水素ガス生成装置及び水素ガス生成方法
【課題】装置を小型に維持しながら、ユースポイントでの水素需要量が大きく変動する場合でも脱水素単通転化率を安定的に高く保ち、DSS等の運転オン・オフを含む非定常運転を行なう場合の水素供給が安定的に開始又は停止される水素ガス生成装置を提供する。
【解決手段】炭素繊維担持Pt−W修飾Ni-Ruバイメタリック触媒(高活性複合触媒)が配設された高活性反応器10と、炭素繊維担持Pt−Re修飾Ni-Ruバイメタリック触媒(高転化複合触媒)が配設された高転化反応器20と、高活性反応器10及び高転化反応器20で脱水素生成された水素含有ガスが供給され、一時的に水素含有ガスの状態で水素を貯留する水素貯留タンク30と、水素貯留タンク30から供給された水素含有ガスから水素ガス、メチルシクロヘキサンを含む液相混合物、及び液相のトルエンを分離し、前記液相混合物を高転化反応器20に供給する分離器40とを備えている。
【解決手段】炭素繊維担持Pt−W修飾Ni-Ruバイメタリック触媒(高活性複合触媒)が配設された高活性反応器10と、炭素繊維担持Pt−Re修飾Ni-Ruバイメタリック触媒(高転化複合触媒)が配設された高転化反応器20と、高活性反応器10及び高転化反応器20で脱水素生成された水素含有ガスが供給され、一時的に水素含有ガスの状態で水素を貯留する水素貯留タンク30と、水素貯留タンク30から供給された水素含有ガスから水素ガス、メチルシクロヘキサンを含む液相混合物、及び液相のトルエンを分離し、前記液相混合物を高転化反応器20に供給する分離器40とを備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素化芳香族化合物の脱水素反応を利用した水素ガス生成装置及び水素ガス生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境適性が重要視される中で、燃料として水素を用いる技術が注目されている。ところが、水素を安定して供給することができる供給源としては、液化水素や圧縮水素が一般的であり、安全面や法規面などの点で課題が山積している。
【0003】
一方、水素を燃料とする燃料電池や水素エンジンなどでは、水素の燃焼や反応で熱が放出されるが、この熱量を化学エネルギーに変換できれば、熱量を水素の生成、具体的には吸熱反応である炭化水素からの脱水素反応に利用することが可能であり、燃料電池等からの廃熱を有効利用したエネルギー利用効率の高いシステムの構築が可能になる。
【0004】
熱により水素生成する方法として、例えば原燃料として炭化水素を用い、これを脱水素して水素ガスを得る方法が開示されている(例えば、特許文献1〜2参照)。例えばデカリンなどの脂環式炭化水素は、常温下で取り扱いやすいことから、原燃料としての使用が期待されている。
【0005】
また、脱水素反応を利用した技術として、高収率でかつ安定的に水素を取り出す等の観点から、脱水素反応の反応温度300℃で水素化芳香族類の平衡転化率が90%以上である脱水素触媒を充填した脱水素反応器を備えた水素供給装置が開示されている(例えば、特許文献3参照)。さらに、供給された熱をカスケード利用して熱の利用効率をより高めようとする技術に関する開示もある(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−255503号公報
【特許文献2】特開2003−260360号公報
【特許文献3】特開2005−216774号公報
【特許文献4】特開2006−104000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、比較的多い流量の炭化水素から脱水素する場合に、脱水素反応活性の高い触媒を選択すればある程度の水素生成効率は得られるが、供給された燃料に対して高い転化率を確保することは難しく、高転化を維持するためには反応場の規模を用意せざるを得ないとされていた。
【0008】
また、水素の要求量(水素需要)は、装置の使用態様により様々であり、定常的に一定量の水素供給が行なわれる使用態様だけでなく、例えば運転のオン・オフを含めた非定常運転が日常的に行なわれるような使用態様に対しても、安定的に水素の供給の開始や停止が行なえる性能を満たしていることが望まれる。
【0009】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、装置を小型に維持しながら、ユースポイントでの水素需要量が大きく変動する場合でも脱水素単通転化率(one-pass conversion)を安定的に高く保ち、DSS(Daily Start-Up Shutdown:以下同様)等の運転オン・オフを含む非定常運転を行なう場合の水素供給が安定的に開始又は停止される水素ガス生成装置及び水素ガス生成方法を提供することを目的とし、該目的を達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、高活性触媒を備え、例えばメチルシクロヘキサン等の水素化芳香族化合物の供給流量が比較的多い脱水素反応器と、該供給流量が比較的少なく高転化触媒を備えた脱水素反応器とを配置し、二つの脱水素反応器から排出される気相成分はともに分離器へ導かれ、その塔頂から水素を排出すると同時に、塔底からは、その水素に量論対応する芳香族生成物(メチルシクロヘキサンの場合、排出する水素の1/3モルのトルエン)を抜き出す一方、これら脱水素反応器で生成された水素含有ガス中の未反応の水素化芳香族化合物を分離し高転化複合金属触媒を備えた高転化反応器に還流して再び脱水素反応に供することによって単通転化率100%の達成を図ると共に、脱水素生成した水素ガスは排出前に一旦、所定の気相空間に貯留される構成にすると、小型ながら水素生成効率に優れ、運転のオン・オフを含む非定常運転が行なわれる状況下でも安定的に水素の供給、停止が可能になるとの知見を得、かかる知見に基づいて達成されたものである。
これは、給排される水素化芳香族化合物やその脱水素生成物の流量、貯留される水素含有ガスの圧力をモニターして最適な脱水素反応が運転状況に依らず選択されるように制御することで好適に行なえる。
【0011】
前記目的を達成するために、第1の発明である水素ガス生成装置は、水素化芳香族化合物を250℃〜300℃の温度領域で脱水素反応させたときの水素の空時収率が80Nm3-H2/m3-cat・h(「m3-cat」は触媒容積を表し、「h」は時間(hour)を表す。以下同様)以上の高活性複合金属触媒(好ましくは、W、Ni、Pd、Ir、Mn及びRuから選ばれる少なくとも1種とPtとを含む複合金属粒子が担持された複合金属触媒)を備え、供給された液相の水素化芳香族化合物を前記高活性複合金属触媒の過熱液膜状態下、脱水素反応させて水素含有ガスを生成する第1の脱水素反応器と、Re、Ni、Pd、Ir、Mn及びRuから選ばれる少なくとも一種とPtとを含む複合金属粒子が担持された高転化複合金属触媒を備え、供給された水素化芳香族化合物及びその脱水素生成物を含む液相混合物を前記高転化複合金属触媒の過熱液膜状態下、脱水素反応させて水素含有ガスを生成する第2の脱水素反応器と、第1の脱水素反応器及び第2の脱水素反応器で生成された水素含有ガスが給排されると共に、供給された水素含有ガスの状態で水素を一時的に貯留する水素貯留手段と、水素貯留手段から供給された前記水素含有ガスから、(1)水素ガスと(2)未反応の前記水素化芳香族化合物及び不飽和芳香族化合物を含む液相混合物と(3)液相の不飽和芳香族化合物とを分離すると共に、分離された液相混合物を第2の脱水素反応器に供給する分離手段と、を設けて構成したものである。
【0012】
なお、本明細書中において、水素化芳香族化合物は、脱水素反応させることにより水素生成が可能な飽和環状化合物であり、例えばメチルシクロヘキサン、デカリン、メチルデカリン、テトラリン、メチルテトラリン、ビシクロへキシル、シクロへキシルベンゼン等が含まれる。また、不飽和芳香族化合物は、水素化芳香族化合物を脱水素反応させて生成された不飽和環状化合物であり、例えばトルエン、ナフタレン、メチルナフタレン、ビフェニル等が含まれる。
【0013】
第1の発明においては、例えばメチルシクロヘキサン等の水素化芳香族化合物が比較的多く供給される第1の脱水素反応器に、水素化芳香族化合物の脱水素反応活性が高い高活性複合金属触媒を配し、液相の水素化芳香族化合物を高活性複合金属触媒が過熱液膜状態となるように供給し脱水素反応させることで、脱水素反応速度を高く保つと共に、第1の脱水素反応器での脱水素反応に寄与せずに残存した水素化芳香族化合物の脱水素反応を促すため、脱水素反応後の水素化芳香族化合物含有混合物(液相混合物)を再反応に供する第2の脱水素反応器を配設し、この反応器では水素化芳香族化合物の供給流量が比較的少ないものの、所定の貴金属を含む高転化複合金属触媒を配して過熱液膜状態を形成することで、水素化芳香族化合物の脱水素転化率をできる限り100%近くにまで向上させるようにする。第2の脱水素反応器への水素化芳香族化合物の液相供給は、一旦脱水素反応で生成された混合ガスを還流することで行なわれる。更に、脱水素生成した水素含有ガスを一時的に貯留することで、水素ガスが常に装置内で蓄えられている状態を維持する。これにより、脱水素反応の反応場を小さく維持しながらも、迅速に水素化反応を行なうことが可能になり、特にDSS等の運転オン・オフを含む非定常運転が生じる運転条件下における水素の供給開始が安定的に行なわれる。
本発明の目的達成の観点からは、触媒中(好ましくは各触媒を構成する多孔性高表面積担体)のミクロ細孔を液相の水素化芳香族化合物で充填しつつそこに液膜吸着した水素化芳香族化合物が沸点よりも充分に高い温度で触媒層の背後から加熱され、沸騰・蒸発する一方、液相のままの表面拡散により触媒金属粒子上に到達し水素分子を生成させると同時に、触媒層の厚み方向における温度勾配のもたらす激しい発泡で生成物吸着種の触媒活性サイトからの不可逆的離脱を促し、空いたサイトの表面密度を高く保持する。その結果、水素化芳香族化合物の脱水素反応を沸点で化学平衡の制約を受けず、かつ速やかに進行させる「過熱液膜状態」を定常的に実現させなければならない。
【0014】
第1の発明に係る水素ガス生成装置は、水素貯留手段に、水素含有ガスが貯留されるガス貯留室のガス圧又は水素濃度を検出する検出手段が備えられ、更に、前記検出手段で検出されたガス圧又は水素濃度が所定の圧力又は水素濃度の範囲に維持されるように、第1の脱水素反応器に供給される前記水素化芳香族化合物の流量、及び/又は、水素貯留手段から排出される水素含有ガスの流量を制御する制御手段を備えていることが好ましい。
【0015】
脱水素生成された水素含有ガスの量を監視する指標として、検出手段により水素含有ガスが貯留されるガス貯留室のガス圧或いはガス圧と水素濃度との両方を検出し、得られる検出値に基づいて、水素貯留手段に蓄えられる水素含有ガスの量が制御されることで、水素ガスの貯留量が制御される。これにより、非定常運転に具えて、要求される水素ガスの供給が可能になる。
【0016】
また、第1の発明は、第1の脱水素反応器に供給される水素化芳香族化合物の流量を検出する第1の流量検出手段と、分離手段から排出される(1)水素ガスの流量を検出する第2の流量検出手段、及び/又は、分離手段から排出される(3)液相の不飽和芳香族化合物の流量を検出する第3の流量検出手段と、を更に設け、制御手段において、検出された水素化芳香族化合物の流量、並びに検出された(1)水素ガス及び/又は(3)液相の不飽和芳香族化合物の流量に基づいて制御が行なわれる態様が好ましい。
【0017】
水素化芳香族化合物の流量により水素生成を制御でき、液相の不飽和芳香族化合物の流量により要求水素量を取得することができる。従って、水素需要の変動に即応して、水素生成の停止、水素の外部供給の開始又は抑制をコントロールすることができる。
すなわち、「水素生成量×1/3」モル相当の不飽和芳香族化合物(例えばトルエン)を、脱水素生成した混合ガスから分離除去し、この不飽和芳香族化合物と同モル量の水素化芳香族化合物(例えばメチルシクロヘキサン)を第1の脱水素反応器に供給することにより、外部への水素供給量は常に水素要求量(水素需要)に合致する。例えば、熱供給が継続している状況下で水素生成を停止したいときには、水素化芳香族化合物(例えばメチルシクロヘキサン)の供給を止める(流量を0(ゼロ)にする)と共に、不飽和芳香族化合物(例えばトルエン)の排出を止めることで、水素貯留手段に蓄えられる水素含有ガスの量を制御することができる。また、水素生成速度を抑制したいときには、分離器から第2の脱水素反応器に還流する供給液量を増やし、不飽和芳香族化合物(例えばトルエン)の含有率の高い留分を還流させるようにすればよい。
【0018】
第1の脱水素反応器及び第2の脱水素反応器における各触媒は、過熱液膜状態として、高活性複合金属触媒又は高転化複合金属触媒の質量に対する、水素化芳香族化合物を含む液相量の比率(液相量/触媒量[質量比])が1〜4の範囲である状態を形成していることが好ましい。触媒がこのような過熱液膜状態にあることにより、触媒温度と水素化芳香族化合物(基質;本実施形態ではメチルシクロヘキサン)の沸点との間には温度差があるために、触媒層内に温度勾配が形成され、脱水素反応させるために供給される液相水素化芳香族化合物(基質)は触媒に接した時点で直ぐに脱水素反応し、近傍で併発的に形成されている気泡中に生成物である水素とトルエン(芳香族生成物)並びに未反応のメチルシクロヘキサン(基質)が気化し気泡自体を成長させ、さらに気液界面へと離脱、そこで破砕され気泡成分は気相に放出される。すなわち、触媒を適度に湿潤させるような量の液相の水素化芳香族化合物が、触媒表面で沸騰状態で存在している。気相にある水素は沸騰する液相へ戻ることはできず、逆反応の芳香族水素化は阻止される。他方、脱離のあとに生じた触媒表面の空いた活性サイトは、液相基質に接し直ぐに脱水素反応を進行させるので、激しく沸騰させればさせるほど、言い換えれば、過熱液膜状態にある触媒の層内温度勾配が大きければ大きいほど、水素化芳香族化合物の転化率をより向上させることができる。
【0019】
第1の脱水素反応器における高活性複合金属触媒は、炭素材料を含む担体と、該担体に担持され、W、Ni、Pd、Ir、Mn、及びRuから選ばれる少なくとも一つとPtとを含む複合金属粒子とを含む触媒が好ましい。この触媒は、担体が炭素材料であることで疎水性を示すので、液相の水素化芳香族化合物(例えばメチルシクロヘキサン)の担体への捕捉吸着と細孔内貯留を容易にし、さらに近傍に散在するナノサイズ触媒粒子への表面移動と接触頻度を高めるのに適している。
また、同様の理由から、第2の脱水素反応器における高転化複合金属触媒は、Re、Ni、Pd、Ir、Mn及びRuから選ばれる少なくとも一種とPtとを含む複合金属粒子が、炭素材料を含む担体に担持されている場合が好ましい。
炭素材料を含む担体中でも、特にミクロ細孔(1〜3nm径)に富む多孔性高表面積活性炭繊維でつくられた繊布もしくはフェルトであることが好ましい。
【0020】
第1の発明は、更に、水素生成停止要求があった場合に、検出手段により検出されたガス貯留室のガス圧、或いはガス圧と水素濃度との両方が、所定の圧力範囲及び水素濃度範囲を満足するか否かを判定する判定手段を備え、ガス圧が所定の圧力範囲を満足しない、或いはガス圧と水素濃度との両方が所定の圧力範囲及び水素濃度範囲を満足しないときには、第1の脱水素反応器への液相の水素化芳香族化合物の供給、及び水素貯留手段からの水素含有ガスの排出の少なくとも一方が開始されるように制御されることが好ましい。
【0021】
上記において、ガス圧と水素濃度との両方が所定の圧力範囲及び水素濃度範囲を満足するか否かを判定する場合、ガス圧と水素濃度との積の値が所定の閾値以上であるか否かに基づいて判定することができる。
【0022】
水素生成停止要求があった場合は、運転停止するにあたり次に運転再開された場合に装置内に貯留されている水素含有ガスの量が少ないと水素供給能を維持できないおそれがある。そのため、ガス貯留室のガス圧が所定の圧力範囲を満足しない、或いはガス圧と水素濃度との両方が所定の圧力範囲及び水素濃度範囲を満たさないときには、水素含有ガスの貯留量が不足するため、第1の脱水素反応器への供給を増やすか、水素貯留手段から分離器に供給して第2の脱水素反応器に供される供給量を増やすことで、水素貯留手段における貯留量を保持することができる。
【0023】
第2の発明に係る水素ガス生成方法においても、第1の発明に係る水素ガス生成装置と共通する構成をとることにより、脱水素反応の反応場を小さく維持しながらも、高効率に脱水素反応を行なうことが可能になり、特にDSS等の運転オン・オフを含む非定常運転が生じる運転条件下における水素の供給開始又は停止が安定的に行なわれる。
【0024】
第2の発明においては、上記第1の発明のように、脱水素生成された水素含有ガスの量を監視する指標として、水素含有ガスが貯留されるガス貯留室のガス圧或いはガス圧と水素濃度との両方を検出し、得られる検出値に基づいて、水素貯留手段に蓄えられる水素含有ガスの量が制御されることで、水素ガスの貯留量が制御される。これにより、非定常運転に具えて、要求される水素ガスの供給が可能になる。
【0025】
また更に、第2の発明は、第1の発明と同様に水素化芳香族化合物の流量、並びに(1)水素ガス及び/又は(3)液相の不飽和芳香族化合物の流量に基づいて制御される態様が好ましい。水素化芳香族化合物の流量により水素生成を制御でき、液相の不飽和芳香族化合物の流量により要求水素量を取得することができる。従って、水素需要の変動に即応して、水素生成の停止、水素の外部供給の開始又は抑制をコントロールすることが可能である。
【0026】
