説明

水素含有燃料対応燃焼器および、その低NOx運転方法

【課題】本発明の目的は、燃焼速度の速い水素含有燃料に対応し、バーナの信頼性を損なうことなく低NOx燃焼が可能なガスタービン燃焼器を提供することにある。
【解決手段】本発明は、起動用燃料51や水素含有燃料62aを供給する第一の燃料ノズル301を燃焼室12の上流に配置して、第一の燃料ノズル301から供給された燃料を燃料過濃条件で燃焼して低酸素濃度の燃焼ガスを生成する一次燃焼領域(領域A)を形成する。次に、第二の燃料ノズル302から第二燃料供給孔12aを使って水素含有燃料62bを燃焼室12に噴射し、水素の酸化反応によって一次燃焼領域で発生したNOxを還元する還元領域(領域B)を形成する。最後に、燃焼室12にリーン燃焼用空気102aを供給して、未燃分燃料を燃料希薄条件で燃焼する二次燃焼領域(領域C)を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素含有燃料の運用に対応した燃焼器と、その低NOx運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃焼器において、バーナの信頼性を確保しつつNOxの排出量を抑制する方法として、拡散燃焼方式によるリッチ・リーン燃焼が挙げられる。リッチ・リーン燃焼は燃料を1系統のみで供給する。始めに、燃焼器頭部の一次燃焼領域に供給される燃料を燃料過濃条件で燃焼(リッチ燃焼)させ、火炎温度の上昇を抑制してNOxの発生を抑制する。次に、燃焼器下流の二次燃焼領域において、一次燃焼領域から流下してくる未燃分燃料に空気を供給し、燃料希薄条件で急速に燃焼(リーン燃焼)させるという方式である。
【0003】
ただし、一次燃焼領域の火炎が長くなるため、燃焼室壁面の冷却を行う必要がある。燃焼室壁面の冷却には空気を利用できるが、そうすると空気の供給により酸素濃度が上昇する。酸素濃度が上昇すると火炎温度が高くなり、NOx排出量の増加をもたらす恐れがある。
【0004】
この対策として燃料系統を2系統設け、燃焼器の軸方向に燃料を分割して供給することで一次燃焼領域の火炎の長さを適正化する技術がある。なお、燃料系統を軸方向に2系統設け、燃料を分割して供給する技術は、特許文献1(特開平8−210641号公報)に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−210641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された燃焼器は、希薄燃焼用バーナの下流に追焚き用バーナを設けたものである。そして燃料の供給系統を軸方向に二系統に分けることで、軸方向の火炎温度を任意の設定温度以下に制御する構成が記載されている。
【0007】
しかし、燃焼器頭部のバーナは燃料希薄条件における予混合燃焼方式のバーナである。予混合燃焼方式のバーナに燃焼速度の速い水素含有燃料を用いる場合、火炎がバーナに接近しすぎることで、バーナに焼損を来す可能性があった。一方で、バーナの信頼性を確保するために、予混合方式のバーナを単純に拡散燃焼方式のバーナに替えて設置した場合、拡散燃焼時の局所火炎温度の上昇によってNOxが発生し、低NOx化が不十分となるおそれがある。
【0008】
そこで、本発明の目的は、水素含有燃料に対応してバーナの信頼性を確保しつつ、低NOx運転が可能な燃焼器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、空気と燃料とを燃焼させる燃焼室と、前記燃焼室の上流側から前記燃焼室に燃料を供給する第一の燃料ノズルとを備えたガスタービン燃焼器において、前記燃焼室の壁面に、水素含有燃料を燃焼室内に供給する第二の燃料供給孔を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、水素含有燃料に対しても信頼性を確保した燃焼器及び、その低NOx運転方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1に示す燃焼器の構造図である。
【図2】実施例1に示す燃焼器の第二燃料供給孔の位置における燃焼器の概略断面図である。
【図3】実施例1に関するガスタービン負荷に対する燃料、および窒素噴射流量を示す図である。
【図4】実施例1に示す燃焼器の軸方向距離に対する、燃焼室内の酸素濃度,NOx濃度、および燃焼器内ガス温度の断面平均値の概念図である。
【図5】実施例1に示す燃焼器内で生起する現象について、燃焼ガス流れ方向に沿ってフローチャートの形式で示した図である。
【図6】実施例1に示す発電プラントの系統概略図である。
【図7】実施例2に示す燃焼器の構造図である。
【図8】実施例2に示す燃焼器の第二燃料供給孔の位置における燃焼器の概略断面図である。
【図9】実施例2に関するガスタービン負荷に対する燃料、および窒素噴射流量を示す図である。
【図10】実施例2に示す発電プラントの系統概略図である。
【図11】実施例3に示す燃焼器の構造図である。
【図12】実施例3に示す燃焼器の第二燃料供給孔の位置における燃焼器の概略断面図である。
【図13】実施例3に示す発電プラントの系統概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
水素は燃焼の際に二酸化炭素(CO2)を発生させないため、地球温暖化防止に貢献できる燃料である。そこで近年、ガスタービンでは、資源有効利用の観点からガスタービンの主要燃料であるLNG(Liquefied Natural Gas)に加え、水素を含む副生燃料を利用することが検討されている。水素を含む副生燃料には、例えば製鉄プラントでコークスを生成する際にコークス炉より発生するガス(COG:Coke Oven Gas)や、石油製油プラントで発生するオフガスがある。また、石炭や重質油を酸素でガス化して得られるガス化ガスも水素を含む燃料である。
【0013】
石炭を酸素でガス化した燃料によって発電する石炭ガス化複合発電システム(IGCC:Integrated coal Gasification Combined Cycle)は、豊富な資源を有効に利用した発電システムであり、欧米を中心に実用化されている。さらに近年では、地球温暖化防止の観点から燃料中の炭素分を分離・除去するCO2分離回収システム(CCS:Carbon dioxide Capture and Storage)が検討されている。CO2分離回収システムによって燃料中の炭素分が取り除かれると、燃料中の水素分の割合は増加する。このCO2分離回収システムは、IGCCやその他の発電システムへの適用も検討されている。
