説明

水素透過膜の製造方法

【課題】ピンホールの発生を抑止し、膜厚が薄く、水素透過性が良好である水素透過膜の製造方法を提供する。
【解決手段】スパッタリング法で基板上にPd層またはPd合金層を成膜するスパッタリング工程(S2)と、得られたPd層またはPd合金層を前記基板から剥離する剥離工程(S4)と、剥離したPd層またはPd合金層を少なくとも2層となるように重ね合わせ、400℃〜1200℃の温度にて、真空中で熱処理することにより、一体構造のPd膜またはPd合金膜を得る熱処理工程(S5)とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素ガスを含む混合ガスから水素ガスを選択的に透過および分離させるための水素透過膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体用シリコン製造工程において還元ガスとして使用される高純度水素を精製する装置において、Pd膜またはPd合金膜を用いた水素透過膜が使用されている。また、近年、低公害エネルギーとして燃料電池が注目されているが、この燃料電池の燃料として用いる水素ガスを精製および分離する装置に、Pd膜またはPd合金膜を用いた水素透過膜を適用することが検討されている。
【0003】
かかるPd膜およびPd合金膜の水素透過性は、様々なガス成分の中で水素ガスだけが、膜中に水素原子となって溶解し、膜の反対側まで拡散し、水素原子同士が結合して再び水素分子に戻ることにより、発現する。
【0004】
水素透過膜の水素透過流量J(molH2・m-2・sec-1)は、水素透過係数φ(molH2・m-1・sec-1・Pa-0.5)、加圧側の水素分圧Ph(Pa)、透過側の水素分圧Pl(Pa)、および水素透過膜の膜厚d(m)を用いて、次式のように表される。
【0005】
J=φ・(Ph0.5−Pl0.5)/d
【0006】
この式から、膜厚が薄いほど、水素透過流量Jが増加することが理解される。例えば、温度を400℃、加圧側の水素分圧を0.2MPa、透過側の水素分圧を常圧とした条件で、膜厚が20μmであるPd膜の水素透過流量Jが20mL/min・cm2であった場合、膜厚を1/20の1μmにすると、水素透過流量Jは、20倍の400mL/min・cm2まで増加する。ここで、Pdの使用量は膜厚に比例するので、Pdの使用量は1/20となる。このため、膜厚を薄くすることは、水素透過膜の水素透過性および材料費の両面から有利である。
【0007】
ただし、膜厚を薄くすると、ピンホール欠陥が増加して、水素透過膜の選択機能が損なわれるという問題がある。
【0008】
これに対して、特許文献1には、浮遊型コールドクルーシブル溶解法により得たPd合金インゴットから、ピンホールの原因となるインゴット中の介在物を除去し、該インゴットを鍛造および圧延することにより、水素透過膜を得る方法が開示されている。しかしながら、圧延により得られる水素透過膜の膜厚には限界があり、膜厚が5μm以下で、かつ、リークのない水素透過膜を得ることは困難である。
【0009】
また、特許文献2には、複数のTa箔を重ねて、両面からPd箔で挟んで、ホットプレスにより接合した後、圧延する水素透過膜の製造方法が開示されている。この方法では、Ta箔を重ねることで、それぞれのTa箔にピンホールが生じていても、Ta箔全体としてリークの可能性を減ずることにより、透過する水素の純度を向上させている。しかしながら、ホットプレスを用いて接合する際に、リークの原因となる欠陥が導入されやすく、また、圧延により膜を得ていることから、同様に、膜厚が5μm以下で、かつ、リークのない水素透過膜を得ることは困難である。また、TaとPdの拡散接合層が厚くなると、水素透過性を高く維持することができないという問題もある。
【0010】
一方、特許文献3には、スパッタリング法を用いて、基板上にPd膜またはPd合金膜を形成し、基板から剥離することで、圧延では作製することが困難である膜厚5μm以下のPd合金膜を得ることが開示されている。しかしながら、ピンホールの発生を抑制するためには、スパッタリングに用いる基板の洗浄およびハンドリングなど、製造工程における高度のクリーン化が要求され、かかるクリーン化が不十分であるとピンホールの発生が増加してしまうことから、水素透過膜の製造において品質の管理に手間がかかるという問題がある。
【特許文献1】特開2006−175379号公報
【特許文献2】特開2004−202479号公報
