説明

水難溶性カンプトテシン誘導体のサブミクロンナノ粒子及びその製造方法

本発明は、カンプトテシン誘導体、固体ポリエチレングリコール、及び会合防止剤を含むナノ粒子組成物及びその製造方法に関する。特に、本発明は水難溶性であるカンプトテシン誘導体をポリエチレングリコールに固体分散し、会合防止剤を含む水溶液中に固体分散体を溶解することによって、カンプトテシン誘導体のナノ粒子を含む組成物を製造する。本発明の組成物は、効果的な抗癌活性のために、体液中でカンプトテシン誘導体のラクトン形態を安定させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カンプトテシン誘導体、固体ポリエチレングリコール、及び会合防止剤を含むナノ粒子組成物及びその製造方法に関する。特に本発明は、水難溶性であるカンプトテシン誘導体を固体ポリエチレングリコールに固体分散し、会合防止剤を含む水溶液中に溶解させることで製造されたナノ粒子のカンプトテシン誘導体含有組成物を提供する。本発明の組成物はpH4〜7の水溶液中で生理活性を有するカンプトテシン誘導体のラクトン形態を安定させるので、抗癌剤として使用できるか、又は細胞分裂関連疾患の治療に使用可能である。
【背景技術】
【0002】
SN−38として知らされている7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシンは市販中の抗癌剤イリノテカン(CPT−11)の活性代謝物質である。SN−38は細胞分裂過程に関与する酵素であるトポイソメラーゼIと結合して細胞分裂中のDNA合成の抑制を通して細胞死滅を誘導させることが知られている。
【0003】
しかし、SN−38は水難溶性、即ち10μg/mL以下の水難溶度を有しているので、臨床製品として開発することは難しい。このため、SN−38は高い水溶性を有するプロドラッグ、即ちCPT−11に転換され、商品化された。CPT−11は人体に投与されたとき、肝臓又は癌細胞内で酵素カルボキシエステラーゼによって代謝され、抗癌作用を発揮する生理活性SN−38に転換される。しかし、CPT−11が人体内で活性を有するSN−38に転換される割合は10%以内に過ぎないことが知られている。
【0004】
一方、SN−38はCPT−11に比べてトポイソメラーゼIを抑制する活性が約1,000倍以上高く、インビトロ(in vitro)細胞毒性も2,000倍以上良好である。
【0005】
さらに、SN−38は水溶液のpHによって、酸性条件下では活性ラクトンの形態で存在し、塩基性条件下では不活性カルボキシアニオンの形態で存在することが知られている。SN−38のカルボキシアニオン形態は水に4mg/mL以上溶解できるが、活性ラクトン形態は10μg/mL以下の水溶性を有している。
【0006】
従って、SN−38が臨床的に有意な濃度以上で可溶化できれば、非常に優れた抗癌剤として開発することができる。このため、SN−38を人体内に投与するためのSN−38含有組成物に対する研究が行われてきた。
【0007】
特許文献1〜5などは、SN−38をジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルイソソルビドなどの極性有機溶媒に溶かして収得した組成物を開示している。しかし、このような極性有機溶媒は人体に許容できる量が制限されるが、薬物を水と混合する場合、薬物が沈殿するので、薬物の静脈注射が制限される。また、有機溶媒に溶解した組成物はpH7.4の生体条件に露出されれば、SN−38の活性に必須のラクトン形態がカルボキシアニオン形態に直ちに分解される。
【0008】
特許文献6はSN−38と脂質との錯体を形成することによって収得したリポソーム製剤を開示している。上記発明において、pH8〜10の水溶液でカルボキシアニオン形態のSN−38を形成し、これからリポソーム製剤を得た後、酸性条件下でラクトン形態のSN−38を製造した。また、特許文献7には、SN−38を含有するリポソーム組成物及びその製造方法が開示され、特許文献8はカンプトテシン誘導体を高分子、脂質などの安定化剤と複合体を形成させたナノ粒子組成物を開示している。上記文献では、粒径数十から数百nmのナノ粒子が水溶液中に安定に懸濁されている組成物を提供するに当たって、SN−38を加熱又は粉砕する方法を用いることなく、高分子又は脂質と混合してSN−38/高分子又はSN−38/脂質複合体のナノ粒子を形成した。しかし、上記文献らでは、ラクトン形態のカンプトテシンが安定に維持されるか否かについては言及がない。上記組成物の別の否定的な側面は、高分子、脂質などと複合体(錯体)を形成しなければならないため、製造工程が非常に複雑になる問題点がある。
【0009】
さらに、カンプトテシン誘導体、特にSN−38は水溶性が非常に低いので、製剤化することが容易ではない。カンプトテシン誘導体は通常の可溶化技術で可溶化したとき、体液(pH7.4)内で、不活性形態、即ちカルボキシアニオン形態に容易に転換される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第5,447,936号
【特許文献2】米国特許第5,859,023号
【特許文献3】米国特許第5,674,874号
【特許文献4】米国特許第5,958,937号
【特許文献5】米国特許第5,900,419号
【特許文献6】米国特許出願公開第2003/0215492号
【特許文献7】国際公開第2002/58622号パンフレット