【0014】
石炭ガス化ガスの代表的な燃料成分は一酸化炭素,水素,窒素および少量のメタンである。それぞれの成分濃度は原料の炭種などに依存して若干の変動はあるが、燃料中の水素濃度はCCSの運転条件に大きく影響を受ける。CCSによるCO2回収を行う前の石炭ガス化ガスの場合は水素濃度約25vol.%程度である。一方、高度にCO2回収を行った場合(CO2回収率90%)では水素濃度約85vol.%の高水素濃度燃料となる。
【0015】
前述の通り、IGCCプラントに用いる燃料は、炭種やガス化炉負荷,CCSの運転条件等によって組成が異なる。そのため、燃料組成の変化に対応可能な燃焼器が必要となる。また、CCSによってCO2を分離回収した後の燃料は、水素を多量に含んだ燃料となる。したがって、可燃範囲が広く燃焼速度が速いという水素特有の課題に対応した燃焼器が必要となる。
【0016】
燃料の燃焼方式には、予混合燃焼方式と、拡散燃焼方式とがある。予混合燃焼方式では、燃料と空気を予め混合し、燃料希薄状態で燃焼を行うことで低NOx化を図る。しかし、燃焼の際に火炎がバーナに接近しやすくなり、逆火発生のリスクが増加する等の理由からバーナの信頼性を損なう恐れがある。したがって、予混合燃焼方式においては、バーナの信頼性確保が重要な課題となる。
【0017】
一方、拡散燃焼方式では、燃料と空気をそれぞれ別の流路より燃焼室に供給して燃焼させる。燃料は燃焼室に供給された後に空気と混合されて燃焼する。そのため、逆火の発生を抑制することができ、バーナの信頼性の確保が図れる。しかし、燃料と空気の混合の度合いが不均一なため、局所的に燃料の濃い領域が形成されることで局所火炎温度が高くなり、NOxの排出量が増える。その対策として、空気分離装置で発生する窒素を燃焼器に噴射し、局所火炎温度を低下する技術がある。しかし、プラント効率向上のために積極的な熱回収を行うと、プラントで発生する窒素や燃料の温度は高くなる。温度の高い窒素では十分な冷却効果は得られにくい。
【0018】
したがって、拡散燃焼方式と窒素噴射の組合せのみでNOx排出量の環境規制値を満足するのは難しく、蒸気噴射等の追加的な措置が別途必要となる。仮に蒸気噴射を行う場合、高圧の蒸気が必要である。例えば、併設した蒸気タービンを駆動するための蒸気を利用することが考えられる。ただし、この場合は、本来得られるはずであった蒸気タービンによる仕事が得られなくなる。そのため、プラント全体の効率を低下させてしまうので、他の方式による低NOx化が望まれる。
【0019】
なお、IGCCプラントで発生する燃料は、発熱量が約10MJ/m3N程度の中カロリーガスである。このガスは一般的な高カロリー燃料であるLNGと比べて火炎温度が高い。そのため、更なるNOx低減対策が必要となる。
【0020】
以下、NOx低減を可能とする本発明の実施例について図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0021】
実施例1は、図6に系統概略を示した石炭ガス化発電プラント(IGCC)に関するものである。
【0022】
(プラントの構成、及び系統)
本実施例のガス化発電プラントは、図6に示す通り、ガス化炉21,ガス精製装置22,CO2分離回収装置23,ガスタービン5,空気分離装置11等で構成される。ガス化炉21では石炭20と酸素120の反応によって石炭ガス化ガス60を発生させる。ガス精製装置22では脱硫・脱塵により燃料中の不純物を除去する。これにより、クリーンな燃料とした石炭ガス化ガス62が精製される。
【0023】
石炭ガス化ガス62の供給系統はガス精製装置22の出口において、CO2分離回収装置23に石炭ガス化ガス62を供給する系統と、CO2回収前の石炭ガス化ガス62をガスタービン5に供給する系統に分岐される。CO2分離回収装置23の入口には、CO2の回収を行う石炭ガス化ガス62の流量を調整するための流量調節弁37が備えられている。これにより、CO2分離回収装置23に供給する石炭ガス化ガス62の流量調整が可能である。
【0024】
また、CO2分離回収装置23の出口には、CO2回収後の石炭ガス化ガス63(高水素含有燃料)の供給圧力調整や緊急時にガスの供給を遮断するための制御弁36−1が備えられている。同様に、CO2回収前の石炭ガス化ガス62をガスタービン5に供給する系統にも制御弁36−2が配置されている。前記2つの系統は各系統に設けられた制御弁36−1,36−2の下流で合流する。合流後の系統には、ガスタービン5に供給する石炭ガス化ガスの流量を調節するための流量調節弁39a、および39bが備えられている。流量調節弁39a,39bによるガスタービン5に供給する石炭ガス化ガスの流量の調整により、ガスタービンの負荷変化が可能となる。
【0025】
分岐した前記系統のうち、CO2分離回収装置23を介さない系統を用いることで、CO2回収前の石炭ガス化ガス62をガスタービン5に直接供給することが可能となる。ガスタービン5では石炭ガス化ガス62の燃焼により熱エネルギーを発生させる。タービン4によって熱エネルギーを回転エネルギーに変換し、発電機6に動力が伝えられることで発電が可能となる。
【0026】
分岐したもう一方の系統では、石炭ガス化ガス62をCO2分離回収装置23に供給する。CO2分離回収装置23内において、石炭ガス化ガスと水蒸気とのシフト反応によって石炭ガス化ガス62中のCOはCO2に転換される。また、同様の反応において水素が発生する。発生したCO2は分離・回収され、CO2回収後の石炭ガス化ガス63が燃焼器3へ供給可能となる。CO2回収率を高めることで燃料中の水素濃度は高くなり、燃焼器3に供給される燃料組成はCO2分離回収装置23の運転開始前後で大きく異なるのが特徴である。
【0027】
CO2回収率の増加に伴って水素含有率は高くなるので、燃焼速度の速い燃料が燃焼器3に供給されることになる。本実施例において、ガス精製装置22を通過したガス62をガスタービンに供給しつつCO2分離回収装置23の運転を始めた場合、燃焼器3に供給される石炭ガス化ガス中の水素含有率は徐々に高くなる。水素含有率の増加に伴い燃焼速度は速くなるので、予混合燃焼方式の場合、逆火のリスクが高くなりバーナの信頼性を損なうおそれがある。
【0028】
