説明

水素分離装置および水素分離装置の運転方法

【課題】水素分離性能に優れるとともに、耐久性にも優れた水素分離装置を提供する。
【解決手段】原料入口3と、水素出口4と、残原料出口5と、並びに原料入口3から水素出口4及び残原料出口5まで通じる流体流路6と、を有する反応容器2と、流体流路に設けられて、原料入口3及び残原料出口5に通じる第1流路7と水素出口4に通じる第2流路8とに流体流路6を隔て、原料流体に含まれる水素を選択的に透過する水素選択透過性金属膜12を有し、水素選択透過性金属膜12を通じて第1流路7側から第2流路8側へ水素を選択的に透過する水素選択透過部11と、原料入口3にて第1流路7と連通し、水素選択透過性金属膜12の表面での酸素の濃度が0.1%以上5.0%未満となるように原料流体を調製しつつ、原料流体を原料入口から第1流路7内に供給する原料流体供給部31と、を備える水素分離装置1とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素分離装置及び水素分離装置の運転方法に関する。さらに詳しく述べると、水素選択透過性金属膜の水素透過性能の低下が抑制されている水素分離装置、及び水素分離装置の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素ガスは、石油化学の基本素材ガスとして大量に使用され、またクリーンなエネルギー源として期待されている。高純度の水素ガスは、天然ガス、ナフサ、石炭、又は炭化水素などの原料から、各種の処理手段を経て水素含有ガスを調製し、さらにこの水素含有ガスから水素ガスのみを選択的に分離することにより得られる。
【0003】
水素ガスを分離する手段としては、水素選択透過性膜を備える水素分離装置を使用する方法がある。この水素分離装置では、水素含有ガスが流れる流路が設けられ、この流路が水素選択透過性膜によって遮られている形態を備える。この形態により、水素ガスのみを、水素選択透過性膜によって隔てられた流路の一方の側から他方の側へ通過させ、水素含有ガスから水素ガスが分離される。なお、水素選択透過性膜は、水素ガスを選択的に透過させる選択透過能を有する膜であり、例えば無機多孔質支持体の表面に配置されて機械的強度を高められた形態にて使用されている。
【0004】
例えば、水素選択透過性膜として、パラジウムまたはパラジウム合金などの金属膜に代表される、水素選択透過性金属膜が知られている。これは、パラジウム又はパラジウムを含有する合金などが、水素のみを溶解する性質をもつことを利用している。
【0005】
通常、水素分離装置では、高圧、高温、更には昇降温など厳しい環境下にて、水素分離処理が繰り返しなされる。しかしながら、このような厳しい環境下で水素分離処理をするとき、従来の水素分離装置では、水素選択透過性金属膜の性能が低下する問題を生じていた。
【0006】
そこで、水素分離装置については、高圧や高温などの厳しい環境下での水素分離処理によって水素選択透過性金属膜の性能を低下させている原因の追究と、突き止められた原因を解消して水素選択透過性金属膜の性能を最大限引き出すことができるような技術の開発が、今日まで継続されてきた。
【0007】
水素分離装置に備えられている水素選択透過性金属膜の性能の低下の原因としては、炭素や炭化系化合物が水素選択透過性金属膜に付着することが突き止められている。
【0008】
そこで、特許文献1には、炭素や炭化系化合物の付着によって性能が低下した水素選択透過性金属膜の水素透過性能を回復及び安定化するために、水素選択透過性金属膜を酸素含有ガス中で加熱処理する技術が開示されている。水素選択透過性金属膜を酸素含有ガス中で加熱処理することにより、水素選択透過性金属膜に付着した炭素又は炭素系化合物が酸素と反応してガス化し、水素選択透過性金属膜に付着していた炭素又は炭素系化合物は、水素選択透過性金属膜から取り除かれる。よって、水素選択透過性金属膜を備える水素分離装置では、水素分離処理の合間に酸素含有ガス中での加熱処理を繰り返すことにより、その都度水素選択透過性金属膜に付着した炭素又は炭素系化合物を除去し、水素選択透過性金属膜の性能を回復させながら長期の使用ができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平8‐257376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
