説明

汚染金属残渣処理方法及び処理装置

金属残渣と、水と発熱反応を起こせる少なくとも1種のカルシウム/マグネシウム化合物とのチャンバー内における混合、金属残渣中に含まれる水と前記少なくとも1種のカルシウム/マグネシウム化合物との発熱反応、発熱反応を受けた金属残渣温度の上昇、この発熱反応中における前記金属残渣の脱水、前記混合中における、前記少なくとも1種のカルシウム/マグネシウム化合物と混合された1または2以上の有機化合物に汚染された金属残渣を酸素を少なくとも一部に含むガス流と接触させることによる有機化合物の酸化、及び前記処理済み生成物重量の1重量%未満に当たる残存有機化合物含量を含む取扱い可能で脱水された処理済み生成物のチャンバーからの取出し、の各工程から構成される、1または2以上の有機化合物で汚染された分別金属残渣の処理方法及び処理装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は1または2以上の有機化合物、特に炭化水素類で汚染された分別金属残渣の処理方法及び利用方法に関する。本発明はさらに前記方法を実施するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
前記表現「分別金属残渣」は、金属種の粉体、チップ、薄板、フレーク、及び又は粒子等の総称であると理解される。これらの金属残渣は多くの場合簡単な金属化合物及び又は金属酸化物の形態であるが、含硫黄状態あるいは塩素化物の形態、あるいはこれらの混合物としても生ずることがある。これらの分別金属残渣は一般的には鉄及びスチール工業及び非鉄工業における副産物である。このような分別金属残渣の一群として、しばしば「ミルスケール」と呼ばれる熱ローリング酸化物がある。その他、金属部品の機械加工によって生ずる研削残渣及び又は旋盤加工残渣も他の群として挙げられる。
【0003】
このような分別金属残渣には、通常は30%以上であるが、50%のことも多く、さらに70%に及ぶ場合もある高含量の金属が含まれ、これら残渣は特にそれら残渣を生じた産業分野において利用されるのが好ましい。
【0004】
これらの分別金属残渣は1または2以上の有機化合物、特に炭化水素で汚染されていることが極めて多く、後者の場合、全量の20%程度の量に達する場合もある。そのため、このような残渣はしばしば「油状スケール」の用語で示され、通常水を種々含量で含むが、全量の20%以上となることもあり、その具体例として破砕生成物であるローリングミルを挙げることができる。
【0005】
有機化合物が存在することにより、特に環境上の理由から、リサイクル前にこれらの副産物を前処理することがしばしば必要とされる。これら有機化合物には例えば揮発性有機化合物(VOCs)及び有機塩素化化合物等の有毒物質の前駆体となる可能性があるものがあり、中でも最も有毒なものはポリ塩素化ビフェニル(PCBs)、ダイオキシン類、及びフラン類である。
【0006】
これらの分別金属残渣の直接リサイクルにはさらに別の問題がある。すなわち、有機化合物及び水が存在することにより、副産物が不均質、粘着性、かつばらばらであるため容易に取り扱えないことである。このことは、溶鉱炉へ原料を送るための鉱石の焼結工程へスチール工業から得たミルスケールをリサイクルしようとする時に特に問題となる。この場合、取扱いの困難性とは別に、炭化水素蒸気が発生するため、この蒸気によってガス循環システム、特にファン及びフィルターが汚染されてしまう。さらに、前記有機物質はリサイクル中に有毒物質へ変換される可能性があるため、特別なガス浄化装置を設けることが要求される。
【0007】
前記有毒物質の放出に関する規制に適合するため、ガス浄化方法を限定すること、特にフィルターを限定することによって、リサイクル段階におけるミルスケールまたはその他分別金属残渣中の有機物質含量を大幅に制限する必要があることを業界は明らかにしている。
【0008】
油状ミルスケールの処理に関しては、それを酸化カルシウム、主に生石灰と完全に混合する方法が知られている。この分野における先行技術の最新レビューに関する論文(Marcel Dekker Inc., 2000による"Remediation engineering of contaminated soils(汚染土壌の改善工学技術)"中のF. Boelsing, "Dispersing by Chemical Reactions Remediation Technology(化学反応改善技術による分散)"の38章において、著者は2工程、すなわち、
