説明

水素化塩化ジルコノセン化合物の製造方法。

【課題】 本発明の目的は、有機合成時の試薬として利用され、反応性に優れる水素化塩化ジルコノセン化合物の製造方法を提供することにある。
【解決手段】 水素化塩化ジルコノセン化合物を製造する方法であって、二塩化ジルコノセン化合物と水素化剤とを0℃以下で反応させる方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機合成の試薬として用いられる水素化塩化ジルコノセン化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パラジウムやロジウムなどの遷移金属を用いる反応の開発が盛んに行われている。遷移金属としてジルコニウムを用いた試薬の1つとして、水素化塩化ジルコノセン化合物がある。水素化塩化ジルコノセン化合物の1つである下記化学式(2)で示される水素化塩化ジルコノセンは、シュワルツらによって研究されたことから、現在では、シュワルツ試薬(Schwartz Reagent)とも呼ばれている。
【0003】
【化2】

【0004】
水素化塩化ジルコノセンは、有機合成に有用な化合物であり、反応例を下記反応式(1)に示す。但し、式中、R、R´はアルキル基、Xはハロゲン、Eは求電子試薬、Cpはシクロペンタジエニル基を示す。
【0005】
【化3】

【0006】
水素化塩化ジルコノセン〔a〕に、例えば、不飽和炭化水素であるアルキンを反応させると、それらが立体及び位置選択的に反応し、水素化塩化ジルコノセンのジルコニウムと炭素との間に結合が形成された有機ジルコニウム化合物〔b〕が生成する。この反応はヒドロジルコネーションと呼ばれる。生成した有機ジルコニウム化合物に種々の試薬を作用させることによって、アルキンに様々な置換基を導入することができる。例えば、有機ジルコニウム化合物と求電子試薬とを反応させることにより、求電子試薬が置換した有機化合物〔c〕を合成することができる。また、有機ジルコニウム化合物と、例えばハロゲン化アルケンをパラジウム触媒の存在下で反応させることにより、それらがカップリングした有機化合物〔d〕を合成することができる。このように、水素化塩化ジルコノセンは有機合成に有用な試薬として用いられる。
【0007】
水素化塩化ジルコノセンの代表的な合成方法として、一般的に、水素化剤を用いて二塩化ジルコノセンの1つの塩素をヒドリド置換させる方法が用いられる。この方法の報告例を以下に示す。
【0008】
非特許文献1には、二塩化ジルコノセン0.342molのテトラヒドロフラン溶液に、水素化アルミニウムリチウム(LiAlH)94.9mmolのジエチルエーテル溶液を滴下して得られる固形分を、テトラヒドロフラン及びジクロロメタンで洗浄し乾燥すると、77〜92%という高い収率で水素化塩化ジルコノセンの白色固体が得られることが記載されている。さらに、その純度は、95%以上という高純度であることが記載されている。また、非特許文献1には、室温より少し高い温度下で、この合成を行うことが記載されている。さらに、非特許文献1には、下記反応式(2)に示すように、二塩化ジルコノセンに水素化剤を作用させると、水素化塩化ジルコノセンとともに不純物である二水素化ジルコノセンが生成し、それをジクロロメタンで洗浄することで水素化塩化ジルコノセンに転換できることが記載されている。但し、式中、Cpはシクロペンタジエニル基を示す。
【0009】
【化4】

【0010】
非特許文献2には、1モルの二塩化ジルコノセンに対して、0.25モルの水素化アルミニウムリチウム(LiAlH)または1モルの水素化トリ−tert−ブトキシアルミニウムリチウム(LiAlH(OBu))を反応させることで、水素化塩化ジルコノセンが高収率で得られることが記載されている。具体的に、二塩化ジルコノセン113mmolのテトラヒドロフラン溶液に水素化トリ−tert−ブトキシアルミニウムリチウム113mmolのテトラヒドロフラン溶液を添加させると、90%の収率で、水素化塩化ジルコノセンの白色固体が得られることが記載されている。また、非特許文献2において、合成温度についての記載はない。
【0011】
非特許文献3では、水素化剤として、水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム(NaAlH(OCHCHOCH)を用いて、水素化塩化ジルコノセンを合成することが記載されている。また、非特許文献3において、詳細な合成条件についての記載はない。
【0012】
非特許文献4では、二塩化ジルコノセン0.56mmolのテトラヒドロフラン溶液に、水素化トリエチルホウ素リチウム(LiEtBH)0.56mmolのテトラヒドロフラン溶液を滴下することで、水素化塩化ジルコノセンが生成されることが記載されている。また、非特許文献4では、室温でこの合成を行うことが記載されている。