【特許文献3】特開2005−218963号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、スパッタリング法を用いて、膜厚が薄く、水素透過性が良好である水素透過膜を得る際に、ピンホールの発生を効果的に抑制しうる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、このような課題に対して鋭意研究を重ねた結果、スパッタリング法により得られたPd膜またはPd合金膜を、相互に重ね合わせると、吸着しあって強固に固着し、重ね合わせたPd膜またはPd合金膜を真空中で熱処理して、一体構造の水素透過膜を得ることにより、前述の問題点を解決することができることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させた。
【0013】
本発明に係る水素透過膜の製造方法は、スパッタリング法で基板上にPd層またはPd合金層を成膜する工程と、得られたPd層またはPd合金層を前記基板から剥離する工程と、剥離したPd層またはPd合金層を少なくとも2層となるように重ね合わせ、400℃〜1200℃の温度にて、真空中で熱処理することにより、一体構造のPd膜またはPd合金膜を得る工程とからなることを特徴とする。
【0014】
前記成膜工程において、前記Pd層またはPd合金層の外周部に、Pd層またはPd合金層より厚い枠体を形成することが好ましい。
【0015】
なお、最終的に得られる前記一体構造のPd膜またはPd合金膜の厚さを、5μm以下とすることが好ましい。
【0016】
本発明の水素透過膜は、前記のいずれかの製造方法により得られ、Pd層またはPd合金層の成膜において発生したピンホールが、膜の厚さ方向に連通していない一体構造のPd膜またはPd合金膜からなる。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、製造工程における高度のクリーン化を要求することなく、スパッタリング法により、ピンホールによる欠陥がなく、水素透過性が良好である5μm以下の水素透過膜を得ることができる。従って、水素を精製および分離する装置の材料である水素透過膜を低コストでかつ効率的に提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面を用いて説明する。
【0019】
本発明の一態様における水素透過膜の製造方法は、図1に示すように、洗浄工程(S1)、スパッタリング工程(S2)、枠体形成工程(S3)、剥離工程(S4)および熱処理工程(S5)からなる。
【0020】
まず、洗浄工程(S1)において、Pd層またはPd合金層を形成するための基板を洗浄する。この工程は任意であり、清浄な基板が準備される場合等には不要である。
【0021】
基板には、スパッタリング工程(S2)で成膜中にPd層またはPd合金層が自然剥離しない程度に強い付着力が得られ、剥離工程(S4)で基板上に形成されたPd層またはPd合金層を剥離可能であれば、任意の材料からなるものでよい。例えば、平滑なガラス板や、Siウェハ、表面に酸化物または窒化物が被覆された金属板を用いることができる。
【0022】
基板の洗浄方法としては、例えば、超音波洗浄、ベーパー洗浄などが挙げられる。また、代替的または付加的に、スパッタリング装置内で基板にスパッタエッチングを施してもよい。基板の洗浄により、基板に起因するピンホール発生原因を排除することができる。
【0023】
なお、洗浄後に基板をスパッタリング装置に取り付ける際に、この作業を、粉塵を抑制するクリーンルームなどの特別な設備内で行う必要はない。
【0024】
次いで、スパッタリング工程(S2)において、洗浄後の基板を装着したスパッタリング装置を用いて、スパッタリング法により、基板上にPd層またはPd合金層を形成する。
【0025】
Pd層またはPd合金層の材料としては、純Pd、Pd−Ag合金、Pd−Cu合金、Pd−希土類合金などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
また、スパッタリング条件は、Pd層およびPd合金層を形成するための公知の条件に従えばよい。
【0027】
成膜により得られるPd層またはPd合金層の厚さは、0.1μm〜5μmとする。厚さが5μmを超えると、最終的に得られる水素透過膜において、水素透過性が不十分となる。一方、膜厚が0.1μm未満では、Pd層またはPd合金層を基板から剥離することが困難となる。なお、薄膜を損傷することなく、基板からの剥離などのハンドリングを可能とする手段がある場合には、0.1μm未満であってもよい。また、最終的には、これらのPd層またはPd合金層は少なくとも2層に重ね合わされてPd膜またはPd合金膜を形成するため、2μm以下とすることが好ましい。