本発明においては、小型でありながら、水素生成効率が高く、運転オン・オフを含む非定常運転、すなわち要求される水素量が大きく変動する場合にも安定的に水素供給の開始、停止が行なわれる水素供給システムを構築することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、装置を小型に維持しながら、ユースポイントでの水素需要量が大きく変動する場合でも脱水素単通転化率(one-pass conversion)を安定的に高く保ち、DSS(Daily Start-Up Shutdown)等の運転オン・オフを含む非定常運転を行なう場合の水素供給を安定的に開始又は停止する水素ガス生成装置及び水素ガス生成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1実施形態に係る水素ガス生成装置の構成例を示す概略構成図である。
【図2】メチルシクロヘキサンの液相脱水素反応の単流転化率(touch-and-go conversion)と触媒層温度との関係を示すグラフである。
【図3】(A)は基質供給速度と単流転化率との関係を示すグラフであり、(B)は基質供給速度と水素生成速度との関係を示すグラフである。
【図4】本発明の第1実施形態に係る水素ガス生成装置で実施される水素生成に関わる制御ルーチンを示す流れ図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係る高活性・高転化併用処理ルーチンを示す流れ図である。
【図6】本発明の第1実施形態に係る高転化処理ルーチンを示す流れ図である。
【図7】触媒を複合化したときの水素生成速度をその生成量によりPt単体と対比して示すグラフである。
【図8】Ni−Ru触媒とPtとの複合化による転化率の向上効果をPt単独及びNi−Ru単独と対比して示すグラフであり、a)はPt量が0.2wt%の場合を示し、b)はPt量が1wt%の場合を示す。
【図9】(A)は転化率が100%に到達するまでの推移を温度を変えて示すグラフであり、(B)は水素生成するときの速度定数の温度依存性を示すグラフである。
【図10】メチルシクロヘキサンの供給量と転化率及び水素生成量との関係を示すグラフであり、(A)は供給量を0.4mlとし、(B)は供給量を0.8mlとし、(C)は供給量を1.2mlとした場合である。
【図11】本発明の第2実施形態に係る水素ガス生成装置の構成例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して、本発明の水素ガス生成装置の実施形態について詳細に説明すると共に、該説明を通じて本発明の水素ガス生成方法の詳細についても具体的に説明する。なお、下記の実施形態では、脱水素用の燃料として用いる水素化芳香族化合物としてメチルシクロヘキサンを用いた場合を中心に説明する。
【0030】
(第1実施形態)
本発明の水素ガス生成装置の第1実施形態を図1〜図6を参照して説明する。本実施形態の水素ガス生成装置は、高活性複合金属触媒として炭素繊維担持Pt−W修飾Ni-Ruバイメタリック触媒(以下、「炭素繊維担持Pt−W系触媒」と称する。)を、高転化複合金属触媒として炭素繊維担持Pt−Re修飾Ni-Ruバイメタリック触媒(以下、「炭素繊維担持Pt−Re系触媒」と称する。)をそれぞれ用いた2基の脱水素反応器を搭載し、各触媒の加熱を図示しない固体酸化物型燃料電池(以下、「SOFC」と略記する。)の廃熱を利用して行なうように構成したものである。
【0031】
図1に示すように、本実施形態は、高活性複合金属触媒である炭素繊維担持Pt−W系触媒を備えた高活性反応器10と、高転化複合金属触媒である炭素繊維担持Pt−Re系触媒を備えた高転化反応器20と、水素含有ガスを一時的に貯留するバッファー機能を具えた水素貯留タンク30と、脱水素生成された水素含有ガス中の成分を気液分離する分離器40と、水素ガスの生成や外部への供給などを制御する制御装置50とを備えている。
高活性反応器10及び高転化反応器20中の触媒は、化学反応機能の呼称としての触媒に加えて、空間的広がりを持つ物質体としての触媒を念頭に特に「触媒層」ということがある。
【0032】
高活性反応器10は、炭素繊維担持Pt−W系触媒(高活性複合金属触媒)13が内部に配設された反応室11と、炭素繊維担持Pt−W系触媒13を加熱するための加熱器15とを設けて構成されており、加熱器15で加熱された炭素繊維担持Pt−W系触媒13にメチルシクロヘキサンが供給されると、脱水素反応を生じて水素ガスを含む水素含有ガスが生成されるようになっている。反応室11では、過熱液膜状態にある触媒で水素が生成されると、沸騰加熱下、激しく発生する気泡内に、吸着水素、基質が触媒表面から気相成分として加わり、成長した気泡が離脱し気液界面に到達して破砕すると、再び水素が液相に入ることはない。水素の沸騰液相への溶解は、熱力学的に許されないからである。
【0033】
炭素繊維担持Pt−W系触媒13は、高表面積活性炭繊維織布(炭素繊維)にナノサイズに微粒子化した白金−タングステン複合粒子(Pt−W複合粒子)が担持された、メチルシクロヘキサンの脱水素活性が高いPt−W系触媒(炭素繊維担持Pt−W修飾Ni-Ruバイメタリック触媒)であり、反応室11の底部、側部及び内部に複数の伝熱板及び/又は伝熱管を配置し、水素化芳香族化合物の沸点を大きく上回る温度で外部加熱するよう操作することで、吸熱的な脱水素反応熱並びに基質と生成物の脱離、蒸発熱を補償しつつ触媒層(炭素繊維担持Pt−W系触媒13)の過熱液膜状態を持続的に保持するように、熱流を制御、確保してある。担体にミクロ細孔(1〜3nm径)に富む多孔性高表面積活性炭繊維が用いられるので、過熱液膜状態が形成されていることにより、ミクロ細孔内に貯留された液相基質は毛細管現象の結果として蒸発し難くなり、液相のまま触媒粒子表面へ移動するため、脱水素反応が良好に進行する。
【0034】
高活性複合金属触媒は、水素化芳香族化合物(本実施形態ではメチルシクロヘキサン)を250℃〜300℃の温度領域で脱水素反応させたときの水素の空時収率が80Nm3-H2/m3-cat・h以上となる触媒であり、比較的多い流量で供給されたときにも効率良く脱水素反応を行なうことができる。高活性複合金属触媒は複数金属種のリガンド効果もしくはアンサンブル効果によって、表面活性サイトが水素化芳香族化合物の飽和炭化水素C−H結合を切断するα−解離能力と、α−解離で生じたアルキル吸着種の隣接位C−H結合を切断するβ−解離能力との二つを兼ね備えるようになり、C−H結合解離水素及び生成芳香環を触媒表面上に速やかに生成させると考えられる。
【0035】
この点に関して、触媒組成を炭素担持Ptを基準に、炭素担持Pt−Ir、炭素担持Pt−W、炭素担持Pt−Reと変えたときの反応時間に対する水素生成量の関係を図7に示す。ここでは、脱水素用の燃料としてデカリンを用いた場合を例に示す。
図7に示されるように、過熱液膜状態にある炭素担持Pt触媒が210℃加熱でデカリンをナフタレンと水素にする反応の初速度は27.8mmol/hであり、その初速度は、Ir、W、又はReをPtに複合させることによって2.0倍ないし3.4倍にまで向上し、それに伴なって水素生成量を飛躍的向上させることができる。これは、デカリン以外のメチルシクロヘキサン等を用いた場合も同様である。
尚、水素生成速度の向上は空時収率の増大をもたらすが、この空時収率の増大は、必要とする触媒量の軽減が図れ、装置をよりコンパクトにする効果、あるいは、処理すべき水素化芳香族化合物の供給流量(LHSV)の増大が図れ、装置をより高性能のものにする効果、が期待される。
【0036】
触媒の空時収率(Space Time Yield;STY)は、触媒の単位容積(m3)に対する時間(Hour)あたりの生成水素容積(標準状態でのm3)を表し、触媒担体の種類、嵩密度、又は使用量、触媒金属種の成分もしくは担持量、あるいは、反応基質(水素化芳香族化合物)の種類又は供給流量に依存し、一般に高い反応温度ほど活性向上に照応して大きくなる。
尚、反応基質の供給流量(時間当たりの液相空間速度、Liquid Hourly Space Velocity;LHSV)は、触媒の単位容積(m3)に対する時間当たりの液相基質供給容積(m3)を表し、触媒の空時収率が高まるほど大きくなる。
空時収率は大きいほど、装置のコンパクト性もしくは基質処理の性能面から好ましいが、装置の利用目的、コスト、供給される排熱の温度と熱流量などに基づいて設定される。供給基質の液相時間当たり空間速度は、同じ装置なら大きいほど好ましいが、一般には、目的とする水素生成の量的規模と時間特性に基づいて設定される。
ここで、触媒の空時収率は、流通法反応器において生成する水素の、触媒容積(m3)当りの標準状態換算流量(Nm3/h)として求められる。
【0037】
このPt−W触媒以外にも、例えば高表面積活性炭繊維織布にナノサイズに微粒子化した白金−イリジウム修飾バイメタリック複合粒子が担持されたPt−Ir系触媒なども好適に使用することができる。また、触媒金属粒子には、上記のほか、例えばPt−Pd系複合金属等の貴金属系の複合金属粒子を選択して用いることができる。
例えば多孔性高表面積活性炭顆粒担体を用い共含浸により調製したNi−Ru複合触媒では、メチルシクロヘキサン、デカリン、ジシクロヘキシルのような飽和炭化水素に対する脱水素活性をみる限りPt触媒に劣る傾向がみられるが、テトラリンやシクロヘキシルベンゼンのような一部に芳香環を残す程度の水素化芳香族化合物に対してはその差は小さく、芳香環配位吸着種のイプソ位炭素ベータ位のC−H結合開裂であれば充分に高い活性を持つことが分かっている。そこで、飽和炭化水素C−H結合のα位開裂を受け持つPt金属種でNi−Ru複合触媒を修飾するため、上記のNi−Ru複合触媒に対して更にジメチルシクロオクタジエニル白金(II)錯体で複合処理を行なったところ、図8に示すように、得られたPt/Ni−Ru触媒のメチルシクロヘキサン脱水素活性は、Pt成分単独あるいはNi−Ru複合成分単独に比べ、はるかに大きな値を与えた。即ち、
水素化芳香族化合物の脱水素反応には、多孔性高表面積炭素単体にPtと他の金属との複合金属を担持した触媒が好ましい。
具体的には、高活性な脱水素反応が期待できる点で、PtとW、Ni、Pd、Ir、Mn及びRuから選ばれる少なくとも1種との2種類の金属が複合化されたバイメタリック触媒が好ましい。
【0038】
なお、高活性複合金属触媒が高活性であることは、触媒金属の成分比率のみならず、複合金属をPtと共に構成するW、Ni等の金属の種類により決定される。
【0039】
また、担体としては、過熱液膜状態を形成して高活性に脱水素反応させる観点から、炭素材料を含む担体が望ましく、多孔性高表面積炭素担体が好ましい。
担体の細孔径としては、1.5nm以上3nm以下の範囲であることが好ましく、またBET比表面積については1000m2/g以上であることが好ましい。なお、BET法は、固体粒子の表面に液体窒素温度で分圧を変えつつ窒素ガスを吸着させ、その吸着量から比表面積を求める方法であり、具体的にはJIS K 8830に準拠した方法で測定される。
担体の好ましい例としては、多孔性高表面積活性炭担体(例えば、関西熱化学(株)製のMaxsorb(商品名)、KOH賦活、BET比表面積:3100m2/g、細孔径:2.0nm、顆粒径:7μm、嵩密度:3.3ml/g)、多孔性高表面積活性炭繊維織布(クラレケミカル(株)製、ACC、PAN延伸炭化、BET比表面積:1834m2/g、細孔径:1.5nm(スリット状)、嵩密度:3.3ml/g)等を挙げることができる。このような多孔性高表面積活性炭担体、多孔性高表面積活性炭繊維織布は、本発明における過熱液膜状態を形成してこれを保持し、脱水素反応が良好に行なえる点で特に好ましい。
【0040】
触媒層(炭素繊維担持Pt−W系触媒13)は、例えば、高表面積活性炭繊維織布に共含浸によりNi−Ru複合触媒を担持させた後、K2PtCl4含浸、NaBH4還元法によりPtで修飾し、その後W(CO)6錯体のアルコール含浸、煮沸処理によって作製することができる。
【0041】
反応室11には、外部に設置されたメチルシクロヘキサン貯留タンク(不図示)と接続された供給配管16の一端が接続されており、この供給配管16を通じて脱水素反応させるメチルシクロヘキサンを供給できるようになっている。この供給排管16には、メチルシクロヘキサンの供給量を制御するためのバルブV1と、メチルシクロヘキサンの流量を検出、流量調節するための流量計(FM;第1の流量検出手段)M1が取り付けられており、バルブV1及び流量計M1は制御装置50と電気的に接続され、バルブV1は制御装置からの信号で駆動されるようになっている。
【0042】
加熱器15は、反応室11の触媒が配置されている側に配設され、炭素繊維担持Pt−W系触媒13を加熱できるようになっている。本実施形態では、図示しないSOFCから廃熱が与えられて、炭素繊維担持Pt−W系触媒13が250℃〜300℃の温度領域で加熱されるように構成されている。
【0043】
本実施形態では、SOFCの排熱を有効利用する形態としたが、SOFC以外の燃料電池を利用したり、別に電気ヒータなどの加熱器を設けて加熱する構成にしてもよい。
また、上記の燃料電池や加熱器のほか、エンジン排熱回収利用が可能な移動体(例えば、乗用車、貨物自動車、軽自動車、ディーゼル機関車、船舶等)の排熱を適用してもよい。この場合、ガソリン、軽油、重油等のエネルギー利用効率を向上させることができる。また、火力発電(自家発電用エンジン、業務用ガスタービン、石炭火力スラグ溶融助燃用添加供給水素等による発電)の排熱を適用してもよく、この場合には天然ガス、灯油、重油、燃料炭等のエネルギー利用効率を向上させることができる。
また、酸化物還元(製鉄用酸化鉄予備還元、CCS分離CO2の還元再資源化等)あるいは電気化学的利用(追焚つきPEFC、SOFC)に適用してもよい。この場合、化学物質としての水素の利用可能性を拡げることができる。
【0044】
高転化反応器20は、炭素繊維担持Pt−Re系複合触媒(高転化複合金属触媒)23が内部に配設された反応室21と、炭素繊維担持Pt−Re系複合触媒23を加熱するための加熱器25とを設けて構成されており、加熱器25で加熱された高活性複合金属触媒23にメチルシクロヘキサンが供給されると、脱水素反応を生じて水素ガスを含む水素含有ガスが生成されるようになっている。反応室21では、過熱液膜状態にある触媒で水素と芳香族化合物が生成されると、沸騰加熱下、激しく発生する気泡内に、吸着している水素、芳香族生成物、並びに未反応基質が触媒表面から気相成分として加わり、成長した気泡が離脱し気液界面に到達して破砕すると、再び水素が液相に入ることはない。水素の沸騰液相への溶解は、熱力学的に許されないからである。
【0045】
この反応室21には、一端で接続された分離器40からメチルシクロヘキサン含有の液相混合物が供給され、該混合物中にトルエンとともに含有されているメチルシクロヘキサンが脱水素反応に供される。このように、一旦脱水素反応させた後の混合ガスを再び脱水素用の反応室に戻し、液相混合物含有のトルエンのもたらす反応阻害効果を高転化触媒機能によって抑制しつつ、残存するメチルシクロヘキサンの脱水素反応を促すことにより、メチルシクロヘキサンの脱水素単流転化率を反応室21においてできる限り100%に近づけることができる。小型ながら高い空時収率で単通転化率100%のメチルシクロヘキサン脱水素反応システムを構築するには、メチルシクロヘキサンとトルエンの混合組成を変えつつ、反応室21から分離器40への気相流れと、分離器40から反応室21への液相流れを循環させる装置構成は欠かすことができない。
【0046】
炭素繊維担持Pt−Re系複合触媒23は、高表面積活性炭繊維織布(炭素繊維)にナノサイズに微粒子化した白金−レニウム系複合粒子(Pt−Re系複合粒子)が担持された、メチルシクロヘキサンに対する単流転化率の高いPt−Re系触媒(炭素繊維担持Pt−Re修飾Ni-Ruバイメタリック触媒)であり、反応室21の底部、側部及び内部に複数配置する伝熱板及び/又は伝熱管と沸騰加熱する外部熱源のもたらす熱流によって、脱水素触媒の過熱液膜状態を保持するようにしてある。担体に炭素繊維を用いることで、ミクロ細孔内に留められ蒸発し難くなった基質は液相のまま移動して触媒に触れるので、脱水素反応が良好に進行する。
【0047】
高転化複合金属触媒は、脱水素反応速度の阻害要因となるトルエンを容易に表面から離脱させ、メチルシクロヘキサン濃度が低い場合でも脱水素反応を進行させる特性を有するものであるのが好ましい。これより、高転化反応器20における脱水素単流転化率は大きくなる。
【0048】
このPt−Re系触媒以外にも、例えば高表面積活性炭繊維織布にナノサイズに微粒子化した白金−イリジウム修飾バイメタリック複合粒子が担持されたPt−Ir系触媒なども好適に使用することができる。
【0049】
水素化芳香族化合物の脱水素反応の律速段階は、重水素同位体効果から、C−H結合の開裂過程と知られているが、同時に芳香族生成物の吸着阻害を受けるため、脱水素反応の進行もしくは芳香族化合物の液相溶存量が増えるに従い反応速度は低下する。反応温度を高めるとC−H開裂は起き易くなり、かつ芳香族吸着種は脱離し易くなるので、脱水素反応速度は増大する。触媒金属であるPtにReを複合させると、Ptに対するReのリガンド効果で活性サイトから芳香族化合物が遠ざけられるとされている。
この点に関して、複合触媒の例として炭素担持Pt−Reを用いて反応温度を変化させたときの水素生成量及び転化率を図9に示す。ここでは、脱水素用の燃料としてデカリンを用いた場合を例に示す。
図9に示されるように、回分法反応器を用い、280℃加熱で炭素担持Pt−Re複合触媒によるデカリン脱水素反応を行なうと、2時間後には全て(100%)のデカリンがナフタレンと水素に転化することが確かめられた。本実施形態の高転化反応器20のような流通法反応器では、100%の単流転化率を達成することは極めて難しいが、炭素担持Pt−Re触媒が、繰り返し還流されながら組成変化していく液相混合物に接することで、ナフタレン中に極めて少量のデカリンが溶存する状態になっても脱水素能を示すことがわかる。つまり、本実施形態の高転化反応器20に備えられた触媒は、高活性反応器10で脱水素反応に寄与せずに残った燃料の脱水素反応に寄与するものであり、該触媒が果たすべき役割により装置全体での転化率が効果的に高められる。これは、デカリン以外のメチルシクロヘキサン等を用いた場合も同様である。
【0050】
