説明

水素化変換多金属触媒及びその作製方法

本発明は、重油供給原料を水素化処理するための嵩高多金属触媒及びこの触媒を調製する方法に関する。嵩高多金属触媒は、触媒用途において反応体及び生成物の拡散を促進する硫化触媒のために、窒素のIV型吸着脱着等温線を持ち、約0.35のヒステリシス起点値を有し、積層が不規則であり、不十分な結晶構造を有する触媒前駆体を硫化することによって調製される。別の実施態様において、前駆体は、H3型ヒステリシスループを有することによって特徴付けられる。第3の実施態様において、ヒステリシスループは、約0.55のP/Pを超えて十分に展開している平坦域を有することによって特徴付けられる。前駆体のメソ孔を調節又は調整することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、米国特許出願第12/432,730号、同第12/432,728号及び同第12/432,723号(全て2009年4月29日出願)に対して優先権を主張する。本出願は、前記に対する優先権及び利益を主張し、それらの開示は参照として本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、一般に、水素化プロセシング触媒前駆体、触媒前駆体の調製プロセス、触媒前駆体を使用して調製される多金属触媒及び多金属触媒を用いる水素化変換プロセスに関する。
【背景技術】
【0003】
石油産業は、原料の供給源として重質原油、残油、石炭及びタールサンド、すなわち低グレードの炭化水素(「重油」)にますます頼ってきている。これらの原料の改善又は精製は、原料を触媒の存在下、水素で処理することにより供給原料の少なくとも一部に変換を実施して低分子量の炭化水素にすることによって、或いは不要な成分若しくは化合物の除去、又は無害若しくはより望ましい化合物へのその変換を実施することによって達成される。
【0004】
触媒の孔構造は、通常、結晶化段階又はその後の処理において形成される。主な孔径に応じて、固体物質は、3つの分類のサイズに従って分類される:マイクロ孔(3.5nmよりも小さい寸法)、メソ孔(3.5〜500nmの範囲の寸法)及びマクロ孔(500nmより大きい寸法)。吸着剤及び触媒としてのマクロ多孔性固体の使用は、これらの低い表面積及び大きな不均一孔のために比較的限定されている。しかしマイクロ多孔性及びメソ多孔性固体は、吸着、分離技術及び触媒において広く使用されている。効率的な化学プロセスのためのより大きな利用可能表面積及び孔容積の必要性によって、新たな高度に安定したメソ多孔性触媒への高まる需要が存在する。しかし、多孔性の高い触媒は、触媒が大きな表面積を有することを必ずしも意味するものではない。表面積に関して非常に小さく、したがって反応部位に関して低い触媒活性を有する触媒は、多孔性でありすぎる場合がある。
【0005】
表面積を増大させるために、メソ多孔性構造を有するゼオライト及び支持硫化物触媒を作製することは、従来技術において知られている。性能が改善され、すなわち最適な多孔性及び表面積により高収率の変換をもたらす、低グレードの炭化水素の水素化変換において使用される嵩高/非支持触媒(bulk/unsupported catalyst)の必要性が依然として存在する。重油供給原料の水素化処理のために十分な孔容積/孔径を有する嵩高多金属触媒(bulk multi−metallic catalyst:バルク多金属触媒)の必要性も存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様において、本発明は、H3型ヒステリシスループ(H3−type hysteresis loop)のIV型等温線を有する触媒前駆体から形成される安定した嵩高多金属触媒に関する。一実施態様において、メソ孔は調整可能であることによって特徴付けられる。別の実施態様において、触媒前駆体は、積層が不規則(disordered stacking layers)であり、不十分な結晶構造(poorly crystalline structure)を有することによって、すなわち層の積み重ねが極めて不ぞろいであることによって特徴付けられる。
【0007】
別の態様において、本発明は、H3型ヒステリシスループのIV型等温線を有する触媒前駆体から形成される、安定した嵩高多金属触媒を作製する方法に関する。製造方法は、a)VIII族、IIB族、IIA族、IVA族及びこれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの助触媒金属前駆体、少なくとも1つのVIB族金属前駆体、任意選択で配位剤(ligating agent)及び任意選択で少なくとも1つの希釈剤を含む沈殿物を形成すること;b)沈殿物から少なくとも50%の液体を除去して、フィルターケーキを形成すること;c)造形助剤、孔形成剤、解膠剤、希釈剤及びこれらの組み合わせのうちの少なくとも1つをフィルターケーキに添加して、バッチ混合物を形成すること;d)バッチ混合物を、ペレット化、押し出し、錠剤化、成形、混転(tumbling:タンブリング)、加圧、噴霧及び噴霧乾燥のいずれかを介して造形し、造形触媒前駆体(shaped catalyst precursor)にすること;並びにb)造形触媒前駆体を硫化して、嵩高多金属触媒を形成することを含む。一実施態様において、配位剤の量を制御して、触媒前駆体のメソ孔を変える又は調整する。別の実施態様において、造形ステップへの添加剤を変え、制御して、触媒前駆体のメソ孔を調整する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】H3型ヒステリシスループのIV型等温線を有するメソ多孔性触媒前駆体から多金属触媒を作製するプロセスの一実施態様を示すブロック図である。
【0009】
【図2】触媒前駆体の一実施態様のN2吸着(+)及び脱着(○)等温線を示すグラフである。
【0010】
【図3】0.35〜1.00の相対圧力範囲における図2の触媒前駆体のN2吸着(+)及び脱着(○)等温線を示すグラフである。
【0011】
【図4】広帯域型H3脱着ヒステリシスループを示す、触媒前駆体の別の実施態様のN2吸着(+)及び脱着(○)等温線を示すグラフである。
【0012】
【図5】0.35〜1.00の相対圧力範囲における図4の触媒前駆体のN2吸着(+)及び脱着(○)等温線を示すグラフである。
【0013】
【図6】IV型等温線を有さない触媒前駆体のN2吸着(+)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下の用語は、明細書全体にわたって使用され、特に示されない限り以下の意味を有する。
【0015】
