説明

水質評価方法、該方法を用いる超純水評価装置及び超純水製造システム

【課題】半導体や液晶製造用の洗浄水として使用される超純水のエッチング性などの水質について、高純度シリコン物質に対する影響度を指標として簡易かつ高感度に評価する水質評価方法と、当該水質評価方法を用いる超純水評価装置及びこの超純水評価装置を備えた超純水製造システムを提供する。
【解決手段】 超純水製造装置が製造する超純水等の試料水を高純度シリコン物質と接触させ、該高純度シリコン物質に接触後の試料水に含有されるシリカ濃度を測定し、該高純度シリコン物質との接触前の前記試料水に対するシリカ濃度の増加分を算出し、該シリカ濃度の増加分に基づいて、使用する水がシリコン表面をエッチングする性質を有するか否かを判断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は水質評価方法に関するものである。更に詳しくは、特に半導体や液晶製造用の洗浄水として使用される超純水のエッチング性などの水質について、高純度シリコン物質に対する影響度を指標として簡易かつ高感度に評価する水質評価方法、該方法を用いる超純水評価装置及び超純水製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体や液晶製造用に使用される超純水は、不純物濃度が極めて低い水を安定に供給する必要がある。このために試料水を採取し、高感度の分析装置を使用して不純物濃度を測定し、水質を確認している。
従来から、超純水中の不純物が、電気的な方法で測定・指標化できる項目や、不純物が直接分析できる水質モニターが超純水製造装置の出口等に設置されて、水質が監視されている。例えば、抵抗率計(比抵抗計)、TOC計、シリカ計等の計測機器が用いられてきた。最近の超純水のように不純物濃度が極めて低い水に含まれる不純物濃度を正確に測定するためには、従来の水質モニターでは不十分であり、試料採取による高感度分析が不可欠である。例えば、NaやFe等の金属元素の濃度は1pptという極低濃度を測定する必要があり、これに対応できる水質モニターは存在しないため、サンプリングして高感度分析をしなければならない。
【0003】
一方、超純水の製造方法によっては、その製造工程中にイオン交換樹脂や分離膜から溶出したアミン類が混入することがある。このアミン類が混入した超純水を用いてシリコンウエハを洗浄すると、リンス工程では好ましくないエッチング作用を起こすことが知られている。従来、このエッチング作用を確認するために、例えばシリコンウエハを評価対象の超純水に浸漬したのち、その表面を走査型電子顕微鏡で観察する方法がとられていた。しかしながら、この方法においては、走査型電子顕微鏡を取り扱う高い技術が必要であり、かつ測定に時間がかかりすぎるなどの問題があった。
【0004】
特開2001−208748号公報には、シリコンウエハの洗浄に用いられる超純水の水質評価方法として、シリコンウエハを試料水に接触させて、試料水中の不純物をウエハに付着させ、付着した不純物を溶離して、該不純物を分析する水質評価方法が提案されている。しかし、この方法は、その測定対象を試料水中の微粒子や金属類の不純物を測定対象とするものであって、試料水のエッチング性の評価を成しえるものではない。
【0005】
【特許文献1】特開2001−208748号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
半導体製造工程においては、半導体デバイスの高精細化が進むに従い、シリコン表面の清浄度の維持、平坦度の維持が重要になってくる。高精細度の半導体を製造する工程においては、表面のシリコンをわずかでも溶解させる超純水は、表面のエッチングに伴う表面荒れの原因になる可能性があり、それに伴い電気特性を低下させるなどの問題発生の原因になる。
【0007】
従って、半導体製造工程においては、超純水で洗浄時にシリコン表面荒れの少ない水を使用することが必要であり、使用する水がシリコン表面をエッチングする性質を有するか否かを判断することは工業的に極めて重要な課題である。
【0008】
