説明

汚染土壌の浄化効果の評価方法

【課題】本発明は,地盤の通水特性を定量的に評価する方法を開発し、原位置土壌洗浄法の設計(注入孔、揚水孔の位置・本数・分布等の決定)に役立てることを目的としたものである。
【解決手段】電流供給装置に電気的に接続された一対の電流電極と電圧測定装置に電気的に接続された複数の電位電極を有し、該一対の電流電極と該複数の電位電極を地表面に設置し、電流供給装置から一方の電流電極、地盤、他方の電流電極の順になるように電流を流し、電位電極間の電位差から比抵抗を求め、地中への通水前後の比抵抗変化から地中の通水特性を推定することを特徴とする汚染土壌の浄化効果の評価方法により上記課題を解決することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原位置において汚染地盤の土壌浄化を行う場合の浄化効果を定量的に評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、都市部や市街地に立地していた工場跡地等における重金属や揮発性有機化合物等の有害物質による土壌汚染事例の判明件数の増加が著しい。これらの有害物質を放置すれば人の健康に重大な影響が及ぶことが懸念されるため、平成14年、土壌汚染対策法が制定された。かかる背景の下、技術的、経済的又は社会的諸条件に見合うべく多くの土壌汚染対策の方法が提案又は実施されてきているところである。これらの方法については、汚染土壌を原位置から移動させて浄化処理施設まで搬送し該浄化処理施設内で処理する方法と、汚染土壌を移動させないで原位置で処理する方法とに大別することができる。
【0003】
汚染土壌を移動させて処理する方法には、汚染された土壌を掘削し、清浄な土壌と入れ替え、汚染された土壌を最終処分場に搬出する方法や、掘削した汚染土壌を焼却処理あるいは、浄化処理施設により洗浄する方法などがある。他方、土壌を移動させないで原位置で処理する方法は、汚染区域内に注入孔と揚水孔を掘削し、該注入孔から水又は洗浄液を注入し、他方で該揚水孔から地下水を揚水して人為的に地下水流を発生させ、汚染区域を洗浄浄化する方法であり、この地下水流に汚染物質を捕捉、輸送させようとするものである。最後に、前記揚水孔から揚水した汚染物質を含んだ地下水を専用の施設にて処理する方法である(例えば特許文献1参照。)。
【特許文献1】特許第3232494号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記原位置で汚染土壌を洗浄処理する方法は、対象地盤の性質や該地盤中の汚染物質の濃度等についてある程度の事前調査が行われているとしても、注入孔から注入した水または洗浄液の浸透域や揚水孔から揚水したときの揚水域などの通水特性を予め定量的に把握することが困難であり、これらの効果は実際に実施して見なければ分からない事が多い。すなわち、注入、揚水孔の位置や規模、さらには本数等を決めるのは殆ど経験に頼っているのが実情であり、実施してみて始めてその効果が判明することが多い。このため効率よく浄化効果を得ることには困難を伴った。
【0005】
したがって、本発明は,地盤の通水特性を定量的に評価する方法を開発し、原位置土壌洗浄法の設計(注入孔、揚水孔の位置・本数・分布等の決定)に役立てることを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は,原位置において汚染地盤の洗浄浄化を行うにあたり、電流供給装置に電気的に接続された一対の電流電極と電圧測定装置に電気的に接続された複数の電位電極を有し、該一対の電流電極と該複数の電位電極を地表面に設置し、電流供給装置から一方の電流電極、地盤、他方の電流電極の順になるように電流を流し、電位電極間の電位差から比抵抗を求め、地中への通水前後の比抵抗変化から地中の通水特性を推定することを特徴とする汚染土壌の浄化効果の評価方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると,原位置での汚染土壌の洗浄処理を実施した場合の対象地盤の通水特性を予め定量的に把握できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1は本発明において用いる比抵抗法の原理を説明する図の例であり、地表面1に一対の電流電極C1、C2を設置すると共に、電流電極C1、C2とは離して一対の電位電極P1、P2を地表面1に設置する。2は電流計、3は電圧計である。電流電極C1、C2から直流電流を流し、電圧計3により一対の電位電極P1、P2間の電位差を測定する。大地(地盤)が均質であるとしたとき、流した電流Iと測定される電位差Vとから、大地の比抵抗ρは次式により求められる。
