説明

水道水用脱塩素ヨウ素遊離型殺菌剤

【課題】 流水系、非流水系に限定せず、残留塩素を含む水道水に接触させることにより残留塩素を瞬時に除去し、除去した残留塩素量に応じ、人体にとって安全なヨウ素を遊離させ、水道水に殺菌効果を付与する殺菌剤を提供する。
【解決手段】 1価の単原子ヨウ素イオンを結合させた陰イオン交換樹脂を含有し、残留塩素を含む水道水に接触させて残留塩素を吸着させ、ヨウ素をイオン交換方式で遊離させる水道水用脱塩素ヨウ素遊離型殺菌剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水道水中の残留塩素を除去しヨウ素を遊離する殺菌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
蛇口から開栓される水道水には規定により0.1ppm以上の残留塩素が含まれている。塩素は安価な消毒剤として様々な分野で利用されているが、水中では時間の経過や光により他の物質と化合し、短時間で殺菌能力を失ってしまう。そこで、水道水中の失いやすい塩素の殺菌能力を補うため、あるいは殺菌能力を高めるために、家庭内や業務においては、水道水に新たに添加して使用する殺菌剤が数多く利用されている。しかしながら、その多くは、高濃度の次亜塩素酸ナトリウム等の塩素系の殺菌剤など、人体に対し有害なものが少なくなく、使用時や保管時など危惧する点が多い。
【0003】
塩素は人体にとっては安全性が低い物質であり、従来、家庭において使用される水道水中の塩素を除去する脱塩素剤として、亜硫酸カルシウムを有効成分とするものが利用されている。しかしながら、水道水を脱塩素した水には殺菌効果がなく微生物汚染の影響を受けやすい。そのため、脱塩素したのちの水道水に抗菌効果を補うため、特開平09−192043や特開2006−167701で提供している方法のように、亜硫酸カルシウムに公知の抗菌剤を配合する方法も公知であるが、脱塩素後の水道水に新規に殺菌能を付与させるほどの高い抗菌スペクトルを有しているものではない。
【0004】
一方、塩素と同じハロゲン族で抗菌スペクトルの高いヨウ素は、外用殺菌剤、消毒剤として使用されており、人体にとって安全性が高く、水系における殺菌効果の持続性が塩素より優れていることより、近年では医療分野以外でも様々な分野でヨウ素が利用されている。しかしながら、水系でのヨウ素の利用はヨウ素特有の色の付着や、ヨウ素が昇華しやすいという欠点により、ヨウ素濃度管理やヨウ素遊離量管理は容易ではなく、さらに低濃度で一定の殺菌効果を有し、継続的かつ長期間利用することはきわめて困難である。
【0005】
水道水から純水を精製するために使用されているイオン交換樹脂は、純水製造や海水の淡水化をはじめとし、工場排水の処理や薬品の処理など様々な水処理に利用されている。しかしながら、従来の利用方法は除去対象物質の吸着であって、あるいは樹脂母体の構造やイオン吸着性による担持体としての利用であって、イオン交換樹脂によりイオン置換そのものに新規の効果と最終用途を生み出す利用方法ではない。従来、イオン置換は、主に一定期間使用後の水処理用の樹脂再生を目的として行われ、最終用途は特定のイオンあるいは物質の吸着のみである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
先に述べた従来の水道水中の脱塩素剤は、単一素材では脱塩素能しか有しておらず抗菌剤を併用しなければならず、併用する抗菌剤も、失った水道水中の塩素の殺菌力を同等以上に補うものではない。
【0007】
塩素と同じハロゲン族で抗菌スペクトルの高いヨウ素系の固体の殺菌剤としては、特開平09−132867号公報、特開2005−290294号公報で提供されているポリアミド樹脂にヨウ素を溶液法で浸透させた方法によるものは公知であるが、水道水中では塩素除去能を有しておらず、ヨウ素の含浸量を高めるにつれて常温でもヨウ素の昇華量が多くなり、ヨウ素ガスの漏洩など保管上危惧する点が多い。また継続的にヨウ素を遊離することはできない。例えば、ポリアミド樹脂に高濃度のヨウ素を含浸させても、水中では使用開始直後の初期段階においてのみ高いヨウ素遊離量を示すが、使用2回目以降のヨウ素遊離量はごく微量となり著しく減少する。
【0008】
一方、本発明と同じ強塩基性陰イオン交換樹脂をマトリックスとし、ヨウ素分子Iや三ヨウ化物イオンなどの1価の多原子ヨウ素イオンを吸着した樹脂も高い殺菌能を有しているが、水中での遊離ヨウ素は微量でありヨウ素遊離型の殺菌能ではなく樹脂接触型の殺菌能であって、塩素イオンに対しては交換イオンの選択性によりイオン交換能力は低く、数分間という反応時間レベルでの塩素イオン吸着力、すなわち脱塩素能は有していない。
【0009】
本出願人が先に出願した発明、特開2000−290167号公報によれば、ヨウ化ナトリウムやヨウ化カリウムなどの無機ヨウ化物を水道水中に投入することにより、塩素を除去し塩素より殺菌効果の持続力のあるヨウ素によって殺菌する方法を提供しているが、使用する環境により残留塩素濃度や水道水量が異なるため、使用の都度水溶性無機ヨウ化物を水道水に溶解させなければならない。使用環境によっては利用が煩雑であり、浴槽及び上部開口型タンク等の水道水の流入流出のない外部水系と遮断された領域内での使用には適しているが、濾過器、浄水器や洗濯機などの、一定の半密閉領域内において水道水の流入流出が頻繁に繰り返される流水系では、流水量対応型の自動添加装置を設けなければならず、コスト面で実用的ではない。
【0010】
本発明は、流水系、非流水系に限定せず、残留塩素を含む水道水に接触させることにより残留塩素を瞬時に除去し、除去した残留塩素量に応じ、人体にとって安全なヨウ素を遊離させ、水道水に殺菌効果を付与する殺菌剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明は、1価の単原子ヨウ素イオンを結合させた陰イオン交換樹脂を含有し、残留塩素を含む水道水に接触させて残留塩素を吸着させ、ヨウ素をイオン交換方式で遊離させる水道水用脱塩素ヨウ素遊離型殺菌剤である。
