説明

汚染水中のヒ素除去法およびヒ素除去処理剤

【課題】水アトマイズ法によって製造される高密度で安価な鉄を主たる構成素材として利用し、被処理水中に含まれるヒ素を効率よく安価に除去することのできる方法とヒ素除去処理剤を提供すること。
【解決手段】ヒ素に汚染された水中のヒ素を除去する方法であって、S含量が0.3〜5質量%である水アトマイズ鉄粉、またはS含量が0.3〜5質量%で且つMn含量が0.1〜10質量%である水アトマイズ鉄粉を使用し、その表面に形成される鉄の酸化物および/または水酸化物に、水中のヒ素を吸着させて除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒ素に汚染された地下水や河川水、湖沼水、各種排水などからヒ素を効率よく除去する方法と、これに用いるヒ素除去処理剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、地下水や河川、湖沼水、更には各種工業排水などに含まれる汚染物質としてヒ素(As)が注目されている。即ち、ヒ素は発がん性を有し、長期的には慢性中毒を引き起こすことから、水質基準においてもヒ素濃度は必須の検査項目となっており、水道法によるヒ素濃度の水質基準値は0.01mg/L以下とされている。従って、被処理水中のヒ素濃度がこれを超える場合は、水中からヒ素を除去する必要がある。
【0003】
ヒ素の代表的な除去法としては、凝集共沈法と吸着法が知られており、凝集沈殿法では、汚染水にアルミニウム塩や鉄塩などの無機質凝集剤を添加した後、pH調整して金属水酸化物の凝集フロックを沈殿させる際に、該フロックにヒ素を取り込んで共沈させて分離する方法が採用される。また吸着法は、ヒ素を含む被処理水を吸着材に接触させて吸着除去する方法であり、吸着材としては活性炭、活性アルミナ、ゼオライト、チタン酸、ジルコニウム水和物などが使用される。
【0004】
しかし凝集沈殿法は、ヒ素濃度によってはその処理に多量の凝集剤を必要とし、しかも、生成するヒ素含有スラッジは嵩高いアモルファス状であるため沈降させるのに大掛かりな設備と長時間を要する他、多量に生成するスラッジの処理が煩雑で手数を要する。また吸着材を使用する方法は、吸着材を選択することで優れた除去効果を得ることができるが、その様な吸着材は概して高価であり、吸着量が飽和する毎に行なう脱着処理や吸着材の交換などを含めた処理コストはかなり高くつく。吸着材として鉄粉を使用する方法もあるが、通常の鉄粉はヒ素除去性能が不十分であり、満足のいくヒ素除去効果は得られない。従って、吸着材を使用するにしても極力安価な素材でヒ素を効率よく除去することのできる技術の開発が望まれる。
【0005】
また特許文献1には、共沈法によって生成する金属水酸化物とヒ素からなる凝集フロックを限外濾過膜や精密濾過膜で分離する方法が開示されている。しかしこの方法も、スラッジの処理に難渋する点では上記凝集沈殿法と本質的に変わりがない。
【0006】
他方、特許文献2には、適量のP,SまたはBを含む有害物除去処理用の鉄粉が開示されている。この特許文献2では、鉄粉中に適量のP,SまたはBを含有させると被処理水への鉄の溶出速度が高められ、被処理水中のリン化合物や重金属、有機塩素化合物などの有害物を効率よく除去できると記載されている。
【0007】
しかしこの特許文献2には、ヒ素の除去については触れられておらず、また本発明者らが確認したところによると、ヒ素に対する除去効果は乏しい。
【0008】
また特許文献3には、汚染物質として有機ハロゲン化合物や重金属、ヒ素などを含む被処理水の浄化に、S(硫黄)を含む還元性の海綿鉄を使用し、有機ハロゲン化合物を還元して脱ハロゲン化し、或いは重金属を還元して不溶化する技術が開示されている。
【0009】
この方法は、汚染物の処理素材として比較的嵩密度の高い海綿鉄を使用することから、生成するヒ素含有スラッジも相対的に高密度で分離も容易であり、しかも海綿鉄は前掲の吸着材に較べると比較的廉価であることから、工業的にも有用な方法と考えられる。
【0010】
しかし海綿鉄は、追って詳述する如く、水アトマイズ法などによって製造される通常の鉄粉に較べると高価であるため、工業的規模での汎用化を進めていくには更なる改善が求められる。
