説明

水素富化コークス炉ガス製造システム

【課題】コークス炉窯から高温のコークス炉ガスを抽気して、その顕熱を利用して高濃度の水素を含有した水素富化コークス炉ガスを安定に製造する。
【解決手段】コークス炉に接続する抽気管と、前記抽気管に接続する粗コークス炉ガス改質処理装置と、を接続してコークス炉から粗コークス炉ガス改質処理装置にコークス炉ガスを流通させると共に、コークス炉から発生するコークス炉ガスの圧力や流量の変動に対応して、コークス炉から粗コークス炉ガス改質処理装置に流通する粗コークス炉ガスの流れを制御する制御系を有し、かつ、少なくとも、前記粗コークス炉ガス改質処理装置には水蒸気改質触媒、二酸化炭素改質触媒、部分酸化改質触媒、シフト触媒の群から選ばれる金属酸化物触媒を充填することを特徴とする水素富化コークス炉ガス製造システムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コークス炉から発生する高温の粗コークス炉ガスから高濃度の水素を含有した水素富化コークス炉ガスを製造する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄用のコークス炉では、石炭の乾留時に発生するコークス炉ガス(COG)をドライメーンと呼ばれる集合配管で回収して製鉄所内用各種燃料に使用している。この際、発生直後の粗コークス炉ガスは約900℃程度の高温であるため、原理的にはガスの顕熱を回収する、又は、高温を利用してガスを改質する等でエネルギー回収を図ることが可能であり、従来さまざまな取り組みがなされてきた。例えば、特許文献1及び2には、COGの顕熱回収装置が開示されている。また、特許文献3には、高温COGのガス改質装置が開示されている。コークス炉は、個々のコークス炉窯ではバッチ式で石炭の乾留を行うため、一般には乾留初期に一次熱分解で揮発性の高い成分を中心として多量の炭化水素成分が発生したのち、二次熱分解が進行して縮合多環芳香族を主体とした重質の炭化水素成分が発生するが、その発生量は徐々に低下することが知られている。また、それに伴ってCOGの成分も大きく変化するという非定常なCOG生成パターンとなっている。こうした中、高い顕熱を保有しながらも非定常な粗コークス炉ガスの熱エネルギーを効率的に活用する有効な方法が存在せず、高炉法一貫製鉄プロセスにおいてさらなる省エネ化を進める上で課題であった。
【0003】
一方、高温の粗コークス炉ガスを対象にして、ガスに含まれる軽質炭化水素やタール等の重質炭化水素から水素を高濃度に含んだ改質ガスを得る技術に関しては、特許文献4及び5で検討されているように、酸素や水蒸気を吹き込んで1200℃を超える高温域で反応させる改質方法が開示されている。しかしながら、改質反応が超高温域で進行するため、装置の耐熱化により処理装置が非常に高価になり建設費用が高くなること、外部から導入する酸素や水蒸気等の用役が多量に必要なため運転費用が高くなること、燃焼反応が進行するために多量のCOが発生すること等の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭59−44346号公報
【特許文献2】特開昭58−76487号公報
【特許文献3】特開2003−55671号公報
【特許文献4】特開2001−220584号公報
【特許文献5】特開2002−155288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
コークス炉からタール随伴粗COGを抽気してガス改質処理を行う際には、抽気したCOGをアンモニア水で冷却してタールの大量凝縮を許容するか、あるいは、抽気管の閉止時に隙間の大きいダンパを適用してガスの逆流を許容するかの選択しかなかった。このため、コークス炉から抽気されたCOGは熱的に温度が低く反応性にも乏しく、コークス炉ガスの700℃以上での熱間処理は、極めて制約の大きいものであり、ほとんど実用化されてこなかった。
【0006】