【0013】
【非特許文献1】Tetrahedron Letters,Vol.28,No.34,pp3895−3898,1987
【非特許文献2】Journal of Organometallic Chemistry,24,pp405−411,1970
【非特許文献3】Journal of the American Chemical Society,101:13,pp3521-3531,June 20,1979
【非特許文献4】Tetrahedron Letters,Vol.31,No.50,pp7257-7260,1990
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述のように、非特許文献1乃至4では、種々の水素化剤を用いて合成を行っているが、各非特許文献の製法で得られる水素化塩化ジルコノセンは、試薬としての能力は十分ではない。なぜなら、各非特許文献は、コストダウン、濾過工程の作業性向上、純度の向上、副生塩による反応阻害の防止等をそれぞれ目的とした中で、水素化剤としてどれが適切であるかという内容にとどまり、試薬としての反応性を向上させるという観点から記載されたものではないからである。
【0015】
水素化塩化ジルコノセンやその化合物は、通常の有機合成に使用される溶媒にはほとんど溶解しない物質であり、有機合成の際、固体の状態で他分子と反応する。そのため、水素化塩化ジルコノセン化合物の結晶性や粒子形状などの固体物性は、反応性(反応速度)に大きく影響を与えると考えられる。ところが、水素化塩化ジルコノセン化合物は、空気中に曝されると直ちに分解するため、その物性を測定することは困難であり、物性と反応性との関係を明らかにすることは容易なことではない。しかし、通常、化合物の物性は、その合成条件によって変化するものであるため、本発明の出願人は、合成条件を変化させた種々の水素化塩化ジルコノセン化合物について、反応性にどのような影響を及ぼすかを検討するに至った。したがって、本発明の目的は、水素化塩化ジルコノセン化合物を合成する条件を最適化することによって、反応性の優れる水素化塩化ジルコノセン化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
以上の課題を解決するため、本発明者は鋭意研究して以下の発明がなされた。
【0017】
本発明は、下記化学式(1)に示される水素化塩化ジルコノセン化合物を製造する方法であって、二塩化ジルコノセン化合物と水素化剤とを0℃以下で反応させる方法に関する。但し、式中、R〜R10は、水素原子、又は、炭素数が10以下のアルキル基を示す。
【0018】
【化5】

【0019】
本発明における二塩化ジルコノセン化合物とは、化学式(1)のジルコニウムに結合する水素原子を塩素原子に置換した化合物である。目的とする水素化塩化ジルコノセン化合物の組成によって、二塩化ジルコノセン化合物の組成を決定する。
【0020】
また、前記水素化剤は、化学式:LMH4−x、又は、RMH3−yで示される化合物であることが好ましい。但し、式中、LはLi又はNa、MはB又はAl、Rは炭素数10以下のアルキル基、炭素数10以下のアルコキシル基、炭素数10以下のアルコキシアルキル基、又は、炭素数10以下のジアルキルアミノ基、xは0≦x≦3を満たす整数、yは0≦y≦2を満たす整数である。
【0021】
さらに、前記水素化剤は、水素化アルミニウムリチウム、水素化トリ−tert−ブトキシアルミニウムリチウム、水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム、水素化トリエチルホウ素リチウム、水素化ジイソブチルアルミニウムから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0022】
また、本発明は、テトラヒドロフランを少なくとも10体積%以上含む溶媒中で、前記二塩化ジルコノセン化合物と前記水素化剤とを反応させることが好ましい。
【0023】
さらに、本発明は、上記の方法により得られる水素化塩化ジルコノセン化合物に関する。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、二塩化ジルコノセン化合物と水素化剤を0℃以下で反応させる方法により、反応性に優れる水素化塩化ジルコノセン化合物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明について更に詳しく説明する。ただし、本発明は、この実施の形態及び実施例に限定されない。
原料
<二塩化ジルコノセン化合物>