例えば、特許文献1の技術では、酸素含有ガス中で加熱処理を行うことにより、水素選択透過性金属膜の水素透過性能は回復する。しかし、水蒸気改質反応ガスのように、原料ガス中に酸素が含有されていない場合、水素選択透過性金属膜の使用中に、水素選択透過性金属膜表面に炭素又は炭素系化合物が付着することにより、水素選択透過性金属膜の水素透過性能が徐々に低下する。この炭素又は炭素系化合物は、原料ガス中の炭素を含有する化合物及び/又は水素選択透過性金属中に固溶している炭素から生成する。
【0011】
また、自己熱改質反応や部分酸化改質反応のように、原料ガス中に酸素が含有されている場合には、このような水素選択透過性金属膜の水素透過性能の低下はおこらない。しかし、自己熱改質反応や部分酸化改質反応においては、通常数十%の酸素ガスを含有させるため、生成した水素が消費されることにより、水素の収率が低下する。
【0012】
また、特許文献1に示す酸素含有ガス中での水素選択透過性金属膜の加熱処理では、酸素含有ガス中の酸素濃度が高いため、水素選択透過性金属膜が酸化してしまう。また、通常、水素含有ガスが流れる流路壁は金属製である。この金属製の流路壁は、酸素含有ガスの存在下での加熱処理によって、酸化・還元反応が生じて腐食してしまう。加えて、金属製の流路壁が腐食によって錆びたときには、流路内に錆が飛散し、この錆が水素選択透過性金属膜に付着あるいは衝突することにより、水素選択透過性金属膜が、酸化還元反応によって腐食したり、亀裂やピンホールなどが生じたりする。
【0013】
上記の問題に鑑みて、本発明の課題は、耐久性に優れ、さらに長時間の継続的な使用によっても水素分離性能が低下しにくい水素分離装置、及び水素分離装置の運転方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明者は、鋭意検討した結果、水素選択透過性金属膜表面での酸素濃度が0.1%以上かつ5.0%未満となるように原料ガス中の酸素濃度を調整すれば、水素の収率が低下することなく、水素選択透過性金属膜に付着した炭素又は炭素系化合物が取り除かれることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明によれば、以下に示す水素分離装置が提供される。
【0015】
[1] 原料流体を流入する原料入口と、前記原料流体より選択的に抽出される水素を流出する水素出口と、残余の前記原料流体を排出する残原料出口と、並びに前記原料入口から前記水素出口及び前記残原料出口まで通じる流体流路と、を有する反応容器と、前記流体流路に設けられて、前記原料入口及び前記残原料出口に通じる第1流路と前記水素出口に通じる第2流路とに前記流体流路を隔て、前記原料流体に含まれる水素を選択的に透過する水素選択透過性金属膜を有し、該水素選択透過性金属膜を通じて前記第1流路側から前記第2流路側へ水素を選択的に透過する水素選択透過部と、前記原料入口にて前記第1流路と連通し、前記水素選択透過性金属膜の表面での酸素の濃度が0.1%以上かつ5.0%未満となるように前記原料流体を調製しつつ、前記原料流体を前記原料入口から前記第1流路内に供給する原料流体供給部と、を備える水素分離装置。
【0016】
[2] 前記水素選択透過性金属膜の前記原料流体との接触面の少なくとも一部が、パラジウム(Pd)及び/又はPdを含有する合金である、前記[1]に記載の水素分離装置。
【0017】
[3] 前記原料流体が炭素を含有する化合物を含む、前記[1]又は[2]に記載の水素分離装置。
【0018】
[4] 前記第1流路内に、原料流体からの水素の生成反応を促進する触媒物質を有する、前記[1]〜[3]のいずれかに記載の水素分離装置。
【0019】
[5] 前記触媒物質が貴金属元素のうち少なくとも1種を含有する、前記[1]〜[4]のいずれかに記載の水素分離装置。
【0020】
[6] 前記酸素濃度が0.1%以上かつ1.0%未満である、前記[1]〜[5]のいずれかに記載の水素分離装置。
【0021】
[7] 前記[1]〜[6]のいずれかに記載の水素分離装置を、水素透過時の前記水素選択透過性金属膜を透過する水素の温度が300℃以上かつ900℃以下で使用する、水素分離装置の運転方法。
【0022】
[8] 前記水素選択透過性金属膜を透過する水素の前記温度が400℃以上かつ800℃以下である、前記[7]に記載の水素分離装置の運転方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明の水素分離装置は、長時間の使用によっても水素選択透過性金属膜の水素透過性能の低下が抑制され、耐久性にも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の水素分離装置の一実施形態を模式図であり、反応容器及びその内部構造については縦断面にて表している。
【図2】本発明の水素分離装置の一実施形態を模式図であり、反応容器及びその内部構造については縦断面にて表している。
