説明

水蒸気交換部をもつMEAを使用した燃料電池

【課題】カソード流路下流の水蒸気を減らすことによって、結露による不具合を防止した燃料電池を提供する。
【解決手段】固体高分子型電解質膜にアノード触媒層,カソード触媒層が形成された膜電極接合体と、膜電極接合体をアノードガス拡散層7およびカソードガス拡散層6とで挟み、アノードガス拡散層7およびカソードガス拡散層6を、膜電極接合体とは反対側の面からアノードセパレータ9とカソードセパレータ8とで挟んで単セルを構成する燃料電池であって、膜電極接合体は、固体高分子型電解質膜、アノード触媒層及びカソード触媒層で構成される発電部と、固体高分子型電解質膜のアノード触媒層及びカソード触媒層が形成されていない領域に設けられた水蒸気交換部18を備え、水蒸気交換部18の両側にアノードセパレータ9とカソードセパレータ8のガス流路が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料および酸化剤から電気化学反応を利用してエネルギーを取り出しうる燃料電池の特に発電セルに関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池(PEFC)は、中央部に高分子電解質膜とこの膜の両側のうち、一方に燃料極(アノード)触媒層および燃料ガス拡散層からなるアノード極と、他方側に空気極(カソード)触媒層および酸化剤ガス拡散層からなるカソード極とを備えた膜電極接合体(MEA)を中央部に配置するとともに、各極の外側に燃料ガス流路を備えるアノード側セパレータと、酸化剤ガス流路を備えるカソード側セパレータとをそれぞれ配置して、単セルを構成している。PEFC単セルの起電力は最大でも1.2Vと低いため、それ以上の電圧を必要とする場合には、上記単セルを複数枚電気的に直列接続したスタックの形式で使用する。なお、このスタックには、発電時に副次的に生じる発熱によるスタック昇温を抑制するために、冷却セルを挿入する場合が多い。
【0003】
一方、PEFCのMEAで使用される電解質膜には主に、パーフルオロスルホン酸系イオン交換膜が使用される。この膜は高含水状態において充分なプロトン伝導性を持っており、乾燥状態ではプロトン伝導抵抗が大きくセル性能が低下する。そのため、高加湿な運転条件が望まれるが、触媒層が過飽和状態になるとガス拡散性が悪くなり(フラッディング)、逆にセル性能が悪化する。このようにPEFCではセル内部の水分状況が発電性能に大きく影響を与えることから適切な水分管理が要求される。
【0004】
ここで、燃料ガスおよび酸化剤ガスは、セパレータに備えたガス流路に導入される。このガス流路の形状には、蛇行流路(サーペンタイン)や平行流路のように様々な種類が存在するが、ガスは、セパレータへガスを導入する入口マニホールドと、セパレータからガスを排出する出口マニホールドとの間を流れるので、どのような流路形状であれ、ガス流れには、セパレータ流路に沿った上流と下流の概念がある。その一方で、電池反応は触媒層全面で同時に進展するので、上流と下流とでガス組成が異なる。すなわち、セパレータ流路を流れるカソードガスは、電極面内全てで同時に発生する生成水を蒸気あるいは水滴の形でガス内へ捕捉しながら、上流から下流へ流れるので、カソードガス流れの下流ほどガス内が水分過剰となり易く、下流の電極やガス拡散層(GDL)、あるいは流路ほどフラッディングによる不具合が発生しやすい。そこで、この不具合を避けるための手段として、水分量を減らしたガスを供給する手段が考えられるが、この場合には逆にカソードガス流れの上流での乾燥が問題になる。
このような水の過剰や、乾燥に対する問題を解決する手段として、材料の観点からみると、例えば、特許文献1に記載されているように、酸化剤ガス入口部側の電解質膜の含水率を、出口側の電解質膜の含水率と比較して大きくする方法や、特許文献2に記載されているように、酸化剤ガス入口側のガス拡散層のガス透過性を出口側のガス拡散層のガス透過性と比較して小さくする方法や、特許文献3に記載されているように、酸化剤ガス入口側のガス拡散層にカーボン粒子を混入する方法や、特許文献4に記載されているように、酸化剤ガス入口側のガス拡散層の撥水性を出口側のガス拡散層の撥水性と比較して大きくする方法や、特許文献5に記載されているように、酸化剤極と酸化剤ガス拡散層との間にフッ素樹脂とカーボンブラックとからなる混合層を介する方法などの提案がある。