生石灰を炭化水素に汚染した媒体、特にミルスケール中へ添加する工程(分配前工程)、及び、
可能な場合グラインダーを用いて媒体を強く混合して均質に分散させ、生石灰へ油を移行させると共に生石灰CaOによってミルスケール中の水分の全部あるいは一部を取り除いて消石灰に変換させる工程(分散工程)から成る処理方法を提案している。
【0009】
次いで、油と結合した石灰は、篩分けにより、鉄及び酸化鉄粒子から容易に分離可能である。磁気分離によって微細金属粒子を回収することも可能である。
【0010】
また、前記論文の著者は、石灰をミルスケールからの水を用いて消滅する反応を遅らせる添加物を加えて生石灰を前処理することがしばしば必要であり、この前処理をしなければ油が石灰に吸収される前に消滅反応が極めて急速に起こってしまうことを指摘している。
【0011】
より最近の特許出願(US2005/0256359)には、石灰を用いて、有機化合物、特に有毒化合物、ダイオキシン、フランあるいはポリ塩素化ビフェニル型化合物のハロゲンを除去することによってそれらの毒性を減ずる可能性が示されている。上述の機能とは別に、石灰には求核性反応体として作用してハロゲンの水酸基への置換を促進し、さらに置換分子を酸化分解して有機分子を無毒化あるいは低毒化する機能がある。無毒化された有機化合物は、好ましくは分散された媒体の自己発火を促すために添加される。この論文には、意図された目的である「脱ハロゲン化」収率だけが記載されていて、有機物質の可能な低減レベルに関する記載はない。
【0012】
また、
チャンバー内において、水と発熱反応を起こし得る少なくとも1種のカルシウム/マグネシウム化合物と分別金属残渣を混合する工程、
前記少なくとも1種のカルシウム/マグネシウム化合物を前記金属残渣に含まれる水と発熱反応させる工程、
発熱反応によって金属残渣温度を上昇させる工程、及び
この発熱反応を通して前記金属残渣を脱水させる工程から構成される、1または2以上の有機化合物、特に1または2種の炭化水素で汚染された分別金属残渣の処理方法も公知である。
【0013】
この方法は日本特許出願JP2000−237512に記載されている。この出願には特に銑鉄脱リン酸化剤としての再利用が意図された鉄残渣及びスチール残渣の脱水方法が記載されている。この処理によって得られる製品は取扱い可能と考えられる。一適用例において、残渣へ生石灰を20重量%相当添加することにより、遊離オイル含量が当初の2.9%から処理後には1.9%まで減少されること、すなわち、この差分が石灰に吸収されることが教示されている。本発明者は、鋳鋼に対して悪影響を与えることなく、吸収したオイルを一部に含むこれら処理残渣を燃焼させることによって、スチール製造における補足材料として用いることを提案している。
【0014】
最後に、特許US4326883には、ミルスケールの脱オイル及び凝集方法が記載されている。この方法は下記2つの工程から構成されている。
調製工程:この工程は、生石灰をミルスケールへ添加し、次いで任意に水を加えて十分に混合し、次いで得られた混合液を任意に水を加えながら凝集あるいは球状化(ペレット化)する作業から構成される。従って、石灰はバインダーかつ脱水剤として機能している。このような混合工程は重要であると考えられる。この工程においては、石灰によって水分、オイル、及びミルスケール微粒子が抽出され、ミルスケール粗粒子からミルスケール微粒子が分離される。そしてこの工程においては、当初ミルスケール中に含まれていた殆どのオイルを形成されたペレット表層中に確実に取り込むことを目的としている。かかる結果を得るため、好ましくは予めミルスケールが篩分けされる。この調製段階では、最後に345℃の温度環境下でペレットの乾燥が行われる。この温度は、ペレットが破裂を起こす120℃以上の温度にならないように制限される。その結果として、リサイクル処理の次工程に必要とされる良好な圧縮強度がペレットに付与される。
【0015】
燃焼工程:前記次工程において、ペレットは酸化雰囲気下で発火及びペレット中に含まれるオイルの完全燃焼をひき起こすのに十分な温度まで加熱される。ペレットは、ペレット温度が345℃を超えないことを確実にするため、815〜1100℃の範囲内の大気下に0.5〜2分間留まるように厚さ2.5〜7.5cmの流動床として進行する。前記調製工程は、極めて短時間内にペレットの表面上に存在するオイルをほぼ完全に除去できる可能性に反映されることから重要である。この技術により、オイルの熱量を利用して、なお実質量として大きい外部燃料の消費を低減させることが可能となる。
【0016】
