説明

水素メタン発酵装置

【課題】水素発酵とメタン発酵とを効率よく行うための装置および方法を提供すること。
【解決手段】本発明の水素メタン発酵装置は、単槽の発酵槽、該発酵槽と連結し該発酵槽内にバイオマスを供給するためのバイオマス供給手段、該発酵槽と連結し該発酵槽内で発生するバイオガスを該発酵槽外に回収するためのバイオガス回収手段、および該発酵槽と連結し該発酵槽内で発生する発酵残渣を該発酵槽外に回収するための発酵残渣回収手段を備え、該発酵槽は、該発酵槽内を上部と下部とに隔離する多孔隔壁、該上部および該下部の内部をそれぞれ攪拌するための攪拌手段、および該上部内の発酵液を該下部内に移送するための移送手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素メタン発酵装置および水素メタン発酵方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生ごみ、家畜糞尿、下水汚泥、食品廃棄物などのバイオマスを嫌気発酵すれば、最終的にはメタンと二酸化炭素とを主成分とする可燃性のバイオガスが発生する。バイオガスの利用は、環境汚染の防止とエネルギーの再生産という観点から注目されている。
【0003】
バイオマスの嫌気発酵は加水分解、水素発酵、次いでメタン発酵と段階的に進む。水素発酵およびメタン発酵ともに、最適温度は35℃付近または55℃付近にあるが、水素発酵とメタン発酵とでは他の最適条件が異なる。例えば、水素発酵の最適pHは4.5〜6.5と低いのに対して、メタン発酵の最適pHは6.5〜8.5と高い。これは、水素発酵およびメタン発酵に係わる微生物群が異なるからである。また、水素発酵の最適滞留時間(HRT)は約2日までと短いのに対して、メタン発酵の最適HRTは10〜30日と長い。このため、嫌気発酵を単槽で行う単相発酵よりも、水素発酵とメタン発酵とを別々に2つの槽で行う二相発酵において、水素発酵およびメタン発酵のそれぞれの発酵条件を制御する方が発酵効率がよい。
【0004】
しかし、2つの槽を用いる二相発酵は、単槽を用いる単相発酵よりも、1つ余分に発酵槽を必要とするため余分なスペースを必要とし、さらに発酵槽に付随する機器、計器、配管なども増えるため設備上のコストが上昇する。
【0005】
特許文献1〜3には、単槽の単相発酵装置が記載され、特許文献4には、2槽の二相発酵装置が記載されている。いずれも槽内の発酵液を均一にするための攪拌手段を有する。攪拌方法としては、回転翼による機械式攪拌(特許文献1および2)、ポンプによる循環攪拌(特許文献3)、ブロワによるガス攪拌がある。単相発酵装置は、二相発酵装置よりも、発酵効率が悪くHRTが長くなるため、単位発酵液あたりの攪拌動力が大きく、発酵のコストが上昇するという問題もある。
【0006】
ところで、非特許文献1および特許文献5〜8には、水素発酵において、発酵液中の水素分圧を下げることにより、水素発酵の効率が上昇し、水素ガスの回収率が上昇することが記載されている。しかし、これらの方法はいずれも減圧装置、曝気装置、水素ガス分離装置など、水素分圧を下げるための装置を必要とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−219485号公報
【特許文献2】特開2006−305491号公報
【特許文献3】特開2007−111633号公報
【特許文献4】特開2007−289946号公報
【特許文献5】特開平07−031484号公報
【特許文献6】特開2005−125149号公報
【特許文献7】特開2003−135088号公報
【特許文献8】特開2003−251312号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】河野ら、「用水と排水」、株式会社産業用水調査会、2005年、第47巻、第9号、pp. 777-783
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、水素発酵とメタン発酵とを効率よく行うための装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、水素発酵とメタン発酵とを連動して行うための水素メタン発酵装置を提供し、該装置は、単槽の発酵槽、該発酵槽と連結し該発酵槽内にバイオマスを供給するためのバイオマス供給手段、該発酵槽と連結し該発酵槽内で発生するバイオガスを該発酵槽外に回収するためのバイオガス回収手段、および該発酵槽と連結し該発酵槽内で発生する発酵残渣を該発酵槽外に回収するための発酵残渣回収手段を備え、該発酵槽は、該発酵槽内を上部と下部とに隔離する多孔隔壁、該上部および該下部の内部をそれぞれ攪拌するための攪拌手段、および該上部内の発酵液を該下部内に移送するための移送手段を備える。
