説明

水素化チタンの製造方法

【課題】水素化チタンの製造方法において、特に、水素化反応の中盤以降の反応速度の低下期において水素化反応速度を効率的に向上させることができる方法を提供する。
【解決手段】チタン材と水素を反応させる水素化チタンの製造方法であって、前記チタン材を収容した反応容器へ水素を導入して加熱し、前記水素と前記チタン材の反応速度の低下傾向が飽和した時点で、加熱を停止して急冷し、その後も継続して前記水素と前記チタン材との接触処理を行わせることを特徴とする水素化チタンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素化チタンの製造方法に係り、特に、水素化チタンの反応を効率的に進めることができる製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン粉は粉末冶金の分野において有効に利用されている。チタン粉は、原料チタンを溶融状態に保持してこれを不活性ガスで噴霧することにより製造されるアトマイズ粉や、原料チタンを水素化して一旦水素化チタンとし、次いで、これを脱水素して製造されるHDH(水素化脱水素)粉が知られている。
【0003】
HDH粉は、原料チタンを溶融するプロセスがないため、アトマイズ法に比べて、比較的手軽に実施できるという特徴がある。
【0004】
しかしながら、原料チタンを水素化する反応処理において、反応速度が反応中盤から低下するため、反応を完了させるのに比較的長時間を要し、原料チタン全体の水素化処理のための生産性が上がらないという課題があった。
【0005】
反応速度が反応中盤から低下する原因は不明であるが、水素化処理が発熱反応であるために、その熱の吸収を如何に効率よく行うかが重要であると考えられる。この点については、例えば、水素化反応を行なわせる反応容器の内部を加熱ゾーンと冷却ゾーンに分けて、水素化反応終了後、反応容器全体を冷却ゾーンに移動できるような装置構成が検討されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、前記公知文献には水素化反応後の冷却原理および加熱炉の内部構造が開示されてはいるものの、どのタイミングで、加熱ゾーンから冷却ゾーンに移動させることが有効なのかに関する記載がなく、同装置を実際の操業において完全に有効利用することは難しい状況にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開平05−046923号公報
【0008】
以上のように、水素化反応の中盤以降の反応速度の低下期において、水素化反応速度を高めることができる方法が望まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、水素化チタンの製造方法において、特に、水素化反応の中盤以降の反応速度の低下期において水素化反応速度を効率的に向上させることができる方法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる実情に基づいて、チタン材の水素化処理速度の改善に着目して鋭意検討を重ねてきたところ、水素化反応速度が著しく減少したところで、急冷させることにより、その後の水素化反応速度が急激に回復し、その結果、チタン材の水素化処理時間を大幅に短縮することができることを見出した。
【0011】
即ち、本発明に係る水素化チタンの製造方法は、チタン材と水素を反応させる水素化チタンの製造方法であって、チタン材を収容した反応容器へ水素を導入して加熱し、水素とチタン材の反応速度の低下傾向が飽和した時点で、加熱を停止して急冷し、その後も継続して水素とチタン材との接触処理を行わせることを特徴としている。
【0012】
本発明に係る水素化チタンの製造方法においては、前記急冷時において、反応容器への加熱を断つと共に、反応容器を大気放冷させることを好ましい態様とするものである。
【0013】
本発明に係る水素化チタンの製造方法においては、前記水素化反応の温度は、700℃を超えないように制御することを好ましい態様とするものである。
【0014】
本発明に係る水素化チタンの製造方法においては、前記水素化反応の開始に際しては、前記チタン材を内装した前記反応容器を減圧しつつ500〜700℃まで加熱昇温するものであり、前記急冷に際しては、前記加熱炉の電源を断ってから水素ガスを供給することを好ましい態様とするものである。
【0015】
本発明に係る水素化チタンの製造方法においては、前記水素化反応をスポンジチタン製造用反応容器内で行うことを好ましい態様とするものである。
【0016】
本発明に係る水素化チタンの製造方法においては、前記スポンジチタン製造用反応容器内で生成したスポンジチタンそのものを水素化することを好ましい態様とするものである。
【0017】
本発明に係る水素化チタンの製造方法においては、前記スポンジチタンが、AグレードまたはBグレードのスポンジチタンであることを好ましい態様とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明に従えば、チタン材の水素化処理速度の低下を来たすことなく、水素化処理の反応時間を短縮することができ、その結果、水素化処理反応を効率的に進めることができるという効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のチタンの水素化反応時における水素化反応速度と反応時間の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の最良の実施形態について以下に説明する。
