説明

水素を電気化学的に除去することによって、電流及び水素を発生させながら天然ガスを芳香族化合物に変換する方法

C原子を1〜4個有する脂肪族炭化水素を、芳香族炭化水素に変換するための方法であって、以下の工程a)及びb);a)C原子を1〜4個有する脂肪族炭化水素を少なくとも1つ含有する原料流Eを、触媒の存在下、非酸化性条件で、芳香族炭化水素及び水素を含有する生成物流Pに変換する工程、及びb)前記変換の際に生じた水素の少なくとも一部を、生成物流Pから、気密な膜電極アセンブリによって電気化学的に分離する工程、ここで当該アセンブリは、プロトン選択透過性の少なくとも1つの膜と、当該膜の各側に少なくとも1つの電極触媒とを有するものであり、当該膜の濃縮側でアノード触媒によって水素の少なくとも一部を酸化してプロトンにし、当該プロトンが当該膜を横断後に、透過側でカソード触媒によって、 b1)電圧を印加して、当該プロトンの一部を還元して水素にし、 b2)電流を発生させながら、当該プロトンの一部を酸素と反応させて水にし、ここで当該酸素は、前記膜の透過側で接触させた酸素含有流Oに由来するものである、を有する、前記方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、C原子を1〜4個有する脂肪族炭化水素を触媒の存在下、非酸化性条件で変換して、芳香族炭化水素にする方法に関し、本方法では、変換の際に生じる水素の少なくとも一部を、膜電極アセンブリによって電気化学的に分離する。この際に前記膜の濃縮側で、水素の少なくとも一部が酸化されてプロトンになる。前記プロトンが膜を横断した後、透過側でその一部に電圧をかけて還元して水素にし、残りの部分は、電流を発生させながら、酸素と反応させて水にする。この酸素は酸素含有流Oに由来し、この酸素含有流は、膜の透過側で接触させたものである。
【0002】
芳香族炭化水素、例えばベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、スチレン、キシレン、及びナフタリンは、化学工業において重要な中間生成物であり、これらの需要は相変わらず高まっている。通常これらは接触改質によってナフサから得られ、このナフサは石油から得られるものである。比較的最近の調査によれば、世界中の石油備蓄は、天然ガス備蓄に比べてより厳しく制限されている。従って、天然ガスから得ることができる原料からの芳香族炭化水素の製造は、経済的にも興味深い代替手段である。天然ガスの主成分は、通常メタンである。
【0003】
脂肪族化合物から芳香族化合物を得るための反応経路としてあり得るのは、非酸化性の脱水素芳香族化(DHAM)である。この際に変換は、非酸化性条件、とりわけ酸素遮断下で行われる。DHAMの場合、水素を放出しながら、脂肪族化合物の、相応する芳香族化合物への脱水素化及び環化が起こる。この際にメタン6molから、ベンゼン1molと、水素9molが生じる。
【0004】
熱力学的に考察すると、前記変換は平衡の位置(Lage)によって制限されていることがわかる(D. Wang, J. H. Lunsford und M. P. Rosynek, "Characte-rization of a Mo/ZSM-5 catalyst for the conversion of methane to benzene", Journal of Catalysis 169, 347-358 (1997))。メタン、ベンゼン、ナフタリン、及び水素という成分を考慮して計算すると、メタンからベンゼン(及びナフタリン)への等温変換に対する平衡変換率は、圧力の上昇と、温度の低下につれて減少する。例えば平衡反応率は、1bar、750℃で約17%である。
【0005】
反応の際に未変換のメタンを効率的に利用するために、つまり新たにDHAMを始めるために、反応排出物に含まれるH2を大部分除去するのが望ましい。と言うのも、そうしなければH2によって反応平衡がメタン方向に移ってしまい、そのため芳香族炭化水素の収率が低くなってしまうからである。
【0006】
US 7,019,184 B2には、炭化水素、とりわけ天然ガスをDHAM化する方法であって、H2及び芳香族炭化水素を生成物流から分離して、水素の分離後、さらなる反応段階では事前に芳香族炭化水素を分離せずに、残留生成ガスを反応帯域に、若しくは生成ガスの新たな変換に返送する方法が記載されている。H2の分離法としては、水素選択性膜、及び圧力交換吸着が挙げられている。分離された水素は、エネルギー生成のために使用され、例えば燃焼チャンバで、又は燃料電池で使用される。
【0007】
水素選択透過性の膜を用いた水素分離の場合、水素はH2分子として膜を通って移動する。ここで拡散速度は、濃縮側と透過側との水素の分圧差に依存する。この分圧差は原理的に、3つの異なる手法に影響を受ける可能性がある:
1)フィードガスの圧縮、これによって分圧は上昇する。
2)浸透側で真空を作り出すこと、又は、
3)浸透側でパージガス(Sweep-Gas)を用いること、このガスは水素分圧を低下させる。これらの手法は、機械的な応力が高い(選択肢1)及び2))か、パージガスを水素から分離する必要がある。さらに、ガス混合物を圧縮及び膨張させるための相応する装置がなければならない。動力学的な理由から、一定の割合の水素が、常に濃縮水に残る。水素透過性ポリマー膜により得られるH2/CH4混合物の透過水は例えば、通常H2分子10個に対してCH4分子を1個有する。約200℃から選択的に水素透過性になり、400〜500℃で最適な分離特性に達するPd膜の場合、透過水は通常、H2分子200個に対してCH4分子を1個有する。
【0008】
圧力交換吸着の場合、吸着体は周期的に第一フェーズで水素含有流と衝突させ、ここで水素以外のあらゆる成分が、吸着により留まる。第二フェーズでは、これらの成分は減圧により再度脱着される。これは吸着剤を用いなければならない、技術的に非常にコストのかかる方法であり、水素含有排出流が発生し、その水素割合は40%超に達することもある(Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, "Membranes: Gas Separation-Applications", D.B. Strooky, Elah Strategies, 6p, Chesterfield, Missouri, USA, 2005 Wiley-VCH Verlag, Weinheim)。
【0009】
圧力交換吸着と、水素選択透過性膜の使用の他に、いわゆる「コールドボックス(Cold Box)」の使用があり、これはガス混合物から水素を除去するための通常の方法である。
【0010】
コールドボックスによる水素分離の際、ガス混合物は30〜50bar未満の圧力で、約−150〜−190℃の温度に冷却される。この低い温度の生成には、多大なコストがかかる。ここで水素を取り除いた混合物を新たに反応で使用したい場合には、再度相応する反応温度に、例えば脱水素芳香族化のためには600〜1000℃に加熱しなければならない。