【0012】
また、本発明の殺菌剤を少量で効率よく水道水中の残留塩素を除去し適時にヨウ素を遊離させるためには、単位樹脂質量あたりのヨウ素イオンの吸着量を高めることが重要である。すなわち、本発明は1価の単原子ヨウ素イオンを結合させる陰イオン交換樹脂が強塩基性であり、湿潤状態下において5〜25重量%の1価の単原子ヨウ素イオンを含有し、乾燥状態下においては5〜35重量%の1価の単原子ヨウ素イオンを含有する、水道水用脱塩素ヨウ素遊離型殺菌剤である。
【0013】
更に、様々な使用環境、例えば水道水に洗剤などの界面活性剤などを使用する環境などは有機物に対する耐性を有することが必要であって、また流水系などでは殺菌剤と水道水の短い接触時間でも十分に残留塩素とヨウ素イオンをイオン交換できる高い反応速度が必要である。すなわち、本発明は1価の単原子ヨウ素イオンを結合させる陰イオン交換樹脂が多孔性でマクロポアーを有したポーラス型強塩基性陰イオン交換樹脂であり、湿潤状態下において5〜25重量%の1価の単原子ヨウ素イオンを含有し、乾燥状態下においては5〜35重量%の1価の単原子ヨウ素イオンを含有する、水道水用脱塩素ヨウ素遊離型殺菌剤である。
【0014】
また、コスト面や使用環境内での該殺菌剤格納容器の小型化、すなわち該殺菌剤の少量化を含めた高い実用性を実現するために、本発明は、残留塩素を含む水道水の処理量1リットルに対し、前記1価の単原子ヨウ素イオンを結合させた陰イオン交換樹脂を乾燥質量で少なくとも0.25gを用い、該樹脂は乾燥状態下において1価の単原子ヨウ素イオンを少なくとも10重量%以上含有する水道水用脱塩素ヨウ素遊離型殺菌剤である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の殺菌剤(1価の単原子ヨウ素イオンを結合させた陰イオン交換樹脂)は、水道水に溶解させることもなく、流水系非流水系の両系において接触させるだけで、水道水中の残留塩素を瞬時に除去し、水道水中の塩素イオンとヨウ素イオンをイオン交換させることによりヨウ素を水中に遊離し、遊離されたヨウ素により水道水に安全でより高い効果の殺菌性能をもたらせ、その効果を長時間持続させることができる。更に、同一の1価の単原子ヨウ素イオンを結合させた陰イオン交換樹脂のイオン交換能力が減衰するまで、複数回の利用が可能であることにより、使用の都度殺菌剤を投入する煩雑さがない。すなわち、本発明により初めて簡易で水道水中の塩素を除去し人体にとって安全なヨウ素を遊離させ、殺菌、消毒作用が長持ちする殺菌剤を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の殺菌剤は、1価の単原子ヨウ素イオンを結合させた陰イオン交換樹脂を少なくとも含有しており、塩素系以外の殺菌剤、消毒剤、除菌剤や抗菌剤に通常含まれる成分、例えば芳香性成分や界面活性剤などを含有していてもよい。
1価の単原子ヨウ素イオンを結合させたヨウ素結合陰イオン交換樹脂のマトリックスである陰イオン交換樹脂としては、酸性領域からアルカリ領域まで有効pH範囲が広く、更には中性塩に対する分解力のある強塩基性陰イオン交換樹脂が好ましく、実用面から耐有機汚染性が高く、樹脂母体に多孔性でマクロポアーを有したポーラス型強塩基性陰イオン交換樹脂が最も好ましい。
【0017】
水道水中には、規定により0.1ppm以上の残留塩素が含まれている。水道水中の遊離残留塩素は、殺菌のために吹き込まれた塩素ガスにより生成された次亜塩素酸と次亜塩素酸イオンのことであり、水道水のpH値により次亜塩素酸の一部は、さらに次亜塩素酸イオンと水素イオンに分かれる。
【0018】
従来のイオン交換樹脂の利用方法は、特定の除去対象物質の吸着であること、あるいは樹脂母体の構造やイオン吸着性による担持体としての利用であること、は前述のとおりである。本発明はイオン交換樹脂のイオン置換そのものに新規の効果と最終用途を付与させるものであり、具体的には、通常Cl型すなわち塩素イオンを吸着させている状態で流通されている樹脂の塩素イオンを1価の単原子ヨウ素イオンに置換することであって、陰イオン交換樹脂に1価の単原子ヨウ素イオンを吸着した樹脂が、水道水中の残留塩素イオンと1価の単原子ヨウ素イオンを置換することによって、結果として残留塩素を除去し同時にヨウ素を水中に遊離させることである。
【0019】
ヨウ素は高濃度で多量に長時間、人体や金属に接触させると、人体に対してはヨウ素特有の褐色の色を添着させたり、金属に対しては腐蝕させたりと、害をもたらすこともあるが、本発明の脱塩素ヨウ素遊離型殺菌剤においては、水道水中の塩素イオン量と等量のヨウ素イオンしか遊離させないために、水道水中の残留塩素濃度は地域によって異なるが、平均的には0.4ppm〜0.6ppmとごく僅かな濃度であって、水道水中に遊離されるヨウ素量も僅かであり、金属に対する腐蝕性も低く、殺菌効果も同等量の塩素より持続力があり、安全且つ有益である。
【0020】
前述のとおり、水道水には、残留塩素が0.1mg/kg以上含まれていることが規定されており、平均的な濃度は0.4ppm〜0.6ppmである。残留塩素を含む水道水の処理量1リットルに対し、前記1価の単原子ヨウ素イオンを結合させた陰イオン交換樹脂を乾燥質量で少なくとも0.25gを用い、乾燥状態下において1価の単原子ヨウ素イオンを少なくとも10重量%以上含有する該樹脂であれば、(0.25g/水道水1L)という僅かな投入量でも、下記表1のように脱塩素、ヨウ素遊離の処理を10数回繰り返すことが可能であり経済的である。
【0021】
【表1】

