説明

水素循環用ルーツ式ポンプ

【課題】ロータの中空部内に浸入した水を吸収して、ロータとロータ室とが凍結によって強固に貼り付くことを防止することができる水素循環用ルーツ式ポンプを提供すること。
【解決手段】ハウジングには駆動軸31及び従動軸35が支持されているとともに、ロータ室24が形成され、該ロータ室24内には駆動ロータ39及び従動ロータ40が収容されている。前記駆動ロータ39には駆動軸31の軸方向に沿った両端に開口する中空部50が形成され、従動ロータ40には従動軸35の軸方向に沿った両端に開口する中空部51が形成されている。そして、中空部50,51内にはフェルトFが収容されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータの回転によってロータ室内に吸入された水素ガスをロータ室外へ吐出する水素循環用ルーツ式ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、水素と酸素を反応させて発電する燃料電池システムでは、燃料電池にて使用されなかった未反応の水素ガス(所謂、水素オフガス)を前記燃料電池に再供給するための水素循環経路が設けられている。この水素循環経路には水素オフガスを搬送させるためのポンプが設けられている。
【0003】
前記水素循環用のポンプとしては、例えば、ルーツ式ポンプが用いられている。このルーツ式ポンプは、ハウジング内に形成されたロータ室に一対のロータが収容されてなる。前記一対のロータはそれぞれ回転軸に固定されており、回転時のロータの慣性モーメントを低減させ、前記回転軸に作用する負荷を低減させるために、各ロータには中空部が形成されている。そして、上記構成のルーツ式ポンプにおいて、モータの回転に伴い一対のロータが回転されると、水素オフガスが前記ロータ室内に吸入される。さらに、一対のロータの回転により、ロータ室内に吸入された水素オフガスはロータ室外へ吐出される。そして、ルーツ式ポンプのポンプ作用により搬送された水素オフガスは、新たに供給された水素ガスに混合されることにより、燃料電池に再供給される。
【0004】
しかし、上記燃料電池システムにおいては、燃料電池の発電に伴って生成された水は、水素オフガスと共に燃料電池から排出され、さらに、水素オフガスと共にロータ室内に導入される。すると、水素オフガス中の水分が、ロータの軸方向端面とロータ室(ハウジング)の内壁面との間隙からロータの中空部内に浸入する。そして、例えば、氷点下といった低温環境下で燃料電池システムが運転状態から停止されたとき、前記中空部内に水が残留していると、該水が凝縮して凍結してしまい、該凍結によりロータの軸方向端面とロータ室の内壁面とが貼り付いてしまう。ロータの軸方向端面と、ロータ室の内壁面とが貼り付いた場合は、燃料電池システムの運転再開時に、前記ロータの軸方向端面をロータ室の内壁面から引き剥がすために大トルクが必要となることから、ルーツ式ポンプにおいては、大トルクを発生可能とする大型のモータを搭載する必要が生じ、ルーツ式ポンプが大型化してしまっていた。
【0005】
そこで、前記中空部内に水が残留することを防止して該水が中空部内で凍結することを未然に防止することで、ロータの軸方向端面とロータ室の内壁面との貼り付きを防止する構成を備えたルーツ式ポンプが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1に開示されたルーツ型圧縮機(ルーツ式ポンプ)において、ロータの壁部であって、該ロータの軸方向端部には前記中空部とロータ室とを連通する連通部が形成されている。そして、中空部内に浸入した水は、ロータの回転によって連通部から中空部外へと排出される。その結果、特許文献1のルーツ型圧縮機においては、中空部内に水が残留することが防止され、該水の凍結によるロータの軸方向端面とロータ室の内壁面との強固な貼り付きが防止されるとされている。