そこで、本発明は、タール随伴粗COGを高温で反応性の高い状態のまま、粗コークス炉ガス改質処理装置に供給すると共に、触媒を用いることにより800℃程度の比較的低温で水素富化コークス炉ガスを製造する安価で安全なシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者が鋭意検討した結果、上記課題に対する以下の解決手段を発明するに至った。
(1)コークス炉から抽気した高温の粗コークス炉ガスを抽気時にガスが保有する熱を触媒反応に利用して、粗コークス炉ガスをより高濃度の水素を含有するコークス炉ガスに改質するコークス炉ガス製造システムであって、
コークス炉と、
前記コークス炉に接続する抽気管と、
前記抽気管に接続する粗コークス炉ガス改質処理装置と、
前記コークス炉から発生するコークス炉ガスの圧力や流量の変動に対応して、前記コークス炉から前記粗コークス炉ガス改質処理装置に流通する粗コークス炉ガスの流れを制御する制御系と、
を含み、前記抽気管により前記コークス炉から前記粗コークス炉ガス改質処理装置に粗コークス炉ガスを流通させ、
前記粗コークス炉ガス改質処理装置は触媒を具備すること、を特徴とする水素富化コークス炉ガス製造システム。
【0008】
(2)前記粗コークス炉ガス中の軽質炭化水素成分、及び、粗コークス炉ガスに随伴する重質炭化水素成分を前記触媒により改質することを特徴とする(1)に記載の水素富化コークス炉ガス製造システム。
【0009】
(3)前記触媒が、水蒸気改質触媒、二酸化炭素改質触媒、部分酸化改質触媒、及び、シフト触媒の群から選ばれる少なくとも1種類からなることを特徴とする(1)または(2)に記載の水素富化コークス炉ガス製造システム。
(4)前記抽気管がヒーター付きであり、粗コークス炉ガスを600℃以上に保つことを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の水素富化コークス炉ガス製造システム。
(5)前記抽気管の途中に前記粗コークス炉ガス改質処理装置内の圧力の異常な上昇を防止するためのブリーダー弁が設けられていることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載の水素富化コークス炉ガス製造システム。
(6)前記抽気管の途中に前記粗コークス炉ガス改質処理装置へ流入する粗コークス炉ガスの流量の変動を制御するための開閉弁、ブロワー、バイパス弁、並びにそれらを制御する制御装置が設けられていることを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1項に記載の水素富化コークス炉ガス製造システム。
(7)前記コークス炉窯から水封弁を介してドライメーンに接続されていることを特徴とする(1)〜(6)のいずれか1項に記載の水素富化コークス炉ガス製造システム。
(8)前記ヒーター付抽気管が、開閉弁を有し、内径が80mm以上であり、外径は1m未満であることを特徴とする(1)〜(7)のいずれか1項に記載の水素富化コークス炉ガス製造システム。
(9)前記ヒーター付抽気管がさらに緊急遮断弁を有することを特徴とする(8)に記載の水素富化コークス炉ガス製造システム。
(10)前記粗コークス炉ガス改質処理装置に接続され、前記粗コークス炉ガス改質処理装置で処理された水素富化コークス炉ガスを冷却する冷却装置と、冷却された水素富化コークス炉ガスを貯留する水素富化コークス炉ガス貯留装置を有することを特徴とする(1)〜(9)のいずれか1項に記載の水素富化コークス炉ガス製造システム。
【0010】
本発明の特徴について説明する。
まず、粗コークス炉ガス中の炭化水素から水素へ変換する触媒を具備した粗コークス炉ガス改質処理装置に対して、コークス炉からの抽気管を直接配置することによって、コークス炉から発生した粗COGを高温を維持したままコークスガス処理装置に供給することができ、水素富化コークス炉ガスを製造することを可能にする製造システムを構築し、その結果、粗COGが有する顕熱の有効利用を可能としたことである。前述のように、従来技術では、粗COGの顕熱の有効利用と水素富化コークス炉ガスの製造の両立は困難であり、粗COGの熱間処理は実現できていなかった。
【0011】