【0011】
水素とメタンからの混合物から水素を分離することは、B. Ibeh et al. (International Journal of Hydrogen Energy 32 (2007) 908 -914p)に記載されている。その出発点は、天然ガス輸送用の既存インフラを通じて、天然ガスが水素輸送のためのキャリアガスとして適しているかどうかを調査することであった。この場合に水素は、天然ガスと一緒に輸送した後で、天然ガスから再度分離しなければならない。B. Ibeh et al.は、水素メタン混合物から水素を分離するために、それぞれプロトン交換膜と、Pt若しくはpt/Ruアノード電極触媒とを有する燃料電池を使用した。この燃料電池には水素メタン混合物が、大気圧で、20〜70℃の温度で供給された。
【0012】
本発明の課題は、1〜4個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素から芳香族炭化水素を得る方法を提供することであり、この方法は、従来技術から公知の方法の欠点を有さないものである。使用される脂肪族炭化水素は、変換の際に生じる副生成物と同じように、効率的に利用される。本方法は、可能な限り有利なエネルギー収支と、可能な限り僅かな装置コストを有するものである。
【0013】
本発明の課題は、1〜4個のC原子を有する脂肪族炭化水素を、芳香族炭化水素に変換するための方法により解決され、この方法は以下の工程a)及びb):
a)C原子を1〜4個有する脂肪族炭化水素を少なくとも1つ含有する原料流Eを、触媒の存在下、非酸化性条件で、芳香族炭化水素及び水素を含有する生成物流Pに変換する工程、
b)前記変換の際に生じた水素の少なくとも一部を、生成物流Pから、気密な膜電極アセンブリによって電気化学的に分離する工程、ここで当該アセンブリは、プロトン選択透過性の少なくとも1つの膜と、当該膜の各側に少なくとも1つの電極触媒とを有するものであり、当該膜の濃縮側でアノード触媒によって水素の少なくとも一部を酸化してプロトンにし、当該膜を通過後にこのプロトンを、透過側でカソード触媒によって、
b1)電圧を印加して、当該プロトンの一部を還元して水素にし、
b2)電流を発生させながら、当該プロトンの一部を酸素と反応させて水にし、ここで当該酸素は、前記膜の透過側で接触させた酸素含有流Oに由来するものである、
を有するものである。
【0014】
本発明による方法の利点は、形成された水素を生成物流Pから電気化学的に分離することである。電気化学的な水素分離の原動力は、膜の両側における電位差である。この分離は、通常使用される水素選択性膜のように、膜の両側における水素分圧差に依存していないため、水素分離は非常に低い圧力及び圧力差で行うことができ、ここで好適には外部から加える圧力差を完全に省略することができ、とりわけ透過側と濃縮側で同じ圧力が存在する。このため、膜の機械的な応力は明らかに低減され、これによりとりわけ、その長時間安定性が向上し、また膜として考慮される材料の選択肢が拡大する。
【0015】
これによりさらに、水素の分離を、従来の膜における圧力より低い圧力で行うことができ、また方法全体、すなわちDHAMと、生成物流Pの後処理を、同じような圧力で実施できるという利点がある。つまり、ガス流を圧縮及び膨張させるための高コストの装置は、存在しなくてよい。
【0016】
電気化学的な分離は、コールドボックスによる水素の分離と比べて、高い温度で行うことができる。水素を電気化学的に分離するための温度は、通常室温、又はそれより高い。変換の際に生じる芳香族炭化水素は通常、生成物流をベンゼンの沸点未満の温度に冷却後に洗浄し、気液分離器によって分離する。電気化学的な水素分離は、ここで必要となる温度より高い温度でも実施できるので、生成物流Pは、芳香族炭化水素の分離に必要となるよりも激しく冷却する必要はない。コールドボックスと比べて、冷却工程、及び冷却に必要な装置は、節約される。未反応のC1〜C4脂肪族化合物含有生成物流Pを、水素及び芳香族炭化水素の除去後、変換帯域に返送する際、返送された生成物流Pは、コールドボックスを用いた水素分離の場合よりも、明らかに加熱しなくてもよい。これにより、エネルギーが節約される。
【0017】
Pd膜は、本発明による方法における水素分離のためには、あまり適していない。と言うのも、Pd膜は約200℃で水素透過を開始するため、この温度では非常に低い流速しか、膜により達成されないからである。しかしながら約400〜500℃という最適な稼働温度では、Pd膜によって、分離すべき生成物流Pを含む脂肪族化合物中で不所望の副反応が起こり、この副反応によって、Pd膜が比較的速く駄目になってしまい、相応して高い再生エネルギーが必要となる。
【0018】
電気化学的な水素分離は、従来の水素選択性膜に比べて、同じ分離性能で明らかにより効率的であり、そのため必要となる膜面積を小さくすることができるか、又は膜面積を変えずに、明らかにより多くの水素を分離でき、これにより返送される生成物流Pに残る水素含分は、明らかに少なくなる。よってまとめると、本発明による方法は、少ない装置コストと結びついている。
【0019】
部分工程b2)は、形成された水素を生成物流Pから電気化学的に分離することと、電流を得ることを同時に組み合わせるという、特別な利点を有する。
【0020】
ここでは従来技術から公知のように、まず水素を分離し、引き続き水素として電流生成方法、例えば外部燃料電池又はガスタービンに供給するのではなく、電流の発生は既に分離時に行われている。従来技術から公知の方法と比べて、見方に応じて、分離装置、又は生成する水素からエネルギーを生成させるユニット、及びこれに付随するエネルギー損失と物質損失が削減される。
【0021】
本発明による方法によれば極めて特に有利なのは、部分工程b1)とb2)との組み合わせである。なぜならば、部分工程b2)で発生した電流は直接、部分工程b1)における水素プロトンの還元に使用できるからである。部分工程b1)及びb2)の後にそれぞれどれくらいの水素を分離するかは、より多くの水素又は電流を生成すべきかどうかによって、所望の通り調整できる。
【0022】
よって本発明による方法により、使用原料の経済的な利用が、有用な芳香族炭化水素、水素、及び電気エネルギーを同時に柔軟に生成しながら可能になる。
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0024】
生成物流Pへの原料流Eの変換は、触媒の存在下、非酸化性条件下で行う。
【0025】
本発明によれば非酸化性条件とは、DHAMと関連して、原料流E中の酸化剤、例えば酸素又は窒素酸化物の濃度が、5質量%未満、好ましくは1質量%未満、特に好ましくは0.1質量%未満である。極めて特に好ましくは、原料流Eは酸素不含である。同様に特に好ましいのは、C1〜C4脂肪族化合物に由来する供給源中の酸化剤濃度と同程度の、又はそれより低い、原料流E中の酸化剤濃度である。
【0026】