なお、高転化複合金属触媒が高転化性であることは、触媒金属の成分比率のみならず、複合金属をPtと共に構成するRe、Ni、Pd、Ir、Mn、Ru等の金属の種類により決定される。
【0051】
担体としては、過熱液膜状態を形成して高活性に脱水素反応させる観点から、炭素材料を含む担体が望ましく、多孔性高表面積炭素担体が好ましい。また、担体の細孔径、及びBET比表面積の好ましい範囲については、前記高活性複合金属触媒における担体と同様である。また、前記高活性複合金属触媒と同様の方法で作製することができる。
担体の好ましい例としては、多孔性高表面積活性炭担体(例えば、関西熱化学(株)製のMaxsorb)、多孔性高表面積活性炭繊維織布(クラレケミカル(株)製、ACC、PAN延伸炭化)等を挙げることができる。このような多孔性高表面積活性炭担体、多孔性高表面積活性炭繊維織布は、過熱液膜状態を形成して保持できる点で特に好ましい。
【0052】
高活性反応器10及び高転化反応器20において、メチルシクロヘキサンの脱水素反応は、250℃〜300℃の温度領域で行なわれるが、このときメチルシクロヘキサンを脱水素反応させる高活性複合金属触媒及び高転化複合金属触媒には、過熱液膜状態が形成されている。
過熱液膜状態とは、触媒が供給されるメチルシクロヘキサン等の沸点を越える温度で加熱された過熱状態にあり、該触媒が液相のメチルシクロヘキサン等が供給されることによって表面が僅かに湿潤して沸騰する液膜を有する状態をいう。具体的には、高活性複合金属触媒又は高転化複合金属触媒の質量に対する、水素化芳香族化合物を含む液相量の比率(液相量/触媒量[質量比])が1〜4である状態であることが好ましい。このように、メチルシクロヘキサンの沸点を越える温度で加熱された過熱状態で液膜状態が形成されていることで、触媒に大きな温度勾配(温度差)が形成され、その結果、炭素担体表面に生じた気泡には、未反応基質のみならず触媒粒子表面から水素と芳香族化合物の脱離が気相成分として加わり、気泡は成長し、離脱し、同時に空いた触媒活性サイトが脱水素反応に使われることとなる一方、気相に出た水素が再び沸騰している液相に戻って水素化逆反応に寄与することはないので、外部熱源温度と流入熱量に対して最も適切な基質供給速度が選択されたとき、水素ガス生成量は最大になる。
本実施形態では、高活性複合金属触媒の質量に対する液相量の比率(液相量/触媒量[質量比])は1.2となっており、また高転化複合金属触媒の質量に対する液相量の比率(液相量/触媒量[質量比])は1.2となっている。
【0053】
上記の中でも特に、過熱液膜状態の形成の観点からは、担体を多孔性高表面積炭素担体(特に多孔性高表面積活性炭繊維織布又は多孔性高表面積活性炭担体)とし、担体に担持される触媒金属を、PtとW、Ni、Pd、Ir、Mn及びRuから選ばれる少なくとも1種との2種類の金属が複合化されたバイメタリック触媒とすると共に、水素化芳香族化合物を含む液相量の比率(液相量/触媒量[質量比])を1〜4とすることが好ましい。
【0054】
ここで、触媒層と基質(水素化芳香族化合物)沸点との間の温度勾配については、沸騰に伴なって生じる気泡の脱離方向と気液界面へ向けての熱流の方向が合致するように触媒層と外部熱源を配置することが望ましく、触媒層の温度は水素化芳香族化合物(本実施形態ではメチルシクロヘキサン)の沸点(boiling point)に対して150℃〜200℃高くなっている態様が好ましい。過熱液膜状態では、触媒はメチルシクロヘキサン(基質)とトルエン(芳香族生成物)の混合溶液に浸った状態にあり、温度差が上記範囲にあることで激しく沸騰し絶え間なく気泡が発生し、触媒表面で生成された水素とトルエンは気泡内へ脱離し空いた触媒活性サイトをつくって脱水素反応性を保持するとともに、気泡自体を成長させ、気液界面に到達して破砕し、気泡内の水素、トルエン並びにメチルシクロヘキサンは液相から気相へ移動する。つまり、触媒に対する脱水素用の燃料量が多過ぎても少なすぎても過熱液膜状態が形成されず、良好な脱水素効率は得られない。図10(A)及び図10(C)に示すように、触媒層に供給されるメチルシクロヘキサン量が少な過ぎて直ぐに固気接触状態に移行する場合(0.4ml)も、逆にメチルシクロヘキサン量が多過ぎて懸濁状態になる場合(1.2ml)も水素生成量は増えず、図10(B)のように、触媒層が液に適度に浸る状態、すなわちメチルシクロヘキサン量を過熱液膜状態が形成される量(0.8ml)とすることで水素生成量が高められる。過熱液膜状態は、本反応条件では触媒0.1mlがメチルシクロヘキサン0.8mlに浸漬されたときに実現されている。適度に湿潤した触媒層は、反応室外部の熱源210℃とメチルシクロヘキサン沸点101℃との差に由来する温度勾配によって熱流付随の大きなエントロピー増大の場となる一方、沸騰現象に内在する熱移動(熱流)と物質移動(脱離)間の非平衡熱力学的カップリングを受けて平衡制約が解除されるために、過熱液膜状態にある触媒からの水素発生は、芳香族水素化逆反応が起きない分、平衡転化率100%を確保する温度(350℃)が必要な固気接触方式よりもはるかに低くて済むのである。なお、図10は、多孔性高表面積活性炭担体として関西熱化学(株)製のMaxsorb(商品名;KOH賦活、BET比表面積3100m2/g、細孔径2.0nm、顆粒径7μm、嵩密度3.3ml/g)にK2PtCl4含浸・NaBH4還元法で白金微粒子を担持(5wt%)した触媒0.30gでの結果である。
また、水素生成性を向上させる観点からは、触媒層温度が高いほど有利となるが、反応速度の増大と同時に蒸発速度の増大があるうえ、核沸騰から膜沸騰への移行、突沸の可能性も生じることから、1気圧下では、触媒温度が300℃未満(好ましくは下限が250℃)であって水素化芳香族化合物の沸点より150℃〜200℃高い温度である場合がより好ましい。この点、本実施形態では、触媒層温度は280℃になっている。なお、メチルシクロヘキサンの沸点は101℃である。
このように、過熱液膜状態の観点から、上記した担体及び触媒金属の選択に加え、触媒への燃料供給量及び触媒温度が重要である。
【0055】
また、触媒温度が250℃〜300℃の温度領域にある場合、図2に示すように、単流転化率は平衡転化率に見合って充分に大きな値が得られる。すなわち、
多孔性高表面積活性炭繊維織布(クラレケミカル(株)製、ACC、PAN延伸炭化、BET比表面積1834m2/g、細孔径1.5nm(スリット状)、嵩密度3.3ml/g)にK2PtCl4含浸・NaBH4還元法で調製した白金粒子担持(5wt%)触媒シート3.8g(10cm×20cm角形)を流通法底部に敷き、メチルシクロヘキサンを0.3〜3.5ml/minで液相供給、気相成分を外部凝縮して組成分析したところ、触媒相温度250℃〜300℃の領域であれば、平衡値と大差なく40%を超える単流反応転化率が求められる。
また、図3に示すように、触媒層に定常的に供給される基質量が多すぎると、触媒温度を充分に高められない領域が生じ、蒸発だけで出てしまう基質が増し、単流転化率及び水素生成速度はともに低下する一方、基質量が少なすぎると、触媒との接触機会が増すために単流転化率は向上するものの、水素生成量は低くなる。上記と同じ触媒及び反応器を使って外部熱源温度(触媒層温度)を285℃(255℃)と330℃(300℃)としたときの単流反応転化率及び水素生成速度のメチルシクロヘキサン(基質)供給速度依存性を調べると、図3(A)のように基質供給流量を抑えれば80%を超える転化率が得られるものの、図3(B)に示される通り、水素生成速度は空時収率表現で80Nm3-H2/m3-cat・h未満に止まり、基質供給速度が30〜40mmol/minのとき、空時収率はその値を大きく上回ることがわかる。しかしながら、転化率は小さいので、本実施形態のように、高活性反応器で未反応のまま蒸発した基質を生成トルエンとの液相混合物として後述するような高転化反応器に還流し、そこで再び水素生成反応を進行させ、その後に分離器で純トルエンを抜き出すことによって、単通転化率100%を達成するシステムが構成されることになる。
以上から、高活性複合金属触媒及び高転化複合金属触媒層の温度は、255℃〜450℃の範囲が適しており、中でも255℃〜300℃の範囲が好ましく、更には270℃〜300℃の範囲が好ましい。
【0056】
また、液相のメチルシクロヘキサンの沸点は101℃であり、脱水素生成されるトルエンの沸点も110℃であるため、これらは、触媒層の高い温度に影響されて気化する。触媒では、触媒内で併発的に脱水素反応が進行しており、高頻度で発生する気泡は吸着生成物を脱離させるのに有効である。脱離により空いた活性サイトの表面密度が高められ、反応速度が向上する。
【0057】
反応室21には、分離器40から排出されたメチルシクロヘキサン含有の液相混合物を供給するための還流配管28の一端が接続されており、分離器で分離された液相混合物を高転化複合金属触媒に供給できる構成になっている。
【0058】
加熱器25は、加熱器15と同様に、反応室21の触媒が配置されている側に配設されており、炭素繊維担持Pt−Re系複合触媒23を加熱できるようになっている。本実施形態では、図示しないSOFCから排熱が与えられて、炭素繊維担持Pt−Re系複合触媒23が250℃〜300℃の温度領域で加熱されるように構成されている。
【0059】
本実施形態では、SOFCの排熱を有効利用する形態としたが、別にPEFC(固体高分子形燃料電池)のアノードオフガス燃焼による低温度排熱の追焚き加熱、もしくは電気ヒータなどの加熱器を設けて加熱する構成にしてもよい。
また、上記の燃料電池や加熱器のほか、エンジン排熱回収利用が可能な移動体(例えば、乗用車、貨物自動車、軽自動車、ディーゼル機関車、船舶等)の排熱を適用してもよい。この場合、ガソリン、軽油、重油等のエネルギー利用効率を向上させることができる。また、火力発電(自家発電用エンジン、業務用ガスタービン、石炭火力スラグ溶融助燃用添加供給水素等による発電)の排熱を適用してもよく、この場合には天然ガス、灯油、重油、燃料炭等のエネルギー利用効率を向上させることができる。
また、酸化物還元(製鉄用酸化鉄予備還元、CCS分離CO2の還元再資源化等)あるいは電気化学的利用(追焚つきPEFC、SOFC)に適用してもよい。この場合、化学物質としての水素の利用可能性を拡げることができる。
【0060】
水素貯留タンク30は、ガスを貯留することができるガス貯留室を備えており、このガス貯留室に連通する逆流弁が取り付けられたガス排出配管17、27が接続されている。水素貯留タンク30は、このガス排出配管17、27により、高活性反応器10の反応室11、及び高転化反応器20の反応室21とそれぞれ接続されており、各反応室で脱水素生成された水素含有ガスがガス貯留室に供給されるようになっている。
【0061】
水素貯留タンク30のガス貯留室は、各反応室から導入された水素含有ガスを一時的に蓄えておく機能を果たすため、耐圧性の気相空間として形成されている。水素ガスの要求があったときには、水素貯留タンク30に蓄えられている水素含有ガスを用いることにより、非定常運転時における水素要求に対応することが可能である。
【0062】
水素貯留タンク30には、更に、ガス貯留室中に貯留されている水素含有ガスを分離器40に供給するためのバルブV2が取り付けられたガス供給配管31の一端が接続されている。バルブV2は、制御装置50と電気的に接続されており、制御装置からの信号に従って動作可能になっている。水素要求があったときにバルブV2を開状態にすることにより、貯留されている水素含有ガスは、ガス供給配管31を通じて分離器に供給される。
【0063】
また、水素貯留タンク30には、その一端にガス貯留室内のガス圧を検出するための圧力センサP1が取り付けられており、高活性反応器10及び高転化反応器20から導入される水素含有ガスの量と、分離器40に供給される水素含有ガスの量とで変化するガス量を、ガス圧を指標に監視できるようになっている。圧力センサP1は、制御装置50と電気的接続されており、検出されたガス圧が自動的にあるいは必要に応じて制御装置50に取り込まれるようになっている。
【0064】
水素貯留タンク30には、ガス圧を検出する圧力センサのほか、水素濃度を検知するための水素センサが取り付けられていてもよい。水素センサは、ガス貯留部内のガス中の水素量を検出することができ、使用可能な水素ガス量を容易に把握することができる。
【0065】
分離器40は、水素貯留タンク30に接続されたガス供給配管31の他端と接続されており、脱水素反応の転化率を高めたり、水素生成及び水素の外部供給を行なうために、水素貯留タンク30中の水素含有ガスが供給されるようになっている。
【0066】
分離器40は、温度差を用いて蒸留により分離する蒸留塔であり、反応室11、21で脱水素生成されて水素貯留タンク30で混合された混合ガスが供給されると、この蒸留塔の塔頂側から水素ガスを排出し、トルエン純度を高められた塔底側から液化されたトルエンを排出すると共に、塔頂と塔底の間の中段において、メチルシクロヘキサンを含有する混合物が液化する温度に冷やされて液相として排出されるようになっている。中段から排出された液相混合物は、高転化反応器20に供給されて再び脱水素反応に供される。このようにすることで、本実施形態の単通転化率(one-pass conversion)は、外部熱源温度の変動や求められる水素生成速度に関係なくほぼ100%を保持することができる。
【0067】
分離器40には、蒸留塔の中段から排出されるメチルシクロヘキサン含有の液相混合物を高転化反応器20に還流するための還流配管28の他端が接続されている。また、分離器40には、塔頂側で分離された水素ガスを外部に排出するための水素排出配管41がその一端で接続されている。水素排出配管41には、水素ガスの排出量を制御するためのバルブV3と、その排出量を検出、流量調節するための流量計(FM;第2の流量検出手段)M2が取り付けられており、バルブV3及び流量計M2は制御装置50と電気的に接続され、制御装置50からの信号で駆動されるようになっている。
【0068】
更に、蒸留塔の塔底側で分離された液相のトルエン(TOL)を外部に排出するためのトルエン排出管43が一端で接続されている。トルエン排出管43には、トルエンの排出量を制御するためのバルブV4と、その排出量を検出、流量調節するための流量計(FM;第3の流量検出手段)M3が取り付けられており、バルブV4及び流量計M3も制御装置50と電気的に接続され、制御装置50からの信号で駆動されるようになっている。
【0069】
制御装置50には、圧力センサP1、バルブV1〜V4、及び流量計M1〜M3が電気的に接続されており、圧力センサP1及び流量計M1〜M3で検出された検出値を自動的にあるいは必要に応じて取り込み、取り込まれた値に基づいてバルブV1〜V4の開閉及び流量計による流量調節を制御することにより、水素ガスの生成量や外部供給量、及び水素貯留タンク30での貯留量を所望の範囲にコントロールすることができる。これより、小型でありながら高効率に水素生成することが可能であり、非定常運転時でも水素ガスの供給を安定的に開始、停止することが可能である。
【0070】
本実施形態では、装置の運転スイッチがオンされると、反応器内の触媒が過熱液膜状態となっているかを判定した上で、外部からの水素要求量や水素ガス貯留器に貯留されている水素含有ガスの貯留量を判定し、判定結果に基づいて水素供給するための通常運転に移行する。
以下、本実施形態の制御装置50による制御ルーチンについて、図4〜6を参照し、水素ガスの脱水素生成・供給及び貯留を、外部からの水素要求量に応じて、高活性処理及び高転化処理の双方を行なう処理ルーチンと高転化処理を主に行なう処理ルーチンとに切り替えて行なう制御ルーチンを中心に説明する。図4は、外部からの水素要求に応じて水素生成・供給等を行なうメインルーチンを示すものであり、図5は外部からの水素要求量が所定値を超える場合に行なう高活性・高転化処理ルーチンを示し、図6は外部からの水素要求量が所定値以下である場合に行なう高転化処理ルーチンを示す。
【0071】
ステップ100において運転スイッチがオン(ON)され、本メインルーチンが実行されると、まずステップ102において、装置内のバルブV1〜V4の開閉状態がチェックされ、所定の初期状態(本実施形態では全て閉状態)に戻された後、次のステップ104において、加熱器15、25をオンして昇温を開始する。
【0072】
次いで、ステップ106において、加熱器15、25で加熱されている触媒13、23がそれぞれ、250℃〜300℃の所定の温度領域に到達しているか否かが判定される。ステップ106において、加熱器15、25の双方の温度が所定の温度領域に到達していると判定されたときには、次のステップ108に移行し、バルブV1を開いてメチルシクロヘキサンを高活性反応器10に供給すると共に、バルブV2を開き、水素含有ガスがバルブV2を備えたガス供給配管31を通って分離器40に送られる。このとき、分離器40で分離されたメチルシクロヘキサン含有の液相混合物が還流配管28を通じて高転化反応器20に供給されている。
ステップ106において、加熱器15、25のいずれかの温度が所定の温度領域に未だ到達していないと判定されたときには、温度未達の触媒の温度が所定の温度領域まで到達するまで繰り返し判定される。
【0073】
次に、ステップ110において、触媒13、23がそれぞれ、過熱液膜状態にあること、すなわち触媒質量に対する液相量(シクロメチルヘキサン量)の比(液相量/触媒量[質量比])が1〜4の範囲にあるか否かが判定される。本実施形態では、液相量/触媒量の比は、シクロメチルヘキサン(基質)の液面高さを監視し、液面高さから換算される液相量と反応器内に配設された各触媒の質量とから算出されるようになっている。
【0074】
ステップ110において、触媒が既に「1≦液相量/触媒量≦4」の範囲を満たし、過熱液膜状態にあると判定されたときには、高活性反応器10及び高転化反応器20で脱水素生成を所望とする速度で迅速に行なえる条件となっているので、次のステップ112に移行して、水素貯留タンク30の圧力センサP1の検出値pが取り込まれる。一方、ステップ110において、触媒が既に「1≦液相量/触媒量≦4」を満たさず、未だ過熱液膜状態が得られていないと判定されたときには、脱水素反応を迅速に行なえる条件にないので、必要に応じて過熱液膜状態となるまで判定を繰り返しながら待機する。
