説明

汚泥の洗浄方法

【課題】汚泥に吸着されている塩素を効率よく洗浄して汚泥の塩素濃度を低減する汚泥の洗浄方法を提供する。
【解決手段】塩素が吸着している汚泥について、硫酸化合物溶液または炭酸化合物溶液を用いて汚泥を洗浄(吸着洗浄)することによって塩素を離脱させ、汚泥の塩素濃度を低減することを特徴とする汚泥の洗浄方法であり、例えば、塩素濃度が104〜105mg/kgの汚泥を、硫酸ナトリウム溶液、硫酸カルシウム溶液、炭酸ナトリウム溶液、炭酸カルシウム溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液などを用いて吸着洗浄することによって、セメント原料として使用できる程度まで塩素濃度を低減する汚泥の洗浄方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚泥に吸着されている塩素を効率よく洗浄して汚泥の塩素濃度を低減する汚泥の洗浄方法に関する。本発明の洗浄方法によれば、産業施設より発生する酸性排水の処理工程から生じる中和汚泥などの塩素濃度をセメント原料に再利用できる程度に低減することができる。
【背景技術】
【0002】
産業施設の排水処理工程で発生する汚泥をセメント原料として再利用する試みがなされているが、塩素濃度が高い汚泥はセメント原料として利用することができない。そこで、汚泥を洗浄して塩素を除去する方法が知られている。
【0003】
例えば、特開平11−156337号公報(特許文献1)には、焼却飛灰を水洗して塩素やカルシウムを除去することが記載されている。特開平2003−19484号公報(特許文献2)には、塩化鉄含有溶液にアルカリ剤を添加して水酸化物スラリーを生成させ、これを固液分離して水洗して脱塩する方法において、塩化鉄含有溶液の第一鉄イオンを酸化して第二鉄イオンにした後に水酸化物を沈澱させることによって脱塩効果を高める処理方法が記載されている。
【0004】
特開2002−18394号公報(特許文献3)には、廃棄物の水性スラリーをアルカリ性に調整した後、水洗することによって重金属(銅、鉛、亜鉛)の溶出を抑制して脱塩する方法が記載されている。特開2005−213527号公報(特許文献4)には、溶融飛灰または亜鉛含有ガスを酸処理して亜鉛含有溶液にし、該亜鉛含有溶液にアルカリ剤を添加して亜鉛水酸化物を沈殿させ、該沈殿物を水洗処理して沈殿物中の塩素を除去して亜鉛を回収する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−156337号公報
【特許文献2】特開平2003−19484号公報
【特許文献3】特開2002−18394号公報
【特許文献4】特開2005−213527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の水洗方法では汚泥に強固に吸着された塩素を十分に除去することができず、概ね5,000〜6,000mg/kg程度の塩素が残る。産業施設より発生する酸性排水の処理工程から生じる中和汚泥はカルシウムやアルミニウム、マグネシウムなどを含むので、セメント原料等に再利用することが求められるが、塩素含有量が高いものはセメント原料として利用する場合、利用できる量が限られる。なお、特許文献2の方法では塩素濃度を2,000mg/kg以下にできると説明されているが、大量の洗浄水を必要とする問題がある。
【0007】
本発明は、従来の水洗方法の上記問題を解消したものであり、汚泥に吸着されている塩素を効率よく洗浄して汚泥の塩素濃度を低減する汚泥の洗浄方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、以下の構成を有する汚泥の洗浄方法が提供される。
〔1〕塩素が吸着している汚泥について、硫酸化合物溶液または炭酸化合物溶液を用いて汚泥を洗浄することによって塩素を離脱させ、汚泥の塩素濃度を低減することを特徴とする汚泥の洗浄方法。
〔2〕塩素濃度が104〜105mg/kgの汚泥を硫酸化合物溶液または炭酸化合物溶液を用いて汚泥を洗浄することによって、汚泥の塩素濃度を低減する上記[1]に記載する汚泥の洗浄方法。
