説明

水電解装置

【課題】水電解装置において、安定した水素ガスの生成を可能とする。
【解決手段】固体高分子電解質膜22によって内部が陽極側23と陰極側24に区画される水電解セル11と、固体高分子電解質膜22に対して電力を供給する発電装置12と、固体高分子電解質膜22の陰極側に水を循環供給する第2循環水経路17と、第2循環水経路17を流動する水から水素ガスを分離する第2気液分離タンク18と、分離された水素ガスを取り出す水素制御弁33を有する水素取出経路19と、第2循環水経路内17の圧力を調整する調圧手段と、発電装置12から固体高分子電解質膜22に供給される電力量に応じて水素制御弁33及び調圧手段を制御する制御装置20を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子電解質膜を隔膜として用い、水を電気分解して酸素及び水素を製造可能な水電解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
石油や石炭等の化石燃料を使用することにより、大気中に二酸化炭素が放出されることで、地球温暖化につながることが問題となっている。化石燃料の代替であるクリーンなシステムとして燃料電池や水素エンジン等の水素利用が注目されている。水の電気分解(以下、水電解)により水素ガスや酸素ガスを製造する水電解装置は、比較的容易に、且つ、無公害で水素ガスや酸素ガスを製造することが可能である。一方、地球環境に対して悪影響を与えない自然エネルギを利用した発電装置としては、例えば、風力発電や太陽光発電などがある。そして、水電解装置の電源としてこの自然エネルギを利用した発電装置を適用した技術が既に提案されている。
【0003】
例えば、下記特許文献1に記載された自然エネルギ利用水電解システムでは、水を電気分解して水素と酸素を発生させる水電解装置と、この水電解装置を駆動する電流・電圧を制御する電流・電圧制御装置と、自然エネルギにより電気を得る風力発電装置などの自然エネルギ発電装置とを設け、風力発電装置などで発生した電力を用いて水電解装置により水素を発生させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−330515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
水電解装置の水素生成効率は、供給される電力と密接な関係があり、供給電力が低下すると、生成される水素量が減少し、水素生成効率が低下してしまう。生成した水素ガスを燃料電池や水素エンジン等に供給して使用する場合、供給する水素ガス量が変動すると、この燃料電池や水素エンジン等を安定して運転することが困難となる。
【0006】
上述した従来の水電解装置では、自然エネルギ発電装置に加えて二次電池を設け、気象状況により自然エネルギによる発電量(電流値)が変動しても、二次電池に蓄電した電力を補充することで、供給する電力(電流値)をほぼ一定に維持している。しかし、制御装置が、常時、自然エネルギ発電装置の電力と二次電池の電力とを制御して水電解装置に供給する電力(電流値)を調整するには、過大な設備が必要となり、コストが高く、エネルギ効率が良くないという問題がある。
【0007】
本発明は、上述した課題を解決するものであり、安定した水素ガスの生成を可能とする水電解装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するための本発明の水電解装置は、固体高分子電解質膜によって内部が陽極側と陰極側とに区画される水電解セルと、前記固体高分子電解質膜に対して電力を供給する電力供給装置と、前記陽極側の固体高分子電解質膜側に水を循環供給する第1循環水経路と、前記陰極側の固体高分子電解質膜側に水を循環供給する第2循環水経路と、該第2循環水経路を流動する水から水素ガスを分離する水素分離手段と、該水素分離手段により分離された水素ガスを前記第2循環水経路から取り出す水素取出手段と、前記第2循環水経路内の圧力を調整する調圧手段と、前記電力供給装置から前記固体高分子電解質膜に供給される電力量に応じて前記水素取出手段及び前記調圧手段を制御する制御手段と、を備えることを特徴とするものである。
【0009】
本発明の水電解装置では、前記調圧手段は、前記第2循環水経路内に水を供給する第2水供給経路を有することを特徴としている。
【0010】
本発明の水電解装置では、前記調圧手段は、前記第2循環水経路内から水を排出する水排出経路を有することを特徴としている。