【図3】本発明の水素分離装置の一実施形態を模式図であり、反応容器及びその内部構造については縦断面にて表している。
【図4】水素透過性能に関する試験の結果を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0026】
1.水素分離装置:
1−1.本発明の水素分離装置の基本的な実施形態:
図1は、本発明の水素分離装置1の一実施形態を模式的に表し、反応容器2及びその内部の構造については縦断面にて示す。本発明の水素分離装置1は、流体流路6を有する反応容器2、及び原料流体供給部31を備えている。反応容器2に設けられている、流体流路6は、水素選択透過性金属膜12を有する水素選択透過部11によって第1流路7と第2流路8とに隔てられ、第1流路7には原料入口3及び残原料出口5、第2流路8には水素出口4が設けられている。また、原料流体供給部31は、原料入口3にて第1流路7と連通し、原料流体を原料入口3から第1流路7内に供給する。
【0027】
水素選択透過性金属膜12は、水素を選択的に透過する性質を持つ。この性質を利用することにより、本発明の水素分離装置1では、原料流体が第1流路7内に供給された後、原料流体に含まれる水素のみが、水素選択透過性金属膜12を介して水素選択透過部11を透過し、第2流路8内に流れて、水素出口4から排出される。一方、第1流路7内にある、残余に原料流体は、水素選択透過部11を透過して第2流路8内に流れることができないため、残原料出口5より排出されることになる。したがって、本発明の水素分離装置1では、原料流体供給部31によって原料入口3から原料流体を第1流路7内に供給すると、水素出口4から高濃度の水素を採取することができる。
【0028】
1−1−1.原料流体供給部:
本発明の水素分離装置1に備えられている原料流体供給部31は、水素選択透過性金属膜12の表面での酸素の濃度が0.1%以上かつ5.0%未満となるように、原料流体を調製する。なお、本発明においては、原料流体が直接接触する側、すなわち第1流路7の側の水素選択透過性金属膜12の表面に供給する原料流体の酸素濃度のみを上記範囲内に調整すればよく、水素選択透過性金属膜12を透過した第2流路8の側の流体の酸素濃度については問題としない。原料流体供給部31がこのように調製された原料流体を供給することにより、水素選択透過性金属膜12の性能の低下が抑制され、継続的に水素分離処理したときでも、水素選択透過性金属膜12は、水素透過量が高い状態にて維持される。なお、水素選択透過性金属膜12の表面での酸素の濃度は、実際に水素選択透過性金属膜12の表面の流体を採取して組成を分析してもよいし、これが不可能な場合は、原料流体の組成と流量、水素選択透過性金属膜12を透過しなかった残原料流体の組成と流量、水素選択透過性金属膜12を透過した流体の組成と流量から、計算によって求めることもできる。それぞれの流体の組成については、例えばガスクロマトグラフィーにて測定することができる。また、流体の流量については、例えば乾式又は湿式の流量計によって測定することができる。
【0029】
例えば、水素分離装置1において、水素選択透過性金属膜12の表面での酸素の濃度が0.1%以上かつ5.0%未満のとき、原料流体及び/又はその生成物に含まれる炭素又は炭素系化合物は、水素選択透過性金属膜12に付着する前、あるいは付着後、速やかに酸素と反応してガス化する。よって、水素選択透過性金属膜12への炭素又は炭素化合物の付着による水素選択透過性金属膜12の性能の低下を防止できる。また、水素選択透過性金属膜12の表面での酸素の濃度が5.0%未満であるため、水素選択透過性分離膜12の酸化が抑えられ、水素選択透過性金属膜12の性能の低下を防止できる。
【0030】
本発明の水素分離装置1において、原料流体供給部31は、水素選択透過性金属膜12表面での原料流体の酸素濃度が0.1%以上かつ1.0%未満となるように、原料流体を調製して、この調製された原料流体を原料入口3から供給する形態であるとより好ましく、同酸素濃度が0.1%以上かつ0.5%未満となるように原料流体を調製して、この調製された原料流体を原料入口3から供給する形態であるとさらに好ましい。
【0031】
水素選択透過性金属膜12表面での原料流体の酸素濃度が0.1%未満のとき、水素透過性能の低下を抑制する効果が十分に発揮できなくなることがある。また、水素選択透過性金属膜12表面での原料流体の酸素濃度が5.0%以上の場合、第1流路7内の原料流体に含まれる水素は、酸素と反応してしまうため、水素選択透過性金属膜12を透過して水素出口4から採取される水素の収率が低くなることがある。
【0032】