本願発明は、このような事情のもとで、特に半導体や液晶製造用の洗浄水として使用される超純水のエッチング性などの水質について、高純度シリコン物質に対する影響度を指標として簡易かつ高感度に評価する水質評価方法を提供することを目的としている。更に、本願発明は、当該水質評価方法を用いる超純水評価装置及びこの超純水評価装置を備えた超純水製造システムを提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、発明者は、シリコン表面のエッチングと当該シリコン表面から溶出したシリカ濃度との関係を鋭意検討した結果、シリコン表面をエッチングし易い水にシリコンウエハを接触させた場合、その水中に含有されるシリカ濃度が相対的に多くなり、シリコン表面をエッチングする程度が小さい水の場合、その水中に含有されるシリカ濃度も少なくなるという関係を見出し、この知見に基づいて本願発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本願発明は、試料水を高純度シリコン物質と接触させ、該高純度シリコン物質に接触後の試料水に含有されるシリカ濃度に相関する物性値を測定し、該高純度シリコン物質との接触によって変化した前記シリカ濃度に相関する物性値に基づいて、試料水の水質を評価することを特徴とする水質評価方法、特に、超純水を高純度シリコン物質と接触させ、該高純度シリコン物質に接触後の超純水に含有されるシリカ濃度を測定し、該高純度シリコン物質との接触前の前記超純水に対するシリカ濃度の増加分を算出し、該シリカ濃度の増加分に基づいて、超純水の水質を評価することを特徴とする水質評価方法を提供するものである。更に、本願発明は、当該水質評価方法を用いる超純水評価装置及びこの超純水評価装置を備えた超純水製造システムを提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本願発明の水質評価方法及び当該水質評価方法を用いる超純水評価装置は、試料水、特に超純水を高純度シリコン物質と接触させて該超純水中のシリカ濃度を測定することによって、この超純水がシリコンウエハ表面をエッチングする性質を有するか否かを容易に判定できるので、半導体製造上の不具合の発生防止に極めて有効である。
【0012】
本願発明の超純水評価装置は、超純水製造装置直近、製造装置内、工場への供給配管途上等、任意の位置にサンプリングのための器具を常備して、シリコン物質を用いた水質評価が迅速に実行できることによって、半導体製造上の不具合の原因及びその発生源の解明に役立ち、解決に大きく寄与する。
【0013】
また、上記の本願発明の超純水評価装置を備えた超純水製造システムによれば、生産している超純水について、該超純水中におけるシリコン濃度増加分を指標とし、この指標が一定の数値範囲内に収まるように運転管理することによって、半導体製造を安定に維持することができる。また、水質に異常が起きたときに実際の工程で結果が出る以前に検知することができ、損害が大きくなる前に対策を打つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
上記したように、シリコンウエハ等のシリコン表面にエッチングが生じていれば、その水中にシリコンが溶出して、当該シリコンはイオン状シリカ(ケイ酸イオン)(SiO32-)として水中に存在していると考えられる。このイオン状シリカは、モリブデン酸イオンと反応してケイモリブデン酸錯体を形成し、当該錯体が440nm程度の波長の光を吸収すること、或いは当該錯体の還元体が880nm程度の光を吸収することが知られており、かかる性質を利用してシリカ濃度を分析することが行われている。
【0015】
上記シリカ濃度の分析手法及びその分析装置を用いることにより、シリコンウエハの破片または高純度のシリコン結晶等の高純度シリコン物質と接触した後の超純水中のシリカ濃度を測定し、当該物質との接触前のシリカ濃度と比較すれば、当該物質との接触によって増加したシリカ濃度を測定することができる。尚、上記高純度シリコン物質として、シリコン単結晶体以外に、シリコン多結晶体を用いることもできる。また、上記高純度シリコン物質として、好ましくは、シリコンウエハを用いる。