【0011】
1つの実施態様では、上記発酵槽は円筒の形状であり、該円筒の高さと直径との比は2:1〜4:1である。
【0012】
1つの実施態様では、上記円筒の高さは、8〜12mである。
【0013】
1つの実施態様では、上記発酵槽の下端面と上端面との距離と、上記発酵槽の下端面と上記隔壁との距離との比は、10:7〜10:8である。
【0014】
1つの実施態様では、上記隔壁の孔の内径は、50〜100mmである。
【0015】
1つの実施態様では、上記攪拌手段は、回転翼、ブロワおよびポンプからなる群より選択される。
【0016】
本発明はまた、水素発酵とメタン発酵とを連動して行うための方法を提供し、該方法は、上記装置内にバイオマスを連続的または間欠的に供給し、該装置内で水素発酵とメタン発酵とを連続的に行い、そして該装置内からバイオガスおよび発酵残渣を連続的または間欠的に回収する工程を含む、方法。
【0017】
1つの実施態様では、上記工程で回収したバイオガスを上記発酵槽内にブロワすることにより前記発酵槽内を攪拌する。
【0018】
1つの実施態様では、上記工程で回収したバイオガスから水素ガスを分離して残ったガスを上記発酵槽内にブロワすることにより前記発酵槽内を攪拌する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、水素発酵とメタン発酵とを効率よく行うための装置および方法を提供することができる。本発明の装置は、単槽の発酵槽を備えるため、製造コストを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の水素メタン発酵装置の一実施態様を示す模式図である。
【図2】本発明の水素メタン発酵装置の一実施態様を示す模式図である。
【図3】本発明の水素メタン発酵装置の一実施態様を示す模式図である。
【図4】本発明の水素メタン発酵装置の一実施態様を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本明細書で、バイオマスとは、生物由来の有機資源をいう。バイオマスとしては、例えば、有機性廃棄物、資源作物あるいはその廃棄物が挙げられる。有機性廃棄物としては、例えば、生ごみ、糞尿、下水汚泥、食品加工残渣、食品工業・製紙工業・畜産業などにおける有機性廃水が挙げられるが、有機物を含む廃棄物である限り、特に限定されない。資源作物としては、例えば、とうもろこし、さとうきび、これらの処理工程で発生する廃棄物が挙げられる。バイオマスとしては、バイオマス中に含まれるプラスチック、ガラスなどの発酵に寄与しない異物を除去したものでも構わない。
【0022】
本明細書で、バイオガスとは、バイオマスの発酵(嫌気発酵)により発生するガスをいう。バイオガスの成分としては、例えば、水素ガス、メタンガス、二酸化炭素ガスが挙げられる。
【0023】
本明細書で、水素発酵とメタン発酵とを連動して行うとは、通常水素発酵とメタン発酵とを別々に行うが、両者間で一定の物質移動がある条件下で発酵を行うことをいう。したがって、水素発酵とメタン発酵とを段階的に行うことでも、水素発酵とメタン発酵とを完全混合槽内で均一条件下で行うことでもない。
【0024】
本発明の水素メタン発酵装置および水素メタン発酵方法について、図面を参照しながら説明する。
【0025】
(水素メタン発酵装置)
図1は、本発明の水素メタン発酵装置の一実施態様を示す模式図である。図1に示す装置は、単槽の発酵槽1、該発酵槽1と連結し該発酵槽1内にバイオマス71を供給するためのバイオマス供給手段2、該発酵槽1と連結し該発酵槽1内で発生するバイオガス72を該発酵槽1外に回収するためのバイオガス回収手段3、および該発酵槽1と連結し該発酵槽1内で発生する発酵残渣73を該発酵槽1外に回収するための発酵残渣回収手段4を備え、該発酵槽1は、該発酵槽1内を上部11と下部12とに隔離する多孔隔壁13、該上部11および該下部12の内部をそれぞれ攪拌するための攪拌手段14、および該上部11内の発酵液を該下部12内に移送するための移送手段15を備える。
【0026】