また、プラントでは何らかの理由によってCO2分離回収装置23を突然停止する場合も想定される。この場合、燃料中の水素含有率はCO2分離回収装置23の運転時の状態から急激に低下する。そのため、供給される燃料の燃焼速度が低下し、火炎の吹き飛び等の問題が生じる。こういった燃焼速度の変化に対応できるように、幅広い水素含有率に対応可能な燃焼器が必要である。
【0029】
空気を窒素と酸素に分離する空気分離装置11には、ガスタービン5の圧縮機2からの抽気空気103やバックアップ用空気圧縮機14からの吐出空気110の供給が可能である。ガスタービンの起動前にはバックアップ用空気圧縮機14の吐出空気110の供給により、ガス化炉21に必要な酸素120を供給することができる。
【0030】
起動用の液体燃料51にてガスタービン5を起動し、ガスタービン5から空気分離装置11へ抽気空気103の供給が可能となると、抽気空気103の流量増加によりバックアップ用空気圧縮機14の吐出空気110の流量を減少させることができる。空気分離装置11で製造した酸素120は、酸素用昇圧圧縮機15による昇圧後ガス化炉21へ供給される。また、空気分離の際に発生した窒素130は窒素用昇圧圧縮機13による昇圧後、ガスタービン燃焼器3に供給可能となる。
【0031】
また、シフト反応を用いたCO2分離回収装置23を運転することによって、燃焼によって生じるはずであったCO2を予め回収することができ、CO2排出量が削減できる。更に、CO2を分離回収後に得られる、水素濃度の高い石炭ガス化ガスを第二の燃料ノズルに供給することで、後述するようにNOxを還元する水素を増加させることが可能となり、更なる低NOx化が可能である。
【0032】
(ガスタービンの系統と燃焼器の構成)
図1に、本実施例のガスタービンの系統と、燃焼器の拡大断面図を示す。ガスタービン5は、圧縮機2、燃焼器3、タービン4、発電機6、及び起動用モーター8等で構成される。ガスタービン5は、圧縮機2が大気より吸込んだ空気101を圧縮し、燃焼用空気102を燃焼器3へと供給する。燃焼器3は圧縮機2による燃焼用空気102と燃料との混合燃焼によって燃焼ガス140を発生させる。燃料には、起動用液体燃料51や水素含有燃料であるCO2回収前石炭ガス化ガス62a等が用いられる。発生した燃焼ガス140はタービン4に供給され、回転動力を生む。そして、タービン4の回転動力が圧縮機2及び発電機6に伝達される。圧縮機2に伝えられた回転動力は圧縮動力に用いられ、発電機6に伝えられた回転動力は電気エネルギーに変換される。
【0033】
燃焼器3は、圧力容器である外筒10の内側に設けられた、空気と燃料とを燃焼させる燃焼室12を有する。燃焼室12には、燃焼ガス流れ方向の上流側に、起動用液体燃料51と第一の燃料である石炭ガス化ガス62aをそれぞれ供給するための第一の燃料ノズル301が設けられている。燃焼器3にはこの第一の燃料ノズルから燃焼ガス流れ方向下流側に向かって順に、第二燃料供給孔12a,リーン燃焼用空気102aを供給するための空気孔、燃焼室12で発生した燃焼ガスをタービンに導くための尾筒(図示せず)などが設けられている。第二燃料供給孔12a、およびリーン燃焼用空気102aの供給用空気孔は、燃焼室12の壁面に設けられている。そして、第二燃料供給孔12aを利用して水素含有燃料である石炭ガス化ガス62bを燃焼室12内に供給する第二の燃料ノズル302が、燃焼室12の外周に設けられている。
【0034】
第一の燃料ノズル301は、液体燃料による起動を可能にする起動用液体燃料ノズル51aと、その外周に位置しLNGなどのガス起動を可能にするガスノズル71a、および保炎を強化する空気旋回器30から成る。第一の燃料ノズル301は、LNG等の起動用高カロリー燃料から水素含有燃料への燃料切り替えや、液体燃料から水素含有燃料への燃料切り替えが可能である。
【0035】
第一の燃料ノズル301の外周にはプラントで発生する窒素130を燃焼器3内に噴射するための窒素噴射ノズル430を備えている。不活性媒体である窒素の噴射によって、リーン燃焼用空気102aを供給する空気孔よりも上流側領域(後述する領域A,B)の酸素濃度を低下させることができる。また、噴射する空気の攪拌効果で燃料と空気の混合は促進され、局所火炎温度を低下させることもできる。これらの作用により、燃焼器頭部でのNOx発生を抑制することができる。
【0036】
また、第一の燃料ノズル301は、燃料である起動用液体燃料51と石炭ガス化ガス62aを燃焼室12に供給する流路と、空気である噴霧空気501と燃焼用空気102を燃焼室12に供給する流路とを別々に有している。言い換えれば、燃焼室に供給する前に燃料と空気とを混合する構成を設けていない。つまり、本実施例のバーナは、燃料と空気とを別の流路で燃焼室に供給する拡散燃焼方式のバーナである。
【0037】
拡散燃焼方式のバーナを採用することで、燃焼速度に関わらず、逆火の発生を抑制することができる。そこで、燃焼速度の速いCO2分離回収後の石炭ガス化ガス63で運用する際も、燃焼速度の遅いCO2分離回収前の石炭ガス化ガス62の燃焼速度に合わせて燃料を燃焼室に噴射する。このように運用することで、火炎の吹き飛びを防ぐことができる。逆火の発生と火炎の吹き飛びを防ぐことで、供給する燃料の水素含有率が変化する場合にも高い信頼性が維持できる。
【0038】
燃焼器3には、第二の燃料ノズル302が燃焼室12の外周に複数本配置されている。第二の燃料62bはエンドカバー55を介して第二の燃料ノズル302に供給される。その後、燃焼室12の側壁に設けた第二燃料供給孔12aを利用して、第二の燃料62bは第二の燃料ノズル302から燃焼室12内に供給される。そのため、第二の燃料ノズル302の燃料噴出孔303と第二燃料供給孔12aは、燃焼器の中心軸を基準に、軸方向の位置と周方向の位相を合わせて配置するのが望ましい。
【0039】
図2に、燃料噴出孔303の位置における、燃焼器3のX−X面における概略断面図を示す。本実施例における第二の燃料ノズル302は、エンドカバー55に設置された8本のペンシル型のノズルであり、燃焼室側壁に開口した第二燃料供給孔12aに直面する側面に、単一の噴孔を持つ形状をしている。なお、1本の配管で第二燃料供給孔12a近傍位置まで第二燃料を導いてから円環状のマニホールドを介して燃料を分配供給してもよい。
【0040】
(低NOx燃焼器のコンセプト)
