説明

水素発生装置及び燃料電池システム

【課題】 大掛かりな機構を要さずに必要量の水素を発生させる。
【解決手段】 巻取りロール6でシート材7が巻き取られることにより、シート材7が押圧ロール8側に移動し、水素発生体15が押し潰されて隔壁が破断し、金属水素化物に反応用溶液が接触して水素の発生反応が生じて水素が生成され、生成された水素が反応室2に放出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水素発生装置及び水素発生装置を備えた燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、固体高分子電解質膜を挟んでアノードとカソードを有する発電部のアノード側に例えば水素ガスやメタノール等の燃料流体と、カソード側に酸化用流体例えば酸素や空気を供給し電気化学反応により電力を発生する。
【0003】
水素ガスを燃料とする場合の水素を低エネルギーで得る方法として、ケミカルハイドライドと呼ばれる金属水素化物を加水分解する方法が知られている。ケミカルハイドライドとして、例えば金属水素化物の一種である水素化ホウ素リチウムや水素化ホウ素ナトリウム、水素化アルミニウムリチウム、水素化アルミニウムナトリウムがある。
【0004】
金属水素化物を加水分解して水素を得る場合、加水分解により生成される生成物は水和性を有するため、反応式で理論上必要とされる量よりも多量の水が必要となり、水を供給するためのスペースが多くなってしまう。このため、金属水素化物を微粉化し、微粉化した金属水素化物に水蒸気を反応させることで、水素を発生させる技術が従来から提案されている(例えば、特許文献1参照)。これにより、必要最小限の量の水により水素を発生させて無駄な水の供給をなくすことができる。
【0005】
しかし、金属水素化物を微粉化する装置及び水蒸気を発生させる装置、微粉化した金属水素化物及び水蒸気を供給する機構が必要であり、構造が複雑になって大型化が避けられない技術であった。このため、小型化を必要とする機器に適用するには向かない技術であるといえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−137903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、大掛かりな機構を要さずに必要量の水素を的確に発生させることができる水素発生装置を提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、大掛かりな機構を要さずに必要量の水素を的確に発生させることができる水素発生装置を備えた燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための請求項1に係る本発明の水素発生装置は、反応用溶液と反応して水素を発生する水素発生物質を収容するする物質収容部、及び、前記反応用溶液が貯留される液体貯留部を備えた物質部材と、前記物質部材が保持される支持部材と、前記物質部材に対して外力を付与して前記水素発生物質に前記反応用溶液を接触させる外力付与部材と、前記外力付与部材に対して前記支持部材を相対的に移動させることで物質部材に外力を付与させる移動手段とを備えることを特徴とする。
【0010】
請求項1に係る本発明では、外力付与部材に対して支持部材を移動手段により相対的に移動させる過程で、外力付与部材により物質部材に外力を付与し、水素発生物質に反応用溶液を接触させて水素を発生させるので、外力が付与された物質部材の水素発生物質により独立して水素を発生させることができる。このため、大掛かりな機構を要さずに必要量の水素を的確に発生させることが可能になる。
【0011】
そして、請求項2に係る本発明の水素発生装置は、請求項1に記載の水素発生装置において、前記支持部材は帯状であり、前記物質部材を長手方向に複数保持し、前記外力付与部材に対して移動自在に備えられていることを特徴とする。
【0012】
請求項2に係る本発明では、帯状の支持部材を移動させることで複数の物質部材に対し順次外力が付与され、支持部材の移動により所望量の水素を発生させることができる。
【0013】
また、請求項3に係る本発明の水素発生装置は、請求項1もしくは請求項2に記載の水素発生装置において、前記物質部材は、前記物質収容部または前記液体貯留部のいずれか一方が他方に内包され、内包される側の前記物質収容部または前記液体貯留部の容器が前記物質収容部と前記液体貯留部とを隔てる隔壁となり、前記外力付与部材は、前記物質部材に対して外力を付与して前記隔壁を破断することを特徴とする。
【0014】