そうすると、定期的或いは連続的にシリカ濃度を直接測定或いはモニタリングすることにより、超純水等の水質、特にエッチング性の変動をモニタリングすることができる。また、シリコンへの接触条件を一定のものにすることで、複数種の試料水がシリコンに対して有するエッチング能力を相対的に比較対比することができる。
また、試料中に含有されるシリカ濃度の分析には、モリブデン酸錯体の吸光度による方法以外に、誘導結合プラズマ−質量分析装置(ICP−MS)や、黒鉛炉原子吸光装置(GF−AA)などの高温下で生じるシリコンイオンやシリコン原子の濃度を測定する方法も適用可能である。
また、試料水に含まれるシリカ濃度の分析には、光の吸収度若しくは吸光度以外にも、シリカ濃度の変化をモニタリングできる物理量を利用することができる。例えば、電気抵抗のような物性値であっても、他のイオン濃度等の条件が一定であれば、電気抵抗を測定することにより、シリカ濃度の変化を検知するためのパラメーターとすることができる。
【0016】
以上の本願発明の水質評価方法は、試料水、特に超純水を高純度シリコン物質と接触させて該超純水中のシリカ濃度を測定することによって、この超純水がシリコンウエハ表面をエッチングする性質を有するか否かを容易に判定できるので、半導体製造上の不具合の発生防止に極めて有効である。
【0017】
上記した本願発明の水質評価方法を用いる超純水評価装置は、試料水通水口と試料水排出口とを有し、内部に高純度シリコン物質を装填する接触容器と、該排出口から排出された試料水中のシリカ濃度を測定するシリカ測定装置とを備えることを特徴とする。
【0018】
上記した本願発明の超純水評価装置は、その1実施形態として、超純水製造装置からユースポイントへの超純水送り配管及びユースポイントからの超純水戻り配管の任意の位置の水経路において、水質評価用のシリコン接触容器と、シリカ測定装置とを接続した構成とすることができる。
【0019】
当該シリカ測定装置は、シリコン接触容器と連結し、シリコン接触容器でシリコンと接触した試料水をシリカ測定装置に導入し、シリカ濃度を測定しても良いし、また、シリカ測定装置はシリコン接触容器とは別な場所に用意し、シリコン接触容器でシリコンと接触した試料水を水採取容器に採り、シリカ測定装置のある場所へ運び、シリカ測定装置で測定しても良い。また、シリコンと接触させる前のシリカ濃度を測定する場合は、シリコン接触容器の上流側の試料水をシリカ測定装置へ導入、供給するようにすれば良い。
【0020】
ここで、上記の1実施形態において、超純水評価装置を構成するシリコン接触容器は、半導体基板に試料水を接触させた後、該基板の表面の分析によって試料水中の不純物を検出又は測定する水質の評価方法で使用する半導体基板の保持容器であって、内部に半導体基板を着脱可能に収容、保持する保持手段と、試料水の給水口と、試料水を排出する排水口と、半導体基板の表面を清浄化するための洗浄液の供給手段を備えたものを使用する。
【0021】
本願発明の超純水評価装置は、一次純水製造装置から供給される純水を更に精製処理してユースポイントへ供給するサブシステムを備えた超純水製造処理装置において好適に使用される。該超純水製造処理装置を構成する一次純水製造装置は、凝縮沈殿装置、砂ろ過器、活性炭ろ過器、逆浸透膜装置、紫外線照射装置、真空脱気又は窒素ガス脱気を行う脱ガス装置、触媒脱気装置、非再生型イオン交換装置等を原水水質に応じて適宜選択し、任意の順に並べて形成する。サブシステムは、紫外線殺菌装置、混床式脱塩装置、限外ろ過膜(UF)装置等を適宜組み合わせて形成する。
【0022】
超純水の循環配管には分岐管を予め必要箇所に設け、例えば、超純水製造装置の出口直後、ユースポイント近傍、ユースポイントから超純水製造装置へ戻る位置等の任意の位置に分岐管を1箇所以上設置する。本願発明の効果を十分に発揮するため、分岐管は、3箇所に設けることが好ましい。また、本願発明の超純水評価装置は、水質評価を行う都度に、分岐管に取り付けることができるが、緊急時に直ちに水質評価することを可能にするため、常設しておくのが好ましい。
【0023】