本実施例の燃焼器は図1に破線と矢印で示すように、燃焼室12内のガス流れ方向上流側から順に、一次燃焼領域(領域A)、および還元領域(領域B)、二次燃焼領域(領域C)という三つの領域を形成することを特徴としている。
【0041】
領域Aは、燃焼器の軸方向、すなわち主流の流れ方向について、燃焼器の上流側に配置した第一の燃料ノズル301から燃料噴出孔303の直前までの範囲とする。領域Bは、第二の燃料ノズル302から、リーン燃焼用空気102aの供給用空気孔の直前までの範囲とする。領域Cは、リーン燃焼用空気102aの供給用空気孔から燃焼室出口までの範囲とする。
【0042】
領域Aは、第一の燃料ノズル301から供給される燃料の燃焼や窒素の噴射によって低酸素濃度の燃焼ガスを発生させる領域である。具体的には、まず、不活性媒体である窒素の噴射によって燃焼用空気102の酸素濃度を低下させ、この酸素濃度の低下した燃焼用空気102を噴射する。酸素濃度の低下した燃焼用空気102を噴射しつつ石炭ガス化ガスを燃料過濃条件で燃焼させて、更に酸素を減少させる。
【0043】
また、本実施例の領域Aにおける空気供給孔の開口面積は、火炎が保持できる空気流入量を確保できる範囲で、狭めに設定されている。この構造により、燃焼用空気102に含まれる酸素の過度の流入が抑制されるので、火炎の安定性を確保しつつ、領域Aの下流になるにつれて酸素濃度を十分に低下させることができる。
【0044】
なお、本実施例の燃焼器3は、燃焼速度の速い水素含有燃料に対しても信頼性を確保するために、燃焼室に空気と燃料を別々に噴射する拡散燃焼方式のバーナを採用している。したがって、燃焼による酸素濃度の低下と同時に、局所火炎温度の上昇によってNOxが発生し、領域Aで生成される低酸素濃度の燃焼ガスにはNOxが含まれることとなる。
【0045】
但し、従来技術のリッチ・リーン燃焼におけるリッチ燃焼と同様、燃料過濃条件で燃焼を行うため通常の拡散燃焼より酸素濃度が低く、火炎温度の上昇幅は小さい。そして、前述した窒素噴射によっても火炎温度の上昇が抑制されるので、単純な拡散燃焼方式のバーナよりもNOxの排出量は少ない。加えて、燃料に含まれる水素は最も酸素との親和性の高い化学種であり、窒素がサーマルNOxに転換する反応よりも速い反応速度定数を持つ。すなわち、酸素が窒素との反応よりも速く水素と反応を行うので、NOxの生成量は更に少なくなる。
【0046】
次に、領域Bについて説明する。領域Bは、領域Aで発生した低酸素濃度の燃焼ガスに含まれるNOxを第二の燃料ノズル302から供給する水素含有燃料62bに含まれる水素によって還元し、NOxを減少させる領域である。具体的には、領域Aから燃焼室内を流下してくる低酸素濃度の燃焼ガス中に、第二の燃料ノズルから水素含有燃料を投入する。この時、本実施例の構成では、第二燃料供給孔から燃焼用空気が流入するため、領域Bの上流側の酸素濃度がわずかに増加する。
【0047】
分子量の小さい水素は拡散速度が速く、燃焼ガス中にすばやく拡散する。また、700K程度の温度条件でも反応する水素にとって燃焼ガスは十分に高温であるから、拡散した水素は領域Aで発生したNOxのOと反応する。この水素の酸化反応によってNOx(NO)は領域B内で還元される。したがって、領域Aで発生したNOxは領域B内で減少することになる。なお、NOは(1)式の反応によって還元される。
【0048】
2NO+2H2 → N2+2H2O ・・・・・・(1)
また、一酸化炭素も還元作用を有する燃料であり、水素に変えて、あるいは同時に供給しても、前述の還元作用を得ることができる。
【0049】
領域Cは、上流側の領域Bから流入するガス中の未燃分燃料を、空気と急速に混合して燃焼させる領域である。具体的には、空気孔からリーン燃焼用空気102aを投入し、領域AおよびBで燃焼せずに残った未燃分燃料を燃料希薄条件で燃焼(リーン燃焼)させる。例えば、リーン燃焼用空気102aを軸方向に分けて供給した場合、一つの空気孔から流入するリーン燃焼用空気102aの流量が減り、流入する勢いが弱くなる。流入する勢いが弱いと、燃焼室中心部までリーン燃焼用空気102aが届かず、未燃分燃料との混合が十分に行えない。そうすると、未燃分燃料の濃い領域で、局所火炎温度が上昇し、NOxが生じる可能性がある。
【0050】
したがって、領域Cにおける燃焼でNOxの発生を抑制するには、リーン燃焼用空気102aと未燃分燃料とを急速に混合することが重要である。急速な混合を実現するためには、リーン燃焼用空気が燃焼ガス中を大きく貫通するように供給し、かつ燃焼ガスを攪拌するような流動形態とすることが望ましい。本実施例では、リーン燃焼用空気について供給孔数を限定し、一つ一つの供給孔径を大きく取ることで燃焼ガスに対する貫通を大きく取り、かつ燃焼ガスを攪拌するような流動形態とすることで急速な混合を行う。
【0051】
なお、領域CにおいてNOxの発生量を抑えたリーン燃焼を実現するには、リーン燃焼用空気が供給孔から燃焼ガス流れ方向の下流側で、かつ燃焼室の軸に垂直な方向について燃焼器中心軸付近まで貫通するようなリーン燃焼用空気の供給方式を取る方法が特に良い。このような供給方式を取れば、リーン燃焼用空気が燃焼器中心軸近傍で衝突することで、淀み領域が燃焼器中心軸近傍に形成される。これにより、燃焼反応の起点となる淀み領域が燃焼室の側壁から遠くなり、燃焼速度の速い水素含有燃料に対しても十分な信頼性が確保できる。また、淀み点近傍には様々な方向からのリーン燃焼用空気の噴流があるため、大きな攪拌効果が期待できる。したがって、領域Bからの燃焼ガスとリーン燃焼用空気の急速な混合が達成できる。
【0052】
未燃分燃料に含まれる水素は、領域Bにおいて燃焼ガスによって加熱されていることと分子量が小さいことから拡散速度が速く、空気と急速に混合される。そのため、この領域での局所火炎温度の上昇は少ない。更に領域Cでは、領域Aで発生した燃焼ガスの温度は領域Bで供給される水素含有燃料によってすでに低下している。火炎温度の上昇が少ない燃料希薄条件で未燃分燃料を燃焼し、速やかに燃焼室からタービンに向けて流出させている。したがって、領域Cにおける火炎温度は低く保たれ、滞留時間も少ないのでNOxの生成は抑制される。
【0053】
また、一般に燃空比の低い燃料希薄条件における燃焼は燃焼効率が確保しにくく、吹き消えに弱い性質がある。しかし、領域Cでは領域Bの燃焼ガスのエンタルピにより、リーン燃焼用空気と混合した後の混合平均温度を高く保つことが可能な上、未燃の燃料も還元作用を発揮できるほどの高温状態で保持されてきている。つまり、十分な活性化エネルギーが与えられており、安定な燃焼が実現する。