請求項3に係る本発明では、物質部材に対し外力が付与されて隔壁が破断されることで物質収容部または液体貯留部の容器が破断され、水素発生物質に反応用溶液を接触させることができる。
【0015】
また、請求項4に係る本発明の水素発生装置は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の水素発生装置において、前記水素発生物質に前記反応用溶液が接触することにより発生した前記水素の発生状態を検出する水素発生状態検出手段と、前記水素発生状態検出手段で検出された前記水素の発生状況に応じて前記移動手段を制御し、前記支持部材の前記外力付与部材に対する相対的な移動速度を制御する速度制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0016】
請求項4に係る本発明では、水素の発生状態により支持部材の外力付与部材に対する相対的な移動速度を制御するので、水素の発生状態に応じて水素発生量を制御することができる。
【0017】
また、請求項5に係る本発明の水素発生装置は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の水素発生装置において、前記移動手段は、発生した前記水素の発生圧力が動作源であることを特徴とする。
【0018】
請求項5に係る本発明では、発生した水素の発生圧力が移動手段の動作源となっているので、外部の動力源を用いることなく支持部材を外力付与部材に対して相対的に移動させることができる。
【0019】
また、請求項6に係る本発明の水素発生装置は、請求項2から請求項5のいずれか一項に記載の水素発生装置において、帯状の前記支持部材は、繰出しロールに巻回されて繰出されて巻取りロールに巻き取られ、前記外力付与部材は、前記繰出しロールと前記巻取りロールとの間で前記支持部材を押圧する押圧ロールであることを特徴とする。また、請求項7に係る本発明の水素発生装置は、前記移動手段は、前記巻取りロールを回転させる回転駆動手段であることを特徴とする。
【0020】
請求項6、請求項7に係る本発明では、繰出しロールから繰出されて巻取りロールに支持部材が巻き取られる過程で支持部材が押圧ロールで押圧され、水素発生物質に反応用溶液を接触させて水素を発生させることができる。
【0021】
また、請求項8に係る本発明の水素発生装置は、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の水素発生装置において、前記物質部材は、水分を吸収する吸水材を備えることを特徴とする。また、請求項9に係る本発明の水素発生装置は、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の水素発生装置において、前記物質収容部に、前記反応用溶液を吸収し前記水素発生物質との接触を促進する浸透層部材を備えることを特徴とする。
【0022】
請求項8に係る本発明では、外部の水分が吸水材で吸水され、外部の水分が物質部材に浸入することを防止することができ、また、物質部材の水分が吸水材で吸収されて気体だけが外部に放出される。請求項9に係る本発明では、浸透層部材により反応用溶液を速やかに、しかも、均等に水素発生物質に接触させることができる。
【0023】
上記目的を達成するための請求項10に係る本発明の燃料電池システムは、請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の水素発生装置の前記水素が排出される経路に燃料電池の燃料極を有する室が接続され、発生した前記水素が前記燃料極に供給されることを特徴とする。
【0024】
請求項10に係る本発明では、大掛かりな機構を要さずに必要量の水素を発生させることができる水素発生装置を備えた燃料電池システムとすることが可能になる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の水素発生装置は、大掛かりな機構を要さずに必要量の水素を的確に発生させることが可能になる。
【0026】
また、本発明の燃料電池システムは、大掛かりな機構を要さずに必要量の水素を的確に発生させることができる水素発生装置を備えた燃料電池システムとすることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施例に係る水素発生装置の全体の概略構成図である。
【図2】水素発生装置の要部を表す外観図である。
【図3】水素発生装置の要部を表す断面図である。
【図4】水素発生装置の要部を表す断面図である。
【図5】水素発生装置の要部を表す断面図である。
【図6】押圧ロールを通過する部位のシート材の外観図である。