原料流体供給部31は、原料流体中の酸素濃度を調節することによって、水素選択透過性金属膜12表面での酸素濃度を調整する。例えば、原料流体供給部31は、酸素を含有しない流体と流量を調節した酸素又は空気とを混合させて、これを原料入口3から供給する形態とすることにより、水素選択透過性金属膜12表面での酸素濃度を調節できる。
【0033】
原料流体としては、メタン、エタン、プロパン、ブタン、灯油、ナフサ等の炭化水素、メタノール、エタノール等のアルコール類、ジメチルエーテル等のエーテル類、ケトン類などの含酸素炭化水素、あるいは一酸化炭素などの、炭素を含有する化合物を含有するものが挙げられる。炭素を含有する化合物と水蒸気とが反応すると、水素が生成されるからである。ここに挙げたものに限らず、水素選択透過性金属膜12に水素を供給できるものであれば、必要に応じて選択、混合された原料流体を使用できる。なお、原料流体供給部31は、水やエタノール等の液体系の原料を気化器でガス化して供給する実施形態としてもよい。
【0034】
1−1−2.水素選択透過部:
水素選択透過部11は、ガス供給部から第1流路7内を流れている原料流体に含まれる水素、又は原料流体からの生成物に含まれる水素のみを水素選択透過性金属膜12によって選択的に第2流路8の側へ透過させ、かつ、残余の原料流体及びその生成物に対しては第1流路7の側から第2流路8の側への透過を阻止する形態を備えていればよい。なお、水素が第1流路7の側から第2流路8の側に水素選択透過性金属膜12を透過する際には、第1流路7と第2流路8との間の水素分圧の差が水素の透過の駆動力になる。
【0035】
水素選択透過部11は、水素選択透過性金属膜12が単独にて流体流路6を第1流路7と第2流路8とに隔てるような形態にもできるが、図1に示す水素選択透過部11のように、水素選択透過性金属膜12が、多孔質支持体14によって裏打ちされた状態にて、第1流路7側と第2流路側とを隔てるような形態にすると好ましい。このようにすると、水素選択透過性金属膜12の機械的強度が高まるからである。このとき、多孔質支持体14は、水素選択透過性金属膜12の水素選択透過性能を大きく損なわず、多孔質支持体14の内部に原料流体や水素などを流通させるものであればよい。水素選択透過性金属膜12を多孔質支持体14で裏打ちした水素選択透過部11を用いる場合、水素選択透過性金属膜12が面する側は、第1流路7側でも第2流路8側でもよい。
【0036】
1−1−3.流体流路(第1流路、第2流路):
流体流路6は、原料流体、その生成物、及び水素選択透過部11を透過した水素が流れるように、密封性の高い材質からなる流路壁9が囲む閉じられた空間を有する構造である。
【0037】
本発明の水素分離装置1において、流体壁9は、密封性を保ち、耐圧性、耐熱性及び熱伝導性が良好な材質からなるものが望まれる。例えば、流路壁9は、金属製のものを挙げることができ、中でも耐食性及び経済性に優れているステンレス製のものが好適である。
【0038】
流体流路6の形状及び大きさは、原料流体又はその生成物から水素選択透過部11を通じて水素を選択的に分離するという本来の機能を損なわない限り、あらゆる設計でも許される。
【0039】
また、水素分離装置1の本来の機能を損なわない限り、流体壁9の表面は、セラミックスや金属で被覆されていてもよい。このように、流路壁9の表面をセラミックスや金属にて被覆することによって、流路壁9が、流体流路6内の原料流体中の成分と反応して、腐食されてしまうことを防止できる。
【0040】
また、例えば、第1流路7は、流路壁9からフィン形状の部材が第1流路7内に突き出すような形態としてもよく、このような形態では原料流体の流動方向などを好適な状態に調整できる利点がある。
【0041】
1−2.袋管形状の水素選択透過部を備える実施形態:
図2は、袋管形状の水素選択透過部11を備える、本発明の水素分離装置1の一実施形態を模式的に表し、反応容器2及びその内部の構造については縦断面にて示す。この水素分離措置1において、袋管形状の水素選択透過部11は、袋管形状の多孔質支持体14とその外表面上を被覆する水素選択透過性金属膜12とからなり、一方の端部が開口部13とされている。また、この水素選択透過部11の開口部13が、接合部22を介して水素出口4から反応容器2の内部に伸びている管形状の第2流路8と接続する。これにより、水素選択透過部11は、反応容器2の内部に固定され、袋管形状の水素選択透過部11の内部は、水素出口4に通じている。このような袋管形状の水素選択透過部11は、図1に示す水素選択透過部11と比較して、水素選択透過性金属膜12の面積が増大するため、本発明の水素分離装置1に備えられると好ましい。
【0042】