【0054】
図4に、燃焼器の軸方向距離に対する、燃焼室内の酸素濃度とNOx濃度および燃焼器内ガス温度の断面平均値の概念図を示す。ここでは、ガスタービンを定格負荷(FSFL)条件で運転した場合を想定している。定格負荷運転時は第一の燃料ノズル301では、起動用液体燃料51から石炭ガス化ガス62aへの燃料切り替えが完了している。また、ガスタービン負荷の上昇が完了した時点で、第一の燃料の流量は一定の流量となるように制御されている。
【0055】
図5に、燃焼器内で生起する現象について、燃焼ガス流れ方向に沿ってフローチャートの形式で示す。図4,図5を用いて、それぞれの領域における酸素濃度,NOx濃度、及び燃焼器内断面平均ガス温度の変化を説明する。
【0056】
まず、領域Aにおいて、第一の燃料ノズル301から供給される第一の燃料を拡散燃焼方式で燃焼させる。この際、領域Aでは燃料過濃条件で燃焼が進むため、酸素濃度は反応の進行に伴って急速に低下する。燃焼器内ガス温度の断面平均値も急速に上昇する。NOx濃度は、窒素酸化物が酸化された状態に固定化されるまでにある程度の滞留時間が必要であるため、遅れて上昇する。なお、燃料過濃条件下における燃焼のため火炎温度の上昇が抑えられ、NOxの発生はあるものの、その量は単純な拡散燃焼と比べて抑制されている。
【0057】
次に領域Bにおいて、水素を含んだ第二の燃料が供給される。第二の燃料の供給によってNOxの還元が促進されるため、徐々にNOxの濃度は低下していく。なお、本実施例では、空気孔を利用して第二の燃料を燃焼室に供給しているため、燃料と同時に空気が流入する。第二の燃料供給時に酸素濃度の増加が見られるのは、そのためである。第二の燃料ノズルの燃料噴出孔を燃焼室の側壁に直接取り付けた場合は、空気の流入が防げる。そのため、低酸素濃度化を徹底することが可能である。この場合は、燃料ノズルの燃料噴出孔が第二燃料供給孔を兼ねる。
【0058】
本実施例の領域Bでは、前述の空気の漏れこみによって若干の酸素濃度上昇があるものの、積極的な空気の供給はしていない。したがって、燃料が十分に燃焼するには酸素が不足しており、第二の燃料はほとんど燃焼しない。したがって、領域Bでも低酸素状態が維持され、第二の燃料の供給によってガス温度も低下する。更に、水素が還元反応を行うための活性化エネルギーとして上流側で発生した燃焼ガスエンタルピを利用するため、燃焼器内のガス温度は徐々に低下する。
【0059】
第二の燃料による還元反応は、十分な活性化エネルギーが与えられれば水素濃度にほぼ比例する形で進行する。そのため、第一の燃料に対して第二の燃料の比率を高く取ることが低NOx化には有利である。但し、第二の燃料による還元反応を行うための活性化エネルギーを確保するためには、領域A出口の燃焼ガスと第二燃料供給孔12aから供給される流体とが完全に混合した際の平均温度(混合平均温度)が、目安として水素の反応開始温度である700℃以上となる必要がある。したがって、領域Bにおけるガス温度が700℃以上を確保できるように、第一の燃料と第二の燃料の供給流量比率を制御するのが望ましい。
【0060】
領域Cでは、リーン燃焼用空気の供給によって酸素濃度が増し、NOx濃度は空気によって希釈されて低下する。また、燃焼器内ガス温度は、新規に流入したリーン燃焼用空気により一旦低下する。しかし、領域Bまでは酸素が不足していたため未燃焼のままであった燃料が一気に燃焼するため、燃焼器内ガス温度は上昇する。但し、領域Cにおいて未燃であった燃料が燃焼する際には、十分なリーン燃焼用空気の投入によって、燃空比の低い燃料希薄条件で燃焼が行われる。更に、領域Cで生成された燃焼ガスはタービン入口に流入して断熱膨張して温度低下するが、ここまでの滞留時間は他の領域と比べて短い。そのため、NOxが固定化される割合が少なく、新たなNOx生成をほとんどない状態まで抑制できる。
【0061】
以上の通り、本実施例の燃焼器は、燃料過濃条件で拡散燃焼する一次燃焼領域(領域A)と、未燃分燃料を完全燃焼する二次燃焼領域(領域C)の間に、水素含有燃料を吹き込んでNOx(NO)を還元する還元領域(領域B)を設けることを特徴とする。領域Bを設けたことで、拡散燃焼を行う領域Aで発生したNOxが還元されて減少し、従来のリッチ・リーン燃焼よりも排出するNOxを低減できる。よって、拡散燃焼方式によってバーナの信頼性を確保しつつ、水素の還元作用による低NOx燃焼が可能な、水素含有燃料対応ガスタービン燃焼器を提供することができる。
【0062】
また、本実施例によると、水素含有燃料である石炭ガス化ガスを水素含有燃料対応ガスタービン燃焼器に供給することで燃焼器の特長を生かすことができる低NOxなIGCCプラントを提供できる。
【0063】
(運転スケジュール)
図3の運転スケジュールをベースに、ガス化発電プラントを例とした運転スケジュールについて説明する。始動時、ガスタービンは起動用モーター8などの外部動力によって駆動される。ガスタービンの回転数を燃焼器の着火条件に相当する回転数で一定に保持することで、燃焼器には着火に必要な燃焼空気102が供給され着火条件が成立する。そうすると、起動用の液体燃料51が起動用液体燃料ノズル51aに供給され、燃焼器3では液体燃料51の着火が行われる。
【0064】
その後、燃焼ガス140がタービン4に供給され、液体燃料51の流量の増加とともにタービン4が昇速する。起動用モーター8の離脱によりガスタービンは自立運転に入り、無負荷定格回転数(FSNL:Full Speed No Load)に到達する。
【0065】
ガスタービンが無負荷定格回転数に到達した後は発電機6の併入と、液体燃料51の流量増加によるタービン4の入口ガス温度の上昇とによって、負荷が上昇する。負荷併入後は空気分離装置11に必要な空気103をガスタービンより抽気することで、ガス化炉へ必要な酸素と空気分離の際に発生する窒素130をガスタービン燃焼器3へ供給可能となる。なお、空気分離装置11に必要な空気はバックアップ用空気圧縮機14からも供給できるため、空気分離装置11より酸素120をガス化炉に供給することにより、ガスタービンの起動前からガス化炉の運転が可能となる。
【0066】