本発明に係る水素化チタンの製造方法は、チタン材と水素ガスを加熱した状態で反応させて水素化チタンを製造する方法において、前記チタン材への水素ガスの反応速度が著しく低下した時点で、加熱を停止して急冷し、継続して水素化反応を行なわせることを特徴とするものである。
【0021】
上記水素化チタンの製造においては、まずは、反応容器内にチタン材を充填した後、容器内を減圧に維持しつつ容器内の温度を500〜700℃まで加熱することが好ましい。
【0022】
前記温度範囲に達した時点で、容器内への水素ガスの導入を開始することが好ましい。炉内へ供給する水素ガスの供給量は、容器内の圧力が一定となるように導くことが好ましい。
【0023】
前記した容器内の圧力は、大気圧を基準として、ゲージ圧で、1〜3気圧の範囲に維持することが好ましい。前記した圧力範囲に維持することで、炉内における水素化反応を効率よく進めることができるという効果を奏するものである。
【0024】
前記した条件で水素化反応が開始された時点で、水素化反応速度は、図1のグラフに示すように高い値を示すものの、初期においては単調に減少する傾向を示し、水素化反応速度がゼロに漸近する傾向を示す。
【0025】
本発明においては、前記したゼロに漸近する傾向を示すようになった時点で、水素化反応容器への加熱を停止すると共に、反応容器を急冷し、その後も反応を継続することを好ましい態様とするものである。
【0026】
前記した操作を行うと、その後の水素化反応速度は急速に回復する傾向を示すようになる。その結果、チタン材の水素化処理速度を高めることができ、その結果、水素化チタンの生産性を、前記した急冷操作を介入させない場合に比べて、効果的に高めることができるという効果を奏するものである。
【0027】
急冷後には、水素化反応速度が回復した後、上昇する傾向を示すが、そのピークを示した後、減少傾向に転じてゼロに漸近する傾向を示す。この傾向を示したところで水素化反応を終了させることが好ましい。
【0028】
本発明においては、前記した水素化反応中の温度は、500〜700℃の範囲に保持することが好ましい。前記した範囲に維持しておくことにより、水素化反応の逆反応を効果的に抑制しつつ、効率よく水素化反応を行わせることができるという効果を奏するものである。
【0029】
本発明においては、前記した水素化チタンの反応を行う容器(装置)は、大気から隔離することができるような公知文献に記載の装置を好適に使用することができる。
【0030】
本発明においては、別途水素化反応容器を用意せずに、スポンジチタン製造用の還元容器を使用して、スポンジチタン製造後にそのまま水素化反応を行わせることもできる。
【0031】
スポンジチタン製造容器は、大気と画成できるのみならず、減圧操作も具備しているため、水素化チタンを製造後の、水素化チタンの脱水素工程も効率よく継続することができるという効果を奏するものである。
【0032】
本発明に用いるチタン材は、いわゆる、Aグレードのスポンジチタンを使用することができるが、Bグレードのスポンジチタンを使用することもできる。前記したBグレードのスポンジチタンは、還元容器内で製造されたスポンジチタン塊のうち、比較的グレードの低いスポンジチタンを意味するが、その他、還元反応途中でトラブルが発生した場合のスポンジチタンを原料として利用することもできる。
【0033】
前記したようなトラブルが発生したスポンジチタンは、一般的には、酸素あるいは窒素含有率が高く、高品質な用途のチタンインゴットやチタン合金インゴットの原料には向かないが、元々酸素含有率が高くても商品価値のあるチタン粉の原料とすることができる。
【0034】
従来は、前記したようなトラブルの発生したスポンジチタンであっても、通常のAグレード品と同じように反応容器から抜き出して、破砕処理して小塊に加工されるため生産コストの点で改善の余地が残されていたが、本発明の好ましい態様で示すように、還元容器内で生成したスポンジチタンを抜き出すことなく、そのままの状態で水素化処理を行なわせることにより、還元容器内で生成したスポンジチタンを脆化させることができ、その結果、前記還元容器内から、グレードの低いチタンを、水素化チタンとして効率よく抜き出すことができるという効果を奏するものである。
【0035】
還元容器内で生成した水素化チタンの抜き出しは、削岩機のような治具を用いて、粉砕しながら、抜き出すことができる。
【0036】
還元容器から抜き出された水素化チタンは、公知の粉砕器を使用して所定の粒度に粉砕整粒した後、再度、還元容器内に戻してから、減圧状態で脱水素反応に好適な温度域まで加熱することが好ましい。このような操作を行なうことで、還元容器内で生成した水素化チタン粉の脱水素処理を効率的に進めることができるという効果を奏するものである。
【0037】
還元容器内で生成したチタン塊は、相互にシンタリングしているため、スポンジチタンの押し抜き装置をそのまま使用して、還元容器から抜き出すことができるという効果を奏するものである。
【0038】
還元容器から抜き出されたチタン塊は、スポンジチタンの破砕整粒工程に具備された破砕装置をそのまま使用することで、小塊に分塊後、粉砕設備を通すことにより、所定の粒度に整粒されたチタン粉を製造することができるという効果を奏するものである。
【0039】
このように、本発明においては、従来の方法では、生産性の点で難があったチタン材の水素化処理時間を大幅に短縮することができるという効果を奏するものである。
【0040】
更には、水素化および脱水素反応をスポンジチタン製造用反応容器内で行わせることにより、バッチ当たりの生産性も高めることができるという効果を奏するものである。
