説明

水素分離材料及びその製造方法

【課題】水素分離特性に優れつつ耐擦傷性にも優れた水素分離材料及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】水素分離材料10は、熱膨張係数が2×10−6/K以下の多孔質支持体11上に、シリカガラス分離膜層12および多孔質保護層13をこの順に有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料改質等により生成した水素を含む混合ガスから水素を高純度に分離するための水素分離材料及びその製造方法に係り、特に、水素を選択的に透過するシリカ系水素選択透過膜が多孔質支持体の表面に形成された水素分離材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素エネルギー社会実現のために、水素製造技術や水素利用インフラ整備についての研究開発が進められるなか、自動車用燃料電池、家庭用定置型燃料電池、水素ステーション、そして将来的には大型の化学プラントなどで使用される高純度水素は、今後大きな需要が見込まれ、その製造には更なる高効率化が求められている。
【0003】
現在、水素の製造は、炭化水素燃料を700℃程度の温度で水蒸気改質(CH+HO→CO+3H)した後、さらに数百度程度でCO変成(CO+HO→CO+H)する方法が価格競争力の点から広く利用されている。これらの反応を経て得られたガスの成分には、水素の他に二酸化炭素や一酸化炭素、さらには未反応の炭化水素や水が含まれる。近年、家庭への普及が始まった固体高分子型燃料電池システムでは、低コスト化を実現するために水素の高純度化は行わず、水素濃度60%程度の混合ガスをそのまま燃料電池の燃料極に供給しているが、燃料極の触媒を被毒する一酸化炭素については、供給前に二酸化炭素に酸化し(CO+1/2O→CO)、その濃度を10ppm未満まで除去している。しかしながら、混合ガスを用いる燃料電池は、純水素燃料電池と比較して発電効率が低いため、さらに純度の高い水素を省スペースで安価に製造する技術が求められている。また、自動車用燃料電池には、上記CO濃度の制限に加えて、99.99%以上の水素を供給する必要があり、安価な高純度水素を大量に製造する技術が求められている。
【0004】
水素を含む混合ガスから高純度水素を取り出す方法としては、吸収法、深冷分離法、吸着法、膜分離法などが挙げられるが、膜分離法は高効率で小型化が容易であるという特徴を有している。また、水蒸気改質を行う反応容器内に水素分離膜を挿入したメンブレンリアクターを構成することにより、改質反応によって生成した水素を連続的に反応雰囲気から引き抜き、500℃程度の温度でも改質反応とCO変成反応を同時に促進させ、効率良く高純度水素を製造することが可能となる。さらに、メンブレンリアクターではCO変成に使用される白金等の高価な貴金属触媒も不要となり、コストの低減や設備の小型化が可能となる。なお、水素分離膜を通過した水素ガスの純度は水素分離膜の性能に依存するが、用途に応じてさらにCO除去や高純度化が必要な場合でも、これらの工程にかかる負荷を軽減することが可能となる。
【0005】
以上説明したように、水素分離膜を用いた水素製造の有利さを背景に、いくつかの水素分離膜が提案されている。例えば、非特許文献1にはパラジウム合金膜をジルコニア多孔質基材で支持した水素分離膜が記載されている。この水素分離膜においては、水素はパラジウム合金に原子として溶解し、その濃度勾配で拡散して純水素のみを透過させる方法によって水素を分離するため、原理的に高純度の水素を得ることができる。非特許文献2にはシリカガラス膜をアルミナ系多孔質基材で支持した水素分離膜が記載されている。この水素分離膜は、シリカガラス膜が水素分子のみを通す大きさ(0.3nm)の孔を有していることを利用し、水素分子を選択的に透過させる分子ふるい機能により水素を分離するものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 燃料電池・水素技術開発シンポジウム平成20年度要旨集「高耐久性メンブレン型LPガス改質装置の開発」