【0005】
また、構造の観点からみると、例えば、特許文献6に記載されているように、折り返しにより蛇行するサーペンタイン流路構造によって反応ガス流路を形成し、平行して形成された流路同士を連結するスリット状の流路をサーペンタイン流路構造の最初の折り返しより下流側に1箇所以上設ける方法や、特許文献7に記載されているように、反応ガス流路のガス流入端部および反応ガスの流路の途中に流路の断面積が小さい部分を設けた方法などの提案がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−277130号公報
【特許文献2】特開平11−154523号公報
【特許文献3】特開2001−6698号公報
【特許文献4】特開2001−6708号公報
【特許文献5】特開2001−135326号公報
【特許文献6】特開2006−351222号公報
【特許文献7】特開2004−207160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これらの解決案では一抹の不安がある。すなわち、水の過剰や乾燥の問題に対する特許文献1に記載の解決手段では、含水率の低い固体高分子電解質膜でプロトンの移動が小さく、電池内に大きな電流分布を生じる可能性がある。また、特許文献2〜4に記載の解決手段では、酸化剤ガス拡散層の気孔率,厚さ,撥水剤含有量に面内分布をもたせ、酸化剤ガス拡散層のガス透過性を考慮したものであるが、この処理により、酸化剤ガスを触媒層に拡散させたり、生成水を蒸発させて酸化剤ガス流路に排出させたりするといった酸化剤ガス拡散層本来の機能が損なわれ、電池性能低下につながる可能性がある。また、特許文献5に記載の解決手段では、水蒸気分圧により、ガス入口側とガス出口側とで混合層の厚さを変えているが、電流密度に応じて生成水発生量が増加しても、混合層を挟んで水蒸気分圧が比例的に増加することはなく、電流密度の変動には対応できない可能性がある。また、特許文献6に記載の解決手段では、スリットとスリットを結ぶ蛇行流路に水滴や埃等が不意に入り込んだ場合に、ガスがスリットを利用して水滴や埃等がある蛇行流路を避ける形で他の流路に流れこみ、水滴や埃等がある流路が機能せず、結果として電池の出力低下の原因になる可能性がある。また、特許文献7に記載の解決手段では、ガスが流路断面積の小さい流路から大きい流路へ流れ込む部分において、壁面とガスとの剥離の関係で、ガスの淀みが発生し、その淀み部分に生成水が滞留し、反応を阻害する可能性がある。
【0008】
また、これまでの検討は、カソード流路下流で水蒸気過剰であっても電池特性が低下しにくい電池を提供するものであって、カソード流路下流で水蒸気が多いことには変わりがない。
【0009】
そこで、本発明では、カソードガス中の水蒸気をカソード流路途中で減らすことによって、カソード流路下流での結露による不具合を防止する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一つの観点によれば、固体高分子型電解質膜の一方の面にアノード触媒層、他方の面にカソード触媒層が形成された膜電極接合体と、前記膜電極接合体をアノードガス拡散層およびカソードガス拡散層とで挟み、前記アノードガス拡散層および前記カソードガス拡散層を、前記膜電極接合体とは反対側の面からアノードセパレータとカソードセパレータとで挟んで単セルを構成する燃料電池であって、前記膜電極接合体は、固体高分子型電解質膜,アノード触媒層及びカソード触媒層で構成される発電部と、前記固体高分子型電解質膜のアノード触媒層及びカソード触媒層が形成されていない領域に設けられた水蒸気交換部を備えており、前記水蒸気交換部の両側には、前記アノードセパレータと前記カソードセパレータのガス流路が形成されていることを特徴とする燃料電池が提供される。
