説明

水系熱処理液組成物

【課題】高い冷却性能及び耐冷却むら性能を有しながら、防錆性能が良好な水系熱処理液組成物を提供すること。
【解決手段】
水系熱処理液組成物は、ハイパーブランチ型ポリグリセロールを配合してなることを特徴とする。また、ハイパーブランチ型ポリグリセロールの質量平均絶対分子量は、5,000以上、500,000以下であることが好ましい。この水系熱処理液組成物を用いて金属部品の焼入れを行うと、高い冷却性能及び耐冷却むら性能を有しながら、良好な防錆性能を発揮できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部品の焼入れなどに使用される水系熱処理液組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
金属部品の焼入れに使用される熱処理液は、油系及び水系(水溶液系)に大別され、油系が広く用いられている。油系熱処理液は適度な冷却性能があり、焼入れ歪が小さく、焼割れ発生の心配がないからである。
一方、特に大きな金属部品や、焼入れ性の悪い金属部品の場合、油系熱処理液では、冷却速度が遅く、冷却性能が不足するので、水系熱処理液が用いられる。ところが、水系熱処理液は、油系熱処理液よりも冷却性能が高いので、冷却むらが生じやすく焼割れのおそれがある。
【0003】
そこで、焼割れを防止するため、水溶性ポリマーを水系熱処理液に添加した組成物が知られている。このような水系熱処理液組成物は、水溶性ポリマーが金属部品の表面に付着して、熱伝達を阻害し、冷却性能を抑制する。水溶性ポリマーを添加した水系熱処理液組成物は、工業的には普及しており、水溶性ポリマーとしてポリアルキレングリコール(PAG)が主流である。ただし、このような水系熱処理液組成物は、蒸気膜段階が長く、それ故に冷却むらが起き易いという欠点がある。
そこで、高分子量のポリアルキレングリコールに低分子量のグリコールを添加することで、蒸気膜段階を短くし、耐冷却むら性能を向上させた水系熱処理液組成物が提案されている(特許文献1参照)。
一方、耐冷却むら性能を高くする技術として、古くから食塩水による焼入れが知られている。食塩水は、蒸気膜段階が無いので、高い冷却性能を有しながら耐冷却むら性能が高く焼割れが少ない(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−227932号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】大和久重雄、「焼割れを考える」、熱処理、昭和42年6月、第7巻、第3号、p.140〜144
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の水系熱処理液組成物でも、耐冷却むら性能は必ずしも十分ではない。
また、非特許文献1の食塩水では、熱処理後1時間以内という極めて短時間で錆が発生し、油槽等の設備への腐食も著しいことから工業的にはほとんど使用できない。
【0007】
そこで、本発明の目的は、高い冷却性能及び耐冷却むら性能を有しながら、防錆性能が良好な水系熱処理液組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記した課題を解決すべく、本発明は、以下のような水系熱処理液組成物を提供するものである。
[1]ハイパーブランチ型ポリグリセロールを配合してなることを特徴とする水系熱処理液組成物。
[2]上記[1]に記載の水系熱処理液組成物において、前記ハイパーブランチ型ポリグリセロールの質量平均絶対分子量が5,000以上、500,000以下であることを特徴とする水系熱処理液組成物。
[3]上記[2]に記載の水系熱処理液組成物において、前記ハイパーブランチ型ポリグリセロールの質量平均絶対分子量が5,000以上、100,000以下であることを特徴とする水系熱処理液組成物。
[4]上記[1]から上記[3]までのいずれか1つに記載の水系熱処理液組成物において、前記ハイパーブランチ型ポリグリセロールの配合量が組成物全量基準で3質量%以上、30質量%以下であることを特徴とする水系熱処理液組成物。
[5]上記[1]から上記[4]までのいずれか1つに記載の水系熱処理液組成物において、さらに水溶性防錆剤が配合されていることを特徴とする水系熱処理液組成物。