【0028】
スパッタリング工程(S2)に引き続き、枠体形成工程(S3)において、基板上のPd層またはPd合金層にマスキングを施し、該Pd層またはPd合金層の外周部に、スパッタリングによる金属膜の成膜を行い、Pd層またはPd合金層よりも厚い枠体を形成する。該金属膜としては、PdまたはPd合金が好ましいが、Pd層またはPd合金層と反応して脆い金属間化合物を生成しない材料、例えば、CuまたはCu合金を用いることができる。
【0029】
これにより、Pd層またはPd合金層を基板より剥離させる際、および、剥離したPd層またはPd合金層を重ね合わせる際に、ハンドリングが容易となる。該枠体の厚さは、5μm〜50μmとすることが好ましい。また、枠体は、Pd層またはPd合金層の外周縁より2mm〜20mmの幅に形成することが好ましい。
【0030】
次いで、剥離工程(S4)において、このPd層またはPd合金層を基板から剥離する。基板からPd層またはPd合金層を剥離するには、例えば、機械的に引き剥がしてもよいし、水素ガスを用いて剥がしてもよい。また、例えば、硝酸などの無機酸に浸漬することにより剥離してもよい。かかる手段は、Pd層またはPd合金層の膜厚および組成により、適宜、選択される。
【0031】
次いで、熱処理工程(S5)において、剥離工程により得られたPd層またはPd合金層を少なくとも2層となるように重ね合わせて、その後、重ね合わされたPd層またはPd合金層に、真空中で熱処理を施す。
【0032】
Pd層またはPd合金層を重ね合わせるとは、剥離した2枚以上の層を重ね合わせることのほか、1枚の層を折り畳むこと、および、これらの組み合わせを含む。Pd層またはPd合金層を重ね合わせると、相互に吸着して強固に固着する。具体的には、SUSメッシュを用意し、このメッシュの両面に剥離工程で得られたPd層またはPd合金層を配置した後、メッシュだけを引き抜くことで2枚を重ね合わせることができる。
【0033】
その後、Pd層またはPd合金層を重ね合わせた膜に、真空中で熱処理を施すと、層間が接合して1枚の膜からなる一体構造となる。
【0034】
真空中での熱処理は、該膜を、平らな板の上に載せて行う。平らな板としては、アルミナ、ジルコニアなどのセラミックス焼結板、または、アルミナやTiNなどのセラミックスを被覆した金属板などを用いることができる。金属板を単体で用いるとPdと反応するため、金属板を単体で用いることは好ましくない。以上のように、Pdと化学的に反応しない材料であればよい。
【0035】
真空中の熱処理温度は、400℃〜1200℃とする。好ましくは500℃〜1000℃である。400℃より低い温度では、Pd膜およびPd合金膜同士の拡散接合が不十分になり、膜が一体化されないおそれがある。一方、1200℃を超える温度では、Pd膜またはPd合金膜が変形するおそれがある。
【0036】
本発明では、スパッタリング法により、5μm以下、具体的には、0.1μm〜2μm程度のきわめて薄いPd膜またはPd合金膜を得られ、水素透過膜の水素透過性を向上させることができる。また、このような薄膜でありながら、製造工程に起因して、各Pd層またはPd合金層に僅かなピンホールが存在していても、これらを重ね合わせることにより、各層のピンホールを連通させずに、膜全体としてのピンホールの発生を防止することができる。さらに、各Pd層またはPd合金層に若干のピンホールが存在することが許容されることから、基板の洗浄やハンドリングに際してクリーン化を必要以上に徹底する必要はない。むろん、これらの管理を向上させれば、さらにピンホールに起因する欠陥のないPd膜またはPd合金膜が得られるが、これらは管理コストの関係で選択されうる。
【0037】
以上、本発明を説明してきたが、本発明は前述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本質を逸脱しない範囲で、種々の変形が可能であることはいうまでもない。
【実施例】
【0038】
(実施例1)
50mm×50mmの大きさのクラウンガラス基板(松浪硝子工業株式会社製)をエタノール中で20分間、超音波洗浄した。次いで、Pdターゲットと共に、スパッタリング装置(ULVAC社製、SBH2306RDE)に取り付けた。その後、スパッタリング装置内を5×10-4Pa以下に真空排気した後、Arガス圧1Paにおいて、RF200Wで基板のスパッタエッチングを行った。続いて、PdターゲットにDC1.0Aの電流を流し、基板上に膜厚が1μmであるPd層を形成した。
【0039】