試料水と高純度シリコン物質との接触は、例えば、高純度シリコン物質を装填した接触容器内部に試料水を連続的に供給した後、この供給された試料水を当該接触容器と接続されたシリカ測定装置又は水採取容器に連続的或いは間欠的に供給することにより行うことができる。この場合の接触条件は、任意に設定することができ、高純度シリコン物質の充填量或いはシリコンウエハの充填枚数、当該シリコンの表面積、単位時間当たりの通水量、接触時間等の所定条件を設定することができる。例えば、6インチのシリコンウエハ1枚に対し、超純水等の試料水を1L/minで供給することが好ましい。
【0024】
水質評価は、予め設定した接触条件に基づいて試料水のシリカ濃度の上昇値を測定し、予め定めた許容上昇値と比較することにより、使用可能か、或いは何等かの対策をたてるべきかを判断する。例えば、ある超純水製造装置が製造した超純水の水質評価においては、まず上記のごとく条件を定め、当該定めた条件と同一条件で、許容される水質の標準水としての超純水のシリカ濃度の上昇値を基準にして、その後、時間経過毎に試料水のシリカ濃度の測定を行い、シリカ濃度が許容値以上の上昇が認められるケースが発生したときは、超純水として不適格と判定する。また、試料水と高純度シリコン物質との接触条件を一定のものにすることにより、異なる場所に設けられた超純水製造装置から供給される超純水について、それぞれ評価することができる。
【0025】
シリカ濃度の上昇値は、シリコンとの接触前後のシリカ濃度を測定し、その前後のシリカ濃度の差から、シリカ濃度の増加分として求めることができる。この場合、正常時の超純水のシリカ濃度が把握されている場合は、接触前のシリカ濃度の測定は省略することができる。シリカ濃度の許容値は、接触条件や超純水の使用目的等によって異なるが、シリカ濃度の上昇値が0.5ppbを越えるときは、対策を講じるのが良い。
【0026】
かかる対策としては、シリカ濃度の上昇値が許容値を超える場合は警告を発した後、当該超純水の使用を中止し、超純水製造装置の水質低下原因を排除することなどを行う。例えば、超純水中に混入するアミンは、イオン交換樹脂等から溶出したものと考えられるので、溶出防止を施したイオン交換樹脂等に取り替えることにより、水質回復を図ることができる。尚、本願発明の超純水評価装置を用いた超純水の水質評価は、例えば1回/月程度の頻度で定期的に行うだけでなく、トラブル発生時等、随時行うこともできる。
【実施例】
【0027】
以下に実施例を挙げて本願発明を更に詳細に説明するが、本願発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0028】
[実施例1]
図1に、本願発明の超純水評価装置を用いた超純水製造システムの一実施例の態様を示す。該超純水製造システム1は、一次純水製造装置及びサブシステムからなる超純水製造装置、超純水のユースポイント、並びに前記超純水製造装置からユースポイントへの超純水送り配管及びユースポイントからの超純水戻り配管から構成されている。そして、上記の超純水製造システム1において、サブシステムの最終出口及びユースポイント前後の3箇所に試料水取り出し口を取り付け、それぞれの試料水取り出し口につき清浄な分岐管4a、4b、4cで本願発明のシリコン接触容器とシリカ測定装置とからなる超純水評価装置2a、2b、2cを接続し、各超純水評価装置に対して常時試料水を供給可能とした。尚、図1において、超純水製造システムを構成する一次純水製造装置には、公知の純水製造装置が使用されており、図1におけるサブシステムは、紫外線酸化装置、限外ろ過膜装置、イオン交換樹脂塔を順次組み合わせて構成されている。
【0029】
図1の超純水製造システム1において使用される、本願発明の超純水評価装置2a、2b、2cをそれぞれ構成するシリコン接触容器を図2に示す。図2のシリコン接触容器は、上蓋10と、上面に有する円形の窪み21を上記上蓋によって塞がれる底盤20とからなる。上蓋10と底盤20の外形は例えば円形で、上蓋の中心には給水口11、底盤20の中心は排水口22が開設されている。底盤20の上面の周縁部には円周方向に等間隔に位置決め突起23が設けてあり、これに対応して上蓋の下面の周縁部には上記位置決め突起を受入れる凹部が設けてある。従って、底盤の上面上に上蓋を載せ、上蓋の凹部を前記位置決め突起23に嵌めると、上蓋は正しく底盤の上に重なり、底盤の円形の窪み21の上面を塞ぐ。