【0011】
なお、本発明において、水蒸気交換部とは、MEAの一部を成すものであって、水蒸気交換部を挟んだ両側の湿度が異なる場合に、両側の湿度差を小さくするために、水蒸気交換部の中を高湿度側から低湿度側へ水蒸気を移動させる性質を有するものである。なお、一般的には、水蒸気交換部の両側の湿度差が大きく、水蒸気交換部および水蒸気の温度が大きいほど、水蒸気の移動量が大きくなる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、カソードガス中の水蒸気をカソード流路途中で減らすことによって、カソード流路下流での結露による不具合等を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1記載のPTFEフィルム上に作製した電極を示す図。
【図2】実施例1記載MEAの作製の一工程を示す図。
【図3】実施例1記載のMEAを示す図。
【図4】実施例1記載の本発明MEAを使用した単セルの構成図。
【図5】フッ素系多孔質シートへ電解質溶液をローラー塗布する過程を示す図。
【図6】フッ素系多孔質シートへ電解質溶液をローラー塗布する過程を示す図。
【図7】実施例2記載MEAの作製の一工程を示す図。
【図8】実施例2記載のMEAを示す図。
【図9】実施例2記載の本発明MEAを使用した単セルの構成図。
【図10】従来MEAを使用した単セルの構成図。
【図11】本発明と従来法とのI−V特性比較を示す図。
【図12】計算点の位置を示す図。
【図13】本発明と従来法との水分増加量比較を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態を具体的な実施例によって説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例1】
【0015】
以下に、本実施例の燃料電池の作製方法を示す。
【0016】
炭素担体上に50wt%の白金微粒子を担持した触媒粉末と、30wt%パーフロロカーボンスルフォン酸(商品名:Nafion117,DuPont社製)電解質と、バインダとして水/アルコール混合溶媒(水:イソプロパノール:ノルマルプロパノールが1:2:2(重量比)の混合溶媒)のスラリーを調製して、スクリーン印刷法でPTFEフィルム2上に約25μmの厚さになるように触媒層1を形成した。
【0017】
こうして調製したフィルム上に作製した触媒層を、電極面積が30mm×110mmになるように、二個切り出して、それぞれアノード触媒層およびカソード触媒層とした。なお、本発明の燃料電池の触媒としては、通常の固体高分子型燃料電池に用いられるものであれば適用することが可能であり、特に制限されるものではない。なお、電極触媒の安定化や長寿命化のために貴金属成分に鉄,錫,希土類元素等から選ばれる第3の成分を添加した触媒を用いることが好ましい。
【0018】
次に、図1に示すように、この切り出したフィルム付きの触媒層の角から10mm×30mmの領域を取り除き、残ったフィルム付きの触媒層を図2に示すように、電解質膜3の両側に、触媒層(カソード触媒層1a,アノード触媒層1b)が電解質膜3に接触する形で配置し、その上から単位面積あたり約10kgの荷重を加えて2分間120℃で保持した。その後、荷重を開放し、触媒層に付いたPTFEフィルム2を剥がして、図3に示す水蒸気交換部4をもつMEAが完成した。MEAの水蒸気交換部4の面積は3cm-2である(詳細後述)。なお、図3では、理解を助けるために水蒸気交換部4を点線で記してある。
【0019】
MEAで使用する電解質膜としては、代表的な材料としてパーフロロカーボン系スルフォン酸樹脂,ポリパーフロロスチレン系スルフォン酸樹脂などに代表されるスルフォン酸化あるいはアルキレンスルフォン酸化したフッ素系ポリマや、ポリスチレン類,ポリスルフォン類,ポリエーテルスルフォン類,ポリエーテルエーテルスルフォン類,ポリエーテルエーテルケトン類、その他の炭化水素系ポリマをスルフォン化した材料を用いることができる。本実施例ではNafion117を使用した。
