説明

水銀固定化方法およびこれを用いた石膏生産方法、並びに水銀固定化装置およびこれを用いた排煙脱硫システム

【課題】 排煙脱硫装置から排出される石膏および水銀を含有する吸収液から、水銀の含有量が低い石膏または水銀の含有量が高くても再利用もしくは埋め立て廃棄ができる石膏を得る。
【解決手段】 排煙脱硫装置10で燃焼排ガスと気液接触した後の石膏を含有する吸収液中の水銀を固定化する方法は、添加剤供給機50から添加剤を吸収液に添加して、吸収液中の水銀を吸収液中の液体分側または固体分側に偏在させる工程を含む。水銀を液体分側に偏在させた吸収液を石膏分離機30で固液分離すると、水銀含有量の低い石膏を得ることができる。また、水銀を固体分側に偏在させた吸収液を石膏分離機30で固液分離すると、水銀含有量が高いが再利用もしくは埋め立て廃棄の可能な石膏を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水銀固定化方法およびこれを用いた石膏生産方法、並びに水銀固定化装置およびこれを用いた排煙脱硫システムに関する。
【背景技術】
【0002】
石炭等の化石燃料を燃焼した際に発生する排ガス中には、微量ながら水銀が含まれている。よって排煙脱硫装置では、硫黄酸化物とともに水銀が吸収液で捕集される。吸収液中の硫黄酸化物は、吸収液中の石灰と反応して石膏となる。この石膏を含有する吸収液は、通常、石膏分離機により石膏を主成分とする固体分と排水される液体分とに分離される。このとき水銀は、石膏と排水の両方に含まれる。
【0003】
排水中の水銀の処理法としては、凝集剤を添加して水銀を沈殿させる方法やキレート樹脂を用いて水銀を吸着させる方法がある(特許文献1を参照)が、石膏中の水銀の処理法はない。よって、石膏に水銀が含まれた場合、石膏の再利用先の用途によっては石膏の引き取りを拒否されたり、石膏から石膏ボードやセメントを製造する際にその乾燥あるいは焙焼工程で、または石膏を埋め立て廃棄する際に埋め立て地で、水銀が気化して大気中に再放出したりするという問題がある。
【0004】
また、固液分離によって吸収液中の水銀の何割が石膏に含まれ、何割が排水に含まれるかの水銀の分離割合は一定ではなく、排煙脱硫装置やその運転条件などによって経時的に変化することから、確実に水銀を処理することができないという問題がある。
【特許文献1】特開平11−347548号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は、上記の問題点に鑑み、排煙脱硫装置から排出される石膏および水銀を含有する吸収液から、水銀の含有量が低い石膏または水銀の含有量が高くても再利用もしくは埋め立て廃棄ができる石膏を得ることができる水銀固定化方法およびこれを用いた石膏生産方法、並びに水銀固定化装置およびこれを用いた排煙脱硫システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明は、その一態様として、排煙脱硫装置で燃焼排ガスと気液接触した後の石膏を含有する吸収液中の水銀を固定化する方法であって、前記吸収液に添加剤を添加して、前記吸収液中の水銀を前記吸収液中の液体分側または固体分側に偏在させる工程を含むことを特徴とする。
【0007】
このように石膏および水銀を含有する吸収液に添加剤を添加して、吸収液中の水銀を吸収液中の液体分側または固体分側の一方に偏在させることで、その後、吸収液を固液分離すれば、水銀の含有量の低い石膏または排水を得ることができる。なお、後者の水銀を固体分側に偏在させた場合、固液分離により得られる石膏には水銀が含まれるが、水銀は前記添加剤により固定化され、石膏中で安定化しているので、再利用または埋め立て廃棄しても水銀が大気中へ再放出するのを防ぐことができる。また、前記添加剤により水銀は吸収液中で固定化され、安定化していることから、吸収液を固液分離せずに石膏スラリーの状態で埋め立て廃棄しても、水銀が大気中へ再放出したり、地下水へ混入したりするのを防ぐことができる。
【0008】