【特許文献8】米国特許出願公開第2004/0009229号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは、カンプトテシン誘導体を高温下で固体のポリエチレングリコールに溶融し、急速冷却した後、水に溶解させてSN−38のナノ粒子を製造することを含む方法で、体液中安定に維持されるラクトン形態のカンプトテシン誘導体を収得できることを確認し、本発明の完成に至った。
【0012】
特に、本発明は、カンプトテシン誘導体を粉砕するか、又は高分子などとの複合体を形成する代わりに、水溶性高分子のポリエチレングリコールに固体分散させた後、ポリエチレングリコールを水に溶解させ、カンプトテシン誘導体のナノ粒子を効果的に製造することを特徴とする。
【0013】
本発明の目的は、カンプトテシン誘導体を臨床的に人体に適用できる製剤に製形化することにある。本発明者らは、カンプトテシン誘導体がサブミクロンナノ粒子の形態に転換され、静脈注射で生体に投与した時、極性有機溶媒又はミセルなどによって可溶化させた従来の組成物より優れた血中ラクトン安定性を示すことを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の製造例1で合成されたモノメトキシポリエチレングリコール−ポリラクチドブロック共重合体(mPEG−PLA)の1H−NMRスペクトルである。
【図2】本発明の製造例2で合成されたmPEG−PLA−トコフェロールスクシネートの1H−NMRスペクトルである。
【図3】ヒト大腸癌細胞株HT−29を用いて、SN−38含有ナノ粒子組成物、比較製剤及び対照群を注射したマウスでの経時に伴う平均相対腫瘍容積(RTV)を示したグラフである。
【図4】ヒト膵臓癌細胞株MIA−PaCa−2を用いて、SN−38含有ナノ粒子組成物、比較製剤及び対照群を注射したマウスでの経時に伴う平均相対腫瘍容積(RTV)を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、カンプトテシン誘導体、固体ポリエチレングリコール、及び両親媒性ブロック共重合体又は固体界面活性剤からなる群から選択された会合防止剤を含む、カンプトテシン誘導体のナノ粒子組成物に関する。
【0016】
さらに、本発明はカンプトテシン誘導体のナノ粒子組成物の製造方法であって、
(a)固体ポリエチレングリコールにカンプトテシン誘導体を溶融させる工程;
(b)工程(a)で得た溶融液を冷却させ、固体分散体を形成させる工程;及び
(c)工程(b)で得た固体分散体を両親媒性ブロック共重合体又は固体界面活性剤の水溶液に溶解させる工程;
を含むカンプトテシン誘導体のナノ粒子組成物の製造方法に関するものである。
【0017】
以下で、本発明に係るカンプトテシン誘導体含有ナノ粒子組成物及びその製造方法について、さらに詳しく説明する。
【0018】
本発明に係るナノ粒子組成物は、(1)活性成分として、水難溶性カンプトテシン誘導体、(2)分散媒として、固体ポリエチレングリコール、及び(3)会合防止剤として、固体の両親媒性ブロック共重合体又は固体の界面活性剤を含む。
【0019】
本発明において、‘ナノ粒子’とは、分散された薬物を含有するナノサイズの小粒子を意味する。小さなサイズは毛細管や注射針で閉塞が起きないので、静脈注射を通して投与することができる。本発明に係るカンプトテシン誘導体含有ナノ粒子は、カンプトテシン誘導体含有ナノ粒子が水溶液に懸濁された懸濁液形態の組成物である。ナノ粒子の粒径は好ましくは100〜1,000nmの範囲である。
【0020】
本発明の活性成分である水難溶性カンプトテシン誘導体は、水溶性が10μg/mL以下である。従って、特別な可溶化技法を適用しなくては臨床的に使用することは不可能である。カンプトテシン誘導体は実質的にカンプトテシンのラクトン形態を有する化合物である。本発明に係るカンプトテシン誘導体は、好ましくはカンプトテシン又は7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシン(SN−38)である。
【0021】
本発明の固体ポリエチレングリコールは、カンプトテシン誘導体を分散させるための分散媒として使用される。該化合物は室温で固体として存在し、40〜60℃の融点を有すればよい。ポリエチレングリコールの重量平均分子量は、好ましくは、1,500〜20,000ダルトン、さらに好まくは、2,000〜10,000ダルトン、最も好ましくは、2,000〜6,000ダルトンである。ポリエチレングリコールの重量平均分子量が1,500ダルトン以上のとき、ポリエチレングリコールは室温で固体状態で存在することができる。その重量平均分子量が20,000ダルトンを超えると、粘度が高まる問題がある。ポリエチレングリコールは直鎖状又は分岐状構造で存在していてもよいが、好ましくは直鎖状構造である。ポリエチレングリコールの両末端基がヒドロキシ基、アルキル基、好ましくは(C1-4)アルキル、又はアシル基、好ましくはアルキルカルボニル又はアリールカルボニル(ここで、アリールはフェニル、ナフチルなどを含む)、例えば、(C1-18)アシルで保護されたのが好ましいが、ヒドロキシ基で保護されたのがさらに好ましい。特に、本発明を実施するに当たり、好ましいポリエチレングリコールは、水溶液中4〜8のpH値を有するものである。pH8.0を超えるポリエチレングリコールは、SN−38のラクトンをカルボキシ形態に変化させる役割を果たしているので、好ましくない。
