説明

水素化HAR油の製造方法

【課題】臭気がなく、安定性に優れた水素化HAR(Heavy Aromatic Residue)油を、触媒活性の失活を大幅に抑制して製造する方法を提供すること。
【解決手段】HAR油を水素存在下、水素化処理用触媒を用いて、水素分圧4〜20MPa、LHSV0.05〜2h−1、反応温度200℃〜450℃、水素/油比100〜1300NL/Lで水素化処理することを特徴とする水素化HAR油の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素化処理されたHAR(Heavy Aromatic Residue)油(以下、水素化HAR油という。)の製造方法に関する。さらに詳しくは、臭気のない、安定性に優れた水素化HAR油を、触媒活性を大幅に失活させることなく製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン製造装置のボトム油であるHAR油は、臭気が強く、安定性が悪いため、従来はボイラー等で燃焼させる以外に使用方法がなかった。特に、所内にボイラー設備のない製油所においては、HAR油の処理ができず、エチレン製造装置の稼動に大きな制約を受けていた。
なお、HAR油の利用方法としては、エチレンヘビーエンドを固体酸触媒の存在下、水素雰囲気下で処理し、炭素繊維の原料となる500℃までの軽沸留分を除いた改質ピッチを得ることが知られているが(特許文献1、2)、さらなる利用方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平4−30436号公報
【特許文献2】特公平4−30437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、HAR油の臭気をなくし、かつ安定性を改善できれば、エチレン製造装置の稼動アップに貢献できるだけでなく、軽油基材や重油基材に活用する道も開け燃料の製造コスト低減にも貢献できる。
本発明は、かかる実情に鑑みてなされたものであり、HAR油を水素化処理し、臭気がなく、安定性にすぐれた水素化HAR油の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究した結果、HAR油を所定の条件下に水素化処理することにより、臭気がなく、かつ安定性に優れた水素化HAR油を、触媒活性を大幅に失活させることなく製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0006】
[1]HAR(Heavy Aromatic Residue)油を水素存在下、水素化処理用触媒を用いて、水素分圧4〜20MPa、LHSV0.05〜2h−1、反応温度200℃〜450℃、水素/油比100〜1300NL/Lで水素化処理することを特徴とする水素化HAR油の製造方法。
【0007】
[2]水素化処理用触媒が、アルミニウム酸化物を含む無機担体に、全触媒質量を基準として、周期表第6族金属から選択される少なくとも1種の金属を10〜30質量%と、周期表第8〜10族金属から選択される少なくとも1種の金属を1〜7質量%とを担持させて得られる触媒であることを特徴とする前記[1]に記載の水素化HAR油の製造方法。
【0008】
[3]周期表第6族金属から選ばれる少なくとも1種の金属がモリブデン及び/又はタングステンであり、周期表第8〜10族金属から選ばれる少なくとも1種の金属がコバルト及び/又はニッケルであることを特徴とする前記[1]または[2]に記載の水素化HAR油の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法により、臭気がなく安定性に優れた水素化HAR油を、触媒活性を大幅に失活させることなく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0011】
本発明においてHAR油とはHeavy Aromatic Residue油のことであり、ナフサ留分等の原料を熱分解してエチレン、プロピレン等の化学品を製造するエチレン製造装置のボトム油(塔底油ともいう。)である。エチレン製造装置としては、スチームクラッカー(スチームクラッキング装置ともいう。)、エチレンクラッカー(エチレンクラッキング装置ともいう。)等を挙げることができる。エチレン製造装置の原料に関しては特に限定されないが、通常80%以上が石油由来のナフサ留分が使用される。ナフサ留分以外のものとしては、軽油、分解ガソリン、分解軽油、脱硫軽油などを使用することができる。