本発明に係る水銀固定化方法は、その一実施の形態として、前記添加剤としてキレート剤または酸化剤を用いて、前記吸収液中の水銀を前記吸収液中の液体分側に偏在させることができるとともに、この水銀を液体分側に偏在させた吸収液を固液分離して、石膏を含有する固体と水銀を含有する液体とに分離する工程をさらに含むことができる。これによって、水銀の含有量が低い再利用に適した高品質の石膏を得ることができる。
【0009】
この実施の形態においては、酸を含有する洗浄液を供給しながら前記固液分離を行うことができる。これにより、石膏中の水銀含有量をさらに低減することができる。
【0010】
この実施の形態においては、前記水銀を液体分側に偏在させた吸収液中の水銀濃度を測定する工程と、前記固液分離後の水銀を含有する液体中の水銀濃度を測定する工程と、前記測定した2つの水銀濃度を比較して、その差分が小さくなるように前記添加物の添加量を増加する制御を行う工程とをさらに含むことができる。これにより、石膏中の水銀含有量を経時的に安定して低減することができる。
【0011】
本発明に係る水銀固定化方法は、別の実施の形態として、前記添加物に硫化物を用いて、前記吸収液中の水銀を前記吸収液中の固体分側に偏在させることができるとともに、この水銀を固体分側に偏在させた吸収液を固液分離して、液体と石膏および水銀を含有する固体とに分離する工程をさらに含むことができる。これによって、水銀含有量が低く排水処理の負荷が低い排水を得ることができる。また、得られる石膏には水銀が含まれているが、水銀は添加剤により固定化され、石膏中で安定化している。したがって、再利用や埋め立て廃棄しても、含まれる水銀が大気中へ再放出したりすることがない石膏を得ることができる。
【0012】
この実施の形態においては、アルカリを含有する洗浄液を供給しながら前記固液分離を行うことができる。これにより、排水中の水銀含有量をさらに低減することができる。
【0013】
この実施の形態においては、前記固液分離後の液体中の水銀濃度を測定する工程と、この測定した水銀濃度が小さくなるように前記添加物の添加量を増加する制御を行う工程とをさらに含むことができる。これにより、排水中の水銀含有量を経時的に安定して低減することができる。
【0014】
本発明は、別の態様として、排煙脱硫装置で燃焼排ガスと気液接触した後の石膏を含有する吸収液中の水銀を固定化する装置であって、前記吸収液に添加剤を添加して、前記吸収液中の水銀を前記吸収液中の固体分側または液体分側に偏在させる混合槽を含むことを特徴とする。
【0015】
本発明に係る水銀固定化装置は、その一実施の形態として、前記添加剤がキレート剤または酸化剤であり、前記吸収液中の水銀が前記吸収液中の液体分側に偏在するとともに、さらに、この水銀を液体分側に偏在させた吸収液を固液分離して、石膏を含有する固体と水銀を含有する液体とに分離する石膏分離機を含むことができる。
【0016】
この実施の形態においては、前記石膏分離器は、固液分離される吸収液に酸を含有する洗浄液を供給する洗浄液供給手段を含むことができる。また、この実施の形態においては、前記混合槽内の吸収液中の水銀濃度を測定する第1の水銀計と、前記固液分離後の水銀を含有する液体中の水銀濃度を測定する第2の水銀計と、前記第1の水銀計が測定した水銀濃度と第2の水銀計が測定した水銀濃度との差分が小さくなるように前記添加物の添加量を増加する制御を行う制御回路とをさらに含むことができる。
【0017】
本発明に係る水銀固定化装置は、別の実施の形態として、前記添加物が硫化物であり、前記吸収液中の水銀が前記吸収液中の固体分側に偏在するとともに、さらに、この水銀を固体分側に偏在させた吸収液を固液分離して、液体と石膏および水銀を含有する固体とに分離する石膏分離機を含むことができる。
【0018】
この実施の形態においては、前記石膏分離機は、固液分離される吸収液にアルカリを含有する洗浄液を供給する洗浄液供給手段を含むことができる。また、この実施の形態においては、前記固液分離後の液体中の水銀濃度を測定する水銀計と、この水銀計が測定した水銀濃度が小さくなるように前記添加物の添加量を増加する制御を行う制御回路とをさらに含むことができる。