〔3〕硫酸化合物溶液として硫酸ナトリウム溶液または硫酸カルシウム溶液を用い、炭酸化合物溶液として炭酸ナトリウム溶液、炭酸カルシウム溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液を用いる上記[1]または上記[2]に記載する汚泥の洗浄方法。
〔4〕塩素が吸着している汚泥を水洗浄した後に、硫酸化合物溶液または炭酸化合物溶液を用いて汚泥を洗浄し、再び汚泥を水洗浄する上記[1]〜上記[3]の何れかに記載する汚泥の洗浄方法。
〔5〕フィルタープレスを用いて脱水された汚泥を洗浄する際の洗浄液、あるいは脱水された汚泥を洗浄液に分散させて汚泥をスラリー化しリパルプ洗浄する際のリパルプ洗浄液として硫酸化合物溶液または炭酸化合物溶液を用いる上記[1]〜上記[4]の何れかに記載する汚泥の洗浄方法。
〔6〕脱水された汚泥の洗浄ろ液の塩素濃度または電気伝導率を測定しながら水洗浄と吸着洗浄を行う上記[1]〜上記[5]の何れかに記載する汚泥の洗浄方法。
〔7〕塩素を吸着している汚泥が産業施設より発生する酸性排水の処理工程において生じる排水の中和汚泥である上記[1]〜上記[6]の何れかに記載する汚泥の洗浄方法。
〔8〕塩素濃度を低減した汚泥をセメント原料に再利用する上記[1]〜上記[7]の何れかに記載する汚泥の洗浄方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の洗浄方法によれば、塩素濃度が104〜105mg/kgの汚泥を洗浄することによって塩素濃度を1200mg/kg以下に低減することができるので、産業施設より発生する酸性排水の処理工程から生じる中和汚泥等について、塩素濃度をセメント原料として再利用することができる程度まで大幅に低減することができる。
【0010】
本発明の洗浄方法は、水洗浄に依存する洗浄方法に比べて洗浄水量が格段に低減することができる。具体的には、本発明の実施例1に示すように、産業施設より発生する酸性排水の処理工程から生じる中和汚泥について、乾燥汚泥1gあたり126mlの洗浄液量で汚泥中の塩素濃度を約1200mg/kg以下まで低減することができる。一方、比較例1に示すように、実施例と同様の中和汚泥について、水洗浄のみを行った場合には、乾燥汚泥1gあたり126mlの洗浄液量で汚泥中の塩素濃度は約5000mg/kgであり、しかも洗浄水量をこれ以上に増やしても汚泥中の塩素濃度は殆ど変わらなかった。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1のろ液の塩素濃度と洗浄液量との関係を示すグラフ。
【図2】実施例1の汚泥の塩素濃度と洗浄液量との関係を示すグラフ。
【図3】実施例2のろ液の塩素濃度と洗浄液量との関係を示すグラフ。
【図4】実施例2の汚泥の塩素濃度と洗浄液量との関係を示すグラフ。
【図5】実施例3のろ液の塩素濃度と洗浄液量との関係を示すグラフ。
【図6】実施例3の汚泥の塩素濃度と洗浄液量との関係を示すグラフ。
【図7】比較例1のろ液の塩素濃度と洗浄液量との関係を示すグラフ。
【図8】比較例1の汚泥の塩素濃度と洗浄液量との関係を示すグラフ。
【図9】ろ液の塩素濃度と導電率の関係を示すグラフ。
【図10】ろ液の塩素濃度と洗浄液量の関係を示すグラフ。
【図11】ろ液の導電率と洗浄液量の関係を示すグラフ。
【図12】実施例1のX線回折チャート。
【図13】実施例1と比較例1の洗浄効果を対比して示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明する。
本発明の洗浄方法は、塩素を含有する汚泥について、硫酸化合物溶液または炭酸化合物溶液を用いて汚泥を洗浄することによって塩素を離脱させ、汚泥の塩素濃度を低減することを特徴とする汚泥の洗浄方法である。
【0013】
