説明

水素源不純物に対する抗被毒特性に優れた水添触媒及びその製造方法

【解決課題】芳香族の水添反応で利用する水素源として、たとえ硫黄化合物や一酸化炭素等の金属触媒の被毒成分が含まれている低品位の水素を利用した場合であっても、これら触媒被毒物質、特に硫黄化合物に対して高い抗毒性を有し、これによって触媒被毒物質を除去する負荷を低減することができる芳香族の水添触媒及びその製造方法を提供する。
【解決手段】金属酸化物からなる触媒担体に、ニッケル(Ni)を金属換算で10〜40重量%の割合で担持させると共に、第二触媒金属のタングステン酸(WO3)又はモリブデン酸(MoO3)が5〜30%添加されている水添触媒であり、触媒担体が表面積、細孔容積、平均細孔径、及び全細孔容積に対して平均細孔径±30Åの細孔が占める割合において所定の物理性状を有すると共に、0.1〜3.0重量%の硫黄分を含む硫黄含有触媒担体であり、水素源不純物に対する抗被毒特性に優れた水添触媒及びその製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベンゼン、トルエン、ナフタレン等の芳香族の水素化反応に供する水添触媒、及びその製造方法に関する。具体的には、ベンゼンからのシクロヘキサン製造、トルエンからのメチルシクロヘキサン製造、ナフタレンからのデカリン製造等の芳香族の水素化反応に際して、水素源として触媒の被毒物質となる硫黄化合物及び/又は一酸化炭素を含む低品位な水素を水素源として用いる芳香族の水素化反応用の水添触媒及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機化合物の水素化反応は一般に水添反応と呼ばれ、芳香族の水添反応はシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、デカリン等の工業的な製造方法として古くから実用化されている。特に、シクロヘキサンがナイロンの原料となるε-カプロラクタムやアジピン酸の原料となることが見出されたことによって、シクロヘキサンの需要は急増し、平成13年時点で国内生産量は約70万トン/年にのぼり、90%以上はナイロン原料向け、残りの大半はアジピン酸原料向けに消費されている。
【0003】
これらの工業的な芳香族の水添反応は、「石油化学プロセス」石油学会編(2001)(非特許文献1)や、「プロセスハンドブック」石油学会編(1986)(非特許文献2)等に紹介されている。いずれのプロセスも特段の高温、高圧の条件を必要とせずに、反応温度250℃以下、反応圧力も10〜20気圧程度の比較的に穏和な条件で行われている。また、製品の純度は99%以上の高純度であり、収率も97〜100%と極めて高い生産性を有するプロセスとして高度に確立されており、水素源としては、硫黄分や一酸化炭素等の触媒被毒成分を含まない高純度の水素源(高品位水素)が利用されている。
【0004】
代表的な芳香族の水添反応プロセスとしては、トルエンを原料としたメチルシクロヘキサンの製造、ベンゼンを原料としたシクロヘキサンの製造及びナフタレンを原料としたデカリンの製造プロセスが挙げられる。ここで、トルエン、ベンゼンの水添反応は3モルの水素が芳香環に付加される反応であり、2環の芳香族であるナフタレンの水添反応は5モルの水素が付加される水添反応となる。また、これらの水添反応は発熱反応であり、3モルの水素が付加するトルエン、シクロヘキサンの水添反応時の反応熱は、205kJ/mol、206kJ/mol、5モルの水素が付加するナフタレンの水添反応熱は332kJ/molとなる。
【0005】
このように水添反応においては、大きな発熱を伴う反応であることから、反応熱による反応温度の上昇、反応の暴走等を防止するために、原料の水素は窒素等の不活性ガスで希釈して導入することによって反応が制御されている。また、発熱反応によって発生した熱は、原料の予熱等のプロセスに必要なエネルギーとして有効利用されるほか、余剰分は回収利用されている。従って、ラボ等で少量の触媒を用いて水添反応を行う場合は、発熱反応による温度上昇を防ぐために、触媒をガラスビーズ等の希釈剤と混合して反応を行う場合が多い。
【0006】
メチルシクロヘキサンは、主として低毒性の工業溶剤として利用されており、年間の国内需要量が約4,000トン/年程度であり、ベンゼンの水添プロセスと同様のプロセスであることから、シクロヘキサン製造プロセスの原料をトルエンに変更して製造される場合が多い。また、ナフタレンの水添によるデカリン製造は、液相反応の条件で実施され、主としてアロマフリーの工業溶剤として利用されており、年間の国内生産量は約500トン/年である。
【0007】
一方、近年の水素エネルギー利用を目指した技術開発においては、安価に水素を貯蔵・輸送する方法の確立が急がれており、各種の水素貯蔵媒体の研究開発が精力的に実施されている(非特許文献3参照)。これら開発中の水素貯蔵・輸送技術の一つに有機ケミカルハイドライド法がある(非特許文献4参照)。
【0008】
この方法は、上記の芳香族の水添反応によって、最も軽い気体である水素を化学反応でトルエン等の芳香族に固定することによって、常温・常圧で液体のメチルシクロヘキサン等の有機ケミカルハイドライドに転換し、この有機ケミカルハライドの形で水素の使用場所へ輸送すると共にこの使用場所で貯蔵し、また、この使用場所で脱水素反応を行って水素を生成させると共に利用し、脱水素反応で生成したトルエン等の芳香族は回収・再利用する方法である。ガソリンの成分であるトルエンやメチルシクロヘキサンを利用するので、水素の貯蔵輸送をガソリンと同様の取り扱いとすることができるほか、既存のガソリン流通のインフラを転用できるというメリットのある方法である。
【0009】
この方法は、1980年から約15年間にわたってカナダの安価な水力電力で製造した水素を海上輸送してヨーロッパに輸出するユーロ・ケベック計画のなかでメチルシクロヘキサン(MCH)法として検討された経緯があるが、当時は安定して水素を発生させる脱水素触媒が開発されていなかったので実施化までには至らず、また、現在でも技術的に確立されていない方法である。しかしながら、特許第4,142,733号公報(特許文献1参照)には、懸案であった脱水素触媒の炭素析出を克服する脱水素触媒とその製造方法を開示されており、近年では、この方法を確立できる脱水素触媒の開発が次第に進んでいることが紹介されている(非特許文献5参照)。
【0010】
前述のように、高品位な純度の高い水素を水素源として利用する芳香族の水添反応は既に工業化されており、有機ケミカルハイドライド法による水素貯蔵輸送システムにおいても、高品位な水素を輸送する場合は、既存の芳香族水添プロセスを適用することで実用化が可能である。
【0011】