【0020】
このMEAにカソードガスマニホールド5a,冷却水マニホールド5b,アノードガスマニホールド5cを開けた後、MEAの両側にカソードガス拡散層6およびアノードガス拡散層7を配置し、図4に示すように、ガス流路(カソードガス流路10,アノードガス流路11)が水蒸気交換部4の両側に配置されるようにカソードセパレータ8およびアノードセパレータ9で挟んで本発明の燃料電池の単セルを作製した。
【0021】
ここで、水蒸気交換部4の部分を真に水蒸気交換部として機能させるためには、水蒸気交換部4の両側にガス流路を配し、そのガス流路に水蒸気濃度の異なるガスを流す必要がある。すなわち、水蒸気交換部の位置が一つのポイントになる。この位置は、限定されるものではないが、水蒸気交換部の特性上、水蒸気交換部を透過する水蒸気量は、水蒸気交換部の両側を流れる二つのガス間の水蒸気濃度差が大きいほど多くなるので、このことを考慮した上で、その位置を決定する必要がある。例えば、低加湿なアノードガスと低加湿なカソードガスとを用いる系では、水蒸気交換部はカソードガスの下流かつアノードガスの上流に配置することが好ましい。これはこのような系では、カソードガス流れの下流ほどガス内の水分量が多く、アノードガス流れの上流ほどガス内の水分量が少なくなるので、この位置に配置することで、水蒸気交換部を透過する水蒸気量が多くなることが期待できるからである。
【0022】
なお、図4では、この低加湿ガスの系を意識した配置にしてある。すなわち、サーペンタイン型をしたカソードガス流路10のガス入口から二回目の折り返し後、且つサーペンタイン型をしたアノードガス流路11のガス入口の傍に水蒸気交換部4を配置し、高加湿なカソードガスと低加湿なアノードガスとが水蒸気交換部の両側を通過するようにしてある。
【実施例2】
【0023】
本実施例では水蒸気交換部の別の実施形態を説明する。以下に、本実施例の燃料電池の作製方法を示す。
【0024】
ガラス板12の上にフッ素系多孔質シート13(空孔率約80%,厚さ30mm)を置き、図5に示すように、その上から、30wt%パーフロロカーボンスルフォン酸(商品名:Nafion117,DuPont社製)電解質溶液14をローラー塗布した。それを90℃のオーブンでゆっくり減圧乾燥して、揮発成分を除くことによりシート状の水蒸気交換部を得た。そしてこのシートを10mm×30mmの大きさに切り出して、ブロック状の水蒸気交換部16を得た。
【0025】
次に、先ほどと同様にして、ガラス板12の上にフッ素系多孔質シート(空孔率約50%,厚さ30mm)を置き、その上から、30wt%パーフロロカーボンスルフォン酸(商品名:Nafion117,DuPont社製)電解質溶液14をローラー塗布した。それを90℃のオーブンでゆっくり減圧乾燥して、揮発成分を除くことにより、膜補強用芯材入りの固体高分子型電解質膜17を得た。
【0026】
この固体高分子型電解質17の一部(10mm×30mm)を取り除き、そこへ先ほど切り出したブロック状の水蒸気交換部16をはめ込んだ。これを図6に示すように、ガラス板12の上に置き、その上から、30wt%パーフロロカーボンスルフォン酸(商品名:Nafion117,DuPont社製)電解質溶液14をローラー塗布した。それを90℃のオーブンでゆっくり減圧乾燥して、揮発成分を除くことにより、水蒸気交換部と固体高分子形電解質膜を一体化させた。この一体化膜18に、実施例1の方法で別途用意したファイル付き触媒層を、図7に示すように配置し、その上から単位面積あたり約10kgの荷重を加えて2分間120℃で保持した。その後、荷重を開放し、触媒層に付いたPTFEフィルム2を剥がして、図8に示す水蒸気交換部4をもつMEAが完成した。ここで作製したMEAの電極面積は30cm2、水蒸気交換部の面積は3cm2である。
【0027】
水蒸気交換部は、MEAのプロトン伝導を補佐するために電解質を有する膜で構成することが好ましい。また、機械的強度を得るために、芯材として多孔質構造体を有する膜とすることが好ましい。