【0019】
本発明は、さらに別の態様として、排煙脱硫システムであって、上述した水銀固定化装置を備えたことを特徴とする。
【0020】
本発明は、さらに別の態様として、排煙脱硫装置で燃焼排ガスと気液接触した後の石膏を含有する吸収液から石膏を生産する方法であって、前記吸収液にキレート剤または酸化剤を添加して、前記吸収液中の水銀を前記吸収液中の液体分側に偏在させる工程と、この水銀を液体分側に偏在させた吸収液を固液分離により水銀を含有する液体を除去して石膏を得る工程とを含むことを特徴とする。
【0021】
本発明に係る石膏生産方法は、別の実施の形態として、排煙脱硫装置で燃焼排ガスと気液接触した後の石膏を含有する吸収液吸収液に硫化物を添加して、前記吸収液中の水銀を前記吸収液中の固体分側に偏在させる工程と、この水銀を固体分側に偏在させた吸収液を固液分離により液体を除去して、水銀を含有する石膏を得る工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
このように本発明によれば、排煙脱硫装置から排出される石膏および水銀を含有する吸収液から、水銀の含有量が低い石膏または水銀の含有量が高くても再利用もしくは埋め立て廃棄ができる石膏を得るための水銀固定化方法およびこれを用いた石膏生産方法、並びに水銀固定化装置およびこれを用いた排煙脱硫システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る水銀固定化方法およびこれを用いた石膏生産方法、並びに水銀固定化装置およびこれを用いた排煙脱硫システムの実施の形態について説明する。
【0024】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明に係る排煙脱硫システムの一実施の形態を概略的に示した模式図である。図1に示すように、排煙脱硫システムは、燃焼排ガスに吸収液を気液接触させて燃焼排ガス中の硫黄酸化物(SOx)を吸収除去する湿式の排煙脱硫装置10と、排煙脱硫装置10から排出された石膏を含有する吸収液を石膏分離機30へ供給するために一時的に貯留する石膏スラリー供給タンク20と、石膏を含有する吸収液を固液分離する石膏分離機30と、石膏分離機30から排出されたろ液を一時的に貯留するろ液回収槽40とから主に構成されている。
【0025】
排煙脱硫装置10は、その底部に吸収液槽12を備えており、この吸収液槽12には吸収液が貯留される。吸収液には、石灰石(CaCO3)、消石灰(Ca(OH)2)、生石灰(CaO)等の石灰が含まれており、吸収液はスラリー状となっている。吸収液槽12には、槽内の吸収液をポンプ14により装置上部のスプレーヘッダー11へと送る吸収液循環ライン13が設けられている。排煙脱硫装置10は、スプレーヘッダー11により噴射された吸収液が、燃焼排ガスと気液接触して燃焼排ガス中のSOxを吸収除去しつつ重力により落下して吸収液槽12へ戻る構造となっている。
【0026】
吸収液槽12には、空気等の酸素を含んだ気体を吸収液中に噴出して、吸収液中の石灰と吸収したSOxとを反応させて石膏(CaSO4・H2O)を生成させるための気泡供給手段(図示省略)が設けられている。この石膏を回収するため、吸収液循環ライン13には、ライン内の吸収液の一部を石膏スラリー供給タンク20へと送る石膏回収ライン15が設けられている。
【0027】
石膏スラリー供給タンク20には、添加剤供給ライン51を介して、添加剤供給機50が設置されている。本実施の形態では、添加剤供給機50は、添加剤としてキレート剤または酸化剤50aを石膏スラリー供給タンク20内へ供給する装置である。キレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)やその塩、以下の表のキレート樹脂を用いることができる。
【0028】
【表1】

【0029】
