説明

水系潤滑液組成物

【課題】高い動粘度、潤滑性を保持し、かつ低CODであり、漏洩の予防対策を省力化した水系潤滑液組成物を提供する。
【解決手段】水を基油とし、変性セルロースを0.001〜0.04重量%含んで成り、25℃でのpHが6〜10であり、40℃における動粘度が1.5〜50mm/sであり、CODが160mg/L以下であることを特徴とする水系潤滑液組成物にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の変性セルロースを用いることにより、潤滑性が高く、かつ低CODの水系潤滑液組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境の悪化に伴い、環境に対する関心が高まってきている。各種機器においては、一般的に石油から精製された鉱物油を基油とした潤滑油が使用されているが、水質汚染の一因となるため、機械からの漏洩の予防が必要となる。
【0003】
一方、鉱物油を基油とした潤滑油に代わり、基油を水に変更することが試みられている。例えば、特定構造のポリオキシアルキレングリコールジエーテル化合物、特定構造のポリオキシアルキレングリコールモノエーテル化合物、特定構造のポリオキシプロピレングリコールモノエーテル化合物及び特定構造の脂肪酸塩を含有する含水系潤滑油組成物(特許文献1参照)、グリセロールボレートと塩基との中和生成物を含有する水−グリコール系難燃性作動液(特許文献2参照)、特定構造の水溶性ポリエーテルを含有する水−グリコール系難燃性作動液(特許文献3参照)、特定のリンの水溶性酸素酸塩、特定構造の水溶性高分子化合物を含有する水系熱間加工用潤滑油(特許文献4参照)などが挙げられるが、これらの発明は、鉱物油を基油とした潤滑油の代替の観点から難燃性、潤滑性の保持に主眼をおいてなされたものである。
【0004】
上記のような従来の鉱物油を基油とした潤滑油や水を基油とした潤滑油は、その特性や要求に応じ、例えば、鉱物油を基油とした潤滑油は、その高い動粘度や潤滑性を必要とする産業機器や輸送機器等に、水を基油とした潤滑油は、高温の金属を扱う装置や電気スパークが生じる機器等、防災を考慮した油圧機器等に使用されている。
しかしながら、万一の機器からの潤滑油漏えいや排水処理における負荷への対策を鑑み、より低いCODの潤滑油が希求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3233490号公報
【特許文献2】特許第2646308号公報
【特許文献3】特開平7−23391号公報
【特許文献4】特開平10−110182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような実情を鑑みて、従来の水系潤滑液と比較し、潤滑性を保持し、より低いCODの水系潤滑液組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、特定の変性セルロースを使用することにより、潤滑性を保持するための高い動粘度を有し、かつ低CODを達成できることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、水を基油とし、変性セルロースを0.001〜0.04重量%含んで成り、且つ25℃でのpHが6〜10であり、40℃における動粘度が1.5〜50mm/sであり、CODが160mg/L以下であることを特徴とする水系潤滑液組成物を提供するものである。
また、本発明は、上記水系潤滑液組成物において、変性セルロースが、下記式(1)の繰り返し単位を有し、重量平均分子量が100,000〜1,000,000のカルボキシメチルセルロースである水系潤滑液組成物を提供するものである。
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、Rは、ヒドロキシル基又はヒドロキシメチル基であり、Xは、水素原子、アルカリ金属原子又はアンモニウム基であり、複数の式(1)の繰り返し単位における各々のR及びXはそれぞれ同一であってもよいし、異なってもよい。)
また、本発明は、上記水系潤滑液組成物において、変性セルロースが、下記式(2)の繰り返し単位をも有し、重量平均分子量が100,000〜1,000,000のカルボキシメチルセルロースである水系潤滑液組成物を提供するものである。
【0011】
【化2】

【0012】
(式中、Rは、ヒドロキシル基又はヒドロキシメチル基であり、複数の式(2)の繰り返し単位における各々のRは同一であってもよいし、異なってもよい。)
また、本発明は、上記水系潤滑液組成物において、変性セルロースが、下記式(3)の繰り返し単位をも有し、重量平均分子量が100,000〜1,000,000のカルボキシメチルセルロースである水系潤滑液組成物を提供するものである。
【0013】
【化3】

