説明

水素製造設備併用発電システム、発電方法

【課題】ガス化ガスを燃料として発電する発電設備と、ガス化ガスから水素を分離することにより水素製造を行う水素製造設備の両設備においてガス化設備を共用化することにより、システム全体の利用率を向上させつつ、水素の製造を低コストで行えるようにする。
【解決手段】石炭や石油、バイオマス等の原料をガス化するガス化炉10と、この原料またはガス化したガスに水を供給する水供給装置50と、ガス化したガスを冷却する熱交換器20と、冷却したガスから水素を分離する水素分離装置30と、水素を分離した後のガスを燃料として発電する発電設備40とを備える発電システムとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
石炭や石油、バイオマス等の原料をガス化したガスを燃料として発電すると共に、ガス化したガスから水素製造を行うことが可能な発電システム及び発電方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、火力発電システムとして、石炭等の原料をガス化し得られたガス化ガスを燃料として発電する発電システムが知られている。また、近年では、水素を燃料とする燃料電池も注目されており、水素の製造方法としては、水を電気分解する方法や、各種燃料ガスを改質して水素を製造する方法が知られている。
【0003】
以上のような発電システムや水素製造に関して、例えば、特許文献1には、水の電気分解により水素を製造する際に発生する酸素を、ガス化複合発電システムのガス化剤として利用すると共に、発電した電気エネルギーを水素製造に利用するようにしたガス化複合発電システムが開示されている。また、特許文献2には、熱分解して生成したガスから水素を分離し、この水素を燃料として発電すると共に、水素を分離した後のガスを熱分解のための加熱用燃料として用いるようにした熱分解ガス化システムが開示されている。
【特許文献1】特開平10−17301号公報
【特許文献2】特開2000−313892号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、水素製造設備の建設コストおよびランニングコストが高いため、水素も高コストになってしまうという問題がある。特に、改質ガスから純度の高い水素を製造するには、水素分離・精製に多大なコストを要することになってしまう。
【0005】
一方、発電事業においては、発電需要のピークに対応できる設備容量を確保している。すなわち、電力設備容量は常に電力需要を上回っており、発電設備が有効活用できていない遊休容量が常に存在するという問題がある。また、一般に、部分負荷での運転は、定格運転時に比べて効率が低下するという問題もある。特に、夜間等発電需要の小さい時間帯には遊休容量は大きく、この遊休容量を有効に利用して、システムの利用率を向上させることが課題となっている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されたシステムは、電気分解の際の副生品である酸素を有効利用することを目的とするものであって、水素製造設備の建設に多大なコストがかかるとの問題を解決するものではなく、また、水素を回収するための水素分離・精製に多大なコストを要するとの問題も解決できていない。さらに、発電設備の遊休容量を有効に活用することは何ら考慮されていない。
【0007】
また、特許文献2に記載されたシステムでも、時間帯による負荷変動によって設備の遊休容量が変動することは想定されておらず、設備の遊休容量の有効活用は何ら考慮されていない。
【0008】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、ガス化ガスを燃料として発電する発電設備と、ガス化ガスから水素を分離することにより水素製造を行う水素製造設備の両設備においてガス化設備を共用化することにより、システム全体の稼動効率を向上させつつ、水素の製造を低コストで行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明に係る発電システムは、石炭や石油、バイオマス等の原料をガス化する手段と、前記原料または前記ガス化したガスに水を供給する水供給手段と、前記ガス化したガスを冷却する手段と、前記生成したガスから水素を分離する手段と、前記水素を分離した後のガスを燃料として発電する発電設備と、前記発電設備に対する発電指示量に応じて、前記水供給手段による水供給量を調整する水分量調整手段と、を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、ガス化手段によりガス化したガスから水素分離すると共に、水素分離後のガスを燃料として発電するので、ガス化設備を水素製造設備と発電設備とで共用できることになる。したがって、システム全体の発電容量から発電需要を差し引いた遊休容量分を水素生産に回すことで、システム全体の利用率を上げつつ、低コストで水素製造を行うことができる。また、生産した水素のうち純水素として回収できないものは、ガス化ガスに残存したままで発電用燃料として有効利用できる。したがって、水素分離・精製工程において水素回収率を無理に高める必要はないため、水素分離手段の低コスト化も図ることができる。
【0011】