また、酸化剤としては、次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)、過酸化水素(H22)、オゾン(O3)等を用いることができる。石膏スラリー供給タンク20は、導入される吸収液と添加剤を均一に混合するための撹拌機21と、吸収液中の水銀濃度を測定する水銀計22とを備えている。石膏スラリー供給タンク20には、タンク内の吸収液をポンプ24により石膏分離機30へと送る石膏スラリー供給ライン23が設けられている。
【0030】
石膏分離機30は、吸収液を固液分離して固体分と液体分とに分離することができる装置であり、例えば、図1に図示するようなベルトフィルターや、シックナー、遠心分離機等が好ましい。石膏分離機30には、洗浄液供給ライン61を介して、洗浄液供給機60が設置されている。本実施の形態では、洗浄液供給機60は、酸60aを含有する洗浄液を石膏分離機30に供給する装置である。酸60aとしては、硫酸や塩酸を用いることができる。酸を含有する洗浄液のpHは6以下が好ましく、4以下がより好ましい。石膏分離機30の固体分排出側には、石膏貯蔵タンク31が設置されており、液体分排出側には、ろ液回収槽40が設置されている。
【0031】
ろ液回収槽40は、石膏分離機30により石膏が除去されたろ液を均一に混合するための撹拌機41と、ろ液中の水銀濃度を測定する水銀計42と、ろ液のpHを測定するpH計43とを備えている。ろ液回収槽40には、槽内のろ液をポンプ46により排煙脱硫装置10の吸収液槽12に送るろ液回収ライン45と、槽内のろ液をポンプ48により排水処理設備(図示省略)に送るろ液排出ライン47とが設けられている。
【0032】
石膏スラリー供給タンク20およびろ液回収槽40に設置された水銀計22、42は、水銀濃度制御回路70に測定データを送信できるように構成されている。添加剤供給ライン51には、添加剤の流量を増減できるバルブ52が設けられている。このバルブ52は、水銀濃度制御回路70からの信号を受信して、バルブの開閉度を調整できるように構成されている。
【0033】
ろ液回収槽40に設置されたpH計43は、pH制御回路80に測定データを送信できるように構成されている。洗浄液供給ライン61には、洗浄液の流量を増減できるバルブ62が設けられている。このバルブ62は、pH制御回路80からの信号を受信して、バルブの開閉度を調整できるように構成されている。
【0034】
以上の構成によれば、先ず、石炭等の化石燃料を燃焼した際に発生する燃焼排ガスを排煙脱硫装置10内に導入して、スプレーヘッダー11から噴射する吸収液と気液接触させる。これにより燃焼排ガス中の硫黄酸化物及び水銀は吸収液に吸収され除去される。硫黄酸化物及び水銀が除去されて浄化された燃焼排ガスは、排煙脱硫装置10から排出される。
【0035】
なお、燃焼排ガスを排煙脱硫装置10に導入する前に、燃焼排ガスを塩化水素ガスの供給や酸化触媒によって酸化することが好ましい。これにより、燃焼排ガス中に含まれる金属水銀(Hg)を水溶解性の良好な塩化水銀(HgCl2)にすることができるので、吸収液による水銀の吸収率を向上することができる。
【0036】
一方、硫黄酸化物及び水銀を吸収した吸収液は吸収液槽12へと落下する。吸収液槽12ではバブリングヘッダー(図示省略)から空気を噴出し、吸収液中の石灰と吸収したSOxとの反応により石膏を生成させる。吸収液は、石膏が懸濁したスラリー状となっている。吸収液槽12内の吸収液は、吸収液循環ライン13により再度スプレーヘッダー11へと送るが、吸収液中の石膏を回収するため、石膏回収ライン15から吸収液を連続的に抜き出して石膏スラリー供給タンク20へと送る。なお、吸収液槽12には、SOx吸収に必要な石灰や必要により補給水を補給する。
【0037】
石膏スラリー供給タンク20内には、石膏および水銀を含有する吸収液を導入するとともに、添加剤供給機50からキレート剤または酸化剤50aを導入し、これらを撹拌機21により均一に混合する。吸収液はスラリー状であり、吸収液中の水銀は、その固体分の石膏に付着したり、液体分の水中に溶解したりしており、固体分側にも液体分側にも存在しているが、キレート剤または酸化剤50aを添加することで、石膏に付着した水銀を液体分側に移行させて、水銀を液体分側に偏在させることができる。キレート剤としてエチレンジアミン四酢酸二ナトリウムを用いた場合の反応式を以下に示す。