二塩化ジルコノセン化合物は、純度95%以上の市販品を用いることができる。生成する水素化塩化ジルコノセン化合物の純度は、原料である二塩化ジルコノセン化合物の純度にも依存することから、二塩化ジルコノセン化合物はできるだけ高純度であることが好ましい。
<溶媒>
溶媒としては、二塩化ジルコノセン化合物、水素化剤及び水素化塩化ジルコノセン化合物と反応しないものであれば特に制限はないが、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル類、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、又は、これらの混合溶媒を用いることができる。
【0026】
反応生成物である水素化塩化ジルコノセン化合物を単離する場合には、副生成物である塩を溶解するテトラヒドロフランを溶媒として用いることが好ましい。テトラヒドロフランの濃度は、混合溶媒を用いる場合、10体積%以上、好ましくは50体積%以上であるが、テトラヒドロフランのみを溶媒として用いることが最も好ましい。
<水素化剤>
水素化剤としては、水素化アルミニウムリチウム、水素化トリ−tert−ブトキシアルミニウムリチウム、水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム、水素化トリエチルホウ素リチウム、水素化ジイソブチルアルミニウムを用いることができる。中でも、水素化トリ−tert−ブトキシアルミニウムリチウムが最も好ましい。それら水素化剤は、純度95%以上の市販品を用いることができる。生成する水素化塩化ジルコノセン化合物の純度は、原料である水素化剤の純度にも依存することから、水素化剤はできるだけ高純度であることが好ましい。
【0027】
水素化剤は、二塩化ジルコノセン化合物に対して、1.0当量以上1.1当量以下の範囲で反応させることが好ましい。すなわち、二塩化ジルコノセン化合物1モルに対して、水素化アルミニウムリチウムの場合0.25〜0.275モル、水素化トリ−tert−ブトキシアルミニウムリチウム、水素化トリエチルホウ素リチウム、水素化ジイソブチルアルミニウムの場合1.0〜1.1モル、水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム場合0.5〜0.55モルの範囲である。二塩化ジルコノセン化合物に対して、水素化剤を1.1当量以上で反応させると収率は向上する。しかし、例えば、上記反応式(2)のように水素化塩化ジルコノセンを合成する場合、不純物であるニ水素化ジルコノセンが多く生成してしまい、目的生成物の純度が低下する。
合成反応工程
本発明において、合成反応は、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行う。これらの不活性ガスの純度は、好ましくは、99.99%(4N)以上、特に好ましくは、99.9999%(6N)以上である。また、雰囲気ガス中の水分や酸素は、水素化塩化ジルコノセン化合物を分解させる原因となるため、水分や酸素を極力除去した雰囲気ガスを用いることが望まれる。
【0028】
また、反応に用いる溶媒についても、脱水剤で十分に脱水し、窒素バブリングにより脱酸素処理したものを使用する。
【0029】
さらに、水素化塩化ジルコノセン化合物は光で変色するので、遮光下で製造することが好ましい。
【0030】
水素化塩化ジルコノセン化合物の合成反応を行う際の温度は、−100℃以上0℃以下に設定する。好ましくは−40℃以上0℃以下、より好ましくは−30℃以上−10℃以下、最も好ましくは−20℃以上−10℃以下である。この温度とは、反応容器内の溶液中における実質的な温度を意味し、適宜、冷却バスなどの温度制御装置で調整する。このような低温度で合成反応を行うことで、反応性に優れる水素化塩化ジルコノセン化合物を合成することができる。
【0031】
不活性ガス雰囲気下にした反応容器内に、二塩化ジルコノセン化合物と水素化剤とを混合することにより反応を行う。反応容器へのこれらの化合物の添加の順序として、反応容器に二塩化ジルコノセン化合物と水素化剤とを同時に添加することもできるが、反応容器に先ず二塩化ジルコノセン化合物を含む液を入れ、次に水素化剤単独、又は、水素化剤を含む液を添加することもできる。反応容器への水素化剤の添加は、ゆっくり行うことが好ましいことから、溶媒に水素化剤を溶解あるいは分散させたものを滴下することが好ましい。滴下時間は0.5時間以上48時間以内が好ましく、1時間以上24時間以内がより好ましい。
【0032】
上記添加順序とは逆に、反応容器に先ず水素化剤を含む液を入れ、次に二塩化ジルコノセン化合物を添加すると、二塩化ジルコノセン化合物に対して水素化剤が過剰となるため、不純物である二水素化ジルコノセン化合物の生成を招き、目的生成物の純度が低下する。