【図7】水素発生体の断面図である。
【図8】両側に水素発生体を備えたシート材の断面図である。
【図9】両側に水素発生体を備えたシート材の断面図である。
【図10】両側に水素発生体を備えたシート材の断面図である。
【図11】水素発生体の断面図である。
【図12】シート及び膜を構成するシート材の分解斜視図である。
【図13】シート材を搬送させる機構の概念図である。
【図14】本発明の一実施例に係る燃料電池システムの全体図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1から図5に基づいて水素発生装置の一実施例を説明する。
【0029】
図1には本発明の一実施例に係る水素発生装置の全体の概略構成、図2には水素発生装置の要部を表す外観、図3から図5には水素発生装置の要部を表す断面を示してある。
【0030】
図1に基づいて水素発生装置1の概略を説明する。
【0031】
図1に示すように、水素発生装置1は反応室2を構成する反応容器3を備え、反応容器3の内部には、水素発生部材4が収容されている。水素発生部材4には、繰出しロール5及び移動手段としての巻取りロール6に巻回される帯状のシート材(支持部材)7が備えられている。シート材7には物質部材としての水素発生体15が備えられ、シート材7は、繰出しロール5と巻取りロール6の間で外力付与部材としての押圧ロール8に押圧される。
【0032】
尚、外力付与部材としては、押圧ロール8に限定されず、例えば、流通幅が狭くなる通路を設けることも可能である。また、図示例では、シート材7を押圧ロール8と受けロールとの間(一対のロールの間)に挟み込む状態を挙げているが、押圧ロール8と受け板部材との間にシート材7を挟み込む構成にすることも可能である。
【0033】
詳細は後述するが、シート材7には、反応用溶液と反応して水素を生成する水素発生物質(金属水素化物)を収容する物質収容部、及び、反応用溶液が貯留される液体貯留部を備えた物質部材(水素発生体15)が長手方向に並設されている。シート材7が押圧ロール8に押圧されることにより(外力が付与されることにより)、水素発生物質に反応用溶液が接触して水素が発生し、発生した水素は反応室2に放出されて排出路9から図示しない水素消費部に供給される。
【0034】
尚、図中の符号で10は、排出路9に設けられた気液分離膜であり、排出路9に気体(水素)だけの流通が許容されて液体(反応用溶液)の流通が阻止される。
【0035】
巻取りロール6は駆動モータ11により回転が駆動制御され、駆動モータ11は速度制御手段12の指令により駆動制御され、所定の速度で巻取りロール6を駆動回転させる。一方、排出路9には水素発生状態検出手段としての圧力センサー13が設けられ、圧力センサー13の検出情報は速度制御手段12に送られる。速度制御手段12では、圧力センサー13で検出された排出路9の水素圧力(水素の発生状態)に応じて駆動モータ11に駆動指令が出力される。
【0036】
例えば、排出路9の水素圧力が低下した場合には、巻取りロール6の回転速度を速めてシート材7の送り速度を高くし、押圧ロール8での押圧を促進して水素の発生量を増加する。逆に、排出路9の水素圧力が高い場合には、巻取りロール6の回転速度を低下させてシート材7の送り速度を低くし、押圧ロール8での押圧を抑制して水素の発生量を低くする(停止する)。
【0037】
図2から図4に基づいて物質部材が備えられたシート材7を説明する。
【0038】
図2には押圧ロール8を通過する部位のシート材7の外観、図3には外力が付与されていない状態の断面、図4には外力が付与された状態の断面を示してある。
【0039】
図2に示すように、帯状のシート材7(例えば、樹脂フィルム)の上面には長手方向に所定の間隔で物質部材としての水素発生体15が並設されている。巻取りロール6(図1参照)でシート材7が巻き取られることにより、水素発生体15が押圧ロール8に順次押圧されて潰され、潰された水素発生体15で規定された量の水素(所望量の水素)が放出される。シート材7は、水や水蒸気を透過しないガスバリア性の高い樹脂フィルム(金属膜等を備えた樹脂フィルム)で構成されている。
【0040】
図3に示すように、水素発生体15は外膜16が接着もしくは熱溶着されることで形成され、外膜16の内側が隔壁17により仕切られて物質収容部21(図中右側:送り方向後側)及び液体貯留部22(図中左側:送り方向前側)が構成されている。物質収容部21には金属水素化物18が収容され、液体貯留部22には反応用溶液19が貯留されている。外膜16は、物質収容部21に金属水素化物18が入れられて真空中または水素雰囲気中で接着もしくは熱溶着される。