【0012】
ナフサ留分等の原料を熱分解してエチレン、プロピレン等の化学品を製造するエチレン製造装置の運転条件は、一般的な条件を用いることができ特に限定されるものではない。例えば、原料を希釈水蒸気とともに、熱分解反応温度770〜850℃で、滞留時間(反応時間)0.1〜0.5秒で運転する方法が挙げられる。熱分解温度が770℃を下回ると分解が進まず、目的生産物が得られないことから、熱分解反応温度の下限は、775℃以上がより好ましく、780℃以上がさらに好ましい。一方、熱分解温度が850℃を超えると、ガス生成量が急増するため、スチームクラッカーの運転に支障が出るため、熱分解反応温度の上限は、845℃以下がより好ましく、840℃以下がさらに好ましい。スチーム/原料(質量比)は0.2〜0.9が望ましく、より望ましくは0.25〜0.8、さらに望ましくは0.3〜0.7である。原料の滞留時間(反応時間)は、より望ましくは0.15〜0.45秒であり、さらに望ましくは0.2〜0.4秒である。
【0013】
本発明において水素化処理されるHAR油の性状は、特に限定されるものではないが、以下の性状を有することが好ましい。
蒸留試験における初留点(IBP)は180℃以上205℃以下、10容量%留出温度(T10)は190℃以上230℃以下、50容量%留出温度(T50)は210℃以上300℃以下、90容量%留出温度(T90)は480℃以上540℃以下、終点(EP)は550℃以上650℃以下の範囲のものが好ましく使用される。終点が650℃を上回ると、原料油中に含まれる重金属などの触媒に対する被毒物の含有量が大きくなり、上記触媒の寿命が大きく低下するため好ましくない。
また、15℃における密度は1.03g/cm以上1.08g/cm以下、50℃における動粘度は20mm/s以上45mm/s以下、硫黄含有量(硫黄分)は200質量ppm以上600質量ppm以下、窒素含有量(窒素分)は20質量ppm以下、芳香族分は80容量%以上であることが好ましい。
【0014】
なお、蒸留試験とは、JIS K 2254に規定する「石油製品―蒸留試験方法」に準拠して測定されるもの、15℃における密度とは、JIS K 2249に規定する「原油及び石油製品−密度試験方法及び密度・質量・容量換算表(抜粋)」の「振動式密度試験方法」に準拠して測定されるもの、50℃における動粘度とは、JIS K 2283「原油及び石油製品−動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」に準拠して得られる値を、硫黄含有量とは、JIS K 2541―1992に規定する「原油及び石油製品―硫黄分試験方法」の「放射線式励起法」に準拠して測定される硫黄含有量を、窒素含有量とは、JIS K 2609「原油及び石油製品−窒素分試験方法」に準拠して測定される窒素含有量を、芳香族分とは、石油学会法JPI−5S−49−97「石油製品−炭化水素タイプ試験方法−高速液体クロマトグラフ」で測定される全芳香族分の含有量を意味する。
【0015】
HAR油の水素化処理における反応器入口における水素分圧は4〜20MPaであることが必要であり、下限としては4.5MPa以上が好ましく、5MPa以上がさらに好ましく、上限としては19.5MPa以下が好ましく、19MPa以下がさらに好ましい。水素分圧が4MPa未満の場合は触媒上のコーク生成が激しくなり触媒寿命が短くなる。一方、水素分圧が20MPaを超える場合は反応器や周辺機器等の建設費が上昇し、経済性が失われる懸念がある。
【0016】
HAR油の水素化処理におけるLHSVは0.05〜2h−1であることが必要であり、下限としては0.1h−1以上が好ましく、0.2h−1以上がさらに好ましく、上限としては1.9h−1以下が好ましく、1.8h−1以下がさらに好ましい。LHSVが0.05h−1未満の場合には、反応器の建設費が過大となり経済性が失われる懸念がある。一方、LHSVが2h−1を超える場合には原料油の水素化処理が十分に達成されず、安定性が悪化する懸念がある。
【0017】
HAR油の水素化処理における水素化反応温度は200℃〜450℃であることが必要であり、下限としては220℃以上が好ましく、250℃以上がさらに好ましく、上限としては440℃以下が好ましく、430℃以下がさらに好ましい。反応温度が200℃を下回る場合には、原料油の水素化処理が十分に達成されない傾向にある。一方、反応温度が450℃を上回る場合には、副生成物であるガス分の発生が増加するため、目的とする生成油の収率が低下することとなり望ましくない。
【0018】