しかしながら、特許US4326883の記載及び実施例は、1%未満のオイルを含むミルスケールに限定されている。これは、より高含量のオイルを含む場合、2分間未満の時間内にペレットを燃焼できるようにオイルを主として表層に含むペレットを生成することが困難なためと考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
前記先行技術の欠点を解消するため、本発明は、広範囲に亘る含量の有機化合物で汚染された分別金属残渣を容易かつ適切に処理し、特に利用価値の高い製品を猶供給しつつ、外部燃料を介したエネルギー供給を厳格に最小限に制限することの可能な分別金属残渣処理方法及び処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
このような問題を解決するため、本発明は、
チャンバー内において、水と発熱反応を起こせる少なくとも1種のカルシウム/マグネシウム化合物と分別金属残渣を混合する工程、
前記少なくとも1種のカルシウム/マグネシウム化合物を前記金属残渣に含まれる水と発熱反応させる工程、
発熱反応によって金属残渣温度を上昇させる工程、
この発熱反応中に前記金属残渣を脱水させる工程、
前記混合工程において、前記少なくとも1種のカルシウム/マグネシウム化合物と混合された1または2以上の有機化合物で汚染された金属残渣を酸素を少なくとも一部に含むガス流中へ導入して有機化合物を酸化させる工程、及び
有機化合物の残存含量が前記処理生成物の1重量%未満に当たる取扱い可能で直接利用可能な脱水処理生成物をチャンバーから取り出す工程から構成される方法を提供する。
【0019】
本方法では、種々工程における処理温度、特にガス流温度は600℃以下に保持されるように調節される。
【0020】
本発明によれば、加熱処理に適するチャンバー内において、汚染された分別金属残渣へカルシウム/マグネシウム化合物が添加され、これら残渣はガス流と共に運ばれ、これら残渣中において好ましくは単一工程において処理が実施される。処理対象材料となるカルシウム/マグネシウム化合物、あるいはそれらの混合物の事前準備あるいは事前調製は不要である。実用場面においては、残渣にはしばしば十分量の水が含まれているため、本発明方法においては原則として水の添加あるいは追加反応体の添加は不要である。前記チャンバーから取り出された生成物は、脱水済みの、容易に取り扱い可能で、例えば冶金あるいは製鋼工程において直接利用可能あるいはリサイクル可能であり、また有機化合物の混入も極めて低含量である。従って、これら生成物は、特に回収金属が排出された当該産業において直接利用可能である。
【0021】
従って、本発明により、カルシウム/マグネシウム化合物を用いて汚染金属残渣から有機化合物、特に炭化水素を除去する実質的な自己発熱方法が提供される。
【0022】
本発明において、前記少なくとも1種のカルシウム/マグネシウム化合物は下記式Iを満たす化合物である。
xCaO.(1−x)MgO (I)
式中、xは0より大きい1以下のモル数を表す。
【0023】
この化合物は好ましくは固体粒子であり、かつ主として酸化物である。このカルシウム/マグネシウム化合物にはシリカ、アルミナ、酸化鉄、及び炭酸カルシウム等の不純物が数%、また前記式Iの酸化物に対応する水酸化物が含まれていてもよい。
【0024】
カルシウム/マグネシウム化合物が、式IにおいてXが1である場合に相当する生石灰である特定例においても、前述の不純物が含まれ、また少量の酸化マグルシウムが含まれる。
【0025】
生石灰と水との発熱反応によって与えられるエネルギーのみで酸化反応を開始させることは原則的に可能であるが、初期活性化エネルギーを供給すればなお有利である。本発明を実施するための有利な方法においては、該方法には、
金属残渣中に含まれる有機化合物の発熱反応の開始を促すために当初において熱を供給して汚染金属残渣を所定温度まで高める工程、及び
前記所定温度に達したら熱供給を止め、その後実質的に自己発熱によって安定状態とする工程がさらに含まれる。
【0026】
本発明に従った方法においては、特に開始段階において優先的に、あるいは開始段階のみに、最小量の熱がいずれか公知の加熱方法によって与えられる。所定温度まで達したならば、チャンバー中において生ずる発熱反応によって該温度にほぼあるいは完全に保持される。
【0027】
本発明において、用語「自己発熱」は、本発明方法が原則として外部エネルギー供給をもはや必要としなくなることを意味し、少なくとも酸素を部分的に含むガス流、金属残渣、及びカルシウム/マグネシウム化合物の供給を調節することによって反応のすべてを制御することが可能である。