【0041】
液体貯留部22に貯留される反応用溶液19の量は、物質収容部21に収容された金属水素化物18の量の加水分解反応に十分な量であり、また、加水分解による水和物の生成が抑制された状態で水素が発生する量に規定されている。即ち、反応効率(水素密度)が最大となる比率で反応用溶液19の量と金属水素化物18の量が決められている。
【0042】
金属水素化物18としては、例えば、水素化ホウ素塩、水素化アルミニウム塩、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化アルミニウムリチウム等が挙げられ、特に、水素化ホウ素ナトリウムが好ましい。反応用溶液19は金属水素化物18の加水分解を促進する促進剤の水溶液であり、促進剤としては、例えば、硫酸、リンゴ酸、クエン酸水等が挙げられ、特に、リンゴ酸が好ましい。
【0043】
金属水素化物18及び反応用溶液19は特に限定されるものではなく、金属水素化物18は加水分解型の金属水素化物であれば全て適用可能であり、反応用溶液19は水素を発生させる溶液であれば全て適用可能である。
【0044】
巻取りロール6(図1参照)でシート材7が巻き取られることにより、図4に示すように、シート材7が押圧ロール8側に移動し、液体貯留部22の外膜16が押し潰されて隔壁17が破断する。隔壁17が破断することにより反応用溶液19が物質収容部21に浸入し、金属水素化物18に反応用溶液19が接触して水素の発生反応が生じて水素が生成される。水素が生成されることにより外膜16の内部の圧力が高くなり、外膜16が破断して生成された水素が反応室2に放出される。この外膜16の破断は、押圧ロール8により物質収容部21が押し潰されることによるものでも良い。
【0045】
巻取りロール6(図1参照)によるシート材7の巻き取り速度、即ち、シート材7の移動速度を制御することにより、水素の発生量を制御することができる。前述したように、圧力センサー13(図1参照)の検出情報に基づいてシート材7の移動速度を制御することで、押圧ロール8での押圧を促進して水素の発生量を増加したり、押圧ロール8での押圧を抑制して水素の発生量を低くすることができる。これにより、反応室2(図1参照)の内部の水素の圧力を所望の圧力に維持することができる。
【0046】
上述した水素発生装置1は、シート材7に物質収容部21及び液体貯留部22からなる水素発生体15を設け、シート材7に移動により押圧ロール8で水素発生体15を押し潰すことで金属水素化物18に反応用溶液19を接触させて水素を発生させるので、所望量の水素を効率よく確実に発生させることができる。また、シート材7の移動速度を制御することで必要量の水素を容易に得ることができる。また、シート材7の姿勢に拘わらず金属水素化物18に反応用溶液19を接触させることができるので、使用形態に制約を受けることがない。
【0047】
従って、上述した水素発生装置1では、大掛かりな機構を要さずに必要量の水素を確実に発生させることが可能になる。
【0048】
尚、図5に示すように、水素発生体15の物質収容部21に浸透層部材23を設け、反応用溶液19を浸透層部材23に浸透させて金属水素化物18に接触させることも可能である。浸透層部材23を設けることにより、隔壁17が破断した後に速やかに反応用溶液19を金属水素化物18に接触させることができ、しかも、金属水素化物18に対して反応用溶液19を均等に接触させることができる。また、金属水素化物18を分散(含有)させた浸透層部材23とする、即ち、金属水素化物18が一体状態になった浸透層部材23とすることができ、反応用溶液19を速やかに確実に金属水素化物18に接触させることができる。
【0049】
図6から図10に基づいて水素発生体の他の実施例を説明する。
【0050】
図6、図7に基づいてシート材の片側に水素発生体が設けられた実施例を説明する。
【0051】
図6には片側に水素発生体を備えたシート材7の外観、図7には水素発生体の断面を示してある。尚、図2、図3に示した部材と同一部材には同一符号を付して重複する説明は省略してある。
【0052】
図6に示すように、帯状のシート材7の上面には長手方向に所定の間隔で物質部材としての水素発生体25が並設されている。また、水素発生体25を挟んでシート材7の上面には帯状の吸水シート26が設けられている。巻取りロール6(図1参照)でシート材7が巻き取られることにより、水素発生体25が押圧ロール8に順次押圧されて潰され、潰された水素発生体25で規定された量の水素(所望量の水素)が放出される。吸水シート26が設けられていることにより水分(反応用溶液や水蒸気等)が吸水され、気体(水素)だけが反応室2(図1参照)に放出される。
