説明

永久磁石用接着剤、永久磁石用接着シート及び永久磁石の接着方法

【課題】残留溶剤がなく耐薬品性、耐水性及び耐油性に優れ、簡単な工程で永久磁石を接着できる永久磁石用接着剤を提供する。
【解決手段】永久磁石用接着剤3は酸変性ポリオレフィンから成る。永久磁石用接着剤3は永久磁石2上に載置されて加熱により溶融して永久磁石2に密着する。永久磁石2は永久磁石用接着剤3を介して被接着物7上に載置され、加熱により溶融して永久磁石2及び被接着物7に密着する。そして、降温により酸変性ポリオレフィンが硬化して永久磁石2と被接着物7とが接着される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、永久磁石を被接着物に接着する永久磁石用接着剤、永久磁石用接着シート及び永久磁石の接着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モータのロータ等に接着される永久磁石の接着には、従来反応型接着剤や粘着剤等が用いられる。反応型接着剤として2液混合型樹脂、熱硬化型樹脂、紫外線硬化型樹脂等が使用される。特許文献1に示されるように、永久磁石とロータ間に塗布された反応型接着剤は硬化剤と反応して硬化し、両者が接着される。
【0003】
また、粘着剤として、アクリル樹脂やエポキシ樹脂等を粘着層に有する両面粘着シート等が使用される。特許文献2に示されるように、粘着シートは永久磁石上に貼着され、剥離紙を剥離した後にブラケットが圧着される。これにより、両者が接着される。
【特許文献1】特開2001−115125号公報(第3頁−第6頁、第1図)
【特許文献2】特開平6―17011号公報(第3頁−第4頁、第7図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、永久磁石の接着に反応型接着剤を用いた場合は、塗布工程が必要となるため接着工程が煩雑になる。また、耐薬品性が低く、薬品を用いる環境で強度が劣化する問題がある。永久磁石の接着に粘着剤を用いた場合は、粘着層に溶剤成分が残留し、永久磁石やブラケットを浸食する問題がある。また、耐水性や耐油性が低く、長期間の使用で強度が劣化する問題がある。
【0005】
本発明は、残留溶剤がなく耐薬品性、耐水性及び耐油性に優れ、簡単な工程で永久磁石を接着できる永久磁石用接着剤、永久磁石用接着シート及び永久磁石の接着方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために本発明は、永久磁石を被接着物に接着する永久磁石用接着剤であって、熱溶融により永久磁石及び被接着物に密着され、降温により硬化される酸変性ポリオレフィンから成ることを特徴としている。
【0007】
また本発明は、上記構成の永久磁石用接着剤において、前記永久磁石が希土類磁石から成ることを特徴としている。
【0008】
また本発明の永久磁石用接着シートは、上記各構成の永久磁石用接着剤を接着層に有し、前記接着層を永久磁石及び被接着物の一方に密着した後に剥離される耐熱性樹脂から成る基材を前記接着層に積層したことを特徴としている。
【0009】
この構成によると、酸変性ポリオレフィンから成る接着層が永久磁石及び被接着物の一方に載置され、加熱により溶融した接着層が永久磁石または被接着物に密着すると基材が剥離される。これにより、接着層が永久磁石または被接着物上に転写される。その後、接着層上に他方が圧着され、接着層が常温に降温されると硬化して永久磁石と被接着物とが接着される。
【0010】
また本発明は、上記構成の永久磁石用接着シートにおいて、前記耐熱性樹脂がポリエチレンテレフタレートから成ることを特徴としている。
【0011】
また本発明は、上記構成の永久磁石用接着シートにおいて、前記基材上に同一形状の複数の前記接着層を所定間隔で配置したことを特徴としている。この構成によると、基材が所定間隔で送られ、例えば、複数の永久磁石に各接着層が順に転写される。
【0012】
また本発明は、永久磁石を被接着物に接着する永久磁石の接着方法において、永久磁石及び被接着物の一方の接着面に酸変性ポリオレフィンを熱溶融して密着し、他方に前記接着面を当接して降温により酸変性ポリオレフィンを硬化させることを特徴としている。
【0013】