【特許文献1】特開2005−155408号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に開示のルーツ型圧縮機において、ロータに前記連通部を形成した構成であっても、ロータの中空部内に浸入した水を前記連通部から中空部外へと完全に排出することができず、中空部内に水が残留してしまう場合がある。また、燃料電池システムが運転状態から停止された時点でロータの中空部内に水が残留していると、ロータの回転が停止されているため、前記連通部からは水が中空部外へと排出されず、該中空部内に水が残留したままとなってしまう。その結果として、上述したように水の凍結により、ロータの軸方向端面とロータ室の内壁面とが強固に貼り付いてしまうという問題があった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ロータの中空部内に浸入した水を吸収して、ロータとロータ室とが凍結によって強固に貼り付くことを防止することができる水素循環用ルーツ式ポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、燃料電池で使用されなかった水素ガスを、水素源から供給される水素ガスと合流させて前記燃料電池に供給可能な水素循環経路を備えた燃料電池システムの前記水素循環経路を構成する水素循環用ルーツ式ポンプであり、ハウジングには回転軸が支持されているとともに、ロータ室が形成され、該ロータ室内には山歯及び谷歯を有する一対のロータが互いに噛合可能に収容されており、前記回転軸の回転に伴うロータの回転よって前記ロータ室内に吸入した水素ガスを前記ロータ室外へ吐出する水素循環用ルーツ式ポンプであって、前記ロータには前記回転軸の軸方向に沿った両端に開口する中空部が形成され、該中空部内には吸水材が設けられている。
【0009】
これによれば、ロータの中空部内に浸入した水は、該中空部内にて吸水材に吸収されるため、中空部内や中空部におけるロータの開口側とロータ室の内壁面との間に水が溜まることが抑制される。このため、ロータの軸方向に沿った端面とロータ室の内壁面との間に多量の水が残留することを抑制することができる。したがって、例えば、低温環境下で燃料電池システムが運転状態から停止され、放置されたとしても水は吸水材内で凍結することとなり、ロータの軸方向に沿った端面とロータ室の内壁面との間での水の凍結量をゼロ又は極僅かとし、ロータの軸方向に沿った端面とロータ室の内壁面とが強固に貼り付くことを防止することができる。
【0010】
また、前記中空部を形成するロータの内面のうち前記山歯側に位置する内面と、前記吸水材との間には空隙が形成されていてもよい。
これによれば、ロータの回転によって吸水材から遠心分離された水は、その遠心力によりロータの山歯側に向けて送り出される。このとき、ロータの内面における山歯側と吸水材との間には空隙が形成されているため、遠心分離された水が吸水材に再吸収されることを防止することができ、吸水材から遠心分離された水を開口からロータ外へ効率良く排出することができる。
【0011】
また、前記空隙を形成するロータの内面には、前記回転軸の軸方向に沿った前記中空部の全長に亘って前記開口まで斜状に延びる傾斜部が形成されていてもよい。
これによれば、ロータの回転によって吸水材から遠心分離され、さらに、遠心力により空隙へ送り出された水を、傾斜面の傾斜によって開口に向けて流下させることができる。したがって、吸水材から遠心分離された水を効率良くロータ外へ排出することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ロータの中空部内に浸入した水を吸収して、ロータとロータ室とが凍結によって強固に貼り付くことを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を燃料電池システムの水素循環用ルーツ式ポンプに具体化した一実施形態を図1〜図3に従って説明する。まず、燃料電池システム10は、図2に示すように、燃料電池11、酸素供給手段12、水素供給手段13を備えている。燃料電池11は、例えば固体高分子型の燃料電池からなり、酸素供給手段12から供給される酸素と、水素供給手段13から供給される水素とを反応させて直流の電気エネルギー(直流電力)を発生する(発電する)。前記酸素供給手段12は、圧縮空気を供給するためのコンプレッサ14を備え、コンプレッサ14は酸素供給ポート(図示せず)に管路15を介して連結され、管路15の途中に加湿器16が設けられている。