SCF/BBL(又はscf/bbl若しくはscfb若しくはSCFB)は、炭化水素供給原料の1バレルあたりのガス(N、Hなど)の標準立方フィートの単位を意味する。
【0016】
LHSVは、液時空間速度を意味する。
【0017】
本明細書において参照される周期表は、IUPAC及び米国国立標準局により承認されており、例は、2001年10月のロスアラモス国立研究所の化学部門(Los Alamos National Laboratory’s Chemistry Division of October 2001)による元素周期表である。
【0018】
本明細書で使用されるとき、用語「嵩高触媒」(“bulk catalyst”:バルク触媒)は、「非支持触媒」(“unsupported catalyst”)と交換可能に使用することができ、触媒組成物が、予備成形造形触媒支持体を有し、次に含浸又は付着触媒を介して金属に装填されている従来の触媒形態ではないことを意味する。一実施態様において、嵩高触媒は、沈殿により形成される。別の実施態様において、嵩高触媒は、触媒組成物に組み込まれた結合剤を有する。なお別の実施態様において、嵩高触媒は、あらゆる結合剤を用いることなく、金属化合物から形成される。
【0019】
本明細書で使用されるとき、語句「のうちの1つ又は複数」又は「のうちの少なくとも1つ」は、X、Y及びZ又はX−X、Y−Y及びZ−Zなどの幾つかの元素又は元素の部類の後に置いて使用される場合、X又はY又はZから選択される単一の元素、同じ共通の部類から選択される元素の組み合わせ(X及びXなど)、並びに異なる部類から選択される元素の組み合わせ(X、Y及びZnなど)を意味することが意図される。
【0020】
本明細書で使用されるとき、「水素化変換」(“hydroconversion”:水素化転換)、又は「水素化プロセシング」(“hydroprocessing”)は、メタン化、水性ガスシフト反応、水素化、水素化処理、水素化脱硫、水素化脱窒素、水素化脱金属、水素化脱芳香族、水素異性化、水素化脱ロウ及び選択的水素化分解を含む水素化分解が包含されるが、これらに限定されない水素の存在下で実施される任意のプロセスを意味する。水素化プロセシングの種類及び反応条件に応じて、水素化プロセシングの生成物は、改善された粘度、粘度指数、飽和物含有量、低温特性、揮発度及び脱分極などを示すことができる。
【0021】
本明細書で使用されるとき、700°F+変換率は、水素化転換プロセスにおいて700°F+を超える沸点を有する原料から700°F(371.℃)未満の沸点の物質への変換を意味し、(100%((供給原料中の700°Fを超えて沸騰する物質の重量%−生成物中の700°Fを超えて沸騰する物質の重量%)/供給原料中の700°Fを超えて沸騰する物質の重量%))として計算される。
【0022】
本明細書で使用されるとき、「LD50」は、一度に投与したとき、試験動物の群の50%(半分)の死亡をもたらす物質の量である。LD−50は、物質の短期中毒の可能性(急性毒性)を測定し、試験は、ラット及びマウスなどの小型動物で実施される(mg/Kg)。
【0023】
本明細書で使用されるとき、「造形触媒前駆体」(“shaped catalyst precursor”)は、噴霧乾燥、ペレット化、ピリング、造粒、ビーディング、錠剤成形、ブリケッティング(bricketting)、押し出し若しくは当業界で既知の他の手段を介した圧縮の使用により又は湿潤混合物の凝集により形成(又は造形)される触媒前駆体を意味する。造形触媒前駆体は、ペレット、円柱、直線又はライフル様(ねじれ)三裂体、多孔円柱、錠剤、環、立方体、蜂巣状、星形、三葉、四葉、丸剤、顆粒などが含まれるが、これらに限定されない形態又は形状のいずれであってもよい。
【0024】
一実施態様における孔多孔性(pore porosity)及び孔径分布は、ASTM標準法D4284により設計された水銀圧入ポロシメトリーを使用して測定される。別の実施態様において、孔多孔性及び孔径分布は、窒素吸着法を介して測定される。
【0025】
層状又は組織的多孔性(layered or textural porosity)は、触媒前駆体の層又はプラッタ(platters)の間の空隙に起因しうる。透過電子顕微鏡分光法(TEM)の当業者は、高解像度TEM画像によって触媒前駆体の層又はプラッタの存在を決定することができる。吸着の当業者は、触媒前駆体の特異吸着挙動によって層状多孔性を識別及び評価することができる。層状又は組織的メソ多孔性を検出し、評価する一方法は、相対圧力P/P>0.40の範囲の明確に画定されたヒステリシスループを示すIV型吸着脱着等温線の存在により立証されている(Sing et al.、Pure Appl.Chem.、vol.57、603〜619(1985))。
【0026】
本発明の嵩高触媒は、不ぞろいに積み重ねた層状又は組織的メソ多孔性触媒前駆体、すなわちIV型等温線を示す不十分な結晶構造の触媒前駆体から作製される。一実施態様において、嵩高触媒を形成する触媒前駆体は、H3型ヒステリシスループを有することによって特徴付けられる。
【0027】
触媒生成物
IV型吸着脱着等温線を有する触媒前駆体は、硫化することで触媒に変換され(触媒活性になり)、続く水素化脱硫(HDS)、水素化脱芳香族(HDA)及び水素化脱窒素(HDN)プロセスの使用に供される。触媒前駆体は、少なくとも1つの助触媒金属前駆体及び少なくとも1つのVIB族金属前駆体から調製される、水酸化物又は酸化物の物質であってもよい。
【0028】
一実施態様において、少なくとも1つのVIII族非貴金属物質及び少なくとも2つのVIB族金属を含む嵩高多金属酸化物の形態の触媒前駆体である。一実施態様において、VIB族金属のVIII族非貴金属に対する比は、約10:1から約1:10の範囲である。別の実施態様において、酸化物触媒前駆体は、一般式:(X)(Mo)(W)[式中、Xは、Ni又はCoであり、b:(c+d)のモル比は0.5/1〜3/1であり、c:dのモル比は>0.01/1であり、かつ、z=[2b+6(c+d)]/2である。]で表される。一実施態様において、酸化物触媒前駆体は、1つ又は複数の配位剤Lを更に含む。
【0029】
用語「配位子」(“ligand”)は「配位剤」(“ligating agent”)、「キレート剤」又は「錯化剤」(又はキレーター若しくはキーラント)と交換可能に使用することができ、金属イオン、例えばVIB族及び/又は助触媒金属を組み合わせて、大型錯体、例えば触媒前駆体を形成し、メソ孔の多孔性の調整又は調節を促進する添加剤を意味する。
【0030】
