説明

水解性物品

【課題】十分な強度を有し、かつ水解性に優れた水解性物品を提供する。
【解決手段】内層1が木材パルプを主体としバインダーを実質的に有しない水解性繊維シートと、両外層2,2が木材パルプを主体としバインダーを有する水解性繊維シートとの積層体であり、前記各外層2,2はバインダーとしての繊維状ポリビニルアルコールが外層繊維重量に対し0.5〜8重量%を含み、ホウ酸を0.5〜8重量%、水溶性溶剤及び水からなる含浸液が、前記積層体の全体に100〜300重量%含有されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、トイレの清掃等に使用するに好適な水解性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、トイレの清掃には、雑巾に替わって使い捨ての繊維シートを使用することが多くなっている。中でも水解性の繊維シートに水解性の含浸液を含浸させた使用後にトイレ等に流せるタイプのものが好まれ使用されている。
【0003】
しかしながら、水解性タイプのものは、使用に耐えうる強度が要求されるのに加え、さらにトイレを詰まらせないよう水解時間が短いことが要求される。
【0004】
そこで、強度及び水解性(分散性)の観点から種々の提案がなされている。たとえば、特許文献1には、「4%水溶液の粘度が2.0〜50cps(20℃)となる重合度のポリビニルアルコールをバインダーとして水溶液状態で用いて得た繊維シートに、水溶性溶剤を1〜50重量%含むホウ酸水溶液を含浸させ、バインダーの使用量が繊維シートに重量に対して1重量%以上5重量%未満である水解性清掃物品。」が開示されている。
【0005】
しかし、このものは使用に耐えうる強度には十分であるとしても、水解性(分散性)の点で満足できるものとは考えられないものである。
【特許文献1】特許第2945065号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の課題は、十分な強度を有し、かつ水解性に優れた水解性物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決した本発明は、次記のとおりである。
<請求項1記載の発明>
内層が木材パルプを主体としバインダーを実質的に有しない水解性繊維シートと、両外層が木材パルプを主体としバインダーを有する水解性繊維シートとの積層体であり、
前記各外層はバインダーとしての繊維状ポリビニルアルコールが外層繊維重量に対し0.5〜8重量%を含み、
ホウ酸を0.5〜8重量%、水溶性溶剤及び水からなる含浸液が、前記積層体の全体に100〜300重量%含有されていることを特徴とする水解性物品。
【0008】
<請求項2記載の発明>
内層及び外層の木材パルプがNBKP及びLBKPとされ、その重量比が95:5〜50:50とされた請求項1記載の水解性物品。
【0009】
<請求項3記載の発明>
シートが積層状態でエンボス加工された請求項1または2記載の水解性物品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、内層と両外層の3層構造のものであり、内層が木材パルプを主体としバインダーを実質的に有しない水解性繊維シートと、両外層が木材パルプを主体としバインダーを有する水解性繊維シートとの積層体である。
【0011】
内層は、バインダーを実質的に有せず、木材パルプを主体としたものであるから、水解性に優れる。
【0012】
これに対し、両外層はバインダーを有する水解性繊維シートであるので、バインダーに存在により、繊維相互が結合され、引張強度や表面強度に優れたものとなる。
【0013】
しかし、反面、両外層はバインダーの存在により引張強度や表面強度に優れたものとなるが、繊維相互が結合されたものであるから、水解性を低下させる。しかるに、本発明では、積層体(製品の水解性物品)を水解させるとき、内層が、バインダーを実質的に有せず水解性に優れるものであるから、まずこの内層が水解するので、その後に両外層も続いて水解または分散するようになる。このように、本発明では、強度と水解性との両者を同時に満足するものとなる。
【0014】
他方、本発明では、ポリビニルアルコールとホウ酸の交差結合を利用し、ポリビニルアルコールが少量の水に対しては不溶性または難溶性にしたもので、含浸液による湿潤状態でバインダー機能を十分に発揮する。しかるに、これがトイレットなどの大量の水と接触すると、交差結合が解かれ、水溶性を示すものとなり、水解または分散するようになる。
【0015】
かかるポリビニルアルコールとホウ酸の交差結合を利用したバインダー系において、本発明は、特許文献1のように、液状のポリビニルアルコールを使用するのではなく、繊維状ポリビニルアルコールを使用するものである。液状のポリビニルアルコールを使用する場合、必要な強度を得るために、使用量が多くなる。すなわち、液状のポリビニルアルコールを使用する場合、抄造した繊維シートにスプレーなどの塗布により含有させるが、スプレー塗布では厚み方向に濃度分布が生じ、厚み全体の強度を得るために塗布量を多くしなければならない。
【0016】