[6]上記[1]から上記[5]までのいずれか1つに記載の水系熱処理液組成物において、浸漬焼入れ、高周波焼入れ、及び、溶体化処理時の冷却のいずれかに用いられることを特徴とする水系熱処理液組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の水系熱処理液組成物は、ハイパーブランチ型ポリグリセロールを配合してなるので、高い冷却性能及び耐冷却むら性能を有しながら、良好な防錆性能を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】従来のポリマー水溶液の冷却性能及び耐冷却むら性能を示す図。
【図2】本発明に係る水系熱処理液組成物の冷却性能及び耐冷却むら性能を示す図。
【図3】本発明で用いるハイパーブランチ型ポリグリセロールにおける分岐度を算出するための13C−NMRスペクトルの図。
【図4】本発明に係る実施例及び比較例に係る水系熱処理液組成物の冷却性能を示す図。
【図5】比較例に係る食塩水の冷却性能及び耐冷却むら性能を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の水系熱処理液組成物(以下、「組成物」と略記する場合がある)は、ハイパーブランチ型ポリグリセロール(以下、「HBP−PGR」と略記する場合がある)を配合してなることを特徴とする水溶液である。
【0012】
本発明の組成物に配合されるHBP−PGRは、例えば、グリシドールの開環重合によって得られる下記化学式(1)に示すようなハイパーブランチ型ポリマーである。HBP−PGRは、グリシドールの繰り返し単位に枝分かれ構造を有する。
【0013】
【化1】

【0014】
本発明のHBP−PGRを配合した組成物は、高い冷却性能及び耐冷却むら性能を有しつつ、良好な防錆性能をも有する。
従来のポリマー水溶液を用いて焼入れした場合では、蒸気膜段階が長いので、冷却むらが発生しやすい。それ故、ポリマー水溶液を攪拌して冷却むらの発生を抑制している。しかし、金属部品の大きさや形状によって部分的に撹拌効率が低くなる。攪拌効率の低い部分では、相対的に冷却速度が遅くなるので冷却むらが発生しやすい。ここで、冷却むらの発生の起こり易さは、攪拌の有無による冷却時間の差によって評価できる。従来のポリマー水溶液では、例えば、図1に示すように、冷却時間の差が大きいので冷却むらが起こりやすい。
これに対して、本発明の組成物では、例えば、図2に示すように、蒸気膜段階がほとんどなく、攪拌の有無による冷却時間の差もほとんどないので、冷却速度が速く、冷却むらの発生を抑制できる(具体的な実験条件については後述する)。特に、金属部品が大きい場合や形状が複雑な場合でも本発明の組成物は高い耐冷却むら性能を発揮する。
また、本発明の組成物では、従来のポリマー水溶液と異なり、金属部品の表面にポリマー膜を形成することがないので、さらに高い冷却性能及び耐冷却むら性能を発揮できる。
【0015】
HBP−PGRの配合量は、組成物全量基準で3質量%以上、30質量%以下であることが好ましい。
HBP−PGRの配合量が3質量%以上であれば、耐冷却むら性能を十分に発揮することができる。一方、HBP−PGRの配合量が30質量%以下であれば、粘性が高くなるのを抑え、金属部品がべたつき洗浄工程を必要とすることもない。
それ故、好ましいHBP−PGRの配合量の範囲は、5質量%以上、15質量%以下である。
【0016】
HBP−PGRの質量平均絶対分子量は、5,000以上、500,000以下であることが好ましい。
HBP−PGRの質量平均絶対分子量が5,000以上であれば良好な粘性を得ることができ、冷却性能や耐冷却むら性能を十分に発揮することができる。一方、HBP−PGRの質量平均絶対分子量が500,000以下であれば、ポリマー鎖が切断されにくく、低分子の生成を抑制し、冷却性能や耐冷却むら性能を十分に発揮することができる。
それ故、好ましい質量平均絶対分子量の範囲は、5,000以上、100,000以下である。
【0017】
なお、HBP−PGRの質量平均絶対分子量は、移動相溶媒として0.2mol/L濃度のNaNO水溶液を用いて、サイズ排除クロマトグラフィーオンライン−多角度光散乱(SEC−MALLS)法により測定できる。
【0018】