【0028】
好ましくは、処理済み生成物中における有機化合物残存含量は0.5重量%未満であり、より有利には0.2重量%未満であり、特に好ましくは0.1重量%である。
【0029】
処理に際しては、金属残渣の処理は200〜600℃の温度範囲内で実施するのが有利である。典型例として、300〜550℃の範囲内で種々変換が為されるため、処理チャンバーの壁を保護するために耐熱レンガを使用する必要がなく軽量体を用いることが可能である。チャンバーには、前記残渣取込口の他に、新鮮な酸素含有ガス、特に空気取込口が必要であり、また熱ガス用と、新鮮空気を注入して処理温度を制御するためにも利用できる排気口が必要である。取り込んだ処理対象物の均質化手段により、前記汚染金属残渣及び前記少なくとも1種のカルシウム/マグネシウム化合物から成る固体充填物に対して確実に連続攪拌及び空気混入が行われる。この充填物は処理チャンバー内で0.25〜5時間、好ましくは0.5〜2時間処理することにより処理済み生成物が得られる。
【0030】
前記汚染残渣中の有機化合物含量は好ましくは約20重量%以下、例えば15重量%以下とされ、水分含量は20重量%以上であるが例えば30重量%以下とされる。通常、汚染残渣には有機化合物が2〜6重量%、水が10〜15重量%含まれる。
【0031】
処理済み生成物は脱水され、粉状で容易に取扱い可能な形態とされるが、単に水を加えて粒状化することも可能である。
【0032】
汚染金属残渣へのカルシウム/マグネシウム化合物の添加量は、主として有機化合物量だけでなく、これら残渣中に当初より存在している水分量に依存して選定される。カルシウム/マグネシウム化合物の含量は、通常前記固体充填物全量の5〜35%、好ましくは8〜20%であり、また10%前後とされる場合も多い。
【0033】
本発明の具体的実施方法によれば、本発明方法には、逆向きのガス流を固体充填物と共に供給して混合しながらチャンバー中において固体充填物を移動させる工程が含まれる。本発明方法には、有利な態様として、残渣が混合され、ガス流と接触される際に、殆どの有機化合物が完全に酸化されてほぼ水とCOへ変換される工程が含まれる。
【0034】
本発明のより改善された実施方法によれば、本発明方法には、部分的に酸化されている可能性のある金属化合物、及び前記少なくとも1種の水和化及びおそらく炭酸化された可能性のあるカルシウウム/マグネシウム化合物から実質的に生成された前記処理済み生成物を好ましくは冶金あるいは製鋼工程へ直接リサイクルする工程が含まれる。有機化合物の残存が殆どないということは、本発明に従って処理された生成物が直接リサイクル可能であることを意味している。特にミルスケールの場合は、処理済み生成物を溶鉱炉の前に実施される焼結プロセスへ直接リサイクルすることが可能である。カルシウウム/マグネシウム化合物の存在は、この焼結処理においても有利に作用する。
【0035】
本発明方法の他の特長については添付の特許請求の範囲に示している。
【0036】
本発明はさらに、有機化合物で汚染された分別金属残渣の処理装置に関する。この処理装置は、
汚染残渣及び、水と発熱反応可能な少なくとも1種のカルシウム/マグネシウム化合物のチャンバー中への投入を可能とする少なくとも1個の固形物取り込み口、
前記汚染残渣と前記少なくとも1種のカルシウム/マグネシウム化合物を混合させる少なくとも1個の混合部材、及び
取扱い可能で脱水された処理済み生成物を取り出すための少なくとも1個の固形物取り出し口が設けられたチャンバー、より有利には耐熱性チャンバーから構成され、この装置は、例えば冶金あるいは製鋼工程において直接使用でき、あるいはリサイクル実施可能である。
【0037】
本発明に従って、前記装置にはさらに、
少なくとも酸素を一部に含むガス流をチャンバー内へ導入するための少なくとも1個のガス注入口、及び
少なくとも1個のガス排出口が設けられ、
前記少なくとも1個の固体取り出し口において取り出される処理済み生成物中の有機化合物残存含量が前記処理済み生成物重量の1重量%未満であることを特長とする。
既に前記したように、このような装置の重要な利点は、この装置が耐熱性レンガを用いて作製されないことである。
【0038】