【特許文献1】特開平8−206663号公報
【特許文献2】特開2000−80401号公報
【特許文献3】特開2004−331996号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、水アトマイズ法によって製造される高密度で安価な鉄を主たる構成素材として利用し、被処理水中に含まれるヒ素を効率よく安価に除去することのできる方法を開発すると共に、該処理に使用される有用なヒ素除去処理剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決することのできた本発明に係るヒ素の除去法とは、ヒ素に汚染された水中のヒ素を除去する方法であって、S含量が0.3〜5質量%、より好ましくは0.6〜5質量%である水アトマイズ鉄粉、又は、これらと同量のSを含有すると共に、Mn含量が0.1〜10質量%である水アトマイズ鉄粉の表面に形成される鉄の酸化物および/または水酸化物に、水中のヒ素を吸着させて除去するところに特徴を有している。
【0013】
また本発明の他の構成は、ヒ素に汚染された水中のヒ素を除去するための除去処理剤であって、S含量が0.3〜5質量%、より好ましくは0.6〜5質量%である水アトマイズ鉄粉、又は、これらと同量のSを含有すると共に、Mn含量が0.1〜10質量%である水アトマイズ鉄粉の表面が、鉄の酸化物および/または水酸化物で被覆されているところに特徴を有している。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、適量のS(またはSとMn)を含む水アトマイズ鉄粉を使用し、その表面に形成される鉄の酸化物および/または水酸化物のヒ素吸着能を利用することで、被処理水中のヒ素を効率よく吸着除去できる。殊に、水アトマイズ法によって製造された高密度の鉄粉を使用することで、海綿鉄に較べて処理剤としてのコストを一段と低減できる他、ヒ素吸着後の処理剤の密度も相対的に高くなるため、ヒ素吸着物の回収やその後の分離などの処理作業性も高められるなど、実操業上多くの利益を享受できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明では、上記の様にヒ素除去用のベース素材として水アトマイズ鉄粉を使用する。
【0016】
ところで、鉄粉が水中でその表面から徐々にイオン化して水に不溶性の鉄塩を生成し、被処理水中のヒ素を取り込んで共沈することは知られている。しかし、被処理水中の鉄粉表面で起こる鉄のイオン化は極わずかであり、このイオン化だけで満足のいくヒ素除去効果を得ることはできない。そのため従来技術では、前述した如く硫酸鉄や塩化鉄などの鉄塩を使用することで不溶性鉄塩の生成を加速し、ヒ素の共沈除去効率を高めている。
【0017】
しかしこの方法では、処理剤として高価な鉄塩の使用によるコストアップが実用上の問題となるばかりか、生成する共沈物がアモルファスで嵩高いものであることから、その分離・回収に難渋することは先に説明した通りである。
【0018】
また、鉄粉を吸着材として使用する方法では、水中で鉄粉の表面に形成される水酸化鉄がヒ素の吸着に利用される。しかし、上記の様に通常の鉄粉のヒ素除去性能が十分でないのは、水中で鉄粉表面に形成される水酸化鉄が比較的安定な不働態皮膜となって安定化しており、表面の水酸化鉄がヒ素の吸着に消費されてしまうと、それ以上にヒ素の吸着が進まなくなるためと思われる。
【0019】
そこで本発明者らは、上記の様な鉄塩を使用するのではなく、安価で且つ高密度の水アトマイズ鉄粉をそのまま使用し、且つ表面に酸化鉄や水酸化鉄が生成した場合でもヒ素を効率よく除去できる様にすることはできないかと考え、その線に沿って研究を重ねてきた。そして、硫黄(S)含量または硫化マンガン(MnS)含量の高い鉄粉は赤錆を生じ易いという事実に着目し、SやMn含量の高い水アトマイズ鉄粉の使用を試みた。
【0020】
その結果、所定量のSを含む水アトマイズ鉄粉、もしくは所定量のSとMnを含む水アトマイズ鉄粉を使用すれば、鉄粉中に含まれるSもしくはSとMnの作用で鉄粉表面の酸化が加速され、該鉄粉表面で急速に生成、成長する鉄の酸化物および/または水酸化物によってヒ素吸着サイトが急速に拡大し、それに伴ってヒ素の吸着除去が極めて効率よく進行することを知った。