【非特許文献2】独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「高効率高温水素分離膜の開発」(事後評価)分科会議事録(平成19年7月30日)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、本発明者等は、シリカガラス膜を水素分離膜として機能させ、当該シリカガラス膜と熱膨張率が近い多孔質体をその支持体とする水素分離材料をPCT/JP2010/072201(平成22年12月10日出願)にて提案している。かかる構成によれば、熱衝撃に強く、水素分離膜と支持体との密着性が良く、水素分離特性に優れた水素分離材料が実現できる。
【0008】
しかしながら、本発明者等は上記水素分離材料を更に改良すべく更なる鋭意検討を行っていた所、水素分離膜であるシリカガラス膜が表面に露出していると、このシリカガラス膜に外部からの衝撃や接触があった場合に傷が付き、この傷によって水素分子以外のガスの透過が可能となり、水素分離性能が劣化することが分った。
【0009】
本発明は、従来の水素分離材料における上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、水素分離特性に優れつつ耐擦傷性にも優れた水素分離材料及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、水素分離膜の表面に、水素分離膜の分子ふるい機能を阻害しない程度の孔を有する多孔質保護層を設けることによって、水素分離特性に優れつつ耐擦傷性にも優れた水素分離材料が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明にかかる水素分離材料及びその製造方法は下記の通りである。
【0011】
(1)本発明の水素分離材料は、熱膨張係数が2×10−6/K以下の多孔質支持体上に、シリカガラス分離膜層および多孔質保護層をこの順に有することを特徴とする(請求項1)。
(2)また、本発明の水素分離材料の好適形態は、前記多孔質保護層が多孔質シリカガラスであることを特徴とする(請求項2)。
(3)また、本発明の水素分離材料の好適形態は、前記多孔質保護層の気孔率が20〜70%であることを特徴とする(請求項3)。
(4)また、本発明の水素分離材料の好適形態は、前記多孔質保護層の厚みが0.01〜1mmであることを特徴とする(請求項4)。
【0012】
また、上記水素分離材料を製造するための本発明の水素分離材料の製造方法は下記の通りである。
(5)本発明の水素分離材料の製造方法は、多孔質シリカガラスからなる多孔質支持体の表面にシリカガラス分離膜層を形成する工程と、前記シリカガラス分離膜層上にCVD法によって多孔質シリカガラスを堆積させて多孔質保護層を形成する工程とを有することを特徴とする(請求項5)。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、水素分離特性に優れつつ耐擦傷性にも優れた水素分離材料及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の水素分離材料の一実施形態を示す部分断面図である。
【図2】本発明の水素分離材料の一実施形態を示す模式図である。
【図3】本発明の水素分離材料の製造方法の一実施形態である多孔質支持体シリカガラス堆積工程(a)、引抜工程(b)、シリカガラス分離膜形成工程(c)、溶接工程(d)、多孔質保護層シリカガラス堆積工程(e)を説明する模式図である。
【図4】溶接工程(d)を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の水素分離材料及びその製造方法について、図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
(水素分離材料)
図1は、本発明の水素分離材料の一例を示す部分断面図である。水素分離材料10は、多孔質支持体11の上に、シリカガラス分離膜層12、多孔質保護層13を有してなる。
【0017】
本発明においては、このようにシリカガラス分離膜層12を水素透過膜として使用するが、それにより、水素脆性や原料不純物との反応による膜の劣化を抑制した。シリカガラス分離膜層12の厚みは、特に限定されるものではないが、0.01〜50μmであることが好ましく、0.02〜10μmであることがより好ましく、0.03〜5μmであることが更に好ましい。0.01μm未満では、透過ガスの水素純度が低くなりすぎ、また、50μmを超えると水素透過速度が小さくなりすぎ、実用上十分な水素分離性能が得られにくくなる場合がある。