図1に示す装置における物質の移動は、次の通りである。バイオマスは、バイオマス供給手段2によって発酵槽1内に供給される。発酵槽1内では、バイオマスを基質として、発酵槽内の微生物により、上部11において主として水素発酵が行われ、下部12において主としてメタン発酵が行われる。上部11内の発酵液の一部は、移送手段15によって下部12内に移送される。これにより、発酵槽1内には発酵液の上昇流が生じる。多孔隔壁13は、多孔を有するため、上昇流を遮断しない。水素発酵では水素ガスと二酸化炭素ガスとが発生し、メタン発酵ではメタンガスと二酸化炭素ガスとが発生する。上部11内には、上方に発酵液が存在しないガス相がある。上部11内で発生した水素ガスおよび二酸化炭素からなる混合ガスは、上部11内の上方にあるガス相を経てバイオガス回収手段3によって発酵槽1外に回収される。下部12内で発生したメタンガスおよび二酸化炭素ガスからなる混合ガスは、発酵液の上昇流とともに多孔隔壁13の孔を通過して発酵槽1内を上昇し、その後上部11内の上方にあるガス相を経てバイオガス回収手段3によって発酵槽1外に回収される。下部12内で発生した混合ガスが上部11内を上昇する際に、発酵液が曝気されて発酵液中の水素分圧が低下し、水素発酵の発酵効率が上昇する。発酵残渣は、発酵残渣回収手段4によって発酵槽1外に回収される。
【0027】
発酵槽1の形状は、特に限定されないが、好ましくは円筒の形状である。より好ましくは縦長の形状であり、さらに好ましくは円筒の高さと直径との比は2:1〜4:1である。このような形状にすることにより、発酵槽1内の上下方向の物質移動が制限され、上下方向の濃度分布が生じ、上部11における水素発酵と下部12におけるメタン発酵とが同時並行に行われる。
【0028】
発酵槽1の大きさは特に限定されないが、円筒の形状の場合、直径は最大で3.6m、円筒の高さは、好ましくは8〜12mである。このような大きさにすることにより、発酵槽1を寝かせてトラックの荷台に載せることができる。
【0029】
多孔隔壁13は、上部11と下部12との間の物質移動を遮断しないが制限する役割を果たす。多孔隔壁13の位置は、特に限定されないが、好ましくは発酵槽1の下端面と上端面との距離と、発酵槽1の下端面と多孔隔壁13との距離との比は、10:7〜10:8である。これは、水素発酵のHRTが約2日、メタン発酵のHRTが10〜20日であるためである。
【0030】
多孔隔壁13の孔の内径は、特に限定されないが、好ましくは50〜100mmである。このような内径にすることにより、上部11と下部12との間の物質移動が制限されるが、発酵液の上昇流は遮断されない。また、バイオマス中の固形物が多孔隔壁13の孔に引っかかることなく、下部12内に移動することができる。
【0031】
攪拌手段は特に限定されない。攪拌手段としては、例えば、回転翼、ポンプ、ブロワが挙げられる。回転翼は機械式攪拌に用いられ、ブロワはガス攪拌に用いられ、ポンプは循環攪拌に用いられる。
【0032】
図1に示す攪拌手段は回転翼14である。回転翼の形状および大きさは、特に限定されない。回転翼14の発酵槽1における取り付け位置は、特に限定されない。図1は、回転翼14の軸が発酵槽1の円筒形状の中心に位置するように取り付けられた実施態様を示す。図4は、下部12における攪拌手段として、回転翼14の軸が発酵槽1の円筒形状の側面に取り付けられた実施態様を示す。
【0033】
図2および3に示す上部11における攪拌手段はブロワ16である。ブロワ16は、上部11内の上方にあるガス相からバイオガスを吸入し、上部11内の発酵液中に吐出する。バイオガスの吐出により、発酵液が曝気される。図3は、ブロワ16の配管の途中に水素ガス分離膜17を設けた実施態様を示す。水素ガス分離膜17によりバイオガスから水素ガス74を分離して残ったガスを上部11内の発酵液中に吐出することにより、発酵液が曝気されて発酵液中の水素分圧が低下し、水素発酵の発酵効率が上昇する。
【0034】
移送手段15としては、上部11内の発酵液を下部12内に移送することができる限り、特に限定されない。好ましくはポンプを用いる。移送手段15の発酵槽1における取り付け位置は、上部11内の発酵液を下部12内に移送することができる限り、特に限定されない。好ましくは、発酵槽1内の培養液の流れに影響を及ぼさないように、発酵槽1外に取り付ける。上部11における取り付け位置は、好ましくは多孔隔壁13の上側近傍である。下部12における取り付け位置は、好ましくは発酵槽1の下端面の上側近傍である。
【0035】
バイオマス供給手段2としては、バイオマスを発酵槽1内に供給することができる限り、特に限定されない。バイオマス供給手段2の発酵槽1における取り付け位置は、発酵槽1の上部11である限り、特に限定されない。
【0036】