【0014】
前記水素供給手段13は、燃料電池11で使用されなかった水素ガス(いわゆる水素オフガス)を循環使用するための水素循環用ルーツ式ポンプ17(以下、単にルーツ式ポンプ17と記載する)を備えている。すなわち、このルーツ式ポンプ17は、燃料電池11で使用されなかった水素オフガスを燃料電池11へと再び供給するために設けられている。ルーツ式ポンプ17は燃料電池11の水素供給ポート(図示せず)に管路18を介して連結され、燃料電池11の水素排出ポート(図示せず)に管路19を介して連結されている。また、水素供給手段13は、水素源(水素ガス供給源)としての水素タンク20を備えている。水素タンク20は途中にレギュレータ(図示せず)を備えた管路21を介して管路18に連結されている。そして、ルーツ式ポンプ17及び管路18,19により、燃料電池11で使用されなかった水素オフガスを水素タンク20から新たに供給される水素ガスとともに燃料電池11に供給可能な水素循環経路が構成されている。
【0015】
次に、ルーツ式ポンプ17について具体的に説明する。なお、以下の説明においてルーツ式ポンプ17の「前」「後」は、図1に示す矢印Yの方向を前後方向とする。
図1に示すように、本実施形態のルーツ式ポンプ17のハウジングは、ポンプハウジングPと、モータハウジングMとから構成されている。前記ポンプハウジングPは、ロータハウジング22の後端(図1では右端)に軸支部材23が接合固定され、さらに、前記軸支部材23の後面(図1では右面)にギアハウジング25が接合固定されて形成されている。そして、ポンプハウジングPにおいて、ロータハウジング22と軸支部材23との間にロータ室24が囲み形成されている。なお、前記ロータ室24において、前記ロータハウジング22の内面と軸支部材23の内面は、ロータ室24の内壁面Hを形成している。また、ギアハウジング25と軸支部材23との間にギア室26が囲み形成されている。前記モータハウジングMは、前記ロータハウジング22の前端(図1では左端)に仕切壁28を介して接合固定されて形成されている。そして、仕切壁28とモータハウジングMとの間にモータ室29が囲み形成され、このモータ室29内には図示しない電動モータが収容されている。
【0016】
ハウジングにおいて、前記モータハウジングMと、ロータハウジング22と、軸支部材23とには、回転軸たる駆動軸31がベアリング32を介して回転可能に支持されている。さらに、ロータハウジング22と、前記軸支部材23とには、前記駆動軸31と平行をなす回転軸たる従動軸35がベアリング36を介して回転可能に支持されている。
【0017】
図1及び図3に示すように、前記ロータ室24内において、駆動軸31にはロータとしての駆動ロータ39が取付固定され、従動軸35にはロータとしての従動ロータ40が取付固定されている。なお、駆動ロータ39において駆動軸31の軸方向に沿った方向を駆動ロータ39の軸方向とし、従動ロータ40において従動軸35の軸方向に沿った方向を従動ロータ40の軸方向とする。
【0018】
駆動ロータ39及び従動ロータ40は、前記駆動ロータ39及び従動ロータ40の軸方向に直交する断面視が、双葉状(瓢箪状)に形成された二葉型のロータである。そして、駆動ロータ39には二条の山歯41が形成され、両山歯41の間には谷歯42が形成されている。また、従動ロータ40には二条の山歯43が形成され、両山歯43の間には谷歯44が形成されている。なお、駆動ロータ39において、両山歯41の頂端を通り、かつ、前記駆動軸31の中心点を通る仮想線L1の延びる方向を、駆動ロータ39の長径方向とし、従動ロータ40において、両山歯43の頂端を通り、かつ、従動軸35の中心点を通る仮想線L2の延びる方向を、従動ロータ40の長径方向とする。
【0019】
上記構成の駆動ロータ39の山歯41は従動ロータ40の谷歯44に僅かなクリアランスを保って噛合するようになっており、従動ロータ40の山歯43は駆動ロータ39の谷歯42に僅かなクリアランスを保って噛合するようになっている。そして、ロータ室24内において、駆動ロータ39と従動ロータ40とは、山歯41と谷歯44、及び谷歯42と山歯43とが僅かなクリアランスを保って互いに噛合可能に収容されている。また、駆動ロータ39において、該駆動ロータ39の軸方向の両端面と、ロータ室24の内壁面Hとの間、すなわち、駆動ロータ39の前端面39aとロータ室24の内壁面Hとの間、駆動ロータ39の後端面39bとロータ室24の内壁面Hとの間には、僅かな隙間Tが形成されている。