【0028】
多孔質構造体としては、限定的ではないがポリエチレン,ポリプロピレン,ポリカーボネート等がある。他にナイロン,フェノール樹脂,アクリル樹脂等様々ある。しかしながら熱や電池環境に強い点からPTFEやPFA等のフッ素樹脂からなる多孔質構造体が最も好ましいと考えられる。これらを考慮して本実施例ではフッ素系樹脂の多孔質構造体を使用している。また、電解質としては、限定的されるものではないが、スルホ基誘導体(−SO3-)もしくはリン酸基誘導体(−PO42-)もしくはヒドロキシ基誘導体(−O-)もしくはカルボキシル基誘導体(−COO-)を有する有機化合物等を用いることができる。
【0029】
なお、強度の観点から多孔質構造体を入れることが好ましいが、水蒸気交換部を支えるGDLの構造や機械的性質、または流路凸部の構造によって、水蒸気交換部に充分な機械的強度が得られる場合には、必ずしも構造体を入れる必要はない。また、プロトン伝導を補佐する観点から電解質を入れることは好ましいが、水蒸気交換部以外の部分だけで充分なイオン伝導を得られる場合には、必ずしも水蒸気交換部に電解質を入れる必要はない。
【0030】
また、水蒸気交換部を構成する膜は、MEAの発電部を構成する電解質膜よりも水蒸気透過係数または吸水率が大きくすることが好ましい。水蒸気交換部を構成する膜の水蒸気透過係数または吸水率を、発電部の電解質膜よりも大きくする方法としては、膜の電解質の量を増やすことで実現できる。すなわち、水蒸気交換部の単位重量に占める固体高分子型電解質の重量を、発電部の固体高分子型電解質膜の単位重量に占める固体高分子型電解質の重量より大きくすることが好ましい。これは、発電部を構成する電解質膜の水蒸気透過係数または吸水率を大きくすると、発電時にアノードからカソードへ移動するプロトンと一緒にアノード触媒周辺に存在する水分がカソードへ移動しやすくなり、その結果、アノード側が乾燥しやすくなるため、発電部を構成する電解質膜の水蒸気透過係数または吸水率は所定の範囲とする必要がある。これに対して、本発明の水蒸気交換部では、基本的にプロトンの移動はないため、プロトンと一緒にカソード側に移動する同伴水はなく、水分の移動は水蒸気交換部の両側の湿度差に起因するものになる。そのため、水蒸気交換部の水蒸気透過係数または吸水率はより大きくすることが有効となり、発電部よりも水蒸気交換部を構成する膜の水蒸気透過係数または吸水率を高くすることが好ましいためである。
【0031】
なお、本実施例では水蒸気交換部をMEA一枚につき一箇所設けたが、設置個数はそれに限定されるものではない。例えば、流路が長い場合には、複数設ける方が好ましい。また、本実施例では、MEA平面上に角形に設置したが、形はそれに限定されるものではない。例えば、サーペンタインの流路折り返し部の途中に設ける場合は、角形に設けると、水蒸気交換部の角にガス流路が接触せず、この部分が水蒸気交換部として機能しないことも考えられるため、このような場合にはMEA平面上に半円形に設ける方が好ましい。
【0032】
このMEAにカソードガスマニホールド5a,冷却水マニホールド5b,アノードガスマニホールド5cを開けた後、MEAの両側にカソードガス拡散層6およびアノードガス拡散層7を配置し、図9に示すように、ガス流路(カソードガス流路10,アノードガス流路11)が水蒸気交換部4の両側に配置されるようにカソードセパレータ8およびアノードセパレータ9で挟んで本発明の燃料電池の単セルを作製した。
【0033】
このようにして作製した燃料電池単セルを次の実施例3での検討に使用した。
【0034】
〔比較例1〕
以下に、従来MEAの作製方法を示す。この手順で作製したMEAは次の実施例3での検討に使用した。
【0035】
触媒層1は、炭素担体上に50wt%の白金微粒子を担持した触媒粉末と、30wt%パーフロロカーボンスルフォン酸(商品名:Nafion117,DuPont社製)電解質と、バインダとして水/アルコール混合溶媒(水:イソプロパノール:ノルマルプロパノールが1:2:2(重量比)の混合溶媒)のスラリーを調製して、スクリーン印刷法でPTFEフィルム2上に約25μmの厚さになるように形成した。