【0022】
ポリエチレングリコールに対するカンプトテシン誘導体薬物の含量が高くなるにつれて、ナノ粒径は増加する。従って、ナノ粒子の粒径を100〜1,000nmに維持させるためには、ポリエチレングリコールをカンプトテシン誘導体の重量に対して、50〜1,000倍の量で使用することが好ましい。
【0023】
また、本発明のナノ粒子は必須成分として会合防止剤を含む。上記固体ポリエチレングリコールにカンプトテシン誘導体を分散させた固体分散体を水溶液に懸濁して放置すると、ナノ粒子同士の会合が生じ、粒径が増加する問題点がある。このようなナノ粒子の会合を防止するために、本発明では会合防止剤が必須的に使用される。
【0024】
このような会合防止剤として、固体両親媒性ブロック共重合体又は固体界面活性剤が好ましい。ナノ粒子組成物は長期保管時、組成物の安定性を維持するために、最終段階で凍結乾燥されるのが好ましいので、会合防止剤は室温で固体として存在しなければならない。従って、固体両親媒性ブロック共重合体又は固体界面活性剤は室温で固体であるべきでる。上記会合防止剤は、好ましくは30℃以上の融点と1mg/mL以上の水溶性を有し、水溶液中でミセルを形成すべきであり、人体使用時、過敏反応などを引き起こすような毒性を示すべきではない。
【0025】
このような条件に一致する両親媒性ブロック共重合体は、親水性ブロック(A)の重量平均分子量が1,000〜10,000ダルトンであり、疎水性ブロック(B)の重量平均分子量が500〜10,000ダルトンであるA−B型ジブロック共重合体が好ましい。各ブロックの重量平均分子量の下限値は、ブロック共重合体からミセルを形成し得る最小限の分子量である。各ブロックの重量平均分子量が10,000ダルトンを超えると、高粘度によって溶液状態を維持することが難しいだけでなく、人体に投与後、共重合体が血液中で分解される時間が長時間必要となり、毒性を誘発する恐れがあるので、好ましくない。
【0026】
ブロック共重合体は、親水性ブロック(A)がエステル結合によって疎水性ブロック(B)と結合されたA−B型で存在することが特に好ましい。親水性ブロック(A)対疎水性ブロック(B)の重量比は、10〜90%:90〜10%であってもよい。好ましくは、上記親水性ブロック(A)はポリエチレングリコール又はモノメトキシポリエチレングリコールであり、疎水性ブロック(B)はポリ乳酸、ポリカプロラクトン、乳酸とグリコール酸との共重合体、ポリジオキサン−2−オン、及び乳酸と1,4−ジオキサン−2−オンとの共重合体からなる群から選択される。
【0027】
特に、両親媒性ブロック共重合体A−Bの疎水性をさらに増加させ、カンプトテシン誘導体との親和性を向上させるために、疎水性ブロック(B)の末端に、ラウリン酸、パルミトイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、トコフェロールスクシネート及びコレステロールスクシネートからなる群から選択された一つをエステル結合によって付加できる。トコフェロールスクシネートを導入するのが好ましい。
【0028】
上記両親媒性ブロック共重合体の含量は、カンプトテシン誘導体の重量に対して、1〜400倍が好ましく、より好ましくは10〜200倍である。
【0029】
上記会合防止剤の好ましい一成分である固体界面活性剤は、室温で固体である非イオン性界面活性剤であり、好ましくはポリエチレングリコールトコフェロールスクシネート(TPGS)である。上記ポリエチレングリコールの重量平均分子量が1,000〜5,000ダルトンの化合物が適している。ポリエチレングリコールの重量平均分子量が1,000ダルトン以上の場合、界面活性剤は室温で固体状態で存在しうる。重量平均分子量が5,000ダルトンを超えるとき、粘度が高まる問題があるので好ましくない。従って、人体に薬理学的に許容され、一般的に使用されるポリソルベート、クレモフォールなどの界面活性剤は、全て室温で液体状態として存在するので、本発明のナノ粒子の会合防止剤として適しない。
【0030】
上記固体界面活性剤の含量は、カンプトテシン誘導体の重量に対して、1〜400倍が好ましく、より好ましくは10〜200倍である。
【0031】
本発明のナノ粒子は、投与目的に応じて様々な薬剤学的形態で製剤化していてもよい。本発明のナノ粒子を薬剤学的に許容されるキャリヤと充分に混合して抗癌用組成物の製造が可能である。これらの薬剤学的組成物は、全身作用又は局部作用のために、経口、非経口、皮下、直腸又は局所的に投与され得る、単位投与形にするのが好ましい。経口用の液状製剤の場合に、例えば水、グリコール、油、アルコールなどの通常の薬剤学的キャリヤを利用することができ、経口用の固体状製剤の場合に、でんぷん、砂糖、カオリン、潤滑剤、結合剤、崩壊剤などのような賦形剤を利用し得る。注射用製剤の場合、キャリヤは、例えば溶解性を助けるために半極性溶媒のような他の成分を含んでいてもよいが、少なくとも相当量の滅菌水を含まなければならない。注射溶液用キャリヤとしては、食塩水、グルコース溶液又は食塩水とグルコースとの混合物を使用してもよい。注射懸濁剤は、適切な液体キャリヤ、懸濁化剤などを利用して製造できる。
【0032】
本発明に係るナノ粒子組成物の製造方法は、
(a)固体ポリエチレングリコールにカンプトテシン誘導体を溶融させる工程;
(b)工程(a)から得られた溶融液を冷却させて固体分散体を形成させる工程;及び