塩素が吸着している汚泥とは、例えば、産業施設より発生する酸性排水の処理工程から生じる中和汚泥などである。これらの廃液は消石灰などを添加して中和処理されており、多量の塩素が吸着している(塩素濃度:約104〜105mg/kgなど)。この他に塩酸や塩素の使用設備から排出される汚泥、廃プラスチック処理設備から排出される汚泥や飛灰、廃棄物処理設備から排出される汚泥や飛灰などについても本発明の洗浄方法を適用することができる。
【0014】
本発明の洗浄方法は、硫酸化合物溶液または炭酸化合物溶液を洗浄液として用い、これらの溶液に存在する硫酸イオン(SO42-)や炭酸イオン(CO32-)を利用して塩素イオン(Cl-)を汚泥から離脱させる。硫酸イオン(SO42-)や炭酸イオン(CO32-)は汚泥に対して塩素イオンよりも親和性が高い(吸着力が強い)ので、洗浄液として硫酸化合物溶液または炭酸化合物溶液を用いると、汚泥中の塩素イオンが硫酸イオンや炭酸イオンによって置換され、硫酸イオンや炭酸イオンが汚泥に吸着されて塩素イオンは洗浄液中に離脱するので、汚泥の塩素濃度を大幅に低減することができる。このように硫酸化合物溶液や炭酸化合物溶液を用いた洗浄は、硫酸イオン(SO42-)および炭酸イオン(CO32-)の吸着力の強さを利用するので、この洗浄を本発明では吸着洗浄と云う。硫酸イオン(SO42-)と炭酸イオン(CO32-)は吸着力が強く、化合物も安価であるので好ましい。
【0015】
使用する硫酸化合物溶液は特に限定されず、例えば、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸カリウム、硫酸アルミニウム、明礬または硫酸マグネシウムなどを用いることができる。硫酸カルシウムとしては石膏および再生石膏を使用してもよい。
【0016】
使用する炭酸化合物溶液は特に限定されず、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸カリウム、炭酸アルミニウム、炭酸マグネシウム、または二酸化炭素が水に溶けて炭酸イオンとして存在する炭酸水などを用いることができる。
【0017】
好ましくは、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、炭酸ナトリウム、または炭酸水素ナトリウムを用いると良い。汚泥に吸着した硫酸イオンは汚泥中のカルシウムと反応して硫酸カルシウム(石膏)を生じるが、硫酸カルシウムは通常のセメント原料成分であるので、洗浄処理した汚泥をセメント原料に再利用する妨げにならない。また、ナトリウムは汚泥から離脱した塩素と共に洗浄ろ液中に含まれて除去される。炭酸ナトリウムや炭酸カルシウムを用いた場合、炭酸成分の大部分はセメントクリンカー焼成時に気化して除去される。
【0018】
なお、硫酸水溶液は汚泥を溶解するので本発明の洗浄液には適さない。但し、硫酸水溶液と水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水酸化物またはその水溶液を混合して得られる硫酸化合物水溶液は本発明の洗浄液として使用することができる。
【0019】
吸着洗浄はpH3〜12の液性において洗浄効果が向上し、pH5〜9の範囲が最適であるので、洗浄時の溶液をこのpH範囲に調整するのが好ましい。
【0020】
本発明の洗浄方法は、最初に水洗浄を行って離脱しやすい塩素をあらかじめ除去し、次いで吸着洗浄を行って塩素の離脱を促進した後に、再び水洗浄を行い残った塩素を除去するとよい。水洗浄および吸着洗浄の回数や水量は汚泥の状態に応じて定めれば良い。
【0021】
本発明の洗浄方法は、ケーキ状の汚泥の洗浄、スラリー状の汚泥のリパルプ洗浄などに適用することができる。ケーキ洗浄液あるいはリパルプ洗浄液として、硫酸化合物溶液または炭酸化合物溶液を用いると良い。
【0022】
本発明の洗浄方法において、汚泥や洗浄ろ液の塩素濃度または電気伝導率(導電率)を測定しながら水洗浄と吸着洗浄を行うと良い。なお、塩素濃度が高い領域(約4,000〜約40,000mg/L)では塩素濃度と電気伝導率は相関するが、塩素濃度が低い領域(約4,000mg/L以下)では電気伝導率は塩素濃度に依存しなくなるので、電気伝導率は塩素濃度が比較的高い洗浄領域において利用することが好ましい。
【0023】