図2に示すように水素選択透過性金属膜12の面積が大きくなれば、水素選択透過性金属膜12に炭素などが付着して水素分離性能が低下するリスクも高まる。本発明の水素分離装置1では、原料流体供給部31によって水素選択透過性金属膜12表面での原料流体の酸素濃度が好適なものとされるため、水素選択透過性金属膜12の面積の増大によって、水素選択透過性金属膜12の水素分離性能が低下することもなくなる。
【0043】
図2では、袋管形状の水素選択透過部11が1つ設置されているが、水素選択透過性金属膜12の面積をさらに増大させるために、上記の袋管形状の水素選択透過部11を複数個配置するような形態にもできる。あるいは、襞状の形状を有する多孔質支持体14の表面上に水素選択透過性金属膜12を被覆することで、水素選択透過性金属膜12の表面積を増大させてもよい。
【0044】
1−3.触媒物質が第1流路内に配置されている実施形態:
図3に表す水素分離装置1は、図2に示す袋管形状の水素選択透過部11を備える水素分離装置1の第1流路7内に触媒物質23が配置されている。この触媒物質23は、原料流体から水素を生成する反応を促進するものであり、触媒物質23の種類は、公知のものを使用すればよく、原料流体の組成及び反応によって最適なものを選択することができる。この実施形態の原料流体供給部31は、触媒物質23による原料流体からの反応生成物を考慮しつつ、水素選択透過性金属膜12の表面での酸素の濃度を0.1%以上かつ5.0%未満とするように、原料流体を調製する形態を備える。
【0045】
触媒物質23としては、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、タングステン(W)、レニウム(Re)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)及び金(Au)からなる群より選択される少なくとも1種の金属が含有されていることが好ましい。反応性や耐酸化性の観点から、触媒物質23としては、貴金属元素のうち少なくとも1種を含有することがさらに好ましい。
【0046】
また、触媒物質23としては、上記した触媒活性成分としての金属を含んだ化合物を、例えば、ペレット状、フォーム状又はハニカム状に形成された担体に担持されたもの、又は前記触媒自身をペレット状、フォーム状又はハニカム状に成形したものを好適に用いることができる。
【0047】
触媒物質23を配置する場合、この触媒物質23と水素選択透過性金属膜12との接触により、水素選択透過性金属膜12の損傷及び不要な化学反応を誘発するおそれがある。そこで、触媒保持部材24によって、触媒物質23を第1流路7内の所定の位置に保持して、触媒物質23と水素選択透過部11との接触を阻止することが好ましい。触媒保持部材24は、原料流体の通過を許容する形状であり、水素選択透過性金属膜12による水素の選択的な透過を妨げないものであれば、特に限定されない。例えば、触媒物質23の短径よりも小さい開き目の金属製のメッシュあるいはセラミックスを主成分とする多孔質体などで、触媒物質23と水素選択透過部11との接触を阻止することが挙げられる。
【0048】
1−4.水素選択透過性金属:
水素選択透過性金属膜を構成する水素選択透過性金属とは、パラジウム(Pd)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、ジルコニウム(Zr)、バナジウム(V)など、水素を固溶することで、水素を選択的に透過させる性質を有する金属及びその合金である。
【0049】
これらの水素選択透過性金属のうち、効率よく水素を選択的に透過できるため、パラジウム又はパラジウムを含有する合金(以下、「パラジウム合金」)によって水素選択透過性金属膜12が形成されると好ましい。
【0050】
さらに、水素選択透過性金属膜12は、パラジウム合金から形成されるとより好ましい。パラジウム合金からなる水素選択透過性金属膜12は、パラジウムの水素脆化が防止され、高温時における水素分離の効率も高いためである。水素選択透過性金属膜12をパラジウム合金から形成する場合、パラジウム合金におけるパラジウム以外の金属の含量は、5〜50重量%であることが好ましい。また、パラジウム合金におけるパラジウム以外の金属として銀(Ag)又は銅(Cu)を含有することは、パラジウムの水素脆化防止のため最も好ましい。
【0051】
一方、水素選択透過性金属膜12として、パラジウム又はパラジウム合金以外の水素選択透過性金属を使用する場合には、水素選択透過性金属膜12の表面の少なくとも一部をパラジウム又はパラジウム合金で被覆することが好ましい。これによって、水素選択透過性金属膜12からの水素の解離を促進し、水素選択透過性金属膜12表面の酸化を防止できるためである。