本発明によれば原料流Eは、1〜4個の炭素原子を有する脂肪族化合物を少なくとも1つ含む。これらの脂肪族化合物に該当するのは例えば、メタン、エタン、プロパン、n−ブタン、i−ブタン、エテン、プロペン、1−ブテン、2−ブテン、及びイソブテンである。本発明の実施態様において原料流Eは、C1〜C4脂肪族化合物を少なくとも50mol%、好ましくは少なくとも60mol%、特に好ましくは少なくとも70mol%、非常に好ましくは少なくとも80mol%、とりわけ少なくとも90mol%含む。
【0027】
脂肪族化合物の中でもとりわけ、特に好ましくは飽和アルカンを使用し、その場合、原料流Eは1〜4個のC原子を有するアルカンを、好ましくは少なくとも50mol%、好ましくは少なくとも60mol%、特に好ましくは少なくとも70mol%、非常に好ましくは少なくとも80mol%、とりわけ少なくとも90mol%含む。
【0028】
アルカンの中でもメタンとエタンが好ましく、とりわけメタンが好ましい。本発明の実施態様によれば原料流Eは、メタンを好ましくは少なくとも50mol%、好ましくは少なくとも60mol%、特に好ましくは少なくとも70mol%、非常に好ましくは少なくとも80mol%、とりわけ少なくとも90mol%含む。
【0029】
1〜C4脂肪族化合物の供給源として好ましくは、希ガスを使用する。希ガスの典型的な組成は、以下のものであると考えられる:メタン75〜99mol%、エタン0.01〜15mol%、プロパン0.01〜10mol%、ブタン最大6mol%、二酸化炭素最大30mol%、硫化水素最大30mol%、窒素最大15mol%、及びヘリウム最大5mol%である。希ガスは、本発明による方法で使用する前に、当業者に公知の方法に従って精製し、富化することができる。精製に該当するのは例えば、場合により希ガス中に存在する硫化水素若しくは二酸化炭素の除去、及び後続の方法で望ましくないさらなる化合物の除去である。
【0030】
原料流E中に含まれるC1〜C4脂肪族化合物はまた、他の供給源由来であってよく、例えば石油精製の際に生じるものであり得る。C1〜C4脂肪族化合物はまた、再生により(例えばバイオガス)、又は合成により(例えばフィッシャー・トロプシュ合成)製造されていてよい。
【0031】
1〜C4脂肪族化合物の供給源としてバイオガスを使用する場合、原料流Eは付加的にさらにアンモニア、低級アルコールの痕跡、及びバイオガスに典型的なさらなる添加混合物を含むことができる。
【0032】
本発明の方法によるさらなる実施態様では、原料流EとしてLPG(Liquid Petroleum Gas)を使用することができる。本発明の方法によるさらなる実施態様によれば、原料流EとしてLNG(Liquid Natural Gas)を使用することができる。
【0033】
原料流Eに対して、付加的に水素、水蒸気、一酸化炭素、二酸化炭素、窒素、並びに1つ又は複数の希ガスを添加混合することができる。
【0034】
本発明による方法の工程a)では、原料流Eの変換を、非酸化性条件下、触媒の存在下で行い、芳香族炭化水素含有生成物流Pにする。この変換は脱水素芳香族化である。すなわち原料流Eに含まれているC1〜C4脂肪族化合物を反応させて、脱水素及び環化しながら、相応する芳香族化合物にし、この際に水素が放出される。本発明によれば、DHAMは適切な触媒の存在下で行う。一般的には、DHAM触媒作用を有するあらゆる触媒を、本発明による方法の工程a)で使用することができる。DHAM触媒は通常、多孔質担体と、当該担体に施与された少なくとも1つの金属とを含む。この担体は通常、結晶性又は非晶質の無機化合物を含む。
【0035】
本発明によれば触媒は好ましくは、担体として少なくとも1つの金属ケイ酸塩を含む。担体として好ましくは、ケイ酸アルミニウムを使用する。本発明によれば極めて特に好ましくは、担体としてゼオライトを用いる。ゼオライトとは、製造の際に通常はナトリウム形態で沈殿するアルミニウムケイ酸塩である。Na形態では、4価のSi原子と、3価のAl原子との交換が原因で、結晶格子中に存在する過剰な負電荷がNaイオンによって平衡化されている。ナトリウムのみならず、ゼオライトは電荷平衡のためにさらなるアルカリ金属イオン及び/又はアルカリ土類金属イオンを含むこともできる。本発明によれば好ましくは、触媒中に含まれる少なくとも1つのゼオライトは、ペンタシル及びMWWの構造型から選択された構造を有し、特に好ましくは、MFI、MEL、MFIとMELとの混合構造、及びMWWの構造型から選択された構造を有する。極めて特に好ましくは、ZSM−5型、又はMCM−22型のゼオライトを使用する。ゼオライトの構造型の名称は、W. M. Meier, D. H. Olson及びCh. Baerlocher著、"Atlas of Zeolithe Structure Types", Elsevier, 第三版、アムステルダム、2001年の記載に対応している。ゼオライトの合成は当業者に公知であり、例えばアルカリ金属アルミン酸塩、アルカリ金属ケイ酸塩、及び非晶質のSiO2から出発して、熱水条件下で行うことができる。この際に、有機のテンプレート分子によって、温度やさらなる実験パラメータによって、形成される触媒システムの種類をゼオライト中で制御することができる。
【0036】
これらのゼオライトは、Alの他にさらなる元素、例えばGa、B、Fe、又はInを含み得る。
【0037】
好適には、担体として好ましく使用されるゼオライトを、H形態、又はアンモニウム形態で使用し、こうした形態のゼオライトは市販でも得られる。
【0038】
Na形態からH形態へと移行させる際、ゼオライト中に含まれるアルカリ金属イオン及び/又はアルカリ土類金属イオンが、プロトンと交換される。触媒をH形態へ移行させるための通常の、そして本発明による好ましい方法は、アルカリ金属イオン及び/又はアルカリ土類金属イオンがまずアンモニウムイオンと交換される二段階法である。約400℃〜500℃にゼオライトを加熱すると、アンモニウムイオンが揮発性のアンモニアと、ゼオライト中に残るプロトンに分解する。
【0039】
このためにゼオライトを、NH4含有混合物で処理する。NH4含有混合物のNH4含有成分としては、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、硝酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸水素アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、硫酸アンモニウム、及び硫酸水素アンモニウムの群から選択されるアンモニウム塩を使用する。好ましくはNH4含有成分として、硝酸アンモニウムを使用する。
【0040】