【0011】
本発明の水電解装置では、前記水素取出手段は、水素分離手段に連結された水素取出経路と、該水素取出経路に設けられた水素制御弁とを有し、前記制御手段は、前記電力供給装置から前記固体高分子電解質膜に供給される電力量に応じて前記水素制御弁の開度を調整としている。
【0012】
本発明の水電解装置では、前記制御手段は、前記陰極側水循環経路内の水における水素溶存量を飽和水素量としてから前記水素取出手段を稼動することを特徴としている。
【0013】
本発明の水電解装置では、前記電力供給装置は、自然エネルギによって得られた電力を供給する自然エネルギ供給装置を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明の水電解装置によれば、固体高分子電解質膜によって内部が陽極側と陰極側とに区画される水電解セルと、陰極側の固体高分子電解質膜側に水を循環供給する第2循環水経路と、第2循環水経路を流動する水から水素ガスを分離する水素分離手段と、水素分離手段により分離された水素ガスを第2循環水経路から取り出す水素取出手段と、第2循環水経路内の圧力を調整する調圧手段と、電力供給装置から固体高分子電解質膜に供給される電力量に応じて水素取出手段及び調圧手段を制御する制御手段とを設けている。従って、固体高分子電解質膜に供給される電力量が変動すると、発生する水素ガス量が増減するものの、このとき、第2循環水経路内の圧力を増加または減少させることで水に溶存できる水素量が増加または減少し、気化する水素ガス量を増減させることとなり、水素取出手段により取り出される水素ガス量を一定にでき、安定した水素ガスの供給を可能とすることができ、水素生成効率を向上することができる。
【0015】
本発明の水電解装置によれば、調圧手段を、第2循環水経路内に水を供給する第2水供給経路とするので、第2水供給経路により第2循環水経路内を加圧することで、水素ガス量を増減させることとなり、水素取出手段により取り出す水素ガス量を一定とでき、安定した水素ガスの生成を可能とすることができる。
【0016】
本発明の水電解装置によれば、調圧手段を、第2循環水経路内から水を排出する水排出経路とするので、水排出経路により第2循環水経路内を減圧することで、水素ガス量を増減させることとなり、水素取出手段により取り出す水素ガス量を一定とでき、安定した水素ガスの生成を可能とすることができる。
【0017】
本発明の水電解装置によれば、水素取出手段を、水素分離手段に連結された水素取出経路と、水素取出経路に設けられた水素制御弁とで構成し、制御手段は、電力供給装置から固体高分子電解質膜に供給される電力量に応じて水素制御弁の開度を調整するので、固体高分子電解質膜に供給される電力量が変動すると、水素制御弁の開度を開放側または閉止側に調整することで、水素取出手段により取り出す水素圧力を一定とでき、安定した水素ガスの供給を可能とすることができる。
【0018】
本発明の水電解装置によれば、制御手段は、陰極側水循環経路内の水における水素溶存量を飽和水素量としてから水素取出手段を稼動するので、装置の稼動中は、陰極側水循環経路内の水における水素溶存量を飽和水素量に維持することで、固体高分子電解質膜に供給される電力量が変動したとき、水における水素溶存量、つまり、発生する水素ガス量を早期に調整することができる。
【0019】
本発明の水電解装置によれば、電力供給装置を、自然エネルギによって得られた電力を供給する自然エネルギ供給装置とするので、地球環境に対して悪影響を与えることなく、水素ガスを生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本発明の一実施例に係る水電解装置を表す概略構成図である。
【図2】図2は、本実施例の水電解装置における起動時の状態変化を表すタイムチャートである。
【図3】図3は、本実施例の水電解装置における運転状態変化を表すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に添付図面を参照して、本発明に係る水電解装置の好適な実施例を詳細に説明する。なお、この実施例により本発明が限定されるものではない。
【実施例】
【0022】
図1は、本発明の一実施例に係る水電解装置を表す概略構成図、図2は、本実施例の水電解装置における起動時の状態変化を表すタイムチャート、図3は、本実施例の水電解装置における運転状態変化を表すタイムチャートである。
【0023】
