説明

汚水中の金属を回収する金属回収方法,汚水中の金属を回収する金属分離用薬剤、及びこれを用いた浄水装置

【課題】高速で大量に汚水中の金属の分離・回収ができる金属回収方法,金属分離用薬剤及びこれを用いた浄水装置を提供すること。
【解決手段】汚水中の金属を回収する金属分離用薬剤であって、金属分離用薬剤が酸性基を有する水溶性高分子及び陰イオン交換樹脂を含むことを特徴とする金属分離用薬剤である。また、上記金属分離用薬剤を用いた浄水装置であって、汚水及び酸性基を有する水溶性高分子の水溶液を混合する第一の混合槽と、汚水及び酸性基を有する水溶性高分子の水溶液が混合された液体と陰イオン交換樹脂とを混合する第二の混合槽とを有し、第二の混合槽の下部にはフィルタが配置され、フィルタは穴を有し、フィルタの穴により前記陰イオン交換樹脂が保持されることを特徴とする浄水装置である。
【効果】高速で大量に汚水中の金属の分離・回収ができる金属回収方法,金属分離用薬剤及びこれを用いた浄水装置を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚水中の金属を回収する金属回収方法,汚水中の金属を回収する金属回収用薬剤、及びこれを用いた浄水装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工業用水を始めとする金属含有汚水にカドミウムや銅等毒性の高い成分が含まれている場合、種々の方法で放流基準まで金属含有汚水の濃度を下げ、河川,海洋に放流されている。また、飲料水対応の浄水器でも、浄水器の内部にイオン交換樹脂を充填し、金属をトラップする方法が提案されている。
【0003】
一般に、水に溶解している金属は水中ではイオンの形で存在する。そのため、イオン交換樹脂でトラップする方法(特許文献1)や逆浸透膜で濾過する方法が提案されている。その他、水酸化鉄を含有する金属分離用薬剤(特許文献2)が提案されている。また、キレート剤を添加して水に不溶の凝集物を形成後、濾過する方法も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−232361号公報
【特許文献2】特開2006−218359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
イオン交換樹脂や逆浸透膜を用いる方法は、汚水中の金属濃度が高い場合や処理する汚水の量が多い場合は、短時間で金属トラップ機能が低下してしまう。したがって、工業用水等には向かず、飲料水等、金属濃度が低く、処理量が少ない用途で用いられている。
【0006】
水酸化鉄を用いる場合、凝集物のサイズが小さいため、そのサイズを大型化するための金属分離用薬剤を必要とする。また、凝集の反応が遅いため処理時間が長いという問題がある。
【0007】
キレート剤を用いる場合、他の方法の材料に比べて高コストであること、及び添加量を適切に制御しなければ汚水中に残留してしまう問題がある。
【0008】
このように、従来技術では大量の汚水から実用的なコストで高速に金属を分離することは困難であった。
【0009】
本発明は、汚水中の金属を高速で大量に回収する金属回収方法,汚水中の金属を回収する金属分離用薬剤、及びこれを用いた浄水装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の特徴は、汚水中の金属を回収する金属分離用薬剤であって、金属分離用薬剤が酸性基を有する水溶性高分子及び陰イオン交換樹脂を含むことを特徴とする金属分離用薬剤である。
【0011】
また、本発明の特徴は、汚水中の金属を回収する金属分離方法であって、汚水に酸性基を有する水溶性高分子が添加される工程と、汚水を陰イオン交換樹脂に接触させる工程とを含むことを特徴とする金属分離方法である。
【0012】
また、本発明の特徴は、上記金属分離用薬剤を用いた浄水装置であって、汚水及び酸性基を有する水溶性高分子の水溶液を混合する第一の混合槽と、汚水及び酸性基を有する水溶性高分子の水溶液が混合された液体と陰イオン交換樹脂とを混合する第二の混合槽とを有し、第二の混合槽の下部にはフィルタが配置され、フィルタは穴を有し、フィルタの穴により前記陰イオン交換樹脂が保持されることを特徴とする浄水装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、高速で大量に汚水中の金属の分離・回収ができる金属回収方法,金属分離用薬剤及びこれを用いた浄水装置を提供できる。また、金属の分離・回収が低コストで行える金属回収方法,金属分離用薬剤及びこれを用いた浄水装置を提供できる。上記した以外の課題,構成及び効果は以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態の金属分離のスキームである。
【図2】本発明の一実施形態の金属回収のスキームである。
【図3】本発明の一実施形態の金属分離・回収装置の模式図である。
【図4】本発明の一実施形態の金属分離・回収装置の模式図である。
【図5】本発明の一実施形態の金属分離・回収装置の模式図である。
【図6】本発明の一実施形態の金属分離・回収装置の模式図である。
【図7】本発明の一実施形態の金属分離・回収装置の模式図である。
【図8】本発明の一実施形態の金属分離装置の模式図である。
【図9】本発明の一実施形態の金属回収装置の模式図である。
【図10】本発明の一実施形態で用いる陰イオン交換樹脂の前処理装置の模式図である。
【図11】本発明の一実施形態の金属回収装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態について、図面等を用いて以下に説明する。
【0016】
汚水に酸性基を有する水溶性高分子を添加し、引き続きこの汚水を少量の陰イオン交換樹脂に接触させる。これにより、イオン交換樹脂としての交換容量をはるかに超える金属を汚水から分離できる。また、分離した金属は水酸化物として回収可能である。
【0017】
更に、イオン交換樹脂の内部に鉄,コバルト,ニッケル等の強磁性の金属粉が含有される場合は、磁性によって回収することができる。したがって、円筒の容器に保持する必要が無く、汚水からの分離や洗浄も容易になる。
【0018】
加えて、酸性基を有する水溶性高分子及びイオン交換樹脂は再生可能であるため、繰り返して汚水からの金属分離に使うことができる。したがって、従来に比べて低コストで金属分離が可能になる。本発明の汚水中からの金属分離の原理について、図1を用いて説明する。
【0019】
まず、金属の塩1が溶解している汚水に酸性基を有する水溶性高分子2を添加する。ここでは、酸性基としてカルボキシル基を有している場合を図示している。また、金属は3価のものを図示しているが、3価以外の金属(1価,2価,4価等の金属)の場合は1個の金属イオンに対して最大で価数分の酸性基がイオン結合する。これにより、金属イオンと酸性基を有する水溶性高分子2とからなるイオン結合3が生成される。こうして、金属イオンをトラップしたカルボキシル基を有する水溶性高分子4が形成される。ここで、金属分離用薬剤のイオン結合できる置換基の数の方が、汚水中の金属イオンの数と金属イオンの価数との積より大きくないと、汚水中にイオン結合できない金属イオンが残るため、金属除去効率が向上しない。そのため、カルボキシル基を有する水溶性高分子4のカルボキシル基の数は、汚水中の金属イオンの数と金属イオンの価数との積より多く添加することが望ましい。これにより、汚水中のイオン結合できない金属イオンを減少させることができる。
【0020】
仮に、陽イオン交換樹脂に金属イオンを結合させる場合、結合の速度はイオン交換樹脂の表面積に依存する。そのため、金属分離の速度を高めるには、イオン交換樹脂の粒子径を小さくする、またはイオン交換樹脂の表面に凹凸を設ける等により表面積を増やす工夫が必要となる。しかし、水溶性の高分子は汚水中に溶解しているので、水溶性の高分子と金属イオンとの接触面積は無限に近い。そのため、イオン交換樹脂に比べて、金属イオンの分離速度が格段に速い。
