説明

水量測定装置

【課題】検量線作成治具の構造上の性能に依存せず、より高精度の水量測定が可能な、また正確な検量線の作成も可能な水量測定装置を提供する。
【解決手段】燃料電池セル等の試料に放射線を照射したときの放射線透過量を計測し、放射線透過量と水量との検量線に基づいて試料内の水量を演算する演算・制御装置を備え、反応に伴い、生成する水の測定試料内での水量を測定する水量測定装置において、演算・制御装置は、試料につき、反応開始後の放射線透過量を反応開始前の放射線透過量で除算し(ステップS3)、その除算結果値に基づいて試料内の水量を演算して放射線検出系の感度ムラを低減し、検量線作成治具の構造上の性能に依存せずに高精度の水量測定を可能とした。放射線透過量は複数回の計測の平均値とし(ステップS1)、また、計測を試料内の水量や放射線強度の安定化後に実行して更に高精度の水量測定を可能とした。試料の計測時に計測されたデータに基づいて検量線を作成し(ステップS4)、高精度の水量測定を可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に水が存在する燃料電池セル等の測定試料に放射線を照射し、この測定試料を透過する放射線の量(放射線透過量)に基づいて測定試料内部の水量を測定する水量測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池セルの内部において生成される水の量の解析は、燃料電池の性能を高める上で極めて重要である。したがって、燃料電池セルの生成水量を測定する装置は高精度であることが要求される。
この種の水量測定装置においては、燃料電池セル等の測定試料に放射線を照射し、この測定試料を透過する放射線透過量(又は放射線減衰量。以下同じ。)を測定し、これに基づいて測定試料内部の水量を測定する方法が採られている(例えば特許文献1参照)。そして、このような水量測定方法において、より精度の高い測定を行うために、従来から、検量線に基づいて測定試料中の水量(ないし分布。以下同じ。)を測定する方法が提案されている。
【0003】
この方法は、予め水量と放射線透過量との関係を定めた検量線を求めておき、この検量線に基づいて測定試料中の水量を測定する。この検量線は、測定試料中の水量の最終決定に用いられるものであり、その正確性が要求される。すなわち、放射線透過量の各値に対応する測定試料中の水量の各値が、可能な限り正確に求められるという正確性が要求される。この正確性を判断する主要因の1つとして、この検量線を作成する際に用いられる検量線作成治具の精度がある。
【0004】
この種の検量線作成治具を以下に説明する。
図8には、検量線作成治具300が測定台302上に載置された状態で示されている。検量線作成治具は、内部の水以外の放射線減衰要因を排除しやすい等の理由から、測定試料と同材料の部材、同程度の大きさであることが一般的である。ここでは燃料電池セル等の直方体の測定試料を想定し、検量線作成治具300の全体形状は直方体としている。検量線作成治具300は、直方体の側面の一面を下面として、この下面が、表面が平坦な測定台302の表面と当接され、この当接表面に対して垂直に置かれる。放射線305は、この検量線作成治具300の下面に対して垂直面である表面に対して、直交する方向から検量線作成治具300に照射される。
【0005】
検量線作成治具300は、基準量の水を収容する水収容溝316を有する水収容容器310(図9参照)と、この水収容容器に蓋をして検量線作成治具300を密封する水収容容器蓋320(図10参照)から形成されている。この密封は水収容容器310の外周に設けられた嵌合穴312と、水収容容器蓋320の外周に設けられた嵌合杭322が嵌合することによってなされる。検量線作成治具300は、水収容容器310の内部空間に、水量測定において測定対象となる水と同一の水(通常、蒸留水)がこの収容溝316に収容され、水収容容器蓋320によって密封されて形成されている。
【0006】
水が水収容溝316に収容され、検量線作成治具300が形成されて、図8のように検量線作成治具300が測定台302上に載置される。この状態で外部に設けられた放射線源から放射線が検量線作成治具300へと照射される。この照射される放射線の放射線透過率と水の量との関係に基づいて検量線(図11参照)が作成される。
【0007】