【0036】
こうして調製したフィルム上に作製した触媒層を、電極面積が30mm×100mmになるように、二個切り出して、それぞれアノード触媒層およびカソード触媒層とした。
【0037】
この切り出したフィルム付きの触媒層を、電解質膜3の両側に、触媒層が電解質に接触する形で配置し、その上から単位面積あたり約10kgの荷重を加えて2分間120℃で保持した。その後、荷重を開放し、触媒層に付いたPTFEフィルム2を剥がして、MEAが完成した。
【0038】
このMEAにカソードガスマニホールド5a,冷却水マニホールド5b,アノードガスマニホールド5cを開けた後、MEAの両側にカソードガス拡散層6およびアノードガス拡散層7を配置し、図10に示すように、カソードセパレータ8およびアノードセパレータ9で挟んで本発明の燃料電池の単セルを作製した。
【実施例3】
【0039】
本発明の効果を確認するために、実施例2で作製した本発明の水蒸気交換部をもつMEAを組み込んだ燃料電池単セル(以下、本発明の電池と称す)と、比較例1で作製した、従来のMEAである、水蒸気交換部をもたないMEAを組み込んだ燃料電池単セル(以下、従来の電池と称す)とを用意し、電流−電圧特性(I−V特性)を計測した。図11にその結果を示す。
【0040】
I−V特性は、各電流密度の測定時間5分とし、電池温度70℃で計測した。各電流密度におけるガス供給量は、燃料利用率80%,酸化剤ガス利用率41%とし、供給ガス湿度は、アノードガス無加湿、カソードガス露点30度とした。MEAの電極面積は、本発明のMEAと従来のMEAともに30cm-2である。水蒸気交換部は、の面積は3cm-2である。
【0041】
図11に示すように、本発明の電池は、従来の電池と比較して、高電流密度領域(>0.6Acm-2)での電圧が高い。これは、水蒸気交換部の効果と考えられる。
【0042】
次にこの効果をより詳細に調べるために、図12に示すようにMEA電極部(触媒層)および水蒸気交換部を30箇所の領域に区切ってその部分を計算点として、各計算点における水分増加量を計算で求めた。なお、図12は理解を容易にするために簡略化して描いてあり、細部は実際のMEAと異なる。図12(a)は実施例2のMEA、図12(b)は比較例1のMEAを表している。計算点は30点とし、それらは、カソード最上流から順番に1,2,・・・として、カソード最下流で30となるように設けた。ただし、水蒸気交換部は計算点としていない。図13に計算結果を示す。図13から、従来の電池の場合には、水分増加量は計算点にそって単調増加しているが、本発明の電池の場合には、そのような単調増加ではなく、水蒸気交換部を挟んだ計算点22と計算点23との間で、水分が減少していることが分かる。また、水蒸気交換部での水分移動の有無を実験的に確認するために、本発明の電池と従来の電池それぞれに対し、発電中にカソード出口から排出される水量を測定した。その結果、カソード出口での採水量は、本発明の電池では203mgh-1、従来の電池では214mgh-1であり、本発明の電池での採水量の方が約5%少なく、これは水蒸気交換部での水分移動によるものと考えられる。
【0043】
これらの結果より、この水分増加量の減少は、水蒸気交換部でのカソードガスからアノードガスへの水蒸気移動によるものであり、この水蒸気移動が、カソード下流でのフラッディングの減少、およびアノードガスの水分量増加に繋がり、その結果として高電流密度領域(>0.6Acm-2)での高電圧が実現できたと理解できる。
【0044】
なお、本発明に付随する効果としては、本発明の燃料電池では、カソードガスからアノードガスへ水分が移動するため、本発明を用いることで発電セルに導入するアノードガスの加湿量を減らすことができる。これにより、アノードガスの加湿に必要なバブラを取り除いて小型化したり、そのバブラを加熱するための電力を削減して発電効率を向上できるといった効果が挙げられる。