【0021】
次に、汚水を陰イオン交換樹脂5に接触させる。すると、金属イオンをトラップしたカルボキシル基を有する水溶性高分子4が陰イオン交換樹脂5とイオン結合する。金属を直接結合するのはカルボキシル基を有する水溶性高分子4である。カルボキシル基を有する水溶性高分子4中には多数のカルボキシル基があるので、非常に多くの金属イオンがトラップされる。次に、カルボキシル基を有する水溶性高分子4が陰イオン交換樹脂5と結合する際は、1個のアミノ基に多くの金属イオンをトラップしたカルボキシル基を有する水溶性高分子4が結合する。したがって、1個の陰イオン交換樹脂5には、陰イオン交換樹脂5が持っているアミノ基数をはるかに超える金属イオンが結合することになる。こうして、汚水から効率的に金属イオンを分離することが可能になる。
【0022】
ところで、本発明で用いる薬剤の使用順序を変えても金属イオン分離・回収が可能である。まず始めに、酸性基を有する水溶性高分子2の水溶液を陰イオン交換樹脂5に加え、陰イオン交換樹脂5の表面のアミノ基と酸性基を有する水溶性高分子2の酸性基とをイオン結合させておく。こうすることで、陰イオン交換樹脂5の表面に多くの酸性基を持たせることができる。その後、酸性基を有する水溶性高分子2の水溶液から陰イオン交換樹脂5が引き上げられる。この状態で陰イオン交換樹脂5を汚水に接触させると、陰イオン交換樹脂5の表面の酸性基が金属イオンをトラップし、汚水からの金属分離が可能になる。つまり、汚水に対し酸性基を有する水溶性高分子2,陰イオン交換樹脂5の順で使用していたものを、予め酸性基を有する水溶性高分子2及び陰イオン交換樹脂5の結合体を形成しておいた後で汚水を添加するという方法である。なお、引き上げた陰イオン交換樹脂5に汚水を接触させる際、汚水に強磁性を示す金属粉が添加されていてもよい。
【0023】
次に、酸性基を有する水溶性高分子2及び陰イオン交換樹脂5の再生まで含めた金属イオンの分離・回収スキームを図2に示す。
【0024】
ここでは、汚水に対し酸性基を有する水溶性高分子6,陰イオン交換樹脂5の順で使用する方法で説明するが、予め酸性基を有する水溶性高分子6及び陰イオン交換樹脂5の結合体を形成しておいた後で汚水を添加するという方法でもかまわない。
【0025】
始めに、酸性基を有する水溶性高分子6を汚水に添加し、金属イオン7と酸性基8とがイオン結合することにより金属イオン7がトラップされる。次に、汚水を陰イオン交換樹脂9に接触させる。その後、陰イオン交換樹脂9を汚水と分離する。
【0026】
続いて、陰イオン交換樹脂9を塩酸で洗浄する。これにより、酸性基を有する水溶性高分子6は金属イオンを離し、陰イオン交換樹脂9から外れ、塩酸含有の洗浄液中に溶解する。金属イオン7は金属塩化物10となり、塩酸含有の洗浄液中に溶解する。
【0027】
なお、ここでは塩酸を用いて説明しているが、洗浄液中に金属塩が溶解するのであれば硝酸や硫酸等を用いても構わない。例えば、金属種のうち銀等のように塩化物の水に対する溶解度積が低いものは、塩酸に代えて硝酸を添加すると、洗浄液に対する溶解性が向上する。
【0028】
陰イオン交換樹脂9はその後、水酸化ナトリウム等の塩基水溶液で洗浄され、塩酸塩となった表面のアミノ基を再びフリーのアミノ基に変換した後、脱イオン水で洗浄して再生する。
【0029】
一方、酸性基を有する水溶性高分子6と金属塩化物10とが溶解している塩酸の洗浄液にアルカリ金属の水酸化物の水溶液である水酸化ナトリウム等の塩基水溶液を加えると、金属塩化物10は金属水酸化物11となり、析出する。これを濾過等で回収することにより、金属が回収可能となる。回収した金属水酸化物は焙煎等により金属酸化物に変換し用いられるか、還元して金属に変換し用いられる。
【0030】
酸性基を有する水溶性高分子6は、塩基水溶液として水酸化ナトリウム水溶液を用いた場合は、酸性基がナトリウム塩構造の基12になり、洗浄液中に溶解している。これに塩酸を適正量加え洗浄液を酸性にして、塩構造の酸性基を再びフリーの酸性基に変換する。こうして、酸性基を有する水溶性高分子6も再生することが可能になる。
【0031】
以上のように、本発明では、金属イオンを分離・回収するための薬剤も再生できるので、低コストで金属イオンを分離・回収することが可能となる。
【0032】
なお、後述する金属分離・回収装置の工程を工夫することにより、陰イオン交換樹脂のアミノ基をフリーに変換する際に用いた塩基水溶液をそのまま金属水酸化物析出に利用することも可能である。こうすることで2工程を1工程で済ますことができるので、回収にかかる費用を更に低減可能である。
【0033】
[1]金属分離用薬剤
金属分離用薬剤は以下の酸性基を有する水溶性高分子,陰イオン交換樹脂及び金属トラップ向上のための添加剤を含む。金属分離用薬剤として、添加剤がない構成でも構わない。
【0034】
(1)酸性基を有する水溶性高分子
酸性基を有する水溶性高分子は酸性基としてカルボキシル基またはスルホン酸基が考えられる。
【0035】
このうち、カルボキシル基を有する水溶性高分子としては安価でアミノ基とイオン結合しやすい点でポリアクリル酸が好適である。このほか、アミノ酸由来のポリアスパラギン酸,ポリグルタミン酸等も毒性が低いという特徴がある。アルギン酸はコンブ等海草の主成分の一種であり、原料が生物由来という点で環境負荷が小さい。
【0036】
スルホン酸基を有する水溶性高分子としては、ポリビニルスルホン酸,ポリスチレンスルホン酸が挙げられる。これらスルホン酸基はカルボキシル基よりも酸性度が大きいため、アミノ基とのイオン結合を形成する割合が高く、陰イオン交換樹脂と安定な結合体を形成できる点で好ましい。
【0037】
以上のように、酸性基を有する水溶性高分子として、ポリアクリル酸,ポリアスパラギン酸,ポリグルタミン酸,アルギン酸,ポリビニルスルホン酸及びポリスチレンスルホン酸のうち少なくとも1種類含まれていることが望ましい。
【0038】
なお、酸性基を有する水溶性高分子のうち水溶性が低い場合は、酸性基をアンモニウム塩構造,ナトリウム塩構造またはカリウム塩構造にすることで水に対する溶解性を向上させることが可能である。アンモニウム塩構造,ナトリウム塩構造またはカリウム塩構造とした後、塩構造を有する酸性基を有する水溶性高分子を汚水に添加することで、陰イオン交換樹脂のアミノ基と効率良くイオン結合を形成することが可能である。
【0039】
ところで、酸性基を有する水溶性高分子の数平均分子量が低すぎると、酸性基を有する水溶性高分子と陰イオン交換樹脂とのイオン結合部位の数が少なくなり、結合体の安定性が低くなる。そこで、酸性基を有する水溶性高分子の数平均分子量は2,000以上が望ましい。なお、数平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によって計測される。
【0040】
また、酸性基を有する水溶性高分子の数平均分子量が大きくなりすぎると、1個の分子が陰イオン交換樹脂表面を広く覆ってしまい、別の分子の結合を阻害してしまうため、結果として多くの陰イオン交換樹脂を用いる必要が生じる。そのため、酸性基を有する水溶性高分子の数平均分子量は300,000以下であることが望ましい。
【0041】
ところで、汚水のpHによって酸性基を有する水溶性高分子の金属トラップ能力は影響を受ける。汚水のpHが低くなりすぎると、具体的には汚水のpHが2未満になると金属と酸性基を有する水溶性高分子とのイオン結合が解離してしまい、金属をトラップできなくなる。また、汚水のpHが高すぎると、具体的には汚水のpHが5を超えると、汚水中の金属イオンのイオンとしての安定性が低下し、金属種によっては金属水酸化物として汚水中に析出してくるものも出てくる。そのため、汚水のpHは2以上5以下に制御しておくことが望ましい。具体的には、汚水に緩衝液を添加してpHを制御する等の方法が挙げられる。
【0042】
(2)陰イオン交換樹脂