水量の相違に基づく放射線透過率の関係を求めるために、この検量線作成治具300は、放射線が照射され透過する方向の水収容溝316の深さ幅(以下、深さ幅という)がその水収容溝316の位置において相違させられている。深さ幅の相違のさせ方は検量線作成治具の種類によって異なるが、深さ幅が小さい箇所から大きい箇所へと向かって連続的に直線状に変化させるウェッジタイプ及び深さ幅が小さい箇所から大きい箇所へと向かって不連続的ステップを設け、深さ幅を変化させるステップタイプがある。図8の検量線作成治具300は水収容容器蓋310(図10参照)にステップタイプの検量線作成治具である。
【0008】
図12には、水収容容器蓋310(図10参照)をX−Y平面で切断した断面図が示される。水収容容器310は、水収容溝316の深さ幅の大きさを変化させるように段々にステップ314が形成されている。ステップ下段では、深さ幅aは大きく、収容される水の厚さは厚くなる。ステップ上段では、深さ幅bは小さく、収容される水の厚さは薄くなる。このように水収容溝316の位置の相違で深さ幅が相違する。
したがって、放射線が照射され透過する方向の上記水厚さがその深さ幅の厚さに対応して相違することになる。この水の厚さの変化によって、放射線の減衰量は変化するので、この厚さが相違する箇所のそれぞれの水の厚さ(水量)とそれに対応するそれぞれの放射線透過率(放射線減衰量)との関係を求め、それをプロットするとこの水量と放射線の減衰量との関係を表した検量線が作成できる(図11参照)。このようにして水量測定に用いられる検量線が作成される。作成した検量線はコンピュータ内等のメモリ等に記憶しておく。
【0009】
ステップタイプの検量線作成治具300は、ステップの横幅315の範囲内では放射線が透過する水の厚さを一定とすることができ、予定照射位置と照射位置がずれて水の厚みを誤認することを防止できる。なお、放射線305の照射角度に対する検量線作成治具300の角度によって、深さ幅a、bは異なり、放射線305が透過する水の厚さは同一ステップ314においても異なってしまう。したがって、放射線305はステップ314に対して垂直である必要がある。
【0010】
水量測定では、この検量線を用いて、測定試料中の水量を測定する。外部材質の相違等、測定試料中の水以外の放射線減衰要因を除去し、測定試料に放射線を当てる。この測定試料を透過してきた放射線の減衰量を、上述の作成した検量線に当てはめる。そして、この減衰量に対応した水量を予め求めた検量線から導出すると測定試料中の水量を求めることができる。放射線を測定試料全体に当てれば、測定試料全体の水量分布を求めることができる(特許文献2参照)。
【0011】
【特許文献1】特開平7−52143号公報
【特許文献2】特開2005−265787号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、このような検量線作成治具を用いた水量測定では、内部に収容された水に対する密封性に優れているか等、検量線作成治具の構造上の性能が優れているか否かが正確な水量測定を実現する要因となるもので、水量測定の正確性の向上には自ずと限界があった。
【0013】
本発明は、上記のような実情に鑑みなされたものであり、検量線作成治具の構造上の性能に依存することなく、より高精度の水量測定が可能な、また、より正確な検量線の作成も可能な水量測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、特許請求の範囲の請求項1に記載の発明は、測定試料に放射線を照射する放射線照射手段と、前記測定試料を透過した放射線の透過量を計測する放射線計測手段と、この放射線計測手段で計測された前記放射線透過量と水量との検量線に基づいて前記測定試料内の水量を演算する演算・制御手段とを備え、反応に伴い、生成する水の測定試料内での水量を測定する水量測定装置であって、前記演算・制御手段は、前記測定試料内の反応開始後における放射線透過量を、前記測定試料内の反応開始前における放射線透過量で除算し、その除算結果値に基づいて前記測定試料内の水量を演算することを特徴とする。
特許請求の範囲の請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記除算は、反応開始後の測定試料における複数回の計測で得られた各回の放射線透過量の平均値に対して、反応開始前の測定試料における複数回の計測で得られた各回の放射線透過量の平均値で実行されることを特徴とする。
特許請求の範囲の請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、前記放射線透過量の計測は、前記測定試料内の水量の安定化後及び/又は放射線強度の安定化後に各々実行されることを特徴とする。