本実施例の水電解装置は、図1に示すように、水電解セル11と、発電装置(電力供給装置)12と、充電装置13と、第1循環水経路14と、第1気液分離タンク15と、酸素ガス取出経路16と、第2循環水経路17と、第2気液分離タンク18と、水素ガス取出経路19と、制御装置20とから構成されている。また、本実施例の水電解装置では、第1循環水経路14の水を加圧する第1加圧手段(調圧手段)として、第1水供給経路41と、第1水供給弁42が設けられている。更に、第2循環水経路17の水を加圧する第2加圧手段(調圧手段)として、第2水供給経路43と、第1水供給弁44が設けられている。
【0024】
水電解セル11は、水電解スッタク内21内に、固体高分子電解質膜22の一方に陽極を配置し、他方に陰極を配置するものであり、水電解セル11は単数または複数積層して水電解スタック21内に構成される。水電解セル11は、固体高分子電解膜により水を電解することで、陽極側23に酸素ガスを、陰極側24に水素ガスを発生させるものである。
【0025】
発電装置12は、水電解セル11における固体高分子電解質膜22に対して電力(電流)を供給するものであり、本実施例では、自然エネルギを利用した電力供給装置として、風力発電装置、太陽光発電装置、水力発電装置、波力発電装置、地熱発電装置、海洋温度差発電装置などが適用される。この場合、夜間に発電が不可能な電力供給装置に対応して、昼間に発電した電力を蓄電する充電装置13が設けられている。また、発電装置12としては、系統からの電力を供給することも可能である。制御装置20は、発電装置12により得られた電力が入力され、水電解セル11の固体高分子電解質膜22へ供給する電力の電流値、電圧値を制御することで、水電解セルの要求値に最適な状態で電力を供給することで水電解を行い、酸素ガス及び水素ガスを発生させることができる。
【0026】
第1循環水経路14は、水電解スタック21に対して水を循環し、水電解セル11の陽極側23に水を供給することで、水の電気分解を可能としている。この第1循環水経路14は、第1気液分離タンク15に連結されており、この第1循環水経路14は、水電解スタック21に対する入口経路14aと、水電解スタック21からの出口経路14bから構成されている。そして、第1循環水経路14における入口経路14aに、第1循環ポンプ31が設けられている。この場合、第1循環水経路14と第1気液分離タンク15により、本発明の第1循環水経路が構成される。
【0027】
第1気液分離タンク15は、循環する水に気泡または溶存して存在する酸素ガスを分離して取り出すものであり、上部には、分離した酸素ガスを排出する酸素取出経路16が連結されている。また、この第1気液分離タンク15には、フィルタ15aが内蔵されており、このフィルタ15aにより、水の電気分解により発生して不純物(例えば、溶出金属など)を除去した後、再び、水電解スタック21に供給する。
【0028】
第2循環水経路17は、水電解スタック21に対して水を循環し、水電解セル11の陰極側24に水を供給することで、固体高分子電解膜の冷却と水素ガスの導出を行うことが可能である。この第2循環水経路17は、第2気液分離タンク18に連結されており、この第2循環水経路17は、水電解スタック21に対する入口経路17aと、水電解スタック21からの出口経路17bから構成されている。そして、第2循環水経路17における入口経路17aに、第2循環ポンプ32が設けられている。この場合、第2循環水経路17と第2気液分離タンク18により、本発明の第2循環水経路が構成される。
【0029】
第2気液分離タンク18は、循環する水に気泡または溶存して存在する水素ガスを分離して取り出すものであり、上部には、分離した水素ガスを排出する水素取出経路19が連結されている。そして、この水素取出経路19に水素制御弁33が設けられている。また、この第2気液分離タンク18には、フィルタ18aが内蔵されており、このフィルタ18aにより、水の電気分解により発生して不純物(例えば、溶出金属など)を除去した後、再び、水電解スタック21に供給する。
【0030】
また、第2循環水経路17における入口経路17aには、補助経路(水排出経路)34を介してバッファタンク35が連結されており、この補助経路34には、水排出弁36が設けられている。このバッファタンク35は、第2循環水経路17内の第2気液分離タンク18の水素ガス量に応じて、一時的に循環水を保持するために用いられる。
【0031】
