説明

水素貯蔵材料、水素貯蔵材料の製造方法、水素吸蔵体、水素貯蔵装置及び燃料電池車両

【課題】繰り返し使用可能な水素貯蔵材料、水素貯蔵材料の製造方法、水素吸蔵体、水素貯蔵装置及び燃料電池自動車を提供する。
【解決手段】水素貯蔵材料1であって、室温以上に加熱されて水素を放出する粒子状の無機材料(第1の無機材料)7と、粒子状の無機材料7よりも熱伝導性が高い線状の無機材料(第2の無機材料)8との混合組成物を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、水素貯蔵材料、水素貯蔵材料の製造方法、水素吸蔵体、水素貯蔵装置及び燃料電池車両に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池車両に搭載するための固体高分子型燃料電池の開発競争が活発に繰り広げられている。このような燃料電池車両の実用化のために、低コスト、軽量で、かつ吸蔵密度の高い水素貯蔵材料を用いる効率的な水素吸蔵方法の開発が望まれている。特に近年、100[℃]以上の高温に加熱することにより水素を放出又は吸収することが可能な加熱水素放出型の水素貯蔵材料の利用に関する研究が注目を集めている。加熱水素放出型の水素貯蔵材料としては、錯イオンである4水素化アルミニウムイオン(AlH−)とアルカリ金属との塩であるアラネート系材料(特許文献1及び2参照)、金属アミドと金属水素化物を反応させて水素を放出させるアミド系材料(特許文献3及び4参照)が知られている。
【特許文献1】特表平11−510133号公報
【特許文献2】特表2002−522209号公報
【特許文献3】特開2005−112698号公報
【特許文献4】特開2005−95869号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、加熱水素放出型の水素貯蔵材料を使用する場合には、水素を放出させるために室温以上に加熱する必要があるが、この場合、短時間に材料を均一に加熱することが困難である。特に車載用の水素貯蔵材料として適用した場合、加熱に伴う水素放出量の追随が著しく困難であり、車両加速時に十分な水素を供給することができなくなるという課題がある。
【0004】
さらに、加熱水素放出型の材料は、水素吸放出時に室温以上の温度を必要とする特性のため、繰り返し使用すると材料粒子のシンタリングが発生して材料表面積の低下を招く。このような材料表面積の低下は水素吸放出能及び水素吸放出速度を著しく低下させ、車両適用時には水素吸放出に対する耐久性の低下及び水素放出速度の低下を引き起こすという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、本発明に係る水素貯蔵材料は、室温以上に加熱されて水素を放出する粒子状の第1の無機材料と、この第1の無機材料よりも熱伝導性が高い線状の第2の無機材料との混合組成物を含むことを特徴とする。
【0006】
本発明に係る水素貯蔵材料の製造方法は、室温以上に加熱して水素を放出する粒子状の第1の無機材料を調製し、第1の無機材料よりも熱伝導性が高い線状の第2の無機材料を調製し、第1の無機材料と第2の無機材料との混合物を得ることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る水素貯蔵体は、本発明に係る水素貯蔵材料を含むことを特徴とする。
【0008】
本発明に係る水素貯蔵装置は、本発明に係る水素吸蔵体を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る燃料電池車両は、本発明に係る水素貯蔵装置を搭載することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、加熱に伴う水素放出速度の応答性が高く、繰返し性能が向上した水素貯蔵材料が得られる。
【0011】
本発明によれば、加熱に伴う水素放出速度の応答性が高く、繰返し性能が向上した水素吸蔵能材料を簡便な手法で確実に製造することが可能となる。
【0012】
本発明によれば、加熱に伴う水素放出速度の応答性が高く、繰返し性能が高い水素吸蔵体及び水素貯蔵装置を実現することが可能となる。
【0013】
本発明によれば、加速性能に優れ、長期に渡り使用可能な燃料電池車両が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の最良の実施の形態に係る水素貯蔵材料、水素貯蔵材料の製造方法、水素吸蔵体、水素貯蔵装置及び燃料電池車両を添付図面に基づいて説明する。同じ部材又は要素は同じ参照符号で示し、説明を省略する。
【0015】