本発明に従った装置の有利な一実施態様においては、前記少なくとも1個の固形物取り込み口はチャンバーの一端に設けられ、前記少なくとも1個の固形物取り出し口はチャンバーの対向端部に設けられる。前記少なくとも1種のカルシウム/マグネシウム化合物と混合された前記金属残渣は前記少なくとも1個の固形物取り込み口と前記少なくとも1個の固形物取り出し口の間を移動され、また前記ガス流が前記混合済み残渣に対して逆方向へ通過するように、前記少なくとも1個のガス注入口及び前記少なくとも1個のガス排出口がチャンバー中に設けられる。
【0039】
前記装置によれば、ワンステップとして実施可能な連続工程とすることができる点で有利である。例えば、縦型のマルチゾーン(多階層)チャンバーあるいは水平型チャンバーを用い、さらに分離型の汚染残渣用及びカルシウム/マグネシウム化合物用の送りを用いることが可能と思われる。この場合、第一ゾーン(送りゾーン)、例えば縦型の場合にはチャンバー上段によって2つの固形物送りを集中させ、さらに均質化装置を用いてそれらの送りを連続混合する役割が果たされる。さらに前記送り段によって、そこから漏れ出す熱ガスを用いて固形充填物を予め加熱する役割も果たされる。下方に位置している他のゾーンあるいは段によって十分な滞留時間が与えられ、同時に充填物へさらに空気が供給され、また好ましくは固形物に向かって逆方向にガス流が循環される。従って固形物の酸化を調節することが可能である。排出口については、最後のゾーンあるいは底部の段において特に固形物によってガスを予め加熱し、また新鮮なガスによって固形物を逆に冷却するために用いられる。
【0040】
静止型混合装置を備えたチャンバーを動かすことにより、あるいは静止型チャンバー中の混合装置を動かすことにより、あるいはこれら2つの可能性を組み合わせることにより、重力で材料を送り出す水平から僅かに傾斜した円筒形チャンバーを利用することも可能である。
【0041】
本発明に係るこのような装置においては、固形充填物及びガス流の最高温度は600℃を越えず、通常200〜550℃の範囲内である。好ましくは逆方向に流れる新鮮ガスによって固形充填物はチャンバーから排出される前に冷却され、他方該ガスはこれら充填物と接触することにより加熱される。同様に、熱ガスによって2種類の固形物が送り込まれ均質化される段において固形充填物が加熱される。
【0042】
意外なことに、本発明に従って外部からの熱供給が全く無いか、あるいは実質的に無い状態で、すなわち少なくとも安定状態処理中において特別な燃料を用いることなく、汚染残渣を処理して処理済み残渣とすることも可能なことが示された。エネルギー供給は、開始段階における最初の温度上昇にのみ必要と考えられる。
【0043】
かかる結果を得るためには、処理中に生ずるすべての発熱反応によって発生する熱を利用する必要がある。この目的は、処理が単一チャンバー中で単一工程において実施される本発明方法によって達成される。
【0044】
処理チャンバー中において起こる発熱反応を以下に示す。
・カルシウム/マグネシウム化合物が汚染残渣中に存在する水分によって消滅あるいは水和化される反応、すなわち、酸化カルシウム及び又は酸化マグネシウムが対応水酸化物へ変換される反応、
・有機化合物の殆どがほぼ完全に酸化されて水及びCOへ変換される反応、
・カルシウム/マグネシウム化合物が炭酸化される反応、及び
・金属化合物/汚染残渣が可能な場合は少なくとも部分的に酸化されて対応金属酸化物とされる反応。
【0045】
意外なことに、滞留時間、材料への通気、及び温度に関して条件を制御することにより、金属化合物の酸化に関して、他反応からの熱の放出と連関しながら、少なくとも安定状態にあるときに前記処理を自己発熱条件で実施することが可能である。
本発明装置の他の特徴については添付の特許請求の範囲に請求項として示している。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に従った処理装置の略断面図である。
【図2】本発明に従った一実施態様の断面図である。
【発明を実施するための手段】
【0047】
以下に添付図面を参照しながら本発明の非限定的実施例を示し、本発明の他の詳細及び特徴についてさらに明らかにする。
尚、添付図面において、同一または類似部材は同一符号で示す。
【0048】
本発明方法を実施するための好ましい装置、特にスチールミルスケール処理に用いる好ましい装置を図1に示す。
【0049】