また本発明は、上記構成の永久磁石の接着方法において、酸変性ポリオレフィンから成る接着層と耐熱性樹脂から成る基材とを積層した永久磁石用接着シートを、前記接着層が前記接着面に当接するように前記接着面上に載置し、前記接着層を加熱して前記接着面に前記接着層を密着させた後に前記基材を剥離したことを特徴としている。
【0014】
また本発明は、上記構成の永久磁石の接着方法において、前記耐熱性樹脂がポリエチレンテレフタレートから成ることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明の永久磁石用接着剤によると、永久磁石用接着剤が酸変性ポリオレフィンから成るので、熱融着により永久磁石を被接着物に簡単に接着することができる。また、酸変性ポリオレフィンは残留溶剤がなく永久磁石や被接着物の浸食を防止することができる。更に、耐薬品性、耐水性及び耐油性に優れるため、接着強度を長期間維持することができる。
【0016】
また本発明の永久磁石用接着剤によると、酸変性ポリオレフィンはエポキシ樹脂のように塩素の流出がなく、耐食性の低い希土類磁石の発錆を防止することができる。
【0017】
また本発明の永久磁石用接着シートによると、耐熱性樹脂から成る基材を酸変性ポリオレフィンから成る接着層に積層したので、接着層を簡単に熱溶融して永久磁石や被接着物に密着させることができる。
【0018】
また本発明の永久磁石用接着シートによると、耐熱性樹脂がポリエチレンテレフタレートから成るので、強度が高く、接着工程での取扱いが容易になる。
【0019】
また本発明の永久磁石用接着シートによると、基材上に同一形状の複数の接着層を所定間隔で配置したので、基材に送りを与えて複数の永久磁石または被接着物に対して簡単に接着層を転写することができる。
【0020】
また本発明の永久磁石の接着方法によると、永久磁石及び被接着物の一方の接着面に酸変性ポリオレフィンを熱溶融して密着し、他方に前記接着面を当接して降温により酸変性ポリオレフィンを硬化させるので、酸変性ポリオレフィンにより簡単に永久磁石と被接着物とを接着することができる。
【0021】
また本発明の永久磁石の接着方法によると、酸変性ポリオレフィンと耐熱性樹脂から成る基材を積層した永久磁石用接着シートを加熱し、接着面に酸変性ポリオレフィンを密着させた後に基材を剥離したので、酸変性ポリオレフィンを簡単に接着面に転写することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に本発明の実施形態を図面を参照して説明する。図1は永久磁石を搭載するモータを示す正面断面図である。モータ1は軸部6aを有するロータ6の外周にステータ4が配される。図2はロータ6を示す斜視図である。ロータ6はヨーク7の周方向に複数の永久磁石2が接着剤3により接着されている。また、ステータ4の内周面には永久磁石2に対峙するコイル5が設けられる。
【0023】
ヨーク7は鉄等の金属から成り、永久磁石2は希土類磁石やフェライト磁石等から成っている。希土類磁石としてNd−Fe−B等のR−Fe−B系や、Sm−Co等のR−Co系(Rは希土類元素)が用いられる。接着剤3は酸変性ポリプロピレン(PPa)から成っている。
【0024】
図3、図4は永久磁石2をヨーク7に接着するための接着シートを示す平面図及び断面図である。接着シート10はポリエチレンテレフタレート(PET)から成る基材11上に酸変性ポリプロピレン(PPa)から成る接着層12が積層されている。
【0025】
基材11は厚さ約50μmのテープ状に形成され、長手方向に所定の間隔Tで位置決め用孔10aが形成されている。接着層12は基材11上に間隔Tで複数配列され、各接着層12は同一形状に形成されている。尚、基材11及び接着層12を貫通する貫通孔を設けてもよい。貫通孔によって筒状の永久磁石と被接着物とを簡単に接着することができる。
【0026】
酸変性ポリプロピレンは加熱により溶融し、基材11上に溶融した酸変性ポリプロピレンがTダイ押出機で押出し塗布される。基材11上に塗布された酸変性ポリプロピレンは基材11とともにロールで挟み込んで送られる。これにより、厚みが約50μmの接着層12を容易に形成することができる。
【0027】
基材11上に接着層12を積層した後にプレス加工により打ち抜いて位置決め孔10aを容易に形成することができる。また、接着層12側からハーフカットして接着層12を所望の形状に形成することができる。接着層12の不要部分はロール等により巻き取って除去される。