【実施例】
【0041】
以下、実施例および比較例によって本発明をより詳細かつ具体的に説明する。
[製造条件]
1.原料:スポンジチタン
1)品種:Aグレード
2)粒度:1.0mm〜12.7mm
2.反応条件
1)水素化反応温度:600〜700℃
2)反応雰囲気圧力:1気圧(ゲージ圧)
3)スポンジチタン充填量:10Kg
3.反応装置
固定層形式の反応装置を使用。
4.急冷処理のタイミング
水素化反応開始時より、反応容器内に供給された水素ガスの供給速度をモニターし、前記速度が、ゼロ近傍に達した時点。
5.反応完結時間
水素化反応開始時より急冷処理を行った後、一旦水素化反応速度が回復してピークを迎え、その後減少してゼロ近傍に達した時点を水素化反応の完結時間とした。
【0042】
下記実施例1および比較例1により、急冷の有無による水素化の反応完結時間(以降、「反応完結時間」と呼ぶ場合がある。)に及ぼす影響を調べた。
【0043】
[実施例1]
前記条件下でスポンジチタンの水素化処理を開始後、90分頃には水素化反応がゼロ近傍まで低下した。そこで、反応炉の電源を断った後、反応容器の周囲に配置した加熱炉を取り外した状態で、反応容器を急冷すると共に、その状態にある反応容器内に水素ガスの供給を継続して、水素化チタンを製造し、反応完結時間を測定した。
【0044】
[比較例1]
実施例1において、水素化反応速度が低下した状態で水素化反応を継続させた以外は同じ条件で水素化反応を継続させた。そのときの反応完結時間を測定し、実施例1の反応完結時間を100とした場合の反応完結時間は130であった。実施例1および比較例1により反応途中で行う急冷操作の効果が確認された。
【0045】
【表1】

【0046】
次に、下記実施例2および比較例2により、急冷方法の違いによる反応完結時間に及ぼす影響を調べた。
【0047】
[実施例2、比較例2]
実施例1において、反応途中で実施した急冷方法の具体的な方法による反応完結時間の影響について調査し、その結果を表2に示した。具体的には、反応途中で実施する炉の冷却において、加熱炉の停止に加えて、炉を反応容器から取り外した場合(実施例2)と、取り外さない場合(比較例2)について、反応完結時間に及ぼす影響を調査し、表2に示した。これらの結果によると、実施例1に示した大気放冷に比べて格段の差異があることが把握できた。表2の反応完結時間(比較例2)は、実施例2を100とした場合の時間を表している。
【0048】
【表2】

【0049】
[実施例3](反応完結時間に及ぼす反応温度の影響)
反応容器に仕込んだスポンジチタンに対して、水素ガスを供給して、反応完結時間を計測し、650℃における反応完結時間を100とした場合のその他の反応完結時間を表3に示した。
【0050】
その結果、反応温度が本発明の好ましい範囲である500〜700℃を超えた750℃においては、650℃における反応完結時間に比べて低い値を示した。これは、水素化反応温度が700℃を超えると、水素化処理された水素化チタンの分解反応が生起されたためと考えられる。一方、反応温度が、500℃以下の450℃の場合には、反応完結時間は、650℃に比べて30%に留まった。これは、反応温度が低く、反応継続に十分な温度ではなかったためと考えられる。
【0051】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、水素化チタンを従来の技術に比べて効率よく製造することができる方法を提供するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン材と水素を反応させる水素化チタンの製造方法であって、
前記チタン材を収容した反応容器へ水素を導入して加熱し、
前記水素と前記チタン材の反応速度の低下傾向が飽和した時点で、加熱を停止して急冷し、
その後も継続して前記水素と前記チタン材との接触処理を行わせることを特徴とする水素化チタンの製造方法。
【請求項2】
前記急冷時において、前記反応容器への加熱を断つと共に、前記反応容器を大気放冷させることを特徴とする請求項1に記載の水素化チタンの製造方法。
【請求項3】
前記水素化反応の温度は、700℃を超えないように制御することを特徴とする請求項1に記載の水素化チタンの製造方法。
【請求項4】
前記水素化反応の開始に際しては、前記チタン材を内装した前記反応容器を減圧しつつ500〜700℃まで加熱昇温するものであり、前記急冷に際しては、前記加熱炉の電源を断ってから水素ガスを供給することを特徴とする請求項1に記載の水素化チタンの製造方法。
【請求項5】
前記水素化反応をスポンジチタン製造用反応容器内で行うことを特徴とする請求項1に記載の水素化チタンの製造方法。
【請求項6】
前記スポンジチタン製造用反応容器内で生成したスポンジチタンそのものを水素化することを特徴とする請求項5に記載の水素化チタンの製造方法。
【請求項7】
前記スポンジチタンが、AグレードまたはBグレードのスポンジチタンであることを特徴とする請求項5に記載の水素化チタンの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−91588(P2013−91588A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235950(P2011−235950)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(390007227)東邦チタニウム株式会社 (191)
【Fターム(参考)】