一つにおいて、触媒前駆体は、少なくとも1つのVIII族非貴金属物質及び少なくとも2つのVIB族金属を含む水酸化物の形態である。別の実施態様において、水酸化物化合物は、一般式:A[(M)(OH)(L)(MVIB)[式中、Aは、1つ又は複数の一価カチオン種であり、Mは、元素又は化合物形態の少なくとも1つの金属を意味し、Lは、1つ又は複数の配位剤を意味する。]で表される。
【0031】
一実施態様において、触媒前駆体は、少なくとも1つの希釈剤を含むプロセスにより調製され、前駆体は、式:A[(MIIA(MVIII(Al)(OH)(L)(Si(1−y)Al(MVIB)[式中、Aは、1つ又は複数の一価カチオン種であり、MIIAは、1つ又は複数のIIA族金属であり、MVIIIは、1つ又は複数のVIII族金属であり、Alは、アルミニウムであり、Lは、1つ又は複数の配位剤であり、(Si(1−y)Al)は、シリカ−アルミナ部分であり、MVIBは、1つ又は複数のVIB族金属であり、MVIII:MVIBの原子比は、100:1〜1:100である。]で表される。一実施態様において、Aは、アルカリ金属カチオン、アンモニウム、有機アンモニウム及びホスホニウムカチオンのうちの少なくとも1つである。一実施態様において、Aは、NH4+、他の第四級アンモニウムイオン、有機ホスホニウムカチオン、アルカリ金属カチオン及びこれらの組み合わせなどの一価カチオンから選択される。
【0032】
一実施態様において、Lは1つ又は複数の任意選択の配位剤である。別の実施態様において、Lは、電荷中性であるか又は陰電荷n<=0を有する。別の実施態様において、Lは、500mg/Kgを超えるLD50比(ラットへの単回経口用量として)の配位剤を含有する非毒性有機酸素である。用語「電荷中性」は、触媒前駆体が正味の陽又は陰電荷を担持しないという事実を意味する。例には、多座と共に単座、例えばNHと共にアルキル及びアリールアミン;カルボキシレート、カルボン酸、アルデヒド、ケトン、エノレート形態のアルデヒド、エノレート形態のケトン及びヘミアセタール;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、マレイン酸、リンゴ酸、クルコン酸(cluconic acid)、フマル酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、シュウ酸、グリオキシル酸、アスパラギン酸、アルカンスルホン酸、アリールスルホン酸などの有機酸付加塩;アリールカルボン酸;化合物を含有するカルボキシレート;並びにこれらの組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。
【0033】
は、少なくとも1つの助触媒金属である。一実施態様において、Mは、用いられる助触媒金属(単数又は複数)に応じて、+2又は+4のいずれかの酸化状態を有する。Mは、VIII族、IIB族、IIA族、IVA族及びこれらの組み合わせから選択される。一実施態様において、Mは、少なくとも1つのVIII族金属であり、Mは、+2の酸化状態Pを有する。別の実施態様において、Mは、IIB族、IVA族及びこれらの組み合わせから選択される。一実施態様において、助触媒金属Mは、+2の酸化状態を有する少なくとも1つのVIII族金属であり、触媒前駆体は、(v−2+2z−xz+nz)=0を有する式:A[(M)(OH)(L)(MVIB)で表される。一実施態様において、助触媒金属Mは、Ni及びCoなどの2つのVIII族金属の混合物である。なお別の実施態様において、Mは、Ni、Co及びFeなどの3つの金属の組み合わせである。一実施態様において、Mが、Zn及びCdなどの2つのIIB族金属の混合物である場合、触媒前駆体は、式:A[(ZnCda’)(OH)(L)(MVIB)で表される。なお別の実施態様において、Mは、Zn、Cd及びHgなどの3つの金属の組み合わせであり、触媒前駆体は、式:A[(ZnCda'Hga'')(OH)(L)ny(MVIB)で表される。
【0034】
一実施態様において、助触媒金属Mは、元素、化合物又はイオンの形態の、亜鉛、カドミウム、水銀、ゲルマニウム、スズ又は鉛及びこれらの組み合わせなどのIIB及びVIA金属の群から選択される。なお別の実施態様において、助触媒金属Mは、Ni、Co、Fe及びこれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを、元素、化合物又はイオンの形態で更に含む。別の実施態様において、助触媒金属は、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウム化合物の群から選択されるIIA族金属化合物であり、これらは少なくとも部分的に固体状態であり、例えば炭酸塩、水酸化物、フマル酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、硫化物、モリブデン酸塩、タングステン酸塩、酸化物又はこれらの混合物などの水不溶性化合物である。
【0035】
一実施態様において、MVIBは、+6の酸化状態を有する少なくとも1つのVIB族金属である。一実施態様において、M:MVIBは、100:1〜1:100の原子比を有する。v−2+Pz−xz+nz=0;かつ、0≦y≦−P/n;0≦x≦P;0≦v≦2;0≦zである。一実施態様において、MVIBはモリブデンである。なお別の実施態様において、MVIBは、少なくとも2つのVIB族金属、例えばモリブデン及びタングステンの混合物である。
【0036】
触媒の作製方法
参照は図1によってなされ、これはIV型吸着等温線を示す触媒前駆体から嵩高触媒を作製する一般的プロセスの実施態様を概略的に示すブロック図である。
【0037】
沈殿物又は共ゲル化物の形成
プロセスの最初のステップ10は、沈殿又は共ゲル化ステップであり、金属前駆体11、例えば助触媒金属成分(単数又は複数)及びVIB族金属成分の混合物において反応させて、沈殿物又は共ゲル化物を得ることに関わる。用語「共ゲル化物」は、少なくとも2つの金属化合物の共沈殿物(又は沈殿物)を意味する。金属前駆体を、固体、溶液、懸濁液又はこれらの組み合わせとして反応混合物に加えることができる。可溶性塩がそのまま添加される場合、これらは反応混合物に溶解し、続いて沈殿するか若しくは共ゲル化するか又は懸濁液を形成する。溶液を、任意選択で真空下で加熱して、沈殿及び液体の蒸発を実施することができる。
【0038】