バイオガス回収手段3としては、発酵槽1内の発酵により発生するバイオガスを発酵槽1外に回収することができる限り、特に限定されない。バイオガス回収手段3の発酵槽1における取り付け位置は、特に限定されないが、発酵槽1の上部11内の上方のガス相からバイオガスを回収できる位置に取り付ける。
【0037】
発酵残渣回収手段4としては、発酵槽1内の発酵により発生する発酵残渣を発酵槽1外に回収することができる限り、特に限定されない。発酵残渣回収手段4の発酵槽1における取り付け位置は、多孔隔壁13の下方である限り、特に限定されない。
【0038】
(水素メタン発酵方法)
本発明の方法は、上記装置内にバイオマスを連続的または間欠的に供給し、該装置内で水素発酵とメタン発酵とを連続的に行い、そして該装置内からバイオガスおよび発酵残渣を連続的または間欠的に回収する工程を含む。
【0039】
(バイオマスの供給)
バイオマスを適度な含水率(〜90%)に調整し、温度調整する。温度調整は、中温域(30〜40℃)または高温域(50〜60℃)のいずれかにすることが好ましいが、いずれにしても構わない。このように調整したバイオマスを、バイオマス供給手段2によって発酵槽1の上部11内に連続的または間欠的に供給する。供給速度は、特に限定されない。間欠的に供給する場合、数時間毎に供給と供給停止をくり返す。
【0040】
(水素発酵)
水素発酵は、主として発酵槽1の上部11内で行われる。
【0041】
発酵槽1の上部11内では、バイオマス中に含まれる炭水化物、タンパク質、脂質を基質として、微生物による加水分解および水素発酵が行われる。主として炭水化物を基質とする水素発酵により水素ガスおよび二酸化炭素ガスが発生する。
【0042】
水素発酵に用いられる微生物としては、嫌気性非光合成微生物群あるいは純粋菌が挙げられる。水素生成能を有する微生物群または純粋菌である限り、特に限定されない。好ましくは水素生成能を有する微生物群であり、例えば、生ごみや下水汚泥のメタン発酵後の汚泥中に存在する微生物群、あるいはその培養物である。
【0043】
水素発酵は、一般的に30〜60℃、好ましくは35℃付近または55℃付近で行われる。水素発酵は、一般的にpH4.5〜6.5、好ましくはpH5〜6で行われる。バイオマス供給手段2により発酵槽1の上部11内に供給されるバイオマスはpH4.5以下であるが、pHが高い下部12内の発酵液が上昇流により上部11内に移動し、上部11内の発酵液と混合するため、上部11内の発酵液のpHは、水素発酵に適したpH5〜6に維持される。必要に応じてpH調整剤の添加によってpH調整を行ってもよい。
【0044】
発酵槽1の上部11内では、攪拌手段により発酵液を適度に攪拌する。上部11内の攪拌の主目的は、発酵基質表面に発生するスカムの除去であり、発酵液の均一化は付随的なものである。図1に示すように、発酵液の流れ62は多孔隔壁13の表面で放射状に広がり、壁面にあたると壁面を伝う上昇流となる。しかし、上昇流は壁面の摩擦のため徐々に減衰し、中心部に向かう流れと合流し、中心部で下降流に変化する。
【0045】
上部11と下部12との間の物質移動は多孔隔壁13により制限されているが、上部11内の発酵液が多孔隔壁13の孔を通過して下部12内にあまり進入しない程度に攪拌する。攪拌手段としては、例えば、回転翼、ポンプ、ブロワが挙げられる。図1に示す攪拌手段は回転翼14である。図2および3に示す上部11における攪拌手段はブロワ16である。攪拌は、間欠的に行ってもよい。
【0046】
図3に示すように、ブロワ16の配管の途中に水素ガス分離膜17を設け、水素ガス分離膜17によりバイオガスから水素ガスを分離して残ったガスを上部11内の発酵液中に吐出することにより、発酵液が曝気されて発酵液中の水素分圧が低下し、水素発酵の発酵効率が上昇する。
【0047】
緩やかに攪拌することで、発酵槽1の上部11内の上下方向に物質の緩やかな濃度分布ができる。上部11内では、物質の濃度が低く、微生物濃度も低くなるが、水素発酵を行う微生物は増殖速度が速いため、微生物濃度が水素発酵の律速条件になることはない。
【0048】
次に、水素発酵の発酵残渣を上部11内の発酵液の一部として移送手段15によって下部12内に移送する。移送速度は、特に限定されない。間欠的に移送する場合、数時間ごとに移送と移送停止をくり返す。
【0049】
上部11内の発酵液の移送により、下部12内の発酵液が上部11内に押出され、上昇流が発生し、発酵槽1内で発酵液が適度に循環する。下部12内の発酵液は上部11内に移動し、上部11内の発酵液と混合する。下部12内の発酵液はpHが高いため、上部11内の発酵液のpHは、水素発酵に適したpH5〜6に維持される。また、下部12内の発酵液は下部12内で行われるメタン発酵でバイオガスが発生し、それが多孔隔壁13を通過して上昇流となるため、上部11内の発酵液の水素分圧が低下し、水素発酵の発酵効率が上昇する。