次に、Pd層をピンセットでつまんで基板から引き剥がした。剥離したPd層の大きさは、50mm×50mm、膜厚は1μmであった。このPd層を光学顕微鏡で観察したところ、透過光によって確認されるピンホール数は、1cm2当たり0.15個であった。
【0040】
得られたPd層を2つ折りにすると、重ね合わされた層面が相互に強く吸着した。Pd層の大きさは、25mm×50mmとなった。その後、該Pd層をアルミナ板に載せて、真空加熱炉に入れ、5×10-3Paまで真空排気した後、600℃で2時間、熱処理を施したところ、膜厚が2μmで、一体構造のPd膜が得られた。得られたPd膜を、再び、光学顕微鏡で観察したところ、ピンホールによる透過光は認められなかった。
【0041】
次に、得られたPd膜をφ10mmの大きさに切り取って、多孔質支持体と重ね合わせて、水素透過膜とし、本発明者が作製した透過面φ8mmの水素透過測定装置に取り付けた。水素透過測定装置内を真空排気した後、窒素ガスを導入することにより、水素透過膜に0.8MPaの加圧を行った結果、ピンホールからの窒素ガスの漏れは認められなかった。
【0042】
次に、水素透過測定装置の電気炉を加熱して、500℃に昇温し、窒素ガスから水素ガスに置換して、水素透過膜に0.2MPaの圧力を加えたところ、マスフローメータ(日本アエラ株式会社製、FM−390)により、1atm、0℃で、114cm3/minの水素透過流量が測定された。測定された水素透過流量は、Pdの公知の水素透過係数から計算された、膜厚が2μmのPd膜の水素透過流量と一致した。その測定結果を表1に示す。
【0043】
以上のように、本実施例では、ピンホールの発生を抑止し、膜厚が薄く、水素透過性が良好である水素透過膜が得られた。
【0044】
(実施例2)
50mm×50mmの大きさのクラウンガラス基板(松浪硝子工業株式会社製)をエタノール中で20分間、超音波洗浄した。次いで、Pd−23mol%Ag合金ターゲットとCuターゲットと共に、スパッタリング装置(ULVAC社製、SBH2306RDE)に取り付けた。その後、スパッタリング装置内を5×10-4Pa以下に真空排気した後、Arガス圧1Paにおいて、RF200Wで基板のスパッタエッチングを行った。続いて、Pd−Ag合金ターゲットのみにDC1.0Aの電流を流し、基板上に膜厚が0.5μmであるPd−Ag合金層を形成した。
【0045】
次に、Pd−Ag合金層の上に、30mm×30mmの大きさのSUS430製メタルマスクを取り付け、再び、スパッタリング装置内を5×10-4Pa以下に真空排気した後、CuターゲットのみにDC1.0Aの電流を流し、外周部に、膜厚9μmのCu層を積層して、枠体を形成した。
【0046】
その後、真空グローブボックスに入れて、真空排気し、95%窒素−5%水素の混合ガスを導入して、Pd−Ag合金層を枠体とともに基板から剥離した。得られたPd−Ag合金層について、光学顕微鏡で観察したところ、透過光によって確認されるピンホールが1cm2当たり0.60個であった。
【0047】
以上のように、枠体が取り付けられたPd−Ag合金層を、2枚作製し、Pd−Ag合金層同士を重畳させたところ、相互に吸着して固着した。
【0048】
その後、アルミナ板に載せて、真空加熱炉に入れ、5×10-3Paまで真空排気した後、1000℃で2時間、熱処理を施したところ、重ね合わされたPd−Ag合金層は一体構造となり、膜厚が1μmである1枚のPd−Ag合金膜が得られた。得られたPd−Ag合金膜を、再び、光学顕微鏡で観察したところ、ピンホールによる透過光は認められなかった。
【0049】
次に、実施例1と同様にして水素透過流量を測定したところ、1atm、0℃で、263cm3/minであった。測定された水素透過流量は、Pd−23mol%Ag合金の公知の水素透過係数から計算された、膜厚が1μmであるPd−23mol%Ag合金膜の水素透過流量と一致した。その測定結果を表1に示す。
【0050】
以上のように、本実施例では、ピンホールの発生を抑止し、膜厚が薄く、水素透過性が良好である水素透過膜が得られた。
【0051】
(比較例1)
真空加熱炉中での熱処理温度を350℃とした以外は、実施例1と同様にしてPd膜を作製した。光学顕微鏡で観察したところ、Pd膜には、ピンホールによる透過光は認められなかった。また、得られた水素透過膜の一部は、接合不十分であり、2枚に分離していて、水素透過膜として使用できなかった。その測定結果を表1に示す。
【0052】
(比較例2)
真空加熱炉中での熱処理温度を1250℃とした以外は、実施例1と同様にしてPd膜を作製した。しかしながら、得られたPd膜は、変形していて、水素透過膜として使用できなかった。その測定結果を表1に示す。