【0053】
図7に示すように、吸水シート26の内側の水素発生体25は外膜27がシート材7に接着もしくは熱溶着されることで形成され、外膜27の内側には隔壁となる内膜28がシート材7に接着もしくは熱溶着されている。外膜27と内膜28の間は物質収容部31とされ、内膜28の内側が液体貯留部32とされている。液体貯留部32がシート材7の送り方向前側(図中左側)に配され、物質収容部31がシート材7の送り方向後側(図中右側)に配されている。物質収容部31には金属水素化物18が収容され、液体貯留部32には反応用溶液19が貯留されている。
【0054】
外膜27と内膜28のシート材7の送り方向前側の部位はシート材7に対して剥がれないように一体的に固着され、内膜28のシート材7の送り方向前側の部位はシート材7に対して所定の力(液体貯留部32からの所定の力)で剥がれるように接着(溶着)されている。つまり、液体貯留部32が物質収容部31に内包され、液体貯留部32の容器である内膜28が隔壁となっている。
【0055】
尚、物質収容部31が液体貯留部32に内包される構成とすることも可能である。また、金属水素化物18の周囲に浸透層部材を設けることも可能である。更に、吸水シート26を省略したり、吸水シート26に代えて気液分離膜を備えることも可能である。
【0056】
巻取りロール6(図1参照)でシート材7が巻き取られることにより、シート材7が押圧ロール8側に移動し、水素発生体25が移動方向の前側から押し潰されて内膜28の後側が剥がれる(破断する)。内膜28の後側が剥がれることにより反応用溶液19が外膜27の内側に移動して物質収容部31に浸入し、金属水素化物18に反応用溶液19が接触して水素の発生反応が生じて水素が生成される。
【0057】
水素が生成されることにより外膜27の内部(水素発生体25の内部)の圧力が高く
なり、外膜27が破断して(端部が剥がれて)生成された水素が反応室2(図1参照)に放出される。また、水素が生成されることにより、物質収容部31の内部の圧力が高くなると同時に、押圧ロール8により水素発生体25(物質収容部21)が押し潰され、外膜27が破断して(端部が剥がれて)生成された水素が反応室2(図1参照)に放出されるものでも良い。このため、大掛かりな機構を要さずに必要量の水素を確実に発生させることが可能になる。
【0058】
図8から図10に基づいてシートの両側に水素発生体が設けられた実施例を説明する。
【0059】
図8から図10には両側に素発生体を備えたシート材7の断面をそれぞれ示してある。尚、図2、図3に示した部材と同一部材には同一符号を付して重複する説明は省略してある。
【0060】
図8に示すように、帯状のシート材7には、長手方向に所定の間隔で物質部材としての水素発生体35が並設されている。水素発生体35が設けられる部位のシート材7には隔壁部36が形成されている。隔壁部36の上側におけるシート材7には上膜37が接着もしくは熱溶着されて液体貯留部38が形成され、隔壁部36の下側におけるシート材7には下膜39が接着もしくは熱溶着されて物質収容部40が形成されている。物質収容部40には金属水素化物18が収容され、液体貯留部38には反応用溶液19が貯留されている。
【0061】
巻取りロール6(図1参照)でシート材7が巻き取られることにより、シート材7が押圧ロール8側に移動し、水素発生体35の上膜37が押し潰されて隔壁部36が破断する。隔壁部36が破断することにより反応用溶液19がシート材7の下側に移動して物質収容部40に浸入し、金属水素化物18に反応用溶液19が接触して水素の発生反応が生じて水素が生成される。
【0062】
水素が生成されることにより物質収容部40の内部の圧力が高くなり、下膜39が破断して(端部が剥がれて)生成された水素が反応室2(図1参照)に放出される。また、水素が生成されることにより物質収容部40の内部の圧力が高くなると同時に、押圧ロール8により物質収容部40が押し潰され、下膜39が破断して(端部が剥がれて)生成された水素が反応室2(図1参照)に放出されるものでも良い。このため、大掛かりな機構を要さずに必要量の水素を確実に発生させることが可能になる。
【0063】
図9に示すように、上膜37の内側にパンチ41を設けることが可能である。パンチ41を設けることにより、水素発生体35が押圧ロール8で押し潰された際に隔壁部36がパンチ41により機械的に破断される。これにより、シート材7の移動に応じて隔壁部36を確実に破断させることができる。
【0064】