まず、図1〜図5を参照して、本発明の実施の形態に係る水素貯蔵材料、水素吸蔵体及び水素貯蔵装置の説明を行う。
【0016】
図1は本発明の実施の形態に係る車載用の水素吸蔵体2及び水素貯蔵装置3を示す断面図、図2は本発明の実施の形態に係る水素貯蔵材料1の模式図、図3は本発明の実施の形態に係る水素貯蔵材料11の模式図、図4は本発明の実施の形態に係る水素貯蔵材料21の模式図、図5は本発明の実施の形態に係る水素貯蔵材料31の模式図である。
【0017】
本発明の実施の形態に係る水素貯蔵材料1は、加圧成型により固形化又は薄膜化して水素吸蔵体2として利用される。水素吸蔵体2は、図1に示す水素流出口4と、水素流出口4から挿入された発熱体5を備えた耐圧容器6内部に封入され、車載用の水素貯蔵装置2として利用できる。発熱体5は、電気又は熱媒体によって加熱されるものであり、耐圧容器6の外部に配置した図示しない熱源に接続されており、水素貯蔵材料1を加熱する。発熱体5は抵抗発熱体であってもよく、この場合には、耐圧容器6の外部に配置した図示しない電源に接続されている。この発熱体は、熱伝性能を高めるため、フィンなどを付加したものであっても良く、または表面に凹凸をつけた形状であっても良い。
【0018】
このような水素貯蔵装置3は、車両に搭載して燃料電池システム又は水素エンジンシステムに組み込んで用いることができる。耐圧容器6の形状は単純な閉空間を有する形状の他に、内部にリブや柱を設けたものであっても良い。また、耐圧容器6の素材は、アルミニウム、ステンレス及びカーボン構造材料等、水素の吸蔵放出に耐え得る強度と化学的安定性を有する素材の中から選び出すことが好ましい。水素貯蔵材料1の加圧成型は、耐圧容器6内に水素貯蔵材料1を充填する前に行っても良く、水素貯蔵材料1を充填しながら同時に行っても良い。
【0019】
本発明の実施の形態に係る水素貯蔵材料1について詳細に説明する。本発明の実施の形態に係る水素貯蔵材料1は、図2に示すように、室温以上に加熱されて水素を放出する粒子状の無機材料7と、粒子状の無機材料7よりも熱伝導性が高い線状の無機材料8との混合組成物を含む。この水素貯蔵材料1は、水素吸蔵体2として耐圧容器6内部に封入され、一部が耐圧容器6内で電熱材5の壁面5aに接触し、電熱材5により加熱される。
【0020】
粒子状の無機材料7は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属元素から選ばれる金属と、水素とを含有するアルカリ金属アルミニウム水素化物を含むことが好ましい。また、アルカリ金属及びアルカリ土類金属元素から選ばれる金属と、水素と、ホウ素又は窒素のいずれかとを含有するアルカリ金属ホウ素水素化物又はアルカリ金属窒素水素化物であってもよい。さらに、アルカリ金属アルミニウム水素化物、アルカリ金属ホウ素水素化物及びアルカリ金属窒素水素化物から選択されるいずれか一つ以上を含有する混合組成物であっても良い。また、より好ましくは、3、4もしくは5族の遷移金属の化合物と、希土類化合物と水素吸蔵合金とを含む金属化合物群のいずれかの金属化合物が混合されていることが、高水素吸放出能、及び吸放出温度の低下の点で好ましい。
【0021】
線状の無機材料8は、粒子状の無機材料7と他の粒子状の無機材料7とを接続する。線状の無機材料8のうちの一部は、その一端8aが電熱材5の壁面5aに接触している。また、線状の無機材料8は粒子状の無機材料7よりも熱伝導性が高いため、線状の無機材料8は粒子状の無機材料7に電熱材5の熱を伝える媒体として作用し、粒子状の無機材料7表面近傍から粒子状の無機材料7内部への熱伝達を容易にする。このため、加熱による温度変化に対して応答性の高い水素貯蔵材料を実現できる。この効果を得るため、線状の無機材料8は少なくとも二つの粒子状の無機材料7と接触していることが好ましい。また、線状の無機材料8の熱伝導率は、十分な熱伝達速度と熱伝達量が得られるという理由より粒子状の無機材料7の熱伝導率の2倍以上であることが好ましい。
【0022】
線状の無機材料8は、線状の無機材料8の長手方向に沿って共有結合、イオン結合もしくは金属結合を有していることが熱伝導性の点から好ましく、線状の無機材料8は主に炭素を含むことが好ましい。線状の無機材料8が主に炭素を含む場合、線状の無機材料8の熱伝導率が高いほど加熱温度変化に伴う水素放出速度の応答性が向上するため、線状の無機材料8は良好な結晶性を有し、sp又はsp結合を主体とする結合からなることが好ましい。例えば、線状の無機材料8としては、結晶性の高い単層カーボンナノチューブ又は多層カーボンナノチューブ等があげられる。これらの線状の無機材料8を添加する場合には、添加する量を増やすにつれて熱伝導性が向上するが、過剰に添加すると水素貯蔵材料全体としての貯蔵量の低下がみられる。このため、添加量は水素貯蔵材料全体の貯蔵量を考慮して調節することが好ましい。