【0018】
シリカガラス分離膜層12の支持体については多孔質支持体11とすることで、上記シリカガラス分離膜層12における水素の透過を干渉することなく該薄膜を支持することができる。多孔質支持体11の気孔率は、特に限定されるものではないが、機械的強度とガス透過性のバランスから20〜70%であることが好ましい。なお、「気孔率」は、単位体積当たりの空気容積が占める割合として算出できる。
また、多孔質支持体11の線熱膨張係数は、2×10−6/K以下である。線熱膨張係数が2×10−6/Kを超えると、発生する熱応力が大きくなり、所望の耐熱衝撃性が得られない場合がある。多孔質支持体11の形成材料は、耐熱衝撃性の観点からシリカガラス分離膜12と線熱膨張係数が近似するものが好ましく、多孔質シリカガラスであることがより好ましい。
該多孔質支持体11の厚みは、特に限定されるものではないが、機械的強度とガス透過性のバランスから0.2〜5mmであることが好ましく、0.5〜3mmであることがより好ましい。
【0019】
シリカガラス分離膜層12の保護膜については多孔質保護層13とすることで、上記シリカガラス分離膜層12における水素の透過を干渉することなく該薄膜を保護することができる。多孔質保護層13の気孔率は、特に限定されるものではないが、機械的強度とガス透過性のバランスから20〜70%であることが好ましい。
また、多孔質保護層13の線熱膨張係数は、多孔質支持体11と同様に2×10−6/K以下であることが好ましい。2×10−6/Kを超えると、発生する熱応力が大きくなり、シリカガラス分離膜12を破損に至らしめる場合があるためである。本発明においては、多孔質保護層13の線熱膨張係数は、多孔質支持体11およびシリカガラス分離膜層12の線熱膨張係数と近似していることが好ましく、いずれかの線熱膨張係数と±10%以内の範囲であることがより好ましい。この観点から、多孔質保護層13の形成材料は、多孔質シリカガラスであることが最も好ましい。
多孔質保護層13の厚みは、特に限定されるものではないが、機械的強度とガス透過性のバランスから0.01〜1mmであることが好ましい。
【0020】
上述のように、耐熱衝撃性の観点から多孔質支持体11および多孔質保護層13はシリカガラス分離膜層12に線熱膨張係数が近似するものから選ばれることが好ましい。本発明の水素分離材料10においては、多孔質支持体11および多孔質保護層13の材料をいずれも多孔質シリカガラスとすることが好ましく、その場合、シリカガラス分離膜層12、多孔質支持体11を構成する多孔質シリカガラス、および多孔質保護層13を構成する多孔質シリカガラスの少なくともいずれかに、希土類元素、4B族元素、Al、Ga、又はこれらの2種以上の元素を組合せて添加することができる。多孔質支持体11を構成する多孔質シリカガラス、多孔質保護層13を構成する多孔質シリカガラスあるいはシリカガラス分離膜層12の成分を調整することにより、所望の機械特性や、耐水蒸気性などが得られるからである。
例えば、本発明の水素分離材料10を炭化水素燃料の水蒸気改質に用いる場合、500℃以上の水蒸気に必然的に接触するため、このように他成分を導入することにより耐水蒸気性能を向上させることが好ましい。
【0021】
多孔質支持体11を構成する多孔質シリカガラスは、スス付け法(CVD法)、射出成形法などの製法により製造できる。シリカガラス分離膜層12についてもその形成法は特に限定されないが、ゾルゲル法やCVD法の他、多孔質支持体層11を構成する多孔質シリカガラスを表面改質することにより形成する手段を用いることができる。尚、「表面改質」とは、水素透過膜部分を作製するために、表面の膜となる部分、例えば、多孔質支持体11を構成する多孔質シリカガラスの表面近傍をある程度緻密化することによって、緻密質のシリカガラスの層にすることをいう。その一つの方法として、加熱によるものが挙げられる。具体的には、例えば、COレーザー、プラズマアーク、酸水素バーナーなどを単独で、又は複数組合せて照射する方法である。
上記したように、ゾルゲル法やCVD法でもシリカガラス分離膜層12を製造できるが、表面改質による形成法によれば、多孔質支持体11を構成する多孔質シリカガラスとシリカガラス分離膜層12を別々に製造して積層する製造方法よりも膜と支持体との接合強度を上げることができ、またシリカガラス分離膜層12の厚みや孔の大きさを緻密化の程度によって、簡単に制御することができる。シリカガラス分離膜層12の緻密化の程度は、分離する気体の分子サイズで設定される。水素透過の観点から、シリカガラス分離膜層12の孔径が0.3nm程度となるように緻密化されることが望ましい。