陰イオン交換樹脂は高分子の微粒子であり、陰イオン交換樹脂の表面にアミノ基を有している。また、陰イオン交換樹脂の内部に鉄,コバルト,ニッケル等の強磁性の金属粉が含まれるものも挙げられる。これら金属粉を含んでいるものは磁気によって分離等が可能なので、陰イオン交換樹脂の再生等で好適である。なお、金属分離用薬剤として、別途、磁性の金属粉が含まれている構成でも構わない。
【0043】
(3)金属トラップ向上のための添加剤
処理する汚水中の金属塩の塩基性度が低い場合、酸性基を有する水溶性高分子の酸性基とイオン結合とを形成する割合が低下する。そこで、酸性基を有する水溶性高分子を汚水に添加する前に塩化ナトリウムや塩化カリウム等の無機塩を汚水に添加することにより、酸性基とイオン結合する金属イオンの割合が高まる。これは、金属塩の対アニオンが酢酸イオン,安息香酸イオン等有機物の場合に効果が大きい。この効果が現れる原因は、塩を添加して水中に溶解している有機物を析出させる塩析と類似の効果により汚水中に溶解できる金属イオンの許容割合下げているのではないかと推定している。
【0044】
添加する無機塩は、塩化ナトリウム,塩化カリウム,塩化マグネシウム,塩化カルシウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩酸塩,硫酸ナトリウム,硫酸カリウム,硫酸マグネシウム,硫酸カルシウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の硫酸塩,硝酸ナトリウム,硝酸カリウム,硝酸マグネシウム,硝酸カルシウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の硝酸塩、等が挙げられる。
【0045】
[2]金属分離・回収方法
(1)本発明の金属分離方法の概略
本発明の金属分離方法は前述の図1の通りである。ただし、前述のように汚水に酸性基を有する水溶性高分子を添加し、次に陰イオン交換樹脂に接触させる順序を変えて、酸性基を有する水溶性高分子に陰イオン交換樹脂を添加し、その後酸性基を有する水溶性高分子と接触した陰イオン交換樹脂を汚水に接触させる方法でもかまわない。
【0046】
(2)金属分離用薬剤の添加割合等
ここで、汚水中の金属イオンの数と価数の積をMB、添加する酸性基を有する高分子の酸性基の数をPA、陰イオン交換樹脂のアミノ基の数をPBとするとき、それぞれの添加量が下記不等式となるよう調整する。これにより、金属の除去割合を高めることができる。
PA≧MB …(a)
PB≧PA−MB …(b)
【0047】
式(a)は、汚水中には金属イオンと価数との積より酸性基を有する高分子の酸性基の方が多くなることを意味している。本発明における水溶性高分子の酸性基と金属イオンとのイオン結合を形成する反応は、元々平衡反応と考えられる。そのため、金属イオンと価数との積に比べて水溶性高分子の酸性基の方が過剰になれば金属イオンのトラップ割合を高くできる。
【0048】
また、式(b)は、酸性基を有する高分子の酸性基のうち、金属イオンとイオン結合しない数より、陰イオン交換樹脂のアミノ基の数の方が多くなることを意味している。これにより、金属イオンをトラップした酸性基を有する高分子ほとんど全てを陰イオン交換樹脂でトラップするので、汚水中から酸性基を有する高分子のほとんどを回収することが可能になる。これは、汚水の総炭素化合物(TOC)濃度を上昇させない点で好ましい。
【0049】
(3)金属除去の向上策
上記以外の金属除去の向上策としては、酸性基を有する高分子の添加量を酸性基の数として考えた場合、酸性基の数は汚水中の金属イオンと価数との積の数よりなるべく多く添加する。
【0050】
また、陰イオン交換樹脂を汚水と接触させる際は、陰イオン交換樹脂を円筒状のカラムに充てん後、汚水を通すまたは陰イオン交換樹脂をビーカー等の容器に入れ、これに汚水を注ぎ、撹拌する等の方法が挙げられる。
【0051】
陰イオン交換樹脂をカラムに充てん後、汚水を通す場合、陰イオン交換樹脂の微粒子がカラムに保持されるので、その後塩酸または精製水で洗浄する際もハンドリングが容易になる。
【0052】
陰イオン交換樹脂をビーカー等の容器に入れる場合、陰イオン交換樹脂は攪拌羽等の攪拌機構で攪拌できるので、酸性基を有する水溶性高分子と陰イオン交換樹脂とが遭遇する単位時間当たりの頻度は増大する。そのため、酸性基を有する水溶性高分子を陰イオン交換樹脂がトラップする速度は向上する。汚水または塩酸洗浄液から陰イオン交換樹脂を分離する際は、濾過によりフィルタ等で回収される。
【0053】
また、強磁性の金属粉が含有されている陰イオン交換樹脂を用いると、磁石により陰イオン交換樹脂を吸着することができる。そのため、磁石を用いることで汚水または塩酸洗浄液から陰イオン交換樹脂を分離することが可能になる。
【0054】
その他に金属の分離効率を高める方法として、汚水中に無機の塩を添加しておく方法が挙げられる。これにより、塩析に類似の効果により分離効率が高まるものと推定される。加える無機の塩は、自然界に豊富に存在する塩化ナトリウムが好適である。特に、海底油田等の汚水処理の場合は海水中の平均塩化ナトリウム濃度が約3%なので、そのレベルまでは添加しても環境に与える影響は軽微であり、好適である。
【0055】
[3]金属分離・回収装置の発明の形態
次に、本発明の金属分離・回収装置について説明する。このうち金属分離・回収装置の形態1〜7は、汚水に酸性基を有する水溶性高分子を混合し、その後陰イオン交換樹脂に接触させる方法に対応している。また、金属分離・回収装置の形態8は陰イオン交換樹脂を酸性基を有する水溶性高分子の水溶液に添加し、その後、この陰イオン交換樹脂を汚水と接触させる方法に対応している。
【0056】
(1)金属分離・回収装置の形態1
本発明の金属分離・回収装置の基本構成について図3を使って説明する。
【0057】
ポンプ13により配管14を通って、汚水は第一の混合槽15に投入される。第一の混合槽15の中の液体はオーバーヘッドスターラー16によって攪拌される。まず、第1のタンク17からポンプ18により配管19を通って、酸性基を有する水溶性高分子水溶液が第一の混合槽15に投入される。
【0058】
また、汚水のpH及び汚水と酸性基を有する水溶性高分子との混合液体のpHはpHセンサ20によって計測され、後述のように必要に応じてpHは制御される。
【0059】
第一の混合槽15内の水溶液を十分混合した後、ポンプ21を用いて配管22を通して、第一の混合槽15の水溶液は第二の混合槽23に投入される。第二の混合槽23の中の液体はオーバーヘッドスターラー24によって攪拌される。
【0060】
ところで、汚水のpHを制御する必要がある場合、第2のタンク25からポンプ26により配管27を通って、緩衝液の水溶液が第二の混合槽23に投入される。これにより、第一の混合槽15内で、酸性基を有する水溶性高分子が金属イオンをトラップするために適正なpHにコントロールされる。なお、汚水のpHを制御する必要が無ければ、第2のタンク25,ポンプ26及び配管27を設ける必要はない。
【0061】
第二の混合槽23に投入された汚水は共存する陰イオン交換樹脂28と接触し、金属イオンをトラップした酸性基を有する水溶性高分子が陰イオン交換樹脂表面にトラップされる。
【0062】
続いて、シャッター29が開くと、第二の混合槽23の下部に配置されたフィルタ30を通って第二の混合槽23から汚水が排出される。フィルタ30には穴があり、陰イオン交換樹脂28はフィルタの穴でせき止められるため、第二の混合槽23からは排出されない。つまり、フィルタ30の穴により陰イオン交換樹脂28が保持される。
【0063】
ここで、排出した液体の金属成分がかなり残っている場合は、再び汚水として第一の混合槽15に戻される。また、排出された液体中の金属成分がかなり除去されている場合は、別の物質を除去する汚水処理装置(図では省略)に送るかまたは河川に放流される。これら液体の流れの制御はバルブ31で行われる。液体中の金属濃度の測定は、バルブの近傍に測定器を設けるか、液体を少量採取し別途測定する等の方法で行われる。
【0064】