また、本発明において、前記発電設備に対する発電指示量に応じて、前記水供給手段による水供給量を調整する水量調整手段を備えることとしてもよい。このようにすれば、電力需要の小さいときは、水供給量を増加させることにより、水素発生量を増加させ、その分、水素製造量を増加させると共に、発電設備に供給される燃焼ガスの量の減少により発電出力を減少させることができる。また、電力需要が大きいときは、水供給量を減少させることにより、水素発生量を減少させ、その分、水素製造量を増加させると共に、発電設備に供給される燃焼ガスの量の増加により発電出力を増加させることができる。すなわち、電力需要(すなわち、発電設備に対する発電指示量)に応じて水供給量を調整することにより、発電設備の発電出力を調整し、その変動分を水素製造量の変化で吸収することができる。
【0012】
また、水を供給するかわりに、水蒸気を供給することとしてもよい。
【0013】
また、前記発電設備に対する発電指示量に応じて、前記水素分離手段による水素分離量を調整する水素量調整手段を備えることとしてもよい。このようにすれば、電力需要の小さいときは、水素分離量を増加させることにより、水素製造量を増加させると共に、発電設備に供給される燃焼ガスの量の減少により発電出力を減少させることができる。また、電力需要が大きいときは、水素分離量を減少させることにより、水素製造量を減少させると共に、発電設備に供給される燃焼ガスの量の増加により発電出力を増加させることができる。すなわち、電力需要(すなわち、発電設備に対する発電指示量)に応じて水素分離量を調整することにより、発電設備の発電出力を調整し、その変動分を水素製造量の変化で吸収することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ガス化ガスを燃料として発電する発電設備と、ガス化ガスから水素を分離することにより水素製造を行う水素製造設備の両設備においてガス化設備を共用化することにより、システム全体の利用率を向上させつつ、水素の製造を低コストで行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は、本発明の一実施形態である水素製造設備併用発電システム(以下、単に発電システムという)1の全体構成図である。同図に示すように、本実施形態の発電システム1は、ガス化炉10、熱交換器20、水素分離装置30、発電設備40、水供給装置50、水素貯蔵庫60、及びコントローラ70を備えている。
【0016】
ガス化炉10には石炭または石油、バイオマス等の原料が投入され、これらの原料は、ガス化炉10内で熱分解されることにより揮発成分とチャー(C)となり、揮発成分と一部のチャーは燃焼する。これらの反応は下記の反応式1〜2に示す通りである。
石炭→揮発成分+チャー(C) (反応式1)
揮発成分→CO+HO (反応式2)
【0017】
また、燃焼せずに残ったチャー(C)は、揮発成分等の燃焼により生じた燃焼熱等を使って、ガス化炉10内のガスと下記の反応式3〜5に示すような反応してガス化し、CO、CH、H等が生成される。
チャー(C)+CO→2CO (反応式3)
チャー(C)+2H→CH (反応式4)
チャー(C)+HO→H+CO (反応式5)
【0018】
また、ガス化炉10へは水供給装置50から水が供給される。供給された水は、ガス化炉10内のガス化ガスやチャー(C)と下記の反応式5〜7に示すような反応をし、これにより水素が生成される。
チャー(C)+HO→CO+H (反応式6)
CH+HO→CO+3H (反応式7)
CO+HO→CO+H (反応式8)
【0019】
水供給装置50による水供給量は、コントローラ70により制御される。上記反応式6〜8から分かるように、水素の生成量は、ガス化炉10に供給される水の量に応じた量となる。したがって、コントローラ70により水の供給量を制御することにより、生成される水素の量を調整することができる。なお、ガス化炉10における反応を促進するために、ガス化炉10に触媒を装着してもよい。
【0020】
ガス化炉10で生成されたCO、CH、Hなどの熱分解ガスは、冷却手段としての熱交換器20に供給され、この熱交換器20にて冷却される。なお、上記した水供給装置50による水の供給は、ガス化炉10から熱交換器20へのガス供給路にて行ってもよい。
【0021】
熱交換器20で冷却された熱分解ガスは水素分離装置30に送られ、そこで水素が分離される。水素分離装置30により分離される水素の量はコントローラ70により制御される。なお、水素分離後の熱分解ガスに水素が残存していても、その水素はCOやCH等と共に発電設備40の燃料として有効に利用できるので、水素分離装置30における水素の分離効率は必ずしも高くなくてもよく、したがって、水素分離装置30のコストを抑えることが可能である。
【0022】
水素分離装置30で分離された水素は圧縮または液化されて、水素貯槽60に貯蔵される。また、水素の一部は水素冷却発電機の冷媒として使用することもできる。一方、水素が分離された後の熱分解ガスは、発電設備40に送られ、そこで発電用燃料として燃焼される。発電設備40は、複合発電(コンバインド・サイクル)、ガスタービン発電(オープン・サイクル)、汽力発電のいずれでも良い。発電設備40により発電された電力は、送電設備44を経由して系統に送電される。
【0023】
コントローラ70は、発電設備40に対する発電指示量が与えられ、この発電指示量に基づいて、上記のように、水供給装置50による水供給量あるいは水素分離装置30による水素分離量を制御する。
【0024】