沈殿(又は共ゲル化)は、助触媒金属化合物及びVIB族金属化合物が沈殿する又は共ゲル化物を形成する温度及びpHで実施される。一実施態様において、共ゲル化物が形成される温度は、25〜350℃である。一実施態様において、触媒前駆体は、0〜3000psigの圧力で形成される。第2の実施態様では、10〜1000psigである。第3の実施態様では、30〜100psigである。混合物のpHを変えて、生成物の所望の特性に応じて、沈殿又は共ゲル化の速度を増加又は減少することができる。一実施態様において、混合物は反応ステップ(単数又は複数)の間、中性pHで放置される。別の実施態様において、pHは、0〜12の範囲に維持される。別の実施態様において、pHは、7〜10の範囲に維持される。反応混合物に塩基若しくは酸12を添加することによって、又は温度が高くなると分解して、それぞれpHを増加若しくは減少する水酸化物イオン若しくはHイオンになる化合物を添加することによって、pHを変えることを実施することができる。別の実施態様において、加水分解反応において沈殿する化合物を添加することである。
【0039】
一実施態様において、少なくとも1つの配位剤Lを、任意選択で、沈殿物を形成する試薬の1つとして(助触媒金属化合物及び/又はVIB族金属化合物の沈殿又は共ゲル化の前に)添加することができる。別の実施態様において、配位剤Lは、沈殿物が形成された後に添加される(図1のステップ25に示されている)。一実施態様において、沈殿ステップ後に添加される配位剤Lは、沈殿ステップの前に添加される配位剤と異なっている。
【0040】
触媒前駆体のメソ多孔性を、配位剤及び/又は添加量の選択により制御又は調整できることが留意されるべきである。一実施態様において、配位剤Lの組み込みは、触媒前駆体の多孔性を著しく増大させることが観察されている。
【0041】
一実施態様において、配位剤Lに代わって又は加えて、触媒前駆体の総組成の5〜95重量%の量の希釈剤を、考慮される触媒用途に応じて、このステップにおいて添加することもできる。これらの物質を、金属前駆体の沈殿又は共ゲル化の前又は後に適用することができる。例には、酸化亜鉛;硫化亜鉛;ニオビア;オルトケイ酸テトラエチル;ケイ酸;チタニア;ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、シリカゲル、シリカゾル、ヒドロニウム−又はアンモニウム安定化シリカゾル及びこれらの組み合わせなどのケイ素成分;アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム及びこれらの組み合わせが含まれるが、これらに限定されない本発明のプロセスに有用なアルミニウム成分;アルミノケイ酸マグネシウム粘土、金属マグネシウム、水酸化マグネシウム、ハロゲン化マグネシウム、硫酸マグネシウム及び硝酸マグネシウムなどのマグネシウム成分;ジルコニア;サポナイト、ベントナイト、カオリン、海泡石又はハイドロタルサイトのなどのカチオン性粘土又はアニオン性粘土、或いはこれらの混合物が含まれるが、これらに限定されない。一実施態様において、チタニアが、希釈剤として最終的な触媒前駆体に基づいて50重量%を超える量で(酸化物又は水酸化物として)使用される。
【0042】
液体除去
次のステップ20において、少なくとも50重量%の液体(上澄み/水)が、当業界で既知の分離プロセス、例えば、濾過、デカント、遠心分離などを介して沈殿物(又は懸濁液)から除去される。一実施態様において、沈殿物における液体は、真空技術又は当業界で既知の装置による濾過によって除去されて、湿潤フィルターケーキを得る。湿潤フィルターケーキは、一般に、およそ10〜50重量%の液体を有するフィルターケーキとして定義され、したがって一般に水又は他の溶媒、例えばメタノールなどを含まない。
【0043】
一実施態様において、フィルターケーキの任意選択の乾燥は、大気条件下又は窒素、アルゴン若しくは真空のなどの不活性雰囲気下、水を除去するのに十分であるが有機化合物を除去するには十分でない温度で実施される。一実施態様において、乾燥は、触媒前駆体の恒量が達成されるまで、約50〜120℃で実施される。別の実施態様において、乾燥は、50℃〜200℃の温度で、1/2時間から6時間の範囲の時間実施される。乾燥は、当業界で既知の熱乾燥技術、例えば、フラッシュ乾燥、ベルト乾燥、オーブン乾燥などを介して実施することができる。
【0044】
造形用の触媒前駆体ミックスの形成
このステップ30において、フィルターケーキは、水、並びに造形助剤32、解膠剤、孔形成剤及び希釈物質13が含まれるが、これらに限定されない他の任意選択の物質と一緒に混合される。一実施態様において、前の操作からのフィルターケーキ物質、前駆体物質の押出軟塊及び/又は乾燥粒子/断片の形態の再処理物質を、物質群に任意選択で含めて、触媒前駆体ミックスの新たなバッチを形成することができる。一実施態様において、水の量及び/又は任意選択の物質の量/種類を変えて、形成される触媒前駆体のメソ多孔性を制御及び/又は調整する。一実施態様において、水の添加は、触媒前駆体の表面積を増大させることに役立つ。
【0045】
前駆体バッチ混合物を十分な時間混合して、実質的に均一又は均質の混合物を得る。混合時間は、混合技術、例えば摩砕、混練、スラリー混合、乾式若しくは湿式混合又はこれらの組み合わせ、並びに使用される混合装置、例えば混和機、ブレンダー、二本腕混練混合機、回転子固定子混合機又は混合粉砕機の種類及び効率によって決まる。一実施態様において、混合時間は、0.1〜10時間の範囲である。一実施態様において、造形助剤は、100:1〜10:1(触媒前駆体の重量%対造形助剤の重量%)の比で添加される。造形助剤の例には、セルロースエーテル型及び/又は誘導体の有機結合剤、ポリアルキレングルコール、飽和若しくは不飽和脂肪酸(ポリト酸(politic acid)、サチル酸(satiric acid)若しくはオレイン酸など)又はその塩、多糖類由来酸又はその塩、グラファイト、デンプン、アルカリステアリン酸塩、ステアリン酸アンモニウム、ステアリン酸、鉱油及びこれらの組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。
【0046】
一実施態様において、解膠剤を混合物に加えることができる。解膠剤は、アルカリ又は酸であってもよく、例えば、アンモニア、ギ酸、クエン酸、硝酸、マレイン酸、カルボン酸などである。別の実施態様において、孔形成剤も、再処理物と共に混合物に添加される。孔形成剤の例には、加熱により分解する、鉱油、ステリン酸(steric acid)、ポリエチレングルコールポリマー、炭水化物ポリマー、メタクリレート、セルロースポリマー及びカルボキシレートが含まれるが、これらに限定されない。なお別の実施態様において、希釈材を添加することができる。このステップにおいて添加される希釈材は、上記の金属前駆体から沈殿物を形成するステップにおいて添加されうる任意の希釈材と同一でも異なっていてもよい。
【0047】