【0052】
水素選択透過性金属として、パラジウムと銀との合金を用いる場合には、まず化学メッキ等によってパラジウムからなる層を形成した後、このパラジウムからなる層の表面に銀を更にメッキする。次いで、加熱してパラジウムと銀とを相互拡散させれば、パラジウムと銀との合金からなる水素選択透過性金属膜12を形成できる。なお、パラジウからなる層の表面に銀をメッキするに際しては、化学メッキをすることや、パラジウム(Pd)からなる層を電極とし、電気メッキすることが好ましい。この際、用いるパラジウムと銀との質量比(Pd:Ag)が、90:10〜70:30であることが好ましい。
【0053】
1−5.多孔質支持体:
多孔質支持体14としては、微細な細孔を有する材質のものが挙げられ、中でも、耐食性や耐熱性などに優れているため、セラミック及び/又は金属を主成分とするものが好ましい。
【0054】
多孔質支持体14を構成するセラミック成分としては、例えば、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、ムライト、コーディエライト、ジルコニア等が挙げられる。
【0055】
多孔質支持体14を構成する金属成分としては、例えば、ステンレス、インコネル、インコロイ、パーマロイ、コバール、インバー、スーパーインバー、ニッケル、鉄・ニッケル合金等が挙げられる。
【0056】
多孔質支持体14の主成分をセラミック及び/又は金属とするとき、多孔質支持体14には、セラミック又は金属以外の不可避的に含有される成分や、多孔質支持体14を形成する際に通常添加されるような成分が少量含有されていてもよい。
【0057】
なお、この多孔質支持体14の形状・大きさ・材質は、水素を含有する原料流体及びその生成物の水素選択透過性金属膜12の第1流路7側の面への接触の許容、及び第2流路8側へ透過した水素の第2流路8への放出など、水素選択透過部11の機能を損なわない限りは、あらゆるものが適用できる。
【0058】
多孔質支持体14の表面上に水素選択透過性金属膜12を成膜する方法としては、特に限定されない。具体的には、めっき処理、スパッタ処理又は化学気相堆積(CVD)処理等の従来の方法を好適に用いることができる。また、圧延等によって作製した水素選択透過性金属膜12を用いることもできる。中でも、大型の多孔質支持体14の表面に対しても比較的容易に成膜できる点から、めっき処理により多孔質支持体14の表面上に水素選択透過性金属膜12を成膜することがより好ましい。特に、化学めっき法(無電解めっき法)を採用した場合、多孔質支持体14の凹凸のある表面あるいは管形状の内面にも水素選択透過性金属膜12を均一な膜厚で成膜することができる。
【0059】
2.水素分離装置の運転方法:
先に述べた本発明の水素分離装置1は、水素選択透過性金属膜12に水素を溶解・拡散させることによって、水素選択透過性金属膜12に水素を選択的に透過させるため、水素選択透過性金属膜12が加熱された状態にて、使用されることが好ましい。本発明の水素分離装置1において、水素選択透過性金属膜12の水素脆化を抑制する観点では、水素選択透過性金属膜12を透過する水素の温度が、300℃以上であると好ましく、400℃以上であることより好ましい。また、水素選択透過性金属膜12や水素分離装置1等の耐久性を高める観点では、水素選択透過性金属膜12を透過する水素の温度は、900℃以下であると好ましく、800℃以下であるとより好ましい。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0061】
(実施例1)
図2に示すように、反応容器2に、以下の水素選択透過部11及び接合部22を備えた水素分離装置1を作製した。水素選択透過部11は、外径30mm、長さ500mmの袋管形状の多孔質アルミナ支持体14の表面上に、めっき法により、水素選択透過性金属膜12としてPd‐Ag合金膜が成膜されたものを用いた。なお、PdとAgとの割合は、Pd80質量部に対して、Ag20質量部となるように調節した。水素選択透過部11は、その開口部13をステンレス製の金属接合部22に嵌合して固定した。
【0062】
得られた水素分離装置1について水素透過性能の測定を行った。水素透過性能の測定は、反応容器2を加熱することによって、水素選択透過部11をアルゴンガス雰囲気中で500℃まで昇温した後、7atmの水素と酸素の混合ガス(酸素濃度3%)を反応容器2に導入し、反応容器2内にセットした水素選択透過部11を透過する水素の量を測定することによって行った。なお、測定結果は、水素透過性能測定開始時の水素の透過量を100%とした割合で求めた。結果を表1と図4に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