【0075】
ステップ112で検出値pが取り込まれると、次のステップ114において、検出値pが所定値P以上であるか否かが判定される。検出値pが所定値P以上であると判定されると、充分な水素含有ガスが貯留されており、外部への水素供給が可能な状態にあるので、ステップ116において水素要求があるか否かが判定される。そして、ステップ116で水素要求があるときには、次のステップ118において、水素要求量が所定値を超えるものか否かが判定される。
【0076】
逆にステップ114において、検出値pが所定値P未満であると判定されたときには、外部への水素供給が充分に行なえないおそれがあるので、水素量を確保するために、ステップ112に戻って同じ制御を継続し、検出値pが所定値P以上に達した後にステップ116に移行する。
【0077】
ステップ116において、水素要求が未だないときには、水素をさらに生成して外部に供給したり貯留量を高める等の必要がないため、ステップ115でバルブV1を閉じ、水素要求があるまで待機する。
【0078】
ステップ118において、外部からの水素要求量が、供給可能な能力範囲である所定値を超えるときには、水素供給能力を確保するために、次のステップ120で高活性・高転化処理ルーチンが実行される。一方、外部からの水素要求量が、供給可能な能力範囲である所定値以下であるときには、要求されている水素量を賄える状態にあるので、次のステップ140で高転化処理ルーチンが実行される。
【0079】
続いて、本実施形態で実行される高活性・高転化処理ルーチンについて、図5を参照して説明する。
ステップ120で高活性・高転化処理ルーチンが実行されると、ステップ122において、バルブV1〜V4の全てが開状態とされ、メチルシクロヘキサンの高活性反応器10への供給量を増大しながら、水素排出配管41を通じて水素ガスを外部に供給する。このとき、脱水素反応で生成された水素含有ガスはガス供給配管31を通じて分離器40に送られ、分離器40で水素含有ガスから分離された水素ガスは外部の水素使用装置(ここではSOFC)に供給される。水素ガスは、メチルシクロヘキサン(水素化芳香族化合物)の3倍量が排出(外部供給)され、この水素ガスの排出と共にトルエン排出管43を介してトルエンも排出される。
【0080】
そして、ステップ124において、流量計M1、M2、M3の検出値が取り込まれる。流量計M1、M2、M3により、メチルシクロヘキサンの供給量、水素ガスの排出量、及びトルエン(液相)の排出量が取り込まれると、次のステップ126において、水素要求量に見合う量が確保されるように流量計M1、M2、M3における開度が調整される。具体的には、「水素生成量×1/3」モル相当のメチルシクロヘキサン(水素化芳香族化合物)が高活性反応器10に供給されるように、「流量計M1の流量=流量計M2の流量×1/3」を満たす開度に調整する。このとき、トルエン(不飽和芳香族化合物)は、メチルシクロヘキサンと同モル量が混合ガスから分離除去される。
【0081】
ここで、ステップ128において、外部からの水素要求量が、供給可能な能力範囲である所定値を超えるときには、次のステップ130で水素貯留タンク30の圧力センサP1の検出値pが取り込まれる。ステップ130で検出値pが取り込まれると、次のステップ132において、検出値pが所定値P以上であるか否かが判定される。検出値pが所定値P以上であると判定されると、充分な水素含有ガスが貯留されており、外部への水素供給が可能な状態にあるので、次のステップ134で水素要求が継続しているか否かが判定される。そして、ステップ134で水素要求が継続しているときには、継続的に水素ガスの供給が可能な状態にあることからステップ124に戻って、同様のルーチンを継続する。
一方、ステップ134において、水素要求が停止されたときには、ステップ135において、水素貯留タンク30の圧力センサP1の検出値pが所定値P以上を維持しているか否かが判定され、検出値p≧Pが維持されていない状態にあると判定されたときには、水素貯留量が少なく水素要求された際に水素量が不足するおそれがあるため、ステップ137でバルブV3及びV4を閉じ、バルブV1及びV2を開いた状態にして脱水素反応を継続し、検出値pが所定値Pに達するまで繰り返す。逆に、ステップ135で検出値p≧Pが維持されていると判定されたときには、充分な水素貯留量が確保された状態にあるので、ステップ136において、バルブV1〜V4の全てを閉状態とし、その後、本ルーチンを終了する。
【0082】
ステップ132において、検出値pが閾値Pに達していないと判定されたときには、水素貯留タンク30に貯留されている水素含有ガスの量が少なく、供給可能な水素量が不足するおそれがあるため、ステップ138で再び流量計M1、M2、M3の流量が取り込まれ、ステップ139で流量計M1、M2、M3の各々の開度が調節される。
本実施形態では、水素貯留タンク30の圧力センサの検出値pに基づいて判定する場合を示したが、圧力(ガス圧)のみで判定するほか、圧力センサと水素濃度センサを水素貯留タンク30に取り付けて、ガス圧と水素濃度を検出してガス圧及び水素濃度の積等を求め、該値が所定の閾値以上であるか否かにより判定するようにしてもよい。
【0083】
また、ステップ128において、外部からの水素要求量が、供給可能な能力範囲である所定値以下であるときには、要求されている水素量を賄うことができるので、ステップ140に移行して、高転化処理ルーチンが実行される。
【0084】
次に、本実施形態で実行される高転化処理ルーチンを図6を参照して説明する。
ステップ140で高転化処理ルーチンが実行されると、ステップ142において、バルブV1を閉じ、バルブV3,V4を開いた後、ステップ144において、流量計M1、M2、M3の検出値が取り込まれる。流量計M1、M2、M3により、メチルシクロヘキサンの供給量、水素ガスの排出量、及びトルエン(液相)の排出量が取り込まれると、ステップ146において、流量計M1、M2、M3における開度が調整される。具体的には、水素要求量に見合う量が確保されるようにM2の開度が調整され、高転化処理ルーチンではメチルシクロヘキサン(水素化芳香族化合物)の高活性反応器10への供給及びトルエン(不飽和芳香族化合物)の混合ガスからの分離除去は行なわれないことから、M1及びM3における開度は0に調整される。
【0085】
ここで、ステップ148において、外部からの水素要求量が、供給可能な能力範囲である所定値以下であると判定されたときには、次のステップ150で水素要求が継続しているか否かが判定される。ステップ150で水素要求が継続しているときには、継続的に水素ガスの供給が可能な状態にあることから、ステップ144に戻って、同様のルーチンが継続される。
一方、ステップ150において、水素要求が停止されたときには、ステップ152において、水素貯留タンク30の圧力センサP1の検出値pが取り込まれ、次のステップ154で水素貯留タンク30の圧力センサP1の検出値pが所定値P以上を維持しているか否かが判定される。ステップ154において、検出値p≧Pが維持されていない状態にあると判定されたときには、水素貯留量が少なく水素要求された際に水素量が不足するおそれがあるため、ステップ158でバルブV3及びV4を閉じ、バルブV1及びV2を開いた状態にして脱水素反応を継続し、検出値pが所定値Pに達するまで繰り返す。逆に、ステップ154で検出値p≧Pが維持されていると判定されたときには、充分な水素貯留量が確保された状態にあるので、ステップ156において、バルブV1〜V4の全てを閉状態とし、その後、本ルーチンを終了する。
【0086】
ステップ148において、外部からの水素要求量が、供給可能な能力範囲である所定値を超えると判定されたときには、外部から要求される水素量を賄えないため、再びステップ120に移行し、上記と同様にして、高活性・高転化処理ルーチンが実行される。
【0087】
以上のように、運転のオン・オフを含む非定常運転がされるときでも、バッファーとなる水素含有ガスを貯留できるようにし、水素要求量に合わせてメチルシクロヘキサンの供給量やトルエンの排出量が制御されて水素含有ガスが脱水素生成されるので、安定的に水素ガスの供給を開始、停止することが可能である。また、メチルシクロヘキサンは高活性反応器10で迅速に水素生成されると共に、還流により、水素含有ガス中に残存するメチルシクロヘキサンが高転化反応器20で再び脱水素反応に供されるので、小型に構成しながらも、高い単通転化率で水素ガスを生成、供給することが可能である。
【0088】
(第2実施形態)
本発明の水素ガス生成装置の第2実施形態を図11を参照して説明する。本実施形態は、高活性反応器及び高転化反応器の双方に、気相のメチルシクロヘキサンを液化させる冷却用部材として冷却用板を触媒上方に配置し、各反応室ごとに気相中の未反応のメチルシクロヘキサンを冷却用板で液化して各触媒に戻し、再び脱水素反応させるようにしたものである。
【0089】
なお、水素化芳香族化合物としてメチルシクロヘキサンを用いた場合を示すが、上記第1実施形態と同様に他の水素化芳香族化合物も使用可能である。なお、デカリンはシス体とトランス体からなり、シス体からの水素生成速度がより大きいけれども、混合物のまま使用可能であるデカリンとテトラリンから生成するナフタレンは融点が高いため扱いが難しいけれども、メチルシクロヘキサンとの混合物を水素化芳香族化合物とすると、ナフタレンのトルエン溶液(ナフタレン油)が生成するので、メチルシクロヘキサンの水素含有密度6.2wt%を6.4wt%程度に高めることが可能である。また、第1実施形態と同様の構成要素には同一の参照符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0090】
本実施形態では、図11に示すように、過熱液膜状態になるようにメチルシクロヘキサンを供給して脱水素させることに加え、触媒上で脱水素反応に寄与せず未反応のまま残ったメチルシクロヘキサンを反応室ごとに還流(液化)して再び各触媒上に戻す「単流転化」を繰り返し行なえるように、反応室11、21にそれぞれ、二枚の湾曲状板の一端を繋ぎ合わせて底部側(重力方向側)に凸形状を有する冷却用部材19、29が設けられた構成となっている。
【0091】
冷却用部材には、特に制限はなく、図11に示すように二枚の湾曲状板の一端を繋ぎ合わせたものに限らず、複数の冷却用板を並べて設けたフィンとしてもよく、例えば、冷却水を挿通する冷却水管と、この冷却水管の管外壁に取付けられた複数枚の円盤状フィンとで構成された態様であってもよい。
【0092】
このような構成にすることにより、各反応室での反応速度がより向上し、反応室ごとの転化率を高めることができる。
【0093】
上記の実施形態では、水素化芳香族化合物としてメチルシクロヘキサンを用いた場合を中心に説明したが、メチルシクロヘキサン以外の上記他の水素化芳香族化合物を用いた場合にも同様の効果が奏される。
また、高活性反応器及び高転化反応器は、それぞれ1基ずつ配設した場合を説明したが、各々について複数基設けられていてもよく、また各反応器ごとに水素貯留タンクが配設された態様であってもよい。
【符号の説明】
【0094】
10・・・高活性反応器
11,21・・・反応室
13・・・高活性複合金属触媒
15,25・・・加熱器
19,29・・・冷却用部材
20・・・高転化反応器
23・・・高転化複合金属触媒
30・・・水素貯留タンク
40・・・分離器
50・・・制御装置
P1・・・圧力センサ
V1〜V4・・・バルブ
M1〜M3・・・流量計
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素化芳香族化合物の脱水素反応を利用した水素ガス生成装置及び水素ガス生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境適性が重要視される中で、燃料として水素を用いる技術が注目されている。ところが、水素を安定して供給することができる供給源としては、液化水素や圧縮水素が一般的であり、安全面や法規面などの点で課題が山積している。
【0003】
一方、水素を燃料とする燃料電池や水素エンジンなどでは、水素の燃焼や反応で熱が放出されるが、この熱量を化学エネルギーに変換できれば、熱量を水素の生成、具体的には吸熱反応である炭化水素からの脱水素反応に利用することが可能であり、燃料電池等からの廃熱を有効利用したエネルギー利用効率の高いシステムの構築が可能になる。
【0004】
熱により水素生成する方法として、例えば原燃料として炭化水素を用い、これを脱水素して水素ガスを得る方法が開示されている(例えば、特許文献1〜2参照)。例えばデカリンなどの脂環式炭化水素は、常温下で取り扱いやすいことから、原燃料としての使用が期待されている。
【0005】
また、脱水素反応を利用した技術として、高収率でかつ安定的に水素を取り出す等の観点から、脱水素反応の反応温度300℃で水素化芳香族類の平衡転化率が90%以上である脱水素触媒を充填した脱水素反応器を備えた水素供給装置が開示されている(例えば、特許文献3参照)。さらに、供給された熱をカスケード利用して熱の利用効率をより高めようとする技術に関する開示もある(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−255503号公報
【特許文献2】特開2003−260360号公報
【特許文献3】特開2005−216774号公報
【特許文献4】特開2006−104000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、比較的多い流量の炭化水素から脱水素する場合に、脱水素反応活性の高い触媒を選択すればある程度の水素生成効率は得られるが、供給された燃料に対して高い転化率を確保することは難しく、高転化を維持するためには反応場の規模を用意せざるを得ないとされていた。
【0008】
また、水素の要求量(水素需要)は、装置の使用態様により様々であり、定常的に一定量の水素供給が行なわれる使用態様だけでなく、例えば運転のオン・オフを含めた非定常運転が日常的に行なわれるような使用態様に対しても、安定的に水素の供給の開始や停止が行なえる性能を満たしていることが望まれる。
【0009】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、装置を小型に維持しながら、ユースポイントでの水素需要量が大きく変動する場合でも脱水素単通転化率(one-pass conversion)を安定的に高く保ち、DSS(Daily Start-Up Shutdown:以下同様)等の運転オン・オフを含む非定常運転を行なう場合の水素供給が安定的に開始又は停止される水素ガス生成装置及び水素ガス生成方法を提供することを目的とし、該目的を達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、高活性触媒を備え、例えばメチルシクロヘキサン等の水素化芳香族化合物の供給流量が比較的多い脱水素反応器と、該供給流量が比較的少なく高転化触媒を備えた脱水素反応器とを配置し、二つの脱水素反応器から排出される気相成分はともに分離器へ導かれ、その塔頂から水素を排出すると同時に、塔底からは、その水素に量論対応する芳香族生成物(メチルシクロヘキサンの場合、排出する水素の1/3モルのトルエン)を抜き出す一方、これら脱水素反応器で生成された水素含有ガス中の未反応の水素化芳香族化合物を分離し高転化複合金属触媒を備えた高転化反応器に還流して再び脱水素反応に供することによって単通転化率100%の達成を図ると共に、脱水素生成した水素ガスは排出前に一旦、所定の気相空間に貯留される構成にすると、小型ながら水素生成効率に優れ、運転のオン・オフを含む非定常運転が行なわれる状況下でも安定的に水素の供給、停止が可能になるとの知見を得、かかる知見に基づいて達成されたものである。
これは、給排される水素化芳香族化合物やその脱水素生成物の流量、貯留される水素含有ガスの圧力をモニターして最適な脱水素反応が運転状況に依らず選択されるように制御することで好適に行なえる。
【0011】
前記目的を達成するために、第1の発明である水素ガス生成装置は、水素化芳香族化合物を250℃〜300℃の温度領域で脱水素反応させたときの水素の空時収率が80Nm3-H2/m3-cat・h(「m3-cat」は触媒容積を表し、「h」は時間(hour)を表す。以下同様)以上の高活性複合金属触媒(好ましくは、W、Ni、Pd、Ir、Mn及びRuから選ばれる少なくとも1種とPtとを含む複合金属粒子が担持された複合金属触媒)を備え、供給された液相の水素化芳香族化合物を前記高活性複合金属触媒の過熱液膜状態下、脱水素反応させて水素含有ガスを生成する第1の脱水素反応器と、Re、Ni、Pd、Ir、Mn及びRuから選ばれる少なくとも一種とPtとを含む複合金属粒子が担持された高転化複合金属触媒を備え、供給された水素化芳香族化合物及びその脱水素生成物を含む液相混合物を前記高転化複合金属触媒の過熱液膜状態下、脱水素反応させて水素含有ガスを生成する第2の脱水素反応器と、第1の脱水素反応器及び第2の脱水素反応器で生成された水素含有ガスが給排されると共に、供給された水素含有ガスの状態で水素を一時的に貯留する水素貯留手段と、水素貯留手段から供給された前記水素含有ガスから、(1)水素ガスと(2)未反応の前記水素化芳香族化合物及び不飽和芳香族化合物を含む液相混合物と(3)液相の不飽和芳香族化合物とを分離すると共に、分離された液相混合物を第2の脱水素反応器に供給する分離手段と、を設けて構成したものである。
【0012】
なお、本明細書中において、水素化芳香族化合物は、脱水素反応させることにより水素生成が可能な飽和環状化合物であり、例えばメチルシクロヘキサン、デカリン、メチルデカリン、テトラリン、メチルテトラリン、ビシクロへキシル、シクロへキシルベンゼン等が含まれる。また、不飽和芳香族化合物は、水素化芳香族化合物を脱水素反応させて生成された不飽和環状化合物であり、例えばトルエン、ナフタレン、メチルナフタレン、ビフェニル等が含まれる。