そして、ガス化炉負荷の上昇に伴い石炭ガスの供給が可能になると、燃焼器では液体燃料焚きから石炭ガス焚きへと燃料を切り替える。燃料切り替え操作は、ほぼ一定の負荷条件において行い、第一の燃料ノズル301から供給される液体燃料51の流量の減少に合わせて第一の燃料である石炭ガス化ガス62aの流量を増加させ、ガス専焼に切り替える。ガス専焼に切り替えた後は、第二の燃料ノズルから供給する第二の燃料である石炭ガス化ガス62bの流量を増加させることで負荷の上昇を行い、定格負荷(FSFL:Full Speed Full Load)に到達させる。
【0067】
これらの運転スケジュールを示した図3は、ガスタービン回転数、およびガスタービン負荷に対する液体燃料51とガス燃料62の流量の変化と、プラントで発生する窒素流量の変化を示したものである。図中には燃焼器に供給する全燃料流量のうち、第一の燃料と第二の燃料流量の変化を示している。図中のa〜eの状態は、
a)起動用燃料による着火時
b)無負荷定格回転数(FSNL)到達時
c)燃料切り替え開始時
d)燃料切り替え完了時
e)定格負荷(FSFL)到達時刻
を表わす。a〜cが起動用燃料(油)での専焼、c,dが起動用燃料とガス燃料との混焼、d,eがガス専焼の運転状態である。
【0068】
まず、起動用液体燃料51に着火し、燃料流量の増加によってガスタービンの回転数を上昇させる。ガスタービンの回転数が無負荷定格回転数に到達すると、ガスタービンには窒素130の供給が可能となる。燃焼器への窒素の供給が可能になった後は、ガスタービンの負荷上昇に伴い空気分離装置へ空気を抽気することが可能となる。抽気できる空気の流量は負荷変化とほぼ比例関係にある。
【0069】
その後、ガス化ガスの供給が可能となると、ガスタービンでは液体燃料焚きからガス焚きへの燃料切り替えが可能となる(状態c)。燃料切り替え中(c,d)は燃焼安定性の確保のため、ほぼ一定負荷条件のもと、窒素の噴射流量も一定条件で運転する。液体燃料51の流量の低下とガス燃料62aの流量増加に伴い、ガス専焼へと燃料を切り替える(d)。
【0070】
ガス専焼切り替え後は、第一と第二の燃料供給系統によって供給する燃料流量を、それぞれ制御が可能である。第一と第二の燃料流量をそれぞれ制御することで燃焼室内の燃焼ガス温度の調整が可能となる。更に、供給される燃料の水素含有率やNOxの発生量に応じて、第二燃料ノズルから投入される水素含有燃料の流量を調整することで、領域BにおけるNOxの還元を十分に行えるように制御することが可能となる。
【0071】
本実施例では、ガスタービン負荷の増加に対して、第一の燃料流量を一定流量に制御し、第二の燃料流量を増加させたときの低NOx燃焼の例を示しているが、NOxの排出を抑制するために第一の燃料流量と第二の燃料流量を同時に変化させて負荷に対応することも可能である。また、本実施例ではCO2回収前の石炭ガス化ガス62を第一,第二の燃料ノズルにそれぞれ62a,62bとして供給し、燃料として使用しているが、CO2回収後の石炭ガス化ガス63を第一,第二の燃料ノズルにそれぞれ63a,63bとして供給し、燃料として使用することができる。この場合、燃料中の水素濃度が増すので、領域BにおけるNOxの還元効果を向上することができる。
【実施例2】
【0072】
実施例1ではIGCCプラントの例について述べた。次に実施例2として、製鉄プラントでコークスを製造する際に発生するCOGを燃料とした発電プラントの運転例を説明する。
【0073】
図10に本実施例におけるプラントの系統の概略図を示す。本実施例に示すプラントでは、コークス炉24から発生するCOG161をガス精製装置25で精製する。その後、高炉で発生する高炉ガス(BFG163)と混合して燃料発熱量を調整し、コークス炉の乾留用熱源24aの燃料として使用している。また転炉で発生する転炉ガス(LDG)は、図示しないガスホールダーに貯蔵した後、ボイラー29の燃料として使用している。
【0074】
図7に、ガスタービンの系統と燃焼器の拡大断面図を示す。燃焼器は図1で示した構成とほぼ同じであるが、本プラントにはガス化炉がなく空気分離装置が不要なため、窒素の供給が困難である。そのため、燃焼器には窒素噴射ではなく蒸気(または水)噴射が適用される。蒸気噴射ノズル435は、第一の燃料ノズル301の外周に配置する。また、燃焼室12の側壁より第二燃料供給孔12aを利用して燃焼器内に第二の燃料162bを供給する第二の燃料ノズル302と、その下流にリーン燃焼用空気102aを供給するための空気孔を配置し、2段階の燃焼が可能な構造とする。
【0075】
図8に第二燃料供給孔の位置における燃焼器の概略断面図を示す。本実施例では第二の燃料162bを供給する第二の燃料ノズル302は燃焼器外筒10を貫通する形で燃焼器側壁に配設されており、かつ第二の燃料ノズル周囲からの空気の漏れこみを防止するため、第二燃料ノズル莢12bが設けられている。この構成により還元領域Bでの低酸素濃度状態がより徹底できる。
【0076】
図9に、ガスタービンの運転スケジュールを示す。本実施例では、起動用高カロリー燃料71としてLNGを用い、第一の燃料ノズルでのLNG71からCOG162aへ燃料は切り替えず、LNG71と第二の燃料ノズル302から供給するCOG162bとの混焼によってガスタービンの低負荷から定格負荷まで運転する例を示した。
【0077】
LNGを用いて第一の燃料ノズルで着火した後は、LNG71の流量を増加させ、ガスタービンの無負荷定格回転数に到達させる(状態b)。負荷併入後、燃焼器には蒸気135を供給して、一次燃焼領域における局所火炎温度の上昇を抑えてNOxの発生を抑制し、低酸素濃度の燃焼ガスを発生させる(状態c)。その後、状態Cの低負荷条件において、領域Bに第二の燃料としてCOG162bを供給する。領域B内でCOG162bに含まれる水素の酸化反応によりNOxが還元されるため、NOx濃度が低下する。領域Cでは空気の供給により領域A、およびBで燃焼せずに残った未燃分燃料を燃焼することが可能となる。
【0078】
その後、第二の燃料162bを増加させ、負荷を高くする。なお、図9では、燃料切り替えの部分負荷条件(状態d)よりも高負荷条件において、負荷の増加とともに蒸気噴射流量を増加する例を示したが、NOx排出量に応じて蒸気噴射流量を調整することも可能である。
【0079】
本実施例では、起動用にLNGを用いたときの運転例を示したが、起動用にA重油などの液体燃料51を用いても同様の効果が得られる。また、第一の燃料ノズルにおいて、部分負荷条件で起動用燃料から第一の水素含有燃料(COG162a)に燃料を切り替えても同様のNOx低減効果が得られる。
【0080】