第1水供給経路41は、外部から第1気液分離タンク15内に水を供給することで、水電解スタック21の陽極側23における循環水経路である第1循環水経路14及び第1気液分離タンク15の圧力を昇圧制御するものである。そして、この第1水供給経路41には、第1気液分離タンク15内に供給する水を調整する水供給弁42が設けられている。なお、この第1水供給経路41には、図示しない水供給ポンプが設けられている。また、第1水供給経路41から供給される水は純水が用いられるが、予め酸素ガスが溶存されている水を流入させてもよい。
【0032】
第2水供給経路43は、外部から第2気液分離タンク18内に水を供給することで、水電解スタック21の陰極側23における循環水経路である第2循環水経路17及び第2気液分離タンク18の圧力を昇圧制御するものである。そして、この第2水供給経路43には、第2気液分離タンク18内に供給する水を調整する水供給弁44が設けられている。なお、この第2水供給経路43には、図示しない水供給ポンプが設けられている。また、第2水供給経路43から供給される水は純水が用いられるが、予め水素ガスが溶存されている水を流入させてもよい。
【0033】
制御装置20は、発電装置12または充電装置13の電力に応じて、水電解セル11の固体高分子電解質膜22への電流値、電圧値を制御可能である。また、制御装置20は、上述した第1循環ポンプ31及び第2循環ポンプ32の吐出圧(ポンプモータの回転数)を調整制御可能であり、水素制御弁33及び水排出弁36の開度(0〜100%)を調整制御可能となっている。更に、制御装置20は、第1水開閉弁42及び第2水開閉弁43の開度(0〜100%)を調整制御可能となっている。
【0034】
陰極側の循環水経路には、第2気液分離タンク18及び第2循環水経路17内を循環する水の水素溶存量を検出または推定する水素溶存量検出推定手段が設けられている。この水素溶存量検出推定手段は、制御装置20が機能する。即ち、予め計算値や実験値などに基づいて、第2循環水経路17内を流動する水の圧力と、水電解セル11の固体高分子電解質膜22に付与する電流値(水素発生量)に基づいて設定される水素溶存量をマップ化し、このマップを用いて陰極側の循環水における水素溶存量を求めればよい。なお、第2循環水経路17内における水の圧力は、圧力センサ(圧力検出手段)により検出してもよいし、第2循環ポンプ32に内蔵される圧力センサ(圧力検出手段)に基づいて推定してもよい。また、水の圧力としては、第2気液分離タンク内に圧力センサ(圧力検出手段)を設置することで検出してもよい。
【0035】
そして、水電解装置の起動時に、制御装置20は、第2循環水経路17内の循環水における水素溶存量が予め設定された所定量を超えたら、水素制御弁33を開放し、水素取出経路19から水素ガスを取り出すようにしている。具体的には、制御装置20は、第2循環水経路17内の循環水における水素溶存量が飽和水素量となったら、水素制御弁33を開放し、水素取出経路19から水素ガスを取り出す。この場合、循環水における飽和水素量は、循環水の圧力に応じて変動することから、予め、計算値や実験値に基づいてマップ化し、このマップを用いて飽和水素量を求めればよい。
【0036】
本実施例にて、上述したように、陰極側の循環水経路の循環水を加圧する第2加圧手段は、第2水供給経路43からの水の供給量で決まり、第2循環水経路17及び第2気液分離タンク18の圧力に応じて第2水供給経路43に設けられた第2水供給弁44により制御される。この場合、第2循環水経路17内の運転圧力は、水素取出経路19から取り出して使用する水素ガスの圧力に応じて設定される。この陰極側の循環水の圧力は、0.1MPa〜80MPaに設定されるのが好ましく、さらに好ましくは1MPa〜80MPaに設定される。
【0037】
なお、陽極側の循環水経路の循環水を加圧する第1加圧手段は、第1水供給経路41からの水の供給量で決まり、第1循環水経路14及び第1気液分離タンク15の圧力に応じて第1水供給経路41に設けられた第1水供給弁42により制御される。この場合、第1水供給弁42は、第2水供給弁44と同様に制御される。そして、水電解セル11の効率を安定させるために、陽極側23と陰極側24に供給される循環水の圧力は、ほぼ同一に設定される必要があるから、水電解セル11と連結する陽極側の第1循環水経路14と陰極側の第2循環水経路17に流れる循環水の圧力がほぼ均圧に保持されている。本実施例においては、陽極側の循環水と陰極側の循環水の差圧は30kPa以下に制御される。
【0038】