【0038】
【化1】

【0039】
このように水銀イオンをキレート剤に吸着させることで、水銀は固定化されてスラリーの液体分側に安定化する。よって、水銀が固体分側の石膏に付着するのを防ぐことができる。なお、キレート剤の供給量は、吸収液中の水銀1μg/Lに対し、0.1mg/L〜100mg/Lの範囲の量を添加することが好ましい。
【0040】
また、酸化剤としてNaClOを用いた場合の反応式を以下に示す。
Hg+Cl-+ClO-+2H+→HgCl2+H2
【0041】
このように水難溶性の金属水銀を酸化剤によって水可溶性の塩化水銀にすることで、水銀は固定化されてスラリーの液体分側に安定化する。よって、水銀を液体分側に移行させることができる。なお、酸化剤(NaClO)の供給量は、吸収液中の水銀1μg/Lに対し、0.1mmol/L〜1mol/Lの範囲の量を添加することが好ましい。また、吸収液にキレート剤または酸化剤50aを添加することで、水銀のみならず、水銀以外の重金属類も吸収液に含まれていれば液体分側に移行させることができる。
【0042】
次に、この水銀を液体分側に偏在させた吸収液を、石膏スラリー供給ライン23により石膏分離機30に連続的に供給し、固体分と液体分とに固液分離する。このとき水銀は液体分側に偏在しているので、固液分離した後の固体中の水銀濃度は非常に低く、高品質の石膏を得ることができる。固液分離後の固体は石膏貯蔵タンク31へと送り、石膏ボードやセメントの製造に再利用する。
【0043】
なお、石膏分離機30には、吸収液とともに、洗浄液供給機60から酸60aを含有する洗浄液を供給することができる。これにより、石膏分離機30にて石膏洗浄する際にpHを下げることができ、液体分側に移行せずに依然として石膏に付着している水銀をろ液側に移行させることができる。よって、石膏分離機30での水銀の分離効率がさらに向上し、より水銀濃度の低い高品質の石膏を得ることができる。また、酸50aを含有する洗浄液で石膏を洗浄することで、残留する石灰の溶解、石膏化を促進し、石膏純度が向上する。酸60aを含有する洗浄液の供給量は、吸収液中の水銀1μg/Lに対し、0.1mmol/L〜1mol/Lの範囲の量を添加することが好ましい。
【0044】
一方、石膏分離機30での固液分離により固体が除去されたろ液は、ろ液回収槽40へと送る。このろ液中には水銀が含まれており、ろ液を排水する場合は、ろ液排出ライン47から排水処理設備(図示省略)に送りろ液に含まれる水銀を処理してから排水する。また、ろ液をろ液回収ライン45から排煙脱硫装置10の吸収液槽12に送ることで、吸収液の水分として再利用することができる。
【0045】
添加剤供給機50からのキレート剤または酸化剤50aの供給量は、石膏スラリー供給タンク20内の吸収液中の水銀濃度とろ液回収槽40内のろ液中の水銀濃度とから決定する。石膏スラリー供給タンク20内には、吸収液とキレート剤または酸化剤とを連続的に導入するが、撹拌機21によりこれらを均一に混合した状態の水銀濃度を水銀計22で測定する。また、ろ液回収槽40内にも石膏分離機30からのろ液を連続的に導入するが、撹拌機41によりろ液を均一に混合した状態の水銀濃度を水銀計42で測定する。これら水銀計22、42で測定した水銀濃度のデータは、水銀濃度制御回路70に送信する。
【0046】
吸収液中の水銀の液体分側への移行率が低下すると、吸収液中の水銀は石膏に付着して石膏貯蔵タンク31へと排出されるため、ろ液回収槽40内のろ液中の水銀濃度は低下する。よって、水銀濃度制御回路70では、石膏スラリー供給タンク20の水銀計22の水銀濃度と、ろ液回収槽40の水銀計42の水銀濃度とを比較し、この差分が大きい場合、バルブ52にバルブを開くように信号を送り、キレート剤または酸化剤50aの供給量を増加する。その結果、水銀の液体分側への移行率が上昇し、ろ液回収槽40の水銀濃度が上昇する。よって上記差分は小さくなる。このように差分が小さくなるようにキレート剤または酸化剤50aの供給量を制御することで、水銀の含有量が低い高品質の石膏を連続的に得ることができる。なお、石膏スラリー供給タンク20の吸収液中の水銀濃度とろ液回収槽40のろ液中の水銀濃度との差分が1.0μg/L以下となるように制御することが好ましい。