【0030】
底盤の円形の窪み21の内径は保持すべきウエハWの直径よりも充分に大であり、その窪みの底の中心に前記排水口22の上端が開口している。窪み21の底面上には円周方向に等間隔に複数の、図では3つの放射状畝24が隆設してある。この放射状畝24の内端は排水口22の回りに位置し、外端は窪み21の内周面から内側に間隔を保って離れている。そして、ウエハWは上記複数の放射状畝24の上に水平に保持する。そのため、各畝の外端部上にはウエハの周縁部を載せる段26を有する階段形の支持台25が設けてある。段26の段差はウエハの厚さ(約0.6mm)に対応している。又、必要に応じ、各畝24の中間部上にウエハの半径方向の途中の下面を支持する支持部27を突設する。
【0031】
上蓋10の下面には、給水口11の下端に連なった富士山形の通水用凹部12が設けてある。この通水用凹部12の内径は、底盤の円形の窪み21の内径に等しい。通水用凹部12を富士山形と称したのは、断面形状において、凹部12の下面が半径方向外向きに、前記階段形の支持台25に水平に支持されたウエハWの上面に次第に近付くようにしてある。上記窪みの底の周縁部21′に達した水は窪み21の底と放射状の畝によって持ち上げられたウエハの下面との間の隙間を通って中心の排水口22に向かって流れ、該排出口22から外に流出する。
【0032】
上蓋の給水口11と、底盤の排水口22には外気と容器の内部を遮断するために弁をねじ込んで設け、クリーンルーム以外への容器持ち運び時は、前記弁を閉とし、水との接触を実施する際にのみ開にする。給水口11に設ける弁は3方弁(原水→容器内、原水→排出を切り換える)13を用いることが好ましい。本容器を水に接触させる前に、該弁13を「原水→排出」を切り換えておいて容器内に水を入れないで水を流すことができるようにしておけば、サンプリング用の流路の洗浄ができるという効果がある。又、排水口22に設ける弁28は開閉用の2方弁でよい。
【0033】
上蓋10、底盤20の材質としては、加工が比較的容易で耐久性のある合成樹脂を使用する。そのような合成樹脂として、アクリル樹脂等を挙げることができる。又、容器の表面に付着している不純物を除去するために、容器使用前に加温超純水による洗浄や、超音波を使った洗浄を行う。
【0034】
また、シリコン接触容器としては、カラム型の接触容器を使用しても良い。カラム内の集水板上にシリコン物質を所定量充填し、充填物上方から試料水を供給すると共に充填物下方から接触済みの試料水を排出する。構成材料としては水と接触しても溶出物が極めて少ない材料であれば良く、アクリル樹脂が好ましい。
【0035】
[水質評価試験1]
図1の超純水製造システムにより製造された超純水がシリコンウエハ表面をエッチングする性質を有するか否かについて、次の方法にて超純水の水質を評価した。
【0036】
まず、半導体製造装置により製造された6インチのシリコンウエハを1枚用意し、当該シリコンウエハを0.5%濃度の希フッ化水素酸水溶液で洗浄して、このシリコンウエハ表面に形成された自然酸化膜を除去した。次いで、自然酸化膜を除去したシリコンウエハを図2のシリコン接触容器内に装着した後、図1の超純水製造システムにより製造された超純水を1L/minの流量で、当該接触容器に60分間通水した。図2のシリコン接触容器を通水した超純水(以下、「分析用の試料水」という。)は当該シリコン接触容器の排出口から水採取容器に採取された。この分析用の試料水をイオンクロマトグラフ法により濃縮し、当該濃縮後の試料水についてモリブデン錯体の吸光度を測定することにより、シリカ濃度を測定した。
【0037】
分析用の試料水、すなわち、シリコンウエハ接触後の試料水に含有されるシリカ濃度は、0.8ppbであった。シリコンウエハ接触前の超純水について、上記測定方法と同様にしてシリカ濃度を測定したところ、0.3ppbであった。この結果から、製造された超純水は、シリコンウエハ接触に起因して、シリカ濃度が0.5ppb増加したことが分かる。
【0038】
[水質評価試験2]