また、図10に示すように、上膜37の内側にカッタ42を設けることが可能である。カッタ42を設けることにより、水素発生体35が押圧ロール8で押し潰された際に隔壁部36が切断され、隔壁部36の破断を機械的に促進する。これにより、シート材7の移動に応じて隔壁部36を確実に破断させることができる。
【0065】
尚、上述した例では、上膜37の内側にパンチ41やカッタ42を設けた例を挙げて説明したが、押圧ロール8の外周にパンチ41やカッタ42を設けることも可能である。この場合、パンチ41やカッタ42が水素発生体35に当接する押圧ロール8の回転位相に合わせ、反応用溶液19が外部に漏れないように、押圧ロール8の周面に凹部を形成する等して水素発生体35の部位を密閉する構造を採用することが好ましい。
【0066】
図11、図12に基づいてシートの両側に水素発生体が設けられた構成の具体例の一例を説明する。
【0067】
図11には水素発生体の断面、図12にはシート及び膜を構成するシート材の分解斜視状況を示してある。図示例の水素発生部は、図8に示した水素発生体35を基本構成とするものであり、吸水シート及び浸透層部材を含めて設けた例を挙げて説明してある。尚、図2、図3及び図8に示した部材と同一部材には同一符号を付して重複する説明は省略してある。
【0068】
図に示すように、水素発生体50のシート材7は隔壁部36を構成するために2枚のシート材7a、7bが重ねられて構成されている。また、下膜39は水素を放出する流路を形成するために2枚の下膜39a、39bが重ねられて構成されている。
【0069】
図8で説明したように、隔壁部36の上側におけるシート材7には上膜37が接着もしくは熱溶着されて液体貯留部38が形成され、隔壁部36の下側におけるシート材7には下膜39が接着もしくは熱溶着されて物質収容部40が形成され、物質収容部40には金属水素化物18が収容され、液体貯留部38には反応用溶液19が貯留されている。そして、物質収容部40には浸透層部材45が収容され、下膜39の下側には吸水シート46が備えられている。
【0070】
図12に示すように、隔壁部36として、シート材7の上側のシート材7aには上開口51が形成され、下側のシート材7bには下開口52が形成され、下開口52は上開口51に対して長手方向で搬送方向の前側に位置して形成されている。シート材7a、7bは上開口51と下開口52の間が接着され、接着部53は液体貯留部38が押圧ロール8で押し潰された際に剥がれる接着力で接着されている。
【0071】
また、下膜39の上側の下膜39aには上放出開口55が形成され、下側の下膜39bには下放出開口56が形成され、下放出開口56は上放出開口55に対して長手方向で搬送方向の後側に位置して形成されている。下膜39a、39bは上放出開口55と下放出開口56の間が接着され、接着部57は物質収容部40で水素が発生した際の圧力で剥がれる接着力で接着されている。
【0072】
巻取りロール6(図1参照)でシート材7が巻き取られることにより、シート材7が押圧ロール8側に移動し、水素発生体50の上膜37が押し潰されて接着部53が剥がされ、反応用溶液19が上開口51から下開口52を経て物質収容部40に浸入する。物質収容部40に反応用溶液19が浸入することにより、浸透層部材45を介して金属水素化物18に反応用溶液19が接触して水素の発生反応が生じて水素が生成される。
【0073】
水素が生成されることにより物質収容部40の内部の圧力が高くなって接着部57が剥がされ、水素が上放出開口55から下放出開口56を経て吸水シート46を透過して反応室2(図1参照)に放出される。このため、大掛かりな機構を要さずに必要量の水素を確実に発生させることが可能になる。
【0074】
上述した水素発生体50は、2枚のシート材7a、7bを重ねて隔壁部36を形成するとともに、2枚の下膜39a、39bを重ねて水素の放出経路を形成したので、複雑な加工(所定の強度の範囲内で部分的に強度を低下させる等)を行うことなく、隔壁部36及び水素の放出経路を形成することができる。
【0075】
図1に示すように、上述した水素発生装置では、巻取りロール6を駆動モータ11で駆動回転させることによりシート材7を搬送しているが、反応室2の内部の水素の圧力によりシート材7を搬送させることもできる。
【0076】
図13に基づいて水素の圧力によりシート材7を搬送させる機構を説明する。
【0077】
図13にはシート材7を搬送させる機構の概念構成を示してあり、(a)は反応室2の内部の圧力が高い状態、(b)(c)は反応室2の内部の圧力が低下した状態、(d)はシート材7を搬送している状態である。尚、シート材7及び反応室2は図1から図3に示した構成を適用して示してあり、同一部材には同一符号を付して重複する説明は省略してある。
【0078】