次に、本発明では、上記粗COG中に含まれる軽質炭化水素成分、及び、粗COGに随伴する重質炭化水素成分から水素へ変換する触媒を、上記粗コークス炉ガス改質処理装置に用い、その触媒として水蒸気改質触媒、二酸化炭素改質触媒、部分酸化改質触媒、及び、シフト触媒の群から選ばれる少なくとも1種類からなるものを利用することにより、上記触媒反応を可能にした。
【発明の効果】
【0012】
本発明によって、高温の粗COGから高濃度の水素を含有する水素富化コークス炉ガスを安定に製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態における高温コークス炉ガス処理装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
コークス炉から発生する高温の粗コークス炉ガスが保有する約900℃の顕熱を有効に利用し、且つ、経時的に圧力や流量が変動するタール含有ガスを、安定に水素、一酸化炭素等、軽質炭化水素等の燃料成分に転換できれば、エネルギー増幅に繋がるばかりでなく、そこで生成される還元性ガス体積が大幅に増幅されることにより、例えば、鉄鉱石に適用して還元鉄を製造するプロセスが可能となれば、現在鉄鉱石をコークスにより還元する高炉プロセスで発生する二酸化炭素排出量を大幅に削減できる可能性がある。以下に、本発明の実施のための形態を詳細に述べる。
【0015】
<装置構成>
図1を用いて、本発明の実施形態を説明する。図1に示す従来のコークス炉窯1に、ヒーター付抽気管2と開閉弁3と緊急遮断弁4を設け、それに接続する粗コークス炉ガス改質処理装置5に供給する。粗コークス炉ガス改質処理装置5は、加熱炉6に収納されて、COG改質時には、炉内温度を600℃以上、より好ましくは、800℃以上に保持して、配管系内でのタールの凝縮を防止する。ヒーター付抽気管2の途中には、ブリーダー弁7を設けて開閉弁3の入側の圧力が一時的に上昇した場合、開放することにより系内圧力の異常上昇を防止する。粗コークス炉ガス改質処理装置5で処理された水素富化コークス炉ガスは、適宜冷却装置8で冷却されて水素富化コークス炉ガス貯留装置11に供給される。粗コークス炉ガス改質処理装置5内での通気抵抗が大きい場合には、冷却後のCOGをブロワー9で吸引して所要流量を確保してもよい。但し、ブロワー能力限界近くまで抵抗が上昇した場合には、バイパス弁10を開放することによりブロワーを分岐して水素富化コークス炉ガス貯留装置へ流れるようにする。また、冷却装置8によって常温程度まで冷却されたCOGは、タール分の除去されたドライなものであるので、その操作には市販の一般的なブロワー、弁等を用いることができる。冷却装置には、市販のスクラバー等を用いることができる。また、COG中のダストによる閉塞の恐れがある場合には、管路系の途中に適宜、サイクロン等の集塵機を設けてもよい。
コークス炉から抽気管2の途中に粗コークス炉ガス改質処理装置5へ流入する粗コークス炉ガスの圧力や流量の変動を制御するために、開閉弁3、緊急遮断弁4、粗コークス炉ガス改質処理装置5、ブロワー9、バイパス弁10などは、制御装置15によって制御される。
【0016】
<COGの流れ>
図1において、コークス炉窯1で好適な条件のCOGの場合、ヒーター付抽気管2の開閉弁3が開放されて、コークス炉窯1から粗コークス炉ガス改質処理装置5までウエットCOGが供給される。ここで、好適な条件のCOGとは、少なくとも、ヒーター付抽気管2側の圧力がコークス炉窯側の圧力よりも大きくない状態である。開閉弁3が開放されている状態では、そのコークス炉窯の水封弁12は開放されていてもよいし、閉止されていてもよい。ここで水封弁12が開放されている場合には、コークス炉窯1からドライメーン14にCOGが流出するようにスプレー装置13の圧力調整機構等が操作されるのが好ましい。
【0017】