更に、本実施例の水電解装置では、発電装置12が、自然エネルギを利用した電力供給装置であることから、水電解装置の運転中に、自然環境により水電解セル11の固体高分子電解質膜22に供給する電力(電流値)が変動する。そのため、制御装置20は、発電装置12から固体高分子電解質膜22に供給される電力量に応じて、水素取出手段及び調圧手段を制御している。
【0039】
ここで、水素取出手段は、水素取出経路19に設けられた水素制御弁33であり、調圧手段は、第2循環水経路17内の圧力を調整可能な第2水供給経路43に設けられた第2水供給弁44、水排出経路としての補助経路34に設けられた水排出弁36である。制御装置20は、発電装置12から固体高分子電解質膜22に供給される電力量に応じて、この水素制御弁33、第2水供給弁44、水排出弁36の少なくともいずれか1つを開閉制御する。
【0040】
具体的には、制御装置20は、発電装置12から固体高分子電解質膜22に供給される電力量に応じて、水素制御弁33の開度を制御することで、第2循環水経路17の圧力を調整する。また、制御装置20は、発電装置12から固体高分子電解質膜22に供給される電力量に応じて、第2水供給弁44を制御し、第2循環水経路17内への水の供給量を調整することでその圧力を調整する。更に、制御装置20は、発電装置12から固体高分子電解質膜22に供給される電力量に応じて、水排出弁36を制御し、第2循環水経路17からバッファタンク35へ排出する水の排出量を調整することでその圧力を調整する。
【0041】
なお、本実施例の水電解装置では、水電解セル11での水電解運転の停止後、制御装置20は、第2循環水経路17内を密閉状態で保持するようにしている。即ち、制御装置20は、水電解セル11への通電を停止し、各循環ポンプ31,32の駆動を停止すると同時に、水素制御弁33を閉止することで、陰極側の第2循環水経路17を閉塞空間とする。
【0042】
ここで、本実施例の水電解装置における起動時の作用について、図2のタイムチャートに基づいて説明する。
【0043】
水電解装置における起動操作において、図2に示すように、オペレータが、時間t1にて、水電解装置の起動スイッチを入力すると、制御装置20は、まず、第1、第2水供給弁42,44を開放させて、第1、第2の水供給経路41,43を介して水電解セル11の陽極及び陰極の循環水経路14,17に水を供給する。それと同時に、第1循環ポンプ31と第2循環ポンプ32を稼動させることで循環水を流動させる。更に、水電解セル11に電力の供給を開始して、水電解セル11による電解反応を開始する。このとき、水電解セル11に供給される電流密度は、定常電流密度より高めに設定される。制御装置20は、水素制御弁33により水素取出経路19を閉塞することで、第2循環水経路17を密閉状態とする。なお、制御装置20は、水電解セル11に供給される電流に応じて、第1循環ポンプ31と第2循環ポンプ32による循環水の流速を制御している。
【0044】
制御装置20により、固体高分子電解質膜22への電流値、電圧値を制御することで、陽極側23の循環水が固体高分子電解質膜22により電気分解される。即ち、水電解セル11の陽極側23の固体高分子電解質膜22に対して水が供給されることで、この固体高分子電解質膜22の陽極側23で反応が起こり、酸素ガスと水素イオンが発生する。この水素イオンは、陽極側23と陰極側24との電位差により水を伴い、陽極側23から固体高分子電解質膜22を通過して陰極側24に移動し、陰極側24で反応して、水素ガスが発生する。
【0045】
制御装置20は、陽極及び陰極の循環水経路14,17の循環水の圧力を監視し、所定の電解圧力になった時間t2にて、第1、第2水供給弁42,44を閉じることで、水の流入を停止させる。なお、循環水経路14,17の循環水の圧力は、図示しない圧力センサにより検出している。
【0046】
この場合、第2循環水経路17の循環水の圧力が定常圧より高圧であることから、水素ガスは循環水に溶け込みやすい。よって、陰極側23で発生した水素ガスは循環水に溶存した状態で第2循環水経路17を循環する。
【0047】
発生した水素ガスが循環水に溶け込んで水素溶存量が増加すると、所定時間で水素溶存量が飽和状態に達し、これ以上は、水素ガスが水に溶存しなくなる。そこで、時間t3にて、第2循環水経路17の循環水における水素溶存量が飽和状態を超えたら、制御装置20は、水素制御弁33を開放する。すると、水素取出経路19の圧力が上昇し、水素取得量が上昇する。そして、時間t4にて、水素取得量が予め設定された所定量を超えたら、水素制御弁33の開度を一定とする。これにより所定量、所定圧の水素ガスを安定して取得することができる。