また、HBP−PGRの分岐度は、0.40以上、0.65以下、好ましくは0.45以上、0.55以下である。HBP−PGRの分岐度は、下記に示す方法により測定できる。
【0019】
<分岐度の測定方法>
測定条件:ポリマー200mgを重水0.6mLに溶解
使用装置:100MHz13C−NMR[日本電子株式会社製、「JEOLJNM−A400II」]
測定条件:反転ゲート付13C−NMR測定(nne13C−NMR)、パルス間隔時間7秒 アセトンを標準ピーク(δ:30.89ppm)として測定を行う。
積算回数:4000回
積分に用いている各ピーク範囲
・L1:60.75−62.12ppm
・T :62.68−63.35ppm
・L2:72.01−73.38ppm(このピークの積分値には炭素2つ分含まれているので、計算時はその半分の値とする)
・D :76.93−79.68ppm
上記各ピーク範囲については、図3の13C−NMRスペクトルで示す。
分岐度(DB)は、上記各ピークの積分値から、下記式(2)によって算出される。
分岐度(DB)=2D/(2D+L1+L2/2) ・・・(2)
【0020】
[HBP−PGRの製造方法]
HBP−PGRの製造方法としては、モノマーであるグリシドールを、開始剤としてBF3錯体を用い、開環重合させる。この際、開始剤として用いるBF錯体としては、例えばBF・エチルエーテル錯体[(CO・BF]、BF・フェノール錯体[(COH)・BF]、BF・モノエチルアミン錯体[CNH・BF]、BF・n−ブチルエーテル錯体[(n−CO・BF]などが挙げられる。これらの中で、開始剤としての性能の上から、BF・エチルエーテル錯体が好ましい。
この開環重合における溶媒としては、反応に不活性であって、開始剤、モノマーのグリシドール及び生成物のHBP−PGRを、充分に溶解し得る有機溶媒を用いることができるが、特にメチレンクロライドが好適である。
【0021】
具体的な操作として、好ましい例を挙げて説明すると、攪拌装置及びグリシドール投入装置を備えた反応装置に、溶媒としてのメチレンクロライドと、開始剤としてのBF・エチルエーテル錯体を投入し、この開始剤を含む溶液を攪拌しながら、これにグリシドールを徐々に投入する。上記BF・エチルエーテル錯体の投入量は溶媒1L当たり、1ミリモル以上、10ミリモル以下、好ましくは2ミリモル以上、6ミリモル以下である。
また、グリシドールの投入速度は、溶媒1L当たり、0.05モル/h以上、1.0モル/h以下、好ましくは0.1モル/h以上、0.5モル/h以下である。重合温度は、好ましくは−30℃以上、10℃以下、より好ましくは−20℃以上、0℃以下である。
グリシドールの全投入量は、HBP−PGRの収率の面から、BF・エチルエーテル錯体1モルに対して、300モル以上、1,800モル以下、好ましくは400モル以上、1,600モル以下である。
【0022】
また、攪拌条件に関しては、反応装置の大きさや攪拌装置の形状などに応じて、最適条件を選定する。グリシドール投入後、前記重合温度にて、さらに後攪拌を行い、重合を続行する。全重合時間は、重合温度、開始剤やグリシドールの投入量などに左右され、一概に決めることはできないが、通常20時間以上、50時間以下である。
このようにして、開環重合を行い、上記各条件を適宜選定することにより、HBP−PGRの質量平均絶対分子量の制御が可能となると共に、HBP−PGRを再現性よく得ることができる。
なお、この開環重合反応においては、反応系においてモノマーが少ない条件下では、分子内環化(バックバイティング)が生じやすい。したがって、グリシドールの投入速度が遅すぎる場合や、重合時間が長すぎる場合には、分子内環化が生じやすく、低分子量化や収率の低下をもたらすことがある。
反応終了後、例えば下記の操作を行うことにより、開環重合で生成したHBP−PGRを、効率よく取得することができる。
即ち、アンモニア水等により反応停止後、溶媒を留去し、残渣をメタノールに溶解し、アセトンで再沈殿することにより、HBP−PGRを高純度で得ることができる。
【0023】
本発明の組成物には、さらに水溶性防錆剤が配合されていることが好ましい。水溶性防錆剤の配合量は、防錆性能の向上および経済性のバランスなどの面から、組成物全量基準で好ましくは0.01質量%以上、5質量%以下、より好ましくは0.03質量%以上、1質量%以下である。