(c)工程(b)から得られた固体分散体を両親媒性ブロック共重合体又は固体界面活性剤の水溶液に溶解させる工程;
を含む。
【0033】
工程(a)において、水難溶性カンプトテシン誘導体を固体ポリエチレングリコールと混合し、好ましくは60〜180℃の温度に加熱する。加熱中に、混合物を絶えずに撹拌して、カンプトテシン誘導体を固体ポリエチレングリコールに溶融させる。この時、溶融温度が60℃以上でなければならず、固体ポリエチレングリコールが溶融し、継続撹拌することによって水難溶性カンプトテシン誘導体がポリエチレングリコールに溶解する。カンプトテシン誘導体及びポリエチレングリコールの分解を防止して安定な状態で溶解させるために、溶融温度は180℃以下にしなければならない。ポリエチレングリコール中カンプトテシン誘導体の溶解度を考慮して、カンプトテシン誘導体が完全に溶解される割合で固体ポリエチレングリコールと混合しなければならない。好ましくは、カンプトテシン誘導体の重量に対して、固体ポリエチレングリコール重量が50〜1000倍になるように混合する。
【0034】
一方、水難溶性カンプトテシン誘導体を固体ポリエチレングリコールに效果的に溶融させるために、上記溶融工程で、沸点の低いメタノール、エタノール、ジクロロメタン、アセトン、及びアセトニトリルから選択された有機溶媒を任意に使用してもよい。適切な有機溶媒を加えてカンプトテシン誘導体と固体ポリエチレングリコールとの溶融液を製造した後、減圧下で有機溶媒を除去する。このとき、有機溶媒を除去した後にも、引き続いて、60〜180℃の温度に加熱しながら撹拌すれば、カンプトテシン誘導体がポリエチレングリコールに溶融した状態を良好に維持することができる。
【0035】
工程(b)において、工程(a)から得られたポリエチレングリコールにカンプトテシン誘導体が溶融した溶融液を、好ましくは0℃以下の温度に急冷させて、固体分散体を形成する。この時、できる限り速い速度で、例えば液体窒素を用いて冷却させることが好ましい。溶融液をゆっくり冷却させれば、ポリエチレングリコールが結晶化し、その結果、難溶性カンプトテシン誘導体の粒径が増大する。
【0036】
工程(c)において、工程(b)から得られた固体分散体を、両親媒性ブロック共重合体及び固体界面活性剤からなる群から選択された会合防止剤を含む水溶液に溶解させて、カンプトテシン誘導体含有ナノ粒子の水性懸濁液を得る。ポリエチレングリコールは水溶液に溶解し得るが、ポリエチルリーングリコール中に分散されたカンプトテシン誘導体は水に溶解しない。従って、ポリエチルリーングリコールは溶解し、ナノ粒径に分散されたカンプトテシン誘導体は水溶液に懸濁する。水溶液のpHが7.5以上のアルカリになれば、水難溶性カンプトテシン誘導体のカルボキシアニオン形態に転換されるので、その転換を防止するために、ナノ粒子水溶液のpHを4〜7で維持することが好ましい。用いられるpH調節剤は、クエン酸、酢酸、酒石酸、炭酸、乳酸、硫酸、リン酸、又はそのナトリウム塩とカリウム塩などのアルカリ金属塩、又はアンモニウム塩が好ましく、最も好ましくは乳酸である。
【0037】
カンプトテシン誘導体が上記で製造されたナノ粒子懸濁液に0.1〜4mg/mLの濃度範囲、好ましくは0.2〜2mg/mLの濃度範囲で含有させることが可能である。
【0038】
上記カンプトテシン誘導体が固体ポリエチレングリコール中に分散した固体分散体を上記会合防止剤含有水溶液に溶解させて、カンプトテシン誘導体のナノ粒子が懸濁した水溶液を製造する。ここで、上記会合防止剤含有水溶液は会合防止剤が1〜200mg/mLの濃度で水溶液に溶解され、溶液のpH範囲が4.0〜7.0であることが好ましい。固体ポリエチレングリコールの水中溶解速度を増加させるために、温度を0〜60℃に増加させることが可能である。好ましくは、30℃以下の温度で溶解させる。ポリエチレングリコールの水中溶解速度を増加させ、水難溶性カンプトテシン誘導体ナノ粒子の均一な分散を誘導するために超音波を用いればよい。
【0039】
本発明に係るナノ粒子の製造方法は、工程(c)から得られた水溶液を凍結乾燥させる工程(d)をさらに含んでいてもよい。
【0040】
上記工程(d)において、工程(c)から得られたカンプトテシン誘導体ナノ粒子が懸濁した水溶液を凍結乾燥し、この時、好ましくは、上記水溶液に凍結乾燥補助剤としてラクトース、マンニトール、ソルビトールから選択されたものが加えられる。
【0041】
凍結乾燥された形態で上記したように製造された本発明のナノ粒子は、注射用水又は生理食塩水に希釈又は再構成して使用できる。本発明のナノ粒子を注射用水、生理食塩水、5%デキストロースなどでカンプトテシン誘導体の濃度が0.1〜1.0mg/mLになるように再構成した場合、溶液中のカンプトテシン誘導体の活性ラクトン形態の量は実質的に100%である。該溶液は経口又は非経口で投与することが可能である。
【実施例】
【0042】
下記実施例は、当業者が本発明をより明確に遂行するための形態を説明する。しかし、これら実施例は、本発明を説明することを意図しており、本発明の範囲を何ら制限するものではない。本発明の他の側面は本発明が属する技術分野の当業者にとって自明である。
【0043】
製造例1
モノメトキシポリエチレングリコール−ポリラクチド(mPEG−PLA)ブロック共重合体(AB型)の重合