第二の混合槽23の液体成分が排出された後、第3のタンク32からポンプ33により、配管34を通って塩酸水溶液が第二の混合槽23に投入される。すると、酸性基を有する水溶性高分子及び金属イオンが陰イオン交換樹脂28の表面から外れる。その後、塩酸と一緒に酸性基を有する水溶性高分子及び金属イオンは金属回収槽35に送られる。なお、塩化物にすると水に不溶になる銀のような金属種を回収する場合は、塩酸の代わりに硝酸を用いる。
【0065】
続いて、第4のタンク36からポンプ37により配管38を通って、水酸化ナトリウム水溶液が第二の混合槽23に投入され、陰イオン交換樹脂28が洗浄される。また、洗浄液も金属回収槽35に送られる。すると、溶解していた金属が水酸化物になるので、析出する。酸性基を有する水溶性高分子の酸性基はナトリウム塩構造になる。しかし、酸性基を有する水溶性高分子は水に溶解しており、シャッター39を開けると、フィルタ40を介して、酸性基を有する水溶性高分子貯蔵槽41に送られる。析出した金属の水酸化物はフィルタ上に残る。なお、ここでは水酸化ナトリウムを用いて説明しているが、水酸化ナトリウムの代わりに水酸化カリウム,水酸化マグネシウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物でも使用可能である。
【0066】
続いて、第5のタンク42からポンプ43により、配管44を通って精製水が第二の混合槽23に投入され、陰イオン交換樹脂28が洗浄される。また、洗浄液も金属回収槽35に送られ、金属水酸化物も洗浄される。この後、金属水酸化物を回収することにより金属回収が終了する。
【0067】
なお、水溶性高分子貯蔵槽41中の酸性基を有する水溶性高分子のナトリウム塩は、その後、塩酸を加え、酸性基を有する水溶性高分子に変換後、再び第1のタンク17に送られ、金属回収に用いることができる。
【0068】
(2)金属分離・回収装置の形態2
本発明の金属分離・回収装置のうち、磁気分離方法を用いた構成について図3を使って説明する。ここでは、2種類の方法が挙げられる。
【0069】
A)強磁性を示す金属粉が含有されている陰イオン交換樹脂粒子を用いる場合
陰イオン交換樹脂28の粒子内に強磁性を示す金属粉が含有されているものを用いる。また、第二の混合槽23中のオーバーヘッドスターラー24の羽根の部分は電磁石にしておく。こうすると、第二の混合槽23内部を洗浄等行う際に、オーバーヘッドスターラー24の羽根の部分に磁力が付与されていることにより、陰イオン交換樹脂28を引き付け、付着させる。これにより、第二の混合槽23内部から金属を回収することが可能になる。また、金属回収槽35に送る際も、オーバーヘッドスターラー24の羽根の部分に磁力が付与されていることにより、陰イオン交換樹脂を引き付け、付着させる。これにより、陰イオン交換樹脂28によるフィルタの目詰まりも抑制できる。
【0070】
B)汚水中に強磁性を示す金属粉を添加する場合
汚水に酸性基を有する水溶性高分子及び強磁性を示す金属粉が添加される。また、第二の混合槽23中のオーバーヘッドスターラー24の羽根の部分は電磁石にしておく。こうすると、酸性基を有する水溶性高分子が金属イオンをトラップする際、強磁性を示す金属粉の一部が酸性基を有する水溶性高分子に取り込まれる。その状態で第二の混合槽23に送られ、陰イオン交換樹脂28と酸性基を有する水溶性高分子とが結合する際、その複合体に強磁性を示す金属粉も一緒に取り込まれる。
【0071】
引き続き、第二の混合槽23内部を洗浄等行う際に、オーバーヘッドスターラー24の羽根の部分に磁力が付与されていることにより、金属イオンをトラップし、陰イオン交換樹脂28にイオン結合した酸性基を有する水溶性高分子を羽根に引き付け、付着させるこれにより、第二の混合槽23内部から金属を回収することが可能になる。なお、陰イオン交換樹脂28と強磁性を示す金属粉は磁気分離または遠心分離で分離される。
【0072】
(3)金属分離・回収装置の形態3
本発明の金属分離・回収装置のうち、陰イオン交換樹脂をカラムに充填して用いた構成について図4を使って説明する。
【0073】
第一の混合槽15で混合された液体は、ロート45を介して陰イオン交換樹脂28が充填された円筒形のカラム46に投入される。カラム46の下部には陰イオン交換樹脂28が漏れないようフィルタ47が設けられている。つまり、フィルタ47により陰イオン交換樹脂28が保持される。
【0074】
陰イオン交換樹脂28を通過した液体は金属回収槽35に入る。こうして、液体中の金属イオンをトラップした酸性基を有する水溶性高分子が陰イオン交換樹脂28にトラップされる。なお、ロート45の内部及びカラム46の内部は加圧気体導入管49から導入される加圧空気または窒素ガス等により陽圧とすることで、カラム46の内部を通過する液体の通過速度を高め、金属回収の処理速度向上を図ることができる。また、加圧の程度はバルブ50で制御される。
【0075】
金属回収槽35に入った液体はバルブ51を開けることでバイパス管52を介して、別の物質を除去する汚水処理装置(図では省略)に送られるかまたは河川に放流される。ただ、これらは排出した液体中の金属成分がかなり除去されている場合である。排出した液体の金属成分がかなり残っている場合は、再び汚水として第一の混合槽15に戻す。
【0076】
次に、バルブ51を閉め、第3のタンク32から、塩酸がカラム46に投入される。すると、陰イオン交換樹脂28にトラップされていた金属イオン及び酸性基を有する水溶性高分子が陰イオン交換樹脂28から外れ、金属回収槽35に入る。金属イオンは金属塩化物に変化する。また、陰イオン交換樹脂28の表面のアミノ基が塩酸塩の構造に変化する。
【0077】
次に、第4のタンク36から水酸化ナトリウム水溶液がカラム46に投入される。すると、陰イオン交換樹脂28の表面の塩酸塩構造のアミノ基が、通常のアミノ基に変換される。更に、水酸化ナトリウム水溶液は金属回収槽35中に入る。溶解していた金属塩化物は水に不溶の金属水酸化物に変化し、析出する。また、酸性基を有する水溶性高分子はナトリウム塩構造に変化する。しかし、酸性基を有する水溶性高分子は溶解しているため、シャッター53を開けるとフィルタ54を介して、酸性基を有する水溶性高分子貯蔵槽41に送られる。析出した金属の水酸化物はフィルタ47上に残る。
【0078】
続いて、第5のタンク42から精製水が第二の混合槽23に投入され、陰イオン交換樹脂28が洗浄される。また、洗浄液も金属回収槽35に送られ、金属水酸化物も洗浄される。
【0079】
この後、金属水酸化物を回収することにより金属回収が終了する。また、水溶性高分子貯蔵槽41中の酸性基を有する水溶性高分子のナトリウム塩は、その後、塩酸を加え、酸性基を有する水溶性高分子に変換された後、再び第1のタンク17に送られ、金属回収に用いることができる。
【0080】
(4)金属分離・回収装置の形態4
本発明の金属分離・回収装置のうち、陰イオン交換樹脂をカラムに充填して用いた構成で水酸化ナトリウム水溶液を加える代わりに電気分解によって水酸化ナトリウムを発生させる機構を有する場合について、図5を使って説明する。
【0081】
まず、塩酸を添加するまでは金属分離・回収装置の形態3と同様の構成・プロセスで進める。
【0082】
金属分離・回収装置の形態3で水酸化ナトリウム水溶液を添加するところで、本形態では、第4のタンク36からポンプ37を使って、配管38を介して塩化ナトリウム水溶液が電極55近傍に放出される。カラム46の上部に電気分解を行うための電極55が配置される。ただし、電極55の位置がカラム46の上部でなくとも構わない。ここで、電極55を用いて液体に通電し、液体中の塩化ナトリウムを電気分解することにより、水酸化ナトリウムを生じさせる。電気分解の際の電圧,電流等は制御装置56により調整される。
【0083】
以後は、金属分離・回収装置の形態3と同様の構成・プロセスで進める。電気分解によって水酸化ナトリウムを生成させることにより、本装置では消耗品であり、且つ劇物である水酸化ナトリウムが不要になる。
【0084】