NH4含有混合物によるゼオライトの処理は、ゼオライトのアンモニウム交換に適した公知の方法により行う。これに該当するのは例えば、アンモニウム塩溶液によるゼオライトの浸漬、浸透、又はスプレーであり、この際、溶液は一般的に過剰で適用される。溶剤として好適には、水及び/又はアルコールを使用する。この混合物は通常、使用されるNH4成分を1〜20質量%含む。NH4含有混合物による処理は通常、数時間にわたって、高められた温度で実施される。ゼオライト上にNH4含有混合物を作用させた後、過剰な混合物を除去し、ゼオライトを洗浄することができる。引き続き、ゼオライトを40〜150℃の温度で数時間、通常は4〜20時間乾燥させる。これに引き続いて、ゼオライトのか焼を300〜700℃の温度、好ましくは350〜650℃の温度、及び特に好ましくは500〜600℃の温度で行う。か焼の所要時間は通常、2〜24時間、好ましくは3〜10時間、特に好ましくは4〜6時間である。
【0041】
本発明の好ましい実施態様では担体として、新たにNH4含有混合物で処理し、引き続き乾燥させたゼオライトを使用する。NH4含有混合物によるゼオライトの再処理は、前述のように行う。
【0042】
市販で得られるH型のゼオライトは通常、NH4含有混合物による処理、引き続いた乾燥及びか焼によって、既に第1のアンモニウム交換が行われたものである。よって本発明では、市販で得られるH型のゼオライトを担体a)として使用できるが、しかしながら好ましくは、NH4含有混合物で再度処理し、場合によりか焼する。
【0043】
DHAM触媒は通常、少なくとも1つの金属を含む。この金属は通常、元素周期表(IUPAC)の3族〜12族の群から選択される。本発明によれば好ましくは、DHAM触媒は、第5〜第11副族の遷移金属の群から選択されている少なくとも1つの金属を含む。特に好ましくは、DHAM触媒は、Mo、W、Mn、Tc、Re、Fe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Cr、Nb、Ta、Ag、及びAuの群から選択されている少なくとも1つの金属を含む。DHAM触媒はとりわけ、Mo、W、Re、Fe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cuの群から選択されている少なくとも1つの金属を含む。極めて特に好ましくは、DHAM触媒は、Mo、W、及びReの群から選択される少なくとも1つの金属を含む。
【0044】
本発明によれば同様に好ましくは、DHAM触媒は、少なくとも1つの金属を活性成分として、また少なくとも1つのさらなる金属をドープ剤として含む。本発明によれば活性成分は、Mo、W、Re、Ru、Os、Rh、Ir、Pd、Ptから選択されている。本発明によればドープ剤は、Cr、Mn、Fe、Co、Nb、Ta、Ni、Cu、V、Zn、Zr、及びGaの群から、好ましくはFe、Co、Nb、Ta、Ni、Cu、及びCrの群から選択されている。本発明によればDHAM触媒は、活性成分としての金属を2つ以上、かつドープ剤としての金属を2つ以上含みうる。これらはそれぞれ、活性成分について、及びドープ剤について記載した金属から選択される。触媒は好ましくは、1つの金属を活性成分として、及び1つ又は2つの金属をドープ剤として含む。
【0045】
少なくとも1つの金属は、本発明によれば湿式化学的、又は乾燥化学的に、当業者に公知の方法で担体に施与される。
【0046】
これらの金属は湿式化学的に、その塩又は錯体の水溶液、有機溶液、又は有機水溶液の形態で、担体を相応する溶液で含浸することによって施与する。溶剤としてはまた、超臨界のCO2が役立ち得る。含浸は、初期濡れ性測定法(incipient-wetness-Methode)に従って行うことができ、この方法では、担体の多孔質体積をほぼ同一の体積に含浸溶液で満たし、そして場合により熟成(Reifung)の後、担体を乾燥させる。また、溶液過剰で作業することもでき、この際に当該溶液の体積は、担体の多孔質体積よりも大きい。この際、担体を含浸溶液と混合し、そして充分に長く撹拌する。さらに、相応する金属化合物の溶液を、担体にスプレーすることができる。また、当業者に公知の他の製造方法、例えば担体への金属化合物の沈殿、金属化合物を含む溶液の吹き付け、ゾル浸漬などによって可能である。少なくとも1つの金属を担体に施与後、触媒を約80℃〜130℃で、通常4〜20時間、真空中、又は空気で乾燥させる。
【0047】
本発明によれば、少なくとも1つの金属はまた、乾燥化学的な方法で施与することができ、例えば比較的高い温度で気体状の金属カルボニル、例えばMo(CO)6、W(CO)6、及びRe2(CO)10を、気相から担体に堆積させることができる。金属カルボニル化合物の堆積は、担体のか焼に引き続き行う。微粉末形態で、例えばカーバイドとして担体と混合することもできる。
【0048】
本発明によれば触媒は少なくとも1つの金属を、それぞれ触媒の全質量に対して0.1〜20質量%、好ましくは0.2〜15質量%、特に好ましくは0.5〜10質量%含む。触媒は1つの金属のみを含むことができるが、また2つ又はそれより多い金属からの混合物を含むことができる。これらの金属は、湿式化学的に1つの溶液で一緒に施与することができるか、又は異なる溶液で順次、個々の施与の間の乾燥工程で施与できる。これらの金属はまた、2つの方法を取り混ぜて、すなわち、一部を湿式化学的に、残りを乾燥化学的に施与することができる。金属化合物を施与する間、必要に応じて前記記載に相応してか焼することができる。
【0049】
本発明によれば触媒は、活性成分の群からの少なくとも1つの金属を、ドープ剤の群から選択される少なくとも1つの金属と組み合わせて含むことができる。この場合、活性成分の濃度は、それぞれ触媒の全質量に対して0.1〜20質量%、好ましくは0.2〜15質量%、特に好ましくは0.5〜10質量%含む。この場合にドープ剤は、本発明によれば触媒中において、触媒の全質量に対して少なくとも0.1質量%、好ましくは少なくとも0.2質量%、極めて特に好ましくは少なくとも0.5質量%の濃度で存在する。
【0050】
本発明のさらなる好ましい実施態様によれば、触媒を結合剤と混合する。結合剤として適しているのは、当業者に公知の通常の結合剤、例えば酸化アルミニウム及び/又はSiを含有する結合剤である。ここで特に好ましいのはSi含有結合剤であり、とりわけ適しているのは、テトラアルコキシシラン、ポリシロキサン、及びコロイド状SiO2ゾルである。
【0051】