多孔質保護層13は、シリカガラス分離膜層12の外周にスス付け法(CVD法)によって多孔質シリカガラスを堆積させることで形成することができる。
【0022】
本発明の水素分離材料10の形状は、特に限定はされず、例えば平面状等、任意の形状とすることができるが、反応効率の点から水素含有混合ガスとの接触面積をより広くするためには管状であることが好ましい。
図2に、管状の水素分離材料20の一例を示す。水素分離材料20は略円柱形状であり、その中心には長手方向に延びる略円形断面の中心孔24を有する。水素分離材料20は、中心孔24の外周上に管壁として多孔質支持体21を有し、この外周上にシリカガラス分離膜層22と多孔質保護層23をこの順に有してなる。その外径Tは2mm〜50mm、内径(中心孔24の径)Pは1.6mm〜48mm、長さLは200mm〜400mm程度である。中心孔24の一方の端部24aは塞がれていることが望ましい。また、管の表面積を大きくするため、外径Tおよび内径Pを長手方向に周期的に変化させても良く、機械的強度を補強するため厚みを部分的に変化させることもできる。
【0023】
(水素分離材料の製造方法)
以下、上記水素分離材料の製造方法の一実施形態について、図面を参照して説明する。
(1)多孔質支持体形成工程
多孔質シリカガラスを製造する方法は、特に限定はされないが、例えば、スス付け法(CVD法)、射出成形法を挙げることができる。
また、前記で説明した管状の水素分離材料20であって、その多孔質支持体21が多孔質シリカガラスである場合の製造方法の好適例として、ロッドの周囲に多孔質シリカガラスを堆積した後(堆積工程)、該ロッドを引き抜いて(引抜工程)行う方法を挙げることができる。図3を用いて、当該方法の一実施形態を以下に説明する。
【0024】
図3(a)は、該実施形態に係る堆積工程を説明する図であり、図3(b)は、該実施形態に係る引抜工程を説明する図である。図3(a)において、ロッド30は、先端部が下になるようにして鉛直に配置される。また、水平に配置する形としても良い。ロッド30の素材としては、アルミナ、ガラス、耐火性セラミクス、カーボンなどを用いることができる。ロッド30は固定された後、中心軸を中心として回転される。そして、スス付け法(CVD法)により、ロッド30の側方に配置されたバーナー35により、ロッド30の外周にガラス微粒子が堆積される。ガラス微粒子には、所望する機械特性や耐水蒸気性に応じて、希土類元素、4B族元素、Al、Ga、又はこれらの2種以上の元素を組合せて添加することができる。即ち、この製造法によれば、容易に成分の調整ができる。
【0025】
このガラス微粒子堆積に際して、バーナー35をロッド30の軸方向にトラバース、またはバーナー35を固定してロッド30を軸方向にトラバースする。そのトラバースの回数毎に供給原料の種類やガスの供給量を異ならせることもできる。これにより、ロッド30の外周に堆積されるガラス微粒子は、径方向に所定の嵩密度と組成の分布を有することになる。また、ロッド30の先端部にもガラス微粒子を堆積させることで、先端が閉じた管状の多孔質シリカガラス25が作製される。
【0026】
多孔質シリカガラス25は、シリカガラス微粒子を堆積させた後にその気孔率が20〜70%の範囲になるようにシリカガラス微粒子を加熱焼結し緻密化させてもよいが、シリカガラス微粒子を堆積させる温度を調整しながらその気孔率を制御しても良い。堆積後に加熱焼結させる場合の温度は特に限定されないが、1000℃〜1400℃とすることが好ましい。1000℃未満では焼結が十分に進行しない場合があり、1400℃を超えると気孔率が小さくなりすぎる場合がある。また、堆積温度により気孔率を調整する場合も特に温度の限定はないが、例えば1000℃程度〜1700℃とすることが好ましい。堆積温度が低すぎるとシリカガラス微粒子の焼結が十分に進行しない場合があり、1700℃を超えると気孔率が小さくなりすぎる場合がある。また、多孔質シリカガラス25の最外層におけるシリカガラス微粒子の堆積温度は高くしておくことが好ましい。最外層における堆積温度が1400℃未満では、シリカガラス微粒子の焼結が十分に進行せず、最外層において所望の耐衝撃性が得られない場合がある。