【実施例】
【0022】
実施例1:1価の単原子ヨウ素イオンを結合させた陰イオン交換樹脂の作成
マクロポーラス型強塩基性陰イオン交換樹脂(三菱化学製PA316)を、イオン交換精製水にて十分に洗浄を行い、膨潤状態になった樹脂を内径20mm、カラム長300mmのクロマトグラフ管に50ml充填した樹脂槽を設ける、樹脂槽上部より1価の単原子ヨウ素イオンの水溶液として10重量%濃度のヨウ化カリウム水溶液350ccを10cc/minの速度で流入させ、流入終了後直ちに樹脂槽内上層部の樹脂25mlを樹脂槽から摘出し、樹脂槽に残留させた樹脂25mlに樹脂槽上部から、さらに連続して再度10重量%濃度のヨウ化カリウム水溶液150ccを10cc/minの速度で流入させる。このことにより樹脂槽内の上層部下層部でのイオン吸着量の差異を少なくし、樹脂全体の1価の単原子ヨウ素イオン吸着量を均等化させる。先に摘出した樹脂25mlと残留させた樹脂25mlを混合しイオン交換水にて洗浄し、恒温乾燥機にて乾燥し、1価の単原子ヨウ素イオンを結合させた陰イオン交換樹脂を作成する。さらに1価の単原子ヨウ素イオン吸着をした工程後の樹脂の乾燥重量から工程前のCl型樹脂の乾燥重量を差し引き、乾燥状態での単位グラムあたりの1価の単原子ヨウ素イオンの吸着量を表2のように求めた。
【0023】
【表2】