ところで、日本では年間約300億Nm3の水素が利用されており、その6割は石油精製に使用されている。これらの水素は、製油所内の水素製造装置によって製造され、石油精製における接触分解、接触改質、水素化脱硫プロセスに利用されている。また、これらの水素製造装置は、1980年代までに建設されたものが多く、水素利用プロセスの効率化によって水素消費量が低減された結果、国内の水素製造装置の稼働率は60%程度にまで低減されている。従って、石油業界は今後の水素需要に応じて、水素製造装置の稼働率を上げることで約64億Nm3の高純度水素を供給できる能力を有している。
【0012】
他の高品位水素源としては、食塩電解の際に生じる副生水素が挙げられる。しかしながら、年間水素発生量は約12億Nm3程度と少なく、このうち外販されている水素量は約15%に相当する1.8億Nm3にとどまっており、ほとんどが燃料として自家消費されている。
【0013】
一方、水素源としては、上述した高品位な純度の高い水素の水素源だけでなく、低品位で純度の低い水素の水素源も存在する。
例えば、上述した製油所においては、水素製造装置によって製造された高品位水素が使用されているほか、石油精製における接触分解、接触改質、水素化脱硫プロセスに利用された後のブリードガスにも相当量の水素が含まれており、現在では燃料として自家消費されている。
【0014】
また、製鉄所においても、コークス製造工程、鉄鉱石とコークスから銑鉄を製造する工程、及び銑鉄を転炉で鋼に精錬する各工程において水素を多く含む副生ガスが発生する。例えば、石炭類をコークス炉で乾留してコークスを製造する際に回収されるコークス炉ガス(COG)には約55%の水素が含まれており、また、高炉における銑鉄の製造工程で副生する高炉ガスや、転炉にて精錬を行う際に発生する転炉ガス中には約3%の水素が含まれている。このように、製鉄所で発生する副生ガス中の水素はそのほとんどがコークス炉ガス中に存在しており、また、日本で利用されている水素の4割に相当する水素がこれらの製鉄所で発生する水素である。
【0015】
これら製油所のブリードガスや製鉄所の副生ガスには、触媒の被毒物質となる硫化水素や一酸化炭素が多く含まれているため、これを再度水素源として利用するためには、これらの硫黄分や一酸化炭素を分離して精製する必要がある。しかしながら、これらの低品位な水素源は比較的に大量に存在し、製油所のブリードガス中の水素量は年間約30億Nm3であって、コークス炉ガス中の水素量は年間約78億Nm3であるといわれている。
【0016】
これらの低品位水素を回収して再利用する場合は、固体分等を除去する前処理後に、PSAプロセスを用いて精製され、更に脱酸素工程を経て高純度水素を製造する場合が多いが、水素回収率やスケールアップの制約等から経済性が成立する場合が少なく、このことが低品位水素を単に燃料として消費する大きな要因である。従って、これらの低品位な水素源を再利用する際の負荷を軽減して、芳香族の水添反応を行うことができる触媒の開発は、石油業界における水素利用の観点から大きな意義を有する。
【0017】
特開昭62-215,540号公報(特許文献2)は、コークス炉ガス中の水素をベンゼンと反応させてシクロヘキサンを製造する方法として、コークス炉ガス中の硫黄化合物を1ppm以下に低下させた後に、シフト反応によってガス中の一酸化炭素濃度を1%以下に低減させてベンゼンと反応させることを特徴とするコークス炉ガス中の水素を用いるシクロヘキサンの製造方法を開示していると共に、ニッケルを活性金属とするベンゼン等の芳香族を水添する触媒は、一酸化炭素の濃度を1%以下とすることで反応の転化率が影響を受けないことを開示している。
【0018】
また、特開2003-277,003号公報(特許文献3)は、硫黄分の濃度が50ppm以下であるナフタレンを主とする原料を用いて、水素濃度が20〜80容積%である水素リッチなガスを用いた水添反応によってデカリンを製造し、これを脱水素反応に供して高純度の水素を製造する方法を開示しており、実施例として硫黄分を15ppmに水素化精製したナフタレンと水素純度70%、窒素濃度30%のガスとをパラジウム担持活性炭を触媒に用いて水添反応を行う例が開示されている。
【0019】
更に、特開2004-277,250号公報(特許文献4)は、同様に水素を含有する混合ガス中の水素を芳香族化合物と水添反応させた後に、脱水素反応によって水素を取り出す方法について開示しているが、混合ガスと反応させるナフタレン類としては脱硫処理したものが好ましく、硫黄濃度が100ppm以下、より好ましくは10ppm以下とすることが望ましいとして、その実施例では精製ナフタレン(硫黄濃度10 ppm)と脱硫処理したコークス炉ガス(硫黄濃度10 ppm)とをラネーニッケルを触媒に用いて水添反応を行う例が開示されている。
【0020】
上記のように、従来の技術による副生ガス等の水素含有ガス中の水素を用いて、芳香族化合物の水添反応を行う場合は、金属触媒の被毒物質となる硫黄分や一酸化炭素の存在が問題であり、特に反応系内の硫黄分については、その濃度を100ppm以下、より好ましくは10ppm以下、更に好ましくは1ppm以下とする処理を行った後に水添反応を行うことが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特許第4,142,733号公報
【特許文献2】特開昭62-215,540号公報
【特許文献3】特開2003-277,003号公報
【特許文献4】特開2004-277,250号公報
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】「石油化学プロセス」、石油学会編、p.94(2001)
【非特許文献2】「プロセスハンドブック」、石油学会編、p.141(1986)
【非特許文献3】「よくわかる水素技術」、日本工業出版、p.80 (2008)
【非特許文献4】「水素貯蔵材料 有機ハイドライドを利用する水素貯蔵・供給システムの特徴と将来性」、梅沢順子、ペトロテック、vol.29、No.4, 253-257 (2006)
【非特許文献5】「グローバルな水素サプライチェーン構想と有機ケミカルハイドライド法水素貯蔵・輸送システムの開発」、岡田佳巳、斉藤政志、恩田信博、坂口順一、水素エネルギーシステムvol.33, No.4, p.8(2008)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
ところで、芳香族の水添触媒としては、アルミナやシリカアルミナ等の担体にニッケルを担持した触媒が最も代表的であり、この理由は貴金属ほど分解活性が高くなく、安価な金属であることが挙げられる。しかしながら、貴金属やニッケルを始めとする遷移金属類は硫黄化合物と反応して硫化物を生成することから、硫黄化合物は触媒の被毒物質となる場合が極めて多い。また、金属硫化物は分解しづらく、化学反応プロセスとしては最も高い温度領域で実施されるリフォーミング反応においても硫黄化合物は触媒に対して非常に強い被毒物質であることが知られている。