500gのモノメトキシポリエチレングリコール(重量平均分子量(Mw):2,000)を100mLの2口丸底フラスコに加え、減圧下で2〜3時間、100℃に加熱して水を除去した。反応フラスコに乾燥窒素ガスを充填した。注射器を利用して反応触媒であるオクタン酸第一スズ(Sn(Oct)2)を、D,L−ラクチドに対して、0.1重量%(1g、2.5mol)の量で加えた。30分間撹拌した後、混合物を130℃で1時間減圧(1mmHg)して、触媒が溶解している溶媒(トルエン)を除去した。精製されたラクチド1375gを加え、130℃で18時間加熱した。生成した高分子を塩化メチレンに溶解し、ジエチルエーテルを加えて高分子を析出させた。このようにして得られた高分子を真空オーブンで48時間乾燥した。得られたmPEG−PLAは1,765〜2,000ダルトンの重量平均分子量を有し、1H−NMRによってAB型であることを確認した(図1)。
【0044】
製造例2
mPEG−PLA−トコフェロールスクシネートの合成
製造例1で得られたmPEG−PLA(10g)とトコフェロールスクシネート(Sigma社製、1.55g;高分子の1.2倍モル量)を、アセトニトリル溶媒(50mL)中、室温で24時間、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC;0.76g)及び触媒ジメチルアミノピリジン(DMAP;0.045g)と、反応させた。反応終結後、副産物であるジシクロヘキシルカルボウレア(DCU)をガラスフィルタでろ過して除去した。残余触媒を塩酸水溶液で抽出して除去した。このように精製した生成物溶液に、硫酸マグネシウムを加えて残余水分を除去した。生成物をn−ヘキサン/ジエチルエーテル(v/v=7/3)の共溶媒に沈澱させ、再結晶化してmPEG−PLA−トコフェロールスクシネートを得た。沈澱した高分子生成物をろ過し、真空下で乾燥して白色粒子(10g;収率88.6%)を得た。1H−NMRによって同一性を確認した(図2)。
【0045】
製造例3
mPEG−PLA−パルミテートの合成
製造例1で得られたmPEG−PLA(10g)とパルミトイルクロリドをアセトニトリル溶媒(50mL)で溶かし、6時間還流した。反応終結後、反応生成物をn−ヘキサン/ジエチルエーテル(v/v=7/3)の共溶媒に加えて、mPEG−PLA−パルミテートを沈澱させた。収得した高分子沈澱物をろ過し、真空下で乾燥して白色固体(12g;収率95%)を得た。
【0046】
[実施例]
実施例1
SN−38/PEG4000/mPEG−PLA−トコフェロールスクシネートブロック共重合体ナノ粒子の製造
SN−38(5mg)とポリエチレングリコール(分子量4,000ダルトン、1,000mg)を250mLの丸底フラスコに入れ、これを160℃の油浴に取り付けた。マグネティックスターラーで攪拌しながら、混合物を室温で2時間放置してSN−38をポリエチレングリコールに溶融させた。続いて、上記反応容器を室温に冷却した後、上記容器を液体窒素中に置いて急速冷却させて、SN−38が分散した固体ポリエチレングリコールを得た。ここに、製造例2で得られた両親媒性ジブロック共重合体であるmPEG−PLA−トコフェロールスクシネートが50mg/mLの濃度で溶解した水溶液10mLを加えた。超音波を加えながら、固体ポリエチレングリコールを溶解させて、SN−38ナノ粒子が懸濁した水溶液を製造した。そこに、ラクトース一水和物500mgを加え、溶解させた。水溶液のpHを4.0〜7.0に調整した。生成したSN−38ナノ粒子水性懸濁液を粒径800nmのフィルタでろ過し、凍結乾燥した。凍結乾燥組成物を注射用水で再構成し、SN−38の収率、再構成後のナノ粒子水溶液中SN−38の濃度、SN−38のラクトン含量及びナノ粒子の粒径を分析した。
【0047】
試料の収率は、適切な水性溶媒中で透析又は遠心分離(30,000xg、1時間)を通じてSN−38の初期含量に対して、最終SN−38水溶液に含有するSN−38の含量から測定した。試料をメタノールに溶かし、HPLCを使用して試料水溶液中のSN−38の濃度を測定した。SN−38のラクトン含量は、pH10の塩基性水溶液でのカルボキシイオンの全含量又はpH2の酸性水溶液でのラクトンの全含量に対して、SN−38水溶液中のラクトンの含量を計算しながら、C18 Vydacカラムを利用したHPLC分析時に、4分帯のカルボキシアニオンピークと12分帯のラクトンピークの確認から測定した。
試料の粒径はDLS(dynamic light scattering)方法で測定した。
【0048】
−PEG4000/mPEG−PLA−トコフェロールスクシネートブロック共重合体重量比:2/1
−SN−38の収率:98%
−再構成後のナノ粒子水溶液のSN−38の濃度:0.5mg/mL
−SN−38ラクトンの含量:100%
−ナノ粒子の粒径:400nm
【0049】
実施例2
SN−38/PEG4000/mPEG−PLA−トコフェロールスクシネートブロック共重合体ナノ粒子の製造