【0024】
実施例2:残留塩素の除去及びヨウ素遊離量
実施例1にて作成された1価の単原子ヨウ素イオンを結合させた陰イオン交換樹脂0.8gを、残留塩素濃度0.6ppmの水道水1Lに入れ、マグネティックスターラーで回転数500rpmにて5分間攪拌して処理された試験水より、10mlを採取しオルトトリジン試薬液0.5mlを滴下して残留塩素濃度を比色測定した。残留塩素濃度の測定試薬としては、DPD溶液が主流であるが、DPD溶液はヨウ素に対しても短時間で反応し発色するため、オルトトリジン法を採用した。また、遊離ヨウ素濃度の測定は、チオ硫酸ナトリウム水溶液による滴定法にて行った。
【0025】
【表3】

注)表3において、不検出とは0.1ppm以下すなわち検出限界以下であることを意味する。
【0026】
実施例3:殺菌性試験
実施例2で処理された試験水(水道水中の残留塩素を除去しヨウ素が遊離された液体)の大腸菌、黄色ブドウ球菌に対する殺菌性試験を行った。試験水10mlに菌液を滴下し、大腸菌の初発菌数を1.7×10CFU/ml、黄色ブドウ球菌の初発菌数を1.6×10CFU/mlとなるように調整し、常温で作用時間を5分間とし10倍希釈系列を作成し、普通寒天培地に接種し37℃で48時間培養した。培養後、形成されたコロニーをカウントし生菌数を換算した。また、比較対照として無添加の精製水を用いて同様の試験を行った。大腸菌の殺菌試験結果を表4に示し、黄色ブドウ球菌の殺菌試験結果を表5に示す。
【0027】
【表4】

【0028】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の水道水用脱塩素ヨウ素遊離型殺菌剤は、水道水を簡易な方法でヨウ素系殺菌水に改質することにより、衛生管理を要する作業着、制服、用具、雑巾等の身の回りの物の除菌だけでなく、食品工場等の清掃における除菌水散布や農業における出荷前の果実の表皮の除菌など、様々な分野で利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1価の単原子ヨウ素イオンを結合させた陰イオン交換樹脂を含有し、残留塩素を含む水道水に接触させて使用すること、を特徴とする水道水用脱塩素ヨウ素遊離型殺菌剤。
【請求項2】
前記陰イオン交換樹脂が強塩基性であり、湿潤状態下において5〜25重量%の1価の単原子ヨウ素イオンを含有し、乾燥状態下においては5〜35重量%の1価の単原子ヨウ素イオンを含有する、請求項1記載の水道水用脱塩素ヨウ素遊離型殺菌剤。
【請求項3】
前記陰イオン交換樹脂が多孔性でマクロポアーを有したポーラス型強塩基性陰イオン交換樹脂である、請求項1記載の水道水用脱塩素ヨウ素遊離型殺菌剤。
【請求項4】
前記陰イオン交換樹脂が多孔性でマクロポアーを有したポーラス型強塩基性陰イオン交換樹脂であり、湿潤状態下において5〜25重量%の1価の単原子ヨウ素イオンを含有し、乾燥状態下においては5〜35重量%の1価の単原子ヨウ素イオンを含有する、請求項1記載の水道水用脱塩素ヨウ素遊離型殺菌剤。
【請求項5】
残留塩素を含む水道水の処理量1リットルに対し、前記1価の単原子ヨウ素イオンを結合させた陰イオン交換樹脂を乾燥質量で少なくとも0.25gを用い、該樹脂は乾燥状態下において1価の単原子ヨウ素イオンを少なくとも10重量%以上含有すること、を特徴とする請求項1記載の水道水用脱塩素ヨウ素遊離型殺菌剤。

【公開番号】特開2009−221123(P2009−221123A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−65349(P2008−65349)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(599044803)アルピコ株式会社 (9)
【Fターム(参考)】