【0023】
線状の無機材料8は、主として物理吸着あるいは化学吸着により水素を貯蔵可能なことが好ましい。これにより、線状の無機材料8が熱伝導媒体として働く他に水素を貯蔵する役割を有し、さらに水素貯蔵材料1全体の水素貯蔵能の低下を抑制すると共に熱伝導性が高く、加熱に伴う水素放出速度の応答性が高い水素貯蔵材料が得られる。このとき、線状の無機材料8そのものが発熱あるいは吸熱することを避けるために、線状の無機材料8が水素を吸放出するのに必要な発熱もしくは吸熱量が小さいことが望ましい。
【0024】
線状の無機材料8は、水素雰囲気下において、室温〜400[℃]の温度で安定なことが必要である。これにより、室温より高い温度に加熱しても粒子状の無機材料7と線状の無機材料8が互いに反応を起こさないため、繰り返し水素の吸放出が可能となる。
【0025】
また、粒子状の無機材料7の表面近傍から粒子状の無機材料7内部への熱伝達を容易にするために、線状の無機材料8の少なくとも一方向での長さが粒子状の無機材料7の平均粒子直径よりも大きいことが好ましい。線状の無機材料8の余弦成分、つまり、直射での射影長さを線状の無機材料8の長さとし、その平均長さをd、軸線と直交する平面の余弦成分を半径と、その平均半径をrとする。この場合において、線状の無機材料8の平均半径に対する長さの比はd/rと表すことができる。また、粒子状の無機材料7の平均粒子半径をrとした場合、線状の無機材料8が隣接する粒子状の無機材料7の粒子間を締結して粒子間の熱伝導を促進するためには、d≧rであることが必要となる。
【0026】
線状の無機材料8が粒子状の無機材料7と接触し、水素貯蔵材料1全体が良好な熱伝導性を有するためには、水素貯蔵材料1は、粒子状の無機材料7が2粒子に対して線状の無機材料8を1粒子以上含有していることが好ましい。より好ましくは、粒子状の無機材料7が1粒子に対して線状の無機材料8が12粒子以上の割合で含まれていることが、充分な熱伝導を生じさせるために望ましい。つまり、線状の無機材料8が粒子状の無機材料7に対して12・π・r・dt・μ/((4/3)・π・r・μMH)以上、すなわち(9r・d/r)・(μ/μMH)以上の質量比率で混入されることが好ましい。ここで、μとμMHはそれぞれ線状の無機材料8と粒子状の無機材料7の材料密度を示す。例えば、r=30[μm]、r=1[μm]、μ=0.5[g/cm]、μMH=1.0[g/cm]の場合には、粒子状の無機材料7に対して約0.5[wt%]以上の質量比率で混合されていることが好ましい。
【0027】
なお、粒子状の無機材料を水素貯蔵材料として単独で用いた場合には、粒子状の無機材料の水素貯蔵反応が比較的高温で行われるため粒子状の無機材料7が凝集(シンタリング)する。このため、水素貯蔵能が低下し、繰り返し使用に耐えない。これに対し、本発明の実施の形態に係る水素貯蔵材料1では、粒子状の無機材料7と線状の無機材料8との混合組成物からなるため、線状の無機材料8が粒子状の無機材料7の凝集を抑制する。このため、水素貯蔵材料1の繰返し性能が向上する。
【0028】
線状の無機材料は、水素貯蔵材料の表面からの熱を効率的に水素貯蔵材料内部に伝達するためのものであり、図2に示した線状の無機材料8に限らず1次元多様体状の無機材料であれば他の形状でもよい。例えば図3に示す水素貯蔵材料11のように、無機材料18は発熱体5の壁面5aに接触した一端18aから樹状に枝分かれした樹状形状であってもよい。また、図3に示す水素貯蔵材料21のように、一端28aが発熱体5の壁面5aに接触した二次元もしくは三次元の網状のネットワークであってもよく、図5に示す水素貯蔵材料31のように、無機材料38の一端38aが発熱体5の壁面5aに接触したらせん状の形状を有しているものでもよい。
【0029】
このように本発明の実施の形態に係る水素貯蔵材料は、室温以上に加熱されて水素を放出する粒子状の無機材料と、粒子状の無機材料よりも熱伝導性が高い線状の無機材料との混合組成物を含むことにより、加熱に伴う水素放出速度の応答性が高く、繰返し性能が向上した水素貯蔵材料が得られる。
【0030】
また、本発明の実施の形態に係る水素吸蔵体は、水素貯蔵材料内部まで熱伝達が容易であり、加熱に伴う水素放出速度の応答性が高く、繰返し性能が向上した水素貯蔵材料を使用しているため、熱交換器もしくはヒータへの熱付与に伴う応答性が高く、繰返し性能が高い水素吸蔵体が得られる。また、この水素吸蔵体を備えるため、本発明の実施の形態に係る水素貯蔵装置は、熱交換器もしくはヒータへの熱付与に伴う応答性が高く、繰返し性能が高い水素貯蔵装置を実現することが可能となる。