特許請求の範囲の請求項4記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、前記検量線は、前記測定試料に隣接、並置された検量線作成治具について、前記測定試料についての放射線透過量の計測時に計測された放射線透過量に基づいて作成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
特許請求の範囲の請求項1〜4に記載の各発明によれば、検量線作成治具の構造上の性能に依存することなく、より高精度の水量測定が可能な水量測定装置を提供できる。
特に、請求項4に記載の発明によれば、実際の水量測定時における検量線(最適な検量線)が得られ、使用する放射線として計測が時間的、位置的に不安定な中性子線が用いられた場合に、より高精度の水量測定が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。なお、各図間において、同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0017】
本実施形態では、測定試料中の水量を測定する方法において、放射線は中性子線、測定試料は燃料電池セル、測定試料中の測定対象となる水は、その燃料電池セルの内部に存在する、発電等によって生じた水(生成水)であるとする。検量線作成治具は、この水量を測定する方法おける水量(放射線透過方向における水の層の厚さ)と中性子線の減衰量との検量線を作成する治具であり、ここでは、一例として背景技術において述べたものが用いられる。
【0018】
図1は、本発明による水量測定装置の一実施形態を示す構成図である。
この図において、検量線作成治具100及び測定試料である燃料電池セル200の正面には中性子線射出口(放射線照射手段)10が対向、配置されている。この中性子線射出口10は、図示を省略した原子炉に連結されており、原子炉から中性子線が送られている。この中性子線射出口10は検量線作成治具100及び燃料電池セル200の各表面に直交する方向から中性子線105を照射できる。
【0019】
ここで、図2に拡大して示すように、検量線作成治具100及び燃料電池セル200は測定台102上に載置されている。検量線作成治具100は、燃料電池セル200と同様、全体形状を直方体としている。検量線作成治具100及び燃料電池セル200は、各々直方体の側面の一面を下面として、この下面が、表面が平坦な測定台102の表面と当接され、この当接表面に対して垂直に載置される。中性子線105は、この下面に対して垂直面である検量線作成治具105及び燃料電池セル200の各表面に対して、直交する方向から照射される。検量線作成治具100の材質は、水以外の中性子の減衰をできるだけ防止するため、中性子透過性の高い材料、例えばアルミを用いると好適である。
検量線作成治具100及び燃料電池セル200は、中性子線射出口10からの中性子線105が同条件で、つまり同時間、同様の強度で照射されるように測定台102上の隣接した位置に並べて載置されている。
図示しないが、上記燃料電池セル200には、これを実際に発電作動・制御する燃料電池制御装置が接続されている。
【0020】
この中性子線105が検量線作成治具100及び燃料電池セル200を同時間内に透過し、透過した透過中性子線108を同条件で受ける透過中性子線受線装置(放射線計測手段)20が、検量線作成治具100及び燃料電池セル200に対して中性子線射出口10とは反対側に設けられている。
透過中性子線受線装置20には、透過中性子線108を受け、これによって蛍光を発する蛍光板が設けられている。上記蛍光は、透過中性子線108が減衰していないほど高い輝度を発する。中性子線の減衰量の大きさは、この中性子線の透過方向における水の厚さ(水量)に依存する。したがって、検量線作成治具100中の蒸留水の厚さが小さいほど大きな蛍光輝度を発し、検量線作成治具100中の蒸留水の厚さが大きいほど小さな蛍光輝度となる。
上記蛍光は鏡によって反射させられ、蛍光輝度カメラ30に取り込まれる。この蛍光輝度カメラ30に取り込まれた蛍光輝度データ、換言すれば可視化画像(中性子線画像)はコンピュータ等からなる演算・制御装置40に送られる。
【0021】
演算・制御装置40には、中性子線射出口10が検量線作成治具100及び燃料電池セル200につき、各々どの位置に中性子線を照射したかという照射位置データも送られる。演算・制御装置40には中性子線の照射位置とその照射位置における検量線作成治具100中の基準となる水の厚さ(水量)との関係が記憶されている。
演算・制御装置40はこの関係に基づいて、蛍光輝度と水量との関係を整合させる。検量線作成治具100はステップタイプの治具であり、ステップ毎に水の厚さが不連続的に変化するので同一ステップのステップ幅(例えば10μm)の範囲内では水の厚さは一定であるので測定誤差が少なく、また、照射位置と水の厚さの関係を整合させることが容易である。