【0024】
また、一酸化炭素(CO)もニッケル等の金属とカルボニル化合物を生成することが知られており、硫黄化合物と同様に代表的な金属触媒の被毒物質となる。しかしながら、カルボニル化合物は高温条件や水素リッチな条件では分解して一酸化炭素(CO)を生成するほか、ニッケル触媒の存在下では一酸化炭素(CO)と水素(H2)が反応してメタン(CH4)を生成するメタネーション反応が進行する。従って、メタネーション反応が進行する反応条件下では、低濃度の一酸化炭素(CO)は硫黄化合物ほどの被毒効果はなく、一般に1%程度以下であれば芳香族の水添反応に問題が少ないことが知られている。
【0025】
そこで、本発明者らは、製鉄所や製油所における化石燃料由来の水素を含有する副生ガス、廃プラスティック等の炭化水素由来の水素を含有する混合ガス、あるいはバイオ原料由来の水素を含有する混合ガス等に由来する低品位水素源を用いても芳香族類の水添反応を可能にし、これによって硫黄分や一酸化炭素を除去する負荷を軽減することができる水添触媒を開発すべく鋭意検討した結果、触媒担体として所定の物理性状を有すると共に硫黄分を所定の割合で含む硫黄含有触媒担体に、活性金属としてニッケルを所定の割合で担持させると共に触媒の第二成分を担持させることにより、目的を達成できることを見い出し、本発明を完成した。
【0026】
従って、本発明の目的は、トルエン、ベンゼン、ナフタレン等の芳香族の水素化反応によってメチルシクロヘキサン、シクロヘキサン、デカリン等を製造する芳香族の水添反応で利用する水素源として、たとえ硫黄化合物や一酸化炭素等の金属触媒の被毒成分が含まれている低品位の水素を利用した場合であっても、これら硫黄化合物や一酸化炭素等の触媒被毒物質、特に触媒に対して非常に強い被毒作用を有する硫黄化合物に対して高い抗毒性を有し、これによって触媒被毒物質を除去する負荷を低減することができる芳香族の水添触媒及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0027】
すなわち、本発明は、担体金属の金属酸化物からなる触媒担体に、活性金属としてニッケル(Ni)を金属換算で10〜40重量%の割合で担持させると共に、第二触媒金属の金属酸化物からなる第二成分、例えば5〜30重量%のタングステン酸(WO3)又はモリブデン酸(MoO3)が添加されている水添触媒であり、触媒担体が、表面積150m2/g以上、細孔容積0.4cc/g以上、平均細孔径40〜300Å、及び全細孔容積に対して平均細孔径±30Åの細孔が占める割合が60%以上である物理性状を有すると共に、0.1〜3.0重量%の硫黄分を含む硫黄含有触媒担体であることを特徴とする水素源不純物に対する抗被毒特性に優れた水添触媒である。
【0028】
また、本発明は、表面積150m2/g以上、細孔容積0.4cc/g以上、平均細孔径40〜300Å、及び全細孔容積に対して平均細孔径±30Åの細孔が占める割合が60%以上である物理性状を有する触媒担体に、硫黄(S)、硫酸及び硫酸塩から選ばれた1種又は2種以上の硫黄又は硫黄化合物を含有させて硫黄分0.1〜3.0重量%を含む硫黄含有触媒担体を調製し、得られた硫黄含有触媒担体にニッケル化合物溶液を含浸させ乾燥させてニッケル化合物担持乾燥物を調製し、次いで、このニッケル化合物担持乾燥物に第二触媒金属の金属化合物水溶液を含浸させ乾燥させた後に焼成するか、あるいは、このニッケル化合物担持乾燥物を焼成してニッケル担持焼成物を調製し、得られたニッケル担持焼成物に第二触媒金属の金属化合物水溶液を含浸させ乾燥させた後に焼成することにより、ニッケル(Ni)を金属換算で10〜40重量%の割合で担持させると共に、第二触媒金属の金属酸化物を担持させることを特徴とする水素源不純物に対する抗被毒特性に優れた水添触媒の製造方法である。
【0029】
本発明において、触媒担体として用いられる金属酸化物については、例えばアルミニウム(Al)、珪素(Si)、ジルコニウム(Zr)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、イットリウム(Y)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、ランタン(La)、及びセリウム(Ce)から選ばれた1種又は2種以上の金属を含む金属酸化物を挙げることができ、好ましくはアルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、及びセリア等が好適であり、更に好適にはアルミナ又はシリカ、及びこれらの複合酸化物であるシリカアルミナが挙げられる。
【0030】
本発明においては、触媒担体にニッケル金属を比較的に多量に担持させる必要から、細孔が制御された触媒担体を用いて、含浸工程で良好な吸着分散状態を維持でき、焼成後に触媒担体の細孔が担持金属によって閉塞等と起こさないと共に、調製後の触媒が目的反応に適した細孔サイズを選択的に有することが必要であり、また、高い活性を有する触媒を調製するためには、比較的に多量に担持されるニッケル金属が触媒担体上で良好な分散状態を維持できるように、細孔サイズが揃えられており狭い範囲の細孔を選択的に有するシャープな細孔分布の触媒担体を用いると共に、活性金属の分散剤として硫黄分を予め触媒担体の細孔表面に存在させることが必要である。
【0031】
そこで、本発明においては、例えば上記触媒担体がアルミナである場合には、例えば特公平6-72,005号公報に開示されているように、アルミニウム塩の中和により生成した水酸化アルミニウムのスラリーを濾過洗浄し、得られたアルミナヒドロゲルを脱水乾燥した後、400〜800℃で1〜6時間程度焼成することにより得られる多孔性γ-アルミナ担体であるのがよく、より好ましくはアルミナヒドロゲルのpH値をアルミナヒドロゲル溶解pH領域とベーマイトゲル沈殿pH領域との間で交互に変動させると共に少なくともいずれか一方のpH領域から他方のpH領域へのpH変動に際してアルミナヒドロゲル形成物質を添加してアルミナヒドロゲルの結晶を成長させるpHスイング工程を経て得られた多孔性γ-アルミナ担体であるのがよい。
【0032】
このようなpHスイング工程を経て得られた多孔性γ-アルミナ担体は、細孔分布の均一性に優れ成形後のアルミナ担体ペレットにおいても物理性状のばらつきが少なく、個々のペレット毎の物理性状が安定しているという点で優れており、また、細孔のサイズがほぼ均一に揃えられた狭い範囲のシャープな細孔分布を有し、担体の内部に渡って細孔構造が均一であることから、金属を含浸する際の分散性が優れている。
【0033】