【0020】
また、従動ロータ40において、該従動ロータ40の軸方向の両端面と、ロータ室24の内壁面Hとの間、すなわち、従動ロータ40の前端面40aとロータ室24の内壁面Hとの間、従動ロータ40の後端面40bとロータ室24の内壁面Hとの間には、僅かな隙間Tが形成されている。前記隙間Tは、駆動ロータ39の前後両端面39a,39bとロータ室24の内壁面H、及び従動ロータ40の前後両端面40a,40bとロータ室24の内壁面Hとが摺接して焼付等が生じることを防止するとともに、水素オフガスの漏れをより小さくするために小さな隙間Tとなっている。
【0021】
図3に示すように、ロータハウジング22には、前記燃料電池11から排出された水素オフガスを管路19からロータ室24内へ吸入するための吸入ポート24aが形成されている。また、ロータハウジング22において、前記吸入ポート24aと対向する位置には、駆動ロータ39及び従動ロータ40の回転運動により水素オフガスをロータ室24から管路18へ吐出するための吐出ポート24bが形成されている。また、前記ギア室26内において、駆動軸31の後部に固定された駆動ギア45aと従動軸35の後部に固定された従動ギア45bとは噛合連結されている(図1参照)。
【0022】
そして、上記構成のルーツ式ポンプ17では、前記電動モータの回転駆動に基づき駆動軸31が回転すると、駆動ギア45aと従動ギア45bとの噛合連結を通じて従動軸35が駆動軸31とは異なる方向へ回転する。すると、ロータ室24内では、駆動ロータ39と従動ロータ40とが回転する。
【0023】
燃料電池11から排出された水素オフガスは、駆動ロータ39と従動ロータ40の回転に伴い管路19を介して吸入ポート24aからロータ室24内へ吸入される。その後、駆動ロータ39及び従動ロータ40の外面と、ロータ室24の内面とが協働することにより、ロータ室24内に吸入した水素オフガスはロータ室24の吐出ポート24b側へ送り出され、該吐出ポート24bからロータ室24外の管路18へ吐出される。その後、管路18へ吐出された水素オフガスは、水素タンク20から新たに供給される水素ガスとともに管路18から燃料電池11に再供給される。
【0024】
次に、前記駆動ロータ39及び従動ロータ40について詳細に説明する。
図1及び図3に示すように、駆動ロータ39の長径方向に沿った両山歯41側には、駆動ロータ39の軸方向に貫通して中空部50が形成され、従動ロータ40の長径方向に沿った両山歯43側には、従動ロータ40の軸方向に貫通して中空部51が形成されている。該中空部50,51は、駆動ロータ39及び従動ロータ40の軸方向に直交する断面視が、略円状をなすように形成されている。前記中空部50は駆動ロータ39の軸方向に沿う両端面(前端面39a及び後端面39b)が開口するように形成され、中空部51は従動ロータ40の軸方向に沿う両端面(前端面40a及び後端面40b)が開口するように形成されている。
【0025】
前記中空部50,51内には、それぞれ吸水材としてのフェルトFが収容されている。このフェルトFは、多孔性の軟質材であって吸水性を有し、かつ、軽量なものである。前記フェルトFは、駆動ロータ39の中空部50において、該中空部50における駆動軸31側から山歯41の先端に向かって駆動ロータ39の内周面に接合されている。また、前記フェルトFは、従動ロータ40において、該中空部51における従動軸35側から山歯43の先端に向かって従動ロータ40の内周面に接合されている。なお、フェルトFは、接着剤又はボルトによって駆動ロータ39の内周面及び従動ロータ40の内周面に接合されている。
【0026】
また、駆動ロータ39の中空部50内において、その長径方向に沿った両山歯41側に位置する駆動ロータ39の内周面(内面)と、フェルトFにおける両山歯41側との間には空隙Nが形成され、該空隙Nを介してフェルトFと、山歯41側の駆動ロータ39の内周面(内面)とは互いに離間している。一方、従動ロータ40の中空部51内において、その長径方向に沿った両山歯43側に位置する従動ロータ40の内周面(内面)と、フェルトFにおける山歯43側との間には空隙Nが形成され、該空隙Nを介してフェルトFと、山歯43側の従動ロータ40の内周面(内面)とは互いに離間している。