図1に示した装置は、600℃以下の温度域で処理を行うことが可能な多段チャンバー1として構成されている。かかる構成により、実施容易、かつ安価な非耐熱技術の利用が可能とされている。このチャンバーには、有利な特徴として、必要な場合に、すなわちチャンバー内温度が300℃を下回った時に熱を供給する外部バーナー(図示せず)が備えられている。上段2(送り段)は汚染されたミルスケール及びカルシウム/マグネシウム化合物を、好ましくは2つの別個の取り込み口3及び4を通して送り込むために用いられる。この送り段2にはさらに好ましくは1または2以上の群状アーム5に形状化された均質化手段が備えられ、この均質化手段は中心軸6の周りを回転し、それによって固定された炉上へ蓄積する固形物が混合される。群状アーム用の回転炉及び可動炉、あるいはそれらの変形の組合せの存在下において1または2以上の固定型群状アームを設けることも可能である。図示した例においては、2つのガス取り込み口8及び9によって、上昇した熱ガスを、送り込まれた固形物との熱交換後に放出することが可能とされている。
【0050】
これら予め加熱された固形物は中央孔10を通して下段にある炉11上へ落下される。この落下が行われる際にガス流と固形物との交換が行われる。前記炉11には1または2以上の周辺オリフィス12が設けられ、混合された固形物はこれらオリフィス中を通過し、さらに少なくとも1個の熊手状アームを通して下方段まで通過する。同様に、固形物は連続工程によって、特に前記酸化反応が促進されるようにガス流との交換が最大限行われて混合されながら最終段(アウトプット段13)まで搬送される。
【0051】
前記アウトプット段13は特に新鮮ガスを予め加熱し、及び処理済みのミルスケールを冷却する役割を果たす。特に、前記アウトプット段には処理済みのミルスケール放出するための取り出し口14と酸素含有ガスを導入するための取り込み口15が設けられる。
【0052】
本発明装置の段数は、主として最初から存在する有機化合物の完全酸化に要する滞留時間に依存して異なる。各段には任意に加熱空気あるいは未加熱空気がガス注入口16を介して補充導入される。
【0053】
図2は円筒形状を呈し、かつ約3rpmで回転する熊手状アーム18が備えられた電気ヒーター22で加熱可能な単一段チャンバー17を示した図である。このチャンバーには、空気注入口20及びガス排出口21と、さらに固形物温度を測定しサンプルを取り除くためのパイプ23を備えた固形物導入装置19が設けられている。
【0054】
以下に記載するすべての実施例においては、回転ミルスケールは工業用グレードの生石灰によって処理される。汚染されたミルスケールの当初の炭化水素含量は、ソックスレー抽出装置中においてテトラヒドロフラン抽出を行った後、「ロタベーパー」蒸留を行った上で測定される。汚染されたミルスケールは事前に105℃で乾燥される。測定された炭化水素含量が0.1%未満である場合、処理済みのミルスケール中には炭化水素の残存はないと判断される。
【0055】
すべての場合において、ミルスケールは図2に示したようなパイロットプラントにおいて一般的方法を用いて処理される。
【0056】
この場合における操作は以下の通りである。
・炉を所定の開始温度まで前もって加熱する。
・処理対象物を石灰及びミルスケールと交互に投入する。
・混合物を連続的に攪拌する。
・固形物の温度を測定して発熱反応の進行状況をモニターする。
・処理が終了したらサンプルを取り出す。
・液体窒素に接触させてサンプル中における反応を停止させる。そして
取り除いたサンプル中に残存する炭化水素含量を測定する。
【0057】
実施例1
炭化水素を6重量%及び水を14重量%含むミルスケール7.4kgを石灰1.6kg、すなわち石灰の供給量として18重量%と共にパイロットプラント中において処理した。
【0058】
類似した処理を処理開始温度を変えて2回実施した。1回目は200℃において実施し、2回目は300℃で実施した。いずれの場合においても、処理生成物は微粉状化し、取扱いが容易となり、残存炭化水素含量は0.1%未満であった。
【0059】
開始温度が200℃である場合、反応を自己発熱性とする酸化反応によって熱が有意に放出されてくる前に約1.5時間の誘導期間を要した。この期間以後には外部からの熱供給は行わなかった。固形物の最高温度は約450℃であった。炭化水素を完全に取り除くためには全体で約3時間の滞留時間を要した。
【0060】
300℃では、前記誘導期間は0.5時間を越えなかった。固形物の温度はさらに高く、500℃よりも若干高かった。炭化水素のすべてを酸化するために要する滞留時間は2時間未満であった。
【0061】
この例から、前記誘導期間を大幅に減じて炭化水素の完全酸化に要する全滞留時間を減ずるために、外部から熱供給を行うことが有用なことが示される。
【0062】
実施例2