HAR油の水素化処理における水素/油比は100〜1300NL/Lであることが必要であり、下限としては110NL/L以上が好ましく、120NL/L以上がさらに好ましく、上限としては1200NL/L以下が好ましく、1000NL/L以下がさらに好ましい。水素/油比が100NL/L未満の場合には、リアクター出口での触媒上のコーク生成が進行し、触媒寿命が短くなる傾向にある。一方、水素/油比が1300NL/Lを超える場合には、リサイクルコンプレッサーの建設費が過大になり、経済性が失われる懸念がある。
【0019】
HAR油の水素化処理における反応形式は特に限定されないが、通常は、固定床、移動床等の種々のプロセスから選ぶことができるが、固定床が好ましい。また反応器は塔状であることが好ましい。
【0020】
HAR油の水素化処理に使用される水素化処理用触媒は、少なくとも1種の周期表第6族金属及び少なくとも1種の周期表第8〜10族金属を含有する。周期表第6族金属としてはモリブデン、タングステン、クロムが好ましく、モリブデン、タングステンが特に好ましい。周期表第8〜10族金属としては、鉄、コバルト、ニッケルが好ましく、コバルト、ニッケルがより好ましい。これらの金属はそれぞれ単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。具体的な金属の組み合わせ例としては、モリブデン−コバルト、モリブデン−ニッケル、タングステン−ニッケル、モリブデン−コバルト−ニッケル、タングステン−コバルト−ニッケルなどが好ましく用いられる。なお、ここで周期表とは、国際純正・応用化学連合(IUPAC)により規定された長周期型の周期表をいう。
【0021】
前記水素化処理用触媒は、上記金属がアルミニウム酸化物を含む無機担体に担持されたものであることが好ましい。前記アルミニウム酸化物を含む無機担体の好ましい例としては、アルミナ、アルミナ−シリカ、アルミナ−ボリア、アルミナ−チタニア、アルミナ−ジルコニア、アルミナ−マグネシア、アルミナ−シリカ−ジルコニア、アルミナ−シリカ−チタニア、あるいは各種ゼオライト、セビオライト、モンモリロナイト等の各種粘土鉱物などの多孔性無機化合物をアルミナに添加した担体などを挙げることができ、中でもアルミナが特に好ましい。
【0022】
前記水素化処理用触媒は、アルミニウム酸化物を含む無機担体に、全触媒質量を基準として、周期表第6族金属から選択される少なくとも1種の金属を10〜30質量%と、周期表第8〜10族金属から選択される少なくとも1種の金属を1〜7質量%とを担持させて得られる触媒であることが好ましい。周期表第6族金属及び周期表第8〜10族金属それぞれの担持量が、それぞれの下限未満である場合には、触媒が充分な水素化処理活性を発揮しない傾向にあり、一方、それぞれの上限を超える場合には、触媒コストが上昇する上に、担持金属の凝集等が起こり易く、触媒が充分な水素化処理活性を発揮しない傾向にある。
【0023】
前記金属を前記無機担体に担持する際に用いる前記金属種の前駆体は限定されないが、該金属の無機塩、有機金属化合物等が使用され、水溶性の無機塩が好ましく使用される。担持工程においては、これら金属前駆体の溶液、好ましくは水溶液を用いて担持を行うことが好ましい。担持操作としては、例えば、浸漬法、含浸法、共沈法等の公知の方法が好ましく採用される。
【0024】
前記金属前駆体が担持された担体は、乾燥後、好ましくは酸素の存在下に焼成され、金属種は一旦酸化物とされることが好ましい。さらにHAR油の水素化処理を行う前に、予備硫化と呼ばれる硫化処理により、前記金属種を硫化物とすることが好ましく行われる。
【0025】
予備硫化の条件は特に限定されないが、留出石油留分またはHAR油(以下、予備硫化原料油という。)に硫黄化合物を添加し、これを温度200〜380℃、LHSVが1〜2h−1、圧力は水素化処理運転時と同一、処理時間48時間以上の条件にて、前記水素化処理用触媒に連続的に接触せしめることが好ましい。前記予備硫化原料油に添加する硫黄化合物としては限定されないが、ジメチルジスルフィド(DMDS)、サルファゾール、硫化水素等が好ましく、これらを予備硫化原料油に対して予備硫化原料油の質量基準で1質量%程度添加することが好ましい。
【0026】
本発明の製造方法により得られる水素化HAR油は、以下の性状を有することが好ましい。
蒸留性状の初留点(IBP)は160℃以上180℃以下、10容量%留出温度(T10)は170℃以上190℃以下、50容量%留出温度(T50)は195℃以上220℃以下、90容量%留出温度(T90)は260℃以上360℃以下、終点(EP)は400℃以上550℃以下であることが好ましい。