【0031】
次に、本発明の実施の形態に係る水素貯蔵材料の製造方法について説明する。この水素貯蔵材料の製造方法は、室温以上に加熱して水素を放出する粒子状の無機材料を調製し、粒子状の無機材料よりも熱伝導性が高い線状の無機材料を調製し、粒子状の無機材料と線状の無機材料との混合物を得ることを特徴とする。この水素貯蔵材料の製造方法により、室温以上に加熱されて水素を放出する粒子状の無機材料と、粒子状の無機材料よりも熱伝導性が高い線状の無機材料との混合組成物を含む水素貯蔵材料を、簡便な手法で確実に製造することが可能となる。
【0032】
混合物を得る場合には、2種以上の粒子状の無機材料と線状の無機材料とを同時に物理混合することが好ましい。この物理混合は、粉砕メディアによるボールミリングを含み、急激な反応を防止するために、ボールミリングは不活性雰囲気下又は水素雰囲気下で行われることが好ましい。
【0033】
このように、本発明の実施の形態に係る水素吸蔵材料の製造方法よれば、室温以上に加熱されて水素を放出する粒子状の無機材料と、粒子状の無機材料よりも熱伝導性が高い線状の無機材料との混合組成物を含むことにより、加熱に伴う水素放出速度の応答性が高く、繰返し性能が向上した水素貯蔵材料を、簡便な手法で確実に製造することが可能となる。
【0034】
次に、本発明の実施の形態に係る燃料電池車両について説明する。図6に、本発明の実施の形態に係る水素貯蔵装置3を搭載する燃料電池車両40を示す。このとき、燃料電池車両40に設置搭載する水素貯蔵装置3は一つ又は二つ以上に分割しても良く、複数の水素貯蔵装置の形状はそれぞれ異なったものでも良い。また、エンジンルームやトランクルーム内部、あるいはシート下のフロア部等の車室内部の他に、ルーフ上部等の車室外に水素貯蔵装置3を設置することも可能である。
【0035】
本実施の形態の係る燃料電池車両では、熱交換器もしくはヒータへの熱付与に伴う応答性が高く、繰返し性能が高い水素貯蔵装置を搭載しているため、加速時に水素を迅速に発生させることが可能となり、車両加速に必要な水素を十分に燃料電池に供給することが可能となり、加速性能に優れ、長期に渡り使用可能な燃料電池車両が得られる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例1〜実施例6及び比較例1〜比較例2により本発明について更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。実施例1〜実施例6及び比較例1〜比較例2では、高熱伝導性を有する線状の無機材料の添加比率を変えたものである。
【0037】
1.試料の調製
実施例1
粒子状の無機材料としてNaAlHを用いた。Ar雰囲気下、エーテル溶液中に塩化チタンとNaAlHを懸濁し、エーテルを除去した。Tiイオンの添加量は2[mol%]とした。得られたTi添加NaAlHと線状の無機材料である単層カーボンナノチューブとを、Ar雰囲気下、メノウ乳鉢で物理混合した。単層カーボンナノチューブの添加量は3[wt%]とした。
【0038】
実施例2
粒子状の無機材料としてNaAlHを用いた。Ar雰囲気下、エーテル溶液中に塩化チタンとNaAlHを懸濁し、エーテルを除去した。Tiイオンの添加量は2[mol%]とした。得られたTi添加NaAlHと線状の無機材料である単層カーボンナノチューブを、Ar雰囲気下、メノウ乳鉢で物理混合した。単層カーボンナノチューブの添加量は5[wt%]とした。
【0039】
実施例3
粒子状の無機材料としてNaAlHを用いた。Ar雰囲気下、エーテル溶液中に塩化チタンとNaAlHを懸濁し、エーテルを除去した。Tiイオンの添加量は2[mol%]とした。得られたTi添加NaAlHと線状の無機材料である単層カーボンナノチューブを、Ar雰囲気下、メノウ乳鉢で物理混合した。単層カーボンナノチューブの添加量は10[wt%]とした。
【0040】
実施例4
粒子状の無機材料としてLiNH及びLiHを用いた。LiNHとLiHの混合比が2:1になるように配合し、線状の無機材料である単層カーボンナノチューブを3[wt%]添加した後にボールミルにより5[時間]物理混合した。
【0041】
実施例5
粒子状の無機材料としてLiNH及びLiHを用いた。LiNHとLiHの混合比が2:1になるように配合し、線状の無機材料である単層カーボンナノチューブを5[wt%]添加した後にボールミルにより5[時間]物理混合した。
【0042】
実施例6