上記の水質評価試験1と同様に、0.5%濃度の希フッ化水素酸水溶液で洗浄されたシリコンウエハを図2のシリコン接触容器内に装着した。次いで、図1の超純水製造システムにより製造された超純水に水酸化テトラメチルアンモニウムを加え、水酸化テトラメチルアンモニウム濃度が5ppbになるように試料水を調製した。この試料水を上記シリコン接触容器に60分間通水し、分析用の試料水として採取容器に採取された。この分析用の試料水について、上記の水質評価試験1と同様にしてシリカ濃度を測定したところ、シリコンウエハ接触に起因して、シリカ濃度は2.0ppb増加したことが分かった。
【0039】
[水質評価試験3]
上記の水質評価試験1と同様に、0.5%濃度の希フッ化水素酸水溶液で洗浄されたシリコンウエハを図2のシリコン接触容器内に装着した。次いで、図1の超純水製造システムにより製造された超純水に水酸化テトラメチルアンモニウムを加え、水酸化テトラメチルアンモニウム濃度が10ppbになるように試料水を調製した。この試料水を上記シリコン接触容器に60分間通水し、分析用の試料水として採取容器に採取された。この分析用の試料水について、上記の水質評価試験1と同様にしてシリカ濃度を測定したところ、シリコンウエハ接触に起因して、シリカ濃度は3.5ppb増加したことが分かった。
【0040】
上記の水質評価試験1〜3の各評価試験に使用されたシリコンウエハについて、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて30000倍の倍率で観察したところ、水質評価試験1に使用されたシリコンウエハ表面は平坦であった。しかしながら、水質評価試験2及び3に使用されたシリコンウエハ表面は、いずれも凹凸が形成され、その表面はかなり荒れていることが観察された。このように、超純水等の試料水について、エッチングする性質として許容できる範囲はシリカ濃度の上昇値が0.5ppb以下になる範囲であって、高純度シリコン物質との接触後のシリカ濃度の上昇値が0.5ppbを越えるときは、対策を講じるのが良いことが確認できた。
【0041】
[実施例2]
本願発明の超純水評価装置の第2の実施例は、シリコン接触容器としてのアクリルカラムに、該アクリルカラムの試料水排出口から排出された試料水中のシリカ濃度を測定するシリカ測定装置を接続することにより構成される。そして、第2の実施例の超純水製造システムは、図1に示される超純水製造システムにおいて、当該第2実施例の超純水評価装置を接続することにより構成される。
【0042】
上記のシリコン接触容器としてのアクリルカラムは、試料水通水口と試料水排出口とを備えた内径25mmのアクリル樹脂製のカラムである。そして、該アクリルカラムの排出口はシリカ測定装置に接続されており、このシリカ測定装置によって、該アクリルカラム内部を通水した試料水中のシリカ濃度が測定される。尚、上記シリカ測定装置は、この試料水をイオンクロマトグラフ法により濃縮し、当該濃縮後の試料水についてモリブデン錯体の吸光度を測定することにより、シリカ濃度を測定する機能を有する装置である。
【0043】
[水質評価試験4]
上記の第2の実施例の超純水製造システムにより製造された超純水がシリコンウエハ表面をエッチングする性質を有するか否かについて、次の方法にて超純水の水質を評価した。
【0044】
まず、シリコン接触容器としてのアクリルカラムに1mm〜10mm程度に破砕したシリコンウエハの破片を厚さ50mm程度に充填した。次いで、0.5%濃度の希フッ化水素酸水溶液を上記アクリルカラムに通水することにより、充填されたシリコンウエハの破片を洗浄して、該シリコンウエハ破片の表面に形成された自然酸化膜を除去し、更に超純水を上記アクリルカラムに通水することにより、該アクリルカラム内部を十分に洗浄した。
【0045】
次に、イオン交換樹脂を使用開始から12ヶ月間未交換の状態で、上記第2実施例の超純水製造システムを用いて超純水の製造を行い、当該製造された超純水について、この超純水製造システムを構成する上記超純水評価装置を用いてシリカ濃度を連続的に測定した。その結果、製造された超純水は、1.5〜2.0ppbと高いレベルのシリカ濃度を有することが分かった。この場合、高純度シリコン物質との接触後のシリカ濃度の上昇値が0.5ppb以下であるが、シリカ濃度の下限値が大きいので、対策を講じるのが望ましいと考えられる。