【0033】
二塩化ジルコノセン化合物を溶媒に混合させる際、溶媒1リットル中に二塩化ジルコノセン化合物を1g以上1kg以下含むことが好ましく、10g以上500g以下含むことがより好ましく、25g以上250g以下含むことがさらに好ましい。二塩化ジルコノセン化合物は、溶媒に完全に溶解していなくてもよい。
【0034】
水素化剤を溶媒に混合させる際、1価の水素化剤(水素化トリ−tert−ブトキシアルミニウムリチウム、水素化トリエチルホウ素リチウム、水素化ジイソブチルアルミニウム)の場合、溶媒1リットル中に水素化剤を0.1モル以上4モル以下含むことが好ましく、2価の水素化剤(水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム)の場合、溶媒1リットル中に水素化剤を0.05モル以上2モル以下含むことが好ましく、4価の水素化剤(水素化アルミニウムリチウム)の場合、溶媒1リットル中に水素化剤を0.25モル以上1モル以下含むことが好ましい。
【0035】
水素化剤の添加終了後、好ましくは15分間以上24時間以内、より好ましくは30分間以上12時間以内、さらに好ましくは1時間以上6時間以内で、反応容器内の攪拌を続け、反応を完結させる。
【0036】
本発明の方法により製造された水素化塩化ジルコノセン化合物は、単離しても単離しなくても、有機合成の試薬として用いることができる。単離する場合は、不活性ガス雰囲気下で、濾過、洗浄する。洗浄溶媒としては、副生成物である塩を溶解するテトラヒドロフランを用いることが好ましい。テトラヒドロフランの濃度は、混合溶媒を用いる場合、10体積%以上、好ましくは50体積%以上であるが、テトラヒドロフランのみを洗浄溶媒として用いることが最も好ましい。また、水素化アルミニウムリチウムを用いて合成した水素化塩化ジルコノセン化合物を単離する場合、洗浄溶媒として、テトラヒドロフランとジクロロメタンを用いることが好ましい。これは、水素化アルミニウムリチウムを用いて、例えば、水素化塩化ジルコノセンを合成する場合、他の水素化剤と比較して、上記化学式(2)に記載の二水素化ジルコノセンの生成量が多くなるが、ジクロロメタンで洗浄すると、二水素化ジルコノセンから水素化塩化ジルコノセンに変換する反応が生じ、目的生成物の純度が向上するからである。洗浄の順番としては、先ずテトラヒドロフランで洗浄し、次にジクロロメタンで洗浄を行う。
【0037】
本発明の水素化塩化ジルコノセン化合物の製造法には、連続的に製造することができる流通式の反応装置を用いることができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の実施例を具体的に説明するが、本発明はこれらに限られるものではない。
【0039】
以下に記載する合成、純度の分析及び反応性の評価における工程では、紫外線遮光下、窒素雰囲気で行うものとする。また、使用する溶媒は脱水剤で十分に脱水し、窒素バブリングにより脱酸素したものを使用する。
水素化塩化ジルコノセンの合成
〔実施例1〕水素化アルミニウムリチウム(LiAlH)を用いた水素化塩化ジルコノセンの合成(−20℃)
窒素置換した200mlの3つ口フラスコに、二塩化ジルコノセン10.00g(34.21mmol)とテトラヒドロフラン65mlとを入れる。別容器に、濃度が1mol/Lとなるように、水素化アルミニウムリチウムのジエチルエーテル溶液を準備する。
【0040】
フラスコを冷却バスに浸けて−20℃に調整した後、別容器に準備した水素化アルミニウムリチウムのジエチルエーテル溶液9.4mlを約1.5時間かけてフラスコ内溶液中に攪拌しながら滴下する。水素化アルミニウムリチウムの滴下ととも水素化塩化ジルコノセンが析出する。反応を完了させるために、滴下終了後、さらに3時間攪拌を続ける。析出した固体をグラスフィルターで濾過する。グラスフィルター上の残渣をテトラヒドロフラン7.5mlで6回洗浄し、さらにジクロロメタン10mlで2回洗浄する。ジクロロメタンによる洗浄は1回につき5分間行う。洗浄した固形物を減圧乾燥する。その結果、白色固体8.01g(収率91%)が得られ、その純度は93.0%である。
【0041】
純度の測定は、非特許文献1に記載されるNMR(核磁気共鳴)による方法で行う。直径5mmのNMR測定用チューブに、得られた白色固体と重ベンゼン(C)を入れる。さらに、過剰のアセトンを添加する。これにより、水素化塩化ジルコノセンと二水素化ジルコノセンのそれぞれがアセトンと反応し生成物を形成する。H−NMRで測定を行い、それぞれの生成物のシグナルから面積比を求め、純度を算出する。以下、同様に純度を求める。
〔比較例1〕水素化アルミニウムリチウムを用いた水素化塩化ジルコノセンの合成(20℃)