【0024】
水溶性防錆剤としては、オクタン酸塩等の脂肪族モノカルボン酸塩や、オクタン二酸(スベリン酸)塩、デカン二酸(セバシン酸)塩等の脂肪族ジカルボン酸塩が挙げられ、例えばセバシン酸カリウム等が好適に用いられる。なお、水溶性防錆剤としては、芳香族カルボン酸塩でもよい。
また、水溶性防錆剤としては、モノヒドロキシモノエチルピペラジン等のピペラジン誘導体等も好適に用いることができる。
本発明の組成物には、さらに、熱処理液に汎用される添加剤、例えば酸化防止剤、および清浄分散剤などが配合されていてもよい。
【0025】
本発明の組成物は、金属部品の熱処理において、優れた冷却性能、耐冷却むら性能及び防錆性能を発揮できるので、例えば炭素鋼、ニッケル−マンガン鋼、クロム−モリブデン鋼、マンガン鋼などの各種合金鋼に対する熱処理液として好適に用いることができる。
また、本発明の組成物を用いて、鋼材等の金属部品を熱処理するには、熱処理液である組成物の温度を、通常の熱処理の温度(40℃程度)に設定する。なお、冷却性能を制御した場合は、組成物の温度を100℃以下で出来るだけ高くしても良い。
【0026】
そして、本発明の組成物は、高い冷却性能及び耐冷却むら性能を有しつつ、防錆性能を発揮するので、浸漬焼入れ、高周波焼入れ、アルミ等の溶体化処理時の冷却などに用いられる熱処理液として好適に用いることができる。
【実施例】
【0027】
次に実施例、比較例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの例によって何ら制限されるものではない。具体的には、以下の方法で水系熱処理液組成物の冷却性能、耐冷却むら性能及び防錆性能を評価した。
【0028】
[実施例1,2及び比較例1から比較例5まで]
以下に示す配合剤を水に所定量配合して水系熱処理液組成物を調製し、試料液とした。配合組成を表1に示す。
【0029】
(1)(配合剤)
(1.1)熱処理剤
ハイパーブランチ型ポリグリセロール(HBP−PGR):質量平均絶対分子量(Mw)=10,000、分子量分散度(Mw/Mn)=3.08、分岐度(BD)=0.51
ポリアルキレングリコール(PAG):質量平均絶対分子量(Mw)=40,000
エチレングリコールモノブチルエーテル及びプロピレングリコール:市販品
(1.2)水溶性防錆剤
セバシン酸カリウム及びモノヒドロキシモノエチルピペラジン:市販品
(1.3)食塩:市販品
【0030】
(2)質量平均絶対分子量(Mw)の測定
HBP−PGR及びPAGの質量平均絶対分子量は、下記の装置及び条件により、サイズ排除クロマトグラフィーオンライン−多角度光散乱(SEC−MALLS)法により測定した。なお、標準サンプルとしてポリスチレンを用いた。
分離カラム:Tosoh TSKgel GMPWXLcolumns(linear,7.5mm×600mm;exclusion limit,5×10)を2本使用
カラム温度:40℃
移動相溶媒:0.2mol/L濃度NaNO水溶液
移動相流速:1.0mL/min
試料濃度 :3g/mL
注入量 :100μL
検出器1:多角度光散乱検出器(Wyatt社製、「DAWN 8」)
検出器2:粘度検出器(Wyatt社製,「Viscostar」)
検出器3:屈折率(RI)検出機(Wyatt社製,「Optilab rEX」)
(3)平均分子量分布の測定(質量平均絶対分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)、Mw及びMnは標準ポリスチレン換算値)
上記(2)の装置及び条件を用い、SEC−MALLS法により得た。
(4)分岐度(DB)の測定
明細書本文に記載の方法に従って求めた。
【0031】
【表1】

【0032】
[評価方法]
以下に示す方法で、上記各試料液について冷却性能、耐冷却むら性能、防錆性能を評価した。
【0033】
<冷却性能>
JIS K 2242の冷却性能測定方法に準拠して評価した。すなわち、液温40℃の試料液を攪拌しない状態で鋳物が800℃から150℃まで冷却される時間(秒)を測定し、その冷却時間により冷却性能を評価した。
【0034】
<耐冷却むら性能>
液温40℃の試料液を攪拌しない状態で鋳物が800℃から150℃まで冷却される時間(秒)を基準とし、液温40℃の試料液を流速10cm/秒で攪拌した状態で800℃から150℃まで冷却される時間との冷却時間の差により耐冷却むら性能を評価した。