SN−38(10mg)とポリエチレングリコール(分子量4,000ダルトン、3,000mg)を500mLの丸底フラスコに入れた。メタノール100mL及びジクロロメタン250mLを加え、SN−38とポリエチレングリコールを完全に溶解させた。有機溶媒を減圧下で除去した。生成した混合物を160℃に加熱し、マグネティックスターラーで攪拌しながら2時間放置してSN−38をポリエチレングリコールに溶融させた。反応容器を室温に冷却し、上記容器を液体窒素中に置いて急速冷却させて、SN−38が分散した固体ポリエチレングリコールを得た。ここに、製造例2で得られた両親媒性ジブロック共重合体であるmPEG−PLA−トコフェロールスクシネートが50mg/mLの濃度で溶解した水溶液10mLを加えた。固体ポリエチレングリコールを超音波下で溶解させて、SN−38ナノ粒子が懸濁した水溶液を製造した。ラクトース一水和物600mgを加え、溶解させた。水溶液のpHを4.0〜7.0に調整した。生成したSN−38ナノ粒子含有水性懸濁液を粒径800nmのフィルタでろ過し、凍結乾燥した。凍結乾燥組成物を注射用水で再構成し、SN−38の収率、再構成後のナノ粒子水溶液のSN−38濃度、SN−38ラクトン含量及びナノ粒子の粒径を分析した。
【0050】
−PEG4000/mPEG−PLA−トコフェロールスクシネートブロック共重合体重量比:6/1
−SN−38の収率:99%
−再構成後のナノ粒子水溶液のSN−38の濃度:0.5mg/mL
−SN−38ラクトンの含量:100%
−ナノ粒子の粒径:500nm
【0051】
実施例3
SN−38/PEG4000/mPEG−PLAブロック共重合体ナノ粒子組成物の製造
上記製造例1で得られたmPEG−PLAブロック共重合体(Mw;1,800〜2,000):1g、PEG4000:8g、SN−38:40mgを使用したことを除いては、実施例1と同様にしてSN−38ナノ粒子組成物を製造した。製造した組成物を注射用水で再構成し、SN−38の収率、再構成後のナノ粒子水溶液のSN−38濃度、及びSN−38のラクトン含量を分析した。
【0052】
−PEG4000/mPEG−PLAブロック共重合体(mPEG−PLA)重量比:8/1
−SN−38の収率:90%
−再構成後のナノ粒子水溶液のSN−38濃度:0.4mg/mL
−SN−38のラクトン含量:100%
【0053】
実施例4
SN−38/PEG4000/mPEG−PLA−パルミテートナノ粒子組成物の製造
上記製造例3で得られたmPEG−PLA−パルミテート:100mg、PEG4000:400mg、及びSN−38:1.0mgを使用したことを除いては、実施例1と同様にしてSN−38ナノ粒子水溶液を製造した。製造した組成物を注射用水で再構成してSN−38の収率、再構成後のナノ粒子水溶液のSN−38濃度、及びSN−38のラクトンを分析した。
【0054】
−PEG4000/mPEG−PLA−パルミテート重量比:4/1
−SN−38の収率:95%
−再構成後のナノ粒子水溶液のSN−38濃度:0.5mg/mL
−SN−38のラクトン含量:100%
【0055】
実施例5
SN−38/PEG4000/トコフェロールポリエチレングリコールスクシネート(TPGS)ナノ粒子組成物の製造
トコフェロールポリエチレングリコールスクシネート(TPGS、ビタミンE−ポリエチレングリコール−1000−スクシネート, Eastman Chemical Co., テネシー州キングズポート, Mn;1,000):70mg、PEG4000:21g、及びSN−38:70mgを使用したことを除いては、実施例1と同様にしてSN−38ナノ粒子水溶液を製造した。製造した組成物を注射用水で再構成してSN−38の収率、再構成後ナノ粒子水溶液のSN−38濃度、及びSN−38のラクトン含量を分析した。
【0056】
−PEG4000/トコフェロールポリエチレングリコールスクシネート(TPGS,Mn;1,000)重量比:300/1
−SN−38の収率:93%
−再構成後のナノ粒子水溶液のSN−38の濃度:0.7mg/mL
−SN−38のラクトン含量:100%
【0057】
実施例6
SN−38含有固体ポリエチレングリコールナノ粒子組成物の製造
固体ポリエチレングリコールの分子量によって、下記表で示されるような重量組成比で、薬物と分散媒の固体ポリエチレングリコールだけを用いて組成物を製造した。各組成物は実施例1と同様にして製造した。しかし、最終工程で、会合防止剤を添加しないpH5〜6の水溶液(1mL)を加え、最終組成物を得た。得られた組成物のナノ粒子の粒径は、製造直後(0時間)、並びに室温で4時間及び24時間放置後に測定した。上記組成物を粒径800nmのフィルタでろ過し、ろ液中の薬物濃度を測定して、表1に示されるように薬物含量を決定した。
【0058】
【表1】

【0059】
会合防止剤無しで固体ポリエチレングリコールを用いて製造したSN−38ナノ粒子懸濁水溶液は、経時的に不安定な粒径を示し、室温で24時間放置後、1,000nm以上の粒径になった。従って、上記組成物の安定性を確保するために、界面活性剤のような会合防止剤が必要である。
【0060】
実施例7
SN−38含有ナノ粒子組成物
実施例6の結果を補完するために、界面活性剤として働く会合防止剤を使用して、SN−38含有ナノ粒子組成物を製造した。下記表2に示した重量組成比で実施例1と同じ方法によってSN−38ナノ粒子組成物を製造した。これらの組成物に、凍結乾燥時にケーキ物質として用いられるD,L−マンニトールを、全体に対して15%の重量比で加えた。混合物を室温で15分間撹拌した。得られたナノ粒子水溶液を800nmの細孔径を有するフィルタでろ過し、薬物の同一含量を含むように一定量をガラス製薬瓶に分注し、凍結乾燥した。凍結乾燥した組成物は生理食塩水で0.5mg/mLの濃度になるように再構成した。室温で0時間(再構成直後)、4時間及び24時間経過に伴うSN−38の粒径及びpHを測定し、表2に示した。
【0061】
【表2】

【0062】