【0048】
次に、本実施例の水電解装置における運転中の作用について、図3のタイムチャートに基づいて説明する。
【0049】
水電解装置における運転操作において、図3に示すように、制御装置20は、発電装置12から固体高分子電解質膜22に対して標準電流値を付与すると共に、第2循環ポンプ32を所定の標準回転数で駆動し、水素制御弁33を所定の一定開度に維持するように制御している。そのため、第2循環水経路17の圧力が所定の運転圧力に維持され、水における水素溶存量も所定量に維持される。
【0050】
この状態から、時間t11にて、発電装置12から固体高分子電解質膜22に供給される電流値が低下した場合、制御装置20は、第2循環ポンプ32の回転数を一定としたままで、水素制御弁33の開度を増加させる。すると、第2循環水経路17の圧力が運転圧力から低下することで、水に溶存していた水素が気化して水素ガスが発生し、水素溶存量が減少する。そのため、固体高分子電解質膜22による電気分解で生成される水素ガス量が減少するものの、水に溶存していた水素が気化して水素ガスが発生することから、水素取出経路19における水素取出圧力及び水素取得量が変動することはなく、所定量、所定圧の水素を継続して取得することができる。
【0051】
なお、発電装置12から固体高分子電解質膜22に供給される電流値が低下した場合、水素制御弁33の開度を一定としたままで、水排出弁36を開放してその開度を大きくしてもよい。この場合、第2循環水経路17の循環水が補助経路34を介してバッファタンク35に排出されることで、第2循環水経路17を減圧できる。
【0052】
そして、時間t12にて、発電装置12から固体高分子電解質膜22に供給される電流値が定常電流値に戻ったら、制御装置20は、水素制御弁33の開度を減少して元の一定開度まで戻す。すると、第2循環水経路17の圧力が運転圧力まで上昇することで、生成された水素ガスが水に溶存し、水素溶存量が増加する。そのため、所定量、所定圧の水素を継続して取得することができる。
【0053】
なお、発電装置12から固体高分子電解質膜22に供給される電流値が定常電流値に戻ったら、水素制御弁33の開度を一定としたままで、バッファタンク35の水を水循環経路17に戻すことで、圧力を上昇させてもよい。また、水素制御弁33の開度を一定としたままで、水供給弁44を開放してその開度を大きくしてもよい。この場合、第2循環水経路17へ水が第2水供給経路43を介して供給されることで、第2循環水経路17を昇圧できる。
【0054】
一方、時間t13にて、発電装置12から固体高分子電解質膜22に供給される電流値が増加した場合、制御装置20は、第2循環ポンプ32の回転数を一定としたままで、水素制御弁33の開度を減少させる。すると、第2循環水経路17の圧力が運転圧力から上昇することで、発生した水素ガスが水に更に溶存し、水素溶存量が増加する。そのため、固体高分子電解質膜22による電気分解で生成される水素ガス量が増加するものの、第2循環水経路17の圧力が増加して溶存可能な水素ガス量が増加することから、水素取出経路19における水素取出圧力及び水素取得量が変動することはなく、所定量、所定圧の水素を継続して取得することができる。このとき、上述したように、水素制御弁33の開度を一定とし、水供給弁44の開度を調整することで、第2循環水経路17に水を供給して圧力を上昇させてもよい。
【0055】
また、時間t14や時間t15にて、発電装置12から固体高分子電解質膜22に供給される電流値が低下したら、前述と同様に、制御装置20は、第2循環ポンプ32の回転数を一定としたままで、水素制御弁33の開度を増加させる。すると、第2循環水経路17の圧力が低下することで、水に溶存していた水素が気化して水素ガスが発生し、水素溶存量が減少する。そのため、固体高分子電解質膜22による電気分解で生成される水素ガス量が減少するものの、水に溶存していた水素が気化して水素ガスが発生することから、水素取出経路19における水素取出圧力及び水素取得量が変動することはなく、所定量、所定圧の水素を継続して取得することができる。このとき、上述したように、水素制御弁33の開度を一定とし、水排出弁36の開度を調整することで、第2循環水経路17から水を排出して圧力を低下させてもよい。
【0056】