合成温度を−20℃から20℃に変更する以外は、実施例1と同様に合成する。白色固体7.22g(収率82%)が得られ、その純度は95.7%である。
〔実施例2−1〕水素化トリ−tert−ブトキシアルミニウムリチウム(LiAlH(OBu))を用いた水素化塩化ジルコノセンの合成(0℃)
窒素置換した200mlの3つ口フラスコに、二塩化ジルコノセン5.00g(17.10mmol)とテトラヒドロフラン50mlとを入れる。別容器に、濃度が1mol/Lとなるように、水素化トリ−tert−ブトキシアルミニウムリチウムのテトラヒドロフラン溶液を準備する。
【0042】
フラスコを冷却バスに浸けて0℃に調整した後、別容器に準備した水素化トリ−tert−ブトキシアルミニウムリチウムのテトラヒドロフラン溶液18.8mlを約1.5時間かけてフラスコ内溶液中に攪拌しながら滴下する。水素化トリ−tert−ブトキシアルミニウムリチウムの滴下と共に水素化塩化ジルコノセンが析出する。反応を完了させるために、滴下終了後、さらに3時間攪拌を続ける。析出した固体をグラスフィルターで濾過する。グラスフィルター上の残渣をテトラヒドロフラン7.5mlで6回洗浄する。洗浄した固形物を減圧乾燥する。その結果、白色固体4.05g(収率92%)が得られ、その純度は99.4%である。
〔実施例2−2〕水素化トリ−tert−ブトキシアルミニウムリチウムを用いた水素化塩化ジルコノセンの合成(−10℃)
合成温度を0℃から−10℃に変更する以外は、実施例2−1と同様に合成する。白色固体4.12g(収率93%)が得られ、その純度は99.5%である。
〔実施例2−3〕水素化トリ−tert−ブトキシアルミニウムリチウムを用いた水素化塩化ジルコノセンの合成(−20℃)
合成温度を0℃から−20℃に変更する以外は、実施例2−1と同様に合成する。白色固体4.29g(収率97%)が得られ、その純度は99.6%である。
〔実施例2−4〕水素化トリ−tert−ブトキシアルミニウムリチウムを用いた水素化塩化ジルコノセンの合成(−40℃)
滴下する水素化トリ−tert−ブトキシアルミニウムリチウムのテトラヒドロフラン溶液(濃度1mol/L)を18.8mlから17.1mlに変更し、合成温度を0℃から−40℃に変更する以外は、実施例2−1と同様に合成する。白色固体4.02g(収率91%)が得られ、その純度は99.4%である。
〔実施例2−5〕水素化トリ−tert−ブトキシアルミニウムリチウムを用いた水素化塩化ジルコノセンの合成(−20℃、テトラヒドロフラン−ヘキサン混合溶媒)
窒素置換した300mlの3つ口フラスコに、二塩化ジルコノセン9.00g(30.79mmol)とn−ヘキサン78.5mlとテトラヒドロフラン11.5mlとを入れる。別容器に、濃度が1mol/Lとなるように、水素化トリ−tert−ブトキシアルミニウムリチウムのテトラヒドロフラン溶液を準備する。
【0043】
フラスコを冷却バスに浸けて−20℃に調整した後、別容器に準備した水素化トリ−tert−ブトキシアルミニウムリチウムのテトラヒドロフラン溶液30.8mlを約1.5時間かけてフラスコ内溶液中に攪拌しながら滴下する。水素化トリ−tert−ブトキシアルミニウムリチウムの滴下と共に水素化塩化ジルコノセンが析出する。反応を完了させるために、滴下終了後、さらに16時間攪拌を続ける。析出した固体をグラスフィルターで濾過する。グラスフィルター上の残渣をテトラヒドロフラン30mlで6回洗浄する。洗浄した固形物を減圧乾燥する。その結果、白色固体7.68g(収率97%)が得られ、その純度は、99.7%である。
〔比較例2〕水素化トリ−tert−ブトキシアルミニウムリチウムを用いた水素化塩化ジルコノセンの合成(20℃)
滴下する水素化トリ−tert−ブトキシアルミニウムリチウムのテトラヒドロフラン溶液(濃度1mol/L)を18.8mlから17.1mlに変更し、合成温度を0℃から20℃に変更する以外は、実施例2−1と同様に合成する。白色固体3.80g(収率86%)が得られ、その純度は98.1%である。
〔実施例3〕水素化トリエチルホウ素リチウム(LiEtBH)を用いた水素化塩化ジルコノセンの合成(−20℃)
窒素置換した200mlの3つ口フラスコに、二塩化ジルコノセン5.00g(17.10mmol)とテトラヒドロフラン50mlとを入れる。別容器に、濃度が1mol/Lとなるように、水素化トリエチルホウ素リチウムのテトラヒドロフラン溶液を準備する。
【0044】
フラスコを冷却バスに浸けて−20℃に調整した後、別容器に準備した水素化トリエチルホウ素リチウムのテトラヒドロフラン溶液17.1mlを約1.5時間かけてフラスコ内溶液中に攪拌しながら滴下する。水素化トリエチルホウ素リチウムの滴下と共に水素化塩化ジルコノセンが析出する。反応を完了させるために、滴下終了後、さらに3時間攪拌する。析出した固体をグラスフィルターで濾過する。グラスフィルター上の残渣をテトラヒドロフラン7.5mlで6回洗浄する。洗浄した固形物を減圧乾燥する。その結果、白色固体3.32g(収率75%)が得られ、その純度は97.5%である。