【0022】
本実施形態における水量測定装置は、反応中(発電作動中)における燃料電池セル200内の生成水を、中性子ラジオグラフィ法を用いて高精度に測定する装置であり、上記演算・制御装置40における演算/処理は、次の(1)〜(5)に掲げる特徴点を有している。
すなわち、
(1) 高空間分解能で計測する場合、上記カメラ30の撮像素子の感度が低いため、長時間の露光(中性子線照射)が必要となる。このため、燃料電池(燃料電池セル200)内の生成水が過渡状態である場合、例えば燃料電池により走行する自動車においてアクセルペダルを急激に踏み込んだ場合、解析結果として生成水量幅が大きくなって計測が追従せず、高精度な計測を行い得ない。本実施形態では、予め燃料電池セル200内の生成水が安定する時間を把握し、解析結果として生成水量幅が小さくなる状態で計測を開始することを特徴としている。
(2) 中性子線は、密度(一定位置を透過する確率)が安定していない。このため、中性子線画像からの解析における定量化にはこの中性子線密度のムラをいかに低減するかが計測精度、ひいては水量測定の精度を左右する。本実施形態は、中性子線源に対して改良を加えるのではなく、安価な方法で中性子線密度のムラを低減する方法を提案する。すなわち、本実施形態において可視化(画像取込み)するに当たっては、例えば約30秒以上というような長時間の露光を実施して中性子線密度を平均化すると共に、検量線作成治具100と測定試料、ここでは燃料電池セル200とを共に可視化することを特徴としている。
(3) カメラ30の撮像素子内の感度ムラ(位置上の感度ムラ)の低減は上掲(2)の中性子線密度ムラの低減と同様に、解析精度向上には不可欠である。本実施形態は、複数枚の画像の同一位置における輝度の最大値、最小値又は平均値、例えば平均値を水量測定演算に直接用いる輝度値として画像を新たに構成することで上記撮像素子内の感度ムラを低減している。
(4) 本実施形態は、上掲(3)の処理を施した後、反応(発電作動)開始前において取り込まれた画像によって反応中(反応開始後)に取り込まれた画像を除算(正規化)することで、更に上記中性子線密度ムラ及び上記撮像素子内の感度ムラを低減することを特徴としている。ここでの処理において、上記除算後の画像の各位置(ピクセル)の輝度値には所定の係数αが加算又は乗算、ここでは加算される。
(5) 本実施形態において、輝度値から実寸値(中性子線透過方向の水の厚さ、換言すれば水量)への変換は、取り込んだ各画像毎に、全計測領域画像内の検量線作成治具100領域の画像(計測データ)から実寸値変換式、つまり検量線を求め、これを燃料電池セル200の全体又は所望の領域の画像に適用して実行することを特徴としている。検量線を用いた測定試料中の水量の測定方法は従来技術における場合と特に変わるところはない。
【0023】
次に、本実施形態による水量測定方法について説明する。
始めに、図1に図3を併用して中性子ラジオグラフィ法による、水量測定に必要な中性子線透過量データ(中性子線画像)の計測手順について述べる。
まず、ステップSaにおいて、発電作動開始前、つまり反応開始前の燃料電池セル200と、水を封入していない空の、つまり水なし状態の検量線作成治具100について、同時に計測を実行し、反応開始前の燃料電池セル200及び水なし状態の検量線作成治具100の中性子線画像Aを各々得る。
【0024】
続くステップSbでは、発電作動中の、つまり反応開始後の燃料電池セル200と、水を封入した、つまり水あり状態の検量線作成治具100について、同時に計測を実行し、反応開始後の燃料電池セル200及び水あり状態の検量線作成治具100の中性子線画像Bを各々得る。なお、このステップSbにおける計測は、カメラ30に取り込まれる蛍光輝度データ、つまり輝度値(各ピクセルについての輝度値)が安定化する時点(図4の横軸上の時点ta)まで待機した後に実行される(上掲特徴点(1)参照)。
なお図4は、燃料電池セル200(燃料電池)の発電作動条件を変更してからの各時点における燃料電池セル200のカソード側の拡散層内の生成水量の変化を、上述したように輝度値の変化をもって示すグラフである。この図4から、燃料電池セル200内の現象が安定、すなわち生成水量が一定になるまでにはある程度の時間がかかることが理解できる。図示例では、照射開始から時点taを経過するあたりから安定化するので、この時点taあたりが中性子線画像Bの計測開始の好機となる。
【0025】