【0021】
ちなみに、実際にS含量とMn含量の高い水アトマイズ鉄粉のヒ素吸着前後の比表面積を測定したところ、後記実験例でも明らかにする如く、ヒ素吸着前のS含有水アトマイズ鉄粉(S含量;1.0質量%)の比表面積は従来鉄粉(S含量;0.02質量%)の比表面積の1/3であったにもかかわらず、ヒ素吸着後の比表面積を比較すると、従来の鉄粉ではヒ素吸着前の約10倍に増加していたのに対し、S(またはSとMn)を含む水アトマイズ鉄粉ではヒ素吸着前の約40倍にも増加していることが確認された。
【0022】
従って、本発明における最大の特徴は、前述した如く被処理水中に含まれるヒ素を除去するための吸着材として、S(またはS+Mn)含量の高い水アトマイズ鉄粉を使用し、該SやMnの作用で水アトマイズ鉄粉表面での生成が著しく加速される鉄の酸化物および/または水酸化物によって、被処理水中のヒ素を吸着除去するところに特徴を有している。
【0023】
この際、周知の通り鉄酸化物は、酸化の進行と共にFeO→Fe→Feと変化し、また水中では、これら鉄酸化物が例えばFeO(OH)で示される酸化水酸化鉄に変化し、それに伴って水アトマイズ鉄粉表面の吸着サイトは急速に拡大していく。従って、表面にこれらの酸化物や水酸化物が生成した水アトマイズ鉄粉を被処理水に接触させると、被処理水中のヒ素は、鉄粉表面の酸化鉄や水酸化鉄に効率よく捕捉除去されるのである。
【0024】
水アトマイズ鉄粉に含まれるSによって表面の鉄が次々に酸化鉄や水酸化鉄に変化していくメカニズムは、現在のところ完全に解明している訳ではないが、恐らく、Sの多くは鉄粉の表面に鉄化合物(FeS)として存在し、またSとMnが含まれる場合、これらは殆どがMnSとして存在し、該FeSやMnSとFeとの間の電位差による局部電池作用によりFeSやMnSの周辺がアノードとなり、周辺部の鉄の酸化が促進されるためと考えている。
【0025】
ところでSは製鉄原料である鉄鉱石中に多量含まれており、鉄鋼素材の物性に顕著な悪影響を及ぼすことから、製鉄、製鋼工程で可能な限り除去されるが、完全に除去することはできず、0.01質量%程度は不可避的に残存してくる。またSは、鉄鋼鋳塊内で偏析を起こし易い元素であり、局部的には平均S含量の3〜4倍の高S領域が存在する鉄鋼材も少なくない。そして該高S領域では、脆弱で低融点の硫化鉄(FeS)が結晶粒界に析出し、熱間加工時に1050℃付近で赤熱脆化を起こす原因になる。そのため通常の鉄鋼材料では、脱硫処理によってS含量を多くとも0.04質量%程度以下、平均的には0.01質量%程度以下に低減している。また、こうした赤熱脆性を防止するため、鉄中のMn/S比が2以上となる様にMnを添加し、FeSを高融点で粘性の高いMnSに変えることも試みられている。
【0026】
しかし、この様な従来レベルのS含量では、本発明で意図する様な酸化促進効果は期待できず、本発明の上記効果を発揮させるには、鉄粉のS含量を少なくとも0.3質量%以上に高めることが必須となる。より好ましいS含量は0.6質量%以上、更に好ましくは1.0質量%以上である。またMnの添加効果を有効に発揮させるには、少なくとも0.1質量%以上含有させることが必要であり、好ましくは2質量%以上添加するのがよい。SやMnの含有量が高ければ高いほど鉄粉表面の酸化促進能は高まり、ヒ素吸着能は向上するが、SやMnの量が過度に多くなると、水アトマイズ法によって鉄粉を製造する際に、多量のタール状物質(スカム)が生成して溶鉄吐出ノズルを閉塞し、水アトマイズ鉄粉の生産性が著しく害される。従って水アトマイズ鉄粉中のS含量は、製造上の制約から5質量%以下、より好ましくは3質量%以下に抑えるのがよい。また、Mn含量は10質量%以下、より好ましくは6質量%以下に抑えるのがよい。
【0027】
なおSは、前にも説明した如く鉄鉱石原料に由来して不可避的に混入してくる有害元素とされており、製鉄・製鋼工程ではS除去のための脱硫処理が不可欠の工程として実施される。そのため、通常の水アトマイズ鉄粉に含まれるS含量は不可避不純物量である0.02質量%程度以下に抑えられている。しかし本発明では、従来では嫌われるSを、表面酸化促進のための有効成分として積極的に活用するため、S含量を増量する必要がある。
【0028】