ρ=K・V/I
ここでKは電極配置(ウエンナー配置、シュランベルジャー配置、ダイポール・ダイポール配置等がある)によって決まる係数である。実際は大地は不均質であるため上式により求められる比抵抗は大地の真の比抵抗とはならず、従って上式から求められる比抵抗は見掛比抵抗と呼ばれる(以下、見掛比抵抗を単に比抵抗という)。
【0009】
従って、測定の結果に基づいて取得される比抵抗データを解析すれば地中の比抵抗分布を求めることができる。上記の原理説明においては説明を用意にする為に電流電極と電位電極は別の場合を例示したが、兼用することもできる。細かく電位差を測定できる点においては電流電極と電位電極は兼用しないほうが好ましい。
【0010】
図2は、本発明に好ましく用いる探査装置の略図である。切換え器4から例えばケーブルを介して、それぞれ1個の棒状電極が電気的に接続されている。「電気的に接続」とは、電気に対して良導体を用いた導線、具体的にはケーブルを用いて接続するのが一般的であるが、電流供給装置から発生する電流を十分に電流電極に伝えられる方法及び材料を用いた接続方法であればケーブルに限定されるものではない。ケーブルAには棒状電極Dが接続され、同様にケーブルA2、A3、A4、・・・にはそれぞれ棒状電極D2、D3、D4、・・・が接続されている。多数の電極を有する探査装置を用いると後述のように電流電極と電位電極の組み合わせを容易に、迅速に且つ任意に選択できるので効率的な評価作業が実施できる点で好ましい。各棒状電極間の距離は好ましくは等間隔となるよう配置され、各棒状電極間の距離は任意に設定できるが、例えば1m間隔という距離が採用される。ケーブルAは、切換え器4に接続され、また、電流供給装置としての送信器5と電圧測定装置としての受信器6とも接続されている。送信器5は電流電極に直流電流を供給するものであり、また受信器6は電位電極間の電位差を測定するものである。ケーブルA1、A2、A3、・・・はそれぞれ切換え器4を介して送信器5または受信器6に接続されており、切換え器4によってケーブルA1、A2、A3、・・・のそれぞれを送信器5に接続したり或いは受信器6に接続したりすることができるようになっている。棒状電極D1、D2、D3、・・・は地盤との電気的な接触状態が良く、設置面積が大きく、接地抵抗が小さいものが望ましく、鉄、金、銀、銅、白金等の金属や合金、またはこれらをコーティングした導電性材料を使用することができる。各棒状電極D1、D2、D3、・・・は、探査の対象地である測定場所に設置され、僅かに地表面1から突出する形で地中に設置される。電流は直流電流を流すのではなく、直流とみなせる長い周期で電源の極性を切換えて矩形波(交替直流)を流す。これは分極を防ぐためであり、具体的には2.5Hz以下の低周波数の交流を流すことが好ましい。
【0011】
通水特性の測定は、例えば以下の手法により測定する。電流電極C1、C2に対応する電極が接続されたケーブルA1とA4を切換え器4を介して送信器5に接続し、電位電極P1、P2に対応する電極が接続されたケーブルA2、A3を切換え器4を介して受信器6に接続する。これにより、図1に示したとおり、棒状電極D1、D4は電流電極となり、D2、D3は電位電極となる。送信器5より電流を供給し、棒状電極D1、D4より地中に電流を流し、棒状電極D2、D3間の電位差を受信器6にて計測する。この電位差の測定により比抵抗が求めることができる。以下、電流電極と電位電極との組み合わせを変化させて、同時に各電極間の距離を順次変化させて、接続を順次切換えて、逐次測定を行い、測線方向ならびに深度方向における2次元の比抵抗分布を求めることができる。図3に示すように1つの測線7による測定が終了したら、他の測線7の測定を順次行っていき、該測線における2次元比抵抗分布を求めることができる。該操作を繰り返し実施することで、対象地盤8の3次元の比抵抗を求めることができる。更にこれを対象地盤8に通水する前後に測定を行うことで通水前後の3次元の比抵抗を求めることができ、通水前後の比抵抗の変化から対象地盤8の通水特性の評価が可能になる。
【0012】