本発明で用いる脱水素触媒において、触媒担体として用いる多孔性γ-アルミナ担体は、表面積が150m2/g以上、好ましくは200m2/g以上であり、細孔容積が0.40cc/g以上、好ましくは0.65cm3/g以上であり、平均細孔径が90Å以上300Å以下、好ましくは90Å以上200Å以下であり、平均細孔径±30Åの細孔の占有率が60%以上、好ましくは80%以上であるのがよく、表面積が150m2/g未満であると触媒化後の活性が十分ではなく、細孔容積が0.40cc/g未満であると活性金属成分の均一な担持が困難であり、平均細孔径が90Åより小さいと表面積は大きくなるが、細孔容積が十分ではなく、反対に平均細孔径が300Åより大きいと表面積が極端に小さくなり、細孔容積も極端に大きくなるため、これらの相関を総合的に考慮した結果、平均細孔径が90Å〜300Åが適当である。また、平均細孔径±30Åの細孔の占有率が60%未満であると、触媒性能において本発明の効果が少なくなる。
【0034】
そして、このような触媒担体に予め分散させて含有せしめる硫黄又は硫黄化合物としては、硫黄元素を有し、かつ、触媒担体の調製時にあるいは触媒担体の調製後に、この触媒担体中に均一に分散した状態で含有させることができるものであれば特に制限はなく、例えば、硫黄の結晶粉末や、硫酸、硫酸アンモニウム等の硫酸塩等の硫黄含有化合物を挙げることができ、担体上に硫黄が分散し易い観点から水又は有機溶媒に溶解性がある硫黄化合物が好ましく、そのような硫黄化合物として硫酸、硫酸アンモニウム等を挙げることができる。
【0035】
担体に含有せしめる硫黄の量は、硫黄(S)分として0.1重量%以上3重量%以下が好ましく、更に好ましくは0.15重量%以上2.0重量%以下が好ましい。0.1重量%未満の硫黄含有量では、金属が触媒の中心部に亘ってまで均一に担持される度合いにおいて効果が低く、硫黄含有量が3重量%を超えると局部的に硫黄が凝集し易く、そのような局部には金属が分散して担持されないという問題点が生じ易くなる。これらより、金属を均一に分散担持する効果において最も好適な硫黄含有量の範囲は0.15〜2.0重量%が好ましい。
【0036】
本発明において、上記硫黄又は硫黄化合物を含有する硫黄含有触媒担体を調製する方法については、それが担体断面全体に亘って分散した状態で硫黄又は硫黄化合物を含有させることができればよく、例えば、以下のA〜Eの方法等を例示することができる。
【0037】
[方法A]
触媒担体の調製時に得られた金属酸化物の前駆体となる金属水酸化物ゲルに硫黄粉末を混練し、所定の形状に成形した後、乾燥し焼成して調製する方法
【0038】
[方法B]
触媒担体の調製時に金属硫酸塩及び/又は硫酸を用いて硫黄分を含有する金属酸化物の前駆体となる金属水酸化物ゲルを調製し、所定の形状に成形した後、乾燥し焼成して調製する方法
【0039】
[方法C]
硫黄含有触媒担体が、金属酸化物の前駆体となる金属水酸化物ゲルに硫黄化合物溶液を混合し、次いで、成形及び乾燥後に焼成するか、金属酸化物の前駆体となる金属水酸化物ゲルを所定の形状に成形し、次いで乾燥して乾燥金属水酸化物とし、この乾燥金属水酸化物に硫黄化合物溶液を含浸させた後に焼成して調製する方法
【0040】
[方法D]
触媒担体の調製時に金属酸化物の前駆体となる金属水酸化物ゲルを所定の形状に成形し、次いで乾燥して乾燥金属水酸化物とし、この乾燥金属水酸化物に硫黄化合物溶液を含浸させた後に焼成して調製する方法
【0041】
[方法E]
金属酸化物の前駆体となる金属水酸化物ゲルを所定の形状に成形し、次いで乾燥して乾燥金属水酸化物ゲルとし、次いでこの乾燥金属水酸化物ゲルを焼成して得られた焼成金属酸化物とし、この焼成金属酸化物に例えば硫酸水溶液、硫酸アンモニウム水溶液等の硫黄化合物溶液を含浸させた後に再び焼成して調製する方法
【0042】
また、この硫黄含有触媒担体を調製する際の焼成条件については、通常その焼成温度が100℃以上1,000℃以下、好ましくは350℃以上800℃以下であって、その焼成時間が0.5時間以上48時間以下、好ましくは1時間以上24時間以下である。焼成温度が350℃より低いと水酸化物から酸化物への転化が十分に行われない場合があり、反対に、800℃より高くなると焼成後の表面積が著しく低下する場合がある。
【0043】
このような硫黄含有触媒担体にニッケル金属を担持させてニッケル担持焼成物を調製する方法としては、硫黄含有触媒担体にニッケル化合物の水溶液等の溶液を含浸させてニッケル化合物を担体の細孔表面に吸着させ、これを乾燥させて水分を除去することによりニッケル化合物担持乾燥物を調製し、得られたニッケル化合物担持乾燥物をマッフル炉等の焼成炉で空気存在下に焼成し、これによって硫黄含有触媒担体の細孔表面に吸着させたニッケル化合物を分解して酸化物に変換すると共に、担体にニッケル酸化物の粒子を担持させる方法が挙げられる。
【0044】
ニッケルの担持量としては、ニッケルの金属換算量として10重量%以上40重量%以下が好ましい。ニッケルの担持量が金属換算で10重量%以下である場合は、十分な水添活性が得られず、逆に40重量%以上のニッケルを担持した場合は、触媒の調製が困難なほか、かえって水添活性が低くなる傾向がある。
【0045】
ニッケル金属を担体に担持させる際に用いられるニッケル源としては、水溶性あるいは有機溶媒に可溶なニッケル化合物であれば特に制限はなく用いることができ、例えば、硝酸ニッケル、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、酢酸ニッケル、炭酸ニッケル及びニッケルヒドロキシ炭酸塩等を例示することができる。
【0046】
このようなニッケル化合物の溶液を触媒担体に含浸させる際のニッケル濃度は、ニッケル化合物が均一に溶解していれば特に制限はないが、溶媒の量が多量であると溶媒の除去に余分なエネルギーと要するため、少量の溶液で含浸できる方がよい。また、有機溶媒を利用する場合は除去の際の揮発拡散の防止や廃棄の際の手間やコストがかかる場合が多く、水溶性のニッケル試薬を用いて水溶媒を含浸溶液として利用することが好ましい。
【0047】
溶媒の除去の方法は特に制限はないが、担持するニッケル金属の量が比較的に多量のため、完全にニッケル化合物が触媒担体に吸着することは困難である。従って、ニッケル化合物溶液の含浸後も溶媒中に溶解したニッケル化合物が存在するため、溶媒の除去は調製時間を必要以上に長くしないために、加熱機能を備えた機器で強制的に除去することが必要となる。この際にあまりに高温で速く溶媒を除去するとニッケル金属の分散性が低下することから、加熱しながら触媒担体全体を拡販できるようなロータリーバポレーターやロータリーキルンのような機器を用いることが好ましい。
【0048】