開閉弁3が開放され、かつ、水封弁12が閉止されている状態ではコークス炉窯1でCOGが発生し続けている限りにおいて、コークス炉窯1で発生したCOGは全てヒーター付抽気管2に放出されるので、長時間平均的に逆流は生じない。即ち、平均的に、([コークス炉窯内圧力]−[ヒーター付抽気管内圧力])で定義するコークス炉窯−抽気管圧力差は正であり、かつ、この圧力差はコークス炉窯でのCOG発生量に比例した値となる。しかしながら、瞬間的には、コークス炉窯1内でのCOG発生速度は一定ではなく、短時間でも変動する。この変動要因は、例えば、コークス炉窯1内の石炭が一次熱分解を起こした後、引き続き二次熱分解を起こすが、部分的にはそれら反応の遷移の時期やその反応割合が石炭装入後の経時時間に対して一様でないために、瞬間的にそのコークス炉窯1内でのCOG発生量が急増し、これに伴って抽気管2内圧力も急上昇することなどが考えられる。そのような場合には、ブリーダー弁7が自動的に開放して発生COGを抽気管2から排出することで対応することが可能となる。
【0018】
しかしながら、ウェットCOGを配管内に通すことから、タール等の炭化、固着等による閉塞での急速な抽気管2内の圧力上昇が生じたり、制御装置15が重故障となった場合には、緊急でCOGの抽気を停止する必要がある。その際には、緊急遮断弁4を閉じることにより、コークス炉窯と粗コークス炉ガス改質処理装置とを縁切りして、コークス炉窯の操業に支障を来さないようにすることが必要である。
【0019】
<粗コークス炉ガス改質処理装置>
粗コークス炉ガス改質処理装置6には、例えば、特許文献3に示されるCOG改質装置を適用することができる。この装置の内部には、水蒸気改質触媒、二酸化炭素改質触媒、部分酸化改質触媒、及び、シフト触媒の群から選ばれる少なくとも1種類からなる金属酸化物触媒を充填した触媒充填槽が配置されるが、本装置に粗コークス炉ガスを供給しても圧力損失を生じることのないような触媒充填槽を用いることが必要である。また、本装置は600℃以上900℃以下程度の温度に加熱されるため、本装置並びに触媒充填槽に関しても、その温度に耐え得る材質且つ構造のものを製作することが必要である。素材としては、例えば、SUS310S等の耐熱ステンレス、耐熱ニッケル合金、又は、耐熱セラミックスを好適に用いることができる。
【0020】
<ヒーター付抽気管>
ヒーター付抽気管2は、コークス炉窯1に直接に接続されていることを特徴とするが、SUS310S等の耐熱ステンレス製、耐熱ニッケル合金製、又は、耐熱セラミックス製の管を使用することができる。ヒーター付抽気管2は、抽気COGの温度が改質温度より低下することを防止するためにヒーターを有しており、ヒーター付抽気管2内の抽気COGの温度は600℃以上に保つことが望ましく、700℃以上に保つことがより望ましい。本発明の水素富化コークス炉ガス製造システムでは抽気COGを通常700℃以上に保持するのでタールの凝縮は生じにくいものの、管路内面への高温でのCOG熱分解による炭素の析出は避けられないため、閉塞防止の観点から、ヒーター付抽気管2の内径は、80mm以上であることが好ましい。また、配管径が過大であるとコークス炉内で窯間に配管が設置できなくなるので、ヒーター付抽気管2の外径は、窯間の平均間隔、例えば、1m未満であることが好ましい。
【0021】
<開閉弁>
開閉弁3は、加熱炉内の600℃以上、より好ましくは、800℃以上の高温に耐え、コーキングによるカーボンの析出や、ダストの噛み込みによっても動作が阻害されないものであればどのような形式のものでも使用することができるが、例えば、耐熱ボール弁や耐熱ニードル弁などが好適に利用できる。
【0022】
<緊急遮断弁>
緊急遮断弁4は、上記で示したように、定常状態から逸脱してコークス炉窯操業に支障を来すような場合に、弁を作動させて、コークス炉窯1と粗コークス炉ガス改質処理装置5とを縁切りするものである。約800℃の高温に耐え、コーキングによるカーボンの析出や、ダストの噛み込みによっても動作が全く阻害されないものであればどのような形式のものでも使用することができるが、例えば、砂ホッパーなどが好適に利用できる。
【0023】
<加熱炉>
加熱炉6には市販の電気炉や燃焼炉を用いることができる。
加熱炉6は、上記の加熱する機械要素の全てを1台の加熱炉に収めてもよいし、ヒーター付抽気管2および緊急遮断弁4、粗コークス炉ガス改質処理装置5それぞれについて独立に加熱炉を設けてもよい。