【0035】
<防錆性能>
DIN 51360−12−Aに準拠して評価した。すなわち、鋳物切粉をシャーレ内のろ紙上に2gとり、試料液を2ml滴下し、2時間放置後の状態を評価した。防錆性能は以下に示す5段階の数値で示される。
0:錆無し
1:錆の痕跡(点状の錆が3つ以下発生)
2:僅かな錆(点状の錆が4つ以上発生)
3:中度の錆(鋳物の全体的に点状の錆が発生)
4:重度の錆(鋳物の全面に錆が発生)
【0036】
[評価結果]
表1及び図2,4,5に示すように、HBP−PGRを配合した実施例1,2の試料液では、冷却時間が1.0秒であり、比較例4,5の試料液(食塩水)を用いた場合と同程度の冷却性能であることがわかる。一方、PAGを配合した比較例1から比較例3までの試料液では、冷却時間が7.8〜10.5秒であり、冷却速度が遅く冷却性能が低いことがわかる。
また、表1及び図2,5に示すように、実施例1,2の試料液の冷却時間の差が0.02又は0.03秒であり、比較例4,5の食塩水を用いた場合と同程度の耐冷却むら性能であることがわかる。一方、PAG等を配合した比較例1から比較例3までの試料液では、冷却時間の差が0.7〜3.0秒であり、冷却むらが発生しやすいことがわかる。
そして、実施例1の試料液では実用上問題にならない程度の防錆性能を有し、また、水溶性防錆剤を添加した実施例2の試料液では防錆性能がさらに向上することがわかる。すなわち、防錆性能を自由に設定できることがわかる。また、実施例1,2の試料液の防錆性能は、PAG等を配合した比較例1から比較例3までの試料液と同程度であることがわかる。一方、水溶性防錆剤を添加した比較例5の食塩水は、水溶性防錆剤を添加していない比較例4の食塩水とほとんど防錆性能は変わらないことがわかる。
【0037】
以上の結果より、本発明の水系熱処理液組成物を用いて焼入れを行うことで、高い冷却性能、耐冷却むら性能を有しながら、良好な防錆性能を得ることができることが理解できる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、高い冷却性能、耐冷却むら性能を有しながら、防錆性能に優れた熱処理用の水溶性冷却液として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイパーブランチ型ポリグリセロールを配合してなる
ことを特徴とする水系熱処理液組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の水系熱処理液組成物において、
前記ハイパーブランチ型ポリグリセロールの質量平均絶対分子量が5,000以上、500,000以下である
ことを特徴とする水系熱処理液組成物。
【請求項3】
請求項2に記載の水系熱処理液組成物において、
前記ハイパーブランチ型ポリグリセロールの質量平均絶対分子量が5,000以上、100,000以下である
ことを特徴とする水系熱処理液組成物。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の水系熱処理液組成物において、
前記ハイパーブランチ型ポリグリセロールの配合量が組成物全量基準で3質量%以上、30質量%以下である
ことを特徴とする水系熱処理液組成物。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の水系熱処理液組成物において、
さらに水溶性防錆剤が配合されている
ことを特徴とする水系熱処理液組成物。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の水系熱処理液組成物において、
浸漬焼入れ、高周波焼入れ、及び、溶体化処理時の冷却のいずれかに用いられる
ことを特徴とする水系熱処理液組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−168860(P2011−168860A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−35690(P2010−35690)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】