、水で洗浄した後に減圧乾燥してCDU(純度99.9質量%以上)を得た。得られたCDUを篩い、目開き150μmの篩いの目をパスした粉粒体を以下の試験に用いた。尚、CDU粉粒体の速効性窒素含有率は、0.05質量%以下であった(薄層クロマトグラフ法による)。
【0062】
粒状肥料1〜6の製造例
前記のCDU粉粒体、及び尿素(20℃の純水に対する溶解度が107.7g/100mL)を表1に示した割合で投入量の合計が20kgとなるように、容量50Lの球形混合機に投入し5分間混合して、混合物を得た。
次に、該混合物1kgを直径120cmの回転皿型パン造粒機に入れ、40r/minの回転速度で該混合物を転動させながら水及び混合物を少量ずつ添加し、平均粒子径が1.3mm程度になるまで造粒した。造粒後、熱風循環乾燥機を用い120℃の条件下で6時間乾燥し、更に、振動篩で分級して粒子径が1.2〜1.4mmの粒状肥料1を得た。また、粒状肥料1の場合と同様に、表1の割合で投入量の合計が20kgとなるようにして粒状肥料2〜4を得た。
更に、粒状肥料1の製造時に、振動篩で分級して粒子径が2.5〜4.1mmである粒状肥料5、および粒子径が0.5mm未満の粒状肥料6を得た。粒状肥料1〜6は振動篩(小型振動篩い器VSS-50、筒井理化学器械製)を用いて粒度を調製した。
【0063】
粒状肥料7の製造例
市販のホルムアルデヒド加工尿素肥料(商品名「ホルム窒素2号」、三井東圧肥料(株)製)を篩い分けて粒子径が1.0〜2.0mmの粒状肥料7を得た。粒状肥料7の窒素成分含有率は41.3%、速効性窒素含有率は11.1%であった。1粒あたりの質量(n=100)は2.4mgであった。なお、上記ホルムアルデヒド加工尿素肥料は振動篩(小型振動篩い器VSS-50、筒井理化学器械製)を用いて粒度を調製した。
【0064】
粒状肥料8の製造例
市販のメチロール尿素重合肥料(商品名「ミクレア」、三菱レイヨン(株)製)を篩い分けて粒子径が1.0〜2.0mmの粒状肥料8を得た。粒状肥料8の窒素成分含有率は29.0%、速効性窒素含有率は1.4%であった。1粒あたりの質量(n=100)は6.2mgであった。なお、上記メチロール尿素重合肥料は振動篩(小型振動篩い器VSS-50、筒井理化学器械製)を用いて粒度を調製した。
【0065】
製造例1〜3で製造した粒状肥料の原料組成、窒素成分含有率、速効性窒素含有率、および1粒あたりの質量を表1にまとめた。なお、粒状肥料1〜3を後述の実施例1〜6に使用し、粒状肥料4〜8を後述の比較例1〜5に使用した。粒状肥料1は比較例6にも使用した。
【0066】
【表1】

【0067】
表1の脚注:窒素成分含量は、肥料分析法(硫酸法)による測定値である。速効性窒素含有率は、粒状肥料の全窒素成分に対する速効性窒素(アンモニア態窒素、硝酸態窒素、及び尿素態窒素の和)の割合から算出した。熔成リン肥は、南九州化学工業(株)製、くみあい熔リン20−15−20(商品名)の篩分品である。目開きが180μmである篩いを通り、150μmの篩いを通らない粒子を使用した。尿素は、関東化学(株)製、試薬特級である。撥水性物質は、カスターワックスFP(商品名)、小倉合成工業(株)製、硬化ひまし油、融点81℃、である。1粒あたりの質量は、100粒の質量より求めた平均値である。
【0068】
実施例1
市販の水稲用育苗箱(300mm(縦)×600mm(横)×30mm(深さ))に培地基材(保水材)として市販の水稲育苗用V床土(商品名、チッソ旭肥料(株)製、窒素0mg/L、リン酸0mg/L、加里 0mg/L、pH4.5〜5.5)を深さ約2cmとなるように充填、床土層を形成後、被覆窒素肥料1として市販の苗箱まかせN400・100タイプ(商品名、チッソ旭肥料(株)製、窒素成分含有率40%、d1=33日、d2=70日、d1/d2=0.47)を600gと水稲催芽種籾(品種「ヒノヒカリ」)120gを順に均一施用して肥料・種子層を形成させた。続いて前記市販培地基材を用いて覆土層を形成した後、移植7日前に粒状肥料1を50g均一施用して緩効性肥料層を形成させて本発明苗床を得た。被覆窒素肥料1の21日目の累積溶出率は2.8%であった。