【0024】
<構造材の材質>
炉内に配置される装置は、常温から900℃程度の高温までの環境において、所要の強度、剛性、耐久性、耐硫黄腐食性を有したものであればどのようなものでも使用することができる。例えば、変形する部品を用いる場合には、SUS310S等の耐熱ステンレス鋼、又は、インコネルやハステロイ等の耐熱ニッケル合金等の金属を、これ以外の部品に関しては、前記の材料に加えて、シリカ、アルミナ等の一般的な耐熱用セラミックスを用いることができる。尚、耐酸化性の低い材料を用いる場合には、炉内を非酸化性雰囲気、例えば、窒素雰囲気に維持することで、これらの材質を適用することができる。
【0025】
<冷却装置>
冷却装置8ではガスを効率的に冷却できれば特に制約するものではないが、例えば、高温のガスと対向流になるように常温付近の冷却水をフラッシングして冷却するスクラバー方式の装置を好適に使用することができる。また、この冷却装置では、冷却水を循環して再利用するための循環ポンプを設置することが、冷却水の効率的使用の観点からより好ましい。
【0026】
<触媒>
粗コークス炉ガスから水素富化コークス炉ガスを製造する際に用いる触媒は、炭化水素の水蒸気改質反応、二酸化炭素改質反応、部分酸化改質反応に用いられるNi系触媒、Co系触媒や、Ruなどの貴金属系触媒等を好適に用いることができるが、特にこれらに限定するものではない。また、シフト反応(一酸化炭素転化反応)に用いられる酸化鉄系触媒、酸化銅系触媒等を好適に用いることができるが、特にこれらに限定するものではない。さらに、ここで用いる触媒は、粉末であってもよいし、成型体であっても良い。粉末であれば粒径や表面積を、成型体であれば表面積と強度との兼ね合いで細孔容積、細孔径、形状等を適宜調整することが好ましい。その成型体の形態は球状、シリンダー状、リング状、ホイール状、タブレット状、ペレット状、フレーク状、粒状等いずれでもよく、さらに金属又はセラミックスのハニカム状基材へ触媒成分をコーティングしたもの等いずれでもよい。
【0027】
ここで、上記触媒は使用前に還元することが好ましいが、粗コークス炉ガス中に多量の水素が含まれるため反応中に還元が進行することから、還元しなくても良い。しかしながら、特に触媒が反応前に還元処理を必要とする場合、還元条件としては、比較的高温で且つ還元性雰囲気にするのであれば特に制限されるものではないが、例えば、水素、一酸化炭素、メタンの少なくともいずれかを含むガス雰囲気下、又はそれら還元性ガスに水蒸気を混合したガス雰囲気下、又はそれらのガスに窒素等の不活性ガスを混合した雰囲気下であっても良い。また、還元温度は、例えば500℃〜1000℃が好適であり、還元時間は充填する触媒量にも依存し、例えば30分〜8時間が好適であるが、充填した触媒全体が還元するのに必要な時間であればよく、特にこの条件に制限されるものではない。
【0028】
触媒反応器としては、触媒が粉末の場合には流動床形式や移動床形式等が、触媒が成型体であれば固定床形式や移動床形式等が好適に用いられ、その触媒層の入口温度としては、600〜1100℃であることが好ましい。触媒層の出口温度が600℃未満の場合は、触媒活性が殆ど発揮されず、目的とする水素富化ガスが得られないため好ましくない。一方、触媒層の入口温度が1100℃を超える場合は、反応器の耐熱構造化が必要になる等、改質装置が高価になるため経済的に不利となる。また、触媒層の入口温度は、600〜1000℃であることがより好ましい。
本発明の実施形態であるこのような高温コークス炉ガス処理装置によれば、コークス炉から発生するコークス炉ガスの圧力や流量の変動に対応し得る制御装置を具備するため、処理後の水素富化コークス炉ガスを安定に製造することができる。
【符号の説明】
【0029】
1 コークス炉窯
2 ヒーター付抽気管
3 開閉弁
4 緊急遮断弁
5 粗コークス炉ガス改質処理装置
6 加熱炉
7 ブリーダー弁
8 冷却装置
9 ブロワー
10 バイパス弁
11 水素富化コークス炉ガス貯留装置
12 水封弁
13 スプレー装置