ステップScでは、計測(露光;中性子線照射)を、燃料電池セル200及び検量線作成治具100につき、各位置毎の積算中性子強度が安定化する時点(図5の横軸上の時点tb)まで継続し、中性子線密度のムラを低減する(上掲特徴点(2)参照)。
なお図5は、計測領域内の各位置において照射される中性子積算強度を計測した結果を示すグラフである。同グラフ中、同一時点において上下に付された黒点はその時点、その位置において計測された積算中性子強度の最大値及び最小値であり、したがって、それら上下の黒点間を結ぶ線は積算中性子強度のバラツキ幅を示す。このグラフによれば、計測時間が短いとバラツキが大きく、均一な中性子線が得られていないことが明らかであり、したがって、計測は時点tbまで継続される。
【0026】
以上の計測を複数回繰り返し、反応開始前の燃料電池セル200及び水なし状態の検量線作成治具100、並びに反応開始後の燃料電池セル200及び水あり状態の検量線作成治具100の各々について複数回の計測を行い、反応開始前の燃料電池セル200及び水なし状態の検量線作成治具100の中性子線画像A、並びに反応開始後の燃料電池セル200及び水あり状態の検量線作成治具100の中性子線画像Bを各々複数枚取得する。取得された複数枚の画像A,Bは演算・制御装置40のメモリに格納しておく。
【0027】
次に、以上のようにして得られた燃料電池セル200及び検量線作成治具100の中性子線画像(中性子線透過量データ)を用いて、燃料電池セル200内に生成された水の量を測定する方法について、図1に図6を併用して説明する。ここでの演算/処理は、上記演算・制御装置40によって行われる。
まず、ステップS1において、演算・制御装置40のメモリに格納された各々複数枚の中性子線画像A,Bに対して各別に補正処理を施し、上記カメラ30の撮像素子の各位置における感度のばらつき(ムラ)を低減する。補正処理は、各々複数枚の上記画像A,Bにつき、各々同一位置における輝度の最大値、最小値又は平均値、例えば平均値を水量測定演算に直接用いる輝度値として画像を新たに構成することにより行われる(上掲特徴点(3)参照)。
上記画像A,Bについて補正処理を施し、新たに構成された画像を、補正後画像A',B'と記す。
【0028】
ステップS2では、補正後画像B'(図3中のステップSbにおいて計測された、反応開始後の燃料電池セル200及び水あり状態の検量線作成治具100の両方を含む画像にステップS1において補正処理を施した画像)を、補正後画像A'(図3中のステップSaにおいて計測された、反応開始前の燃料電池セル200及び水なし状態の検量線作成治具100の両方を含む画像にステップS1において補正処理を施した画像)に位置合わせを行う。これにより得られた画像(位置合わせ後の補正後画像)を、補正後位置合わせ画像B''と記す。
【0029】
ステップS3では、補正後画像A'に位置合わせされた上記補正後位置合わせ画像B''に対して補正後画像A'で除算(正規化)することによって、更に上記中性子線密度ムラ及び撮像素子内の感度ムラを低減する。除算結果値(各輝度値)には所定の係数αが加算される(上掲特徴点(4)参照)。
ステップS4では、ステップS1で得られた補正後画像A',B'、特に同画像A',B'(全計測領域画像A',B')内の検量線作成治具100領域の部分画像から実寸値変換式を算出する。すなわち検量線(図7参照)を作成する。
ステップS5では、ステップS3で得られた画像B'''(全計測領域画像B''')に対して、水量測定を望む領域の画像、例えば燃料電池セル200領域についての全体画像又はそのうちの所望の領域の画像(部分画像)、例えば燃料電池セル200のカソード側の拡散層部分の画像を指定する。指定は、演算・制御装置40のディスプレイ50に上記全計測領域画像B'''を表示して行われる。
【0030】
ステップS6では、ステップS4で作成された検量線をステップ5で指定された燃料電池セル200領域の全体又は所望の領域の画像に適用し、その画像の各位置(ピクセル)の輝度値から実寸値(中性子線透過方向の水の厚さ)への変換処理を実行する(上掲特徴点(5)参照)。
ステップS7では、ステップS6で実行された実寸値変換処理の結果、つまり中性子線透過方向の水の厚さから水量を演算し、演算結果をディスプレイ50やプリンタ(図示せず)に出力する。この際、ステップS5で指定された画像をディスプレイ50に併せて表示してもよい。
処理途中で得られた上記各画像A,B、A',B'、B''、B'''は、適宜保存され、所望時に再利用、例えば再計算、ディスプレイ50への表示、他の処理への利用等が可能である。
【0031】