【0069】
実施例2
実施例1の粒状肥料1の代わりに粒状肥料2を使用する他は実施例1と同様にして本発明苗床を得た。
【0070】
実施例3
実施例1の粒状肥料1の代わりに粒状肥料3を使用する他は実施例1と同様にして本発明苗床を得た。
【0071】
実施例4
実施例1の粒状肥料1の施用を移植前2日にする他は実施例1と同様にして本発明苗床を得た。
【0072】
実施例5
実施例4で粒状肥料1と市販の殺虫殺菌粒剤のウィンアドマイヤー箱粒剤(商品名、バイエルクロップサイエンス(株)製、カルプロパミド4%、イミダクロプリド2%)を各50g施用する他は同様にして本発明苗床を得た。
【0073】
実施例6
実施例1で床土層を形成後、市販の殺虫殺菌粒剤のデラウスプリンス粒剤10(商品名、住友化学(株)製、ジクロシメット3%、フィプロニル1%)を50g施用後、被覆窒素肥料1を600gと水稲催芽種籾(品種「ヒノヒカリ」)180gを順に均一施用して肥料・種子層を形成させる他は同様にして本発明苗床を得た。
【0074】
比較例1〜5
実施例1の粒状肥料1の代わりに粒状肥料4〜8を使用する他は実施例1と同様に水稲用苗床を製造し、それぞれ比較例1〜5の結果を得た。
【0075】
比較例6
実施例1で被覆窒素肥料1を被覆窒素肥料2にする他は同様に水稲用苗床を製造し、比較例6とした。被覆窒素肥料2は市販のくみあいLPコート100(商品名、チッソ旭肥料(株)製、窒素成分含有率42%、d1=12日、d2=88日、d1/d2=0.14)を使用した。
【0076】
栽培試験
実施例1〜6、比較例1〜6で製造した苗床を用いて21日間育苗を行い、その様子を調査した。育苗期間中は育苗箱上方より十分な潅水を行うと同時に底面の加温を行い、床土の温度が10℃未満にならないように管理した。育苗は無加温の透明ポリオレフィンフイルム(商品名:アグリトップハイパワー、チッソ(株)製)を展張した温室内で慣行法に従って行った。育苗後は本田に移植し、慣行法に準じて栽培を行った。
【0077】
栽培試験結果を表2に示す。実施例1〜6の本発明の苗床を用いて育成された苗は生育が揃い、根張り、葉色共に良好であり、本田に容易に移植できた。移植後の活着も良好であったことから粒状肥料由来の肥効が効果的だったものと思われる。特に粒状肥料1を用いた実施例1、4、5、6は長期間の肥効を持続した。
【0078】
【表2】

【0079】
表2の脚注:被覆窒素肥料1はチッソ旭肥料(株)製の苗箱まかせN400・100タイプ(商品名)である。被覆窒素肥料2はチッソ旭肥料(株)製のくみあいLPコート100(商品名)である。施用時期は移植前の日数を表す。実施例5では殺虫殺菌粒剤であるバイエルクロップサイエンス(株)製のウィンアドマイヤー箱粒剤(商品名)を粒状肥料と同時に施用した。実施例6では殺虫殺菌粒剤である住友化学(株)製のデラウスプリンス粒剤10(商品名)を粒状肥料と同時に施用した。培地基材(保水材)はすべてチッソ旭肥料(株)製の水稲育苗用V床土(商品名)を使用した。
【0080】
これらのことから、本発明の苗床が苗の生育に必要な肥料成分を均一にそして十分に含有し、かつ苗床の速効性窒素が種子の発芽や苗の生育に悪影響を与えないことがわかり、更に粒状肥料1、2を用いた実施例は、含有している脂肪族アルデヒド縮合尿素の分解(無機化)が制御されたことが観察された。実施例5、6では農薬との併用も良好に推移し、農作業の省力化が見込まれる。
【0081】
比較的大粒の粒状肥料5、8を用いた比較例2、5は同一育苗箱内での生育が不揃いであった。苗床培地中の速効性窒素量を測定(「土壌養分分析法」、養賢堂、1970年12月発行、アンモニア態、亜硝酸態、硝酸態窒素の同時浸出定量法(p.197−p.200))したところ、生育不良の部位は良好な部位と比べて窒素成分量が少なく、施肥量のばらつきを反映したものと思われる。
【0082】