本発明によれば結合剤の添加後、この触媒材料を当業者に公知の方法に従って成形体に加工する成形工程を行う。この際に成形法としては例えば、担体a)若しくは触媒材料を含む懸濁液のスプレー、スプレー乾燥、タブレット化、湿潤状態又は乾燥状態でのプレス、及び押出成形を挙げることができる。これらのうち2つ又はそれより多い方法を組み合わせることもできる。成形のために、助剤、例えば細孔形成剤及びペースト化剤(Anteigungsmittel)、又は当業者の公知の他の添加剤を使用することができる。ペースト化剤になり得るのは、混合特性、混練特性、及び流動特性の改善につながる化合物である。本発明の範囲では、ペースト化剤は好適には、有機の、特に親水性のポリマー、例えばセルロース、セルロース誘導体、例えばメチルセルロース、デンプン、例えばバレイショデンプン、壁紙糊、アクリレート、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリイソブテン、ポリテトラヒドロフラン、ポリグリコールエーテル、脂肪酸化合物、ワックスエマルション、水、又はこれらのうち2つ又はそれより多い化合物から成る混合物である。本発明の範囲において細孔形成剤としては例えば、水又は水性溶剤混合物中で分散可能、懸濁可能、又は乳化可能な化合物、例えばポリアルキレンオキシド、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、炭水化物、セルロース、セルロース誘導体、例えばメチルセルロース、天然の糖繊維(Zuckernaturfasern)、パルプ、黒鉛、又はこれらの化合物の2つ又は2つより多くから成る混合物を挙げることができる。細孔形成剤及び/又はペースト化剤は成形後、好ましくは少なくとも1つの適切な乾燥工程及び/又はか焼工程によって、得られる成形体から除去される。このために必要な条件は、か焼のために記載された前掲のパラメータと同様に選択でき、当業者に公知である。
【0052】
とりわけ、流動層触媒として使用するために、スプレー乾燥により触媒成形体を製造する。
【0053】
本発明により得られる触媒の形状は例えば、球状(中空又は中実)、円筒形(中空又は中実)、リング状、サドル型(sattelfoermig)、星型、ハニカム状、又はタブレット状であってよい。さらには押出成形体、例えばストランド形状、三葉(Trilob)形状、四葉(Quatrolob)形状、星型、又は中空円筒形が考慮される。さらには、成形すべき触媒の固まりを押出し、か焼し、そしてこうして得られた押出体を壊して、破砕体(Splitt)又は粉末に加工することができる。この破砕体は、様々な篩い画分に分離することができる。
【0054】
本発明の好ましい実施態様によれば、触媒は成形体又は破砕体として使用する。
【0055】
さらなる好ましい実施態様によれば、触媒は粉末として使用する。ここで触媒粉末は結合剤を含むことができるが、結合剤不含でもよい。
【0056】
本発明による触媒が結合剤を含む場合、結合剤は触媒の全質量に対して5〜80質量%の濃度、好ましくは10〜50質量%の濃度、特に好ましくは10〜30質量%の濃度で存在する。
【0057】
1〜C4脂肪族化合物を脱水素芳香族化するために使用する触媒を、本来の反応前に活性化させることが有利であり得る。
【0058】
この活性化は、C1〜C4アルカン、例えばエタン、プロパン、ブタン、又はこれらの混合物によって、好適にはブタンによって行うことができる。この活性化は、250℃〜850℃の温度、好適には350〜650℃の温度で、0.5〜5barの圧力、好適には0.5〜2barの圧力で行う。GHSV(Gas Hourly Space Velocity)は通常、活性化の際に100〜4000h-1、好適には500〜2000h-1である。
【0059】
この活性化を行うために、原料流EがC1〜C4アルカン若しくはこれらの混合物をそれ自体既に含んでいてもよいし、又はC1〜C4アルカン若しくはこれらの混合物を原料流Eに添加してもよい。この活性化は、250℃〜650℃、好適には350〜550℃の温度、かつ0.5〜5bar、好適には0.5〜2barの圧力で行う。
【0060】
さらなる実施態様においてはまた、C1〜C4アルカンに加えて付加的に、さらに水素を加えることもできる。
【0061】
本発明の好ましい実施態様によれば、触媒をH2含有ガス流(このガス流は付加的に不活性ガス、例えばN2、He、Ne、及びArを含んでいてよい)によって活性化する。
【0062】
本発明によればC1〜C4脂肪族化合物の脱水素芳香族化は、触媒の存在下で、400〜1000℃、好ましくは500〜900℃、特に好ましくは600〜800℃、とりわけ700〜800℃の温度で、0.5〜100bar、好ましくは1〜30bar、特に好ましくは1〜10bar、とりわけ1〜5barの圧力で行う。本発明によれば、100〜10000h-1、好適には200〜3000h-1のGHSV(Gas Hourly Space Velocity)で変換を行う。
【0063】
1〜C4脂肪族化合物の脱水素芳香族化は工程a)に従って、基本的に、従来技術から公知のあらゆる反応器タイプで行うことができる。適切な反応器形態は、固定床反応器、放射流反応器、管型反応器、又は管束型反応器である。この場合、触媒は固定床として反応管内に存在するか、または反応管の管束中に存在する。触媒はまた、流動層、移動床、又は流動床として、相応するそのために適した反応器タイプで使用することができ、本発明による方法は、このように存在する触媒を用いて行うことができる。
【0064】
本発明によれば、触媒は希釈せずに、又は不活性材料と混合して使用することができる。不活性材料としては、反応帯域に存在する反応条件で不活性、すなわち反応しないあらゆる物質を用いることができる。不活性材料として適しているのは特に、ドープされていない触媒用担体であり、また不活性のゼオライト、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素などである。不活性材料の粒径は、触媒粒子の大きさの範囲内にある。
【0065】
本発明によれば好ましくは、希釈されていない触媒、又は不活性材料と混合された触媒が、固定床、移動床、又は流動床として存在する。特に好ましくは、触媒、若しくは触媒と不活性材料とからの混合物は、流動床として存在する。
【0066】
DHAMで使用される触媒は、本発明の実施態様によれば定期的に再生される。この再生は、当業者に公知の通常の方法により行うことができる。本発明によれば再生は還元条件下、水素含有ガス流を用いて行う。
【0067】
再生は600〜1000℃の温度、特に好ましくは700〜900℃の温度で、圧力は1bar〜30bar、好ましくは1bar〜15bar、特に好ましくは1〜10barで行う。
【0068】
1〜C4脂肪族化合物は、本発明によればH2を放出しながら芳香族化合物に変換される。よって生成物流Pは、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、スチレン、キシレン、及びナフタリンの群から選択される少なくとも1つの芳香族炭化水素を含有する。特に好ましくは、生成物流Pはベンゼンとトルエンを含む。生成物流はさらに、未反応のC1〜C4脂肪族化合物、生成した水素、及び原料流Eに含まれる不活性ガス、例えばN2、He、Ne、Ar、原料流Eに添加された物質、例えばH2、並びに既に原料流Eに存在する不純物を含む。
【0069】