【0027】
前記空隙Nを形成する駆動ロータ39の内周面(内面)は、駆動ロータ39の軸方向に沿った中間位置から前後両開口に向かって徐々に拡径するように形成され、中空部51を形成する従動ロータ40の内周面(内面)は、従動ロータ40の軸方向に沿った中間位置から両開口に向かって徐々に拡径するように形成されている。すなわち、空隙Nを形成する駆動ロータ39の内周面(内面)には、駆動ロータ39の軸方向に沿った中間位置から前後両開口に向かって斜状に傾斜する傾斜部としての傾斜面50aが形成され、該傾斜面50aは駆動軸31の軸方向に沿った中空部50の全長に亘って延びるように形成されている。また、空隙Nを形成する従動ロータ40の内周面(内面)には、従動ロータ40の軸方向に沿った中間位置から両開口に向かって斜状に傾斜する傾斜部としての傾斜面51aが形成され、該傾斜面51aは従動軸35の軸方向に沿った中空部51の全長に亘って延びるように形成されている。
【0028】
さらに、フェルトFは、駆動ロータ39の前後両端面39a,39b、及び従動ロータ40の前後両端面40a,40bと面一となる状態で中空部50,51内に収容されている。このため、駆動ロータ39内に収容されたフェルトFにおいて、駆動軸31の軸方向に沿った前後両端と内壁面Hとの間には隙間Tが形成され、従動ロータ40内に収容されたフェルトFにおいて、従動軸35の軸方向に沿った前後両端と内壁面Hとの間には隙間Tが形成されている。
【0029】
さて、燃料電池システム10が運転状態にあり、上記構成のルーツ式ポンプ17が運転状態にあるときには、燃料電池11から排出された水を含む水素オフガスは、管路19を介して吸入ポート24aからロータ室24内へ吸入され、吐出ポート24bより吐出される。その際、水素オフガスに含まれる水分の一部は、前記隙間Tを介して中空部50,51内へ入り込んでいく。ここで、中空部50,51内にはフェルトFが収容されているため、中空部50,51内に入り込んだ水は該フェルトFに吸収される。仮に、ルーツ式ポンプ17が、その前側が後側より低くなるように傾斜配置され、水が中空部50,51の前側へ流下してもフェルトFに吸収される。そして、フェルトFに吸収された水は該フェルトF全体に亘って浸透され、中空部50,51内に水が水滴状態で溜まることが防止される。また、中空部50,51内や中空部50,51における駆動ロータ39及び従動ロータ40の開口側とロータ室24の内壁面Hとの間に水が水滴状態で溜まることが防止される。
【0030】
そして、低温環境下(氷点下)にて燃料電池システム10が運転状態から停止され、駆動ロータ39及び従動ロータ40が停止したとき、中空部50,51内に残留した水はフェルトFに吸収されているため、該フェルトF内で凍結する。その結果、低温環境下にて、駆動ロータ39の前後両端面39a,39bと内壁面Hとの間、及び従動ロータ40の前後両端面40a,40bと内壁面Hとの間での水の凍結量をゼロ又は極僅かとすることができる。すなわち、水が凍結したとしても水量が少ないことからその氷滴を小さくすることができる。その結果、水の凍結により、駆動ロータ39の前後両端面39a,39bと内壁面H、及び従動ロータ40の前後両端面40a,40bと内壁面Hとが強固に貼り付くことを防止することができる。したがって、前記低温環境下(氷点下)で燃料電池システム10の運転を再開させたとしても、各ロータ39,40を内壁面Hから引き剥がす力がゼロ又は極僅かで済み、該引き剥がしのために電動モータに大トルクを発生させる必要もない。
【0031】