【0013】
第1の発明においては、例えばメチルシクロヘキサン等の水素化芳香族化合物が比較的多く供給される第1の脱水素反応器に、水素化芳香族化合物の脱水素反応活性が高い高活性複合金属触媒を配し、液相の水素化芳香族化合物を高活性複合金属触媒が過熱液膜状態となるように供給し脱水素反応させることで、脱水素反応速度を高く保つと共に、第1の脱水素反応器での脱水素反応に寄与せずに残存した水素化芳香族化合物の脱水素反応を促すため、脱水素反応後の水素化芳香族化合物含有混合物(液相混合物)を再反応に供する第2の脱水素反応器を配設し、この反応器では水素化芳香族化合物の供給流量が比較的少ないものの、所定の貴金属を含む高転化複合金属触媒を配して過熱液膜状態を形成することで、水素化芳香族化合物の脱水素転化率をできる限り100%近くにまで向上させるようにする。第2の脱水素反応器への水素化芳香族化合物の液相供給は、一旦脱水素反応で生成された混合ガスを還流することで行なわれる。更に、脱水素生成した水素含有ガスを一時的に貯留することで、水素ガスが常に装置内で蓄えられている状態を維持する。これにより、脱水素反応の反応場を小さく維持しながらも、迅速に水素化反応を行なうことが可能になり、特にDSS等の運転オン・オフを含む非定常運転が生じる運転条件下における水素の供給開始が安定的に行なわれる。
本発明の目的達成の観点からは、触媒中(好ましくは各触媒を構成する多孔性高表面積担体)のミクロ細孔を液相の水素化芳香族化合物で充填しつつそこに液膜吸着した水素化芳香族化合物が沸点よりも充分に高い温度で触媒層の背後から加熱され、沸騰・蒸発する一方、液相のままの表面拡散により触媒金属粒子上に到達し水素分子を生成させると同時に、触媒層の厚み方向における温度勾配のもたらす激しい発泡で生成物吸着種の触媒活性サイトからの不可逆的離脱を促し、空いたサイトの表面密度を高く保持する。その結果、水素化芳香族化合物の脱水素反応を沸点で化学平衡の制約を受けず、かつ速やかに進行させる「過熱液膜状態」を定常的に実現させなければならない。
【0014】
第1の発明に係る水素ガス生成装置は、水素貯留手段に、水素含有ガスが貯留されるガス貯留室のガス圧又は水素濃度を検出する検出手段が備えられ、更に、前記検出手段で検出されたガス圧又は水素濃度が所定の圧力又は水素濃度の範囲に維持されるように、第1の脱水素反応器に供給される前記水素化芳香族化合物の流量、及び/又は、水素貯留手段から排出される水素含有ガスの流量を制御する制御手段を備えていることが好ましい。
【0015】
脱水素生成された水素含有ガスの量を監視する指標として、検出手段により水素含有ガスが貯留されるガス貯留室のガス圧或いはガス圧と水素濃度との両方を検出し、得られる検出値に基づいて、水素貯留手段に蓄えられる水素含有ガスの量が制御されることで、水素ガスの貯留量が制御される。これにより、非定常運転に具えて、要求される水素ガスの供給が可能になる。
【0016】
また、第1の発明は、第1の脱水素反応器に供給される水素化芳香族化合物の流量を検出する第1の流量検出手段と、分離手段から排出される(1)水素ガスの流量を検出する第2の流量検出手段、及び/又は、分離手段から排出される(3)液相の不飽和芳香族化合物の流量を検出する第3の流量検出手段と、を更に設け、制御手段において、検出された水素化芳香族化合物の流量、並びに検出された(1)水素ガス及び/又は(3)液相の不飽和芳香族化合物の流量に基づいて制御が行なわれる態様が好ましい。
【0017】
水素化芳香族化合物の流量により水素生成を制御でき、液相の不飽和芳香族化合物の流量により要求水素量を取得することができる。従って、水素需要の変動に即応して、水素生成の停止、水素の外部供給の開始又は抑制をコントロールすることができる。
すなわち、「水素生成量×1/3」モル相当の不飽和芳香族化合物(例えばトルエン)を、脱水素生成した混合ガスから分離除去し、この不飽和芳香族化合物と同モル量の水素化芳香族化合物(例えばメチルシクロヘキサン)を第1の脱水素反応器に供給することにより、外部への水素供給量は常に水素要求量(水素需要)に合致する。例えば、熱供給が継続している状況下で水素生成を停止したいときには、水素化芳香族化合物(例えばメチルシクロヘキサン)の供給を止める(流量を0(ゼロ)にする)と共に、不飽和芳香族化合物(例えばトルエン)の排出を止めることで、水素貯留手段に蓄えられる水素含有ガスの量を制御することができる。また、水素生成速度を抑制したいときには、分離器から第2の脱水素反応器に還流する供給液量を増やし、不飽和芳香族化合物(例えばトルエン)の含有率の高い留分を還流させるようにすればよい。
【0018】
第1の脱水素反応器及び第2の脱水素反応器における各触媒は、過熱液膜状態として、高活性複合金属触媒又は高転化複合金属触媒の質量に対する、水素化芳香族化合物を含む液相量の比率(液相量/触媒量[質量比])が1〜4の範囲である状態を形成していることが好ましい。触媒がこのような過熱液膜状態にあることにより、触媒温度と水素化芳香族化合物(基質;本実施形態ではメチルシクロヘキサン)の沸点との間には温度差があるために、触媒層内に温度勾配が形成され、脱水素反応させるために供給される液相水素化芳香族化合物(基質)は触媒に接した時点で直ぐに脱水素反応し、近傍で併発的に形成されている気泡中に生成物である水素とトルエン(芳香族生成物)並びに未反応のメチルシクロヘキサン(基質)が気化し気泡自体を成長させ、さらに気液界面へと離脱、そこで破砕され気泡成分は気相に放出される。すなわち、触媒を適度に湿潤させるような量の液相の水素化芳香族化合物が、触媒表面で沸騰状態で存在している。気相にある水素は沸騰する液相へ戻ることはできず、逆反応の芳香族水素化は阻止される。他方、脱離のあとに生じた触媒表面の空いた活性サイトは、液相基質に接し直ぐに脱水素反応を進行させるので、激しく沸騰させればさせるほど、言い換えれば、過熱液膜状態にある触媒の層内温度勾配が大きければ大きいほど、水素化芳香族化合物の転化率をより向上させることができる。
【0019】
第1の脱水素反応器における高活性複合金属触媒は、炭素材料を含む担体と、該担体に担持され、W、Ni、Pd、Ir、Mn、及びRuから選ばれる少なくとも一つとPtとを含む複合金属粒子とを含む触媒が好ましい。この触媒は、担体が炭素材料であることで疎水性を示すので、液相の水素化芳香族化合物(例えばメチルシクロヘキサン)の担体への捕捉吸着と細孔内貯留を容易にし、さらに近傍に散在するナノサイズ触媒粒子への表面移動と接触頻度を高めるのに適している。
また、同様の理由から、第2の脱水素反応器における高転化複合金属触媒は、Re、Ni、Pd、Ir、Mn及びRuから選ばれる少なくとも一種とPtとを含む複合金属粒子が、炭素材料を含む担体に担持されている場合が好ましい。
炭素材料を含む担体中でも、特にミクロ細孔(1〜3nm径)に富む多孔性高表面積活性炭繊維でつくられた繊布もしくはフェルトであることが好ましい。
【0020】
第1の発明は、更に、水素生成停止要求があった場合に、検出手段により検出されたガス貯留室のガス圧、或いはガス圧と水素濃度との両方が、所定の圧力範囲及び水素濃度範囲を満足するか否かを判定する判定手段を備え、ガス圧が所定の圧力範囲を満足しない、或いはガス圧と水素濃度との両方が所定の圧力範囲及び水素濃度範囲を満足しないときには、第1の脱水素反応器への液相の水素化芳香族化合物の供給、及び水素貯留手段からの水素含有ガスの排出の少なくとも一方が開始されるように制御されることが好ましい。
【0021】
上記において、ガス圧と水素濃度との両方が所定の圧力範囲及び水素濃度範囲を満足するか否かを判定する場合、ガス圧と水素濃度との積の値が所定の閾値以上であるか否かに基づいて判定することができる。
【0022】
水素生成停止要求があった場合は、運転停止するにあたり次に運転再開された場合に装置内に貯留されている水素含有ガスの量が少ないと水素供給能を維持できないおそれがある。そのため、ガス貯留室のガス圧が所定の圧力範囲を満足しない、或いはガス圧と水素濃度との両方が所定の圧力範囲及び水素濃度範囲を満たさないときには、水素含有ガスの貯留量が不足するため、第1の脱水素反応器への供給を増やすか、水素貯留手段から分離器に供給して第2の脱水素反応器に供される供給量を増やすことで、水素貯留手段における貯留量を保持することができる。
【0023】
第2の発明に係る水素ガス生成方法においても、第1の発明に係る水素ガス生成装置と共通する構成をとることにより、脱水素反応の反応場を小さく維持しながらも、高効率に脱水素反応を行なうことが可能になり、特にDSS等の運転オン・オフを含む非定常運転が生じる運転条件下における水素の供給開始又は停止が安定的に行なわれる。
【0024】
第2の発明においては、上記第1の発明のように、脱水素生成された水素含有ガスの量を監視する指標として、水素含有ガスが貯留されるガス貯留室のガス圧或いはガス圧と水素濃度との両方を検出し、得られる検出値に基づいて、水素貯留手段に蓄えられる水素含有ガスの量が制御されることで、水素ガスの貯留量が制御される。これにより、非定常運転に具えて、要求される水素ガスの供給が可能になる。
【0025】
また更に、第2の発明は、第1の発明と同様に水素化芳香族化合物の流量、並びに(1)水素ガス及び/又は(3)液相の不飽和芳香族化合物の流量に基づいて制御される態様が好ましい。水素化芳香族化合物の流量により水素生成を制御でき、液相の不飽和芳香族化合物の流量により要求水素量を取得することができる。従って、水素需要の変動に即応して、水素生成の停止、水素の外部供給の開始又は抑制をコントロールすることが可能である。
【0026】
本発明においては、小型でありながら、水素生成効率が高く、運転オン・オフを含む非定常運転、すなわち要求される水素量が大きく変動する場合にも安定的に水素供給の開始、停止が行なわれる水素供給システムを構築することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、装置を小型に維持しながら、ユースポイントでの水素需要量が大きく変動する場合でも脱水素単通転化率(one-pass conversion)を安定的に高く保ち、DSS(Daily Start-Up Shutdown)等の運転オン・オフを含む非定常運転を行なう場合の水素供給を安定的に開始又は停止する水素ガス生成装置及び水素ガス生成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1実施形態に係る水素ガス生成装置の構成例を示す概略構成図である。
【図2】メチルシクロヘキサンの液相脱水素反応の単流転化率(touch-and-go conversion)と触媒層温度との関係を示すグラフである。
【図3】(A)は基質供給速度と単流転化率との関係を示すグラフであり、(B)は基質供給速度と水素生成速度との関係を示すグラフである。
【図4】本発明の第1実施形態に係る水素ガス生成装置で実施される水素生成に関わる制御ルーチンを示す流れ図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係る高活性・高転化併用処理ルーチンを示す流れ図である。
【図6】本発明の第1実施形態に係る高転化処理ルーチンを示す流れ図である。
【図7】触媒を複合化したときの水素生成速度をその生成量によりPt単体と対比して示すグラフである。
【図8】Ni−Ru触媒とPtとの複合化による転化率の向上効果をPt単独及びNi−Ru単独と対比して示すグラフであり、a)はPt量が0.2wt%の場合を示し、b)はPt量が1wt%の場合を示す。
【図9】(A)は転化率が100%に到達するまでの推移を温度を変えて示すグラフであり、(B)は水素生成するときの速度定数の温度依存性を示すグラフである。
【図10】メチルシクロヘキサンの供給量と転化率及び水素生成量との関係を示すグラフであり、(A)は供給量を0.4mlとし、(B)は供給量を0.8mlとし、(C)は供給量を1.2mlとした場合である。
【図11】本発明の第2実施形態に係る水素ガス生成装置の構成例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して、本発明の水素ガス生成装置の実施形態について詳細に説明すると共に、該説明を通じて本発明の水素ガス生成方法の詳細についても具体的に説明する。なお、下記の実施形態では、脱水素用の燃料として用いる水素化芳香族化合物としてメチルシクロヘキサンを用いた場合を中心に説明する。
【0030】
(第1実施形態)
本発明の水素ガス生成装置の第1実施形態を図1〜図6を参照して説明する。本実施形態の水素ガス生成装置は、高活性複合金属触媒として炭素繊維担持Pt−W修飾Ni-Ruバイメタリック触媒(以下、「炭素繊維担持Pt−W系触媒」と称する。)を、高転化複合金属触媒として炭素繊維担持Pt−Re修飾Ni-Ruバイメタリック触媒(以下、「炭素繊維担持Pt−Re系触媒」と称する。)をそれぞれ用いた2基の脱水素反応器を搭載し、各触媒の加熱を図示しない固体酸化物型燃料電池(以下、「SOFC」と略記する。)の廃熱を利用して行なうように構成したものである。
【0031】
図1に示すように、本実施形態は、高活性複合金属触媒である炭素繊維担持Pt−W系触媒を備えた高活性反応器10と、高転化複合金属触媒である炭素繊維担持Pt−Re系触媒を備えた高転化反応器20と、水素含有ガスを一時的に貯留するバッファー機能を具えた水素貯留タンク30と、脱水素生成された水素含有ガス中の成分を気液分離する分離器40と、水素ガスの生成や外部への供給などを制御する制御装置50とを備えている。
高活性反応器10及び高転化反応器20中の触媒は、化学反応機能の呼称としての触媒に加えて、空間的広がりを持つ物質体としての触媒を念頭に特に「触媒層」ということがある。
【0032】
高活性反応器10は、炭素繊維担持Pt−W系触媒(高活性複合金属触媒)13が内部に配設された反応室11と、炭素繊維担持Pt−W系触媒13を加熱するための加熱器15とを設けて構成されており、加熱器15で加熱された炭素繊維担持Pt−W系触媒13にメチルシクロヘキサンが供給されると、脱水素反応を生じて水素ガスを含む水素含有ガスが生成されるようになっている。反応室11では、過熱液膜状態にある触媒で水素が生成されると、沸騰加熱下、激しく発生する気泡内に、吸着水素、基質が触媒表面から気相成分として加わり、成長した気泡が離脱し気液界面に到達して破砕すると、再び水素が液相に入ることはない。水素の沸騰液相への溶解は、熱力学的に許されないからである。
【0033】
炭素繊維担持Pt−W系触媒13は、高表面積活性炭繊維織布(炭素繊維)にナノサイズに微粒子化した白金−タングステン複合粒子(Pt−W複合粒子)が担持された、メチルシクロヘキサンの脱水素活性が高いPt−W系触媒(炭素繊維担持Pt−W修飾Ni-Ruバイメタリック触媒)であり、反応室11の底部、側部及び内部に複数の伝熱板及び/又は伝熱管を配置し、水素化芳香族化合物の沸点を大きく上回る温度で外部加熱するよう操作することで、吸熱的な脱水素反応熱並びに基質と生成物の脱離、蒸発熱を補償しつつ触媒層(炭素繊維担持Pt−W系触媒13)の過熱液膜状態を持続的に保持するように、熱流を制御、確保してある。担体にミクロ細孔(1〜3nm径)に富む多孔性高表面積活性炭繊維が用いられるので、過熱液膜状態が形成されていることにより、ミクロ細孔内に貯留された液相基質は毛細管現象の結果として蒸発し難くなり、液相のまま触媒粒子表面へ移動するため、脱水素反応が良好に進行する。
【0034】
高活性複合金属触媒は、水素化芳香族化合物(本実施形態ではメチルシクロヘキサン)を250℃〜300℃の温度領域で脱水素反応させたときの水素の空時収率が80Nm3-H2/m3-cat・h以上となる触媒であり、比較的多い流量で供給されたときにも効率良く脱水素反応を行なうことができる。高活性複合金属触媒は複数金属種のリガンド効果もしくはアンサンブル効果によって、表面活性サイトが水素化芳香族化合物の飽和炭化水素C−H結合を切断するα−解離能力と、α−解離で生じたアルキル吸着種の隣接位C−H結合を切断するβ−解離能力との二つを兼ね備えるようになり、C−H結合解離水素及び生成芳香環を触媒表面上に速やかに生成させると考えられる。
【0035】
この点に関して、触媒組成を炭素担持Ptを基準に、炭素担持Pt−Ir、炭素担持Pt−W、炭素担持Pt−Reと変えたときの反応時間に対する水素生成量の関係を図7に示す。ここでは、脱水素用の燃料としてデカリンを用いた場合を例に示す。
図7に示されるように、過熱液膜状態にある炭素担持Pt触媒が210℃加熱でデカリンをナフタレンと水素にする反応の初速度は27.8mmol/hであり、その初速度は、Ir、W、又はReをPtに複合させることによって2.0倍ないし3.4倍にまで向上し、それに伴なって水素生成量を飛躍的向上させることができる。これは、デカリン以外のメチルシクロヘキサン等を用いた場合も同様である。
尚、水素生成速度の向上は空時収率の増大をもたらすが、この空時収率の増大は、必要とする触媒量の軽減が図れ、装置をよりコンパクトにする効果、あるいは、処理すべき水素化芳香族化合物の供給流量(LHSV)の増大が図れ、装置をより高性能のものにする効果、が期待される。
【0036】
触媒の空時収率(Space Time Yield;STY)は、触媒の単位容積(m3)に対する時間(Hour)あたりの生成水素容積(標準状態でのm3)を表し、触媒担体の種類、嵩密度、又は使用量、触媒金属種の成分もしくは担持量、あるいは、反応基質(水素化芳香族化合物)の種類又は供給流量に依存し、一般に高い反応温度ほど活性向上に照応して大きくなる。
尚、反応基質の供給流量(時間当たりの液相空間速度、Liquid Hourly Space Velocity;LHSV)は、触媒の単位容積(m3)に対する時間当たりの液相基質供給容積(m3)を表し、触媒の空時収率が高まるほど大きくなる。