溶媒が除去されて触媒担体にニッケル化合物が吸着したニッケル化合物担持乾燥物については、加及的に乾燥されていることが好ましい。ニッケル化合物担持乾燥物中に水分等の溶媒が多量に残存していると焼成時に溶媒が一騎に蒸発するため、ニッケルの担持状態が好ましくならないことが考えられる。通常は乾燥器を用いて100℃以下の温度、好ましくは60〜90℃の乾燥温度で0.5〜24時間、好ましくは0.5〜12時間、更に好ましくは1〜5時間の乾燥を行うのが良い。
【0049】
このように加及的に乾燥されたニッケル化合物担持乾燥物は更にマッフル炉等の焼成炉で焼成されてニッケル担持焼成物となる。この焼成の際の雰囲気は大気でよく、好ましくは炉内を流通していることが好ましい。焼成の温度は、通常その焼成温度が100℃以上1,000℃以下、好ましくは350℃以上800℃以下、更に好ましくは350℃以上600℃以下であって、その焼成時間が0.5時間以上48時間以下、好ましくは1時間以上24時間以下である。焼成温度が350℃より低いと水酸化物から酸化物への転化が十分に行われない場合があり、反対に、800℃より高くなると焼成後の表面積が著しく低下する場合がある。
【0050】
このように焼成されたニッケル担持焼成物は、触媒担体の細孔表面に酸化ニッケルの粒子が担持されている状態となる。従って、水素化に対して高い触媒活性を発現させるためには、酸化物粒子を還元してニッケルの金属粒子にすることが必要である。ニッケル酸化物粒子の還元方法としては、特に制限されることはないが、通常は水素ガスを用いた還元が好ましい。
【0051】
水素還元を行う温度は、好ましくは250〜600℃、更に好ましくは300〜450℃、好適には350〜400℃の水素気流中で還元されることが好ましい。600℃以上の高温での還元は触媒の表面積の低下に繋がるほか、250℃以下の温度では、十分な還元を行うことが困難である。還元する時間については、3時間以上の時間をかけて還元を十分に行うことが好ましく、更に好ましくは15時間以上の還元を行うことが好ましい。しかしながら、更に長時間の還元を行うことは触媒の調製に多くの時間を要して製造コストが高価になることから好適には10〜24時間の還元時間が好ましい。
【0052】
以上のようにして調製されたニッケル担持焼成物には、更に第二触媒金属が担持される。このニッケル担持焼成物に第二触媒金属を担持させる方法については2つの方法があり、第一の方法は、上記のニッケル化合物担持乾燥物に第二触媒金属の金属化合物水溶液を含浸させ乾燥させた後に焼成する方法であり、また、第二の方法は、ニッケル担持焼成物に第二触媒金属の金属化合物水溶液を含浸させ乾燥させた後に焼成する方法である。そして、第二触媒金属を担持させる際の上記のニッケル化合物担持乾燥物やニッケル担持焼成物については、第二触媒金属を担持させる前に予め水素で還元し、これらニッケル化合物担持乾燥物やニッケル担持焼成物において硫黄含有触媒担体の表面に担持されたニッケル酸化物粒子をニッケル金属粒子に変換しておくのがよい。
【0053】
上記で得られたニッケル担持焼成物に担持される第二触媒金属の金属酸化物としては、例えばタングステン酸(WO3)、モリブデン酸(MoO3)等が挙げられる。
【0054】
第二触媒金属の金属酸化物がタングステン酸(WO3)又はモリブデン酸(MoO3)である場合、その添加量は、金属酸化物の換算量として5〜30重量%の範囲内であることが好ましい。タングステン酸(WO3)又はモリブデン酸(MoO3)の添加量が5重量%より少ないと十分な添加効果を得ることができず、添加量が30重量%よりも多いとかえって添加効果が低くなる。
【0055】
また、タングステン酸(WO3)又はモリブデン酸(MoO3)を添加する際に使用できるタングステン化合物としては、タングステン酸アンモニウム[5(NH4)2・12WO3・5H2O]、塩化タングステン等の金属種としてタングステンのみを含有するタングステン化合物であれば特に制限はないが、タングステン化合物は一般に溶解度が低いために溶媒を選定する必要があり、好適にはタングステン酸アンモニウム[5(NH4)2・12WO3・5H2O]をアミノエタノール水溶液に溶解して用いるのがよい。
【0056】
モリブデン酸(MoO3)を添加する際に使用できるモリブデン化合物としては、モリブデン酸アンモニウム[(NH4)6Mo7O24・4H2O]、モリブデン酸(H2MoO4・H2O)、モリブデン塩化物、オキシ塩化モリブデン化合物等の金属種としてモリブデンのみを含有するモリブデン化合物であれば特に制限はないが、タングステン酸の場合と同様に溶媒を選定する必要があり、好適にはモリブデン酸アンモニウム[(NH4)6Mo7O24・4H2O]を水に溶解して用いるのがよい。
【0057】
これらのタングステン酸(WO3)又はモリブデン酸(MoO3)の溶液をニッケル担持触媒に含浸して、1時間以上、好ましくは3時間以上静置した後にエバポレーター又はこれに準じる装置にて溶媒を除去する。このように得られたタングステン酸またモリブデン酸を含浸したニッケル触媒は、更に乾燥器で乾燥を行った後に、電気炉等の焼成装置にて焼成される。焼成の温度は、好ましくは150〜800℃、更に好ましくは150〜300℃、好適には200℃程度で焼成するのがよい。
【0058】
上記のように焼成されたタングステン酸(WO3)又はモリブデン酸(MoO3)が添加された触媒は反応に際して水素還元されて使用される。水素還元を行う温度は、好ましくは250〜600℃、更に好ましくは300〜450℃、好適には350〜400℃の水素気流中で還元されることが好ましい。600℃以上の高温での還元は触媒の表面積が低下する原因になるほか、250℃以下の温度では、十分な還元を行うことが困難である。還元する時間については、3時間以上の時間をかけて還元を十分に行うことが好ましく、更に好ましくは15時間以上の還元を行うことが好ましい。しかしながら、更に長時間の還元を行うことは触媒の調製に多くの時間を要して製造コストが高価になることから好適には10〜24時間の還元時間が好ましい。
【0059】
また、タングステン酸(WO3)又はモリブデン酸(MoO3)が添加された触媒の還元操作は反応に供される際に反応器に充填された後に行うことが好ましい。還元装置から取り出されて空気と接触した触媒は、ニッケル金属の表面も含めて酸化状態にさらされるため、不働体皮膜を形成して触媒活性が低下する傾向がある。水添の反応時には水素リッチな条件ではあるが、芳香族類の水添反応は250℃以下の比較的に低い反応温度で実施されるため、反応開始後に再度還元される条件としては不十分である。
【0060】
このように調製された触媒は、低品位の水素源に含まれる硫黄化合物及び一酸化炭素、特に硫黄化合物に対して高い耐毒性を有する。しかしながら、硫黄化合物は非常に高い被毒特性を有するため、触媒の使用条件には制限があり、好ましくは、水添の供する水素源中の硫黄濃度が1,000ppm以下、更に好ましくは500ppm以下、好適には100〜200ppm程度にまで硫黄濃度を低減して使用することが望ましい。