また、15℃における密度は0.88g/cm以上1.05g/cm以下であることが好ましく、50℃における動粘度は12mm/s以上25mm/s以下であることが好ましい。硫黄含有量(硫黄分)は、10質量ppm以上100質量ppm以下であることが好ましく、窒素含有量(窒素分)は20質量ppm以下であることが好ましく、芳香族分は20容量%以上80容量%以下であることが好ましい。
【0027】
なお、蒸留試験とは、JIS K 2254に規定する「石油製品―蒸留試験方法」に準拠して測定されるもの、15℃における密度とは、JIS K 2249に規定する「原油及び石油製品−密度試験方法及び密度・質量・容量換算表(抜粋)」の「振動式密度試験方法」に準拠して測定されるもの、50℃における動粘度とは、JIS K 2283「原油及び石油製品−動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」に準拠して得られる値を、硫黄含有量とは、JIS K 2541―1992に規定する「原油及び石油製品―硫黄分試験方法」の「放射線式励起法」に準拠して測定される硫黄含有量を、窒素含有量とは、JIS K 2609「原油及び石油製品−窒素分試験方法」に準拠して測定される窒素含有量を、芳香族分とは、石油学会法JPI−5S−49−97「石油製品−炭化水素タイプ試験方法−高速液体クロマトグラフ」で測定される全芳香族分の含有量を意味する。
【実施例】
【0028】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0029】
(水素化処理用触媒の調製)
濃度5質量%のアルミン酸ナトリウム水溶液1kgに水ガラス3号を加え70℃に保温した容器に入れた。濃度2.5質量%の硫酸アルミニウム水溶液1kgに硫酸チタン(IV)水溶液(TiO2含有量として24質量%)を加えた溶液を、70℃に保温した別の容器において調製し、前述のアルミン酸ナトリウムを含む水溶液に15分間で滴下した。水ガラスおよび硫酸チタン水溶液の量は所定のシリカ、チタニアの含有量となるよう調整した。混合溶液のpHが6.9〜7.5になる時点を終点とし、得られたスラリー状生成物をフィルターに通して濾取し、ケーキ状のスラリーを得た。ケーキ状スラリーを還流冷却器を取り付けた容器に移し、蒸留水300mlと27%アンモニア水溶液3gを加え、70℃で24時間加熱攪拌した。該スラリーを混練装置に入れ、80℃以上に加熱し水分を除去ながら混練し、粘土状の混練物を得た。
得られた混練物を押出し成形機によって直径1.5mmシリンダーの形状に押出し、110℃で1時間乾燥した後、550℃で焼成し、成形担体を得た。得られた成形担体300gを取り、蒸留水150mlに三酸化モリブデン、硝酸コバルト(II)6水和物、リン酸(濃度85%)を加え、溶解するまでリンゴ酸を加えて調製した含浸溶液をスプレーしながら含浸した。
使用する三酸化モリブデン、硝酸コバルト(II)6水和物およびリン酸の量は、所定の担持量となるよう調整した。含浸した試料を110℃で1時間乾燥した後、550℃で焼成し、触媒Aを得た。触媒Aは、担体基準で、SiOの含有量が1.9質量%、TiOの含有量が2.0質量%、触媒基準でMoOの担持量が22.9質量%、CoOの担持量は2.5質量%、P担持量は4.0質量%であった。
【0030】
[実施例1]
(水素化処理反応)
固定床連続流通式反応装置に触媒Aを充填し、まず触媒の予備硫化を行った。すなわち、15℃における密度851.6kg/m、蒸留試験における初留点231℃、終留点376℃、予備硫化原料油の質量を基準とした硫黄原子としての硫黄分1.18質量%、色相L1.5である直留系軽油相当の留分(予備硫化原料油)に、該留分の質量基準で1質量%のDMDSを添加し、これを48時間前記触媒に対して連続的に供給した。その後、表1に示すスチームクラッカーのボトム油であるHAR油Aを原料油として用い、反応温度280℃、水素分圧8MPa、LHSV1h−1、水素/油比500NL/Lの条件にて水素化処理反応を行った。得られた水素化HAR油は表2に示す。なお、各々の性状の分析は上述の方法による。
このときの触媒劣化速度および水素化HAR油の評価結果(臭気、誘導期間)を表3に示す。
触媒劣化速度に関しては、水素化処理条件を同一処理条件に補正したときの反応温度(補正反応温度)の1日あたりの変化量で規定したものであり、0.1℃/日以下であることが望ましい。