空時収率は大きいほど、装置のコンパクト性もしくは基質処理の性能面から好ましいが、装置の利用目的、コスト、供給される排熱の温度と熱流量などに基づいて設定される。供給基質の液相時間当たり空間速度は、同じ装置なら大きいほど好ましいが、一般には、目的とする水素生成の量的規模と時間特性に基づいて設定される。
ここで、触媒の空時収率は、流通法反応器において生成する水素の、触媒容積(m3)当りの標準状態換算流量(Nm3/h)として求められる。
【0037】
このPt−W触媒以外にも、例えば高表面積活性炭繊維織布にナノサイズに微粒子化した白金−イリジウム修飾バイメタリック複合粒子が担持されたPt−Ir系触媒なども好適に使用することができる。また、触媒金属粒子には、上記のほか、例えばPt−Pd系複合金属等の貴金属系の複合金属粒子を選択して用いることができる。
例えば多孔性高表面積活性炭顆粒担体を用い共含浸により調製したNi−Ru複合触媒では、メチルシクロヘキサン、デカリン、ジシクロヘキシルのような飽和炭化水素に対する脱水素活性をみる限りPt触媒に劣る傾向がみられるが、テトラリンやシクロヘキシルベンゼンのような一部に芳香環を残す程度の水素化芳香族化合物に対してはその差は小さく、芳香環配位吸着種のイプソ位炭素ベータ位のC−H結合開裂であれば充分に高い活性を持つことが分かっている。そこで、飽和炭化水素C−H結合のα位開裂を受け持つPt金属種でNi−Ru複合触媒を修飾するため、上記のNi−Ru複合触媒に対して更にジメチルシクロオクタジエニル白金(II)錯体で複合処理を行なったところ、図8に示すように、得られたPt/Ni−Ru触媒のメチルシクロヘキサン脱水素活性は、Pt成分単独あるいはNi−Ru複合成分単独に比べ、はるかに大きな値を与えた。即ち、
水素化芳香族化合物の脱水素反応には、多孔性高表面積炭素単体にPtと他の金属との複合金属を担持した触媒が好ましい。
具体的には、高活性な脱水素反応が期待できる点で、PtとW、Ni、Pd、Ir、Mn及びRuから選ばれる少なくとも1種との2種類の金属が複合化されたバイメタリック触媒が好ましい。
【0038】
なお、高活性複合金属触媒が高活性であることは、触媒金属の成分比率のみならず、複合金属をPtと共に構成するW、Ni等の金属の種類により決定される。
【0039】
また、担体としては、過熱液膜状態を形成して高活性に脱水素反応させる観点から、炭素材料を含む担体が望ましく、多孔性高表面積炭素担体が好ましい。
担体の細孔径としては、1.5nm以上3nm以下の範囲であることが好ましく、またBET比表面積については1000m2/g以上であることが好ましい。なお、BET法は、固体粒子の表面に液体窒素温度で分圧を変えつつ窒素ガスを吸着させ、その吸着量から比表面積を求める方法であり、具体的にはJIS K 8830に準拠した方法で測定される。
担体の好ましい例としては、多孔性高表面積活性炭担体(例えば、関西熱化学(株)製のMaxsorb(商品名)、KOH賦活、BET比表面積:3100m2/g、細孔径:2.0nm、顆粒径:7μm、嵩密度:3.3ml/g)、多孔性高表面積活性炭繊維織布(クラレケミカル(株)製、ACC、PAN延伸炭化、BET比表面積:1834m2/g、細孔径:1.5nm(スリット状)、嵩密度:3.3ml/g)等を挙げることができる。このような多孔性高表面積活性炭担体、多孔性高表面積活性炭繊維織布は、本発明における過熱液膜状態を形成してこれを保持し、脱水素反応が良好に行なえる点で特に好ましい。
【0040】
触媒層(炭素繊維担持Pt−W系触媒13)は、例えば、高表面積活性炭繊維織布に共含浸によりNi−Ru複合触媒を担持させた後、K2PtCl4含浸、NaBH4還元法によりPtで修飾し、その後W(CO)6錯体のアルコール含浸、煮沸処理によって作製することができる。
【0041】
反応室11には、外部に設置されたメチルシクロヘキサン貯留タンク(不図示)と接続された供給配管16の一端が接続されており、この供給配管16を通じて脱水素反応させるメチルシクロヘキサンを供給できるようになっている。この供給排管16には、メチルシクロヘキサンの供給量を制御するためのバルブV1と、メチルシクロヘキサンの流量を検出、流量調節するための流量計(FM;第1の流量検出手段)M1が取り付けられており、バルブV1及び流量計M1は制御装置50と電気的に接続され、バルブV1は制御装置からの信号で駆動されるようになっている。
【0042】
加熱器15は、反応室11の触媒が配置されている側に配設され、炭素繊維担持Pt−W系触媒13を加熱できるようになっている。本実施形態では、図示しないSOFCから廃熱が与えられて、炭素繊維担持Pt−W系触媒13が250℃〜300℃の温度領域で加熱されるように構成されている。
【0043】
本実施形態では、SOFCの排熱を有効利用する形態としたが、SOFC以外の燃料電池を利用したり、別に電気ヒータなどの加熱器を設けて加熱する構成にしてもよい。
また、上記の燃料電池や加熱器のほか、エンジン排熱回収利用が可能な移動体(例えば、乗用車、貨物自動車、軽自動車、ディーゼル機関車、船舶等)の排熱を適用してもよい。この場合、ガソリン、軽油、重油等のエネルギー利用効率を向上させることができる。また、火力発電(自家発電用エンジン、業務用ガスタービン、石炭火力スラグ溶融助燃用添加供給水素等による発電)の排熱を適用してもよく、この場合には天然ガス、灯油、重油、燃料炭等のエネルギー利用効率を向上させることができる。
また、酸化物還元(製鉄用酸化鉄予備還元、CCS分離CO2の還元再資源化等)あるいは電気化学的利用(追焚つきPEFC、SOFC)に適用してもよい。この場合、化学物質としての水素の利用可能性を拡げることができる。
【0044】
高転化反応器20は、炭素繊維担持Pt−Re系複合触媒(高転化複合金属触媒)23が内部に配設された反応室21と、炭素繊維担持Pt−Re系複合触媒23を加熱するための加熱器25とを設けて構成されており、加熱器25で加熱された高活性複合金属触媒23にメチルシクロヘキサンが供給されると、脱水素反応を生じて水素ガスを含む水素含有ガスが生成されるようになっている。反応室21では、過熱液膜状態にある触媒で水素と芳香族化合物が生成されると、沸騰加熱下、激しく発生する気泡内に、吸着している水素、芳香族生成物、並びに未反応基質が触媒表面から気相成分として加わり、成長した気泡が離脱し気液界面に到達して破砕すると、再び水素が液相に入ることはない。水素の沸騰液相への溶解は、熱力学的に許されないからである。
【0045】
この反応室21には、一端で接続された分離器40からメチルシクロヘキサン含有の液相混合物が供給され、該混合物中にトルエンとともに含有されているメチルシクロヘキサンが脱水素反応に供される。このように、一旦脱水素反応させた後の混合ガスを再び脱水素用の反応室に戻し、液相混合物含有のトルエンのもたらす反応阻害効果を高転化触媒機能によって抑制しつつ、残存するメチルシクロヘキサンの脱水素反応を促すことにより、メチルシクロヘキサンの脱水素単流転化率を反応室21においてできる限り100%に近づけることができる。小型ながら高い空時収率で単通転化率100%のメチルシクロヘキサン脱水素反応システムを構築するには、メチルシクロヘキサンとトルエンの混合組成を変えつつ、反応室21から分離器40への気相流れと、分離器40から反応室21への液相流れを循環させる装置構成は欠かすことができない。
【0046】
炭素繊維担持Pt−Re系複合触媒23は、高表面積活性炭繊維織布(炭素繊維)にナノサイズに微粒子化した白金−レニウム系複合粒子(Pt−Re系複合粒子)が担持された、メチルシクロヘキサンに対する単流転化率の高いPt−Re系触媒(炭素繊維担持Pt−Re修飾Ni-Ruバイメタリック触媒)であり、反応室21の底部、側部及び内部に複数配置する伝熱板及び/又は伝熱管と沸騰加熱する外部熱源のもたらす熱流によって、脱水素触媒の過熱液膜状態を保持するようにしてある。担体に炭素繊維を用いることで、ミクロ細孔内に留められ蒸発し難くなった基質は液相のまま移動して触媒に触れるので、脱水素反応が良好に進行する。
【0047】
高転化複合金属触媒は、脱水素反応速度の阻害要因となるトルエンを容易に表面から離脱させ、メチルシクロヘキサン濃度が低い場合でも脱水素反応を進行させる特性を有するものであるのが好ましい。これより、高転化反応器20における脱水素単流転化率は大きくなる。
【0048】
このPt−Re系触媒以外にも、例えば高表面積活性炭繊維織布にナノサイズに微粒子化した白金−イリジウム修飾バイメタリック複合粒子が担持されたPt−Ir系触媒なども好適に使用することができる。
【0049】
水素化芳香族化合物の脱水素反応の律速段階は、重水素同位体効果から、C−H結合の開裂過程と知られているが、同時に芳香族生成物の吸着阻害を受けるため、脱水素反応の進行もしくは芳香族化合物の液相溶存量が増えるに従い反応速度は低下する。反応温度を高めるとC−H開裂は起き易くなり、かつ芳香族吸着種は脱離し易くなるので、脱水素反応速度は増大する。触媒金属であるPtにReを複合させると、Ptに対するReのリガンド効果で活性サイトから芳香族化合物が遠ざけられるとされている。
この点に関して、複合触媒の例として炭素担持Pt−Reを用いて反応温度を変化させたときの水素生成量及び転化率を図9に示す。ここでは、脱水素用の燃料としてデカリンを用いた場合を例に示す。
図9に示されるように、回分法反応器を用い、280℃加熱で炭素担持Pt−Re複合触媒によるデカリン脱水素反応を行なうと、2時間後には全て(100%)のデカリンがナフタレンと水素に転化することが確かめられた。本実施形態の高転化反応器20のような流通法反応器では、100%の単流転化率を達成することは極めて難しいが、炭素担持Pt−Re触媒が、繰り返し還流されながら組成変化していく液相混合物に接することで、ナフタレン中に極めて少量のデカリンが溶存する状態になっても脱水素能を示すことがわかる。つまり、本実施形態の高転化反応器20に備えられた触媒は、高活性反応器10で脱水素反応に寄与せずに残った燃料の脱水素反応に寄与するものであり、該触媒が果たすべき役割により装置全体での転化率が効果的に高められる。これは、デカリン以外のメチルシクロヘキサン等を用いた場合も同様である。
【0050】
なお、高転化複合金属触媒が高転化性であることは、触媒金属の成分比率のみならず、複合金属をPtと共に構成するRe、Ni、Pd、Ir、Mn、Ru等の金属の種類により決定される。
【0051】
担体としては、過熱液膜状態を形成して高活性に脱水素反応させる観点から、炭素材料を含む担体が望ましく、多孔性高表面積炭素担体が好ましい。また、担体の細孔径、及びBET比表面積の好ましい範囲については、前記高活性複合金属触媒における担体と同様である。また、前記高活性複合金属触媒と同様の方法で作製することができる。
担体の好ましい例としては、多孔性高表面積活性炭担体(例えば、関西熱化学(株)製のMaxsorb)、多孔性高表面積活性炭繊維織布(クラレケミカル(株)製、ACC、PAN延伸炭化)等を挙げることができる。このような多孔性高表面積活性炭担体、多孔性高表面積活性炭繊維織布は、過熱液膜状態を形成して保持できる点で特に好ましい。
【0052】
高活性反応器10及び高転化反応器20において、メチルシクロヘキサンの脱水素反応は、250℃〜300℃の温度領域で行なわれるが、このときメチルシクロヘキサンを脱水素反応させる高活性複合金属触媒及び高転化複合金属触媒には、過熱液膜状態が形成されている。
過熱液膜状態とは、触媒が供給されるメチルシクロヘキサン等の沸点を越える温度で加熱された過熱状態にあり、該触媒が液相のメチルシクロヘキサン等が供給されることによって表面が僅かに湿潤して沸騰する液膜を有する状態をいう。具体的には、高活性複合金属触媒又は高転化複合金属触媒の質量に対する、水素化芳香族化合物を含む液相量の比率(液相量/触媒量[質量比])が1〜4である状態であることが好ましい。このように、メチルシクロヘキサンの沸点を越える温度で加熱された過熱状態で液膜状態が形成されていることで、触媒に大きな温度勾配(温度差)が形成され、その結果、炭素担体表面に生じた気泡には、未反応基質のみならず触媒粒子表面から水素と芳香族化合物の脱離が気相成分として加わり、気泡は成長し、離脱し、同時に空いた触媒活性サイトが脱水素反応に使われることとなる一方、気相に出た水素が再び沸騰している液相に戻って水素化逆反応に寄与することはないので、外部熱源温度と流入熱量に対して最も適切な基質供給速度が選択されたとき、水素ガス生成量は最大になる。
本実施形態では、高活性複合金属触媒の質量に対する液相量の比率(液相量/触媒量[質量比])は1.2となっており、また高転化複合金属触媒の質量に対する液相量の比率(液相量/触媒量[質量比])は1.2となっている。
【0053】
上記の中でも特に、過熱液膜状態の形成の観点からは、担体を多孔性高表面積炭素担体(特に多孔性高表面積活性炭繊維織布又は多孔性高表面積活性炭担体)とし、担体に担持される触媒金属を、PtとW、Ni、Pd、Ir、Mn及びRuから選ばれる少なくとも1種との2種類の金属が複合化されたバイメタリック触媒とすると共に、水素化芳香族化合物を含む液相量の比率(液相量/触媒量[質量比])を1〜4とすることが好ましい。
【0054】
ここで、触媒層と基質(水素化芳香族化合物)沸点との間の温度勾配については、沸騰に伴なって生じる気泡の脱離方向と気液界面へ向けての熱流の方向が合致するように触媒層と外部熱源を配置することが望ましく、触媒層の温度は水素化芳香族化合物(本実施形態ではメチルシクロヘキサン)の沸点(boiling point)に対して150℃〜200℃高くなっている態様が好ましい。過熱液膜状態では、触媒はメチルシクロヘキサン(基質)とトルエン(芳香族生成物)の混合溶液に浸った状態にあり、温度差が上記範囲にあることで激しく沸騰し絶え間なく気泡が発生し、触媒表面で生成された水素とトルエンは気泡内へ脱離し空いた触媒活性サイトをつくって脱水素反応性を保持するとともに、気泡自体を成長させ、気液界面に到達して破砕し、気泡内の水素、トルエン並びにメチルシクロヘキサンは液相から気相へ移動する。つまり、触媒に対する脱水素用の燃料量が多過ぎても少なすぎても過熱液膜状態が形成されず、良好な脱水素効率は得られない。図10(A)及び図10(C)に示すように、触媒層に供給されるメチルシクロヘキサン量が少な過ぎて直ぐに固気接触状態に移行する場合(0.4ml)も、逆にメチルシクロヘキサン量が多過ぎて懸濁状態になる場合(1.2ml)も水素生成量は増えず、図10(B)のように、触媒層が液に適度に浸る状態、すなわちメチルシクロヘキサン量を過熱液膜状態が形成される量(0.8ml)とすることで水素生成量が高められる。過熱液膜状態は、本反応条件では触媒0.1mlがメチルシクロヘキサン0.8mlに浸漬されたときに実現されている。適度に湿潤した触媒層は、反応室外部の熱源210℃とメチルシクロヘキサン沸点101℃との差に由来する温度勾配によって熱流付随の大きなエントロピー増大の場となる一方、沸騰現象に内在する熱移動(熱流)と物質移動(脱離)間の非平衡熱力学的カップリングを受けて平衡制約が解除されるために、過熱液膜状態にある触媒からの水素発生は、芳香族水素化逆反応が起きない分、平衡転化率100%を確保する温度(350℃)が必要な固気接触方式よりもはるかに低くて済むのである。なお、図10は、多孔性高表面積活性炭担体として関西熱化学(株)製のMaxsorb(商品名;KOH賦活、BET比表面積3100m2/g、細孔径2.0nm、顆粒径7μm、嵩密度3.3ml/g)にK2PtCl4含浸・NaBH4還元法で白金微粒子を担持(5wt%)した触媒0.30gでの結果である。
また、水素生成性を向上させる観点からは、触媒層温度が高いほど有利となるが、反応速度の増大と同時に蒸発速度の増大があるうえ、核沸騰から膜沸騰への移行、突沸の可能性も生じることから、1気圧下では、触媒温度が300℃未満(好ましくは下限が250℃)であって水素化芳香族化合物の沸点より150℃〜200℃高い温度である場合がより好ましい。この点、本実施形態では、触媒層温度は280℃になっている。なお、メチルシクロヘキサンの沸点は101℃である。
このように、過熱液膜状態の観点から、上記した担体及び触媒金属の選択に加え、触媒への燃料供給量及び触媒温度が重要である。
【0055】
また、触媒温度が250℃〜300℃の温度領域にある場合、図2に示すように、単流転化率は平衡転化率に見合って充分に大きな値が得られる。すなわち、
多孔性高表面積活性炭繊維織布(クラレケミカル(株)製、ACC、PAN延伸炭化、BET比表面積1834m2/g、細孔径1.5nm(スリット状)、嵩密度3.3ml/g)にK2PtCl4含浸・NaBH4還元法で調製した白金粒子担持(5wt%)触媒シート3.8g(10cm×20cm角形)を流通法底部に敷き、メチルシクロヘキサンを0.3〜3.5ml/minで液相供給、気相成分を外部凝縮して組成分析したところ、触媒相温度250℃〜300℃の領域であれば、平衡値と大差なく40%を超える単流反応転化率が求められる。
また、図3に示すように、触媒層に定常的に供給される基質量が多すぎると、触媒温度を充分に高められない領域が生じ、蒸発だけで出てしまう基質が増し、単流転化率及び水素生成速度はともに低下する一方、基質量が少なすぎると、触媒との接触機会が増すために単流転化率は向上するものの、水素生成量は低くなる。上記と同じ触媒及び反応器を使って外部熱源温度(触媒層温度)を285℃(255℃)と330℃(300℃)としたときの単流反応転化率及び水素生成速度のメチルシクロヘキサン(基質)供給速度依存性を調べると、図3(A)のように基質供給流量を抑えれば80%を超える転化率が得られるものの、図3(B)に示される通り、水素生成速度は空時収率表現で80Nm3-H2/m3-cat・h未満に止まり、基質供給速度が30〜40mmol/minのとき、空時収率はその値を大きく上回ることがわかる。しかしながら、転化率は小さいので、本実施形態のように、高活性反応器で未反応のまま蒸発した基質を生成トルエンとの液相混合物として後述するような高転化反応器に還流し、そこで再び水素生成反応を進行させ、その後に分離器で純トルエンを抜き出すことによって、単通転化率100%を達成するシステムが構成されることになる。