本発明による方法の工程b)では、生成物流Eに含まれる水素の少なくとも一部を電気化学的に、気密な膜電極アセンブリによって分離し、ここで分離すべき水素は、プロトンの形で膜を通じて輸送される。電極の間に膜が配置された電極は、膜電極アセンブリ(MEA)と呼ばれる。生成物流Pは、膜の一方の側に沿って運ばれる。この側を、以下では「濃縮側」と呼ぶ。膜のもう一方の側を、以下では「透過側」と呼ぶ。この透過側で、部分工程b1)で発生した水素と、部分工程b2)で発生した水が排出される。本発明によればMEAは、少なくとも1つのプロトン選択透過性膜を有する。この膜は各側に少なくとも1つの電極触媒を有し、ここで本発明の範囲では、濃縮側に存在する電極触媒をアノード触媒と呼び、透過側に存在する電極触媒をカソ−ド触媒と呼ぶ。濃縮側では、水素がアノード触媒によって酸化されてプロトンになり、当該プロトンが膜を横断し、透過側でカソード触媒によって部分的に還元されて水素になり(b1))、また部分的には、電気エネルギーを発生させながら、酸素と反応して水になり(b2));この部分工程b2)では、このために透過側に沿って酸素含有流Oを運び、膜と接触させる。部分工程b1)では、膜を通じたプロトン輸送のために電気エネルギーを消費しなくてはならず、このエネルギーは、膜の両側に同じ電圧を印加することによって電極により供給される。
【0070】
膜と、濃縮側に存在する水素との良好な接触を保証するため、また分離された水素若しくは水が、透過側に良好に輸送されることを保証するため、電極層は通常、ガス分配層と接触している。これらは例えば、微細な流路のシステムから成る格子状の表面構造を有するプレート、又は多孔質材料、例えばフリース、織布、若しくは紙からの層である。ガス分配層と電極層との統一体は、一般的にガス拡散電極(GDE)と呼ばれる。ガス分配層により、濃縮側の分離すべき水素若しくは水は、膜及びアノード触媒に近い側に運ばれ、透過側では形成された水素の輸送が容易になる。
【0071】
発明の実施形態によって、アノードは同時にアノード触媒として、またカソードは同時にカソード触媒としても役立つことがある。しかしながら、アノードとアノード触媒、若しくはカソードとカソード触媒について、それぞれ異なる材料も使用できる。
【0072】
電極の製造には、当業者に公知の通常の材料が使用できる。電極は例えば、Pt、Pd、Cu、Ni、Fe、Ru、Co、Cr、Fe、Mn、V、W、炭化タングステン、Mo、炭化モリブデン、Zr、Rh、Ag、Ir、Au、Re、Y、Nb、電気伝導性の形の炭素、例えばカーボンブラック、黒鉛、及びナノチューブ、並びに上記元素の合金及び混合物を含む。
【0073】
アノードとカソードは同一の材料から、又は異なる材料から製造されていてよい。アノード触媒とカソード触媒は、同一の材料、又は異なる材料から選択されていてよい。アノード/カソードの組み合わせとして特に好ましいのは、Pt/Pt、Pd/Pd、Pt/Pd、Pd/Pt、Ni/Ni、Fe/Fe、及びNi/Ptである。
【0074】
電極触媒材料としては、通常の、当業者に公知の化合物及び元素が使用可能であり、これらは分枝状水素から原子の水素への乖離、水素からプロトンへの酸化、並びにプロトンから水素への還元を触媒可能なものである。適切なのは例えば、Pd、Pt、Cu、Ni、Fe、Ru、Co、Cr、Mn、V、W、炭化タングステン、Mo、炭化モリブデン、Zr、Rh、Ag、Ir、Au、Re、Y、Nb、並びにこれらの合金及び混合物であり、本発明によればPd及びPtが好ましい。電極触媒材料として挙げた前掲の元素及び化合物はまた、担持されて存在していてもよく、この際に好ましくは炭素を担体として使用する。
【0075】
本発明の好ましい実施態様によれば好ましくは、炭素を導電性材料含有電極として使用する。ここで炭素と電極触媒は好ましくは、多孔質担体、例えばフリース、織布、又は紙に施与する。ここで炭素は触媒と混合することができ、又はまず炭素を施与し、引き続き触媒を施与することができる。
【0076】
本発明のさらなる実施態様によれば、電極として使用される導電性材料と電極触媒は、膜に直接施与する。
【0077】
この膜は好ましくは、プレート又は管として形成されており、ここで通常の、従来技術から公知のガス混合物分別のための膜配置が使用でき、それは例えば管束型膜、又は差し込みプレート型膜(Steckplattenmembran)である。
【0078】
本発明により使用されるMEAは気密である。つまりMEAには実質的に、原子状又は分枝状の気体をMEAの一方の側から他方の側へと到達させる有孔性がない。MEAはさらに、気体を非選択的に、例えば吸着、膜への溶解、拡散、及び脱離によりMEAを通じて輸送可能なメカニズムも有さない。
【0079】
膜電極アセンブリ(MEA)の密度(Dichtigkeit)は、気密な膜によって、気密な電極及び/又は気密な電極触媒によって保証することができる。よって気密な電極としては例えば、薄い金属シートが使用でき、それは例えばPdシート、Pd−Agシート、又はPd−Cuシートである。
【0080】
本発明により使用される膜は、プロトンを選択的に透過する。つまりこの膜はとりわけ、電子透過性ではない。本発明によればこの膜のために、当業者に公知の、プロトン透過性膜を形成可能なあらゆる材料が使用できる。これに属するのは例えば、J. W. Phair及びS. P. S. BadwalによりIonics (2006) 12, 103-115pで説明されている材料である。プロトン選択透過性の膜、例えば燃料電池技術から公知の膜も、本発明により使用可能である。
【0081】
例えば、特定のヘテロポリ酸、例えばH3Sb3214・10H2O、H2Ti49・12H2O、及びHSbP28・10H2O;層状構造の酸性ジルコニウムのケイ酸塩、リン酸塩、及び亜リン酸塩、例えばK2ZrSi39、K2ZrSi39、α−Zr(HPO42・nH2O、γ−Zr(PO4)−(H2PO4)・2H2O、α−及びγ−Zrスルホフェニルホスホネート、又はスルホアリールホスホネート;非層状の酸化物水和物(Oxidhydrate)、例えばアンチモン酸(Sb25・2H2O)、V25・nH2O、ZrO2・nH2O、SnO2・nH2O、及びCe(HPO42・nH2Oが使用できる。さらに、オキソ酸、及び例えば硫酸基、セレン酸基、リン酸基、ヒ素酸基、硝酸基などを有する塩が使用できる。特に適しているのは、リン酸塩又は錯体のヘテロポリ酸をベースとするオキソアニオン系であり、例えばポリリン酸ガラス、ポリリン酸アルミニウム、ポリリン酸アンモニウム、及びポリリン酸組成物、例えばNH4PO3/(NH42SiP413、及びNH4PO3/TiP27である。さらに、酸化性材料が使用可能であり、例えば針ニッケル鉱(ブラウン)(Brownmillerite)、蛍石、及びアパタイト構造を有するリン酸塩、ピロクロロ鉱物、及びペロブスカイトである。
【0082】
ペロブスカイトは、基本組成がAB1-xx3-yであり、ここでMはドープに用いられる三価の希土類元素であり、yはペロブスカイト酸化物格子中における酸素不足量を表す。Aは例えば、Mg、Ca、Sr、及びBaから選択される。Bはとりわけ、Ce、Zr、及びTiから選択される。A、B、及びMについてはまた、相互に独立して異なる元素をそれぞれの群から選択できる。
【0083】