以上述べた実施形態によれば、水量測定装置において、演算・制御装置40は、反応開始後における燃料電池セル200の放射線透過量を、反応開始前における燃料電池セル200の放射線透過量で除算し、その除算結果値に基づいて燃料電池セル200内の水量を演算するようにしたので、検量線作成治具100の構造上の性能に依存することなく、より高精度の水量測定が可能となる。しかもこの場合、上記除算を、反応開始後の燃料電池セル200における複数回の計測で得られた各回の放射線透過量の平均値に対して、反応開始前の燃料電池セル200における複数回の計測で得られた各回の放射線透過量の平均値で実行したので、精度上、より効果的に水量測定できる。更に、上記放射線透過量の計測を、燃料電池セル200内の水量の安定化後及び放射線強度の安定化後に実行したので、更に高精度の水量測定が可能となる。
また、燃料電池セル200に隣接、並置された検量線作成治具100について、燃料電池セル200についての放射線透過量の計測時に計測された放射線透過量に基づいて検量線を作成したので、実際の水量測定時における検量線(最適な検量線)が得られ、特に、使用する放射線として計測が時間的、位置的に不安定な中性子線が用いられた場合に、より高精度の水量測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明による水量測定装置の一実施形態を示す構成図である。
【図2】同上装置における検量線作成治具及び燃料電池セルが測定台に載置された様子を拡大して示す図である。
【図3】中性子ラジオグラフィ法による水量測定に必要な中性子線透過量データの計測手順の一例を示すフローチャートである。
【図4】発電作動後の各時点においてカメラに取り込まれる輝度値を計測した結果の一例を示すグラフである。
【図5】計測領域内の各位置において照射される中性子積算強度を計測した結果の一例を示すグラフである。
【図6】図1に示す本発明装置において燃料電池セル内に生成された水量を測定する方法の一例を示すフローチャートである。
【図7】検量線の一例を示すグラフである。
【図8】水量測定に用いられる検量線作成治具の一例を示す斜視図である。
【図9】同上検量線作成治具の水収容容器側の斜視図である。
【図10】同じく蓋側の斜視図である。
【図11】同上検量線作成治具による検量線を示す図である。
【図12】図6に示す検量線作成治具の一部断面図である。
【符号の説明】
【0033】
10:中性子線射出口(放射線照射手段)、20:透過中性子線受線装置(放射線計測手段)、30:蛍光輝度カメラ、40:演算・制御装置(演算・制御手段)、50:ディスプレイ、100:検量線作成治具、105:中性子線、108:透過中性子線、200:燃料電池セル(測定試料)。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定試料に放射線を照射する放射線照射手段と、
前記測定試料を透過した放射線の透過量を計測する放射線計測手段と、
この放射線計測手段で計測された前記放射線透過量と水量との検量線に基づいて前記測定試料内の水量を演算する演算・制御手段とを備え、
反応に伴い、生成する水の測定試料内での水量を測定する水量測定装置であって、
前記演算・制御手段は、
前記測定試料内の反応開始後における放射線透過量を、前記測定試料内の反応開始前における放射線透過量で除算し、その除算結果値に基づいて前記測定試料内の水量を演算することを特徴とする水量測定装置。
【請求項2】
前記除算は、
反応開始後の測定試料における複数回の計測で得られた各回の放射線透過量の平均値に対して、反応開始前の測定試料における複数回の計測で得られた各回の放射線透過量の平均値で実行されることを特徴とする請求項1に記載の水量測定装置。
【請求項3】
前記放射線透過量の計測は、
前記測定試料内の水量の安定化後及び/又は放射線強度の安定化後に各々実行されることを特徴とする請求項1又は2に記載の水量測定装置。
【請求項4】
前記検量線は、
前記測定試料に隣接、並置された検量線作成治具について、前記測定試料についての放射線透過量の計測時に計測された放射線透過量に基づいて作成されることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の水量測定装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−232506(P2007−232506A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−53134(P2006−53134)
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】