【発明の効果】
【0061】
本発明の水添触媒は、水素源に硫化水素や一酸化炭素等の不純物を含む低品位の水素源を用いた場合でも、芳香族炭化水素等の水素化反応において優れた触媒活性と選択性を安定的に長時間発揮することができる。また、本発明の製造方法によれば、このような水添触媒を工業的に容易に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0062】
以下、実施例、試験例及び比較例に基づいて、本発明の好適な実施の形態を具体的に説明する。
【0063】
[触媒担体の調製]
先ず、本発明の実施例及び比較例で用いる触媒担体として、以下の5種類の触媒担体A〜Eを準備し、あるいは、調製した。
【0064】
(1) 触媒担体A(シリカ担体の製造)
濃度8.01mol/Lの硝酸3,900ccを調製すると共に、濃度苛性ソーダ基準で8.01mol/LのJケイ酸ソーダ水溶液3,900ccを用意した。次に、30リットル(L)のホーロー容器に純水20Lを入れ、撹拌しながら70℃に加温し、更に撹拌を継続しながら、上記硝酸水溶液650ccを投入して5分間撹拌し(pH:3.0以下)、次いで上記ケイ酸ソーダ水溶液6500ccを投入して5分間撹拌する(pH値:10.4)pHスイング操作を6回繰り返し行った。得られたスラリー水溶液を濾過してケーキを回収し、次いで、このケーキを純水20Lに再分散させて再び濾過する洗浄操作を3回繰り返し行い、洗浄ケーキを得た。次に、洗浄ケーキを風乾して水分調整を行った後、押出成形機で直径1.6mmの棒状に成形し、120℃、3時間の条件で乾燥した後、長さ約1cm程度に粉砕し、マッフル炉にて500℃、3時間の条件で焼成して調製され、表1に示す表面積(m2/g)、細孔容積(cc/g)、平均細孔径(Å)、及び全細孔容積に対して平均細孔径±30Åの細孔が占める割合(%)を有するシリカ担体(触媒担体A)を用いた。
【0065】
(2) 触媒担体B(シリカアルミナ担体の製造)
濃度8.01mol/Lの硝酸3,900ccを調製すると共に、苛性ソーダ基準濃度でJケイ酸ソーダが5.34mol/L、アルミン酸ソーダが2.67mol/Lの混合水溶液3,900ccを用意した。次に、30リットル(L)のホーロー容器に純水20Lを入れ、撹拌しながら70℃に加温し、更に撹拌を継続しながら、上記硝酸アルミニウム水溶液650ccを投入して5分間撹拌し(pH値:3.0以下)、次いで上記混合水溶液650ccを投入して5分間撹拌する(pH値:10.2)pHスイング操作を6回繰り返し行った。得られたスラリー水溶液を濾過してケーキを回収し、次いで、このケーキを純水20Lに再分散させて再び濾過する洗浄操作を3回繰り返し行い、洗浄ケーキを得た。次に、洗浄ケーキを風乾して水分調整を行った後、押出成形機で直径1.6mmの棒状に成形し、120℃、3時間の条件で乾燥した後、長さ約1cm程度に粉砕し、マッフル炉にて500℃、3時間の条件で焼成して調製され、表1に示す表面積(m2/g)、細孔容積(cc/g)、平均細孔径(Å)、及び全細孔容積に対して平均細孔径±30Åの細孔が占める割合(%)を有するシリカアルミナ担体(触媒担体B)を得た。
【0066】
(3) 触媒担体C(広い範囲の細孔分布を有するアルミナ担体)
触媒担体Cとして、表1に示す表面積(m2/g)、細孔容積(cc/g)、平均細孔径(Å)、及び全細孔容積に対して平均細孔径±30Åの細孔が占める割合が60(%)以下である市販のγ-アルミナ担体を用いた。
【0067】
(4) 触媒担体D(細孔が制御された狭い範囲の細孔分布を有するアルミナ担体)
濃度2.67mol/Lの硝酸アルミニウム水溶液3900ccを調製すると共に、濃度14%のアンモニア水溶液3900ccを用意した。次に、30リットル(L)のホーロー容器に純水20Lを入れ、撹拌しながら70℃に加温し、更に撹拌を継続しながら、上記硝酸アルミニウム水溶液650ccを投入して5分間撹拌し(pH値:2.0)、次いで上記アンモニア水溶液650ccを投入して5分間撹拌する(pH値:7.4)pHスイング操作を6回繰り返し行った。得られた水酸化アルミニウムのスラリー水溶液を濾過してケーキを回収し、次いで、このケーキを純水20Lに再分散させて再び濾過する洗浄操作を3回繰り返し行い、水酸化アルミニウムの洗浄ケーキを得た。次に、洗浄ケーキを風乾して水分調整を行った後、押出成形機で直径1.6mmの棒状に成形し、120℃、3時間の条件で乾燥した後、長さ約1cm程度に粉砕し、マッフル炉にて500℃、3時間の条件で焼成してγ-アルミナ担体(触媒担体D)を得た。
【0068】
(シャープな細孔分布のアルミナ担体の性状)
得られたγ-アルミナ担体(触媒担体D)の表面積(m2/g)、細孔容積(cc/g)、平均細孔径(Å)、及び全細孔容積に対して平均細孔径±30Åの細孔が占める割合(%)を表1に示す。また、このγ-アルミナ担体(触媒担体D)の細孔分布を、上記のγ-アルミナ担体(触媒担体C)の細孔分布と共に図1に示す。
【0069】
(5) 触媒担体E(硫黄含有触媒担体)
焼成後の硫黄含有量が0.5重量%となるように、上記のγ-アルミナ担体(触媒担体D)に濃度0.38mol/Lの硫酸アンモニウム水溶液を含浸させ、次いでエバポレーターで溶媒を除去し、120℃、3時間の条件で乾燥し、500℃、3時間の条件で焼成し、硫黄分を硫黄元素(S)として0.5重量%の割合(硫黄分割合)で含む硫黄含有γ-アルミナ担体(触媒担体E)を得た。
【0070】
[実施例1〜2及び比較例1〜5]
次に、上記の5種類の触媒担体A〜Eを使用し、以下のようにして比較例1〜5及び実施例1〜2に係る水添触媒No.1〜No.7(比較例1〜5:水添触媒No.1〜No.5;実施例1〜2:水添触媒No.6〜No.7)を調製した。
【0071】
(1) 水添触媒No.1〜No.5の調製
上記の5種類の触媒担体A〜Eを使用し、0.5mol/Lの濃度に調製した硝酸ニッケル水溶液97ccに上記各触媒担体A〜Eの100gを含浸して密閉容器中にて12時間静置した後、エバポレーターにて常温で水分を除去し、電気炉にて空気中200℃、3時間の条件で焼成し、各触媒担体A〜Eにニッケル(Ni)が担持された各焼成物を得た。次に、これら各焼成物を流通式水素還元装置に充填し、水素気流下に370℃、15時間の条件で水素還元を行い、水添触媒No.1〜No.5(比較例1〜5)と水添触媒No.6(実施例1)及び水添触媒No.7(実施例2)を得た。
【0072】
得られた水添触媒No.1〜No.5における金属Ni換算のニッケル担持量(Ni担持量)を表1に示す。