従って本発明で有用なS含有鉄を製造する際には、製鉄・製鋼工程で行なわれる脱硫を軽度に抑えてS含量を高めることも不可能ではないが、通常の製鉄・製鋼工場では脱硫工程を含めた一連の製鉄・製鋼工程が殆ど標準化されているので、一般的には、通常の方法で生産されたS含量の少ない鉄に硫化鉄などを適量添加し、S含量を高めてから水アトマイズ法により鉄粉とする方法を採用するのがよい。例えば特公昭54−457号公報に開示されている如く、溶鋼に二硫化鉄を添加してS含量を高めてから水アトマイズする方法などが挙げられる。この際に、必要に応じて二硫化鉄の一部をMnSに代えて添加すれば、S含量とMn含量を共に高めることもできるが、勿論これらの方法に限定される理由はない。
【0029】
本発明で用いる水アトマイズ鉄粉は、上記の様な理由からSまたはSとMnの含有量が重要となり、その他の含有元素の種類や含有率などは特に制限されないが、強いて記載するならば、その他の含有元素はC(炭素):0.01〜0.60質量%、より一般的には0.03〜0.30質量%、Si:0.03質量%以下で、残部は鉄と不可避不純物である。不可避不純物としてはP,Al等が例示され、それらの含有量は0.02質量%程度以下である。また、製鉄時に用いるスクラップ等から混入し得るCu,Ni,Cr,Moなどについては、それぞれ0.05質量%程度以下に抑えるのがよい。
【0030】
また本発明は、上記の様に水アトマイズ鉄粉表面の鉄酸化物や水酸化鉄にヒ素を吸着させて除去する方法であるから、除去処理剤としては表面が鉄酸化物や水酸化鉄で被覆されていることが必須の要件であるが、鉄は、周知の通り酸化性雰囲気中で表層部から酸化されて酸化物皮膜を形成する。特に、本発明で使用するS含量の高い水アトマイズ鉄粉は非常に酸化され易いので、殊更に事前の酸化処理をせずとも、大気雰囲気もしくは通常の被処理水中で酸化されて表面に酸化物や水酸化物の皮膜が形成される。従って、水アトマイズ鉄粉をそのまま使用することも可能であるが、水アトマイズ鉄粉を予め酸化処理しておけば、ヒ素吸着活性の立ち上がりがより速くなるので好ましい。但し、鉄粉表面に存在乃至生成し得る酸化皮膜などを除去する還元処理が本発明にとって好ましくないことは当然である。
【0031】
従って本発明のヒ素除去法では、適量のSまたはSとMnを含む水アトマイズ鉄粉を使用し、その表面に形成される鉄の酸化物や水酸化物にヒ素を吸着させることを必須の要件に定めているが、本発明のヒ素吸着処理剤では、ヒ素吸着活性を備えたものとして、上記S含量や(S+Mn)含量と共に、表面が鉄の酸化物や水酸化物で被覆されていることが必須の要件となる。
【0032】
水アトマイズ鉄粉の粒径は特に制限されないが、あまりに粗粒のものでは比表面積不足となって満足のいくヒ素吸着容量を確保し難くなり、また微細に過ぎると粉散し易くなって取扱い性が低下するので、好ましいのは平均粒径で1μm以上、1000μm以下、より好ましくは10μm以上、300μm以下である。
【0033】
水アトマイズ鉄粉に被処理水を接触させる方法は特に制限されず、例えば、1)表面が酸化鉄や水酸化鉄で被覆された水アトマイズ鉄粉を適当な容器に充填し、これに被処理水を通過させて接触させる方法、2)同鉄粉を被処理水に加え撹拌・分散させてヒ素を捕捉する方法、3)同鉄粉を被処理水の流れで浮遊流動させながら接触させて吸着させる方法、等が好ましい方法として採用される。
【0034】
ところで、ヒ素吸着処理を続けると、水アトマイズ鉄粉表面に存在する鉄の酸化物や水酸化物のヒ素吸着量が飽和し、それ以上にヒ素を吸着できなくなる。しかし、当該鉄粉の内部には未酸化状態の鉄が多量残存しており、表層の鉄酸化物や水酸化物を除去すると、SやMnの存在もあって速やかに酸化が進行してヒ素吸着活性が復活する。従って、ヒ素吸着量が飽和した後の当該鉄粉を再生するには、当該鉄粉に撹拌力を加えるなど適度の衝撃を加えて表層の鉄の酸化物や水酸化物を剥離させ、露出した鉄地表面に鉄の酸化物や水酸化物を生成させることによりヒ素吸着活性を復活させて繰り返し使用することも可能である。
【実施例】
【0035】
以下、実施例を挙げて本発明の構成および作用効果をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。なお下記実験例において「%」とあるのは、特記しない限り「質量%」を意味するものとする。