粒子状の無機材料としてLiNH及びLiHを用いた。LiNHとLiHの混合比が2:1になるように配合し、線状の無機材料である単層カーボンナノチューブを10[wt%]添加した後にボールミルにより5[時間]物理混合した。
【0043】
比較例1
粒子状の無機材料としてNaAlHを用いた。Ar雰囲気下、エーテル溶液中に塩化チタンとNaAlHを懸濁し、エーテルを除去した。Tiイオンの添加量は2[mol%]とした。得られたTi添加NaAlHを、Ar雰囲気下、メノウ乳鉢で物理粉砕した。
【0044】
比較例2
粒子状の無機材料としてLiNH及びLiHを用いた。LiNHとLiHの混合比が2:1になるように配合しボールミルにより5[時間]物理混合を行なった。
【0045】
2.水素貯蔵材料の水素貯蔵能測定
実施例1〜実施例6及び比較例1〜比較例2で得られた試料について、水素放出性能を測定した。始めに水素貯蔵材料に対して、PCT法(JIS H 7201)にて吸放出処理を行なった。水素放出反応は100[℃]、水素貯蔵反応は300[℃]とした。水素放出−貯蔵反応を1サイクルとして3サイクル繰り返した後に室温に保持し、示差熱重量法にて水素放出速度の測定を行なった。示差熱重量法はAr雰囲気中で行い、昇温速度は1[℃/min]〜50[℃/min]とし、最高温度300[℃]まで測定した。測定には、試料20[mg]を用いた。
【0046】
表1は、粒子状無機材料としてNaAlHを用いた実施例1〜実施例3及び比較例1の昇温速度と、300[℃]到達時の水素放出能との関係を示したものである。
【表1】

【0047】
比較例1では昇温速度が増加するに伴い急速に水素放出量が低下する傾向にあるが、実施例1〜実施例3では昇温速度が増加した場合であっても水素放出量が急激に低下せず、水素放出能の低下が抑制されていることがわかった。また、線状の無機材料として添加した単層カーボンナノチューブの量が多い方が水素放出能の低下が抑制されていた。このことから、単層カーボンナノチューブが高い熱伝導性を有し、NaAlHの熱伝達を容易にするため、水素貯蔵材料の加熱による温度変化に対して応答性が高くなったと考えられる。
【0048】
表2は、実施例4〜実施例6及び比較例2の昇温速度と300[℃]到達時の水素放出能との関係を示したものである。
【表2】

【0049】
粒子状の無機材料としてLiNH及びLiHを用いた場合にも、粒子状の無機材料としてNaAlHを用いたときと同様の結果が得られた。つまり、比較例2では昇温速度が増加するに伴い急速に水素放出量が低下する傾向にあるが、実施例4〜実施例6では昇温速度が増加した場合であっても水素放出量が急激に低下せず、水素放出能の低下が抑制されていることがわかった。また、線状の無機材料として添加した単層カーボンナノチューブの量が多い方が水素放出能の低下が抑制されていた。
【0050】
以上の結果より、実施例1〜実施例6で得られた水素貯蔵材料は、水素放出の応答性能が向上したことがわかった。
【0051】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、上記実施の形態の開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解するべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施の形態に係る水素吸蔵体及び水素貯蔵装置を示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る水素貯蔵材料の一例を示す模式図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る水素貯蔵材料の一例を示す模式図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る水素貯蔵材料の一例を示す模式図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る水素貯蔵材料の一例を示す模式図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る燃料電池車両を示す側面図である。
【符号の説明】
【0053】
1 水素貯蔵材料
7 粒子状の無機材料(第1の無機材料)
8 線状の無機材料(第2の無機材料)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
室温以上に加熱されて水素を放出する粒子状の第1の無機材料と、
前記第1の無機材料よりも熱伝導性が高い線状の第2の無機材料との混合組成物を含むことを特徴とする水素貯蔵材料。