以上から、高活性複合金属触媒及び高転化複合金属触媒層の温度は、255℃〜450℃の範囲が適しており、中でも255℃〜300℃の範囲が好ましく、更には270℃〜300℃の範囲が好ましい。
【0056】
また、液相のメチルシクロヘキサンの沸点は101℃であり、脱水素生成されるトルエンの沸点も110℃であるため、これらは、触媒層の高い温度に影響されて気化する。触媒では、触媒内で併発的に脱水素反応が進行しており、高頻度で発生する気泡は吸着生成物を脱離させるのに有効である。脱離により空いた活性サイトの表面密度が高められ、反応速度が向上する。
【0057】
反応室21には、分離器40から排出されたメチルシクロヘキサン含有の液相混合物を供給するための還流配管28の一端が接続されており、分離器で分離された液相混合物を高転化複合金属触媒に供給できる構成になっている。
【0058】
加熱器25は、加熱器15と同様に、反応室21の触媒が配置されている側に配設されており、炭素繊維担持Pt−Re系複合触媒23を加熱できるようになっている。本実施形態では、図示しないSOFCから排熱が与えられて、炭素繊維担持Pt−Re系複合触媒23が250℃〜300℃の温度領域で加熱されるように構成されている。
【0059】
本実施形態では、SOFCの排熱を有効利用する形態としたが、別にPEFC(固体高分子形燃料電池)のアノードオフガス燃焼による低温度排熱の追焚き加熱、もしくは電気ヒータなどの加熱器を設けて加熱する構成にしてもよい。
また、上記の燃料電池や加熱器のほか、エンジン排熱回収利用が可能な移動体(例えば、乗用車、貨物自動車、軽自動車、ディーゼル機関車、船舶等)の排熱を適用してもよい。この場合、ガソリン、軽油、重油等のエネルギー利用効率を向上させることができる。また、火力発電(自家発電用エンジン、業務用ガスタービン、石炭火力スラグ溶融助燃用添加供給水素等による発電)の排熱を適用してもよく、この場合には天然ガス、灯油、重油、燃料炭等のエネルギー利用効率を向上させることができる。
また、酸化物還元(製鉄用酸化鉄予備還元、CCS分離CO2の還元再資源化等)あるいは電気化学的利用(追焚つきPEFC、SOFC)に適用してもよい。この場合、化学物質としての水素の利用可能性を拡げることができる。
【0060】
水素貯留タンク30は、ガスを貯留することができるガス貯留室を備えており、このガス貯留室に連通する逆流弁が取り付けられたガス排出配管17、27が接続されている。水素貯留タンク30は、このガス排出配管17、27により、高活性反応器10の反応室11、及び高転化反応器20の反応室21とそれぞれ接続されており、各反応室で脱水素生成された水素含有ガスがガス貯留室に供給されるようになっている。
【0061】
水素貯留タンク30のガス貯留室は、各反応室から導入された水素含有ガスを一時的に蓄えておく機能を果たすため、耐圧性の気相空間として形成されている。水素ガスの要求があったときには、水素貯留タンク30に蓄えられている水素含有ガスを用いることにより、非定常運転時における水素要求に対応することが可能である。
【0062】
水素貯留タンク30には、更に、ガス貯留室中に貯留されている水素含有ガスを分離器40に供給するためのバルブV2が取り付けられたガス供給配管31の一端が接続されている。バルブV2は、制御装置50と電気的に接続されており、制御装置からの信号に従って動作可能になっている。水素要求があったときにバルブV2を開状態にすることにより、貯留されている水素含有ガスは、ガス供給配管31を通じて分離器に供給される。
【0063】
また、水素貯留タンク30には、その一端にガス貯留室内のガス圧を検出するための圧力センサP1が取り付けられており、高活性反応器10及び高転化反応器20から導入される水素含有ガスの量と、分離器40に供給される水素含有ガスの量とで変化するガス量を、ガス圧を指標に監視できるようになっている。圧力センサP1は、制御装置50と電気的接続されており、検出されたガス圧が自動的にあるいは必要に応じて制御装置50に取り込まれるようになっている。
【0064】
水素貯留タンク30には、ガス圧を検出する圧力センサのほか、水素濃度を検知するための水素センサが取り付けられていてもよい。水素センサは、ガス貯留部内のガス中の水素量を検出することができ、使用可能な水素ガス量を容易に把握することができる。
【0065】
分離器40は、水素貯留タンク30に接続されたガス供給配管31の他端と接続されており、脱水素反応の転化率を高めたり、水素生成及び水素の外部供給を行なうために、水素貯留タンク30中の水素含有ガスが供給されるようになっている。
【0066】
分離器40は、温度差を用いて蒸留により分離する蒸留塔であり、反応室11、21で脱水素生成されて水素貯留タンク30で混合された混合ガスが供給されると、この蒸留塔の塔頂側から水素ガスを排出し、トルエン純度を高められた塔底側から液化されたトルエンを排出すると共に、塔頂と塔底の間の中段において、メチルシクロヘキサンを含有する混合物が液化する温度に冷やされて液相として排出されるようになっている。中段から排出された液相混合物は、高転化反応器20に供給されて再び脱水素反応に供される。このようにすることで、本実施形態の単通転化率(one-pass conversion)は、外部熱源温度の変動や求められる水素生成速度に関係なくほぼ100%を保持することができる。
【0067】
分離器40には、蒸留塔の中段から排出されるメチルシクロヘキサン含有の液相混合物を高転化反応器20に還流するための還流配管28の他端が接続されている。また、分離器40には、塔頂側で分離された水素ガスを外部に排出するための水素排出配管41がその一端で接続されている。水素排出配管41には、水素ガスの排出量を制御するためのバルブV3と、その排出量を検出、流量調節するための流量計(FM;第2の流量検出手段)M2が取り付けられており、バルブV3及び流量計M2は制御装置50と電気的に接続され、制御装置50からの信号で駆動されるようになっている。
【0068】
更に、蒸留塔の塔底側で分離された液相のトルエン(TOL)を外部に排出するためのトルエン排出管43が一端で接続されている。トルエン排出管43には、トルエンの排出量を制御するためのバルブV4と、その排出量を検出、流量調節するための流量計(FM;第3の流量検出手段)M3が取り付けられており、バルブV4及び流量計M3も制御装置50と電気的に接続され、制御装置50からの信号で駆動されるようになっている。
【0069】
制御装置50には、圧力センサP1、バルブV1〜V4、及び流量計M1〜M3が電気的に接続されており、圧力センサP1及び流量計M1〜M3で検出された検出値を自動的にあるいは必要に応じて取り込み、取り込まれた値に基づいてバルブV1〜V4の開閉及び流量計による流量調節を制御することにより、水素ガスの生成量や外部供給量、及び水素貯留タンク30での貯留量を所望の範囲にコントロールすることができる。これより、小型でありながら高効率に水素生成することが可能であり、非定常運転時でも水素ガスの供給を安定的に開始、停止することが可能である。
【0070】
本実施形態では、装置の運転スイッチがオンされると、反応器内の触媒が過熱液膜状態となっているかを判定した上で、外部からの水素要求量や水素ガス貯留器に貯留されている水素含有ガスの貯留量を判定し、判定結果に基づいて水素供給するための通常運転に移行する。
以下、本実施形態の制御装置50による制御ルーチンについて、図4〜6を参照し、水素ガスの脱水素生成・供給及び貯留を、外部からの水素要求量に応じて、高活性処理及び高転化処理の双方を行なう処理ルーチンと高転化処理を主に行なう処理ルーチンとに切り替えて行なう制御ルーチンを中心に説明する。図4は、外部からの水素要求に応じて水素生成・供給等を行なうメインルーチンを示すものであり、図5は外部からの水素要求量が所定値を超える場合に行なう高活性・高転化処理ルーチンを示し、図6は外部からの水素要求量が所定値以下である場合に行なう高転化処理ルーチンを示す。
【0071】
ステップ100において運転スイッチがオン(ON)され、本メインルーチンが実行されると、まずステップ102において、装置内のバルブV1〜V4の開閉状態がチェックされ、所定の初期状態(本実施形態では全て閉状態)に戻された後、次のステップ104において、加熱器15、25をオンして昇温を開始する。
【0072】
次いで、ステップ106において、加熱器15、25で加熱されている触媒13、23がそれぞれ、250℃〜300℃の所定の温度領域に到達しているか否かが判定される。ステップ106において、加熱器15、25の双方の温度が所定の温度領域に到達していると判定されたときには、次のステップ108に移行し、バルブV1を開いてメチルシクロヘキサンを高活性反応器10に供給すると共に、バルブV2を開き、水素含有ガスがバルブV2を備えたガス供給配管31を通って分離器40に送られる。このとき、分離器40で分離されたメチルシクロヘキサン含有の液相混合物が還流配管28を通じて高転化反応器20に供給されている。
ステップ106において、加熱器15、25のいずれかの温度が所定の温度領域に未だ到達していないと判定されたときには、温度未達の触媒の温度が所定の温度領域まで到達するまで繰り返し判定される。
【0073】
次に、ステップ110において、触媒13、23がそれぞれ、過熱液膜状態にあること、すなわち触媒質量に対する液相量(シクロメチルヘキサン量)の比(液相量/触媒量[質量比])が1〜4の範囲にあるか否かが判定される。本実施形態では、液相量/触媒量の比は、シクロメチルヘキサン(基質)の液面高さを監視し、液面高さから換算される液相量と反応器内に配設された各触媒の質量とから算出されるようになっている。
【0074】
ステップ110において、触媒が既に「1≦液相量/触媒量≦4」の範囲を満たし、過熱液膜状態にあると判定されたときには、高活性反応器10及び高転化反応器20で脱水素生成を所望とする速度で迅速に行なえる条件となっているので、次のステップ112に移行して、水素貯留タンク30の圧力センサP1の検出値pが取り込まれる。一方、ステップ110において、触媒が既に「1≦液相量/触媒量≦4」を満たさず、未だ過熱液膜状態が得られていないと判定されたときには、脱水素反応を迅速に行なえる条件にないので、必要に応じて過熱液膜状態となるまで判定を繰り返しながら待機する。
【0075】
ステップ112で検出値pが取り込まれると、次のステップ114において、検出値pが所定値P以上であるか否かが判定される。検出値pが所定値P以上であると判定されると、充分な水素含有ガスが貯留されており、外部への水素供給が可能な状態にあるので、ステップ116において水素要求があるか否かが判定される。そして、ステップ116で水素要求があるときには、次のステップ118において、水素要求量が所定値を超えるものか否かが判定される。
【0076】
逆にステップ114において、検出値pが所定値P未満であると判定されたときには、外部への水素供給が充分に行なえないおそれがあるので、水素量を確保するために、ステップ112に戻って同じ制御を継続し、検出値pが所定値P以上に達した後にステップ116に移行する。
【0077】
ステップ116において、水素要求が未だないときには、水素をさらに生成して外部に供給したり貯留量を高める等の必要がないため、ステップ115でバルブV1を閉じ、水素要求があるまで待機する。
【0078】
ステップ118において、外部からの水素要求量が、供給可能な能力範囲である所定値を超えるときには、水素供給能力を確保するために、次のステップ120で高活性・高転化処理ルーチンが実行される。一方、外部からの水素要求量が、供給可能な能力範囲である所定値以下であるときには、要求されている水素量を賄える状態にあるので、次のステップ140で高転化処理ルーチンが実行される。
【0079】
続いて、本実施形態で実行される高活性・高転化処理ルーチンについて、図5を参照して説明する。
ステップ120で高活性・高転化処理ルーチンが実行されると、ステップ122において、バルブV1〜V4の全てが開状態とされ、メチルシクロヘキサンの高活性反応器10への供給量を増大しながら、水素排出配管41を通じて水素ガスを外部に供給する。このとき、脱水素反応で生成された水素含有ガスはガス供給配管31を通じて分離器40に送られ、分離器40で水素含有ガスから分離された水素ガスは外部の水素使用装置(ここではSOFC)に供給される。水素ガスは、メチルシクロヘキサン(水素化芳香族化合物)の3倍量が排出(外部供給)され、この水素ガスの排出と共にトルエン排出管43を介してトルエンも排出される。
【0080】
そして、ステップ124において、流量計M1、M2、M3の検出値が取り込まれる。流量計M1、M2、M3により、メチルシクロヘキサンの供給量、水素ガスの排出量、及びトルエン(液相)の排出量が取り込まれると、次のステップ126において、水素要求量に見合う量が確保されるように流量計M1、M2、M3における開度が調整される。具体的には、「水素生成量×1/3」モル相当のメチルシクロヘキサン(水素化芳香族化合物)が高活性反応器10に供給されるように、「流量計M1の流量=流量計M2の流量×1/3」を満たす開度に調整する。このとき、トルエン(不飽和芳香族化合物)は、メチルシクロヘキサンと同モル量が混合ガスから分離除去される。
【0081】
ここで、ステップ128において、外部からの水素要求量が、供給可能な能力範囲である所定値を超えるときには、次のステップ130で水素貯留タンク30の圧力センサP1の検出値pが取り込まれる。ステップ130で検出値pが取り込まれると、次のステップ132において、検出値pが所定値P以上であるか否かが判定される。検出値pが所定値P以上であると判定されると、充分な水素含有ガスが貯留されており、外部への水素供給が可能な状態にあるので、次のステップ134で水素要求が継続しているか否かが判定される。そして、ステップ134で水素要求が継続しているときには、継続的に水素ガスの供給が可能な状態にあることからステップ124に戻って、同様のルーチンを継続する。
一方、ステップ134において、水素要求が停止されたときには、ステップ135において、水素貯留タンク30の圧力センサP1の検出値pが所定値P以上を維持しているか否かが判定され、検出値p≧Pが維持されていない状態にあると判定されたときには、水素貯留量が少なく水素要求された際に水素量が不足するおそれがあるため、ステップ137でバルブV3及びV4を閉じ、バルブV1及びV2を開いた状態にして脱水素反応を継続し、検出値pが所定値Pに達するまで繰り返す。逆に、ステップ135で検出値p≧Pが維持されていると判定されたときには、充分な水素貯留量が確保された状態にあるので、ステップ136において、バルブV1〜V4の全てを閉状態とし、その後、本ルーチンを終了する。
【0082】
ステップ132において、検出値pが閾値Pに達していないと判定されたときには、水素貯留タンク30に貯留されている水素含有ガスの量が少なく、供給可能な水素量が不足するおそれがあるため、ステップ138で再び流量計M1、M2、M3の流量が取り込まれ、ステップ139で流量計M1、M2、M3の各々の開度が調節される。
本実施形態では、水素貯留タンク30の圧力センサの検出値pに基づいて判定する場合を示したが、圧力(ガス圧)のみで判定するほか、圧力センサと水素濃度センサを水素貯留タンク30に取り付けて、ガス圧と水素濃度を検出してガス圧及び水素濃度の積等を求め、該値が所定の閾値以上であるか否かにより判定するようにしてもよい。
【0083】
また、ステップ128において、外部からの水素要求量が、供給可能な能力範囲である所定値以下であるときには、要求されている水素量を賄うことができるので、ステップ140に移行して、高転化処理ルーチンが実行される。
【0084】
次に、本実施形態で実行される高転化処理ルーチンを図6を参照して説明する。
ステップ140で高転化処理ルーチンが実行されると、ステップ142において、バルブV1を閉じ、バルブV3,V4を開いた後、ステップ144において、流量計M1、M2、M3の検出値が取り込まれる。流量計M1、M2、M3により、メチルシクロヘキサンの供給量、水素ガスの排出量、及びトルエン(液相)の排出量が取り込まれると、ステップ146において、流量計M1、M2、M3における開度が調整される。具体的には、水素要求量に見合う量が確保されるようにM2の開度が調整され、高転化処理ルーチンではメチルシクロヘキサン(水素化芳香族化合物)の高活性反応器10への供給及びトルエン(不飽和芳香族化合物)の混合ガスからの分離除去は行なわれないことから、M1及びM3における開度は0に調整される。
【0085】
ここで、ステップ148において、外部からの水素要求量が、供給可能な能力範囲である所定値以下であると判定されたときには、次のステップ150で水素要求が継続しているか否かが判定される。ステップ150で水素要求が継続しているときには、継続的に水素ガスの供給が可能な状態にあることから、ステップ144に戻って、同様のルーチンが継続される。
一方、ステップ150において、水素要求が停止されたときには、ステップ152において、水素貯留タンク30の圧力センサP1の検出値pが取り込まれ、次のステップ154で水素貯留タンク30の圧力センサP1の検出値pが所定値P以上を維持しているか否かが判定される。ステップ154において、検出値p≧Pが維持されていない状態にあると判定されたときには、水素貯留量が少なく水素要求された際に水素量が不足するおそれがあるため、ステップ158でバルブV3及びV4を閉じ、バルブV1及びV2を開いた状態にして脱水素反応を継続し、検出値pが所定値Pに達するまで繰り返す。逆に、ステップ154で検出値p≧Pが維持されていると判定されたときには、充分な水素貯留量が確保された状態にあるので、ステップ156において、バルブV1〜V4の全てを閉状態とし、その後、本ルーチンを終了する。
【0086】
ステップ148において、外部からの水素要求量が、供給可能な能力範囲である所定値を超えると判定されたときには、外部から要求される水素量を賄えないため、再びステップ120に移行し、上記と同様にして、高活性・高転化処理ルーチンが実行される。