一実施態様において、触媒前駆体がペレット化、押し出し又は加圧により造形される場合、バッチ粘度を、可塑化及び造形に、すなわち軟塊混合物の稠度に好都合なレベルに調整するために、十分な量の水が混合バッチに添加される。一実施態様において、混合物が50〜90%の固形分(LOI)を有するために、十分な量の水が添加される。別の実施態様では、60〜70%の固形分(LOI)である。
【0048】
造形プロセス
このステップ40において、触媒前駆体ミックスは、ペレット化、押し出し、錠剤化、成形、混転、加圧、噴霧及び噴霧乾燥を含む当業界で既知の方法のいずれかを使用して、形成粒子、例えば長球、丸剤、錠剤、円柱、不規則押出物、単にゆるく結合した凝集体又は集合体などに造形される。
【0049】
一実施態様において、造形触媒前駆体は、当業界で既知の押出装置、例えば一軸押出機、ラム押出機、二軸押出機などを使用して、押し出しを介して形成される。別の実施態様において、造形は、100℃〜320℃の範囲の出口温度で噴霧乾燥を介して実施される。一実施態様において、造形触媒前駆体は、1インチの約1/16〜1/6の直径を有する押出物へと押し出し成形される。押し出しの後、押出物を、適切な長さ、例えば1/16インチから5/16インチに切断して円柱ペレットを製造することができる。
【0050】
熱処理
一実施態様において、造形触媒前駆体は、熱処理ステップ50を受ける。一実施態様において、触媒前駆体は、直接又は間接加熱オーブン、トレー乾燥機又はベルト乾燥機により、約50℃〜325℃で約15分間から24時間空気(又は窒素)乾燥され、ここで温度は、1分あたり1〜50℃の速度で室温から乾燥温度である。一実施態様において、温度は、1分あたり1〜2℃のゆっくりとした速度で昇温する。第2の実施態様において、空気乾燥は、1分あたり少なくとも25℃の大きな昇温速度で実施される。一実施態様において、乾燥は、100℃又はそれ未満の温度である。
【0051】
一般に、熱処理の温度が高いほど、触媒前駆体の密度が高くなり、したがって、硫化することで、ここでも低い収縮率を有する触媒をもたらすことが知られている。幾つかの実施態様において、低い(10%未満)体積収縮率は、低い温度、例えば325℃未満、200℃未満、さらには100℃又はそれ未満の温度での熱処理によっても得られる。
【0052】
一実施態様において、任意選択の熱処理の後、適切な雰囲気下、例えば、窒素若しくはアルゴンなどの不活性ガス又は蒸気において、約350℃〜750℃の範囲の温度で、造形触媒を任意選択でか焼することができる。なお別の実施態様において、か焼は、350℃〜600℃の温度で実施される。か焼プロセスにおいて、触媒前駆体は酸化物に変換される。一実施態様において、酸化物触媒前駆体は、一般式:(X)(Mo)(W)[式中、Xは、Ni又はCoであり、b:(c+d)のモル比は0.5/1〜3/1であり、c:dのモル比は>0.01/1であり、z=[2b+6(c+d)]/2である。]で表される。
【0053】
一実施態様において、触媒前駆体は窒素安定性がある。本明細書で使用されるとき、窒素安定性という用語は、特性(触媒前駆体が硫化されて触媒を形成した後)が、乾燥剤により、すなわち窒素又は酸素環境下での乾燥にかかわらず影響を受けないことを意味する。
【0054】
硫化ステップ
元素硫黄それ自体;優勢な条件下で分解して硫化水素になる硫黄含有化合物;HSそれ自体又は任意の不活性若しくは還元条件下のHS、例えばHの群から選択される少なくとも1つの硫化剤62の使用により、硫化ステップ60において、造形触媒前駆体(任意選択の再処理物質と共に)を硫化して、活性触媒を形成することができる。硫化剤の例には、硫化アンモニウム、ポリ硫化アンモニウム((NH)、チオ硫酸アンモニウム((NH)、チオ硫酸ナトリウム(Na)、チオ尿素(CSN)、二硫化炭素、ジメチルジスルフィド(DMDS)、硫化ジメチル(DMS)、ジブチルポリスルフィド(DBPS)、メルカプタン、第三級ブチルポリスルフィド(PSTB)、第三級ノニルポリスルフィド(PSTN)などが含まれる。一実施態様において、炭化水素原料が、触媒前駆体の硫化を実施するための硫黄供給源として使用される。
【0055】
硫化ステップにおいて、造形触媒前駆体は、硫化剤と、25℃〜500℃の範囲の温度で10分間から15日間、H含有ガス圧下で接触させることにより、活性触媒に変換される。硫化ステップの際の総圧力は、大気圧から約10bar(1MPa)の範囲であってもよい。硫化温度が硫化剤の沸点未満の場合、プロセスは、一般に大気圧で実施される。硫化剤/任意選択の成分(ある場合)の沸騰温度を超えるとき、反応は、一般に、増大された圧力下で実施される。
【0056】
触媒の使用
触媒前駆体は、時々、その場で(in−situで)、例えば水素化処理の際に同じ水素化処理反応器において硫化されうるので、触媒性能は、硫化前の触媒前駆体の特性により特徴付けることができる。
【0057】
一実施態様において、嵩高触媒(bulk catalyst:バルク触媒)を調製する触媒前駆体は、窒素のIV型吸着脱着等温線を持ち、積層が不規則であり、不十分な結晶構造を有することによって特徴付けられる。N吸着脱着等温線の相対圧力P/Pが変わり始める時点は、硫化触媒生成物の吸着容量を定義する。本発明の触媒前駆体のN吸着脱着等温線は、閉ヒステリシスサイクルを形成し、その閉鎖領域は、メソ孔の比容積に比例する。P/Pが低いほど、ヒステリシスサイクルにより閉鎖された領域が大きくなり、したがって、吸着容量が大きくなる。Pは、N飽和圧力である。一実施態様において、触媒前駆体は、約0.35のP/Pヒステリシス起点値を有する。
【0058】
一実施態様において、前駆体はH3型ヒステリシスループを有することによって特徴付けられる。一実施態様において、ヒステリシスループは、約0.55のP/Pを超えて十分に展開している平坦域(well developed plateau)を有することによって特徴付けられる。
【0059】
前駆体は、一実施態様において2nm〜200nm、第2の実施態様において5〜150nm、別の実施態様において10nm〜125nm、第4の実施態様において15nm〜100nmの範囲の平均孔径(幅)のメソ多孔性構造を有することによっても特徴付けられる。一実施態様における孔容積は、0.01cm/gを超える。なお別の実施態様において、孔容積は0.01〜0.50cm/gの範囲である。第3の実施態様では、0.02〜0.20cm/gの範囲であり、第4の実施態様では、0.05〜0.15cm/gの範囲である。窒素を吸着質として使用するBET法により測定される表面積は、一実施態様において25〜400m/g、第2の実施態様において40〜200m/g、第3の実施態様において60〜150m/gの範囲である。
【0060】