【0047】
また以下に、石膏スラリー供給タンク20の吸収液中およびろ液回収槽40のろ液中の水銀濃度と水銀の液体分側への移行率の関係式を示す。
【0048】
【数1】

【0049】
洗浄液供給機60からの酸60aを含有する洗浄液の供給量は、ろ液回収槽40内のろ液のpHから決定する。ろ液回収槽40内には石膏分離機30からのろ液を連続的に導入するが、撹拌機41によりろ液を均一に混合した状態のpHをpH計43で測定する。pH計43で測定したpH値のデータは、pH制御回路80に送信する。そして、pH制御回路80では、この測定値が所定のpHを超える場合、バルブ62にバルブを開くように信号を送り、酸60aを含有する洗浄液の供給量を増加する。これにより、石膏分離機30にて石膏洗浄する際に安定してpHを下げることができ、水銀の含有量がより低い高品質の石膏を連続的に得ることができる。なお、ろ液回収槽40内のろ液のpHは5.2以下に制御することが好ましい。
【0050】
(第2の実施の形態)
図2は、本発明に係る排煙脱硫システムの別の実施の形態を概略的に示した模式図である。図1と同じ構成については同一の符号を付す。本実施の形態においては、添加剤供給機50から石膏スラリー供給タンク20に供給する添加剤は硫化物50bであり、洗浄液供給機60から石膏分離機30に供給する洗浄液はアルカリ60bを含有する洗浄液である。
【0051】
硫化物50aとしては、Na2S、NaHS、H2S、KHS等の可溶性塩を用いることが好ましい。硫化物は水溶液として添加することが好ましいが、H2Sそのものを吹き込むことも可能である。また、アルカリ60bとしては、苛性ソーダなどを用いることが好ましい。アルカリを含有する洗浄液のpHは、7以上が好ましく、9〜10がより好ましい。
【0052】
以上の構成によれば、排煙脱硫装置10において、燃焼排ガス中の硫黄酸化物及び水銀を吸収液で吸収除去する。硫黄酸化物及び水銀を吸収した吸収液は、吸収液槽12で空気酸化し、吸収液中の石灰と吸収したSOxとの反応により石膏を生成させる。石膏を含有する吸収液は、石膏回収ライン15から石膏スラリー供給タンク20へと送る。
【0053】
石膏スラリー供給タンク20内には、添加剤供給機50から硫化物50bを導入し、撹拌機21により均一に混合する。吸収液中の水銀は、固体分側にも液体分側にも存在するが、硫化物50bを添加することで、以下の反応式に示すように水銀イオンを水難溶性の硫化水銀とすることで、液体分側に存在する水銀を固体分側に移行させて、水銀を固体分側に偏在させることができる。
【0054】
Hg2++S2-→HgS
【0055】
なお、硫化物50bの供給量は、吸収液中の水銀1μg/Lに対し、0.1〜100mg/L範囲の量を添加することが好ましい。また、吸収液に硫化物50bを添加することで、水銀のみならず、水銀以外の重金属類も吸収液に含まれていれば固体分側に移行させることができる。
【0056】
次に、この水銀を固体分側に偏在させた吸収液を、石膏スラリー供給ライン23により石膏分離機30に連続的に供給し、固体分と液体分とに固液分離する。このとき水銀は固体分側に偏在しているので、ろ液回収槽40には水銀濃度が非常に低いろ液を回収することができる。よって、ろ液を排水する場合、排水処理の負荷を低減することができ、汚泥排出量を低減することができる。
【0057】
なお、石膏分離機30には、吸収液とともに、洗浄液供給機60からアルカリ60bを含有する洗浄液を供給することができる。これにより、以下の反応式に示すように水銀イオンを水難溶性にすることで、硫化物を添加しても固体分側に移行せずに依然として液体分側に存在している水銀を固体分側に移行させることができる。よって、石膏分離機30での水銀の分離効率がさらに向上し、より水銀濃度の低いろ液を得ることができる。アルカリ60bを含有する洗浄液の供給量は、吸収液中の水銀1μg/Lに対し、0.1mmol/L〜1mol/Lの範囲の量を添加することが好ましい。