すなわち、水供給装置50による水供給量が多いほど、生成される水素の量が増加し、その分、水素以外の燃焼ガスの量が減少して、発電設備40による発電量も減少する。したがって、例えば、水素分離装置30による水素分離量を一定量とした場合の、水供給量と発電量との関係(図2)を予め把握してコントローラ70に記憶させておき、コントローラ70はこの関係に従って、発電指示量に応じた発電量が得られるように水供給量を制御する。
【0025】
また、水素分離装置30による水素分離量が多いほど、発電設備40に供給される燃焼ガスの量が減少して発電設備40による発電量も減少する。したがって、例えば、水供給装置50による水供給量が一定量とした場合の、水素分離量と発電量との関係(図3)を予め把握して、コントローラ70に記憶させておき、コントローラ70はこの関係に従って、発電指示量に応じた発電量が得られるように水素分離量を制御する。
【0026】
このように、コントローラ70が水供給装置50による水供給量または水素分離装置30による水素分離量を制御することにより、発電指示量に応じて発電量を調整することができる。したがって、ガス化炉10への原料投入量を一定にして、発電システム1を安定に動作させながら、水素を製造することができ、電力需要の変動分は水素製造量の変化で吸収することができる。これにより、システム全体の稼動率を向上できると共に、低コストで水素製造を行うことが可能となる。
【0027】
以下、水供給量に基づいて発電量を調整する場合について、発電システム1の運転例を説明する。
【0028】
(1)運転例1
昼間時間帯等の電力需要が増加しているときは、水供給装置50からガス化炉10へ供給する水量をコントローラ70からの指令により減少させる。そうすると、ガス化炉内で生成される熱分解ガスのうち水素の量が減少し、その分だけ水素以外の熱分解ガスの量が増加する。発電設備40では、燃料として供給される、水素分離後の熱分解ガスの量が増加することにより発電量も増加する。これにより、昼間時間帯等の電力需要が増加しているときは、水素製造量を減らして、電力需要に見合った電力を発電することができる。
【0029】
(2)運転例2
夜間時間帯等の電力需要が減少しているときは、水供給装置50からガス化炉10へ供給する水量をコントローラ70からの指令により増加させる。そうすると、ガス化炉内で生成される熱分解ガスのうち水素の量が増加し、水素以外の熱分解ガスの量が減少する。発電設備40では、燃料として供給される、水素分離後の熱分解ガスの量が減少することにより発電量も減少する。これにより、夜間時間帯等の電力需要が減少しているときは、水素製造を増加することができる。すなわち、電力需要の減少分を水素製造に回すことができるので、多大な設備投資をせずに低コストで水素を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施形態である水素製造併用石炭ガス化ガス発電設備の全体構成図である。
【図2】水素分離装置による水素分離量を一定量とした場合の、水供給量と発電量との関係を示す図である。
【図3】水供給装置による水供給量が一定量とした場合の、水素分離量と発電量との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0031】
1 水素製造設備併用発電システム
10 ガス化炉
20 熱交換器
30 水素分離装置
40 発電設備
44 送電設備
50 水供給装置
60 水素貯槽
70 コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭や石油、バイオマス等の原料をガス化するガス化手段と、
前記原料または前記ガス化したガスに水を供給する水供給手段と、
前記ガス化したガスを冷却する冷却手段と、
前記冷却したガスから水素を分離する水素分離手段と、
前記水素を分離した後のガスを燃料として発電する発電設備と、を備えることを特徴とする水素製造設備併用発電システム。
【請求項2】
請求項1記載の水素製造設備併用発電システムにおいて
前記発電設備に対する発電指示量に応じて、前記水供給手段による水供給量を調整する水量調整手段を備えることを特徴とする水素製造設備併用発電システム。
【請求項3】
請求項1又は2記載の水素製造設備併用発電システムにおいて
前記発電設備に対する発電指示量に応じて、前記水素分離手段による水素分離量を調整する水素量調整手段を備えることを特徴とする水素製造設備併用発電システム。
【請求項4】
石炭や石油、バイオマス等の原料をガス化するステップと、
前記原料または前記ガス化したガスに水を供給する水供給ステップと、
前記ガス化したガスを冷却するステップと、
前記生成したガスから水素を分離するステップと、
前記水素を分離した後のガスを燃料として発電するステップと、を備えることを特徴とする発電方法。
【請求項5】
請求項4記載の発電方法において、
前記発電設備に対する指示発電量に応じて、前記水供給ステップにおける水供給量を調整する調整ステップを備えることを特徴とする発電方法。
【請求項6】
請求項4又は5記載の発電方法において、
前記発電設備に対する指示発電量に応じて、前記水素分離ステップによる水素回収量を調整する調整ステップを備えることを特徴とする発電方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−138900(P2007−138900A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−337449(P2005−337449)
【出願日】平成17年11月22日(2005.11.22)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】