【0053】
(実施例3)
50mm×50mmの大きさのクラウンガラス基板(松浪硝子工業株式会社製)を、超音波洗浄しないで、Pdターゲットと共に、スパッタリング装置(ULVAC社製、SBH2306RDE)に取り付けた。その後、スパッタリング装置内を5×10-4Pa以下に真空排気した後、スパッタエッチングは行わないで、PdターゲットにDC1.0Aの電流を流して、基板上に膜厚1μmのPd層を形成した。
【0054】
次に、Pd層をピンセットでつまんで基板から引き剥がし、大きさが50mm×50mm、膜厚1μmのPd層を得た。得られたPd層を光学顕微鏡で観察したところ、透過光によって確認されるピンホールが1cm2当たり2.5個であった。
【0055】
次に、実施例1と同様に、2つ折りにて熱処理をして膜厚2μmのPd膜を作製した。得られたPd膜を光学顕微鏡で観察したところ、ピンホールからの透過光は確認されなかった。
【0056】
得られたPd膜を、実施例1と同様に、φ10mmの大きさに切り取って、多孔質支持体と重ね合わせて、本発明者が作製した透過面φ8mmの水素透過測定装置に取り付けた。水素透過測定装置内を真空排気した後、窒素ガスを導入することにより、Pd接合膜に0.8MPaの加圧を行った結果、ピンホールからの漏れは認められなかった。次に、水素透過測定装置の電気炉を加熱して、500℃に昇温した。そして、窒素ガスから水素ガスに置換してPd接合膜に0.2MPaの圧力を加えたところ、マスフローメータ(日本アエラ株式会社製、FM−390)により、1atm、0℃で、113cm3/minの水素透過流量が測定された。測定された水素透過流量は、Pdの公知の水素透過係数から計算された、膜厚2μmのPd膜の水素透過流量と一致した。その測定結果を表1に示す。
【0057】
以上のように、この実施例では、Pd層自体のピンホール数は増加するが、Pd膜としてのピンホールの発生は抑止され、膜厚が薄く、水素透過性が良好である水素透過膜が得られた。
【0058】
(従来例)
実施例3と同様にして、Pd層を得た。得られた膜厚1μmのPd層を接合することなく、φ10mmの大きさに切り取って、窒素ガスのリーク試験を行った。具体的には、φ10mmの大きさのPd膜を多孔質支持体と重ね合わせて透過面積φ8mmの水素透過測定装置に取り付けた。そして、この測定装置内を真空排気した後、窒素ガスを導入しPd接合膜を加圧した。その結果、0.2MPaの加圧では5cm3/min、0.8MPaの加圧では20cm3/minの窒素がピンホールから漏れた。その測定結果を表1に示す。
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の水素透過膜の製造方法の一実施形態の流れを示す説明図である。
【符号の説明】
【0060】
S1 洗浄工程
S2 スパッタリング工程
S3 枠体形成工程
S4 剥離工程
S5 熱処理工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパッタリング法で基板上にPd層またはPd合金層を成膜する工程と、得られたPd層またはPd合金層を前記基板から剥離する工程と、剥離したPd層またはPd合金層を少なくとも2層となるように重ね合わせ、400℃〜1200℃の温度にて、真空中で熱処理することにより、一体構造のPd膜またはPd合金膜を得る工程とからなる水素透過膜の製造方法。
【請求項2】
前記成膜工程において、前記Pd層またはPd合金層の外周部に、Pd層またはPd合金層より厚い枠体を形成する請求項1に記載の水素透過膜の製造方法。
【請求項3】
前記一体構造のPd膜またはPd合金膜の厚さを、5μm以下とする請求項1に記載の水素透過膜の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法により得られ、Pd層またはPd合金層の成膜において発生したピンホールが、膜の厚さ方向に連通していない一体構造のPd膜またはPd合金膜からなる水素透過膜。

【図1】
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【公開番号】特開2008−272606(P2008−272606A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−115817(P2007−115817)
【出願日】平成19年4月25日(2007.4.25)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】