汚泥や洗浄ろ液の塩素濃度または電気伝導率を測定しながら洗浄する例を以下に示す。
(イ)汚泥ケーキを水洗浄し、ろ液の電気伝導率を測定し、電気伝導率が一定になったら水による洗浄を終了し、吸着洗浄を行う。
(ロ)吸着洗浄とともに得られる洗浄ろ液の塩素濃度を測定し、塩素濃度が一時的に上昇した後に低下し始めた時点で吸着洗浄を終了し、再び水洗浄を行う。
(ハ)水洗浄ではろ液の塩素濃度は洗浄液量の増加とともに連続的に低下するので、ろ液の塩素濃度を指標とし、ろ液の塩素濃度が目標値まで低下したら水洗浄を終了する。
【0024】
本発明の洗浄方法は、例えば、産業施設より発生する酸性排水の処理工程から生じる中和汚泥の洗浄などに好適に用いることができる。産業施設より発生する酸性排水に消石灰を添加して中和した汚泥には多量の塩素が含まれている。本発明の洗浄方法によれば、少量の洗浄水量(乾燥汚泥1gあたり約126ml)で、汚泥の塩素濃度をセメント原料として受け入れ可能な塩素濃度まで低減化することができる。従って、洗浄した中和汚泥をセメント原料として再利用することができる。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の実施例を比較例と共に示す。洗浄ろ液の塩素濃度および電気伝導率の測定、汚泥の塩素濃度の測定、汚泥のX線解析は以下のように行った。
(イ)ろ液中の塩素濃度はイオン電極法により測定した。ろ液を希釈して測定液とし、この測定液に硝酸カリウムを加えてコンディショニングした後に塩素用イオン電極を測定液に浸し、あらかじめ校正しておいたイオンメータによって塩素イオン濃度を測定した。
(ロ)汚泥の塩素濃度は燃焼揮発法により行った。汚泥を燃焼管に入れ、加熱して塩素分を揮発させる。揮発した塩素分を捕集部にて液中に回収し、回収液の塩素濃度をイオンクロマトグラフィーによって測定した。
(ハ)汚泥の粉末X線分析は、汚泥を乾燥させた後に微細に粉砕し、粉末X線回折装置(RIGAKU製)を用いてX線回折チャートを得た。
(ニ)ろ液の電気伝導率は電気伝導率計を用いて測定した。
【0026】
〔実施例1〕
塩酸酸性廃液(塩素濃度4,800mg/L)に消石灰を加えてpH7に中和し、この中和汚泥を含むスラリーにした。このスラリーをブフナーロートにて吸引濾過した。濾紙上に残った汚泥を水100mlで濾過した。この濾紙上に残った汚泥に対する濾過操作を濾過洗浄と呼ぶ。ろ液を採取して塩素濃度を測定した。この水洗浄と塩素濃度の測定を3回行った。次に、硫酸ナトリウム水溶液(濃度4,400mg/L)を100mlずつ用いて汚泥を濾過洗浄し、ろ液の塩素濃度を測定した。この吸着洗浄と塩素濃度の測定を2回行った。その後、再び汚泥を水100mlずつ用いて濾過洗浄を行い、ろ液の塩素濃度を測定した。この水洗浄と塩素濃度の測定を3回行った。本実施例では洗浄液の総量は800mlであり、乾燥汚泥1gあたりの洗浄液量は約126mlであった。ろ液の塩素濃度と洗浄液量の関係を図1に示す。汚泥の塩素濃度と洗浄液量の関係を図2に示す。最終の洗浄ろ液の塩素濃度は60mg/Lであり、洗浄後の汚泥中の塩素濃度は1,110mg/kgであった。洗浄後の汚泥を乾燥粉砕し、粉末X線分析により含有成分の形態を調べた。粉末X線回
折のパターンを図12に示す。この回折チャートには石膏(CaSO4)のピークが示されており、洗浄液の硫酸イオンは汚泥のカルシウムと結合し、汚泥中に石膏として含まれていることが分かる。
【0027】
〔実施例2〕
実施例1と同様の中和汚泥を含んだスラリーをブフナーロートにて吸引濾過した。濾紙上に残った汚泥を水100mlで濾過洗浄した。ろ液を採取して塩素濃度を測定した。この水洗浄と塩素濃度の測定を5回行った。次に、硫酸カルシウム水溶液(濃度2,000mg/L)を100mlずつ用いて汚泥を濾過洗浄し、ろ液の塩素濃度を測定した。この吸着洗浄と塩素濃度の測定を10回行った。本実施例では洗浄液の総量は1500mlであり、乾燥汚泥1gあたりの洗浄液量は約237mlであった。ろ液の塩素濃度と洗浄液量の関係を図3に示す。汚泥中の塩素濃度と洗浄液量の関係を図4に示す。最終の洗浄ろ液の塩素濃度は60mg/Lであり、洗浄後の汚泥中の塩素濃度は230mg/kgであった。