これに対し、繊維状ポリビニルアルコールを使用すると、繊維シートを抄造する段階で、木材パルプと繊維状ポリビニルアルコールとの両者を抄造でき、繊維状ポリビニルアルコールを厚み方向全体に均一に分散できる。したがって、少量の繊維状ポリビニルアルコールの使用量でも十分なバインダー効果を示すものとなり、必要な強度を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を詳説する。なお、本発明に係る水解性物品は、その用途が特に限定されるものではなく、例えば、人間の肌を洗浄するために使用する水解性物品等をも含むものであるが、以下では、その例として、近年需要の増加しているトイレを清掃するための水解性物品、通常「トイレクリーナー」と称される使用後に便器内に捨てる水解性物品について説明する。
【0018】
本実施の形態に係る水解性物品は、図1に示すように、内層シート1の両面に、外層シート2,2が積層され、圧着により一体化されるとともに、これらのシート1,2,2に、含浸液、本実施の形態では清浄剤が含浸されたものである。
【0019】
内層シート1は、木材パルプを主体とした水解性の繊維シートであり、叩解パルプ、未叩解パルプのいずれでもよりが、好ましくは未叩解パルプである。原料となるパルプが未叩解であると、水解性に優れる。原料となるパルプは、特にその種類を限定するものではないが、NBKPとLBKPとを、その重量比が95:5〜50:50となるように使用するのが好ましい。さらに、バインダーを実質的に含有させないものである。必要により、バインダーを0.2%以下であれば、水解性を阻害しない。
【0020】
外層シート2,2は、叩解パルプ、未叩解パルプのいずれでもよりが、好ましくは叩解パルプである。外層シート2,2にはバインダーとして繊維状ポリビニルアルコールが含有される。前述のように、繊維状ポリビニルアルコールを含有させる形態として、繊維シートを抄造する段階で、木材パルプと繊維状ポリビニルアルコールとの両者を抄造するのが望ましい。なお、抄造時の水との接触により、繊維状形態が解かれる。
【0021】
また、外層シート2,2の形成に、叩解パルプを使用すると、強度及び柔軟性に優れる。原料となる叩解パルプは、特にその種類を限定するものではないが、NBKPとLBKPとを、その重量比が6:4〜10:0となるように使用するのが好ましい。NBKPはLBKPに比べ強度及び柔軟性に優れるので、NBKPを多く使用すると強度及び柔軟性が向上する。また、外層シート2,2には、叩解パルプとともにポリビニルアルコール繊維を使用するので、廃棄時(水解時)においては、叩解パルプがバラケ易くなり、水解性が向上する。
【0022】
内層シート1及び外層シート2,2に含浸させる含浸液は、ホウ酸を0.5〜8重量%、水溶性溶剤及び水からなる含浸液である。
【0023】
本発明では、繊維状ポリビニルアルコールが外層繊維重量に対し0.5〜8重量%、望ましくは1〜5重量%、特に1.5〜3.5重量%を含むのが望ましい。バインダー量が少ないとバインダー効果、特に表面強度及び引張強度を得難い。他方、過剰のバインダー量はバインダー効果が飽和しコスト高となるばかりでなく、表面のベトツキを生じる。
【0024】
ホウ酸は、含浸液中に0.5〜8重量%、望ましくは1〜5重量%、特に1.5〜3.5重量%であるのが望ましい。過少のホウ酸量は、十分な強度が得られない。他方で過剰のホウ酸量をその析出によりザラツキを生じさせる。
【0025】
さらに、含浸液中において、水溶性溶剤が10〜50重量%、水が90〜50重量%の割合であるのが望ましい。含浸液は、シート1,2,2に対し、すなわち積層体の全体に100〜300重量%、望ましくは120〜200重量%含有されているものである。上記したようなシート自体の構成による水解性向上効果により、水の配合割合を90%以下に抑えることができるのであるが、水の配合割合を90%以下とすることにより、さらに、シートの強度向上効果、及びシートのふんわり感向上効果をも期待することができる。
【0026】
水溶性溶剤としては、例えば、エタノール、メタノール、プロパノール、ブタノール、グリセリン、ソルビトール等のアルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール等のグリコール類等から1種または数種を適宜選択して使用することができる。また、その他に、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、両性界面活性剤等の界面活性剤や、殺菌剤、除菌剤、消臭剤、防腐剤等の補助剤を適宜含有させることもできる。
【0027】
積層体に対し、適宜形状及び大きさのエンボスを付与できる。エンボス加工により、繊維シート同士の貼合及びシートの嵩高さ、柔軟性を得ることができる。積層体の坪量は、60〜120g/m2、特に80〜100g/m2であるのが望ましい。ここで、積層体の坪量を90g/m2と固定した場合を基準とすると、内層シート1の坪量は、20〜45g/m2(特に25〜35g/m2)、外層シート2,2の坪量は、20〜45g/m2(特に25〜35g/m2)であるのが望ましい。
【実施例】
【0028】
以下、本発明の実施例を説明する。
内層シートの両面に外層シートを積層し(3層構造)清浄剤を含浸させた試料について、温度23±1℃、湿度50±2%に設定した恒温恒湿室で、シートの表面強度、引張強度、水解性を測定した。
【0029】
繊維シートは、NBKP:LBKP=9:1とし、内層は未叩解パルプ、各外層は叩解パルプとした。繊維状ポリビニルアルコールとしては、クラレ社製のクラレビニロンVPにおける「VPW101×3」を使用した。清浄剤の配合成分を表1に示した。
【0030】
【表1】