触媒前駆体及びそれから形成された硫化嵩高金属触媒は、重油供給源の拡散限界を克服するのに十分なメソ孔部位及び大きな孔容積を有するので、一実施態様における嵩高金属触媒は、343℃(650°F)〜454℃(850°F)の範囲、特に371℃(700°F)を超える常圧残油(AR)沸点を有する重油供給原料を水素化処理するのに特に適している。343℃(650°F)を超える沸点を有する重油供給原料は、一般的に、相対的に高い比重、低い水素対炭素比及び高い残留炭素を有することによって特徴付けられる。これらは、大量のアスファルテン、硫黄、窒素及び金属を含有し、これらは大きな分子直径により水素化処理の困難さを増大させる。
【0061】
一実施態様において、不規則な積層及びIV型吸着脱着等温線を有する前駆体から形成される嵩高触媒は、非常に安定していることによって特徴付けられる。触媒の安定性を硫化の前後の造形触媒前駆体の幾何学量体積の変化として測定する、触媒前駆体の残留幾何学量体積収縮率(residual geometric volume shrinkage)に基づいて評価することができる。前駆体が多くの場合に水素化プロセシング反応器と同じ反応器においてその場で硫化されるので、硫化ステップ後に測定される体積収縮率を、過酷な水素化プロセシング条件下での触媒の機械的な結着性(integrity:完全性)の指数として使用することができる。一実施態様において、IV型吸着脱着等温線を有する触媒前駆体は、硫化ステップにおいて少なくとも100℃の温度で少なくとも30分間の曝露により、約12%未満の残留幾何学量体積収縮率を有することによって特徴付けられる。第2の実施態様において、体積収縮率は約10%未満である。第3の実施態様において、体積収縮率は約8%未満である。第4の実施態様では、5%未満である。
【0062】
一実施態様において、嵩高触媒は、0.9nm〜1.7nm(9〜17オングストローム)の範囲の平均分子直径を有する重油供給原料を水素化処理して、>99.99%のHDN変換レベル(700°F+変換)をもたらし、一実施態様では700°Fを超える沸点の留分における硫黄レベルを20ppm未満に低下させ、第2の実施態様では10ppm未満に低下させるのに特に適している。一実施態様において、嵩高触媒は、0.9nm〜1.7nmの範囲の平均分子直径を有する重油供給原料を水素化処理するのに特に適している。なお別の実施態様において、嵩高触媒は、300〜400g/モルの範囲の平均分子量Mnを有する重油供給原料を処理するのに特に適している。
【0063】
一実施態様において、触媒を形成する前駆体は、最大1.6g/ccの圧縮嵩密度(compact bulk density:CBD);少なくとも約4lbsの破砕強度;及び7重量%未満の摩耗損失(attrition loss)を含む他の望ましい特性も示す。摩耗損失は、回転ドラムで1時間半混転したときに測定される微細量の損失である。別の実施態様において、摩耗損失は5重量%未満である。第3の実施態様において、CBDは最大1.4g/ccである。第4の実施態様において、CBDは最大1.2g/ccである。第5の実施態様において、1.2g/cc〜1.4g/ccの範囲のCBDである。一実施態様において、破砕強度は少なくとも6lbsである。一実施態様において、触媒前駆体は、2.5g/cc以下の粒子密度を有する。別の実施態様において、粒子密度は2.2g/cc以下である。
【0064】
嵩高多金属触媒を、実質的に全ての水素化プロセシングプロセスに使用して、200〜450℃の温度、15〜300barの水素圧、0.05〜10h−1の液時空間速度及び35.6〜2670m/mの水素処理ガス速度(200〜15000SCF/B−すなわち反応器への炭化水素化合物供給原料の「1バレルあたりの標準立方フィート」)などの広範囲の反応条件下で、複数の供給原料を処理することができる。触媒は、また、VGOなどの重油原料の水素化処理においてほぼ完全なHDN変換率(>99.99%)を与えるので、優れた触媒活性により特徴付けられる。
【実施例】
【0065】
以下の例示的な実施例は、非限定的であることが意図される。実施例において、孔構造は、標準的な連続吸着手順を使用してN2吸着脱着等温線を測定することによって特徴付けた。比表面積及び総孔容積を、IUPAC推奨に従って、等温線から計算することができる。組織的メソ孔に対応する孔の容積を、低P/Pヒステリシスループの上側変曲点によって評価することができる。
【0066】
例1 Ni−Mo−W−マレエート触媒前駆体
式:(NH){[Ni2.6(OH)2.08(C2−0.06](Mo0.350.65}の触媒前駆体を、以下のように調製した:954.8gのヘプタモリブデン酸アンモニウム(NHMo24・4HOを、4.8Lの脱イオン水に室温で溶解した。得られた溶液のpHは2〜3の範囲内であった。1334gのメタタングステン酸アンモニウム(NH1240・4.7HOを、1.3Lの水に溶解した。モリブデン酸塩及びタングステン酸塩溶液を、34.9Lの脱イオン水に加えた。この混合モリブデン酸塩及びタングステン酸塩溶液に、2.03Lの7.0重量%のNHOH(アンモニア)溶液を加え、常に撹拌しながら、温度を77℃に上げた。溶液は、8〜10の範囲のpHを有した。2.7Lの脱イオン水に溶解した3149gのNi(NO・6HOを含有する第2溶液を調製した。このニッケル溶液に、1.2Lの28重量%のNHOH溶液、続いて0.25Lの脱イオン水中の108gのマレイン酸の溶液を加えた。次にニッケル溶液を、モリブデン酸塩/タングステン酸塩溶液に、温度を77℃に維持しながら10分間かけて加えた。得られた混合物を77℃で保持し、撹拌を1時間続けた。懸濁液のpHは6〜7の範囲であった。0.72Lの7.0重量%のNHOH溶液を添加し、60℃に冷却した後、青緑色の沈殿物を濾過により収集し、フィルタープレスにより150psiで加圧することにより乾燥した。収集し、加圧された沈殿物を、密閉容器において50℃で15時間熟成させた。熟成の後、沈殿物を4重量%のメトセルと混合し、45重量%の強熱減量(LOI)及び1500psiの空洞を示すまで50℃で乾燥し、NAQダイを持つWolfスクリュー押出機で押し出した。
【0067】
メソ多孔性の存在に相当する明確に画定されたヒステリシスループを含む、前駆体のN2吸着脱着等温線を図2〜3に示す。前駆体の他の孔特性には、以下が含まれる:1g/cmの試料密度;110.4051m/gの、P/P=0.20での一点表面積;112.5688m/gのBET表面積;73.137m/gの、17〜3000オングストローム幅の孔のBJH(Barret−Joyner−Halenda)吸着累積表面積;75.886m/gのBJH脱着を含む表面積特性。孔容積特性には、0.089960cm/gの、P/P=0.99での2278オングストローム未満の一点脱着総孔容積;0.068115cm/gの、17〜3000オングストローム幅の孔のBJH吸着累積表面積;及び0.074654cm/gのBJH脱着が含まれる。31.9662オングストロームの脱着平均孔幅(BETにより4V/A);37.254オングストロームのBJH吸着平均孔幅;及び39.350オングストロームのBJH脱着平均孔幅を含む孔径特性。