〔比較例3〕水素化トリエチルホウ素リチウムを用いた水素化塩化ジルコノセンの合成(25℃)
合成温度を−20℃から25℃に変更する以外は、実施例3と同様に合成する。白色固体3.04g(収率69%)が得られ、その純度は88.4%である。
〔実施例4〕水素化ジイソブチルアルミニウム(i−BuAlH)を用いた水素化塩化ジルコノセンの合成(−40℃)
窒素置換した200mlの3つ口フラスコに、二塩化ジルコノセン5.00g(17.10mmol)とテトラヒドロフラン50mlとを入れる。別容器に、濃度が1mol/Lとなるように水素化ジイソブチルアルミニウムのテトラヒドロフラン溶液を準備する。
【0045】
フラスコを冷却バスに浸けて−40℃に調整した後、別容器に準備した水素化ジイソブチルアルミニウムのテトラヒドロフラン溶液17.1mlを約1.5時間かけてフラスコ内溶液中に攪拌しながら滴下する。水素化ジイソブチルアルミニウムの滴下と共に水素化塩化ジルコノセンが析出する。反応を完了させるために、滴下終了後、さらに3時間攪拌を続ける。析出した固体をグラスフィルターで濾過する。グラスフィルター上の残渣をテトラヒドロフラン7.5mlで6回洗浄する。洗浄した固形物を減圧乾燥する。その結果、白色固体3.51g(収率80%)が得られ、その純度は99.1%である。
〔比較例4〕水素化ジイソブチルアルミニウムを用いた水素化塩化ジルコノセンの合成(20℃)
合成温度を−40℃から20℃とする以外は、実施例4と同様に合成する。白色固体3.12g(収率71%)が得られ、その純度は96.0%である。
〔実施例5〕水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム(NaAlH(OCHCHOCH))を用いた水素化塩化ジルコノセンの合成(−20℃)
窒素置換した200mlの3つ口フラスコに、二塩化ジルコノセン10.00g(34.21mmol)とテトラヒドロフラン100mlとを入れる。別容器に、濃度が69重量%となるように水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウムのトルエン溶液を準備する。
【0046】
フラスコを冷却バスに浸けて−20℃に調整した後、別容器に準備した水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウムのトルエン溶液4.8mlをさらにテトラヒドロフラン12mlで希釈し、その溶液を約1.5時間かけてフラスコ内溶液中に攪拌しながら滴下する。滴下した水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウムのモル数は、16.97mmolである。水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウムの滴下と共に水素化塩化ジルコノセンが析出する。反応を完了させるために、滴下終了後、さらに1.5時間攪拌を続ける。析出した固体をグラスフィルターで濾過する。グラスフィルター上の残渣をテトラヒドロフラン7.5mlで6回洗浄する。洗浄した固形物を減圧乾燥する。その結果、水素化塩化ジルコノセンとNaClの混合物である白色固体が得られる。白色固体の重量は、7.70gであり、そのZr含有量は、30.96%である。Zr含有量の測定は、滴定法によって行う。適量の白色固体をアセトンに溶解し、窒素ガスを吹き付けて乾固させる。乾固させた試料を大気中に取り出し、硫酸を添加し溶液を加熱する。溶液を室温まで冷却後、硫酸を硝酸に代えて同様に添加と加熱を行う。溶液を室温まで冷却後、硝酸を過塩素酸に代えて同様に添加と加熱を行い、試料を溶解させる。溶液を100mlのメスフラスコに移し、純水を添加する。その溶液を、適量、ビーカーに移し、純水で希釈する。ビーカーに、EDTA(エチレンジアミン−N,N,N',N'−四酢酸)溶液を添加し、アンモニア水でpH調整を行い、更に、酢酸アンモニウム溶液でpH調整を行う。指示薬であるPAN(1−(2−ピリジルアゾノ)−2−ナフトール)−エタノール溶液を数滴添加し、硫酸銅溶液で滴定を行い、Zr含有量を算出する。以下、同様にZr含有量を求める。
〔比較例5〕水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウムを用いた水素化塩化ジルコノセンの合成(25℃)
合成温度を−20℃から25℃に変更する以外は、実施例5と同様に合成する。白色固体8.54gが得られ、そのZr含量は31.12%である。この得られた白色固体は、水素化塩化ジルコノセンとNaClとの混合物である。