【0014】
(式中、Rは、ヒドロキシル基又はヒドロキシメチル基であり、Xは、水素原子、アルカリ金属原子又はアンモニウム基であり、複数の式(3)の繰り返し単位における各々のR及びXはそれぞれ同一であってもよいし、異なってもよい。)
【0015】
また、本発明は、前記水系潤滑液組成物において、アルカリ金属化合物を含んで成る水系潤滑液組成物を提供するものである。
さらに、本発明は、前記水系潤滑液組成物において、前記アルカリ金属化合物が、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムから選ばれる1種以上であることを特徴とする水系潤滑液組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の水系潤滑液組成物は、潤滑性を保持するための高い動粘を有し、かつ低CODであり、漏洩の予防対策を省力化した、各種機器へも好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の水系潤滑液組成物には、変性セルロースを含有する。
変性セルロースの重量平均分子量は、増粘性の観点から、100,000〜1,000,000が好ましく、特に150,000〜300,000が好ましい。重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーで測定され、ポリスチレン換算による値である。
【0018】
変性セルロースの具体例としては、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロースなどのカルボキシアルキルセルロース又はそれらのアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのヒドロキシアルキルセルロース、及びその他の変性セルロースなどが挙げられる。アルカリ金属塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、ルビジウム塩、セシウム塩が挙げられ、ナトリウム塩が好ましい。
このうち、増粘性の観点から、変性セルロースとしては、下記式(1)の繰り返し単位を有するカルボキシメチルセルロースが好ましい。
【0019】
上記式において、Rがヒドロキシメチル基であることが好ましい。
また、変性セルロースは、上記式(1)の繰り返し単位と、上記式(2)の繰り返し単位とを有するカルボキシメチルセルロースが好ましい。
上記式(2)において、Rがヒドロキシメチル基であることが好ましい。
【0020】
さらに、変性セルロースは、上記式(1)の繰り返し単位と、上記式(2)の繰り返し単位と、下記式(3)の繰り返し単位とを有するカルボキシメチルセルロースが好ましい。
上記式(3)において、Rがヒドロキシメチル基であることが好ましい。
【0021】
変性セルロースにおいて、式(1)の繰り返し単位と、式(2)の繰り返し単位と、式(3)の繰り返し単位は、それぞれブロック構造であってもよいし、ランダム構造であってもよい。
Xについては、水素原子、ナトリウム原子、アンモニウム基がより好ましく、ナトリウム原子が特に好ましい。
変性セルロースの製造方法は、特に限定されず、汎用的な種々の製造方法により製造することができる。
また、本発明の変性セルロースは1種単独であってもよいし、2種以上を混合してもよい。
【0022】
変性セルロースの含有割合は、水系潤滑液組成物全量に対して0.001〜0.04質量%であり、好ましくは0.01〜0.03質量%、特に好ましくは0.015〜0.03質量%である。変性セルロースが、0.001質量%未満であると増粘効果が得られず、0.04質量%を超えるとCODが160mg/Lを超過する。
【0023】
本発明の水系潤滑液組成物においては、アルカリ金属化合物を含有させることができる。特に防錆性の観点から、含有することが好ましい。
アルカリ金属化合物としては、アルカリ性を有するものであれば特に限定されないが、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩などが挙げられ、防錆性の観点からアルカリ金属水酸化物が好ましく、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムが特に好ましい。
アルカリ金属化合物は1種単独であってもよいし、2種以上を混合してもよい。
アルカリ金属化合物の含有量は、水系潤滑液組成物の25℃におけるpHが6〜10の範囲になるように含有させれば、特に制限はされない。
【0024】
本発明の水系潤滑液組成物における水の含有量は、水と変性セルロースの合計量に対して、好ましくは99.96〜99.999質量%であり、より好ましくは99.97〜99.99質量%、特に好ましくは99.97〜99.985質量%である。
本発明の水系潤滑液組成物の40℃における動粘度は1.5〜50mm/sであり、2.0〜30mm/sが好ましく、2.0〜10mm/sがより好ましい。1.5mm/sより小さいと潤滑性が低下する傾向にあり、50mm/sより大きいと流動性が低下する傾向にある。
【0025】
本発明の水系潤滑液組成物の25℃におけるpHは動粘度の保持と増粘性の付与、防錆性の観点から6〜10であり、好ましくは7〜10であり、特に好ましくは8〜9.5である。pHが6未満だと潤滑液の動粘度が保持できず、防錆性が低下し、10を超えると動粘度が低下する傾向にある。なお、これらの範囲は、動粘度の保持と増粘性の付与、防錆性という総合的な観点からみたものであり、防錆性のみの観点からは、pHは9〜10が最も好ましい。
【0026】
本発明の水系潤滑液組成物には、前記成分の他、CODが160mg/Lを超えない範囲でその他の成分を適量配合することができる。その他の添加剤としては、例えば、通常の水系潤滑液に用いられる成分、例えば潤滑剤、金属不活性化剤、液相あるいは気相防錆剤、消泡剤、着色剤、及びその他任意の添加剤が挙げられる。ただし、本発明の水系潤滑液組成物は、リンの水溶性酸素酸塩を含有しないことが好ましい。
【0027】
潤滑剤としては、ミリスチン酸、パルミチン酸、ラウリン酸、ステアリン酸などの飽和脂肪酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などの不飽和脂肪酸、芳香族脂肪酸、ダイマー酸などが挙げられる。これらの脂肪酸は1種単独で用いても良いし、2種以上を混合使用してもよい。
【0028】
金属不活性化剤としては、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、5 − メチルベンゾトリアゾール、カルボキシベンゾトリアゾールおよびそれらのアルカリ金属塩又はアミン塩などのベンゾトリアゾール系化合物、メルカプトベンゾチアゾールおよびそのアルカリ金属塩などが挙げられる。これらの金属不活性化剤は1種単独で用いても良いし、2種以上を混合使用しても良い。
【0029】
液相あるいは気相防錆剤としては、メチルモルホリン、エチルモルホリン等のアルキルモルホリン類やトリエタノールアミン、N − メチルジエタノールアミン等の有機アミン類、カルボン酸アルカリ金属塩等を含有させることが可能である。これらの液相あるいは気相防錆剤は1種単独で用いても良いし、2種以上を混合使用してもよい。
消泡剤としては、シリコーン化合物の乳化物などが、着色剤としてはアルコール系着色剤、金属系着色剤などが挙げられる。
【実施例】
【0030】
次に、本発明を実施例及び比較例でさらに具体的に説明する。なお、本発明は、これらの例によって何ら制限されるものではない。
(実施例1〜2)
表1に示された成分を、表1に示された配合量で混合して水系潤滑液組成物を調製した。その調製された水系潤滑液組成物を用いて40℃動粘度、COD測定を行った。その評価結果を表1に示す。なお、本実施例において使用した変性セルロースは以下のものである。
【0031】
(比較例1〜6)
表1に示された成分を、表1に示された配合量で混合して水系潤滑液組成物を調製し、実施例1と同様に測定を行った。なお、本比較例において使用した変性セルロース及び比較添加剤は以下のものである。
【0032】
<変性セルロース及び比較添加剤>
(A)式(1)の繰り返し単位と、式(2)の繰り返し単位と、式(3)の繰り返し単位を有し、Rがヒドロキシメチル基、Rがヒドロキシメチル基、Rがヒドロキシメチル基であるカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩(重量平均分子量:200,000)
(B)式(1)の繰り返し単位と、式(2)の繰り返し単位と、式(3)の繰り返し単位を有し、Rがヒドロキシメチル基、Rがヒドロキシメチル基、Rがヒドロキシメチル基であるカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩(重量平均分子量:10,000)
(C)ポリエチレングリコール(重量平均分子量:35,000)
(D)ポリエチレングリコール(重量平均分子量:500,000)
【0033】
なお、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーにて測定し、ポリスチレン換算にて算出した。ゲル浸透クロマトグラフィーは、カラムShodex GPC LF−804を3本、移動相にTHF、検出器には示差屈折検出器を用いた。
また、40℃動粘度はJIS K2283動粘度試験方法により、CODはJIS K0102排水試験方法により測定した。
【0034】
【表1】

