説明

水耕栽培装置、水耕栽培用容器及び水耕栽培方法

【課題】ワサビやダイコン等の根菜類の成長過程において地下茎・根等の食用部の肥大を促進させることができる水耕栽培装置、水耕栽培用容器及び水耕栽培方法を提供する。
【解決手段】容器本体11は合成ゴム等から成り、ある程度の弾性力を有している。容器本体11には貫通穴13が多数形成されている。容器本体11には粒状物としての麦飯石15が充填されている。ワサビWの苗の食用部Sを麦飯石15の中に入れる。食用部Sには麦飯石15の重み等によって圧力が均一に加えられる。容器本体11は通水性を有しているので、培養液がワサビWに連続的に供給される。食用部Sが肥大するにつれて周囲の麦飯石15が押されて、容器本体11が外側へ膨らむように弾性変形する。弾性力は麦飯石15を介してワサビWの食用部Sに伝わる。食用部Sには成長度合いに応じた適度な圧力が常に加えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水耕栽培装置、水耕栽培用容器及び水耕栽培方法に係り、特にワサビやダイコン等の根菜類を栽培するための水耕栽培装置、水耕栽培用容器及び水耕栽培方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
キャベツやハクサイ等の葉菜類を栽培する野菜工場では水耕栽培が行われている。この水耕栽培は、土耕栽培のように土を使わないので手間がかからず、しかも害虫がつき難く、また工場内で温度や湿度等の管理ができるので野菜を路地で栽培するよりも遥かに短い期間で収穫できる等のメリットがある。水耕栽培を行うための装置としては特許文献1に記載されたものがあり、この特許文献1に記載された水耕栽培装置は略箱状の栽培棚とこの栽培棚に載置された栽培用パレットを有しており、栽培用パレットに野菜の苗を支持させ、そして栽培棚に培養液を供給して野菜を栽培する。
ところで野菜の種類には上記したキャベツ等の葉菜類の他に、ワサビやダイコン等の根菜類がある。この根菜類は、葉菜類とは異なり成長過程において地下茎(根茎を含む)・根等の食用部に土圧を加えると食用部の肥大が促進されるという性質を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−39001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の水耕栽培装置では、野菜の地下茎・根等に土圧が加わらないので、葉菜類と同様に根菜類を栽培しても、根菜類の食用部の肥大を促進させることができないという問題があった。
本発明は上記従来の問題点に着目して為されたものであり、ワサビやダイコン等の根菜類の成長過程において地下茎・根等の食用部の肥大を促進させることができる水耕栽培装置、水耕栽培用容器及び水耕栽培方法を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、請求項1の発明は、通水性を有する容器本体と前記容器本体に充填された粒状物とから成り、且つ前記粒状物中に根菜類の地下茎・根等の食用部が入れられた状態で前記根菜類を支持する水耕栽培用容器と、前記水耕栽培用容器を収容し、且つ培養液が供給される栽培槽と、前記根菜類の食用部に圧力を加える加圧手段とを備えることを特徴とする水耕栽培装置である。
【0006】
請求項2の発明は、請求項1に記載した水耕栽培装置において、
加圧手段は、弾性力を有する容器本体と、前記容器本体に充填された粒状物によって構成されることを特徴とする水耕栽培装置である。
【0007】
請求項3の発明は、請求項1に記載した水耕栽培装置において、
加圧手段は、柔軟性及び伸縮性を有し、且つ上端部を支持して吊り下げた状態で下方への荷重がかかると、下方へ伸びると共に縮径する容器本体と、前記容器本体に充填された粒状物と、前記容器本体の上端部を支持して吊り下げた状態に支持する吊り下げ手段によって構成されることを特徴とする水耕栽培装置である。
【0008】
請求項4の発明は、請求項2に記載した水耕栽培装置に備えられた水耕栽培用容器において、
弾性力を有し、且つ通水性を有する容器本体と、前記容器本体に充填された粒状物とから成ることを特徴とする水耕栽培用容器である。
【0009】
請求項5の発明は、請求項3に記載した水耕栽培装置に備えられた水耕栽培用容器において、
柔軟性、伸縮性及び通水性を有し、且つ上端部を支持して吊り下げた状態で粒状物等による下方への荷重がかかると、下方へ伸びると共に縮径する容器本体と、前記容器本体に充填された粒状物とから成ることを特徴とする水耕栽培用容器である。