【0027】
堆積工程の後の引抜工程を図3(b)で説明する。図3(b)では、多孔質シリカガラス25からロッド30が引き抜かれる。引抜により形成される中心孔24は、貫通しておらず、下端側(先端側)24aが塞がれていて、上端側のみが開口している(図2参照)。なお、引き抜きを容易にするために、予めロッド30の表面にカーボンや窒化物等を塗布しておくことが好ましい。また、同様に引き抜きを容易にするという観点から、ロッド30はテーパ状であることが好ましく、例えばその外径傾斜率を0.2〜2.0mm/1000mmとすることができる。更に、ロッド30は熱膨張率5×10−6/K以下であることが好ましい。ロッド30の熱膨張率が高いと堆積工程中においてバーナー35が接近する度にロッド30に伸縮膨張が生じ、多孔質シリカガラス25を破損する虞がある為である。また、熱膨張率を上記範囲とすることでロッド30自体の熱衝撃による破損を防止することができる。さらにロッド30は、例えばガラスとの親和性が低い窒化珪素等の非酸化物を材質とするロッドであることが好ましい。
【0028】
(2)シリカガラス分離膜層形成工程
多孔質シリカガラス25からなる多孔質支持体が形成された後、ゾルゲル法やCVD法、多孔質シリカガラスを表面改質する方法などにより、多孔質シリカガラス25の表面にシリカガラス分離膜層22が形成される。図3(c)は、該実施形態に係るシリカガラス分離膜層形成工程を説明する図である。ここでは多孔質シリカガラス25の表面を表面処理装置により表面改質して、多孔質支持体21上にシリカガラス分離膜層22を有する形態とする方法について説明する。
上記多孔質支持体形成工程で得られた多孔質シリカガラス25は、表面処理装置36によって、その表面を緻密質なシリカガラス分離膜層22に緻密化することで表面改質される。表面処理装置36としては、例えば高温のエネルギー線を照射できるものであればよく、COレーザー、プラズマアーク、酸水素バーナーなどを単独で、又は複数組合せて用いることができる。こうして多孔質シリカガラス25を表面改質することで、多孔質支持体21とシリカガラス分離膜層22とが形成される。
シリカガラス分離膜層22の表面改質の程度は、シリカガラス分離膜層22が水素透過膜として機能する範囲であれば特に限定されるものではないが、水素分子分離性の観点から、その厚みは0.01〜50μmであることが好ましく、0.02〜10μmであることがより好ましく、0.03〜5μmであることが更に好ましい。また、シリカガラス分離膜層22は水素分子のみを透過するように直径0.3nm程度の孔を有していることが好ましい。
【0029】
(3)溶接工程
続いて、シリカガラス分離膜層22が形成された多孔質シリカガラス25には、図3(d)に示すように、CVD法によって多孔質保護層が形成される前に、該CVD法の際に把持部材によって固定される領域(上端側被把持部37、下端側被把持部38)が形成される(溶接工程)。
【0030】
図4は溶接工程を説明する模式図である。図4に示すように、溶接工程は、(i)多孔質シリカガラス管25の開口側の端部領域をバーナー41で加熱収縮させる工程(図4(a)参照)と、(ii)多孔質シリカガラス管25の当該加熱収縮された領域に円筒状の透明石英管39をバーナー41で加熱接合(気密)して上端側被把持部37を形成する工程(図4(b)参照)と、(iii)多孔質シリカガラス管25の閉口側の端部領域をバーナー41で加熱収縮させて下端側被把持部38を形成する工程(図4(c)参照)と、を有する。上記(ii)の上端側被把持部37を形成する工程において、円筒状の透明石英管39はその中心孔が多孔質シリカガラス管25の中心孔と連結するように接合される。図4(d)は上端側被把持部37と下端側被把持部38を付与された多孔質シリカガラス管25の模式図であり、図3(d)に相当する。
【0031】
(4)多孔質保護層形成工程
多孔質保護層23の付与は、スス付け法(CVD法)により行なうことができる(図3(e)参照)。