炭化水素1.7重量%及び水14重量%で汚染されたミルスケールの処理を開始温度300℃で実施した。生石灰の添加量は18重量%、すなわち石灰量はミルスケール7.5kg当たり1.6kgとした。処理済み生成物は微粉状であり、取扱いも容易であり、残存炭化水素含量は0.1%未満であった。
【0063】
この試験を、類似条件(300℃及び石灰18%)であるが、炭化水素による汚染がより多いミルスケール(6%)を用いて処理が開始された実施例1の2番目の場合と比較した。
【0064】
開始時の炭化水素含量が低い場合、固形物が達し得る最高温度は低く500℃以下であり、この温度となるのは1.5時間未満の短い滞留時間を経た後である。
【0065】
実施例3
炭化水素を含有する充填物を熱処理すると通常かなりのVOC(揮発性有機化合物)が放出されてくる。そのため、本発明に従った処理の実施に際してはその状態についての評価を行い有益な結果を得た。
【0066】
炭化水素を2.9重量%、及び水を19重量%を含むミルスケール10kgを開始温度300℃で図2に示したパイロットプラント中で生石灰2.5kg、すなわち石灰量として20重量%と共に処理した。処理済み生成物は微粉状であって取扱い容易であり、その残存炭化水素含量は0.1%未満であった。
【0067】
この試験条件下では、ガス排出物中に、ミルスケール中の炭素が完全にVOCへ変換されたと仮定して、平均VOC含量として1500mg/SmのVOCが観察された。実際には、この試験中に測定した平均VOC含量はずっと低く60mg/Sm未満であった。石灰を用いた処理方法を用いることにより、VOC放出量は平均に対して25倍も低下した。
【0068】
本発明は上述した実施方法に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲に記載した本発明の範囲を逸脱することなく種々変形を行うことが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバー内において、金属残渣を、水と発熱反応を起こすことが可能な少なくとも1種のカルシウム/マグネシウム化合物と混合する工程、
前記少なくとも1種のカルシウム/マグネシウム化合物を金属残渣に含まれる水と発熱反応させる工程、
金属残渣に発熱反応を起こさせて該残渣の温度を上昇させる工程、
この発熱反応中に前記金属残渣を脱水する工程、
前記混合中に、前記少なくとも1種のカルシウム/マグネシウム化合物と混合された1または2種以上の有機化合物で汚染された金属残渣を酸素を少なくとも一部に含むガス流と接触させることによって有機化合物を酸化させる工程、及び
残存有機化合物含量が処理済み生成物の1重量%未満に当たる取扱い可能で脱水された処理済み生成物をチャンバーから取り出す工程、から構成される1または2種以上の有機化合物で汚染された分別金属残渣の処理方法であって、
ガス流の温度が600℃未満に保持されるように制御されることを特徴とする前記方法。
【請求項2】
前記少なくとも1種のカルシウム/マグネシウム化合物が下記式I;
xCaO.(1−x)MgO (I)
式中、xは0より大きい、1以下のモル数をあらわす、を満たすことを特徴とする請求項1項記載の方法。
【請求項3】
前記発熱反応の開始を促すため、及び汚染金属残渣を所定温度まで到達させるために処理開始時に熱を供給する工程と、
前記所定温度へ到達した時にこの熱供給を止め、以降自己発熱で安定状態で処理を進行させる工程をさらに含むことを特徴とする請求項1項または2項記載の方法。
【請求項4】
処理済み生成物中の有機化合物残存含量が0.5重量%未満であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
混合処理中に、金属残渣の温度が300〜550℃前後となることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
ガス流温度が空気注入によって制御されることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
カルシウム/マグネシウム化合物の含量が、前記金属残渣とカルシウム/マグネシウム化合物から成る全量に対して5〜35%となることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
混合中に、金属残渣と共に前記ガス流を同時に供給することによって、前記少なくとも1種のカルシウム/マグネシウム化合物と混合された金属残渣をチャンバー中において移動させる工程が含まれることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