【0058】
Hg2++2OH-+nH2O→Hg(OH)2・(H2O)n
【0059】
一方、固液分離後に石膏貯蔵タンク31へ送られる石膏には比較的に多量の水銀が含まれている。しかしながら、硫化物50bを添加することで又はアルカリ60bを含有する洗浄液で洗浄することで固定化された水銀は、石膏中で安定化しているので、石膏を石膏ボードやセメントの製造に再利用してもその乾燥や焙焼工程で気化することがなく、また埋め立て廃棄処理しても埋立地で気化することがない。よって、本実施の形態により得られる石膏は、比較的に多くの水銀を含んでいるものの、石膏ボードやセメントの製造に再利用することもできるし、埋め立て廃棄することができる。
【0060】
添加剤供給機50からの硫化物の供給量は、ろ液回収槽40内のろ液中の水銀濃度から決定する。ろ液回収槽40内には石膏分離機30からのろ液を連続的に導入するが、撹拌機41によりろ液を均一に混合した状態の水銀濃度を水銀計42で測定する。水銀計42で測定した水銀濃度のデータは、水銀濃度制御回路70に送信する。
【0061】
吸収液中の水銀の固体分側への移行率が低下すると、吸収液中の水銀は石膏分離機30でろ液ともに排出されるため、ろ液回収槽40内のろ液中の水銀濃度は上昇する。よって、水銀濃度制御回路70では、ろ液回収槽40の水銀計42の水銀濃度が所定の濃度を超える場合、バルブ52にバルブを開くように信号を送り、硫化物50bの供給量を増加する。その結果、水銀の固体分側への移行率が上昇し、ろ液回収槽40の水銀濃度が低下する。このようにろ液回収槽40の水銀濃度が小さくなるように硫化物50bの供給量を制御することで、水銀の含有量が低いろ液を連続的に得ることができる。なお、ろ液回収槽40のろ液中の水銀濃度が1.0μg/L以下となるように制御することが好ましい。
【0062】
洗浄液供給機60からのアルカリ60bを含有する洗浄液の供給量は、ろ液回収槽40内のろ液のpHから決定する。pH計43で測定したpH値のデータは、pH制御回路80に送信する。そして、pH制御回路80では、この測定値が所定のpHを下回る場合、バルブ62にバルブを開くように信号を送り、アルカリ60bを含有する洗浄液の供給量を増加する。これにより、水銀の含有量がより低いろ液を連続的に得ることができる。なお、ろ液回収槽40内のろ液のpHは6以上に制御することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明に係る排煙脱硫システムの一実施の形態を示す模式図である。
【図2】本発明に係る排煙脱硫システムの別の実施の形態を示す模式図である。
【符号の説明】
【0064】
10 排煙脱硫装置
11 スプレーヘッダー
12 吸収液槽
20 石膏スラリー供給タンク
21、41 撹拌機
22、42 水銀計
30 石膏分離機
31 石膏貯蔵タンク
40 ろ液回収槽
43 pH計
50 添加剤供給機
60 洗浄液供給機
70 水銀濃度制御回路
80 pH制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排煙脱硫装置で燃焼排ガスと気液接触した後の石膏を含有する吸収液中の水銀を固定化する方法であって、前記吸収液に添加剤を添加して、前記吸収液中の水銀を前記吸収液中の液体分側または固体分側に偏在させる工程を含む水銀固定化方法。
【請求項2】
前記添加剤がキレート剤または酸化剤であり、前記吸収液中の水銀が前記吸収液中の液体分側に偏在するとともに、さらに、この水銀を液体分側に偏在させた吸収液を固液分離して、石膏を含有する固体と水銀を含有する液体とに分離する工程を含む請求項1に記載の水銀固定化方法。
【請求項3】
酸を含有する洗浄液を供給しながら前記固液分離を行う請求項2に記載の水銀固定化方法。
【請求項4】