水酸化ナトリウムは毒物・劇物取締法の劇物に該当しており、使用・保管等の規制を受ける。しかし、本形態の場合は、必要な場合に必要な量を電気分解で生成できるので、金属分離・回収装置の稼動に際しての法的な規制が緩和される。
【0085】
(5)金属分離・回収装置の形態5
本発明の金属分離・回収装置のうち、混合槽が1つである構成について、図6を使って説明する。
【0086】
第一の混合槽15の下部にはシャッター39及びフィルタ40が配置される。また、第一の混合槽15に対して、第3のタンク32からの配管34,第4のタンク36からの配管38及び第5のタンク42からの配管44が設けられる。これにより、第二の混合槽23を設けなくとも本発明の金属分離・回収装置を構成できる。ここで、第一の混合槽15の下部にはフィルタ40が配置される。フィルタ40は穴を有する。フィルタ40の穴において陰イオン交換樹脂28が保持される。以上により、混合槽を1つ減らせるので、装置のコンパクト化が可能となる。
【0087】
この構成の場合、強磁性の金属粉を含有する陰イオン交換樹脂28が有効である。汚水と酸性基を有する水溶性高分子の水溶液とを混合する際は、オーバーヘッドスターラー24の羽根に磁力が付与されていることにより、陰イオン交換樹脂28がオーバーヘッドスターラー24の羽根に付着される。さらに、汚水と酸性基を有する水溶性高分子の水溶液とが混合された後にオーバーヘッドスターラー24の磁力を低下させることにより、汚水と酸性基を有する水溶性高分子の水溶液との混合液体及び陰イオン交換樹脂28を混合する。これにより、効率的に酸性基を有する水溶性高分子に金属イオンをトラップさせることが可能になる。
【0088】
(6)金属分離・回収装置の形態6
本発明の金属分離・回収装置のうち、カラムが複数ある構成について図7を使って説明する。
【0089】
カラム46に陰イオン交換樹脂28を充填して用いる場合、本発明の金属の分離・回収工程は、カラム46内の陰イオン交換樹脂28同士の隙間を進む時間が工程全体のかなりの部分を占める。つまり、下記A)〜D)の4種類の液体を通すカラム46を別々にすれば、この工程にかかる時間が数分の一にすることができる。
A)汚水と酸性基を有する水溶性高分子の水溶液を混合した液体
B)塩酸水溶液
C)水酸化ナトリウム水溶液
D)精製水
工程は以下の通りである。
【0090】
図7の左端のカラム46に第一の混合槽15から汚水と酸性基を有する水溶性高分子の水溶液とを混合した液体が投入される。すると、カラム46は右側に移動する。次に、第3のタンク32から配管34を通って塩酸水溶液がカラム46に投入される。すると、カラム46は右側に移動する。次に、第4のタンク36から配管38を通って水酸化ナトリウム水溶液がカラム46に投入される。すると、カラム46は右側に移動する。次に、第5のタンク42から配管44を通って精製水がカラム46に投入される。
【0091】
複数のカラムが複数の金属の分離・回収工程を順に進むので、トータルとしてはカラム内部の液体の移動に伴う時間が短縮でき、金属の分離・回収が高速で行えるようになる。
【0092】
(7)金属分離・回収装置の形態7
本発明の金属分離・回収装置のうち、磁気分離により陰イオン交換樹脂を回収する構成について、図8を使って説明する。
【0093】
ここでは図6と同様、第一の混合槽15には陰イオン交換樹脂28も添加されている。陰イオン交換樹脂28の粒子内部には強磁性を示す金属粉が含有されているものを用いる。
【0094】
また、本形態の装置では、第一のローラー57,第二のローラー58,第三のローラー59,第四のローラー60及びベルト61を有する陰イオン交換樹脂搬送機構を有する。第四のローラー60から第一のローラー57を経て第二のローラー58までのベルト61表面は磁力を有する。これにより、第一の混合槽15中の陰イオン交換樹脂28をベルト表面に付着させることができる。第二のローラー58から第四のローラー60までは磁力が無いので、陰イオン交換樹脂28は第三のローラー59から外れ、陰イオン交換樹脂回収槽62内部に集められる。
【0095】
前述のように、第一の混合槽15中の陰イオン交換樹脂28は金属イオンをトラップした酸性基を有する高分子を結合している。
【0096】
こうして、金属イオンをトラップした酸性基を有する高分子を結合した陰イオン交換樹脂28が陰イオン交換樹脂回収槽62に集められる。
【0097】
次に、図9を使って金属イオンをトラップした酸性基を有する高分子を結合した陰イオン交換樹脂28から金属を回収する工程を記述する。
【0098】
まず、第3のタンク32からポンプ33により、配管34を通って塩酸水溶液が陰イオン交換樹脂回収槽62に投入される。すると、酸性基を有する水溶性高分子と金属イオンとが陰イオン交換樹脂28の表面から外れる。その後、塩酸と一緒に酸性基を有する水溶性高分子と金属イオンとが金属回収槽35に送られる。
【0099】
続いて、第4のタンク36からポンプ37により、配管38を通って水酸化ナトリウム水溶液が陰イオン交換樹脂回収槽62に投入され、陰イオン交換樹脂28が洗浄される。また、洗浄液も金属回収槽35に送られる。すると、溶解していた金属が水酸化物になるので、析出する。酸性基を有する水溶性高分子の酸性基はナトリウム塩構造になる。しかし、酸性基を有する水溶性高分子は水に溶解しており、シャッター39を開けると、フィルタ40を介して、酸性基を有する水溶性高分子貯蔵槽41に送られる。析出した金属の水酸化物はフィルタ40上に残る。
【0100】
こうして、磁気分離方式を用いて予め陰イオン交換樹脂28を回収した上での金属回収が可能となる。
【0101】
(8)金属分離・回収装置の形態8
本発明の金属分離・回収装置のうち、酸性基を有する水溶性高分子水溶液に陰イオン交換樹脂を添加し、その後磁気分離により陰イオン交換樹脂の回収する構成について、図10を使って説明する。
【0102】
まず、第一の混合槽15に、強磁性を示す金属粉が含有された陰イオン交換樹脂28を入れる。次に、第1のタンク17から酸性基を有する水溶性高分子の水溶液が第一の混合槽15に投入される。その後、オーバーヘッドスターラー16で撹拌する。
【0103】
次に、第一のローラー57,第二のローラー58,第三のローラー59,第四のローラー60及びベルト61を有する陰イオン交換樹脂搬送機構により陰イオン交換樹脂28は陰イオン交換樹脂回収槽62内部に集められる。集められた陰イオン交換樹脂28は酸性基を有する水溶性高分子を表面に付着させた陰イオン交換樹脂63に変化している。こうして、陰イオン交換樹脂の前処理、即ち酸性基を有する水溶性高分子を表面に付着させる前処理が終了する。
【0104】
次に、酸性基を有する水溶性高分子を表面に付着させた陰イオン交換樹脂63を用いた金属イオン回収スキームについて、図11を使って説明する。
【0105】
まず、酸性基を有する水溶性高分子を表面に付着させた陰イオン交換樹脂63の上に汚水を注ぐ。これにより、汚水中の金属イオンが陰イオン交換樹脂63表面に結合している酸性基を有する水溶性高分子の酸性基でトラップされる。シャッター39を開けて汚水を排出した後、シャッター39を閉める。
【0106】
次に、第3のタンク32からポンプ33により、配管34を通って塩酸水溶液が陰イオン交換樹脂回収槽62に投入される。すると、酸性基を有する水溶性高分子と金属イオンとが酸性基を有する水溶性高分子を表面に付着させた陰イオン交換樹脂63表面から外れる。その後、塩酸と一緒に酸性基を有する水溶性高分子と金属イオンとが金属回収槽35に送られる。
【0107】
続いて、第4のタンク36からポンプ37により、配管38を通って水酸化ナトリウム水溶液が陰イオン交換樹脂回収槽62に投入され、酸性基を有する水溶性高分子を表面に付着させた陰イオン交換樹脂63が洗浄される。また、洗浄液も金属回収槽35に送られる。すると、溶解していた金属が水酸化物になるので、析出する。酸性基を有する水溶性高分子の酸性基はナトリウム塩構造になる。しかし、酸性基を有する水溶性高分子は水に溶解しており、シャッター39を開けると、フィルタ40を介して、酸性基を有する水溶性高分子貯蔵槽41に送られる。析出した金属の水酸化物はフィルタ上に残る。