反応室2にはシリンダー61が設けられ、シリンダー61はシート材7の搬送方向に沿って延びて配されている。シリンダー61の一端(図中左端)は外部に開口し、シリンダー61の他端(図中右端)は反応室2の内部に開口している。シリンダー61の内部にはピストン62が摺動自在に設けられ、ピストン62は反応室2の内部と外部の圧力差によりシリンダー61を図中左右に摺動するようになっている。ピストン62には反応室2側に延びるピストンロッド63が設けられている。
【0079】
シリンダー61とシート材7の間には移動駒65がシート材7の搬送方向に沿って往復移動自在に備えられ、移動駒65は引張りばね69により図中左側に付勢保持されている。移動駒65は引張りばね69の付勢力に抗して図中右側端にある時にシート材7の下面に係合し、引張りばね69の付勢力で図中左側に移動する際にシート材7を伴って移動駒65が移動する。
【0080】
ピストンロッド63の先端(図中右端)には移動駒65に係止する爪部材66が設けられ、爪部材66はピストンロッド63が図中左端から図中右端に移動する際に移動駒65に係止し、ピストン62により図中右側に移動する際に移動駒65を伴ってピストンロッド63が移動する。
【0081】
ピストン62が図中右端に移動した際に、移動駒65が当接して移動駒65が爪部材66から外されると共にシート材7の下面に係合させる案内部材68が設けられている。つまり、ピストン62が図中右端に移動した場合、移動駒65が引張りばね69の付勢力に抗してピストンロッド63と共に図中右端に移動し、移動駒65が案内部材68に当接する。移動駒65が爪部材66から外されると同時にシート材7の下面に係合され、引張りばね69の付勢力によりシート材7を伴って移動駒65が図中左側に移動する。これにより、シート材7が図中左側に搬送される。
【0082】
図13(a)に示すように、反応室2の内部の水素の圧力が反応室の外部(大気圧)より高い場合、ピストン62が図中左端に位置してピストンロッド63の爪部材66が移動駒65に係止している。図13(b)に示すように、反応室2の水素が消費されて反応室2の内部の圧力が低下すると、大気圧によりピストン62が図中右側に移動し、移動駒65が引張りばね69の付勢力に抗してピストンロッド63と共に図中右側に移動する。
【0083】
図13(c)に示すように、移動駒65が図中右端に到達すると、案内部材68に当接して爪部材66から外されると同時にシート材7の下面に係合される。図13(d)に示すように、移動駒65がピストンロッド63の爪部材66から外されることで、引張りばね69の付勢力によりシート材7を伴って図中左側に移動する。これにより、シート材7が図中左側に搬送される。
【0084】
シート材7が搬送されることにより水素発生体15が押圧ロール8で押し潰されて水素が発生し、反応室2の圧力が大気圧よりも高くなる。反応室2の内部の圧力が上昇すると、ピストン62が図中右側に移動し、ピストンロッド63の爪部材66が移動駒65に係止して図13(a)の状態に戻る。以降、水素の消費と発生とが繰り返され、水素の圧力の変動によりシート材7が搬送される。
【0085】
このため、電力などの駆動源や電気的な制御手段を用いることなく、水素の発生状況により必要に応じた時期に(速度で)シート材7を搬送することが可能になる。
【0086】
尚、水素の発生状況によりピストン62の往復移動を移動駒65の往復移動としてシート材7を搬送させる例を挙げて説明したが、ラックギヤ及びピニオンギヤを介してピストン62の往復移動を回転動に変換してシート材7を搬送させることも可能である。
【0087】
図14に基づいて本発明の燃料電池システムを説明する。図14には本発明の一実施例に係る燃料電池システムの全体の状況を示してある。
【0088】
図示の燃料電池システムは、図1に示した水素発生装置1を燃料電池70に接続したシステムである。即ち、燃料電池70には燃料極室72が備えられ、燃料極室72は燃料電池セル71の燃料極に接する空間を構成している。燃料極室72には水素発生装置1の排出路9が接続されている。水素発生装置1で発生した水素は排出路9から燃料極室72に送液され、燃料極での燃料電池反応で消費される。
【0089】
上述した燃料電池設システムは、大掛かりな機構を要さずに必要量の水素を確実に発生させることができる水素発生装置1を備えた燃料電池システムとなる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、水素発生装置の産業分野で利用することができる。
【0091】
また、本発明は、水素発生装置を備えた燃料電池システムの産業分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0092】