前記水銀を液体分側に偏在させた吸収液中の水銀濃度を測定する工程と、前記固液分離後の水銀を含有する液体中の水銀濃度を測定する工程と、前記測定した2つの水銀濃度を比較して、その差分が小さくなるように前記添加物の添加量を増加する制御を行う工程とをさらに含む請求項2または3に記載の水銀固定化方法。
【請求項5】
前記添加物が硫化物であり、前記吸収液中の水銀が前記吸収液中の固体分側に偏在するとともに、さらに、この水銀を固体分側に偏在させた吸収液を固液分離して、液体と石膏および水銀を含有する固体とに分離する工程を含む請求項1に記載の水銀固定化方法。
【請求項6】
アルカリを含有する洗浄液を供給しながら前記固液分離を行う請求項5に記載の水銀固定化方法。
【請求項7】
前記固液分離後の液体中の水銀濃度を測定する工程と、この測定した水銀濃度が小さくなるように前記添加物の添加量を増加する制御を行う工程とをさらに含む請求項5または6に記載の水銀固定化方法。
【請求項8】
排煙脱硫装置で燃焼排ガスと気液接触した後の石膏を含有する吸収液中の水銀を固定化する装置であって、前記吸収液に添加剤を添加して、前記吸収液中の水銀を前記吸収液中の液体分側または固体分側に偏在させる混合槽を含む水銀固定化装置。
【請求項9】
前記添加剤がキレート剤または酸化剤であり、前記吸収液中の水銀が前記吸収液中の液体分側に偏在するとともに、さらに、この水銀を液体分側に偏在させた吸収液を固液分離して、石膏を含有する固体と水銀を含有する液体とに分離する石膏分離機を含む請求項8に記載の水銀固定化装置。
【請求項10】
前記石膏分離器が、固液分離される吸収液に酸を含有する洗浄液を供給する洗浄液供給手段を含む請求項9に記載の水銀固定化装置。
【請求項11】
前記混合槽内の吸収液中の水銀濃度を測定する第1の水銀計と、前記固液分離後の水銀を含有する液体中の水銀濃度を測定する第2の水銀計と、前記第1の水銀計が測定した水銀濃度と第2の水銀計が測定した水銀濃度との差分が小さくなるように前記添加物の添加量を増加する制御を行う制御回路とをさらに含む請求項9または10に記載の水銀固定化装置。
【請求項12】
前記添加物が硫化物であり、前記吸収液中の水銀が前記吸収液中の固体分側に偏在するとともに、さらに、この水銀を固体分側に偏在させた吸収液を固液分離して、液体と石膏および水銀を含有する固体とに分離する石膏分離機を含む請求項8に記載の水銀固定化装置。
【請求項13】
前記石膏分離機が、固液分離される吸収液にアルカリを含有する洗浄液を供給する洗浄液供給手段を含む請求項12に記載の水銀固定化装置。
【請求項14】
前記固液分離後の液体中の水銀濃度を測定する水銀計と、この水銀計が測定した水銀濃度が小さくなるように前記添加物の添加量を増加する制御を行う制御回路とをさらに含む請求項12または13に記載の水銀固定化装置。
【請求項15】
請求項8〜14のいずれか一項に記載の水銀固定化装置を備えた排煙脱硫システム。
【請求項16】
排煙脱硫装置で燃焼排ガスと気液接触した後の石膏を含有する吸収液から石膏を生産する方法であって、前記吸収液にキレート剤または酸化剤を添加して、前記吸収液中の水銀を前記吸収液中の液体分側に偏在させる工程と、この水銀を液体分側に偏在させた吸収液を固液分離により水銀を含有する液体を除去して石膏を得る工程とを含む石膏生産方法。
【請求項17】
排煙脱硫装置で燃焼排ガスと気液接触した後の石膏を含有する吸収液から石膏を生産する方法であって、前記吸収液に硫化物を添加して、前記吸収液中の水銀を前記吸収液中の固体分側に偏在させる工程と、この水銀を固体分側に偏在させた吸収液を固液分離により液体を除去して、水銀を含有する石膏を得る工程とを含む石膏生産方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−185558(P2007−185558A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−3352(P2006−3352)
【出願日】平成18年1月11日(2006.1.11)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】