【0035】
表1に示した結果から、実施例1、2の水系潤滑液組成物は、潤滑性に優れている上に、低いCODであることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の水系潤滑液組成物は、低環境負荷能が求められる種々の用途において使用することが可能である。例えば産業機械、輸送機械、特に好ましくは設備工場、産業機械の軸受や歯車、搬送用ベルトコンベア、工作機械、農機、金属加工、圧延機、発電所のタービン、油圧機器、コンプレッサー等の潤滑箇所に使用することができる。





【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を基油とし、変性セルロースを0.001〜0.04重量%含んで成り、25℃でのpHが6〜10であり、40℃における動粘度が1.5〜50mm/sであり、CODが160mg/L以下であることを特徴とする水系潤滑液組成物。
【請求項2】
変性セルロースが、下記式(1)の繰り返し単位を有し、重量平均分子量が100,000〜1,000,000のカルボキシメチルセルロースである請求項1に記載の水系潤滑液組成物。
【化4】

(式中、Rは、ヒドロキシル基又はヒドロキシメチル基であり、Xは、水素原子、アルカリ金属原子又はアンモニウム基であり、複数の式(1)の繰り返し単位における各々のR及びXはそれぞれ同一であってもよいし、異なってもよい。)
【請求項3】
変性セルロースが、下記式(2)の繰り返し単位をも有し、重量平均分子量が100,000〜1,000,000のカルボキシメチルセルロースである請求項2に記載の水系潤滑液組成物。
【化5】

(式中、Rは、ヒドロキシル基又はヒドロキシメチル基であり、複数の式(2)の繰り返し単位における各々のRは同一であってもよいし、異なってもよい。)
【請求項4】
変性セルロースが、下記式(3)の繰り返し単位をも有し、重量平均分子量が100,000〜1,000,000のカルボキシメチルセルロースである請求項2又は3に記載の水系潤滑液組成物。
【化6】

(式中、Rは、ヒドロキシル基又はヒドロキシメチル基であり、Xは、水素原子、アルカリ金属原子又はアンモニウム基であり、複数の式(3)の繰り返し単位における各々のR及びXはそれぞれ同一であってもよいし、異なってもよい。)
【請求項5】
さらに、アルカリ金属化合物を含んで成ることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の水系潤滑液組成物。
【請求項6】
アルカリ金属化合物が、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムから選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項5記載の水系潤滑液組成物。



【公開番号】特開2010−202788(P2010−202788A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−50481(P2009−50481)
【出願日】平成21年3月4日(2009.3.4)
【出願人】(398053147)コスモ石油ルブリカンツ株式会社 (123)
【Fターム(参考)】