【0068】
例2 Ni−Mo−W−マレエート触媒前駆体の別の実施態様
式:(NH){[Ni2.6(OH)2.08(C2−0.06](Mo0.350.65}の触媒前駆体を、以下のように調製した:477.2gのヘプタモリブデン酸アンモニウム(NHMo24・4HOを、2.9Lの脱イオン水に室温で溶解した。666.6gのメタタングステン酸アンモニウム(NH1240・4.7HOを、0.67Lの水に溶解した。モリブデン酸塩及びタングステン酸塩溶液を、15.4Lの脱イオン水に加えた。この混合モリブデン酸塩及びタングステン酸塩溶液に、1.9Lの7.0重量%のNHOH(アンモニア)溶液を、pHが9〜10の範囲に達するように加えた。この後、温度を、常に撹拌しながら76℃に増加させた。1.5Lの脱イオン水に溶解した1575gのNi(NO・6HOを含有する第2溶液を調製した。次にニッケル溶液を、モリブデン酸塩/タングステン酸塩溶液に、温度を76℃に維持しながら25分間かけて加えた。得られた混合物を76℃で保持し、30分間撹拌した。続いて、95gのマレイン酸を懸濁液に加え、撹拌を更に30分間続けた。懸濁液のpHは5〜6の範囲であった。60℃に冷却した後、青緑色の沈殿物を濾過により収集し、フィルタープレスにより150psiで30分間加圧することにより乾燥した。50重量%の強熱減量(LOI)及び800psiの空洞で、沈殿物を4重量%のMethocel(商標)と混合し、NAQダイを持つWolfスクリュー押出機で押し出した。
【0069】
メソ多孔性の存在に相当する明確に画定されたヒステリシスループも含む、例2の前駆体のN2吸着脱着等温線を図4〜5に示す。この前駆体の他の孔特性には、以下が含まれる:1g/cmの試料密度;56.1297m/gの、P/P=0.20での一点表面積;58.1421m/gのBET表面積;56.2515m/gの、17〜3000オングストローム幅の孔のBJH(Barret−Joyner−Halenda)吸着累積表面積;59.6379m/gのBJH脱着を含む表面積特性。孔容積特性には、0.149469cm/gの、P/P=0.99での2008オングストローム未満の孔の一点脱着総孔容積;0.145741cm/gの、17〜3000オングストローム幅の孔のBJH吸着累積表面積;及び0.148929cm/gのBJH脱着が含まれる。102.8301オングストロームの脱着平均孔幅(BETにより4V/A);103.635オングストロームのBJH吸着平均孔幅;及び99.889オングストロームのBJH脱着平均孔幅を含む孔径特性。
【0070】
例3 Ni−Mo−W−マレエート触媒前駆体の第3の実施態様
式:(NH){[Ni2.6(OH)2.08(C2−0.06](Mo0.350.65}の触媒前駆体を、以下のように調製した:954.4gのヘプタモリブデン酸アンモニウム(NHMo24・4HOを、5.8Lの脱イオン水に室温で溶解した。1333gのメタタングステン酸アンモニウム(NH1240・4.7HOを、1.3Lの水に溶解した。モリブデン酸塩及びタングステン酸塩溶液を、15.0Lの脱イオン水に加えた。この混合モリブデン酸塩及びタングステン酸塩溶液に、5.0Lの7.0重量%のNHOH(アンモニア)溶液を、pHが9.8に達するまで加えた。6.38Lの脱イオン水に溶解した2835gのNi(NO・6HOを含有する第2溶液を調製した。第3の溶液は、284.9gのNi(SO)・6HOを2.0Lの水に溶解することにより調製し、続いて濃硫酸によりpHを1.0に調整した。2つのニッケル溶液を合わせた後、0.60Lの水に溶解した110.0gのマレイン酸をニッケル溶液に加えた。混合モリブデン酸塩/タングステン酸塩溶液を、直列型高剪断混合機によりニッケル溶液と合わせ、合わせた溶液を9.78Lの脱イオン水に排出した。得られた懸濁液を連続的に撹拌し、77℃で維持した。この懸濁液のpHを、7.0重量%のNH4OH溶液の添加により6.5に上昇させ、77℃での連続的な撹拌により90分間老化させた。青緑色の沈殿物を濾過により収集し、5000psiの空洞になるまで115℃で乾燥した。続いて、ペーストを湿潤して、1500psiの空洞にし、4重量%のMethocel(商標)を加え、ペーストを、NAQダイを持つWolfスクリュー押出機で押し出した。
【0071】
図6は、例3で調製された触媒前駆体の等温線を示すグラフであり、IV型等温線のパターンに当てはまらない。
【0072】
本明細書及び添付の特許請求の範囲の目的において、特に示されない限り、量、率又は割合を表す全ての数字、並びに明細書及び特許請求の範囲に使用されている他の数値は、全ての場合において用語「約」により修正されることが理解されるべきである。したがって、特に指示のない限り、以下の明細書及び添付の特許請求の範囲に記載されている数値パラメーターは、本発明により得られることが求められる望ましい特性に応じて変わりうる近似値である。本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用されるように、単数形「a」、「an」及び「the」は、1つの対象に明白及び明確に限定される場合を除いて、複数対象を含むことが留意される。本明細書で使用されるとき、用語「含む」及びその文法的変形は、リストにおける物品の列挙が、提示された物品に代わりうる又は追加されうる他の同様の物品の除外ではないように、非限定的であることが意図される。
【0073】
この書面による記載は、最良の形態を含む本発明を開示するため、またあらゆる当業者が本発明を実施及び使用することができるため、例を使用する。特許可能な範囲は、特許請求の範囲によって定義され、当業者に生じる他の例を含むことができる。そのような他の例は、それらが特許請求の範囲の文字どおりの言語と異ならない構造要素を有する場合、又はそれらが特許請求の範囲の文字どおりの言語と実質的ではない差を有する同等の構造要素を含む場合、特許請求の範囲の範囲内であることが意図される。本明細書において参照される全ての引用は、参照として本明細書に明白に組み込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化プロセシング条件下で炭化水素供給原料を水素化処理するための嵩高多金属触媒を、硫化することで形成する触媒前駆体であって、
少なくとも1つのVIB族金属化合物;
VIII族、IIB族、IIA族、IVA族及びこれらの組み合わせから選択される、少なくとも1つの助触媒金属化合物;