【0108】
以上のように、汚水,酸性基を有する水溶性高分子及び陰イオン交換樹脂の添加順序を変えても金属回収が可能となる。強磁性を示す金属粉が含有されていない陰イオン交換樹脂28を用いる場合は、酸性基を有する水溶性高分子添加の際、強磁性を示す金属粉を一緒に添加することで、強磁性を示す金属粉が酸性基を有する水溶性高分子が表面に付着させた陰イオン交換樹脂63の中に取り込まれる。その後、上記陰イオン交換樹脂搬送機構により、陰イオン交換樹脂28を陰イオン交換樹脂回収槽62に集めることが可能になる。
【0109】
〔実施例〕
以下に具体的な実施例を示して、本願発明の内容をさらに詳細に説明する。以下の実施例は本願発明の内容の具体例を示すものであり、本願発明がこれらの実施例に限定されるものではなく、本明細書に開示される技術的思想の範囲内において当業者による様々な変更および修正が可能である。
【実施例1】
【0110】
金属塩として硫酸銅が1595ppm溶解している硫酸銅水溶液(試験水)1リットル(硫酸銅としては10mmol)を攪拌中に、酸性基を有する水溶性高分子としてポリアクリル酸(平均分子量は25,000)の10重量%水溶液20g(カルボキシル基の数としては27.8mmol)を加える。試験水の色が薄い青色から薄い青緑色に変化する。
【0111】
次に、陰イオン交換樹脂(三菱化学製SA10A、交換容量:1.3meq/ml、見かけ密度:0.665g/ml)を2g(交換容量は2.31mmolに相当)を加え、更に攪拌を続ける。
【0112】
すると、試験水の青緑色がかなり薄くなった。また、陰イオン交換樹脂表面に淡緑色の物質が付着していた。これは、銅イオンをトラップしたポリアクリル酸である。
【0113】
次に、上記混合液を濾紙で濾過後、濾過液の硫酸銅濃度を誘導結合プラズマ発光分光分析装置で定量したところ、濾過液中の硫酸銅濃度は80ppmに低下した。以上より、酸性基を有する水溶性高分子としてポリアクリル酸及び陰イオン交換樹脂を用いることで汚水中の金属イオンを分離できた。
【0114】
次に、金属の回収に関して記述する。濾紙で濾過後、濾紙上に陰イオン交換樹脂が残る。この濾紙ごとビーカーに入れ、1規定の塩酸50mlを加え、濾紙を良く洗う。すると、濾紙からイオン交換樹脂が外れ、イオン交換樹脂に付着していた淡緑色の物質は塩酸に溶解する。こうして、銅イオンは塩化銅になり、ポリアクリル酸は銅イオンを離してフリーになる。
【0115】
ビーカーから濾紙を取り出し、1規定の水酸化ナトリウム水溶液100mlを加えると沈殿を生じる。これは水酸化銅である。濾過により、水酸化銅約を濾取し、水洗することで金属回収が完了する。得られた水酸化銅は約0.8g(約8.2mmol)であった。
【0116】
乾燥のため水酸化銅を100〜120℃に加熱すると、容易に酸化銅に変化する。したがって、その後の用途,適用方法を考え水酸化銅または酸化銅の形で回収する。
【0117】
ところで、ポリアクリル酸は水酸化ナトリウムの添加によってポリアクリル酸ナトリウムに変化している。そこで、再度塩酸を加えることにより、ポリアクリル酸に再生することが可能であり、この操作により、再び金属回収に用いることが可能である。なお、再生の確認は上記ポリアクリル酸の溶解している液をメタノール中に滴下し、析出する固体(ポリアクリル酸)を乾燥後、IRスペクトル測定により行った。具体的には、金属分離・回収に用いる前のポリアクリル酸と再生後の物質の吸収スペクトルが一致することで確認した。
【0118】
また、陰イオン交換樹脂は、塩酸で洗浄することにより表面のアミノ基が塩酸塩構造に変化する。そこで、水酸化ナトリウム水溶液で洗浄して塩酸塩構造を再びアミノ基に戻し、余分の水酸化ナトリウムを精製水で除去することにより、陰イオン交換樹脂として再生することが可能である。この操作により、再び金属回収に用いることが可能である。
【0119】
以上より、通常は酸等をトラップする陰イオン交換樹脂及び酸性基を有する水溶性高分子を用いて金属を回収可能であることを確認した。また、陰イオン交換樹脂の使用量は交換容量として2.31mmolに相当する分しか使用しておらず、回収された水酸化銅(8.2mmol)に比べて少ない(銅は2価なので、陽イオン交換樹脂を用いて回収する場合は最低でも16.4mmolの交換容量分添加する必要がある)。よって、イオン交換樹脂のみでの必要量よりもかなり少量で金属回収が可能であることも確認された。
【0120】
更に、回収に用いた酸性基を有する水溶性高分子であるポリアクリル酸及び陰イオン交換樹脂も再生できることが確認された。
【実施例2】
【0121】
硫酸銅が1595ppm溶解している試験水1リットルの代わりに、塩化ニッケルが1300ppm溶解している試験水1リットルを用いる以外は実施例1と同様の試験を試みたところ、濾過液中の酢酸濃度は65ppmに低下した。また、実施例1と同様に回収に用いた酸性基を有する水溶性高分子であるポリアクリル酸及び陰イオン交換樹脂も再生できることが確認された。
【実施例3】
【0122】
ポリアクリル酸(平均分子量は25,000)の10重量%水溶液20gの代わりに、ポリアクリル酸ナトリウムの10重量%水溶液27g(カルボキシル基がナトリウム塩になった構造の数としては28.7mmol)を用いる以外は実施例1と同様の試験を試みたところ、濾過液中の硫酸銅濃度は90ppmに低下した。
【0123】
よって、カルボキシル基が塩構造に変換された水溶性高分子を用いても、水に溶解している金属を除去できることが確かめられた。
【実施例4】
【0124】
ポリアクリル酸の10重量%水溶液20gの代わりに、ポリメタクリル酸の10重量%水溶液24g(カルボキシル基の数としては27.9mmol)を用いる以外は実施例1と同様の試験を試みたところ、濾過液中の硫酸銅濃度は90ppmに低下した。
【0125】
よって、カルボキシル基を有する水溶性高分子としてポリアクリル酸の代わりにポリメタクリル酸を用いても、水に溶解している金属を除去できることが確かめられた。
【実施例5】
【0126】
ポリアクリル酸の10重量%水溶液20gの代わりに、ポリスチレンスルホン酸ナトリウムの10重量%水溶液60g(スルホン酸基がナトリウム塩になった構造の数としては29.1mmol)を用いる以外は実施例1と同様の試験を試みたところ、濾過液中の硫酸銅濃度は90ppmに低下した。
【0127】
よって、酸性基を有する水溶性高分子としてスルホン酸基を有する水溶性を用いても、水に溶解している金属を除去できることが確かめられた。
【実施例6】
【0128】
図3の金属分離・回収装置を用いて実施例1で用いた硫酸銅水溶液(試験水)からの金属分離・回収を行った。
【0129】
ポンプ13により、配管14を通って、第一の混合槽15に汚水として試験水を投入する。オーバーヘッドスターラー16によって攪拌中、第1のタンク17からポンプ18により、配管19を通ってポリアクリル酸水溶液を第一の混合槽15に投入する。試験水とポリアクリル酸水溶液とはオーバーヘッドスターラー24によって攪拌される。
【0130】
第一の混合槽15内の液を十分混合した後、ポンプ21によって、配管22を通して第一の混合槽15中の液を第二の混合槽23に投入する。この中の液体はオーバーヘッドスターラー24によって攪拌される。第二の混合槽23に投入された液体は共存する陰イオン交換樹脂28と接触し、銅イオンをトラップしたポリアクリル酸が陰イオン交換樹脂28表面にトラップされる。
【0131】
続いて、シャッター29が開くと、フィルタ30を通って試験水は第二の混合槽23から排出される。第二の混合槽23の液体成分が排出された後、第3のタンク32からポンプ33により、配管34を通って塩酸水溶液が第二の混合槽に投入される。すると、ポリアクリル酸と銅イオンとが陰イオン交換樹脂表面から外れる。その後、塩酸と一緒に金属回収槽35に送られる。
【0132】