上記表2の組成物は、水溶液中で24時間100%ラクトン形態を保持した。薬物の粒径は、会合防止剤を追加した結果、径時的に安定性を示した。
【0063】
[実験例]
実験例1
SN−38含有ナノ粒子組成物の安定性
実施例2、3及び5で製造した注射用の凍結乾燥組成物それぞれを25℃で6ケ月間保存した。その外観、残存率(含量)、ラクトンの%、再溶解時間、pHの変化及び平均ナノ粒径を測定して、組成物の安定性を検討した。その結果を表3に示す。
【0064】
【表3】

【0065】
本発明によって製造された凍結乾燥組成物は長期保存の後でも安定しており、臨床応用が可能と判断された。
【0066】
実験例2
SN−38含有ナノ粒子組成物の薬動力学的特性
実施例2、3及び5で製造した凍結乾燥組成物それぞれに対する薬動力学的特性を確認するために、体重200〜250gの雄性SDラットの頚静脈と頚動脈に挿管した。各組成物を2mg/kgの投与量で10秒にわたって尾静脈に注射した。注射5分、15分、30分及び1時間、2時間、4時間、8時間後、0.4mLの全血試料を頚動脈から採血し、遠心分離して上清血漿を得た。
【0067】
血漿中の薬物濃度を分析するために、10%ZnSO4及び200mMのラクテートバッファー(pH3.5)により調整したpH5.5のメタノールを、血漿に加えた。上記の混合物を30秒間激しく混合した後、遠心分離した。上清を取ってきれいな試験管に移した後、HPLCで濃度を測定した。HPLC条件は下記の通りである:
【0068】
注入量:0.085mL
流速:1mL/min
検出器:FLD
波長:Ex355nm、Em515nm
移動相:アセトニトリル/3%トリエチルアミン水溶液を80/20体積率で混合し、酢酸でpH5.5に調整した混合溶媒
カラム:4.6×250mm(C18、Vydac、USA)
【0069】
投与したナノ粒子から放出されたSN−38ラクトン形態の血漿濃度分析結果を下記表4に示した。
【0070】
比較製剤として、SN−38の水溶性プロドラッグ化したカンプト注(登録商標)(20mg/mL、CJ製薬社事業本部/ファイザー、USA)を生理食塩水で希釈して使用した。
【0071】
【表4】

【0072】
実験例3
SN−38含有ナノ粒子組成物のインビボ(in vivo)抗癌活性
実施例2で製造したナノ粒子組成物の効果は抗癌活性を評価するのに用いられた。比較製剤として、カンプト注(登録商標)(20mg/mL、CJ製薬社事業本部/ファイザー、USA)を生理食塩水で希釈して使用し、CPT−11の含量が1.5mg/mLになるようにした。
【0073】
液体窒素に保存された細胞を採取し、インビトロ細胞培養で確立した。細胞を採取した後、滅菌リン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄し、生存細胞数を測定した。細胞を約7×107細胞/mLの濃度で滅菌PBSに再懸濁した。健常なヌード(nu/nu)無胸腺マウス(20〜25g、8週齢)の右側腹部に7×106のヒト癌細胞(HT−29、MIA−Paca−2)を含有する0.1mLの細胞懸濁液を皮下注射した。癌が一定の大きさに達した後、3回異種移植して3〜4mmの異種移植片を形成した。異種移植片を健常なヌード(nu/nu)無胸腺マウス(20〜25g、8週齢)の右側腹部に12ゲージの套管針で皮下注射した。腫瘍容積が100〜300mm3に達した後、薬物を投与し、この時点を0日と記録した。0日に、マウスを5群に分け、0、1、2、3、4及び5日目に実施例2で製造したSN−38含有ナノ粒子及び比較製剤を尾静脈を通して投与し、腫瘍容積を別の時間間隔で測定した。腫瘍容積は下記式により計算した。
【0074】
腫瘍容積(TV)=0.5×L×W2(L:長軸,W:短軸)
相対腫瘍容積(RTV)=(Vt/V0)×100%(Vt:t日のTV、V0:0日のTV)
【0075】
治療効能は平均腫瘍増殖曲線、最適の成長抑制(T/C%)及び比成長遅延(SGD)を総合的に考慮して評価した。
【0076】
最後の注射後から4週内の特定日での最適の成長抑制を、対照群に対する処理群の平均RTV値に100%(T/C%)を乗じて計算した。
【0077】
SGDを下記のように1及び2倍加時間にわたって計算した:
比成長遅延(SGD)=(TD処理群−TD対照群)/TD対照群
D:腫瘍倍加時間
【0078】
活性水準を下記のように定義した。
【0079】
【表5】

【0080】
実験の有効性を確認するために、処理当たり少なくとも7匹のマウスと、群当たり少なくとも7個の腫瘍を使用した。処理開始時、最初の腫瘍は径4mmであるか、容積30mm3であった。最終薬物の投与後、2週内に死ぬ動物を毒性死滅と見なし、評価から除外した。3匹当たり1匹より多い毒性死滅や平均体重が15%以上減少して完全に回復していない処理群は抗腫瘍効能がないと見なした。
【0081】
表6、図3及び4から分かるように、実施例2で製造したSN−38含有ナノ粒子組成物の処理群は、対照群に比べて著しい癌成長抑制を示しており、特に比較製剤に比べて高い抗癌活性を示した。