【0028】
〔実施例3〕
実施例1と同様の中和汚泥を含んだスラリーをブフナーロートにて吸引濾過した。濾紙に残った汚泥を水100mlで濾過洗浄した。ろ液を採取し、ろ液の塩素濃度を測定した。この水洗浄と塩素濃度の測定を3回行った。次に、炭酸ナトリウム水溶液(濃度5,300mg/L)を100mlずつ用いて汚泥を濾過洗浄し、ろ液の塩素濃度を測定した。この吸着洗浄と塩素濃度の測定を2回行った。次いで、再び汚泥を水100mlずつ用いて濾過洗浄を行い、ろ液の塩素濃度を測定した。この水洗浄と塩素濃度の測定を3回行った。本実施例では洗浄液の総量は800mlであり、乾燥汚泥1gあたりの洗浄液量は約126mlであった。ろ液の塩素濃度と洗浄液量の関係を図5に示す。汚泥中の塩素濃度と洗浄液量の関係を図6に示す。最終の洗浄ろ液の塩素濃度は40mg/Lであり、洗浄後の汚泥中の塩素濃度は1,000mg/kgであった。
【0029】
〔比較例1〕
実施例1と同様の中和汚泥を含んだスラリーをブフナーロートにて吸引濾過した。濾紙上に残った汚泥を水100mlで濾過洗浄した。ろ液を採取して塩素濃度を測定した。この水洗浄と塩素濃度の測定を8回行った。本比較例では洗浄液の総量は800mlであり、乾燥汚泥1gあたりの洗浄液量は約126mlであった。図7にろ液の塩素濃度と洗浄液量の関係を示す。図8に汚泥中の塩素濃度と洗浄液量の関係を示す。最終の洗浄ろ液の塩素濃度は190mg/Lであり、洗浄後の汚泥の塩素濃度は4960mg/kgであった。
洗浄後の汚泥を乾燥粉砕し、粉末X線分析により含有成分の形態を調べた。粉末X線回
折のパターンを図12に示す。この回折チャートにはNaClと石膏のピークは記録されなかった。
【0030】
〔比較例2〕
実施例1と同様の中和汚泥を含んだスラリーをブフナーロートにて吸引濾過した。濾紙上の汚泥を回収し、乾燥後、粉末X線分析により含有成分の形態を調べた。粉末X線回
折のパターンを図12に示す。この回折チャートにはNaClのピークが存在し、洗浄後の汚泥に多量の塩素が含まれていることが確認された。
【0031】
実施例1と比較例1を比較した結果を図13に示す。吸着洗浄を行った実施例1の洗浄ろ液の塩素濃度は比較例1の塩素濃度より大きく下回っており、硫酸イオンによって塩素除去が促進されていることが分かる。また、実施例1、比較例1、比較例2の汚泥の粉末X線回折パターンを比較した図12に示すように、汚泥中の塩素は洗浄しない場合
(比較例2)にはNaClとして汚泥中に存在しており、水洗浄を行う(比較例1)とNaClは除去されるが、X線回折パターンには現れない塩素が多数吸着されている(図8参照
)。一方、本発明の洗浄(水洗浄+吸着洗浄)を行うと(実施例1)、硫酸イオン汚泥の塩素は殆ど除去され(図2)、代わって、洗浄液の硫酸イオンと汚泥中のカルシウムによって石膏が形成さている。
【0032】
実施例2は吸着洗浄液として硫酸カルシウム水溶液を用いているが、図3および図4に示すように、ろ液、汚泥の塩素濃度は何れも比較例1の塩素濃度を大きく下回っており、硫酸イオンによる塩素除去が促進されていることが分かる。また、実施例3は吸着洗浄液として炭酸ナトリウム水溶液を用いているが、図5および図6に示すように、ろ液と汚泥の塩素濃度は何れも比較例1の塩素濃度を大きく下回っており、炭酸イオンによる塩素除去が促進されていることが分かる。この結果から明らかなように、産業施設より発生する酸性排水の処理工程から回収した中和汚泥は塩素を多量に含んでいるが、本発明の吸着洗浄を行うことによってセメントキルンに入れても支障のない原料として利用することができる。
【0033】
〔実施例4〕
実施例1と同様の中和汚泥を含んだスラリーを加圧ろ過(フィルタープレス)し、濾布に残った汚泥について、水洗浄と吸着洗浄を行った。洗浄中はろ液を採取し、その塩素濃度と電気伝導率をイオン電極または電気伝導率計を用いて測定した。この汚泥を洗浄したときのろ液の塩素濃度と電気伝導率の関係を図9に示す。また汚泥洗浄にともなう塩素濃度と電気伝導率の変化を図10および図11にそれぞれ示す。