【0036】
実験例1(強制酸化鉄粉)
ヒ素含有排水のモデル液として、ヒ酸カリウム(KHAsO)をAs濃度で約0.7mg/Lおよび約10mg/Lを含む被処理水100mL(pHは何れも4.0に調整)をバイアル瓶に量り取り、これに下記表1に示す水アトマイズ鉄粉(乾燥時の雰囲気調整により強制酸化した酸化鉄粉)1gを投入し、鉄粉がバイアル瓶内で流動する様に緩やかに撹拌しながら20℃で72時間保った。
【0037】
72時間経過後、撹拌を止めて鉄粉と上澄液を分離し、該上澄液中の残留ヒ素濃度をフレームレス原子吸光装置(バリアン社製、商品名「SPECTRAA−880Z」)によって測定した。また、途中の経時変化を確認するため、8時間後に撹拌を止めて鉄粉と上澄みを分離し、該上澄液中の残留ヒ素濃度を同様にして測定した。結果を表2に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
表1,2からも明らかな様に、供試鉄粉1a,1bともに最初の8時間でヒ素の吸着はかなり進んでいる。また72時間後のヒ素濃度を見ると、元々のヒ素濃度が低い被処理水に適用した場合、本発明鉄粉(供試鉄粉1a)と比較鉄粉(供試鉄粉1b)の間で殆ど違いは認められない。しかし、8時間後の残留ヒ素濃度、および、ヒ素濃度の高い処理水に適用した場合の残留ヒ素濃度を比較すると、本発明鉄粉(供試鉄粉1a)は比較鉄粉(供試鉄粉1b)に比べて格段に優れたヒ素除去能を有していることが分かる。
【0041】
実験例2(強制酸化していない鉄粉)
供試鉄粉2a,2bとして、強制酸化していない下記表3に示す化学成分の水アトマイズ鉄粉を使用し、その他は実験例1と同様にしてヒ素吸着実験を行い、未処理、8時間後および72時間経過後の上澄液中の残留ヒ素濃度を測定し、結果を表4に示した。
【0042】
【表3】

【0043】
【表4】

【0044】
表3,4からも明らかな様に、供試鉄粉2a,2bともに最初の8時間でヒ素の吸着はかなり進んでいる。また72時間後の残留ヒ素濃度をみると、元々のヒ素濃度が低い処理水に適用した場合、上記実施例1の場合と同様に、本発明鉄粉(供試鉄粉2a)と比較鉄粉(供試鉄粉2b)の間で殆ど違いは認められない。しかし、8時間後の残留ヒ素濃度、および高濃度ヒ素含有水に適用した場合の残留ヒ素濃度を比較すると、本発明鉄粉(供試鉄粉2a)は従来の鉄粉(供試鉄粉2b)に比べて格段に優れたヒ素除去能を有していることが分かる。
【0045】
また、上記実験で用いた供試鉄粉2a,2bの吸着実験の前後の比表面積をN−BET1点法によって測定したところ、表5に示す結果が得られた。
【0046】
【表5】

【0047】
該表5からも明らかな様に、本発明鉄粉(供試鉄粉2a)の吸着処理前の比表面積は比較鉄粉(供試鉄粉2b)の1/3と小さいにもかかわらず、吸着処理後の比表面積は比較鉄粉(供試鉄粉1b)の約1.2倍に増大しており、多量のSが鉄の酸化による比表面積の拡大に顕著な影響を及ぼしていることが分かる。
【0048】
実験例3
ヒ素含有排水のモデル液として、ヒ酸カリウム(KHAsO)をAs濃度で約1mg/L、約10mg/Lおよび約100mg/Lを含む被処理水100mL(pHは何れも4.0に調整)をバイアル瓶に量り取り、これに下記表6に示す供試水アトマイズ鉄粉(いずれも乾燥時の雰囲気調整により強制酸化したもので、見掛密度は約3.2g/cm、平均粒径は約65μm)1gを投入し、鉄粉がバイアル瓶内で流動する様に緩やかに撹拌しながら20℃で72時間保った。
【0049】
72時間経過後、撹拌を止めて鉄粉と上澄液を分離し、該上澄液中の残留ヒ素濃度を上記と同様にして測定した。結果を表7に示す。
【0050】
【表6】

【0051】
【表7】

【0052】
表6,7からも明らかな様に、適量のMnを含有するものであっても、S含量の少ない供試鉄粉3aは、初期As濃度が約1mg/Lの被処理水については高い除去効果を示すが、初期As濃度が高くなるにつれて除去効果は大幅に低下している。これに対しS含量が0.3%以上である供試鉄粉3b,3c,3d,3eでは、初期As濃度が約10mg/Lの被処理水に対しても98%以上のAs除去率が得られており、S含量の多いほど除去効果は高くなっていることが分かる。