【0082】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明のナノ粒子組成物は、水難溶性カンプトテシン誘導体のナノ粒子懸濁液であり、生理食塩水のような水溶液で希釈又は再構成時、活性形のラクトン形が不活性形に転換されることが遅延される特徴がある。また本発明は、水難溶性カンプトテシン誘導体の可溶化、ナノサイズの粒子製造に関する技術、及び抗癌治療の新しい製剤開発を提供するという点で意味を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カンプトテシン誘導体、固体ポリエチレングリコール、並びに固体両親媒性ブロック共重合体及び固体界面活性剤から選択された会合防止剤を含む、カンプトテシン誘導体のナノ粒子組成物。
【請求項2】
カンプトテシン誘導体が10μg/mL以下の水溶性を有する化合物である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
カンプトテシン誘導体がカンプトテシン又は7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシンである請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
ポリエチレングリコールは重量平均分子量が1,500〜20,000ダルトンである請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
ポリエチレングリコールの両末端がヒドロキシ基、アルキル基又はアシル基で保護される請求項1又は4に記載の組成物。
【請求項6】
ポリエチレングリコールが、カンプトテシン誘導体の重量に対して、50〜1,000倍の量で含有されている請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
両親媒性ブロック共重合体は、親水性ブロック(A)の重量平均分子量が1,000〜10,000ダルトンであり、疎水性ブロック(B)の重量平均分子量が500〜10,000ダルトンであるA−B型ジブロック共重合体である請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
親水性ブロック(A)がポリエチレングリコール又はモノメトキシポリエチレングリコールであり、疎水性ブロック(B)がポリ乳酸、ポリカプロラクトン、乳酸とグリコール酸との共重合体、ポリジオキサン−2−オン、及び乳酸と1,4−ジオキサン−2−オンとの共重合体からなる群から選択される請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
親水性ブロック(A)がモノメトキシポリエチレングリコールであり、疎水性ブロック(B)の末端に、ラウリン酸、パルミトイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、トコフェロールスクシネート及びコレステロールスクシネートからなる群から選択された一つがエステル結合を通して加えられる請求項7又は8に記載の組成物。
【請求項10】
固体界面活性剤がポリエチレングリコールトコフェロールスクシネートであり、上記ポリエチレングリコールの重量平均分子量が1,000〜5,000ダルトンである請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
各会合防止剤が、カンプトテシン誘導体の重量に対して、1〜400倍の量で含有されている請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
ナノ粒子の粒径が100〜1,000nmである請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
上記ナノ粒子組成物が凍結乾燥の形態で存在する請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
薬剤学的に許容されるキャリヤをさらに含んで、抗癌用である請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
(a)固体ポリエチレングリコールにカンプトテシン誘導体を溶融させる工程;
(b)上記工程(a)で得られた溶融液を冷却させて固体分散体を形成させる工程;及び
(c)上記工程(b)で得られた固体分散体を固体両親媒性ブロック共重合体又は固体界面活性剤の水溶液に溶解させる工程;
を含む請求項1に記載のナノ粒子組成物の製造方法。
【請求項16】
工程(c)で得られた水溶液を凍結乾燥させる工程をさらに含む請求項15に記載の方法。
【請求項17】
工程(a)において、溶融温度が60〜180℃である請求項15に記載の方法。
【請求項18】
メタノール、エタノール、ジクロロメタン、アセトン又はアセトニトリルから選択された有機溶媒が工程(a)で用いられ、有機溶媒が減圧下で除去される請求項15に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−504960(P2010−504960A)
【公表日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−530260(P2009−530260)
【出願日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際出願番号】PCT/KR2007/004585
【国際公開番号】WO2008/038944
【国際公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(500578515)サムヤン コーポレイション (20)
【Fターム(参考)】