任意選択で少なくとも1つの配位剤L;
任意選択で少なくとも1つの希釈剤
を含み、
窒素のIV型吸着脱着等温線を持ち、約0.35のヒステリシス起点値P/Pを有し、積層が不規則であり、不十分な結晶構造を有することによって特徴付けられる触媒前駆体。
【請求項2】
H3型ヒステリシスループを有する、請求項1に記載の触媒前駆体。
【請求項3】
ヒステリシスループが、約0.55のP/Pを超えて十分に展開している平坦域を有する、請求項1に記載の触媒前駆体。
【請求項4】
25〜400m/gの範囲のBET表面積のメソ多孔性構造を有することによって特徴付けられる、請求項1に記載の触媒前駆体。
【請求項5】
BET表面積が40〜200m/gの範囲である、請求項1から4までのいずれか一項に記載の触媒前駆体。
【請求項6】
BET表面積が60〜150m/gの範囲である、請求項1から4までのいずれか一項に記載の触媒前駆体。
【請求項7】
2nm〜200nmの範囲の平均孔径のメソ多孔性構造を有することによって特徴付けられる、請求項1から4までのいずれか一項に記載の触媒前駆体。
【請求項8】
平均孔径が5〜150mnの範囲である、請求項1から4までのいずれか一項に記載の触媒前駆体。
【請求項9】
平均孔径が10〜125mnの範囲である、請求項1から4までのいずれか一項に記載の触媒前駆体。
【請求項10】
0.01cm/gを超える孔容積のメソ多孔性構造を有することによって特徴付けられる、請求項1から4までのいずれか一項に記載の触媒前駆体。
【請求項11】
孔容積が0.01〜0.50cm/gの範囲である、請求項1から4までのいずれか一項に記載の触媒前駆体。
【請求項12】
孔容積が0.02〜0.20cm/gの範囲である、請求項1から4までのいずれか一項に記載の触媒前駆体。
【請求項13】
孔容積が0.05〜0.15cm/gの範囲である、請求項1から4までのいずれか一項に記載の触媒前駆体。
【請求項14】
少なくとも100℃の温度で少なくとも30分間硫化することで、10%未満の残留幾何学量体積収縮率を有する、請求項1から4までのいずれか一項に記載の触媒前駆体。
【請求項15】
最大1.6g/ccの圧縮嵩密度を有する、請求項1から4までのいずれか一項に記載の触媒前駆体。
【請求項16】
最大1.4g/ccの圧縮嵩密度を有する、請求項1から4までのいずれか一項に記載の触媒前駆体。
【請求項17】
少なくとも100℃の温度で少なくとも30分間硫化することで、10%未満の残留幾何学量体積収縮率を有する、請求項1から4までのいずれか一項に記載の触媒前駆体。
【請求項18】
少なくとも100℃の温度で少なくとも30分間硫化することで、8%未満の残留幾何学量体積収縮率を有する、請求項1から4までのいずれか一項に記載の触媒前駆体。
【請求項19】
式:A[(M)(OH)(L)(MVIB)[式中、
Aは、アルカリ金属カチオン、アンモニウム、有機アンモニウム及びホスホニウムカチオンのうちの少なくとも1つであり;
は、少なくとも1つの助触媒金属化合物であり、Mは、VIII族、IIB族、IIA族、IVA族及びこれらの組み合わせから選択され;
Lは、少なくとも1つの配位剤であり;
VIBは、+6の酸化状態を有する少なくとも1つのVIB族金属であり;
:MVIBは、100:1〜1:100の原子比を有し;
v−2+Pz−xz+nz=0;0≦y≦−P/n;0≦x≦P;0≦v≦2;0≦zである。]で表される、請求項1から4までのいずれか一項に記載の触媒前駆体。
【請求項20】
が、少なくとも1つのVIII族金属であり、MVIBが、モリブデン、タングステン及びこれらの組み合わせから選択され、Lが、カルボキシレート、エノレート及びこれらの組み合わせのうちの少なくとも1つである、請求項19に記載の触媒前駆体。
【請求項21】
VIBが少なくとも2つのVIB族金属の混合物である、請求項19又は20に記載の触媒前駆体。
【請求項22】
任意選択の配位剤Lが、カルボキシレート、カルボン酸、アルデヒド、ケトン、アルデヒド、ヘミアセタール、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、マレイン酸、リンゴ酸、クルコン酸(cluconic acid)、フマル酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、シュウ酸、グリオキシル酸、アスパラギン酸、アルカンスルホン酸、アリールスルホン酸、マレエート、ホルメート、アセテート、プロピオネート、ブチレート、ペンタノエート、ヘキサノエート、ジカルボキシレート及びこれらの組み合わせから選択される、請求項19又は20に記載の触媒前駆体。
【請求項23】
任意選択の少なくとも1つの希釈剤が、チタニア、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、シリカゲル、シリカゾル、ヒドロニウム−又はアンモニウム安定化シリカゾル、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、アルミノケイ酸マグネシウム粘土、金属マグネシウム、水酸化マグネシウム、ハロゲン化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、ジルコニア、カチオン性粘土、アニオン性粘土、酸化亜鉛、硫化亜鉛、オルトケイ酸テトラエチル、ケイ酸、ニオビア、チタニア及びこれらの組み合わせの群から選択される、請求項19又は20に記載の触媒前駆体。
【請求項24】
式:(X)(M)(W)[式中、Mは、少なくとも1つのVIB族金属化合物であり、Xは、Ni及びCoの群から選択される少なくとも1つの助触媒金属であり、b:(c+d)のモル比は0.5/1〜3/1であり、c:dのモル比は>0.01/1であり、かつz=[2b+6(c+d)]/2である。]で表される、請求項1から4までのいずれか一項に記載の触媒前駆体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−525255(P2012−525255A)
【公表日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−508735(P2012−508735)
【出願日】平成22年4月29日(2010.4.29)
【国際出願番号】PCT/US2010/032989
【国際公開番号】WO2010/127130
【国際公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(503148834)シェブロン ユー.エス.エー. インコーポレイテッド (258)
【Fターム(参考)】