【0028】
図5は接着シート10を用いて永久磁石2をヨーク7に接着する接着工程を示す図である。湾曲した永久磁石2は治具(不図示)に支持されてコンベア20上を送られる。接着シート10は供給ロール21に巻き付けられて送りロール22及び位置決めロール23により送られる。位置決めロール23にはピン23aが突設され、接着シート10の位置決め孔10aに嵌合して接着層12がヒータ24の下方に位置決めされる。この時、接着層12が基材11の下方に配されている。
【0029】
コンベア20によってヒータ24の下方に永久磁石2が位置決めされると、ヒータ24が降下して接着シート10が永久磁石2に押圧される。接着シート10はヒータ24によって加熱され、接着層12が溶融して永久磁石2に密着する。尚、基材11は耐熱性を有するため溶融しない。また、永久磁石2にヒータを接触し、永久磁石2の加熱により接着層12を溶融させてもよい。
【0030】
永久磁石2及び接着シート10はコンベヤ20、送りロール22及び位置決めロール23により一体に送られる。基材11は巻取ロール25により位置決めロール23から上方に巻き取られる。これにより、接着層12から基材11が剥離され、接着層12が永久磁石2に転写される。
【0031】
接着層12が転写された永久磁石2は、ヒータ26の下方に配されたヨーク7上に載置される。ヒータ26は降下して永久磁石2がヨーク7に押圧される。これにより、接着層12が溶融してヨーク7に密着する。接着層12は冷却されると硬化し、永久磁石2とヨーク7とが接着される。
【0032】
ヨーク7は回転して順次供給される複数の永久磁石2が同様に接着される。そして、永久磁石2が酸変性ポリプロピレンから成る接着剤3でヨーク7に接着されたロータ6(図2参照)が完成する。尚、ヨーク7に接着層12を転写した後に永久磁石2を接着してもよい。
【0033】
基材11は耐熱性を有する耐熱性樹脂であればよく、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリメチルペンテン(TPX(登録商標))、ポリアセタール(POM)、環状ポリオレフィン、ポリプロピレン(PP)等の無延伸または延伸フィルムを用いることができる。尚、ポリエチレンテレフタレートは安価で強度が強いため接着工程での取扱いが容易になるためより望ましい。また、基材11と接着層12との間に公知の剥離剤を設け、基材11と接着層12との間の剥離強度を調整してもよい。
【0034】
表1はフェライト磁石に対する酸変性ポリプロピレンの接着強度を測定した結果を示す図である。(a)60℃の乾燥状態、(b)60℃で湿度90%で保持した状態、(c)60℃で機械油に浸漬した状態でそれぞれ経時変化を測定している。
【0035】
【表1】

【0036】
試験片Sは図4に示すように、二軸延伸ナイロンフィルム(ONy)にアルミニウム(AL)を積層した基材上に酸変性ポリプロピレン(PPa)を積層した。これにより、基材と酸変性ポリプロピレンとの間の剥離を防止している。測定方法は、試験片Sをフェライト磁石Fに接着して50mm/minの速度で引張り試験を行った。接着時の条件は200℃に加熱し、1MPaの圧力で20秒間加圧している。
【0037】
表1に示すように、各条件で15mm幅当たり約30Nの高い接着強度を有している。また、接着強度の経時変化も殆ど発生せず耐水性及び耐油性を有している。
【0038】
尚、接着層12は酸変性ポリプロピレンに限られず、酸変性ポリオレフィンであれば同様の接着強度を保持することができる。また、酸変性ポリオレフィンは他の金属、樹脂、セラミックに対しても同様の接着強度を有するとともに、高い耐薬品性を有する。このため、希土類磁石やフェライト磁石等の永久磁石2を金属、樹脂、セラミック等から成る被接着物に対して高い接着強度で接着することができる。
【0039】
本実施形態によると、永久磁石2を接着する接着剤3が酸変性ポリオレフィンから成るので、熱融着により永久磁石2を金属、樹脂、セラミック等から成る被接着物に簡単に接着することができる。また、酸変性ポリオレフィンは残留溶剤がなく永久磁石2や被接着物の浸食を防止することができる。更に、耐薬品性、耐水性及び耐油性に優れるため、接着強度を長期間維持することができる。加えて、酸変性ポリオレフィンはエポキシ樹脂のように塩素の流出がなく、耐食性の低い希土類磁石の発錆を防止することができる。