また、上記水添触媒No.5について、EPMAを用いて触媒断面上の硫黄元素(S)及びニッケル(Ni)元素の存在濃度を面分析及び線分析により定量した結果、これら硫黄元素(S)及びニッケル(Ni)元素がほぼ同様の分布でほぼ均一に分散して担持されていることが判明した。
更に、ニッケル(Ni)元素の粒子径をX線回折法で測定した結果、その粒子径は約4ナノメーター以下であった。
【0073】
(2) 水添触媒No.6(実施例1)の調製
上で得られた水添触媒No.5を100gに対して、21.57gのモリブデン酸アンモニウム[(NH4)6Mo7O24・4H2O]を純水65.92ccに溶かした水溶液を含浸させ密閉容器中にて12時間静置した後、エバポレーターにて常温で水分を除去し、電気炉にて空気中200℃、3時間の条件で焼成し、次に、この焼成物を流通式水素還元装置に充填し、水素気流下に370℃、15時間の条件で水素還元してモリブデン酸(MoO3)が水添触媒No.5基準で15重量%の割合で添加された水添触媒No.6を調製した。
得られた水添触媒No.6における金属Ni換算のニッケル担持量(Ni担持量)及びモリブデン酸(MoO3)担持量(MoO3担持量)を表1に示す。
【0074】
(3) 水添触媒No.7(実施例2)の調製
上で得られた水添触媒No.5を100gに、14.17gのタングステン酸アンモニウム[5(NH4)2・12WO3・5H2O]をアミノエタノール水溶液65.92ccに溶かした溶液を含浸させ密閉容器中にて12時間静置した後、エバポレーターにて常温で水分を除去し、電気炉にて空気中200℃、3時間の条件で焼成し、次に、この焼成物を流通式水素還元装置に充填し、水素気流下に370℃、15時間の条件で水素還元してタングステン酸(WO3)が水添触媒No.5基準で15重量%の割合で添加された水添触媒No.7を調製した。
得られた水添触媒No.7における金属Ni換算のニッケル担持量(Ni担持量)及びタングステン酸(WO3)担持量(WO3担持量)を表1に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
[試験例1:水素化反応試験1]
上記各比較例1〜5及び実施例1〜2で得られた各水添触媒No.1〜No.7について、反応熱の除去が容易となるようにガラスビーズを用いて10倍に希釈した後、この希釈後の各水添触媒No.1〜No.7を流通式触媒反応試験装置の反応管内に充填し、この反応管に原料のトルエンをLHSV:10h-1の条件で供給すると共に、水素源として不純物の硫化水素100ppmを含む混合水素ガスをGHSV:22800h-1の条件で供給し、反応温度200℃、反応圧力0.2MPaの条件で6時間の流通式水素化反応試験1を行った。
【0077】
この水素化反応試験において、流通試験開始から1時間後及び流通試験開始から6時間後にそれぞれ生成物を氷水にて外部冷却し気体と液体に分けて採取し、採取した各サンプルをガスクロマトグラフィーにて分析を行い、トルエンの転化率と目的生成物であるメチルシクロヘキサンの選択率とを求めた。
結果を表2に示す。
【0078】
【表2】

【0079】
表2より、シリカ担体及びシリカアルミナ担体にニッケルを担持した触媒1及び2の転化率は反応時間1時間の初期において32%及び37%と低く、反応6時間後には12%及び16%まで低下することから活性が低いと共に触媒劣化が大きいことがわかる。
【0080】
また、触媒担体にアルミナを用いた触媒3及び触媒4は、触媒1及び2に比べて初期活性が高いほか、狭い細孔分布を有する細孔分布がシャープなアルミナ担体を用いた触媒4は、広い細孔分布を有するブロードな細孔分布のアルミナ担体を用いた触媒3に比べて、初期活性が高く、かつ反応6時間後の活性劣化が少ないことがわかる。
【0081】
更に、アルミナ担体に硫黄分を添加した触媒5は、硫黄分を含まない触媒4とほぼ同等の触媒性能を有することがわかる。この触媒5にモリブデン酸を添加した触媒6(実施例1)の触媒性能は、初期活性は51%と若干低いものの、反応6時間後の添加率は48%を維持しており、活性劣化が緩和されていることがわかる。
【0082】
更に、触媒5にタングステン酸を添加した触媒7(実施例2)は、初期活性が71%と他の触媒に比べて最も高く、反応6時間後の転化率も69%を維持しており、硫黄化合物である硫化水素が100ppm存在しているにもかかわらず、高い転化率と高い抗被毒特性を有していることがわかる。また、選択性については上記の全ての反応試験において99%以上の高い選択性を有しており、硫化水素の存在が選択性には影響を与えないことを示している。
【0083】
[試験例2:水素化反応試験2]
水素源として不純物の硫化水素100ppm及び一酸化炭素(CO)1,000ppmを含む混合水素ガスを用いた以外は、上記試験例1の水素化反応試験1と同様にして、各比較例1〜5及び実施例1〜2の水添触媒No.1〜No.7についての水素化反応試験2を行った。
結果を表3に示す。
【0084】
【表3】

【0085】
表3より、硫化水素の濃度100ppmに比べて10倍の濃度となる1,000ppmの高い濃度の一酸化炭素が存在した場合でも、各触媒の反応6時間における活性劣化の度合いは試験例1と大きく変化することはないことがわかる。また、しかしながら、タングステン酸を添加して触媒7の初期活性が試験例1の硫化水素のみが存在した場合に比べて、本試験例の一酸化炭素が存在した場合は、初期活性が52%程度に低下することが特徴的であることを示している。
【0086】
[実施例3〜5及び比較例6〜7]
上で得られた水添触媒No.5を使用し、上記実施例2の水添触媒No.7の場合と同様にして第二成分のタングステン酸(WO3)を種々の割合で添加し、タングステン酸(WO3)の重量基準で添加量(WO3添加量)が3重量%(比較例6:水添触媒No.8)、5重量%(実施例3:水添触媒No.9)、10重量%(実施例4:水添触媒No.10)、20重量%(実施例5:水添触媒No.11)、及び26重量%(比較例7:水添触媒No.12)である水添触媒No.8〜No.12を調製した。
【0087】
得られた各実施例3〜5の水添触媒No.9〜No.11及び比較例6〜7の水添触媒No.8、No.12について、上記試験例1の水素化反応試験1と同様にして、水素化反応試験3を行った。
結果を表4に示す。
【0088】
【表4】

【0089】