まず、シリカガラス分離膜層22が表面に形成された多孔質シリカガラス25は、その中心軸が鉛直方向と略平行となるようにして、上記溶接工程において形成された上端側被把持部37と下端側被把持部38でそれぞれ把持部材42、43によって支持された後、中心軸を中心として回転される。そして、スス付け法(CVD法)により、シリカガラス分離膜層22が表面に形成された多孔質シリカガラス25の側方に配置されたバーナー40によってシリカガラス分離膜22の外周にガラス微粒子が堆積される。ガラス微粒子には、所望する機械特性や耐水蒸気性に応じて、希土類元素、4B族元素、Al、Ga、又はこれらの2種以上の元素を組合せて添加することができる。即ち、この製造法によれば、容易に成分の調整ができる。
【0032】
このガラス微粒子堆積に際して、バーナー40をシリカガラス分離膜層22が表面に形成された多孔質シリカガラス25の軸方向にトラバース、またはバーナー40を固定してシリカガラス分離膜層22が表面に形成された多孔質シリカガラス25を軸方向にトラバースする。そのトラバースの回数毎に供給原料の種類やガスの供給量を異ならせることもできる。これにより、多孔質シリカガラス25の表面に形成されたシリカガラス分離膜層22の外周に堆積されるガラス微粒子は、径方向に所定の嵩密度と組成の分布を有することになる。
【0033】
本工程においては、シリカガラス微粒子を堆積させた後にその気孔率が20〜70%の範囲になるようにシリカガラス微粒子を加熱焼結し緻密化させてもよいが、シリカガラス微粒子を堆積させる温度を調整しながらその気孔率を制御しても良い。堆積温度により気孔率を調整する場合は特に温度の限定はないが、例えば900℃〜1300℃とすることが好ましい。900℃未満ではシリカガラス微粒子の焼結が十分に進行しない場合があり、1300℃を超えると気孔率が小さくなりすぎる場合がある。堆積温度は1000℃〜1200℃とすることがより好ましい。かかる工程を経ることで、シリカガラス分離膜層22の表面に多孔質保護層23を形成することができる。
【0034】
尚、上記の製造例ではシリカガラス分離膜層形成工程の前にロッド30の周囲に堆積された多孔質シリカガラス25からロッド30のみを引き抜く引抜工程を行なっているが、勿論、ロッド30の周囲に多孔質シリカガラス25が堆積された状態でシリカガラス分離膜層形成工程を行なっても良い。この場合、シリカガラス分離膜層形成工程の後でロッド30の引抜工程を行なうことで管状の水素分離材料20を形成することができる。
また、上記の製造例では多孔質シリカガラス25の表面緻密化によってシリカガラス分離膜層22を形成しているが、かかる工程はゾルゲル法やCVD法によるものであってもよい。この場合、多孔質支持体形成工程(ロッド周囲へのガラス微粒子の堆積工程およびロッドの引抜工程)、溶接工程、シリカガラス分離膜層形成工程、多孔質保護層形成工程の順に行うことが望ましい。
【符号の説明】
【0035】
10、20…水素分離材料、 11、21…多孔質支持体、 12、22…シリカガラス分離膜層、 13、23…多孔質保護層、 24…中心孔、24a…中心孔の先端部、 25…多孔質シリカガラス(支持体21、シリカガラス分離膜層22の前駆物)、 30…ロッド、 35、40、41…バーナー、 36…表面処理装置、 37…上端側被把持部、 38…下端側被把持部、 39…透明石英管、42…把持部材、 T…外径、 P…内径、 L…長さ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱膨張係数が2×10−6/K以下の多孔質支持体上に、シリカガラス分離膜層および多孔質保護層をこの順に有する水素分離材料。
【請求項2】
前記多孔質保護層が多孔質シリカガラスである請求項1に記載の水素分離材料。
【請求項3】
前記多孔質保護層の気孔率が20〜70%である請求項1または2に記載の水素分離材料。
【請求項4】
前記多孔質保護層の厚みが0.01〜1mmである請求項1〜3の何れか一項に記載の水素分離材料。
【請求項5】
多孔質シリカガラスからなる多孔質支持体の表面にシリカガラス分離膜層を形成する工程と、前記シリカガラス分離膜層上にCVD法によって多孔質シリカガラスを堆積させて多孔質保護層を形成する工程とを有する請求項1〜4の何れか一項に記載の水素分離材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−200675(P2012−200675A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67849(P2011−67849)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】