水素化HAR油の臭気に関しては、任意に選ばれた10人において、臭いと感じた人数で評価を行ない、臭いと感じた人数が8人以上の場合は臭気ありと、2人以下の場合は臭気なしと判断することとした。
水素化HAR油の安定性の指標に関しては、誘導期間法(PetroOXY試験機、ASTM−D7545に準拠)の時間で規定した。具体的には、サンプル5ccを140℃に加熱し、700kPaで酸素雰囲気下にした後、圧力が10%低下する時間で規定され、60分以上であることが望ましい。
【0031】
[実施例2]
運転条件として反応温度300℃、水素分圧5.2MPa、LHSV0.6h−1、水素/油比160NL/Lの条件にて水素化処理反応を行った以外は、実施例1と同様の水素化処理を実施した。水素化HAR油の性状を表2に、触媒劣化速度、臭気、および誘導期間の結果を表3に示す。
【0032】
[実施例3]
原料油として表1に示すHAR油Bを、運転条件として反応温度380℃、水素分圧17MPa、LHSV1.8h−1、水素/油比900NL/Lの条件にて水素化処理反応を行った以外は、実施例1と同様の水素化処理を実施した。水素化HAR油の性状を表2に、触媒劣化速度、臭気、および誘導期間の結果を表3に示す。
【0033】
[実施例4]
運転条件として反応温度390℃、水素分圧11MPa、LHSV0.3h−1、水素/油比700NL/Lの条件にて水素化処理反応を行った以外は、実施例1と同様の水素化処理を実施した。水素化HAR油の性状を表2に、触媒劣化速度、臭気、および誘導期間の結果を表3に示す。
【0034】
[比較例1]
HAR油Aを水素化しなかった場合の結果を表3に示す。
【0035】
[比較例2]
水素分圧を3MPa、水素/油比500NL/Lにしたこと以外は、実施例2と同様の水素化条件で実施した。水素化HAR油の性状を表2に、触媒劣化速度、臭気、および誘導期間の結果を表3に示す。
【0036】
[比較例3]
LHSVを6h−1にしたこと以外は、実施例3と同様の水素化条件で実施した。水素化HAR油の性状を表2に、触媒劣化速度、臭気、および誘導期間の結果を表3に示す。
【0037】
[比較例4]
反応温度を150℃にしたこと以外は、実施例4と同様の水素化条件で実施した。水素化HAR油の性状を表2に、触媒劣化速度、臭気、および誘導期間の結果を表3に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
【表3】

【0041】
表2の結果から、本発明の水素化HAR油の製造方法に従った実施例1〜4では、触媒活性の失活速度を抑制しつつ、臭気のなく安定性に優れた水素化HAR油を製造できる。一方、比較例1〜4においては、触媒活性の劣化速度が早いか、臭気、安定性の点で十分な性能を得ることができない。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の製造方法により得られる水素化HAR油を燃料基材等に有効活用することにより、コスト削減、廃棄物排出量の低減、品質に優れる石油製品の生産等の点で非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
HAR(Heavy Aromatic Residue)油を水素存在下、水素化処理用触媒を用いて、水素分圧4〜20MPa、LHSV0.05〜2h−1、反応温度200℃〜450℃、水素/油比100〜1300NL/Lで水素化処理することを特徴とする水素化HAR油の製造方法。
【請求項2】
水素化処理用触媒が、アルミニウム酸化物を含む無機担体に、全触媒質量を基準として、周期表第6族金属から選択される少なくとも1種の金属を10〜30質量%と、周期表第8〜10族金属から選択される少なくとも1種の金属を1〜7質量%とを担持させて得られる触媒であることを特徴とする請求項1に記載の水素化HAR油の製造方法。
【請求項3】
周期表第6族金属から選ばれる少なくとも1種の金属がモリブデン及び/又はタングステンであり、周期表第8〜10族金属から選ばれる少なくとも1種の金属がコバルト及び/又はニッケルであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の水素化HAR油の製造方法。

【公開番号】特開2011−208030(P2011−208030A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77581(P2010−77581)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】