【請求項2】
前記第2の無機材料の熱伝導率は、前記第1の無機材料の熱伝導率の2倍以上であることを特徴とする請求項1に記載の水素貯蔵材料。
【請求項3】
前記第2の無機材料は、主に炭素を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の水素貯蔵材料。
【請求項4】
前記第2の無機材料は、水素を貯蔵可能なことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の水素貯蔵材料。
【請求項5】
前記第2の無機材料は、1次元多様体状の無機材料を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の水素貯蔵材料。
【請求項6】
前記第2の無機材料は、前記1次元多様体状の無機材料の長手方向に沿って共有結合、イオン結合もしくは金属結合を有していることを特徴とする請求項5に記載の水素貯蔵材料。
【請求項7】
前記第2の無機材料は、単層カーボンナノチューブ又は多層カーボンナノチューブを含むことを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の水素貯蔵材料。
【請求項8】
前記第2の無機材料は、少なくとも一方向での長さが前記第1の無機材料の平均粒子直径よりも大きいことを特徴とする請求項5乃至請求項7のいずれか一項に記載の水素貯蔵材料。
【請求項9】
前記水素貯蔵材料は、前記第1の無機材料2粒子に対して前記第2の無機材料を1粒子以上含有していることを特徴とする請求項5乃至請求項8のいずれか一項に記載の水素貯蔵材料。
【請求項10】
前記第1の無機材料は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属元素から選ばれる金属と、水素とを含有する第1の材料を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれか一項に記載の水素貯蔵材料。
【請求項11】
前記第1の無機材料は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属元素から選ばれる金属と、水素と、ホウ素又は窒素のいずれかとを含有する第2の材料を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれか一項に記載の水素貯蔵材料。
【請求項12】
前記第1の無機材料は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属元素から選ばれる金属と、水素とを含有する第1の材料と、アルカリ金属及びアルカリ土類金属元素から選ばれる金属と、水素と、ホウ素又は窒素のいずれかとを含有する第2の材料との混合組成物を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれか一項に記載の水素貯蔵材料。
【請求項13】
室温以上に加熱して水素を放出する粒子状の第1の無機材料を調製し、
前記第1の無機材料よりも熱伝導性が高い線状の第2の無機材料を調製し、
前記第1の無機材料と前記第2の無機材料との混合物を得ることを特徴とする水素貯蔵材料の製造方法。
【請求項14】
2種以上の前記第1の無機材料と前記第2の無機材料とを同時に物理混合して前記混合物を得ることを特徴とする請求項13に記載の水素貯蔵材料の製造方法。
【請求項15】
前記物理混合は、粉砕メディアによるボールミリングを含むことを特徴とする請求項14に記載の水素貯蔵材料の製造方法。
【請求項16】
前記ボールミリングは、不活性雰囲気下又は水素雰囲気下で行われることを特徴とする請求項15に記載の水素貯蔵材料の製造方法。
【請求項17】
請求項1乃至請求項12のいずれか一項に係る水素貯蔵材料を含むことを特徴とする水素吸蔵体。
【請求項18】
請求項17に係る水素吸蔵体を備えることを特徴とする水素貯蔵装置。
【請求項19】
前記水素吸蔵体を、耐圧タンク中に封入したことを特徴とする請求項18に記載の水素貯蔵装置。
【請求項20】
請求項19に係る水素貯蔵装置を搭載することを特徴とする燃料電池車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−229588(P2007−229588A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−53013(P2006−53013)
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】