14 ドライメーン
15 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コークス炉から抽気した高温の粗コークス炉ガスを抽気時にガスが保有する熱を触媒反応に利用して、粗コークス炉ガスをより高濃度の水素を含有するコークス炉ガスに改質するコークス炉ガス製造システムであって、
コークス炉と、
前記コークス炉に接続する抽気管と、
前記抽気管に接続する粗コークス炉ガス改質処理装置と、
前記コークス炉から発生するコークス炉ガスの圧力や流量の変動に対応して、前記コークス炉から前記粗コークス炉ガス改質処理装置に流通する粗コークス炉ガスの流れを制御する制御系と、
を含み、前記抽気管により前記コークス炉から前記粗コークス炉ガス改質処理装置に粗コークス炉ガスを流通させ、
前記粗コークス炉ガス改質処理装置は触媒を具備することを特徴とする水素富化コークス炉ガス製造システム。
【請求項2】
前記粗コークス炉ガス中の軽質炭化水素成分、及び、粗コークス炉ガスに随伴する重質炭化水素成分を前記触媒により改質することを特徴とする請求項1に記載の水素富化コークス炉ガス製造システム。
【請求項3】
前記触媒が、水蒸気改質触媒、二酸化炭素改質触媒、部分酸化改質触媒、及び、シフト触媒の群から選ばれる少なくとも1種類からなることを特徴とする請求項1または2に記載の水素富化コークス炉ガス製造システム。
【請求項4】
前記抽気管がヒーター付きであり、粗コークス炉ガスを600℃以上に保つことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の水素富化コークス炉ガス製造システム。
【請求項5】
前記抽気管の途中に前記粗コークス炉ガス改質処理装置内の圧力の異常な上昇を防止するためのブリーダー弁が設けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の水素富化コークス炉ガス製造システム。
【請求項6】
前記抽気管の途中に前記粗コークス炉ガス改質処理装置へ流入する粗コークス炉ガスの流量の変動を制御するための開閉弁、ブロワー、バイパス弁、並びにそれらを制御する制御装置が設けられていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の水素富化コークス炉ガス製造システム。
【請求項7】
前記コークス炉窯から水封弁を介してドライメーンに接続されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の水素富化コークス炉ガス製造システム。
【請求項8】
前記ヒーター付抽気管が、開閉弁を有し、内径が80mm以上であり、外径は1m未満であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の水素富化コークス炉ガス製造システム。
【請求項9】
前記ヒーター付抽気管がさらに緊急遮断弁を有することを特徴とする請求項8に記載の水素富化コークス炉ガス製造システム。
【請求項10】
前記粗コークス炉ガス改質処理装置に接続され、前記粗コークス炉ガス改質処理装置で処理された水素富化コークス炉ガスを冷却する冷却装置と、冷却された水素富化コークス炉ガスを貯留する水素富化コークス炉ガス貯留装置を有することを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の水素富化コークス炉ガス製造システム。

【図1】
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【公開番号】特開2012−246350(P2012−246350A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117344(P2011−117344)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「環境調和型製鉄プロセス技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】