【0010】
請求項6の発明は、通水性を有する容器本体に充填された粒状物中に根菜類の地下茎・根等の食用部を入れて、前記根菜類を前記容器本体と前記粒状物に支持させ、前記容器本体と前記粒状物を培養液が供給される栽培槽に収容し、前記根菜類の食用部に圧力を加えることを特徴とする水耕栽培方法である。
【0011】
請求項7の発明は、請求項6に記載した水耕栽培方法において、
容器本体の弾性力によって、根菜類の食用部に圧力を加えることを特徴とする水耕栽培方法である。
【0012】
請求項8の発明は、請求項6に記載した水耕栽培方法において、
柔軟性および伸縮性を有する容器本体の上端部を支持して吊り下げた状態にして、粒状物等の下方への荷重によって前記容器本体を下方へ伸ばし且つ縮径させて、根菜類の食用部に圧力を加えることを特徴とする水耕栽培方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の水耕栽培装置、水耕栽培用容器及び水耕栽培方法によれば、ワサビやダイコン等の根菜類の成長過程において地下茎・根等の食用部には成長度合いに応じた適度な圧力が常に加えられるので、食用部の肥大を十分に促進させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態1に係る水耕栽培装置の斜視図である。
【図2】図1の水耕栽培装置の分解斜視図である。
【図3】図1の水耕栽培装置の水耕栽培用容器の断面図である。
【図4】図3の水耕栽培用容器によって根菜類の食用部に圧力が加わる様子を示す図である。
【図5】根菜類の食用部が肥大した状態を示す図である。
【図6】根菜類に培養液が供給される様子を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態2に係る水耕栽培装置の斜視図である。
【図8】図7の水耕栽培装置の水耕栽培用容器の側面図である。
【図9】根菜類の食用部が肥大した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態に係る水耕栽培装置1を図1から図6にしたがって説明する。
図1、図2に示すように水耕栽培装置1は水耕栽培用容器3、栽培槽5、支持プレート7等によって構成されている。
水耕栽培用容器3の詳細な構成について説明する。
符号11は容器本体を示し、この容器本体11は有底円筒状を為している。容器本体11は合成ゴム等から成り、ある程度の弾性力を有している。容器本体11の周面と底面には、後述する麦飯石15よりも小さい径寸法の貫通穴13が多数形成されている。
容器本体11には粒状物としての麦飯石15が充填されている。
加圧手段は容器本体11と麦飯石15によって構成されている。
【0016】
栽培槽5はその上面が開口する横長の箱状を為している。栽培槽5の長手方向の一方側の側板には培養液供給管21の一端部が接続されており、培養液供給管21の他端部は図示しない培養液供給装置に接続されている。また、栽培槽5の他方側の側板には培養液排水管23の一端部が接続されており、培養液排水管23の他端部は図示しない培養液供給装置に接続されている。栽培槽5には、後述するように図示しない培養液供給装置によって培養液が供給されるようになっている。
【0017】
支持プレート7は、栽培槽5の開口よりも一回り大きい横長の矩形状を為している。支持プレート7には複数の穴25が形成されており、この穴25の直径は水耕栽培用容器3の外径よりも僅かに大きいサイズに設定されている。従って、支持プレート7、穴25に嵌る水耕栽培用容器3によって栽培槽5の開口はほぼ閉鎖されることになり、栽培槽5内の培養液が蒸発するのを防止することができる。
支持プレート7の上方には図示しないLED照明器具が備えられており、このLED照明器具は後述するワサビWに向かって光を照射する。
【0018】
次に、水耕栽培装置1の使用方法について説明する。
ワサビWは根菜類であり、このワサビWの地下茎(根茎)は食用とされる食用部Sである(図5参照)。
水耕栽培装置1は密閉された工場内に設置されており、工場内はクリーンな環境に保たれている。また、工場内の温度・湿度等はワサビWの成長に適した条件となるように管理されている。
【0019】
図3に示すようにワサビWの苗の食用部Sを洗浄された麦飯石15の中に入れて、ワサビWを水耕栽培用容器3に支持させる。食用部Sには麦飯石15の重み等によって圧力が均一に加えられることになる。そして、この水耕栽培用容器3を支持プレート7の穴25に通して栽培槽5に収容する。水耕栽培用容器3は、その上端部が穴25に嵌った状態で、支持プレート7によって支持される。