【0034】
図9に示すように、塩素濃度が高い領域(4,000〜約40,500mg/L)では、塩素濃度と電気伝導率には相関があるが、塩素濃度が低い領域(4,000mg/L以下)では、電気伝導率は塩素濃度に関係なく一定となることがわかる。従って、電気伝導率は塩素濃度が比較的高い洗浄領域において利用することが好ましい。
【0035】
ろ液の塩素濃度と電気伝導率を以下のように測定しながら洗浄方法を行った。
(1)濾布に残った汚泥を水洗浄し、ろ液の電気伝導率を測定して電気伝導率が一定になったら水洗浄を終了した。
(2)次に吸着洗浄を行った。洗浄液は硫酸ナトリウム水溶液(4,400mg/L)を使用した。この吸着洗浄によって図11に示すように電気伝導率が上昇した。これは汚泥中の塩素が離脱し、また洗浄液中の硫酸イオンが流出したためである。硫酸ナトリウム水溶液約200mlで汚泥を洗浄して吸着洗浄を終了する。このとき図10に示すようにろ液の塩素濃度が低下している。
(3)次いで、汚泥を再び水洗浄する。図11に示すように電気伝導率は低下してやがて一定になるが、図10に示すように、ろ液の塩素濃度は洗浄液量を増やすとともに連続的に低下していく。
(4)ろ液の塩素濃度が60mg/Lまで低下したところで水洗浄を終了した。
【0036】
この実施例では、洗浄液の全量は約1000mlであった。最終のろ液の塩素濃度は60mg/Lであり、洗浄後の汚泥ケーキ中の塩素濃度は1,000mg/kgあった。
【0037】
上記実施例1〜実施例4の結果に示されるように、洗浄ろ液の塩素濃度が400〜500mg/L以下であれば、汚泥中の塩素濃度は概ね1,000〜2,000mg/kg程度に低減化された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素が吸着している汚泥について、硫酸化合物溶液または炭酸化合物溶液を用いて汚泥を洗浄することによって塩素を離脱させ、汚泥の塩素濃度を低減することを特徴とする汚泥の洗浄方法。
【請求項2】
塩素濃度が104〜105mg/kgの汚泥を硫酸化合物溶液または炭酸化合物溶液を用いて汚泥を洗浄することによって、汚泥の塩素濃度を低減する請求項1に記載する汚泥の洗浄方法。
【請求項3】
硫酸化合物溶液として硫酸ナトリウム溶液または硫酸カルシウム溶液を用い、炭酸化合物溶液として炭酸ナトリウム溶液、炭酸カルシウム溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液を用いる請求項1または請求項2に記載する汚泥の洗浄方法。
【請求項4】
塩素が吸着している汚泥を水洗浄した後に、硫酸化合物溶液または炭酸化合物溶液を用いて汚泥を洗浄し、再び汚泥を水洗浄する請求項1〜請求項3の何れかに記載する汚泥の洗浄方法。
【請求項5】
フィルタープレスを用いて脱水された汚泥を洗浄する際の洗浄液、あるいは脱水された汚泥を洗浄液に分散させて汚泥をスラリー化しリパルプ洗浄する際のリパルプ洗浄液として硫酸化合物溶液または炭酸化合物溶液を用いる請求項1〜請求項4の何れかに記載する汚泥の洗浄方法。
【請求項6】
脱水された汚泥の洗浄ろ液の塩素濃度または電気伝導率を測定しながら水洗浄と吸着洗浄を行う請求項1〜請求項5の何れかに記載する汚泥の洗浄方法。
【請求項7】
塩素が吸着している汚泥が産業施設より発生する酸性排水の処理工程において生じる排水の中和汚泥である請求項1〜請求項6の何れかに記載する汚泥の洗浄方法。
【請求項8】
塩素濃度を低減した汚泥をセメント原料に再利用する請求項1〜請求項7の何れかに記載する汚泥の洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−115767(P2012−115767A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−267761(P2010−267761)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】