なお、BFG163も水素を含む燃料であり、本実施例のCOG162に変えて運用することや、COG162と並行、もしくは混合して運用することも可能である。
【0081】
以上のように、本実施例によると、製鉄プラントから発生する水素含有の副生燃料を水素含有燃料用ガスタービン燃焼器に供給することで、拡散燃焼方式のバーナによって高い信頼性を確保しつつ、水素によるNOxの還元作用によってNOx排出の少ない発電プラントを提供することができる。発電プラントから得られる電力をプラント全体で利用することで、プラント全体の効率を向上することが可能となる。
【実施例3】
【0082】
次に実施例3として、石油精製プラントで発生する、いわゆるオフガスを燃料とした発電プラントの運転例を説明する。
【0083】
図13に、本実施例に関わるプラントの概略構成を示す。本実施例に示すプラントでは、石油50を精密蒸留装置31により蒸留分離してナフサ等に分留する。更に、分解装置32においてナフサから各種石油化学製品へ展開するとともに、発生するガスの改質装置33を備えている。いわゆるオフガスと呼ばれる、水素を含んだ副生燃料は蒸留装置31,分解装置32,改質装置33のいずれからも生じる。
【0084】
本実施例に示すプラントでは、上記の原料オフガスを一旦ガスホールダー34に貯蔵し、ガス精製装置35において脱硫などを施す。そして、C3以上の化学種を液化プロパンガス(LPG)263として取り出し、残余の水素含有燃料262をガスタービン5およびボイラー29の燃料として使用している。
【0085】
図11に、ガスタービンの系統と燃焼器の拡大断面図を示す。燃焼器は図7で示した構成とほぼ同じであり、蒸気(または水)噴射が適用されている。蒸気噴射ノズル435は、第一の燃料ノズル301の外周に配置する。また、燃焼室12の側壁より第二燃料供給孔12aを利用して燃焼器内に第二の燃料262b(または263b)を供給する第二の燃料ノズル302と、その下流にリーン燃焼用空気102aを供給するための空気孔を配置し、2段階の燃焼が可能な構造とする。
【0086】
図12に第二燃料供給孔の位置における燃焼器3のX−X断面における概略断面図を示す。本実施例では第二の燃料62b(または63b)を供給する第二の燃料ノズル302は、燃焼室12に直接取り付けられており、エンドカバー55の第二燃料マニホールドと可撓性配管(フレキシブルチューブ)で連結されている。この構成により、還元領域Bでの低酸素濃度状態がより徹底できる。また、燃焼室側壁や第二の燃料ノズルの熱伸びを吸収することで、第二の燃料を確実に燃焼室12内に供給できると共に、可撓性配管自体の熱伸びで第二燃料ノズル等の破損を招くおそれもない。
【0087】
また、リーン燃焼用空気102aの導入孔には筒状のガイド部品(スクープ)を設けて、リーン燃焼用空気102aが領域Bから流入する燃焼ガスを貫通し、燃焼器中心付近まで到達しやすいよう調整している。この構成により、燃焼ガス中の未燃分燃料とリーン燃焼用空気102aとの急速混合が可能となる。リーン燃焼用空気の導入孔は本実施例のようにスクープを設ける他にも、軸方向に2段に分割して下流側の噴流の貫通を補助するなどして燃焼器中心までの貫通を確保する方法がある。
【0088】
以上の通り、本実施例によると、石油の生成プロセスで発生する水素含有の副生燃料を水素含有燃料用ガスタービン燃焼器に供給することで、拡散燃焼方式のバーナによって高い信頼性を確保しつつ、水素によるNOxの還元作用によって低NOx排出な発電プラントを提供することができる。発電プラントから得られる電力をプラント全体で利用することで、プラント全体の効率を向上することが可能となる。
【0089】
以上述べたように、各実施例の燃焼器は、空気と燃料とを燃焼させる燃焼室12と、燃焼室12の上流側から燃焼室12に燃料を供給する第一の燃料ノズル301とを備え、燃焼室12の壁面に、水素含有燃料を燃焼室12内に供給する第二燃料供給孔12aを備えている。
【0090】
このような燃焼器では、第一の燃料ノズル301から供給された燃料の燃焼により発生したNOxを、第二燃料供給孔12aから供給される、還元剤である水素を含む燃料にて還元することができるため、燃焼器から排出されるNOxの量を低減することができる。この還元作用は前述の領域Bで顕著になされる。
【0091】
さらに各実施例の燃焼器は、第二燃料供給孔12aよりも燃焼ガス流れ方向上流側の酸素濃度を減少させる手段を有している。そのため、第二燃料供給孔12aよりも燃焼ガス流れ方向上流側、すなわち前述の領域Aにおいて、燃料過濃条件で燃料を燃焼させることができる。燃料過濃条件で燃焼させることにより、酸素の残存量を顕著に減少させることができる。酸素の残存量が少ないことで、領域Bで供給される第二の燃料に含まれる水素は、NOxに含まれるOと反応する。これにより、領域Aで発生したNOxを還元して減らすという効果が得られる。
【0092】
ここで酸素の残存量が少ないとは、領域Aの下流において、酸素量が理論燃空比に相当する酸素量の10%以下であることを意味する。望ましくは1%以下がよく、略0%であれば最も高い効果が得られる。
【0093】
各実施例の燃焼器では、空気孔の大きさを小さく抑えることにより領域Aに供給する空気の絶対量を少なく設定している。このようにしても、領域Aの下流における酸素の残存量を少なくすることができる。
【0094】
また実施例1の燃焼器は、酸素濃度を減少させる手段として不活性媒体噴射手段である窒素噴射ノズル430を有している。窒素噴射ノズル430から、不活性媒体である窒素を噴射することで、酸素濃度を低下させるとともに、局所火炎温度を低下させることもでき、燃焼器頭部でのNOxの発生を抑制することができる。
【0095】
実施例1の燃焼器では、窒素噴射ノズル430からの窒素は、空気との混合物として燃焼室12に噴射している。このようにすることで、構造の複雑化を抑えることができる。
【0096】
燃料過濃条件で燃料を燃焼させた後の気体は、領域Bへ流れる。ここでこの気体中に水素含有燃料が供給される。そうすると、前述の還元作用が起こり、NOxを低減させることができる。なお、不活性媒体とは燃料の燃焼を促進する効果を持たない媒体のことであり、窒素だけでなく、水蒸気などもこれに該当する。
【0097】