(実施例2)
水素と酸素の混合ガスの酸素濃度を0.5%とした以外は実施例1と同様にして水素透過性能の測定を行った。結果を表1と図4に示す。
【0065】
(比較例1)
水素と酸素の混合ガスの代わりに純水素を使用した以外は実施例1と同様にして水素透過性能の測定を行った。結果を表1と図4に示す。
【0066】
(比較例2)
水素と酸素の混合ガスの代わりに水素と一酸化炭素の混合ガス(一酸化炭素濃度50%)を使用した以外は実施例1と同様にして水素透過性能の測定を行った。結果を表1と図4に示す。
【0067】
(評価)
表1と図4に示すように、実施例1、2では水素透過性能の低下が見られなかったのに対し、比較例1、2では水素透過性能評価時間の経過に伴って水素透過性能が低下した。なお、比較例1、2で使用した水素選択透過性金属膜12を500℃の空気中で1時間熱処理した後に再度水素透過性能の評価を行ったところ、水素選択透過性金属膜12の水素透過性能が初期の値に回復することを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、原料流体中の酸素濃度を制御することで、水素選択透過性金属膜の水素透過性能の低下が抑制され、長時間の稼動によっても水素透過性能が低下しない水素分離装置に関するものである。
【符号の説明】
【0069】
1:水素分離装置、2:反応容器、3:原料入口、4:水素出口、5:残原料出口、6:流体流路、7:第1流路、8:第2流路、9:流路壁、11:水素選択透過部、12:水素選択透過性金属膜、13:開口部、14:多孔質支持体、22:接合部、23:触媒物質、24:触媒保持部材、31:原料流体供給部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料流体を流入する原料入口と、前記原料流体より選択的に抽出される水素を流出する水素出口と、残余の前記原料流体を排出する残原料出口と、並びに前記原料入口から前記水素出口及び前記残原料出口まで通じる流体流路と、を有する反応容器と、
前記流体流路に設けられて、前記原料入口及び前記残原料出口に通じる第1流路と前記水素出口に通じる第2流路とに前記流体流路を隔て、前記原料流体に含まれる水素を選択的に透過する水素選択透過性金属膜を有し、該水素選択透過性金属膜を通じて前記第1流路側から前記第2流路側へ水素を選択的に透過する水素選択透過部と、
前記原料入口にて前記第1流路と連通し、前記水素選択透過性金属膜の表面での酸素の濃度が0.1%以上かつ5.0%未満となるように前記原料流体を調製しつつ、前記原料流体を前記原料入口から前記第1流路内に供給する原料流体供給部と、を備える水素分離装置。
【請求項2】
前記水素選択透過性金属膜の前記原料流体との接触面の少なくとも一部が、パラジウム(Pd)及び/又はPdを含有する合金である、請求項1に記載の水素分離装置。
【請求項3】
前記原料流体が炭素を含有する化合物を含む、請求項1又は2に記載の水素分離装置。
【請求項4】
前記第1流路内に、原料流体からの水素の生成反応を促進する触媒物質を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の水素分離装置。
【請求項5】
前記触媒物質が貴金属元素のうち少なくとも1種を含有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の水素分離装置。
【請求項6】
前記酸素濃度が0.1%以上かつ1.0%未満である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の水素分離装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の水素分離装置を、水素透過時の前記水素選択透過性金属膜を透過する水素の温度が300℃以上かつ900℃以下で使用する、水素分離装置の運転方法。
【請求項8】
前記水素選択透過性金属膜を透過する水素の前記温度が400℃以上かつ800℃以下である、請求項7に記載の水素分離装置の運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−201304(P2010−201304A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−47627(P2009−47627)
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】