表4より、タングステン酸(WO3)の添加量がタングステン酸の重量基準で5%以下であると活性劣化の抑制効果が少なく、添加量が25%を超えると転化率が低下することから、タングステン酸(WO3)の添加量は5〜25%が好適であることが示されている。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の水添触媒は、水素源に硫化水素や一酸化炭素等の不純物を含む低品位の水素源を用いた場合でも、優れた触媒活性と選択性を安定して発揮するので、例えばケミカルハイドライド法水素供給システム等で用いられる水素貯蔵反応用の水添触媒としての用途や、芳香族類の炭化水素の水添触媒の用途に好適に用いられる。また、本発明の製造方法によれば、このような水添触媒を工業的に容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】図1は、触媒担体C及び触媒担体Dの細孔分布を示すグラフ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体金属の金属酸化物からなる触媒担体に、活性金属としてニッケル(Ni)を金属換算で10〜40重量%の割合で担持させると共に、第二触媒金属の金属酸化物からなる第二成分が添加されている水添触媒であり、触媒担体が、表面積150m2/g以上、細孔容積0.4cc/g以上、平均細孔径40〜300Å、及び全細孔容積に対して平均細孔径±30Åの細孔が占める割合が60%以上である物理性状を有すると共に、0.1〜3.0重量%の硫黄分を含む硫黄含有触媒担体であることを特徴とする水素源不純物に対する抗被毒特性に優れた水添触媒。
【請求項2】
第二触媒金属の金属酸化物からなる第二成分が、タングステン酸(WO3)又はモリブデン酸(MoO3)である請求項1に記載の水素源不純物に対する抗被毒特性に優れた水添触媒。
【請求項3】
第二成分が、第二触媒金属の金属酸化物として5〜30重量%の割合で添加されている請求項1又は2に記載の水素源不純物に対する抗被毒特性に優れた水添触媒。
【請求項4】
触媒担体が、アルミニウム(Al)、珪素(Si)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、及びセリウム(Ce)から選ばれた1種又は2種以上の担体金属の金属酸化物である請求項1〜3のいずれかに記載の水素源不純物に対する抗被毒特性に優れた水添触媒。
【請求項5】
触媒担体が、多孔性γ-アルミナからなる成形体若しくは粉末である請求項1〜4のいずれかに記載の水素源不純物に対する抗被毒特性に優れた水添触媒。
【請求項6】
硫黄含有触媒担体に含まれる硫黄分が、硫黄(S)、硫酸及び硫酸塩から選ばれた1種又は2種以上の硫黄又は硫黄化合物である請求項1〜5のいずれかに記載の水素源不純物に対する抗被毒特性に優れた水添触媒。
【請求項7】
表面積150m2/g以上、細孔容積0.4cc/g以上、平均細孔径40〜300Å、及び全細孔容積に対して平均細孔径±30Åの細孔が占める割合が60%以上である物理性状を有する触媒担体に、硫黄(S)、硫酸及び硫酸塩から選ばれた1種又は2種以上の硫黄又は硫黄化合物を含有させて硫黄分0.1〜3.0重量%を含む硫黄含有触媒担体を調製し、得られた硫黄含有触媒担体にニッケル化合物溶液を含浸させ乾燥させてニッケル化合物担持乾燥物を調製し、次いで、このニッケル化合物担持乾燥物に第二触媒金属の金属化合物水溶液を含浸させ乾燥させた後に焼成するか、あるいは、このニッケル化合物担持乾燥物を焼成してニッケル担持焼成物を調製し、得られたニッケル担持焼成物に第二触媒金属の金属化合物水溶液を含浸させ乾燥させた後に焼成することにより、ニッケル(Ni)を金属換算で10〜40重量%の割合で担持させると共に、第二触媒金属の金属酸化物を担持させることを特徴とする水素源不純物に対する抗被毒特性に優れた水添触媒の製造方法。
【請求項8】
硫黄含有触媒担体が、触媒担体の金属酸化物の前駆体となる金属水酸化物ゲルに硫黄粉末を混練し、所定の形状に成形した後、乾燥し焼成して調製されたものである請求項7に記載の水素源不純物に対する抗被毒特性に優れた水添触媒の製造方法。
【請求項9】
硫黄含有触媒担体が、金属硫酸塩及び/又は硫酸の水溶液を用いて金属酸化物の前駆体となる金属水酸化物ゲルを調製し、所定の形状に成形した後、乾燥し焼成して調製されたものである請求項7に記載の水素源不純物に対する抗被毒特性に優れた水添触媒の製造方法。
【請求項10】
硫黄含有触媒担体が、金属酸化物の前駆体となる金属水酸化物ゲルに硫黄化合物溶液を混合し、次いで、成形及び乾燥後に焼成するか、金属酸化物の前駆体となる金属水酸化物ゲルを所定の形状に成形し、次いで乾燥して乾燥金属水酸化物とし、この乾燥金属水酸化物に硫黄化合物溶液を含浸させた後に焼成して調製されたものである請求項7に記載の水素源不純物に対する抗被毒特性に優れた水添触媒の製造方法。
【請求項11】
硫黄含有触媒担体が、金属酸化物の前駆体となる金属水酸化物ゲルを所定の形状に成形し、次いで乾燥して乾燥金属水酸化物とし、次いでこの乾燥金属水酸化物を焼成して得られた焼成金属酸化物とし、この焼成金属酸化物に硫黄化合物溶液を含浸させた後に再び焼成して調製されたものである請求項7に記載の水素源不純物に対する抗被毒特性に優れた水添触媒の製造方法。
【請求項12】
硫黄化合物溶液が、硫酸水溶液又は硫酸アンモニウム水溶液である請求項10又は11に記載の水素源不純物に対する抗被毒特性に優れた水添触媒の製造方法。
【請求項13】
硫黄含有触媒担体が、硫黄含有多孔性γ-アルミナ担体である請求項7〜12のいずれかに記載の水素源不純物に対する抗被毒特性に優れた水添触媒の製造方法。
【請求項14】
硫黄含有触媒担体を調製する際の焼成条件が、焼成温度350〜800℃及び焼成時間1.0〜24時間である請求項7〜13のいずれかに記載の水素源不純物に対する抗被毒特性に優れた水添触媒の製造方法。
【請求項15】
ニッケル(Ni)化合物担持乾燥物又はニッケル(Ni)担持焼成物を水素で還元した後に、タングステン(W)又はモリブデン(Mo)から選ばれた1種又は2種以上の第二触媒金属の金属化合物水溶液を含浸、乾燥、焼成した後に、再度、水素で還元することを特徴とする請求項7〜14のいずれかに記載の水素源不純物に対する抗被毒特性に優れた水添触媒の製造方法。
【請求項16】
請求項1〜6のいずれかに記載された水添触媒を用いて芳香族類を水素化することを特徴とする芳香族類の水素化方法。
【請求項17】
芳香族類が、単環芳香族類の水素化物、2環芳香族類、3環以上の芳香環を有する化合物から選ばれた1種又は2種以上の混合物である請求項16に記載の芳香族類の水素化方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−83701(P2011−83701A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−238555(P2009−238555)
【出願日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【出願人】(000003285)千代田化工建設株式会社 (162)
【Fターム(参考)】