このように本実施例の水電解装置にあっては、固体高分子電解質膜22によって内部が陽極側23と陰極側24に区画される水電解セル11と、固体高分子電解質膜22に対して電力を供給する発電装置12と、固体高分子電解質膜22の陰極側に水を循環供給する第2循環水経路17と、第2循環水経路17を流動する水から水素ガスを分離する第2気液分離タンク18と、分離された水素ガスを取り出す水素制御弁33を有する水素取出経路19と、第2循環水経路内17の圧力を調整する調圧手段と、発電装置12から固体高分子電解質膜22に供給される電力量に応じて水素制御弁33及び調圧手段を制御する制御装置20を設けている。
【0057】
従って、発電装置12により固体高分子電解質膜22に供給される電力量が変動すると、発生する水素ガス量が増減するものの、このとき、水素制御弁33または調圧手段を制御することで、第2循環水経路17の圧力が上下し、水に溶存する水素量が増加または減少して気化する水素ガス量が増減する。そのため、結果として、水素取出経路19から取り出される水素ガス量が一定となり、安定した水素ガスの生成を可能とすることができ、水素生成効率を向上することができる。
【0058】
また、本実施例の水電解装置では、調圧手段を、第2循環水経路17内に水を供給する第2水供給経路43及び第2水供給弁44としている。従って、固体高分子電解質膜22に供給される電力量が変動すると、第2水供給弁44を開放し、第2水供給経路43により第2循環水経路17の水を供給して加圧することで、水素ガス量を増減させることとなり、水素取出経路19により取り出す水素ガス量を一定とでき、安定した水素ガスの生成を可能とすることができる。
【0059】
また、本実施例の水電解装置では、調圧手段を、第2循環水経路17内から水を排出する補助経路(水排出経路)34及び水排出弁36としている。従って、固体高分子電解質膜22に供給される電力量が変動すると、水排出弁36を開放し、補助経路34により第2循環水経路17の水をバッファタンク35に排出して減圧することで、水素ガス量を増減させることとなり、水素取出経路19により取り出す水素ガス量を一定とでき、安定した水素ガスの生成を可能とすることができる。また、既存の設備により第2循環水経路12内での圧力を容易に調整することができ、高コスト化を抑制することができ、また、信頼性の高い圧力調整が可能となり、また、安定的な水素ガスの供給を可能とすることができる。
【0060】
また、本実施例の水電解装置では、第2気液分離装置80に水素取出経路17を連結し、この水素取出経路17に水素制御弁33を設け、この水素制御弁33を加圧手段として機能させ、制御装置20は、発電装置12から固体高分子電解質膜22に供給される電力量に応じて水素制御弁33の開度を調整する。従って、固体高分子電解質膜22に供給される電力量が変動すると、水素制御弁33の開度を開放側または閉止側に調整することで、第2循環水経路17内の圧力が増減し、気化する水素ガス量が増減することとなり、水素取出経路33から取り出される水素ガス量が一定となり、安定した水素ガスの生成を可能とすることができる。
【0061】
また、本実施例の水電解装置では、制御装置20は、第2循環水経路17内の水における水素溶存量を飽和水素量としてから水素制御弁33により水素取出経路19を開放する。従って、装置の稼動中は、第2循環水経路17内の水における水素溶存量を飽和水素量に維持することで、固体高分子電解質膜22に供給される電力量が変動したとき、水における水素溶存量、つまり、気化する水素ガス量を早期に調整することができ、制御の迅速化を可能とすることができる。
【0062】
また、本実施例の水電解装置では、発電装置12を、自然エネルギによって得られた電力を供給する自然エネルギ供給装置としている。従って、地球環境に対して悪影響を与えることなく、水素ガスを生成することができる。
【0063】
この場合、第2循環水経路17の圧力が低下したときには、水に溶存していた水素が気化して水素ガスが発生し、水素溶存量が減少するため、固体高分子電解質膜22による電気分解で生成される水素ガス量が減少するものの、水に溶存していた水素が気化して水素ガスが発生する。一方、第2循環水経路17の圧力が上昇したときには、発生した水素ガスが水に溶存し、水素溶存量が増加するため、固体高分子電解質膜22による電気分解で生成される水素ガス量が増加するものの、水に溶存可能な水素ガス量が増加する。そのため、水素取出経路19における水素取出圧力及び水素取得量が変動することはなく、所定量、所定圧の水素ガスを継続して取得することができる。