【0050】
(メタン発酵)
メタン発酵は、主として発酵槽1の下部12内で行われる。
【0051】
移送手段15によって下部12内に移送された上部11の発酵液中に含まれる水素発酵の副生物の有機酸(酢酸、ギ酸、乳酸、酪酸、プロピオン酸など)、あるいは水素発酵に利用されなかった炭水化物、タンパク質、脂質などを基質として、微生物によるメタン発酵が行われる。メタン発酵によりメタンガスおよび二酸化炭素ガスが発生する。
【0052】
メタン発酵に用いられる微生物としては、活性汚泥や消化汚泥を嫌気条件下で集積培養したものが挙げられる。
【0053】
メタン発酵は、一般的に25〜65℃、好ましくは30〜40℃、高温菌の場合は50〜60℃で行われる。メタン発酵は、一般的にpH5〜10、好ましくは7〜9のアルカリ側で行われる。必要に応じてpH調整剤の添加によってpH調整を行ってもよい。
【0054】
発酵槽1の下部12内では、攪拌手段により発酵液を適度に攪拌する。下部12内の攪拌の主目的は、沈殿の発生防止であり、発酵液の均一化は付随的なものである。図1に示すように、発酵液の流れ62は発酵槽1の下端面で放射状に広がり、壁面にあたると壁面を伝う上昇流となる。しかし、上昇流は壁面の摩擦のため徐々に減衰し、中心部に向かう流れと合流し、中心部で下降流に変化する。
【0055】
上部11と下部12との間の物質移動は多孔隔壁13により制限されているが、下部12内の発酵液が多孔隔壁13の孔を通過して上部12内にあまり進入しない程度に攪拌する。攪拌手段としては、例えば、回転翼、ポンプ、ブロワが挙げられる。図1に示す攪拌手段は回転翼14である。図4には、下部12における攪拌手段として、回転翼14の軸が発酵槽1の円筒形状の側面に取り付けられた実施態様を示す。攪拌は、間欠的に行ってもよい。
【0056】
緩やかに攪拌することで、発酵槽1の下部12内の上下方向に物質の濃度分布ができる。下部12内では、物質の濃度が高く、微生物が高濃度に存在するため、効率よくメタン発酵が行われる。
【0057】
(バイオガスおよび発酵残渣の回収)
水素発酵で発生した水素ガスおよび二酸化炭素からなる混合ガスは、上部11内の上方にあるガス相に移行する。また、メタン発酵で発生したメタンガスおよび二酸化炭素からなる混合ガスは、多孔隔壁13の孔を通過して、上部11内を経由して上部11内の上方にあるガス相に移行する。これらのバイオガスを、上部11内の上方にあるガス相からバイオガス回収手段3によって発酵槽1外に連続的に回収する。バイオガスは、そのまま貯留してもよく、二酸化炭素を除去した後、貯留してもよい。
【0058】
水素発酵およびメタン発酵に利用されなかった物質を含む発酵残渣を、発酵残渣回収手段4によって発酵槽1外に連続的または間欠的に回収する。
【0059】
本発明の方法では、滞留時間は、好ましくは5〜25日、より好ましくは10〜20日である。
【実施例】
【0060】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0061】
(実施例1)
図1に示すような、高さ12mおよび直径3.5mの円筒形状で、円筒の下端面から8.4mの高さに多孔隔壁13を有する発酵槽1を備えた水素メタン発酵装置に芋焼酎粕(固形物濃度6.0%、有機物濃度5.4%)5ton/dayを連続的に供給して水素発酵とメタン発酵とを連動して行った。有機物濃度は、芋焼酎粕を乾燥後、600℃にて2時間加熱する強熱減量試験の結果から算出した。発酵槽内の発酵液の液面の高さは、円筒の下端面から10.5mであった。攪拌は、1時間ごとに運転と停止とを繰り返すように間欠的に行った。水素発酵は、35℃にて、pHをpH5.2に制御して行った。メタン発酵は、35℃にて、pHを制御せずに行った。ガス発生量は容積式ガス流量計を用いて測定し、ガス成分はガスクロマトグラフィによって測定した。結果を表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
(実施例2)
芋焼酎粕に代えて麦焼酎粕(固形物濃度10.5%、有機物濃度10.0%)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、水素発酵とメタン発酵とを連動して行った。結果を表1に示す。
【0064】
(比較例1)
水素メタン発酵装置に代えて完全混合槽型発酵装置を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、発酵を行った。結果を表1に示す。