【0020】
次に、図示しない培養液供給装置から培養液供給管21を介して、培養液を栽培槽5へ供給する。培養液は栽培槽5に所定量貯留されて、培養液排水管23から排出される。
前述したように容器本体11には多数の貫通穴13が形成されている。従って、図6の矢印に示すように培養液は、貫通穴13を通って容器本体11に流入し、麦飯石15の隙間を通り、そして反対側の貫通穴13を通って容器本体11から流出する。このように容器本体11は通水性を有しているので、培養液がワサビWに連続的に供給される。
【0021】
ワサビWは培養液から養分を吸収し、図示しないLED照明器具の光によって光合成を行う。前述したようにワサビWの苗の食用部Sには、麦飯石15の重み等によって圧力が均一に加えられているので、食用部Sの肥大が促進される。図4に示すように食用部Sが肥大するにつれて周囲の麦飯石15が押されて、容器本体11が外側へ膨らむように弾性変形する。これにより容器本体11の弾性変形する側とは反対側、即ち容器本体11の内側へ向かう弾性力が大きくなり、この弾性力は麦飯石15を介してワサビWの食用部Sに伝わる。従って、食用部Sには苗のときよりも大きな圧力が加わることとなる。
【0022】
図5に示すように更に食用部Sが肥大すると、容器本体11が図4で示す状態よりも更に外側へ膨らむように弾性変形する。これにより容器本体11の内側へ向かう弾性力が更に大きくなり、食用部Sには図4で示すときよりも大きな圧力が加わることとなる。
このようにワサビWの食用部Sには、容器本体11と麦飯石15によって成長度合いに応じた適度な圧力が常に加えられるので、食用部Sの肥大を十分に促進させることができる。
【0023】
工場内の温度・湿度等はワサビWの成長に適した条件となるように、常時管理されているので、季節に関係なくワサビWが成長し続ける。従って、ワサビWを路地で栽培するよりも遥かに短い期間で収穫できる。
また、工場は密閉され、且つ無菌状態に管理されているので、ワサビWに害虫が付いてしまうのを防止でき、また土耕栽培のように土を使わないので、手間をかけずにワサビWを栽培することが可能となる。
【0024】
次に、実施の形態2に係る水耕栽培装置31を図7から図9にしたがって説明する。
実施の形態2に係る水耕栽培装置31は、実施の形態1に係る水耕栽培装置1と同様の構成部分を有するので、水耕栽培装置1と同様の構成部分については、同じ符号を付すことで説明を省略する。
図7において符号33は水耕栽培用容器を示し、この水耕栽培用容器33は容器本体35と、この容器本体35に充填された麦飯石15によって構成されている。容器本体35は合成樹脂製のネットによって構成されており、柔軟性、伸縮性及び通水性を有している。
容器本体35の上端部には、水平に延びる一対のパイプ37が互いに対向して取り付けられている。
【0025】
符号39は角棒から成る支持ベースを示し、この支持ベース39は、栽培槽5の長手方向の両側板に固定されている。この支持ベース39には支持棒41が固定されており、この支持棒41は支持ベース39の長手方向に間隔をあけて複数配置されている。
吊り下げ手段はパイプ37、支持ベース39及び支持棒41によって構成されている。
加圧手段は容器本体35、麦飯石15及び上記吊り下げ手段(パイプ37、支持ベース39及び支持棒41)によって構成されている。
【0026】
次に、水耕栽培装置31の使用方法について説明する。
図8に示すようにワサビWの苗の食用部Sを麦飯石15の中に入れて、ワサビWを水耕栽培用容器33に支持させる。そして、水耕栽培用容器33を栽培槽5内に入れて、パイプ37を支持棒41にそれぞれ挿通する。これにより容器本体35の上端部は支持棒41によって支持され、容器本体35等は吊り下げられた状態に支持される。容器本体35には麦飯石15等による下方への荷重がかかり、容器本体35は下方へ伸びると共に縮径する。そして、容器本体35の縮径する力は、麦飯石15を介してワサビWの食用部Sに伝わる。従って、食用部Sには適度な圧力が加わることとなる。
【0027】
図9に示すように食用部Sが肥大すると、周囲の麦飯石15が外方向へ押され、これに伴い容器本体35の縮径する力が大きくなるので、食用部Sには苗のときよりも大きな圧力が加わることとなる。
このようにワサビWの食用部Sには成長度合いに応じた適度な圧力が常に加えられる。
【0028】
以上、本発明の実施の形態について詳述してきたが、具体的構成は、この実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計の変更などがあっても発明に含まれる。