さらに、構造変性されたガラスが使用でき、例えばカルコゲニドガラス、PbO−SiO2、BaO−SiO2、及びCaO−SiO2が使用できる。
【0084】
気密なプロトン選択透過性膜の製造に適しているさらなる材料の種類は、ポリマー膜である。適切なポリマー膜は、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(S−PEEK)、スルホン化ポリベンゾイミダゾール(S−PBI)、及びスルホン化フルオロ炭化水素ポリマー(NAFION(登録商標))である。さらに、過フッ化(perforiert)ポリスルホン酸、スチレンベースのポリマー、ポリ(アリーレンエーテル)、ポリイミド、及びポリホスファゼンが使用できる。
【0085】
本発明によればプロトン選択透過性膜の材料として好ましくは、前掲のポリマー、及びホスフェートベースの化合物が使用できる。極めて特に好ましくは、ポリベンゾイミダゾール製の膜、とりわけポリベンゾイミダゾールとリン酸とをベースとするMEAが使用でき、これは例えばBASF SEからCeltec-P(登録商標)という名称で手に入る。
【0086】
ポリマー膜を使用する場合には通常、約0.5〜50体積%の水の存在下で膜の少なくとも片側、好ましくは膜の両側を湿らせる。濃縮側で原料流Eに、生成物流Pに、若しくは反応帯域に水を添加することにより濃度を調節することができ、また当該調節は、H2及び芳香族化合物を除去した生成物流を返送する際に行うことができる(当該生成物流は、既に行われた方法の循環から得られる一定量の水を既に含むものである)。透過側でも、通常は水の計量供給により必要な水濃度を供給するが、このことは部分工程b2)では必要ではない。
【0087】
同様に、セラミック膜を使用するのが好ましい。
【0088】
適切なプロトン透過性セラミックは例えば、Solid State lonics 125, (1999), 271-278; Journal of Power Sources 180, (2008), 15-22; lonics 12, (2006), 103-1 15; Jorunal of Power Sources 179 (2008) 92-95; Journal of Power Sources 176 (2008) 122-127、及びElectrochemistry Communications 10 (2008) 1005-1007に記載されている。
【0089】
プロトン透過性セラミック及び酸化物の例は、

である。
【0090】
本発明による方法の工程b)での水素の分離は、20〜1200℃の温度、好ましくは20〜800℃、特に好ましくは20〜500℃、及び極めて特に好ましくは70〜250℃の温度で行うことができる。ポリベンゾイミダゾールとリン酸がベースのMEAを用いる場合、この分離は好ましくは130〜200℃の温度で行う。
【0091】
本発明による方法の工程b)での水素分離は、好適には0.5〜10barの圧力、好適には1〜6bar、特に好適には1〜4barの圧力で行う。本発明の好ましい実施態様によれば、膜の濃縮側と透過側の間の圧力差は、1bar未満、好ましくは0.5bar未満であり、特に好ましくは圧力差が無い。
【0092】
本発明によれば、工程b)での水素分離は、RHE(水素−基準電極)に対して0.05〜2000mVの電圧、好ましくは100〜1500mV、特に好ましくは100〜900mV、及び極めて特に好ましくは100〜800mVで行う。
【0093】
部分工程b2)で使用される酸素含有流は、本発明によれば酸素を少なくとも15mol%、好ましくは少なくとも20mol%含む。好ましい実施態様では、酸素含有流Oとして空気、又は酸素を増やした空気を使用する。空気は通常、精製せずに用いる。
【0094】
酸素含有流Oの流速は、O2量が化学量論的にH2量の1〜10倍、好適には1.2〜5倍、特に好適には1.5〜2.5倍であるように選択する。
【0095】
本発明によれば工程b)において、DHAMで生成した水素のうち少なくとも一部を分離する。好ましくは少なくとも30%、特に好ましくは少なくとも50%、特に好ましくは少なくとも70%、及び極めて特に好ましくは少なくとも95%、とりわけ少なくとも98%を分離する。
【0096】
部分工程b1)により透過側で得られる水素は、C原子を1〜4固有する脂肪族化合物を、最大5mol%、好ましくは最大2mol%、及び特に好ましくは最大1mol%有する。さらに水素は、使用されたプロトン選択透過性膜によって、水を最大50体積%、好ましくは最大20体積%、特に好ましくは最大5体積%含むことができる。いくつかの種類の膜では水の存在が必須であり、それは例えば膜の湿潤が必要な特定のポリマー膜である。
【0097】
工程b)に記載の電気化学的な水素分離は、本発明によれば、工程a)が行われる反応帯域の外部で行う。
【0098】
生成物流Pに含まれる芳香族炭化水素の分離は、当業者に公知の方法によって行う。
【0099】
1つの実施例によれば、生成する芳香族炭化水素を、工程a)と工程b)との間で生成物流Pから分離する。本発明のさらなる実施態様によれば、生成した芳香族炭化水素は、工程b)の後で生成物流から分離する。
【0100】
本発明の特に好ましい実施態様では、芳香族炭化水素、及び少なくとも一部の水素を分離した後、生成物流Pを方法に返送し、生成物流Pは原料流Eに、又は直接、DHAMのための反応帯域に返送する。本発明によれば好ましくは、返送の前にできる限り多くの水素を分離する。と言うのも、水素はDHAMの反応平衡を原料側に移動させるからである。返送された生成物流Pは、水素を好適には0〜2mol%、好ましくは0〜1mol%含む。
【0101】
NH3溶液で二度処理したゼオライトをベースとする前述の触媒は、従来技術で通常行われる、原料流への水素添加無しで、長い寿命を有し、このため、できる限り多くの生成水素を分離した後に生成物流Pを返送する際、DHAM触媒として用いるのに特に良好に適している。
【0102】
部分工程b1)で分離された水素は更に使用する前に、さらに乾燥させることができ、この乾燥を行うのはとりわけ、湿らせる必要があるポリマー膜を工程b)で使用する場合である。
【0103】
水素の少なくとも一部を工程b)において、本発明によれば部分工程b1)及びb2)の後でそれぞれ部分的に分離する。これはつまり、水素の一部を水素として、残分の水素を水として、電気エネルギーを発生させながら分離するということである。生成物流Pに含まれている水素を、部分工程b1)及びb2)の後でそれぞれどれくらい分離するかは、使用者が必要に応じて適合可能である。本発明の好ましい実施態様によれば、部分工程b1)における水素分離に必要となるエネルギーを少なくともカバーできる程度の電流が発生可能な量の水素を、b2)で分離する。すなわち、部分工程b1)で水素分離に必要な電流が、部分工程b2)によって発生するということである。
【0104】