【0031】
かかる条件下において、繊維状ポリビニルアルコールの配合量を変えたものを表2に、層の目付(坪量)を変えたものを表3に、ホウ酸の添加量を変えたものを表4にそれぞれ示した。各表中に、シートの表面強度、引張強度、水解性を併示した。
【0032】
【表2】

【0033】
【表3】

【0034】
【表4】

【0035】
評価方法は、下記のとおりである。
○表面強度試験方法:25mm×230mmにカットし、3枚重ねしたものを試験試料とする。学振試験機にて試験し、シート表面に毛羽立ちが発生するまでの回数を測定する。
○水解性試験:500ミリリットルのビーカーに350ミリリットルの水を入れスターラーで回転数を600±10回転/分に合わせた後、試料をビーカー中に入れる。スターラーの回転数が540を超えるまでの時間を確認する。試料は100mm×100mm。
○引張試験:25mm×120mmにカットした試料をロードセル型引張試験機にて試験する。
【0036】
表2から、PVAの量が外層繊維重量に対し0.5〜8重量%であることが望ましいことが判る。表3から、内層シートの目付けが20g/m2以下では水解性が低下し、外層シートの目付けが20g/m2以下では強度が低下することが判る。表4から、ホウ酸の量が含浸液中に0.5〜8重量%であることが望ましいことが判る。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本実施の形態にかかる水解性物品の断面図である。
【符号の説明】
【0038】
1…内層シート、2…外層シート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内層が木材パルプを主体としバインダーを実質的に有しない水解性繊維シートと、両外層が木材パルプを主体としバインダーを有する水解性繊維シートとの積層体であり、
前記各外層はバインダーとしての繊維状ポリビニルアルコールが外層繊維重量に対し0.5〜8重量%を含み、
ホウ酸を0.5〜8重量%、水溶性溶剤及び水からなる含浸液が、前記積層体の全体に100〜300重量%含有されていることを特徴とする水解性物品。
【請求項2】
内層及び外層の木材パルプがNBKP及びLBKPとされ、その重量比が95:5〜50:50とされた請求項1記載の水解性物品。
【請求項3】
シートが積層状態でエンボス加工された請求項1または2記載の水解性物品。

【図1】
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【公開番号】特開2006−16733(P2006−16733A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−197231(P2004−197231)
【出願日】平成16年7月2日(2004.7.2)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】