【0065】
(比較例2)
水素メタン発酵装置に代えて完全混合槽型発酵装置を用いたこと以外は、実施例2と同様にして、発酵を行った。結果を表1に示す。
【0066】
表1から明らかなように、芋焼酎粕または麦焼酎粕のいずれを用いた場合も、水素メタン発酵装置では、完全混合槽型発酵装置と比べて、発酵により発生した水素ガス、メタンガスまたはこれらを含むバイオガスのいずれのガスも量が多いことがわかる。特に、水素ガスの量は顕著に多いことがわかる。このように、本発明の水素メタン発酵装置を用いれば、水素発酵とメタン発酵とを効率よく行うことができることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明によれば、水素発酵とメタン発酵とを効率よく行うための装置および方法を提供することができる。本発明の装置は、単槽の発酵槽を備えるため、製造コストを抑制することができる。また、高い発酵効率をもたらすため、サイズを小さくすることができ、組立て後に設置場所に陸上輸送することができるため、製造コストをさらに抑制することができる。本発明の方法は、バイオマスからバイオガスを効率よく回収できるため、環境汚染の防止とエネルギーの再生産とに寄与することができる。
【符号の説明】
【0068】
1 発酵槽
11 発酵層内上部
12 発酵層内下部
13 多孔隔壁
14 回転翼
15 移送手段
16 ブロワ
17 水素ガス分離膜
2 バイオマス供給手段
3 バイオガス回収手段
4 発酵残渣回収手段
5 水素ガス
61 発酵液面
62 発酵液の流れ
71 バイオマス
72 バイオガス
73 発酵残渣
74 水素ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素発酵とメタン発酵とを連動して行うための水素メタン発酵装置であって、
該装置が、単槽の発酵槽、該発酵槽と連結し該発酵槽内にバイオマスを供給するためのバイオマス供給手段、該発酵槽と連結し該発酵槽内で発生するバイオガスを該発酵槽外に回収するためのバイオガス回収手段、および該発酵槽と連結し該発酵槽内で発生する発酵残渣を該発酵槽外に回収するための発酵残渣回収手段を備え、
該発酵槽が、該発酵槽内を上部と下部とに隔離する多孔隔壁、該上部および該下部の内部をそれぞれ攪拌するための攪拌手段、および該上部内の発酵液を該下部内に移送するための移送手段を備える、装置。
【請求項2】
前記発酵槽が円筒の形状であり、該円筒の高さと直径との比が2:1〜4:1である、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記円筒の高さが、8〜12mである、請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記発酵槽の下端面と上端面との距離と、前記発酵槽の下端面と前記隔壁との距離との比が、10:7〜10:8である、請求項1から3のいずれかの項に記載の装置。
【請求項5】
前記隔壁の孔の内径が、50〜100mmである、請求項1から4のいずれかの項に記載の装置。
【請求項6】
前記攪拌手段が、回転翼、ポンプおよびブロワからなる群より選択される、請求項1から5のいずれかに記載の装置。
【請求項7】
水素発酵とメタン発酵とを連動して行うための方法であって、請求項1から6のいずれかに記載の装置内にバイオマスを連続的または間欠的に供給し、該装置内で水素発酵とメタン発酵とを連続的に行い、そして該装置内からバイオガスおよび発酵残渣を連続的または間欠的に回収する工程を含む、方法。
【請求項8】
前記工程で回収したバイオガスを前記装置内の発酵槽内にブロワすることにより該発酵槽内を攪拌する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記工程で回収したバイオガスから水素ガスを分離して残ったガスを前記装置内の発酵槽内にブロワすることにより該発酵槽内を攪拌する、請求項7または8に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−183481(P2012−183481A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48263(P2011−48263)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(000133032)株式会社タクマ (308)
【Fターム(参考)】