汚染残渣中に有機化合物が約20重量%と、水が最大で約30重量%まで含まれることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
チャンバー中において、金属残渣が前記少なくとも1種のカルシウム/マグネシウム化合物と混合され、前記ガス流と0.25〜5時間の滞留時間に亘って接触させられることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
一部酸化されている可能性のある金属化合物、及び前記少なくとも1種の水和され、さらに炭酸化されている可能性のあるカルシウム/マグネシウム化合物から実質的に生成された前記処理済み生成物が冶金あるいは製鋼工程へリサイクルされることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記金属残渣を、水と発熱反応を起こすことが可能な少なくとも1種のカルシウム/マグネシウム化合物と共にチャンバー中へ導入するための少なくとも1個の固形物取り込み口(3、4、19)、
前記金属残渣と前記少なくとも1種のカルシウム/マグネシウム化合物を混合する少なくとも1個の混合部材(5、18)、
取扱い可能で脱水された処理済み生成物を取り出すための少なくとも1個の固形物取出し口(14)、
酸素を少なくとも一部に含有するガス流をチャンバー中へ導入するための少なくとも1個のガス注入口(15、16、20)、及び
少なくとも1個のガス排出口(8、9、21)を備えるチャンバーから構成される有機化合物で汚染された分別金属残渣の処理装置であって、
前記少なくとも1個の固形物取出し口(14)において取出された前記処理済み生成物の有機化合物含量が前記処理済み生成物の重量に対して1重量%未満であり、及び前記装置が耐熱性レンガを用いずに作製されていることを特徴とする前記装置。
【請求項13】
金属残渣中に含まれる有機化合物の酸化反応の開始を促進する所定温度まで金属残渣温度を達せしめる1または2以上の開始加熱手段(22)をさらに備えることを特徴とする請求項12項記載の装置。
【請求項14】
前記少なくとも1個の固形物取り込み口(3、4)はチャンバーの一方の端部に配置され、前記少なくとも1個の固形物取出し口(14)は前記チャンバーの他方の端部に配置され、前記少なくとも1種のカルシウム/マグネシウム化合物と混合された前記金属残渣は前記少なくとも1個の取り込み口と前記少なくとも1個の取り出し口の間を移動され、及び前記少なくとも1個のガス注入口(15、16)及び前記少なくとも1個のガス排出口(8、9)は、前記ガス流が前記少なくとも1種のカルシウム/マグネシウム化合物と混合された金属残渣と反対方向に通過するように配置されることを特徴とする請求項12項及び13項のいずれかに記載の装置。
【請求項15】
前記チャンバーに一方が他方の上部へ置かれた2またはそれ以上の段が形成され、該チャンバー内において、
上段には、処理対象金属残渣及び少なくとも1種のカルシウム/マグネシウム化合物用の少なくとも1個の取り込み口と、酸素含有ガス流用の排出口があり、
下段には、少なくとも1個の処理済み生成物用取出し口と、少なくとも1個の酸素含有ガス流注入口があり、及びそれら段の間には任意であるが1または2以上の中間段があり、
前記固形物は重力によって上段から該当する場合には中間段を通って下段まで下降し、及び酸素含有ガス流は前記固形物中を通過して上昇するように、チャンバー中において段が連絡されることを特徴とする請求項12〜14のいずれかに記載の装置。
【請求項16】
前記段の少なくとも一段にミキサーが備えられることを特徴とする請求項15項記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−505039(P2010−505039A)
【公表日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−529686(P2009−529686)
【出願日】平成19年9月25日(2007.9.25)
【国際出願番号】PCT/EP2007/060148
【国際公開番号】WO2008/037703
【国際公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(500173376)ポール ヴルス エス.エイ. (44)
【氏名又は名称原語表記】PAUL WURTH S.A.
【Fターム(参考)】