各実施例の燃焼器は、さらに、第二燃料供給孔12aよりも燃焼ガス流れ方向の下流側に、燃焼室12にリーン燃焼用空気102aを供給する空気孔を有している。この空気孔を備えることにより、領域Cを形成することができる。すなわち、水素含有燃料の供給によりNOxを減少させた後に空気を供給することにより、未燃分の燃料を燃焼させることができる。そうすると、前述のように領域Bでの未燃分の燃料を、安定してNOxの生成も少ない状態で燃焼させることができる。
【0098】
以上述べたように、各実施例の燃焼器は拡散燃焼方式を採用しているため、どのような水素含有量の燃料に対しても、信頼性を確保した運転が可能である。そのうえ、上述の通り、局所化炎温度の高温化を抑制したり、発生したNOxを減少させたりできる構成を採用しているため、拡散燃焼方式にも関わらず、低NOx運転が可能な燃焼器を提供することができる。
【符号の説明】
【0099】
2 圧縮機
3 燃焼器
4 タービン
5 ガスタービン
6 発電機
8 起動用モーター
10 外筒
11 空気分離装置
12 燃焼室
12a 第二燃料供給孔
12b 第二燃料ノズル莢
13 窒素の昇圧圧縮機
14 バックアップ用空気圧縮機
20 石炭
21 ガス化炉
22 ガス精製装置
23 CO2分離回収装置
24 コークス炉
24a 乾留用熱源
25 コークス炉ガス精製装置
26 ガス熱量調整装置
27 高炉
28 転炉
29 ボイラー
30 空気旋回器
31 精製蒸留装置
32 分解装置
33 改質装置
34 ガスホールダー
35 ガス精製装置
50 石油
51 液体燃料
51a 起動用液体燃料ノズル
52 ナフサ
55 エンドカバー
60 精製前石炭ガス化ガス
62 CO2回収前の石炭ガス化ガス
63 CO2回収後の石炭ガス化ガス
71 起動用高カロリー燃料
101 空気
102 燃焼用空気
102a リーン燃焼用空気
103 抽気空気
120 酸素
130 窒素
135 蒸気
140 燃焼ガス
160 コークス
161 精製前コークス炉ガス
162 コークス炉ガス(COG)
163 高炉ガス(BFG)
164 銑鉄
165 転炉ガス(LDG)
261 精製前原料オフガス
262,262a,262b 製油所オフガス
263 液化プロパンガス(LPG)
301 第一の燃料ノズル
302 第二の燃料ノズル
430 窒素噴射ノズル
435 蒸気噴射ノズル
501 噴霧空気

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気と燃料とを燃焼させる燃焼室と、
前記燃焼室の上流側から前記燃焼室に燃料を供給する第一の燃料ノズルと、
を備えた燃焼器において、
前記燃焼室の壁面に、水素含有燃料を燃焼室内に供給する第二の燃料供給孔を備えたことを特徴とする燃焼器。
【請求項2】
空気と燃料とを燃焼させる燃焼室と、
前記燃焼室の上流側から前記燃焼室に燃料を供給する第一の燃料ノズルと、
を備えた燃焼器において、
前記第一燃料ノズルから供給された燃料を燃料過濃条件で燃焼させるよう構成し、
前記燃料過濃条件で燃焼した気体中に水素含有燃料を供給する第二の燃料供給孔を備えたことを特徴とする燃焼器。
【請求項3】
空気と燃料とを燃焼させる燃焼室と、
前記燃焼室の上流側から前記燃焼室に燃料を供給する第一の燃料ノズルと、
を備えた燃焼器において、
前記第一の燃料ノズルから供給された燃料の燃焼により発生したNOxを還元する還元剤を供給する第二燃料供給孔を備えたことを特徴とする燃焼器。
【請求項4】
請求項1〜3に記載の燃焼器において、
前記第二燃料供給孔よりも燃焼ガス流れ方向の下流側に、前記燃焼室に空気を供給する空気孔を設けたことを特徴とする燃焼器。
【請求項5】
請求項1〜4に記載の燃焼器において、
前記第二燃料供給孔よりも燃焼ガス流れ方向上流側の酸素濃度を減少させる手段を有することを特徴とする燃焼器。
【請求項6】
請求項5に記載の燃焼器において、
前記酸素濃度を減少させる手段として、不活性媒体噴射手段を有することを特徴とする燃焼器。
【請求項7】
請求項6に記載の燃焼器において、
前記不活性媒体噴射手段は、前記燃焼室に不活性媒体と空気の混合物を噴射するよう構成されていることを特徴とする燃焼器。
【請求項8】
請求項1〜7に記載の燃焼器と、
前記燃焼器に圧縮空気を供給する圧縮機と、
前記燃焼器で生成された燃焼ガスにより駆動されるタービンと、
前記タービンの駆動力により発電する発電機とを備えた発電プラントにおいて、
燃料の水素濃度を高める手段を備え、
前記水素濃度を高める手段により水素濃度を高めた燃料を、前記燃焼器の前記第二の燃料供給孔に供給することを特徴とする発電プラント。
【請求項9】
請求項8に記載の発電プラントにおいて、
前記水素濃度を高める手段は、炭素分と水蒸気とのシフト反応を利用したものであることを特徴とする発電プラント。
【請求項10】
請求項8に記載の発電プラントにおいて、
前記水素含有燃料が製鉄プロセスで発生するガス燃料であることを特徴とする発電プラント。
【請求項11】
請求項8に記載の発電プラントにおいて、
前記水素含有燃料が石炭を酸素によってガス化することで精製されるガスであることを特徴とする発電プラント。
【請求項12】
請求項8に記載の発電プラントにおいて、
前記水素含有燃料が、石油の精製プロセスで発生する副生燃料であることを特徴とする発電プラント。
【請求項13】
空気と燃料とを燃焼させて燃焼ガスを生成する燃料の燃焼方法において、
前記燃焼ガスに水素含有燃料を供給することにより、空気と燃料との燃焼で発生したNOxを還元反応にて減少させることを特徴とする燃料の燃焼方法。
【請求項14】
請求項13に記載の燃料の燃焼方法において、
水素含有燃料の供給によりNOxを減少させた後に空気を供給することにより、未燃分の燃料を燃焼させることを特徴とする燃料の燃焼方法。
【請求項15】
請求項1〜7に記載の燃焼器の運転方法において、
燃料に含まれる水素濃度と前記燃焼室内NOx濃度の少なくとも一方に基づいて、前記第一の燃料ノズルから供給する燃料流量と前記第二の燃料ノズルから供給する燃料流量の少なくとも一方を制御することを特徴とする燃焼器の運転方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2011−75174(P2011−75174A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−225896(P2009−225896)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)