また、停止状態にある燃料電池システム10が常温環境に戻った場合には、フェルトF内の氷が融けて水となる。そして、この常温環境下で燃料電池システム10の運転を再開させたとき、フェルトFに吸収されている水は、駆動ロータ39及び従動ロータ40の回転により遠心力を受け、フェルトFよりも山歯41,43側へ向けて送り出され、空隙Nに向かって送り出される。そして、空隙Nへ送り出された水は、遠心力と、傾斜面50a,51aの傾斜により駆動ロータ39の前端面39a及び後端面39b側、及び従動ロータ40の前端面40a及び後端面40b側へ流下していく。そして、駆動ロータ39及び従動ロータ40の回転状態では、中空部50,51の各開口から駆動ロータ39及び従動ロータ40外へ水が排出される。
【0032】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)駆動ロータ39の中空部50内及び従動ロータ40の中空部51内にフェルトFを収容し、該フェルトFによって中空部50,51内の水を吸収させる構成とした。このため、駆動ロータ39及び従動ロータ40と、ロータ室24の内壁面Hとの間に水滴状態で残留する水量をゼロ又は極僅かとすることができる。したがって、低温環境下(氷点下)で燃料電池システム10が運転を停止したとき、水滴(水)の凍結によって、駆動ロータ39の前後両端面39a,39bと内壁面Hとの間、及び従動ロータ40の前後両端面40a,40bと内壁面Hとが強固に貼り付くことを防止することができる。その結果として、燃料電池システム10の運転再開時に、ロータ39,40を内壁面Hから引き剥がすために電動モータに大トルクを発生させることを必要とせず、該大トルクを発生させるために電動モータを大型化する必要もなくなる。したがって、低温環境下で用いられるルーツ式ポンプ17であっても体格の大型化を抑制することができる。
【0033】
(2)駆動ロータ39及び従動ロータ40の内周面と、フェルトFとの間には空隙Nが形成されている。このため、燃料電池システム10の常温運転時には、フェルトFに吸収された水が遠心分離されたとき、その水を空隙Nに向けて送り出すことができる。そして、空隙Nに送り出された水は、中空部50,51の開口から駆動ロータ39及び従動ロータ40の外部へ排出することができる。したがって、中空部50,51内に残留する水量を極僅かとし、水の凍結によって駆動ロータ39及び従動ロータ40と内壁面Hとが強固に貼り付く可能性を低くすることができる。
【0034】
(3)空隙Nを形成する駆動ロータ39及び従動ロータ40の内周面には、傾斜面50a,51aが形成されている。そして、フェルトFから遠心分離され、空隙Nへ送り出された水を傾斜面50a,51aによって中空部50,51の開口側に向けて流下させることができる。したがって、例えば、傾斜面50a,51aが形成されず、空隙Nを形成する駆動ロータ39及び従動ロータ40の内周面が、駆動軸31及び従動軸35の軸方向に平行な場合に比して、中空部50,51内の水の駆動ロータ39及び従動ロータ40外への排水性を高めることができる。
【0035】
(4)フェルトFは、中空部50,51内における駆動軸31側、及び従動軸35側に偏って収容され、空隙Nは山歯41,43側に偏って形成されている。すなわち、空隙Nは、フェルトFに吸収された水が遠心分離によって分離する方向に形成されている。したがって、例えば、フェルトFが中空部50,51内における駆動軸31及び従動軸35側に収容されている場合のように、遠心分離された水が再びフェルトFに吸収されることを抑制することができる。その結果として、駆動ロータ39及び従動ロータ40の回転によりフェルトFに吸収された水を遠心分離し、その水を効率良く駆動ロータ39及び従動ロータ40外へ排出することができる。
【0036】
なお、本実施形態は以下のように変更してもよい。
○ 実施形態において、傾斜面50a,51aを削除し、空隙Nを形成する駆動ロータ39及び従動ロータ40の内周面の壁面を駆動軸31及び従動軸35の軸方向に平行をなすように形成してもよい。
【0037】
○ 実施形態において、駆動ロータ39及び従動ロータ40の両中空部50,51を、それぞれ駆動ロータ39及び従動ロータ40の前端面39a,40a側の開口から後端面39b,40b側の開口に向かって縮径するテーパ状に形成してもよい。又は、逆に、両中空部50,51を、それぞれ駆動ロータ39及び従動ロータ40の後端面39b,40b側の開口から前端面39a,40a側の開口に向かって縮径するテーパ状に形成してもよい。
【0038】