続いて、第4のタンク36からポンプ37により、配管38を通って水酸化ナトリウム水溶液が第二の混合槽23に投入され、陰イオン交換樹脂28が洗浄される。また洗浄液も金属回収槽35に送られる。すると、溶解していた銅イオンが水酸化物になるので、析出する。ポリアクリル酸は、カルボキシル基がナトリウム塩構造のポリアクリル酸ナトリウムになる。しかし、ポリアクリル酸ナトリウムは水に溶解しており、シャッター39を開けると、フィルタ40を介して、酸性基を有する水溶性高分子貯蔵槽41に送られる。析出した水酸化銅はフィルタ40上に残る。
【0133】
続いて、第5のタンク42からポンプ43により、配管44を通って精製水が第二の混合槽23に投入され、陰イオン交換樹脂28が洗浄される。また洗浄液も金属回収槽35に送られ、水酸化銅も洗浄される。洗浄後の水酸化銅を回収したところ、約0.8g(約8.2mmol)得られた。
【0134】
以上により、本装置で金属回収が行えることを確認した。また、水溶性高分子貯蔵槽41中のポリアクリル酸ナトリウムは、その後、塩酸を加え、ポリアクリル酸に変換後、再び第1のタンク17に送られ、再び金属回収に用いることが可能であることも確認した。
【実施例7】
【0135】
図4の金属分離・回収装置を用いて実施例1で用いた硫酸銅水溶液(試験水)からの金属分離・回収を行った。
【0136】
実施例6と同様、第一の混合槽15で試験水とポリアクリル酸水溶液とが攪拌され、試験水とポリアクリル酸水溶液との混合液体が形成される。ポンプ21により、陰イオン交換樹脂28が充填された円筒形のカラム46にこの液体が投入される。
【0137】
カラム46内部を加圧導入管49から導入される加圧空気で加圧することにより、陰イオン交換樹脂28を敏速に通過した液体は金属回収槽35に入る。こうして、液体中の銅イオンをトラップしたポリアクリル酸が陰イオン交換樹脂28にトラップされる。金属回収槽に入った液体は、バルブ51を開けることでバイパス管52を介して排出される。
【0138】
次に、バルブ51を閉め、第3のタンク32から、塩酸をカラム46に投入する。すると、陰イオン交換樹脂28にトラップされていた銅イオン及びポリアクリル酸が陰イオン交換樹脂から外れ、金属回収槽35に入る。
【0139】
次に、第4のタンク36から水酸化ナトリウム水溶液をカラム46に投入する。すると、陰イオン交換樹脂28表面の塩酸塩構造のアミノ基が、通常のアミノ基に変換される。更に、水酸化ナトリウム水溶液は金属回収槽35中に入り、溶解していた銅イオンは水に不溶の水酸化銅に変化し、析出する。また、ポリアクリル酸はポリアクリル酸ナトリウムに変化する。しかし、ポリアクリル酸ナトリウムは溶解しているため、シャッター53を開けると、フィルタ54を介して酸性基を有する水溶性高分子貯蔵槽41に送られる。析出した水酸化銅はフィルタ上に残る。この水酸化銅を水洗し約0.8g(約8.2mmol)得た。
【0140】
以上により、本装置で金属回収が行えることを確認した。また、水溶性高分子貯蔵槽41中のポリアクリル酸ナトリウムは、その後、塩酸を加え、ポリアクリル酸に変換後、再び第1のタンク17に送られ、再び金属回収に用いることが可能であることも確認した。
【実施例8】
【0141】
図5の金属分離・回収装置を用いて実施例1で用いた硫酸銅水溶液(試験水)からの金属分離・回収を行った。
【0142】
実施例7と同様、第一の混合槽15で試験水とポリアクリル酸水溶液とを攪拌し混合液体とした。ポンプ21により、陰イオン交換樹脂28が充填された円筒形のカラム46にこの液体を投入し、陰イオン交換樹脂28を通過した液体は金属回収槽48に入る。
【0143】
次に、金属回収槽48に入った液体は、バルブ51を開けることでバイパス管52を介して排出される。その後、バルブ51を閉め、第3のタンク32から、塩酸をカラム46に投入し、陰イオン交換樹脂28にトラップされていた銅イオン及びポリアクリル酸を陰イオン交換樹脂から外し、金属回収槽48に入る。
【0144】
第4のタンク36から塩化ナトリウム水溶液をカラム46に投入する。ここで、電極55を用いて液体に通電し、液体中の塩化ナトリウムを電気分解することにより水酸化ナトリウムを生じさせる。2つの電極間の電位差は約1.5Vとする。すると、陰イオン交換樹脂28表面の塩酸塩構造のアミノ基が、通常のアミノ基に変換される。更に、水酸化ナトリウムの水溶液は金属回収槽48中に入り、溶解していた銅イオンは水に不溶の水酸化銅に変化し、析出する。また、ポリアクリル酸はポリアクリル酸ナトリウムに変化する。しかし、ポリアクリル酸ナトリウムは溶解しているため、シャッター53を開けるとフィルタ54を介して、酸性基を有する水溶性高分子貯蔵槽41に送られる。析出した水酸化銅はフィルタ上に残る。この水酸化銅を水洗し約0.8g(約8.2mmol)得た。
【0145】
以上により、電気分解を利用することで、劇物である水酸化ナトリウムを添加することなく金属回収が行えることを確認した。また、水溶性高分子貯蔵槽41中のポリアクリル酸ナトリウムは、その後、塩酸を加え、ポリアクリル酸に変換後、再び第1のタンク17に送られ、再び金属回収に用いることが可能であることも確認した。
【実施例9】
【0146】
図10または図11の金属分離・回収装置を用いて実施例1で用いた硫酸銅水溶液(試験水)からの金属分離・回収を行った。
【0147】
まず、陰イオン交換樹脂28(三菱化学製SA10A、交換容量:1.3meq/ml、見かけ密度:0.665g/ml)を2g(交換容量は2.31mmolに相当)図10の装置の第一の混合槽15に入れる。これに、平均粒子径50μmの鉄粉を2g加え撹拌中、酸性基を有する水溶性高分子としてポリアクリル酸(平均分子量は25,000)の10重量%水溶液20g(カルボキシル基の数としては27.8mmol)を加え、更に攪拌を続ける。
【0148】
次に、第一のローラー57,第二のローラー58,第三のローラー59,第四のローラー60及びベルト61を有する陰イオン交換樹脂搬送機構により、陰イオン交換樹脂28を陰イオン交換樹脂回収槽62内部に集める。集められた陰イオン交換樹脂28はポリアクリル酸を表面にイオン結合で付着させた陰イオン交換樹脂63に変化している。
【0149】
次に、ポリアクリル酸を表面にイオン結合で付着させた陰イオン交換樹脂63を用いた金属イオンの回収スキームについて、図11を使って説明する。
【0150】
まず始めに、ポリアクリル酸を表面にイオン結合で付着させた陰イオン交換樹脂の63上に試験水を注ぐ。これにより、試験水中の銅イオンが陰イオン交換樹脂表面に結合しているポリアクリル酸のカルボキシル基にイオン結合でトラップされる。シャッター39を開けて汚水を排出した後、シャッター39を閉める。
【0151】
次に、第3のタンク32からポンプ33により、配管34を通って1規定の塩酸水溶液50mlを、ポリアクリル酸を表面にイオン結合で付着させた陰イオン交換樹脂回収槽62に投入する。すると、ポリアクリル酸と銅イオンとが陰イオン交換樹脂63表面から外れる。その後、塩酸と一緒にポリアクリル酸及び銅イオンが金属回収槽35に送られる。
【0152】
続いて、第4のタンク36からポンプ37により、配管38を通って1規定の水酸化ナトリウム水溶液100mlが陰イオン交換樹脂回収槽62に投入され、ポリアクリル酸を表面にイオン結合で付着させた陰イオン交換樹脂63が洗浄される。また、洗浄液も金属回収槽35に送られる。すると、溶解していた銅イオンが水酸化銅になり析出する。ポリアクリル酸は酸性基がナトリウム塩構造になる。しかし、ポリアクリル酸ナトリウムは水に溶解しており、シャッター39を開けると、フィルタ40を介して、酸性基を有する水溶性高分子貯蔵槽41に送られる。析出した水酸化銅はフィルタ上に残る。水洗後、得られた水酸化銅は約0.8g(約8.2mmol)であった。
【0153】
以上のように、汚水,酸性基を有する水溶性高分子,陰イオン交換樹脂の添加順序を変えても金属回収が可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0154】
1 金属の塩
2,6 酸性基を有する水溶性高分子