【0053】
実験例4(連続処理)
図1のフロー図に略示する装置(図中、1は被処理水槽、Pは送給ポンプ、2は吸着材充填カラム、3は処理水タンクを表す)を使用し、被処理水としてはヒ酸カリウム(KHAsO)をAs濃度で約1mg/L含む被処理水(pHは4.0に調整)、ヒ素除去材としては前記実験例3で用いた供試鉄粉3a(比較鉄粉)、供試鉄粉3b(本発明鉄粉)、供試鉄粉3c(本発明鉄粉)、供試鉄粉3d(本発明鉄粉)を用いて、連続式ヒ素除去実験を行った。
【0054】
即ち、ヒ素吸着材(各供試水アトマイズ鉄粉)1.96gと4号珪砂粉末19.6gを均一に混合し、この混合物を図1の吸着材充填カラム3(サイズは、内径18mm×充填部長さ150mm)内に夫々充填する。そして、被処理水槽1に装入した上記被処理水を送給ポンプPにより通水速度:30ml/hr、SV:50h−1(対鉄粉)で充填カラム2に通し、被処理水中のヒ素の吸着除去実験を行った。
【0055】
そして、処理水タンク3方向へ出てくる通過水(処理水)を1〜4日毎にサンプリングし、該通過水の残留ヒ素濃度をフレームレス原子吸光装置(バリアン社製、商品名「SPECTRAA−880Z」)によって測定した。結果を表8および図2,3に示す。
【0056】
【表8】

【0057】
表8および図2,3からも明らかな様に、S含量の少ない水アトマイズ鉄粉では、除去処理の最初から満足のいくヒ素除去効果が得られていない。これに対しS含量が0.3%以上の水アトマイズ鉄粉を用いた場合は、最初の数日間は高いヒ素除去効果が得られており、更に、S含量が1.0%以上である水アトマイズ鉄粉を用いた場合は、通水日数で18日経ったときでも十分に高いヒ素除去効果が得られている。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】実験で採用したヒ素含有排水の連続処理法を示すフロー図である。
【図2】連続ヒ素除去実験で得た通水日数と流出ヒ素濃度の関係を示すグラフである。
【図3】連続ヒ素除去実験で得た通水日数とヒ素除去率の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0059】
1 被処理水槽
2 吸着材充填カラム
3 処理水タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒ素に汚染された水中のヒ素を除去する方法であって、S含量が0.3〜5質量%である水アトマイズ鉄粉の表面に形成される鉄の酸化物および/または水酸化物に、水中のヒ素を吸着させて除去することを特徴とする汚染水中のヒ素の除去法。
【請求項2】
ヒ素に汚染された水中のヒ素を除去する方法であって、S含量が0.3〜5質量%で且つMn含量が0.1〜10質量%である水アトマイズ鉄粉の表面に形成される鉄の酸化物および/または水酸化物に、水中のヒ素を吸着させて除去することを特徴とする汚染水中のヒ素の除去法。
【請求項3】
S含量が0.6〜5質量%の鉄粉を使用する請求項1または2に記載の除去法。
【請求項4】
ヒ素に汚染された水中のヒ素を除去するための除去処理剤であって、S含量が0.3〜5質量%である水アトマイズ鉄粉の表面が、鉄の酸化物および/または水酸化物で被覆されていることを特徴とする、汚染水中のヒ素除去処理剤。
【請求項5】
ヒ素に汚染された水中のヒ素を除去するための除去処理剤であって、S含量が0.3〜5質量%で且つMn含量が0.1〜10質量%である水アトマイズ鉄粉の表面が、鉄の酸化物および/または水酸化物で被覆されていることを特徴とする、汚染水中のヒ素除去処理剤。
【請求項6】
鉄粉のS含量が0.6〜5質量%である請求項4または5に記載のヒ素除去処理剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−43921(P2008−43921A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−224427(P2006−224427)
【出願日】平成18年8月21日(2006.8.21)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】