生成物流Pからの水素分離は、空間的に分離して行うのが好ましい。なぜならば、酸素が存在すると透過側では、通常プロトンが直接反応して水素になるからである。透過側で酸素含有流Oと接触させた生成物流Pを、例えばまず順次MEAに沿って導入することができ、これにより水素の一部が水として分離される。引き続き、電圧が印加されているMEAに沿って生成物流Pを運ぶことができ、これにより水素は水素として分離される。2つの部分工程b1)とb2)とを空間的に分離することによってまた、生成物流Pを例えば2つの対向する膜の間に通すことができ、この2つの膜のうち、透過側では酸素含有流Oを接触させ、もう一方の側では電圧をかける。
【0105】
実施例:
実施例1及び2では、部分工程b1)による水素分離が示されており、実施例3では、部分工程b2)による分離が示されている。
【0106】
実施例1:
リン酸で充填されたポリベンゾイミダゾールがベースの膜を備える、活性面積が5cm2の膜電極アセンブリを使用した。この膜はCeltec P(登録商標)という名称で、BASF Fuel Cell GmbHから得られる。アノード及びカソードについてはそれぞれガス拡散電極を使用したのだが、これはELAT(登録商標)という名称で同様にBASF Fuel Cell GmbHから得られるものである。アノードもカソードも、それぞれ白金を1mg/cm2有していた。
【0107】
実験は160℃の稼働温度で、大気圧下で行った。気体混合物は、分離試験のために事前に混合し、この気体混合物は、水素を11.40mol%、メタンを88.10mol%、エテンを5000mol ppm、ベンゼンを100mol ppm、エタンを50mol ppm含んでいた。様々なガス流量について、アノード側でそれぞれガス流量を一定に保ちながら、電圧を変えた。透過側で得られるガス混合物をガスクロマトグラフィーで分析し、電流密度を測った。表1及び2には、得られた水素変換率、及び電流密度が示されており、ここでH2変換率とは、アノードガス流に含まれる水素に対して、分離されたH2量である。
【0108】
【表1】

【0109】
【表2】

【0110】
実施例2
試験パラメータ及び試験装置は、実施例1と同様だが、その違いは、カソ−ドがPtではなく、Pdを1mg/cm2含んでいたことである。その結果は表3及び表4にまとめられている。
【0111】
【表3】

【0112】
【表4】

【0113】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
C原子を1〜4個有する脂肪族炭化水素を、芳香族炭化水素に変換するための方法であって、以下の工程a)及びb);
a)C原子を1〜4個有する脂肪族炭化水素を少なくとも1つ含有する原料流Eを、触媒の存在下、非酸化性条件で、芳香族炭化水素及び水素を含有する生成物流Pに変換する工程、及び
b)前記変換の際に生じた水素の少なくとも一部を、生成物流Pから、気密な膜電極アセンブリによって電気化学的に分離する工程、ここで当該アセンブリは、プロトン選択透過性の少なくとも1つの膜と、当該膜の各側に少なくとも1つの電極触媒とを有するものであり、当該膜の濃縮側でアノード触媒によって水素の少なくとも一部を酸化してプロトンにし、当該プロトンが当該膜を横断後に、透過側でカソード触媒によって、
b1)電圧を印加して、当該プロトンの一部を還元して水素にし、
b2)電流を発生させながら、当該プロトンの一部を酸素と反応させて水にし、
ここで当該酸素は、前記膜の透過側で接触させた酸素含有流Oに由来するものである、
を有する、前記方法。
【請求項2】
生成した芳香族炭化水素を、前記工程a)とb)との間で、又は前記工程b)の後で生成物流Pから分離することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記生成物流Pを、水素の少なくとも一部、及び芳香族炭化水素を分離した後、前記方法に返送することを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記b2)で発生した電流の少なくとも一部を、前記b1)で使用することを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記b1)で水素を分離するために必要な電流を、前記b2)によって発生させることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記工程b)を、20〜1200℃の温度で行うことを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記酸素含有流Oが、酸素を少なくとも15mol%含むことを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記酸素含有流Oとして、空気を使用することを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記工程b)を、0.5〜10barの圧力で行うことを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記工程b)において、濃縮側と透過側に同じ圧力が存在することを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記工程b1)を、水素基準電極に対して0.05〜2000mVの電圧で行うことを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記プロトン選択透過性の膜として、ポリマー膜及びセラミック膜の群から選択される膜を使用することを特徴とする、請求項1から11までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記電極として、ガス拡散電極を使用することを特徴とする、請求項1から12までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記原料流Eが、メタンを少なくとも50mol%含むことを特徴とする、請求項1から13までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記原料流Eが、天然ガスに由来することを特徴とする、請求項1から14までのいずれか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2012−522821(P2012−522821A)
【公表日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−503968(P2012−503968)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【国際出願番号】PCT/EP2010/054155
【国際公開番号】WO2010/115768
【国際公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】