また、対象地盤中に電解質水溶液を注入すると地盤の比抵抗が低下する。用いる電解質水溶液としては、比抵抗が低下するものであれば、特に限定されず、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の任意の電解質水溶液を用いることができるが、地盤中に注入しても無害な塩化ナトリウムが好ましい。電解質水溶液の注入方法は制限されるものではないが、薬液注入工法の単管注入工法などを用いることができる。電解質水溶液を注入したときの地盤中の比抵抗分布を測定し、注入前後の比抵抗と比較すると、電解質水溶液の存在する領域では、比抵抗が低下するため、この変化を捉えることにより、地盤内の電解質水溶液の存在状況を確認することができる。すなわち、地盤の通水特性をより詳細に把握することができる。
【0013】
図4に示すように、比抵抗分布の一例によれば、比抵抗領域9が最も比抵抗の変化率が大きいため、電解質溶液が存在している領域、通水しやすい領域と推定できる。また、比抵抗領域10は比抵抗変化率が小さいため、通水しにくい領域と推定できる。したがって、図4の結果から、各位置での通水特性を定量的に評価することができる。
【産業上の利用可能性】
【0014】
本発明によると,原位置での汚染土壌の洗浄処理を実施した場合の対象地盤の通水特性を予め定量的に把握できる。したがって、この計測結果を基にして,注入、揚水孔の規模・本数・配置等を決定することができ、従来の経験に頼っていた原位置での汚染土壌の洗浄浄化を成果の確実な方法に改変することができる。具体的には通水特性を定量的に評価できることで汚染土壌の浄化を行う際に、例えば通水しにくい領域には注入孔となる井戸の数を多く、又は井戸の径を大きくすること等が好ましい。逆に通水しやすい領域はこの逆の措置を取ることにより原位置土壌洗浄法の設計に大いに役立てることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明において用いる比抵抗法の原理を説明する図である。
【図2】探査装置を用いて比抵抗分布を求める測定方法を説明する図である。
【図3】3次元の比抵抗分布を求める測定方法を説明する図である。
【図4】比抵抗変化率の一例を示す略図である。
【符号の説明】
【0016】
1 地表面
2 電流計
3 電圧計
C1、C2 電流電極
P1、P2 電位電極
A1、A2、A3、A4、・・・ ケーブル
D1、D2、D3、D4、・・・ 棒状電極
4 切換え器
5 送信器
6 受信器
7 測線
8 測定対象範囲(対象地盤)
9、10 比抵抗領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電流供給装置に電気的に接続された一対の電流電極と電圧測定装置に電気的に接続された複数の電位電極を有し、該一対の電流電極と該複数の電位電極を地表面に設置し、電流供給装置から一方の電流電極、地盤、他方の電流電極の順になるように電流を流し、電位電極間の電位差から比抵抗を求め、地中への通水前後の比抵抗変化から地中の通水特性を推定することを特徴とする汚染土壌の浄化効果の評価方法。
【請求項2】
地盤内に電解質水溶液を注入し、該地盤内の比抵抗を低下させることにより比抵抗の変化を測定することを特徴とする請求項1記載の汚染土壌の浄化効果の評価方法。
【請求項3】
電流電極と電位電極の組み合わせを順次変化させながら、電位差の測定を行うことを特徴とする請求項1又は2記載の汚染土壌の浄化効果の評価方法。
【請求項4】
電極間距離を順次変化させながら電位差の測定を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の汚染土壌の浄化効果の評価方法。
【請求項5】
多数の電極を有する探査装置を用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の汚染土壌の浄化効果の評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−98300(P2007−98300A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−292293(P2005−292293)
【出願日】平成17年10月5日(2005.10.5)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】