【0040】
また、耐熱性樹脂から成る基材11を酸変性ポリオレフィンから成る接着層12に積層したシート状に形成されるので、接着層12から成る接着剤3を簡単に熱溶融して永久磁石2を被接着物に密着させることができる。
【0041】
また、基材11上に同一形状の複数の接着層12を所定間隔Tで配置したので、基材11に送りを与えて複数の永久磁石2に対して簡単に接着層12を転写することができる。また、接着シート12に位置決め孔11aを設けることにより、基材11を所定の間隔Tで簡単に位置決めすることができる。
【0042】
尚、永久磁石2及び被接着物の一方に酸変性ポリオレフィンを押し出し、その上に他方を載置して加熱してもよい。これにより、接着剤3をシート状に形成する必要がなく、基材11も不要にできる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によると、永久磁石をヨーク等に接着するモータ、スピーカ等の工業製品に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施形態の永久磁石用接着剤により接着される永久磁石を備えたモータを示す正面断面図
【図2】本発明の実施形態の永久磁石用接着剤により接着される永久磁石を備えたモータのロータを示す斜視図
【図3】本発明の実施形態の永久磁石用接着シートを示す平面図
【図4】本発明の実施形態の永久磁石用接着シートを示す断面図
【図5】本発明の実施形態の永久磁石用接着剤による被接着物の接着工程を示す概略図
【図6】本発明の実施形態の永久磁石用接着剤の接着強度の測定方法を示す図
【符号の説明】
【0045】
1 モータ
2 永久磁石
3 接着剤
4 ステータ
5 コイル
6 ロータ
7 ヨーク
10 接着シート
10a 位置決め孔
11 基材
12 接着層
20 コンベア
21 供給ローラ
22 送りローラ
23 位置決めローラ
24 ヒータ
25 巻取ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
永久磁石を被接着物に接着する永久磁石用接着剤であって、熱溶融により永久磁石及び被接着物に密着され、降温により硬化される酸変性ポリオレフィンから成ることを特徴とする永久磁石用接着剤。
【請求項2】
前記永久磁石が希土類磁石から成ることを特徴とする請求項1に記載の永久磁石用接着剤。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の永久磁石用接着剤を接着層に有し、前記接着層を永久磁石及び被接着物の一方に密着した後に剥離される耐熱性樹脂から成る基材を前記接着層に積層したことを特徴とする永久磁石用接着シート。
【請求項4】
前記耐熱性樹脂がポリエチレンテレフタレートから成ることを特徴とする請求項3に記載の永久磁石用接着シート。
【請求項5】
前記基材上に同一形状の複数の前記接着層を所定間隔で配置したことを特徴とする請求項3または請求項4に記載の永久磁石用接着シート。
【請求項6】
永久磁石を被接着物に接着する永久磁石の接着方法において、永久磁石及び被接着物の一方の接着面に酸変性ポリオレフィンを熱溶融して密着し、他方に前記接着面を当接して降温により酸変性ポリオレフィンを硬化させることを特徴とする永久磁石の接着方法。
【請求項7】
酸変性ポリオレフィンから成る接着層と耐熱性樹脂から成る基材とを積層した永久磁石用接着シートを、前記接着層が前記接着面に当接するように前記接着面上に載置し、前記接着層を加熱して前記接着面に前記接着層を密着させた後に前記基材を剥離したことを特徴とする請求項6に記載の永久磁石の接着方法。
【請求項8】
前記耐熱性樹脂がポリエチレンテレフタレートから成ることを特徴とする請求項7に記載の永久磁石の接着方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−262342(P2007−262342A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−92625(P2006−92625)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】