1 水素発生装置
2 反応室
3 反応容器
4 水素発生部
5 繰出しロール
6 巻取りロール
7 シート材
8 押圧ロール
9 排出路
10 気液分離膜
11 駆動モータ
12 速度制御手段
13 圧力センサー
15、25、35 水素発生体
16、27 外膜
17 隔壁
18 金属水素化物
19 反応用溶液
21、31、40 物質収容部
22、32、38 液体貯留部
23、45 浸透層部材
26、46 吸水シート
28 内膜
36 隔壁部
37 上膜
39 下膜
41 パンチ
42 カッタ
51 上開口
52 下開口
53、57 接着部
55 上放出開口
56 下放出開口
61 シリンダー
62 ピストン
63 ピストンロッド
65 移動駒
66 爪部材
68 案内部材
69 引張りばね
70 燃料電池
71 電池セル
72 燃料極室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応用溶液と反応して水素を発生する水素発生物質を収容する物質収容部、及び、前記反応用溶液が貯留される液体貯留部を備えた物質部材と、
前記物質部材が保持される支持部材と、
前記物質部材に対して外力を付与して前記水素発生物質に前記反応用溶液を接触させる外力付与部材と、
前記外力付与部材に対して前記支持部材を相対的に移動させることで物質部材に外力を付与させる移動手段とを備える
ことを特徴とする水素発生装置。
【請求項2】
請求項1に記載の水素発生装置において、
前記支持部材は、帯状であり前記物質部材を長手方向に複数保持し、前記外力付与部材に対して長手方向に移動自在に備えられている
ことを特徴とする水素発生装置。
【請求項3】
請求項1もしくは請求項2に記載の水素発生装置において、
前記物質部材は、前記物質収容部または前記液体貯留部のいずれか一方が他方に内包され、
内包される側の前記物質収容部または前記液体貯留部の容器が前記物質収容部と前記液体貯留部とを隔てる隔壁となり、
前記外力付与部材は前記物質部材に対して外力を付与して前記隔壁を破断する
ことを特徴とする水素発生装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の水素発生装置において、
前記水素発生物質に前記反応用溶液が接触することにより発生した前記水素の発生状態を検出する水素発生状態検出手段と、
前記水素発生状態検出手段で検出された前記水素の発生状況に応じて前記移動手段を制御し、前記支持部材の前記外力付与部材に対する相対的な移動速度を制御する速度制御手段とを備えた
ことを特徴とする水素発生装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の水素発生装置において、
前記移動手段は、発生した前記水素の発生圧力が動作源である
ことを特徴とする水素発生装置。
【請求項6】
請求項2から請求項5のいずれか一項に記載の水素発生装置において、
帯状の前記支持部材は、繰出しロールに巻回されて繰出されて巻取りロールに巻き取られ、
前記外力付与部材は、前記繰出しロールと前記巻取りロールとの間で前記支持部材を押圧する押圧ロールである
ことを特徴とする水素発生装置。
【請求項7】
請求項6に記載の水素発生装置において、
前記移動手段は、前記巻取りロールを回転させる回転駆動手段である
ことを特徴とする水素発生装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の水素発生装置において、
前記物質部材は、水分を吸収する吸水材を備える
ことを特徴とする水素発生装置。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の水素発生装置において、
前記物質収容部に、前記反応用溶液を吸収し前記水素発生物質との接触を促進する浸透層部材を備える
ことを特徴とする水素発生装置。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の水素発生装置の前記水素が排出される経路に燃料電池の燃料極を有する室が接続され、発生した前記水素が前記燃料極に供給されることを特徴とする燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−166982(P2012−166982A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−29200(P2011−29200)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】