水素化塩化ビス(メチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムの合成
〔実施例6〕水素化トリ−tert−ブトキシアルミニウムリチウム(LiAlH(OBu))を用いた水素化塩化ビス(メチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムの合成(−20℃)
窒素置換した200mlの3つ口フラスコに、二塩化ビス(メチルシクロペンタジエニル)ジルコニウム2.50g(7.80mmol)とテトラヒドロフラン23mlとを入れる。別容器に、濃度が1mol/Lとなるように、水素化トリ−tert−ブトキシアルミニウムリチウムのテトラヒドロフラン溶液を準備する。
【0047】
フラスコを冷却バスに浸けて−20℃に調整した後、別容器に準備した水素化トリ−tert−ブトキシアルミニウムリチウムのテトラヒドロフラン溶液7.8mlを約1.5時間かけてフラスコ内溶液中に攪拌しながら滴下する。水素化アルミニウムリチウムの滴下と共に水素化塩化ビス(メチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムが析出する。反応を完了させるために、滴下終了後、さらに18時間攪拌を続ける。析出した固体をグラスフィルターで濾過する。グラスフィルター上の残渣をテトラヒドロフラン7.5mlで5回洗浄する。洗浄した固形物を減圧乾燥する。その結果、白色固体1.38g(収率62%)が得られ、その純度は99.0%である。
〔比較例6〕水素化トリ−tert−ブトキシアルミニウムリチウムを用いた水素化塩化ビス(メチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムの合成(25℃)
合成温度を−20℃から25℃に変更する以外は、実施例6と同様に合成する。白色固体1.05g(収率47%)が得られ、その純度は94.0%である。
反応性の評価
実施例1〜4及び比較例1〜4で得られた水素化塩化ジルコノセンに3−ヘキシンを反応させ、反応に要した時間を測定することで反応性の評価を行う。この反応は、下記反応式(3)で示される。但し、式中、Cpはシクロペンタジエニル基、Etはエチル基を示す。具体的には次の操作を行い、すべての操作は、紫外線遮光下、窒素置換され28℃に調整されたグローブボックス内で行う。
【0048】
【化6】

【0049】
50mlのナス型フラスコに水素化塩化ジルコノセン250mgとトルエン10mlとを入れる。フラスコ内溶液中に攪拌しながら、3−ヘキシン110μlをマイクロシリンジによって添加する。3−ヘキシンの添加量は、フラスコに投入した水素化塩化ジルコノセンと等モルである。
【0050】
反応前の溶液は、水素化塩化ジルコノセンがトルエンに溶解しないため白濁しているが、反応生成物であるクロロビス(シクロペンタジエニル)−3−ヘキセニルジルコニウムはトルエンに溶解するので、反応が進むにつれて、溶液は透明となる。したがって、3−ヘキシンを添加してから、水素化塩化ジルコノセンが消失し透明な溶液になるまでの時間を反応時間とする。測定結果を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
実施例5及び比較例5の水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウムを用いて合成した反応生成物中にはNaClを含むので、上記方法では反応時間を測定することはできない。そこで、上記反応式(3)の反応が完全に終了した時点、及び、反応途中の2つの時点で、反応生成物であるクロロビス(シクロペンタジエニル)−3−ヘキセニルジルコニウムの生成量(Zr含有量で換算)を測定することにより、反応性の評価を行う。具体的には次の操作を行い、すべての操作は、紫外線遮光下、窒素置換され28℃に調整されたグローブボックス内で行う。
【0053】
実施例5及び比較例5で得られた白色個体を、それぞれ、516mgと519mgに秤量する。両試料のモル数は、Zrで換算して176mmolである。窒素置換した50mlのナス型フラスコに、秤量した白色固体とトルエン20mlを入れる。フラスコ内溶液中に攪拌しながら、3−ヘキシン200μlをマイクロシリンジによって添加する。添加した3−ヘキシンは、試料中に含まれるZrと等モルである。3−ヘキシンの添加から20分後、溶液をメンブレンフィルターで濾過する。濾過は1分以内に完了する。ホールピペットで採取した濾液15ml中のZr含有量を測定する。この時の値を反応途中での反応生成物の生成量とする。
【0054】