【0087】
以上のように、運転のオン・オフを含む非定常運転がされるときでも、バッファーとなる水素含有ガスを貯留できるようにし、水素要求量に合わせてメチルシクロヘキサンの供給量やトルエンの排出量が制御されて水素含有ガスが脱水素生成されるので、安定的に水素ガスの供給を開始、停止することが可能である。また、メチルシクロヘキサンは高活性反応器10で迅速に水素生成されると共に、還流により、水素含有ガス中に残存するメチルシクロヘキサンが高転化反応器20で再び脱水素反応に供されるので、小型に構成しながらも、高い単通転化率で水素ガスを生成、供給することが可能である。
【0088】
(第2実施形態)
本発明の水素ガス生成装置の第2実施形態を図11を参照して説明する。本実施形態は、高活性反応器及び高転化反応器の双方に、気相のメチルシクロヘキサンを液化させる冷却用部材として冷却用板を触媒上方に配置し、各反応室ごとに気相中の未反応のメチルシクロヘキサンを冷却用板で液化して各触媒に戻し、再び脱水素反応させるようにしたものである。
【0089】
なお、水素化芳香族化合物としてメチルシクロヘキサンを用いた場合を示すが、上記第1実施形態と同様に他の水素化芳香族化合物も使用可能である。なお、デカリンはシス体とトランス体からなり、シス体からの水素生成速度がより大きいけれども、混合物のまま使用可能であるデカリンとテトラリンから生成するナフタレンは融点が高いため扱いが難しいけれども、メチルシクロヘキサンとの混合物を水素化芳香族化合物とすると、ナフタレンのトルエン溶液(ナフタレン油)が生成するので、メチルシクロヘキサンの水素含有密度6.2wt%を6.4wt%程度に高めることが可能である。また、第1実施形態と同様の構成要素には同一の参照符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0090】
本実施形態では、図11に示すように、過熱液膜状態になるようにメチルシクロヘキサンを供給して脱水素させることに加え、触媒上で脱水素反応に寄与せず未反応のまま残ったメチルシクロヘキサンを反応室ごとに還流(液化)して再び各触媒上に戻す「単流転化」を繰り返し行なえるように、反応室11、21にそれぞれ、二枚の湾曲状板の一端を繋ぎ合わせて底部側(重力方向側)に凸形状を有する冷却用部材19、29が設けられた構成となっている。
【0091】
冷却用部材には、特に制限はなく、図11に示すように二枚の湾曲状板の一端を繋ぎ合わせたものに限らず、複数の冷却用板を並べて設けたフィンとしてもよく、例えば、冷却水を挿通する冷却水管と、この冷却水管の管外壁に取付けられた複数枚の円盤状フィンとで構成された態様であってもよい。
【0092】
このような構成にすることにより、各反応室での反応速度がより向上し、反応室ごとの転化率を高めることができる。
【0093】
上記の実施形態では、水素化芳香族化合物としてメチルシクロヘキサンを用いた場合を中心に説明したが、メチルシクロヘキサン以外の上記他の水素化芳香族化合物を用いた場合にも同様の効果が奏される。
また、高活性反応器及び高転化反応器は、それぞれ1基ずつ配設した場合を説明したが、各々について複数基設けられていてもよく、また各反応器ごとに水素貯留タンクが配設された態様であってもよい。
【符号の説明】
【0094】
10・・・高活性反応器
11,21・・・反応室
13・・・高活性複合金属触媒
15,25・・・加熱器
19,29・・・冷却用部材
20・・・高転化反応器
23・・・高転化複合金属触媒
30・・・水素貯留タンク
40・・・分離器
50・・・制御装置
P1・・・圧力センサ
V1〜V4・・・バルブ
M1〜M3・・・流量計
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化芳香族化合物を250℃〜300℃の温度領域で脱水素反応させたときの水素の空時収率が80Nm3-H2/m3-cat・h以上の高活性複合金属触媒を備え、供給された液相の水素化芳香族化合物を前記高活性複合金属触媒の過熱液膜状態下、脱水素反応させて水素含有ガスを生成する第1の脱水素反応器と、
Re、Ni、Pd、Ir、Mn及びRuから選ばれる少なくとも一種とPtとを含む複合金属粒子が担持された高転化複合金属触媒を備え、供給された水素化芳香族化合物及びその脱水素生成物を含む液相混合物を前記高転化複合金属触媒の過熱液膜状態下、脱水素反応させて水素含有ガスを生成する第2の脱水素反応器と、
前記第1の脱水素反応器及び前記第2の脱水素反応器で生成された水素含有ガスが給排されると共に、供給された水素含有ガスの状態で水素を一時的に貯留する水素貯留手段と、
前記水素貯留手段から供給された前記水素含有ガスから、(1)水素ガスと(2)未反応の前記水素化芳香族化合物及び不飽和芳香族化合物を含む液相混合物と(3)液相の不飽和芳香族化合物とを分離すると共に、分離された前記液相混合物を前記第2の脱水素反応器に供給する分離手段と、
を備えた水素ガス生成装置。
【請求項2】
前記水素貯留手段は、水素含有ガスが貯留されるガス貯留室のガス圧或いはガス圧と水素濃度との両方を検出する検出手段を備えると共に、更に、
前記検出手段で検出されたガス圧或いはガス圧と水素濃度との両方が所定の圧力及び水素濃度の範囲に維持されるように、前記第1の脱水素反応器に供給される前記水素化芳香族化合物の流量、及び前記水素貯留手段から排出される前記水素含有ガスの流量の少なくとも一方を制御する制御手段を備えた請求項1に記載の水素ガス生成装置。
【請求項3】
前記第1の脱水素反応器に供給される前記水素化芳香族化合物の流量を検出する第1の流量検出手段と、
前記分離手段から排出される前記(1)水素ガスの流量を検出する第2の流量検出手段、及び前記分離手段から排出される前記(3)液相の不飽和芳香族化合物の流量を検出する第3の流量検出手段の少なくとも一方と、
を更に備え、前記制御手段は、検出された前記水素化芳香族化合物の流量、並びに検出された前記(1)水素ガス及び(3)液相の不飽和芳香族化合物の少なくとも一方の流量に基づいて、前記制御を行なう請求項2に記載の水素ガス生成装置。
【請求項4】
前記第1の脱水素反応器及び前記第2の脱水素反応器は、前記高活性複合金属触媒又は前記高転化複合金属触媒の質量に対する、前記水素化芳香族化合物を含む液相量の比率(液相量/触媒量[質量比])が1〜4である前記過熱液膜状態で脱水素反応させる請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の水素ガス生成装置。
【請求項5】
前記高活性複合金属触媒は、炭素材料を含む担体、及び、該担体に担持され、W及びNi、Pd、Ir、Mn、及びRuから選ばれる少なくとも一つとPtとを含む複合金属粒子を含む請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の水素ガス生成装置。
【請求項6】
前記高転化複合金属触媒は、前記複合金属粒子が炭素材料を含む担体に担持されている請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の水素ガス生成装置。
【請求項7】
前記高活性複合金属触媒及び前記高転化複合金属触媒の少なくとも一方は、活性炭繊維を担体として複合金属粒子が担持されている請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の水素ガス生成装置。
【請求項8】
水素生成停止要求があった場合に、前記検出手段により検出されたガス貯留室のガス圧或いはガス圧と水素濃度との両方が、所定の圧力範囲及び水素濃度範囲を満足するか否かを判定する判定手段を更に備え、
前記ガス圧或いはガス圧と水素濃度との両方が所定の圧力範囲及び水素濃度範囲を満足しないときには、前記第1の脱水素反応器への液相の水素化芳香族化合物の供給、及び前記水素貯留手段からの水素含有ガスの排出の少なくとも一方を開始する請求項2〜請求項7のいずれか1項に記載の水素ガス生成装置。
【請求項9】
水素化芳香族化合物を250℃〜300℃の温度領域で脱水素反応させたときの水素の空時収率が80Nm3-H2/m3-cat・h以上の高活性複合金属触媒に、液相の水素化芳香族化合物を供給し、前記高活性触媒の過熱液膜状態下、脱水素反応させて水素含有ガスを生成する第1の脱水素工程と、
Re、Ni、Pd、Ir、Mn及びRuから選ばれる少なくとも一種とPtとを含む複合金属粒子が担持された高転化複合金属触媒に、水素化芳香族化合物及びその脱水素生成物を含む液相混合物を供給し、前記高転化複合金属触媒の過熱液膜状態下、脱水素反応させて水素含有ガスを生成する第2の脱水素工程と、
前記第1の脱水素工程及び前記第2の脱水素工程で生成された水素含有ガスが給排されると共に、水素含有ガスが供給されたときには、水素含有ガスの状態で水素を一時的に貯留する水素貯留工程と、
前記水素貯留工程で貯留された前記水素含有ガスから、(1)水素ガスと(2)未反応の前記水素化芳香族化合物及び不飽和芳香族化合物を含む液相混合物と(3)液相の不飽和芳香族化合物とを分離する分離工程と、
を有し、前記第2の脱水素工程は、前記分離工程で分離された前記液相混合物を高転化複合金属触媒で脱水素反応させる水素ガス生成方法。
【請求項10】
前記水素貯留工程は、水素含有ガスが貯留されるガス貯留室のガス圧或いはガス圧と水素濃度との両方を検出する検出工程を含むと共に、更に、
前記検出工程で検出されたガス圧或いはガス圧と水素濃度との両方が所定の圧力及び水素濃度の範囲に維持されるように、前記第1の脱水素工程で高活性複合金属触媒に供給される前記水素化芳香族化合物の流量、及び前記水素貯留工程で貯留された前記水素含有ガスを排出する流量の少なくとも一方を制御する制御工程を備えた請求項9に記載の水素ガス生成方法。
【請求項11】
前記制御工程は、前記第1の脱水素反応器に供給される前記水素化芳香族化合物の流量、並びに前記分離手段から排出される前記(1)水素ガス及び(3)液相の不飽和芳香族化合物の少なくとも一方の流量を検出し、検出された値に基づいて前記制御を行なう請求項10に記載の水素ガス生成方法。
【請求項12】
前記第1の脱水素工程及び前記第2の脱水素工程は、前記高活性複合金属触媒又は前記高転化複合金属触媒の質量に対する、前記水素化芳香族化合物を含む液相量の比率(液相量/触媒量[質量比])が1〜4である前記過熱液膜状態で脱水素反応させる請求項9〜請求項11のいずれか1項に記載の水素ガス生成方法。
【請求項1】
水素化芳香族化合物を250℃〜300℃の温度領域で脱水素反応させたときの水素の空時収率が80Nm3-H2/m3-cat・h以上の高活性複合金属触媒を備え、供給された液相の水素化芳香族化合物を前記高活性複合金属触媒の過熱液膜状態下、脱水素反応させて水素含有ガスを生成する第1の脱水素反応器と、
Re、Ni、Pd、Ir、Mn及びRuから選ばれる少なくとも一種とPtとを含む複合金属粒子が担持された高転化複合金属触媒を備え、供給された水素化芳香族化合物及びその脱水素生成物を含む液相混合物を前記高転化複合金属触媒の過熱液膜状態下、脱水素反応させて水素含有ガスを生成する第2の脱水素反応器と、
前記第1の脱水素反応器及び前記第2の脱水素反応器で生成された水素含有ガスが給排されると共に、供給された水素含有ガスの状態で水素を一時的に貯留する水素貯留手段と、
前記水素貯留手段から供給された前記水素含有ガスから、(1)水素ガスと(2)未反応の前記水素化芳香族化合物及び不飽和芳香族化合物を含む液相混合物と(3)液相の不飽和芳香族化合物とを分離すると共に、分離された前記液相混合物を前記第2の脱水素反応器に供給する分離手段と、
を備えた水素ガス生成装置。
【請求項2】
前記水素貯留手段は、水素含有ガスが貯留されるガス貯留室のガス圧或いはガス圧と水素濃度との両方を検出する検出手段を備えると共に、更に、
前記検出手段で検出されたガス圧或いはガス圧と水素濃度との両方が所定の圧力及び水素濃度の範囲に維持されるように、前記第1の脱水素反応器に供給される前記水素化芳香族化合物の流量、及び前記水素貯留手段から排出される前記水素含有ガスの流量の少なくとも一方を制御する制御手段を備えた請求項1に記載の水素ガス生成装置。
【請求項3】
前記第1の脱水素反応器に供給される前記水素化芳香族化合物の流量を検出する第1の流量検出手段と、
前記分離手段から排出される前記(1)水素ガスの流量を検出する第2の流量検出手段、及び前記分離手段から排出される前記(3)液相の不飽和芳香族化合物の流量を検出する第3の流量検出手段の少なくとも一方と、
を更に備え、前記制御手段は、検出された前記水素化芳香族化合物の流量、並びに検出された前記(1)水素ガス及び(3)液相の不飽和芳香族化合物の少なくとも一方の流量に基づいて、前記制御を行なう請求項2に記載の水素ガス生成装置。
【請求項4】
前記第1の脱水素反応器及び前記第2の脱水素反応器は、前記高活性複合金属触媒又は前記高転化複合金属触媒の質量に対する、前記水素化芳香族化合物を含む液相量の比率(液相量/触媒量[質量比])が1〜4である前記過熱液膜状態で脱水素反応させる請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の水素ガス生成装置。
【請求項5】
前記高活性複合金属触媒は、炭素材料を含む担体、及び、該担体に担持され、W及びNi、Pd、Ir、Mn、及びRuから選ばれる少なくとも一つとPtとを含む複合金属粒子を含む請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の水素ガス生成装置。
【請求項6】
前記高転化複合金属触媒は、前記複合金属粒子が炭素材料を含む担体に担持されている請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の水素ガス生成装置。
【請求項7】
前記高活性複合金属触媒及び前記高転化複合金属触媒の少なくとも一方は、活性炭繊維を担体として複合金属粒子が担持されている請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の水素ガス生成装置。
【請求項8】
水素生成停止要求があった場合に、前記検出手段により検出されたガス貯留室のガス圧或いはガス圧と水素濃度との両方が、所定の圧力範囲及び水素濃度範囲を満足するか否かを判定する判定手段を更に備え、
前記ガス圧或いはガス圧と水素濃度との両方が所定の圧力範囲及び水素濃度範囲を満足しないときには、前記第1の脱水素反応器への液相の水素化芳香族化合物の供給、及び前記水素貯留手段からの水素含有ガスの排出の少なくとも一方を開始する請求項2〜請求項7のいずれか1項に記載の水素ガス生成装置。
【請求項9】
水素化芳香族化合物を250℃〜300℃の温度領域で脱水素反応させたときの水素の空時収率が80Nm3-H2/m3-cat・h以上の高活性複合金属触媒に、液相の水素化芳香族化合物を供給し、前記高活性触媒の過熱液膜状態下、脱水素反応させて水素含有ガスを生成する第1の脱水素工程と、
Re、Ni、Pd、Ir、Mn及びRuから選ばれる少なくとも一種とPtとを含む複合金属粒子が担持された高転化複合金属触媒に、水素化芳香族化合物及びその脱水素生成物を含む液相混合物を供給し、前記高転化複合金属触媒の過熱液膜状態下、脱水素反応させて水素含有ガスを生成する第2の脱水素工程と、
前記第1の脱水素工程及び前記第2の脱水素工程で生成された水素含有ガスが給排されると共に、水素含有ガスが供給されたときには、水素含有ガスの状態で水素を一時的に貯留する水素貯留工程と、
前記水素貯留工程で貯留された前記水素含有ガスから、(1)水素ガスと(2)未反応の前記水素化芳香族化合物及び不飽和芳香族化合物を含む液相混合物と(3)液相の不飽和芳香族化合物とを分離する分離工程と、
を有し、前記第2の脱水素工程は、前記分離工程で分離された前記液相混合物を高転化複合金属触媒で脱水素反応させる水素ガス生成方法。
【請求項10】
前記水素貯留工程は、水素含有ガスが貯留されるガス貯留室のガス圧或いはガス圧と水素濃度との両方を検出する検出工程を含むと共に、更に、
前記検出工程で検出されたガス圧或いはガス圧と水素濃度との両方が所定の圧力及び水素濃度の範囲に維持されるように、前記第1の脱水素工程で高活性複合金属触媒に供給される前記水素化芳香族化合物の流量、及び前記水素貯留工程で貯留された前記水素含有ガスを排出する流量の少なくとも一方を制御する制御工程を備えた請求項9に記載の水素ガス生成方法。
【請求項11】
前記制御工程は、前記第1の脱水素反応器に供給される前記水素化芳香族化合物の流量、並びに前記分離手段から排出される前記(1)水素ガス及び(3)液相の不飽和芳香族化合物の少なくとも一方の流量を検出し、検出された値に基づいて前記制御を行なう請求項10に記載の水素ガス生成方法。
【請求項12】
前記第1の脱水素工程及び前記第2の脱水素工程は、前記高活性複合金属触媒又は前記高転化複合金属触媒の質量に対する、前記水素化芳香族化合物を含む液相量の比率(液相量/触媒量[質量比])が1〜4である前記過熱液膜状態で脱水素反応させる請求項9〜請求項11のいずれか1項に記載の水素ガス生成方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−158492(P2012−158492A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−18898(P2011−18898)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(511027552)国際有機ハイドライド株式会社 (1)
【出願人】(000158312)岩谷産業株式会社 (137)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(511027552)国際有機ハイドライド株式会社 (1)
【出願人】(000158312)岩谷産業株式会社 (137)
【Fターム(参考)】
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