3 イオン結合
4 カルボキシル基を有する水溶性高分子
5,9,28,63 陰イオン交換樹脂
7 金属イオン
8 酸性基
10 金属塩化物
11 金属水酸化物
12 ナトリウム塩構造の基
13,18,21,26,33,37,43 ポンプ
14,19,22,27,34,38,44 配管
15 第一の混合槽
16,24 オーバーヘッドスターラー
17 第1のタンク
20 pHセンサ
23 第二の混合槽
25 第2のタンク
29,39,53 シャッター
30,40,47,54 フィルタ
31,50,51 バルブ
32 第3のタンク
35,48 金属回収槽
36 第4のタンク
41 水溶性高分子貯蔵槽
42 第5のタンク
45 ロート
46 カラム
49 加圧気体導入管
52 バイパス管
55 電極
56 制御装置
57 第一のローラー
58 第二のローラー
59 第三のローラー
60 第四のローラー
61 ベルト
62 陰イオン交換樹脂回収槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚水中の金属を回収する金属分離用薬剤であって、
前記金属分離用薬剤が酸性基を有する水溶性高分子及び陰イオン交換樹脂を含むことを特徴とする金属分離用薬剤。
【請求項2】
請求項1の金属分離用薬剤において、
前記金属分離用薬剤に強磁性を示す金属粉が含まれることを特徴とする金属分離用薬剤。
【請求項3】
請求項1または2の金属分離用薬剤において、
前記酸性基を有する水溶性高分子の酸性基がカルボキシル基またはスルホン酸基であり、
前記酸性基を有する高分子がポリアクリル酸,ポリアスパラギン酸,ポリグルタミン酸,アルギン酸,ポリビニルスルホン酸及びポリスチレンスルホン酸の少なくとも1種類からなることを特徴とする金属分離用薬剤。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかの金属分離用薬剤において、
前記酸性基を有する高分子の数平均分子量が2,000以上300,000以下であることを特徴とする金属分離用薬剤。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかの金属分離用薬剤において、
前記酸性基を有する高分子の酸性基がアンモニウム塩構造,アルカリ金属塩構造、またはアルカリ土類金属塩構造であることを特徴とする金属分離用薬剤。
【請求項6】
請求項1及び3乃至5のいずれかの金属分離用薬剤において、
前記陰イオン交換樹脂の内部に金属粉が含有されていることを特徴とする金属分離用薬剤。
【請求項7】
汚水中の金属を回収する金属分離方法であって、
前記汚水に酸性基を有する水溶性高分子が添加される工程と、
前記汚水に陰イオン交換樹脂を接触させる工程とを含む
ことを特徴とする金属分離方法。
【請求項8】
請求項7の金属分離方法において、
前記汚水に強磁性を示す金属粉が添加される工程を含む
ことを特徴とする金属分離方法。
【請求項9】
請求項7の金属分離方法において、
前記汚水に接触させた前記イオン交換樹脂を前記汚水と分離する工程と、
前記陰イオン交換樹脂が洗浄される工程と、
前記洗浄により発生した洗浄液にアルカリ金属の水酸化物の水溶液が添加される工程と、
前記アルカリ金属の水酸化物の水溶液を添加する工程で析出した金属水酸化物が濾取される工程を含むことを特徴とする金属分離方法。
【請求項10】
請求項7または9の金属分離方法において、
前記陰イオン交換樹脂には強磁性を有する金属粉が含有され、
前記金属粉の磁力により前記陰イオン交換樹脂を前記汚水と分離する工程を含むことを特徴とする金属分離方法。
【請求項11】
請求項9または10の金属分離方法において、
前記洗浄された前記イオン交換樹脂が塩基水溶液で洗浄される工程と、
前記アルカリ金属の水酸化物の水溶液が添加される工程で得られた液体を酸性にする工程とを含むことを特徴とする金属分離方法。
【請求項12】
請求項7乃至11のいずれかの金属分離方法において、
前記酸性基を有する水溶性高分子の水溶液に前記陰イオン交換樹脂が添加された後、前記酸性基を有する水溶性高分子の水溶液から前記陰イオン交換樹脂が引き上げられる工程と、
前記引き上げられた陰イオン交換樹脂に汚水を接触させる工程とを含むことを特徴とする金属分離方法。
【請求項13】
請求項8の金属分離方法において、
前記引き上げられた陰イオン交換樹脂に強磁性を示す金属粉が添加された汚水を接触させることを特徴とする金属分離方法。
【請求項14】
請求項7乃至13のいずれかの金属分離方法において、
前記汚水を前記陰イオン交換樹脂に接触させる前において、前記汚水のpHは2以上5以下であることを特徴とする金属分離方法。
【請求項15】
請求項7乃至14のいずれかの金属分離方法において、
前記汚水中の金属のモル数と価数との積をMB、
前記酸性基を有する水溶性高分子の酸性基の数をPA、
前記陰イオン交換樹脂の有するアミノ基の数をPBとするとき、
MB,PA,PBが下記不等式となるよう調整して前記金属が回収されることを特徴とする汚水浄化方法。
PA≧MB …(a)
PB≧PA−MB …(b)
【請求項16】
請求項1乃至6のいずれかの金属分離用薬剤を用いた浄水装置であって、
前記汚水及び前記酸性基を有する水溶性高分子の水溶液が混合される第一の混合槽と、
前記汚水及び前記酸性基を有する水溶性高分子の水溶液の混合液体と陰イオン交換樹脂とが混合される第二の混合槽とを有し、
前記第二の混合槽の下部にはフィルタが配置され、
前記フィルタは穴を有し、
前記フィルタの穴により前記陰イオン交換樹脂が保持されることを特徴とする浄水装置。
【請求項17】
請求項16の浄水装置において、
前記第二の混合槽に塩酸又は硝酸が添加され、
前記第二の混合槽にアルカリ金属の水溶液又はアルカリ土類金属の水溶液が添加され、
前記第二の混合槽に水が添加されることを特徴とする浄水装置。
【請求項18】
請求項16または17の浄水装置において、
第二の混合槽の代わりに前記陰イオン交換樹脂を保持するカラムを有し、
前記カラム内部に前記混合液体が添加され、
前記カラムの下部にはフィルタが配置され、
前記フィルタにより前記陰イオン交換樹脂が保持されることを特徴とする浄水装置。
【請求項19】
請求項18の浄水装置において、
前記カラムに塩酸又は硝酸が添加され、
前記カラムにアルカリ金属の水溶液又はアルカリ土類金属の水溶液が添加され、
前記カラムに水が添加されることを特徴とする浄水装置。
【請求項20】
請求項19の浄水装置において、
前記カラムは複数個で構成され、
前記複数のカラムは移動可能であり、
前記混合液体が投入されるカラム,前記塩酸又は前記硝酸が添加されるカラム,前記アルカリ金属の水溶液又は前記アルカリ土類金属の水溶液が添加されるカラム及び前記水が添加されるカラムが別々に配置されることを特徴とする浄水装置。
【請求項21】
請求項17または20の浄水装置において、
電極が配置され、
前記アルカリ金属の水溶液又は前記アルカリ土類金属の水溶液が添加される代わりに、前記電極により電気分解が行われることを特徴とする浄水装置。
【請求項22】
請求項16,17または21の浄水装置において、
前記第二の混合槽がなく、
前記第一の混合槽において前記汚水と陰イオン交換樹脂とが混合され、
前記第一の混合槽に塩酸又は硝酸が添加され、
前記第一の混合槽にアルカリ金属の水溶液又はアルカリ土類金属の水溶液が添加され、
前記第一の混合槽の下部にはフィルタが配置され、
前記フィルタは穴を有し、
前記フィルタの穴において前記陰イオン交換樹脂が保持されることを特徴とする浄水装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−120961(P2011−120961A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278108(P2009−278108)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】