3−ヘキシンを添加するまでの工程を再度行い、3−ヘキシンの添加から90分間反応させた後、濾液15ml中のZr含有量を測定する。3−ヘキシンの添加から90分間反応させれば、反応式(3)の反応がほぼ完全に完了しているものとみなし、この時の値を反応終了時の反応生成物の生成量とする。以下の〔式1〕に、それぞれに求めた値を代入し、20分後の反応率を求める。結果を表2に示す。
【式1】
【0055】

【0056】
【表2】

【0057】
実施例6及び比較例6で得られた水素化塩化ビス(メチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムの反応性の評価は、ジフェニルアセチレンとの反応に要した時間を測定することで行う。この反応は、下記反応式(4)で示される。但し、式中、Meはメチル基、Cpはシクロペンタジエニル基、Phはフェニル基を示す。具体的には次の操作を行う。
【0058】
【化7】

【0059】
すべての操作は、紫外線遮光下、窒素置換され27℃に調整されたグローブボックス内で行う。50mlのナス型フラスコに水素化塩化ビス(メチルシクロペンタジエニル)ジルコニウム277mgとトルエン10mlとを入れる。別容器に、濃度が0.494mol/Lとなるように、ジフェニルアセチレンのトルエン溶液を準備する。フラスコ内溶液中に攪拌しながら、1,2−ジフェニルアセチレン溶液2.0mlをシリンジによって添加する。ジフェニルアセチレンの添加量は、フラスコに投入した水素化塩化ビス(メチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムの1.02倍モルである。
【0060】
反応前の溶液は、水素化塩化ビス(メチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムがトルエンに溶解しないため白濁しているが、反応生成物であるクロロビス(メチルシクロペンタジエニル)(1,2−ジフェニルエチニル)ジルコニウムはトルエンに溶解するので、反応が進むにつれて、溶液は透明となる。したがって、ジフェニルアセチレンを添加してから、水素化塩化ビス(メチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムが消失し透明な溶液になるまでの時間を反応時間とする。測定結果を表3に示す。
【0061】
【表3】

【0062】
表1乃至3より、すべての水素化剤において、0℃以下で合成したものが室温で合成したものよりも反応性が高いことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の水素化塩化ジルコノセン化合物は、高機能性材料となる各種誘導体の原料として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(1)に示される水素化塩化ジルコノセン化合物を製造する方法であって、二塩化ジルコノセン化合物と水素化剤とを0℃以下で反応させる方法。
但し、式中、R〜R10は、水素原子、又は、炭素数が10以下のアルキル基を示す。
【化1】

【請求項2】
前記水素化剤は、化学式:LMH4−x、又は、RMH3−yで示される化合物である請求項1に記載の方法。
但し、式中、LはLi又はNa、MはB又はAl、Rは炭素数10以下のアルキル基、炭素数10以下のアルコキシル基、炭素数10以下のアルコキシアルキル基、又は、炭素数10以下のジアルキルアミノ基、xは0≦x≦3を満たす整数、yは0≦y≦2を満たす整数である。
【請求項3】
前記水素化剤は、水素化アルミニウムリチウム、水素化トリ−tert−ブトキシアルミニウムリチウム、水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム、水素化トリエチルホウ素リチウム、水素化ジイソブチルアルミニウムから選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
テトラヒドロフランを少なくとも10体積%以上含む溶媒中で、前記二塩化ジルコノセン化合物と前記水素化剤とを反応させる請求項1乃至3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに1項に記載の方法により得られる水素化塩化ジルコノセン化合物。

【公開番号】特開2009−132693(P2009−132693A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−279107(P2008−279107)
【出願日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(000226057)日亜化学工業株式会社 (993)
【Fターム(参考)】