速効性窒素含有率の大きい粒状肥料4、7を用いた比較例1、4の苗床を用いて苗を育成した試験区は速効性窒素による濃度障害が原因で生育障害が発生した。粉末に近い粒状肥料6を用いた比較例3についても生育障害が発生した。これは、肥料の粒子が小さすぎるためにCDUの分解(無機化)が速すぎ、多量の速効性窒素が生じたためと思われる。時限溶出型の溶出パターンを有しない被覆窒素肥料を使用した比較例6では、発芽障害が発生した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
床土層、床土層の上に位置して時限溶出型の被覆窒素肥料と種子とを含有する肥料・種子層、肥料・種子層の上に位置する覆土層、及び覆土層の上に位置する緩効性肥料層を有する積層構造の水稲栽培用の苗床であり、緩効性肥料層が、下記の条件を満たす粒状肥料を含有する層である水稲用苗床。
(a)化学合成緩効性窒素肥料を含有する。
(b)粒子径0.5mm以上の粒子が70質量%以上であり、最大粒子径が2.0mm以下である。
(c)速効性窒素含有率が粒状肥料中の全窒素成分に対して10%以下である。
(d)一粒あたりの平均質量が0.1〜5mgである。
【請求項2】
化学合成緩効性窒素肥料が、脂肪族アルデヒド縮合尿素、オキサミド、及び硫酸グアニル尿素の群から選ばれた少なくとも1つである請求項1記載の水稲用苗床。
【請求項3】
化学合成緩効性窒素肥料が、アセトアルデヒド縮合尿素、イソブチルアルデヒド縮合尿素、ホルムアルデヒド加工尿素肥料、グリオキサール縮合尿素、及びメチロール尿素重合肥料の群から選ばれた少なくとも1つである請求項1記載の水稲用苗床。
【請求項4】
化学合成緩効性窒素肥料が、アセトアルデヒド縮合尿素である請求項1記載の水稲用苗床。
【請求項5】
粒状肥料が、難水溶性リン酸肥料及び/または撥水性物質を含有する請求項1〜4のいずれか1項記載の水稲用苗床。
【請求項6】
時限溶出型の被覆窒素肥料が、その累積窒素成分溶出率が施用した時点から10%に達する迄の期間をd1(日)とし、その累積窒素成分溶出率が10%を超えて80%に達する迄の期間をd2(日)とした場合、d1が育苗期間と等しく、かつd1/d2が0.2以上である溶出パターンを有する請求項1記載の水稲用苗床。
【請求項7】
肥料・種子層または緩効性肥料層が浸透移行性の殺虫作用及び/または殺菌作用を有する粒剤を含有する請求項1〜6のいずれか1項記載の水稲用苗床。
【請求項8】
床土層を形成し、床土層の上に時限溶出型の被覆窒素肥料と種子とを含有する肥料・種子層を形成し、肥料・種子層の上に覆土層を形成し、次いで、覆土層を形成した直後から苗の移植直前までのいずれかの時期に、(a)化学合成緩効性窒素肥料を含有し、(b)粒子径0.5mm以上の粒子を70質量%以上含有し、最大粒子径が2.0mm以下であり、(c)速効性窒素含有率が粒状肥料中の全窒素成分に対して10%以下であり、(d)一粒あたりの平均質量が0.1〜5mgである粒状肥料を用いて覆土層の上に緩効性肥料層を形成する水稲用苗床の作製方法。
【請求項9】
緩効性肥料層を形成する時期が、苗の移植10日前から移植直前までのいずれかの時期である請求項8記載の水稲用苗床の作製方法。
【請求項10】
粒状肥料と殺虫作用及び/または殺菌作用を有する粒剤を用いて、緩効性肥料層を形成する請求項8または9に記載の水稲用苗床の作製方法。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれか1項記載の水稲用苗床を用いる水稲の栽培方法。

【公開番号】特開2006−238880(P2006−238880A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−20343(P2006−20343)
【出願日】平成18年1月30日(2006.1.30)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【Fターム(参考)】