【0046】
そこで、上記第2の実施例の超純水製造システムのイオン交換樹脂を新品のものに取り替えて、超純水の製造を行った。当該製造された超純水について、この超純水製造システムを構成する上記超純水評価装置を用いてシリカ濃度を連続的に測定したところ、製造された超純水のシリカ濃度は、0.5〜1.0ppbと低いレベルで安定することが分かった。この場合のシリカ濃度の上限値は小さく、高純度シリコン物質との接触後のシリカ濃度の上昇値も0.5ppb以下であった。このことから、高いシリカ濃度が測定された場合、イオン交換樹脂を新品に交換することは、製造された超純水の超純水のエッチング性を改善するのに極めて有効であることが分かる。また、本願発明の水質評価方法及び当該水質評価方法を用いる超純水評価装置によれば、イオン交換樹脂の交換時期を精度良く知ることができるので、半導体製造上の不具合の発生防止に極めて有効であることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本願発明の超純水評価装置を用いた超純水製造システムの第1実施例の態様である。
【図2】(A)図1に示す超純水製造システムにおいて使用される、本願発明の超純水評価装置を構成するシリコン接触容器の断面図である。(B)図2(A)のシリコン接触容器の底盤20の斜視図である。
【符号の説明】
【0048】
1 超純水製造システム
2a、2b、2c 超純水評価装置
3 (超純水の)循環配管
4a、4b、4c 分岐管
10 上蓋
11 上蓋の給水口
12 上蓋の通水用凹部
20 底盤
21 底盤の円形の窪み
22 底盤の排水口
24 底盤の放射状畝
25 放射状畝の階段形支持台
W 半導体基板(ウエハ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料水を高純度シリコン物質と接触させ、該高純度シリコン物質に接触後の試料水に含有されるシリカ濃度に相関する物性値を測定し、
該高純度シリコン物質との接触によって変化した、前記シリカ濃度に相関する物性値に基づいて、試料水の水質を評価することを特徴とする、
水質評価方法。
【請求項2】
試料水を高純度シリコン物質と接触させ、該高純度シリコン物質に接触後の試料水に含有されるシリカ濃度を測定し、
該高純度シリコン物質との接触前の前記試料水に含有されるシリカ濃度に対するシリカ濃度の増加分を算出し、該シリカ濃度の増加分に基づいて、
試料水の水質を評価することを特徴とする、
請求項1に記載の水質評価方法。
【請求項3】
前記高純度シリコン物質として、シリコン単結晶体若しくはシリコン多結晶体を用いたことを特徴とする、
請求項1又は2に記載の水質評価方法。
【請求項4】
高純度シリコン物質と接触させる試料水が、超純水であることを特徴とする、
請求項1乃至3のいずれかに記載の水質評価方法。
【請求項5】
試料水通水口と試料水排出口とを有し、
内部に高純度シリコン物質を装填する接触容器と、
該排出口から排出された試料水中のシリカ濃度を測定するシリカ測定装置とを備えることを特徴とする、
請求項1乃至4に記載のいずれかに記載の水質評価方法に用いる超純水評価装置。
【請求項6】
超純水製造装置、超純水のユースポイント、並びに超純水製造装置からユースポイントへの超純水送り配管及びユースポイントからの超純水戻り配管から構成され、
前記超純水製造装置の最終出口、前記超純水送り配管又は前記超純水戻り配管の任意の位置において、
請求項5に記載の超純水評価装置を設けたことを特徴とする、超純水製造システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−29880(P2006−29880A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−206679(P2004−206679)
【出願日】平成16年7月14日(2004.7.14)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】