【符号の説明】
【0045】
1 触媒層
1a カソード触媒層
1b アノード触媒層
2 PTFEフィルム
3 電解質膜
4 水蒸気交換部
5a カソードガスマニホールド
5b 冷却水マニホールド
5c アノードガスマニホールド
6 カソードガス拡散層
7 アノードガス拡散層
8 カソードセパレータ
9 アノードセパレータ
10 カソードガス流路
11 アノードガス流路
12 ガラス板
13 フッ素系多孔質シート
14 電解質溶液
15 ローラー
16 ブロック状の水蒸気交換部
17 固体高分子型電解質膜
18 一体化膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子型電解質膜の一方の面にアノード触媒層、他方の面にカソード触媒層が形成された膜電極接合体と、前記膜電極接合体をアノードガス拡散層およびカソードガス拡散層とで挟み、前記アノードガス拡散層および前記カソードガス拡散層を、前記膜電極接合体とは反対側の面からアノードセパレータとカソードセパレータとで挟んで単セルを構成する燃料電池であって、
前記膜電極接合体は、固体高分子型電解質膜、アノード触媒層及びカソード触媒層で構成される発電部と、前記固体高分子型電解質膜のアノード触媒層及びカソード触媒層が形成されていない領域に設けられた水蒸気交換部を備えており、
前記水蒸気交換部の両側には、前記アノードセパレータと前記カソードセパレータのガス流路が形成されていることを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
請求項1において、前記アノードセパレータと前記カソードセパレータは、前記発電部から前記水蒸気交換部を経由して前記発電部に戻るガス流路が形成されていることを特徴とする燃料電池。
【請求項3】
請求項1において、前記固体高分子型電解質膜は発電部と水蒸気交換部で異なる組成の電解質膜で構成されていることを特徴とする燃料電池。
【請求項4】
請求項1において、水蒸気交換部が、カソードガス入口マニホールドとカソードガス出口マニホールドとの間でカソードガス流路と接触することを特徴とする燃料電池。
【請求項5】
請求項1において、水蒸気交換部が、カソードガス流路と接触する位置が、前記カソードガス流路の全長の中間地点より下流であって、アノードガス流路と接触する位置が、前記アノードガス流路の中間地点より上流であることを特徴とする燃料電池。
【請求項6】
請求項1において、水蒸気交換部が、フッ素を官能基にもつ有機化合物を有すことを特徴とする燃料電池。
【請求項7】
請求項1において、前記水蒸気交換部の単位重量に占める固体高分子型電解質の重量が、前記発電部の固体高分子型電解質膜の単位重量に占める固体高分子型電解質の重量より大きいことを特徴とする燃料電池。
プロトンの同伴水,電解質の重量が増えるほど、水蒸気の透過量が増大する。
【請求項8】
請求項1において、水蒸気交換部が有す固体高分子型電解質が、スルホ基誘導体(−SO3-)もしくはリン酸基誘導体(−PO42-)もしくはヒドロキシ基誘導体(−O-)もしくはカルボキシル基誘導体(−COO-)を有す有機化合物であることを特徴とする燃料電池。
【請求項9】
請求項1において、前記水蒸気交換部の吸水率が、同じ温度および湿度および圧力下で測定した前記発電部を構成する固体高分子型電解質膜の吸水率よりも大きいことを特徴とする燃料電池。
【請求項10】
請求項1において、前記水蒸気交換部の水蒸気透過係数が、同じ温度および湿度および圧力下で測定した前記発電部の固体高分子型電解質膜の水蒸気透過係数よりも大きいことを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−76817(P2011−76817A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−225889(P2009−225889)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】