上記実施の形態では、根菜類としてワサビWを示したが、根菜類はワサビWに限られずダイコン、サツマイモ、ジャガイモ、タマネギ等であってもよい。なお、ワサビWの食用部Sである地下茎は根茎と称されるが、地下茎は根茎、塊茎、球茎などの総称であり、野菜の種類によって名称が異なるものであることはいうまでもない。
上記実施の形態では、粒状物を麦飯石15によって構成したが、粒状物を砂利やセラミック等で構成してもよい。
【0029】
上記実施の形態では、栽培槽5を一つ設けたが、栽培槽5を複数設け、これらの栽培槽5を連結管によって直列に連結する構成にしてもよい。また、培養液供給管21、培養液排水管23を分岐させて、複数の栽培槽5を並列に連結する構成にしてもよい。
上記実施の形態では、LED照明器具を備えたが、照明器具はLEDを用いたものに限られない。
上記実施の形態2では、吊り下げ手段をパイプ37、支持ベース39及び支持棒41によって構成したが、吊り下げ手段は容器本体35等を吊り下げ状態に支持することができればよく、吊り下げ手段は上記構成に限定されない。例えば、支持ベース39を設けない構成にして、支持棒41を栽培槽5の側板に直接固定してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、水耕栽培装置や水耕栽培用容器の製造業等に利用可能である。
【符号の説明】
【0031】
1…水耕栽培装置 3…水耕栽培用容器 5…栽培槽
7…支持プレート 11…容器本体 13…貫通穴
15…麦飯石 21…培養液供給管 23…培養液排出管
25…穴
31…水耕栽培装置 33…水耕栽培用容器 35…容器本体
37…パイプ 39…支持ベース 41…支持棒
W…ワサビ S…食用部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通水性を有する容器本体と前記容器本体に充填された粒状物とから成り、且つ前記粒状物中に根菜類の地下茎・根等の食用部が入れられた状態で前記根菜類を支持する水耕栽培用容器と、前記水耕栽培用容器を収容し、且つ培養液が供給される栽培槽と、前記根菜類の食用部に圧力を加える加圧手段とを備えることを特徴とする水耕栽培装置。
【請求項2】
請求項1に記載した水耕栽培装置において、
加圧手段は、弾性力を有する容器本体と、前記容器本体に充填された粒状物によって構成されることを特徴とする水耕栽培装置。
【請求項3】
請求項1に記載した水耕栽培装置において、
加圧手段は、柔軟性及び伸縮性を有し、且つ上端部を支持して吊り下げた状態で下方への荷重がかかると、下方へ伸びると共に縮径する容器本体と、前記容器本体に充填された粒状物と、前記容器本体の上端部を支持して吊り下げた状態に支持する吊り下げ手段によって構成されることを特徴とする水耕栽培装置。
【請求項4】
請求項2に記載した水耕栽培装置に備えられた水耕栽培用容器において、
弾性力を有し、且つ通水性を有する容器本体と、前記容器本体に充填された粒状物とから成ることを特徴とする水耕栽培用容器。
【請求項5】
請求項3に記載した水耕栽培装置に備えられた水耕栽培用容器において、
柔軟性、伸縮性及び通水性を有し、且つ上端部を支持して吊り下げた状態で粒状物等による下方への荷重がかかると、下方へ伸びると共に縮径する容器本体と、前記容器本体に充填された粒状物とから成ることを特徴とする水耕栽培用容器。
【請求項6】
通水性を有する容器本体に充填された粒状物中に根菜類の地下茎・根等の食用部を入れて、前記根菜類を前記容器本体と前記粒状物に支持させ、前記容器本体と前記粒状物を培養液が供給される栽培槽に収容し、前記根菜類の食用部に圧力を加えることを特徴とする水耕栽培方法。
【請求項7】
請求項6に記載した水耕栽培方法において、
容器本体の弾性力によって、根菜類の食用部に圧力を加えることを特徴とする水耕栽培方法。
【請求項8】
請求項6に記載した水耕栽培方法において、
柔軟性および伸縮性を有する容器本体の上端部を支持して吊り下げた状態にして、粒状物等の下方への荷重によって前記容器本体を下方へ伸ばし且つ縮径させて、根菜類の食用部に圧力を加えることを特徴とする水耕栽培方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−217614(P2011−217614A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−86650(P2010−86650)
【出願日】平成22年4月5日(2010.4.5)
【出願人】(302031812)株式会社ケイ・アイ・ディ (4)
【Fターム(参考)】