○ 実施形態において、傾斜部として、空隙Nを形成する駆動ロータ39及び従動ロータ40の内周面に、中空部50,51の両開口に向かって斜状に延びる傾斜溝を形成してもよい。
【0039】
○ 実施形態において、フェルトFの内側(中空部50における駆動軸31側又は中空部51における従動軸35側)にも空隙Nが設けられていてもよい。
○ 実施形態において、中空部50,51内全体にフェルトFを収容し、駆動ロータ39及び従動ロータ40を中空部50,51内に空隙Nを形成しない構成としてもよい。
【0040】
○ 実施形態において、吸水材としてフェルトFの代わりに、スポンジ、脱脂綿といった軟質多孔材を用いてもよい。
○ 実施形態において、三葉以上の多葉状の駆動ロータ39及び従動ロータ40を用いたルーツ式ポンプ17としてもよい。
【0041】
○ 実施形態において、駆動ロータ39及び従動ロータ40を駆動軸31及び従動軸35の軸方向に複数個、取付固定した多段式のルーツ式ポンプ17としてもよい。
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について以下に追記する。
【0042】
(1)燃料電池に酸素と水素を供給し、発電させる燃料電池システムにおいて、前記燃料電池にて酸素と反応しなかった水素を、請求項1〜請求項3のうちいずれか一項に記載の水素循環用ルーツ式ポンプを用いて前記燃料電池に再び供給することを特徴とする燃料電池システム。
【0043】
(2)前記傾斜部は、前記ロータにて前記回転軸の軸方向における中間位置からロータの両端側の開口に向けてそれぞれ傾斜して形成されている請求項3に記載に水素循環用ルーツ式ポンプ。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】水素循環用ルーツ式ポンプの断面図。
【図2】燃料電池システムの構成図。
【図3】図1の3−3線断面図。
【符号の説明】
【0045】
F…吸水材としてのフェルト、M…ハウジングを構成するモータハウジング、N…空隙、P…ハウジングを構成するポンプハウジング、10…燃料電池システム、11…燃料電池、17…水素循環経路を構成する水素循環用ルーツ式ポンプ、18,19…水素循環経路を構成する管路、20…水素源としての水素タンク、24…ロータ室、31…回転軸としての駆動軸、35…回転軸としての従動軸、39…ロータとしての駆動ロータ、40…ロータとしての従動ロータ、41,43…山歯、42,44…谷歯、50,51…中空部、50a,51a…傾斜部としての傾斜面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池で使用されなかった水素ガスを、水素源から供給される水素ガスと合流させて前記燃料電池に供給可能な水素循環経路を備えた燃料電池システムの前記水素循環経路を構成する水素循環用ルーツ式ポンプであり、
ハウジングには回転軸が支持されているとともに、ロータ室が形成され、該ロータ室内には山歯及び谷歯を有する一対のロータが互いに噛合可能に収容されており、前記回転軸の回転に伴うロータの回転よって前記ロータ室内に吸入した水素ガスを前記ロータ室外へ吐出する水素循環用ルーツ式ポンプであって、
前記ロータには前記回転軸の軸方向に沿った両端に開口する中空部が形成され、該中空部内には吸水材が設けられていることを特徴とする水素循環用ルーツ式ポンプ。
【請求項2】
前記中空部を形成するロータの内面のうち前記山歯側に位置する内面と、前記吸水材との間には空隙が形成されている請求項1に記載の水素循環用ルーツ式ポンプ。
【請求項3】
前記空隙を形成するロータの内面には、前記回転軸の軸方向に沿った前記中空部の全長に亘って前記開口まで斜状に延びる傾斜部が形成されている請求項2に記載の水素循環用ルーツ式ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−162628(P2007−162628A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−362243(P2005−362243)
【出願日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】