【0064】
なお、水素溶存手段として、超音波発信器を設け、この超音波発信器により陰極側24内の水、または第2循環水経路17内の水や水素ガスに対して、超音波を発信して振動させることで、発生した水素ガスを水に溶存させるようにしてもよい。また、水素溶存手段として、高電圧装置を設け、この高電圧装置により固体高分子電解質膜に対して高電圧を印加することで、水素ガスの気泡を非常に微細なマイクロバルーンとし、発生した水素ガスを水に溶存させるようにしてもよい。
【0065】
また、上述の実施例では、発電装置12を、自然エネルギによって得られた電力を供給する自然エネルギ供給装置としたが、この構成に限るものではなく、人工的に得られるエネルギに得られた電力を供給する電力供給装置としてもよい。このような電力供給装置であっても、発電量が変動する可能性があり、本発明の水電解装置に有効である。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明に係る水電解装置は、固体高分子電解質膜への供給電力に応じて水素取出手段及び調圧手段を制御することで、安定した水素ガスの生成を可能とするものであり、いずれの水電解装置にも適用することができる。
【符号の説明】
【0067】
11 水電解セル
12 発電装置(電力供給装置)
13 充電装置
14 第1循環水経路
15 第1気液分離タンク(酸素分離手段)
16 酸素取出経路
17 第2循環水経路
18 第2気液分離タンク(水素分離手段)
19 水素取出経路(水素取出手段)
20 制御装置(制御手段)
22 固体高分子電解質膜
23 陽極側
24 陰極側
31 第1循環ポンプ
32 第2循環ポンプ
33 水素制御弁(水素取出手段)
36 水排出弁(調圧手段)
41 第1水供給経路(調圧手段)
42 第1水供給弁(調圧手段)
43 第2水供給経路(調圧手段)
44 第2水供給弁(調圧手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子電解質膜によって内部が陽極側と陰極側とに区画される水電解セルと、
前記固体高分子電解質膜に対して電力を供給する電力供給装置と、
前記陽極側の固体高分子電解質膜側に水を循環供給する第1循環水経路と、
前記陰極側の固体高分子電解質膜側に水を循環供給する第2循環水経路と、
該第2循環水経路を流動する水から水素ガスを分離する水素分離手段と、
該水素分離手段により分離された水素ガスを前記第2循環水経路から取り出す水素取出手段と、
前記第2循環水経路内の圧力を調整する調圧手段と、
前記電力供給装置から前記固体高分子電解質膜に供給される電力量に応じて前記水素取出手段及び前記調圧手段を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする水電解装置。
【請求項2】
前記調圧手段は、前記第2循環水経路内に水を供給する第2水供給経路を有することを特徴とする請求項1に記載の水電解装置。
【請求項3】
前記調圧手段は、前記第2循環水経路内から水を排出する水排出経路を有することを特徴とする請求項1に記載の水電解装置。
【請求項4】
前記水素取出手段は、水素分離手段に連結された水素取出経路と、該水素取出経路に設けられた水素制御弁とを有し、前記制御手段は、前記電力供給装置から前記固体高分子電解質膜に供給される電力量に応じて前記水素制御弁の開度を調整することを特徴とする請求項1に記載の水電解装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記陰極側水循環経路内の水における水素溶存量を飽和水素量としてから前記水素取出手段を稼動することを特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載の水電解装置。
【請求項6】
前記電力供給装置は、自然エネルギによって得られた電力を供給する自然エネルギ供給装置を有することを特徴とする請求項1から5のいずれか一つに記載の水電解装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−6769(P2011−6769A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−154297(P2009−154297)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】