説明

油中水型油脂組成物およびこれを用いたパンの製造法

【課題】本発明の目的は、殺菌・凍結した加糖凍結卵黄を配合し殺菌処理した油中型油脂組成物を使用したパンは冷蔵域でもソフト感が改善され、更に、食品添加物を使用せずに、粉末原料を配合してもソフトなパンを提供する事を目的とする。
【解決手段】本発明は、冷蔵でもソフトなパンにするために、凍結加糖卵黄を配合し殺菌した油中水型油脂組成物であり、さらに粉末原料を使用してもパンがソフト感があり老化防止できるパンの製造法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油中水型油脂組成物およびこれを用いたパンの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近はソフトで歯切れの良く、口溶けの良いパンが好まれる傾向が強くなってきている。またパンを食べるシーンも多様化し、冷やしておいしいパンというコンセプトで売られてる菓子パン生地、ブリオッシュ生地のパンもでてきている。従来、冷蔵域のパンとして代表的なのはサンドイッチやホットドッグなどの惣菜パンであった。しかしながら冷蔵域ではパン生地中のデンプンが時間と共に老化し、硬くなることが一般的に知られている。 一方、味のバラエティーとしてパン生地中にココア、茶、キナコなどの粉末を練りこんだパンも多数見られる。このような粉末含有パンは粉末がパン生地中の水分を吸収し、パンが硬くなり、パサつくようになる問題がある。このように冷蔵域のパンや粉末含有パンは極めて老化が起こりやすい。しかし、消費者のニーズとしては冷蔵でソフトで、粉末含有パンの経時で硬くならない老化防止効果があり、健康志向に合った天然由来の無添加素材商品が要望されている。
【0003】
特許文献1では加糖卵黄入りの油脂製造方法が開示されているが、使用している卵黄は卵黄液に糖濃度が48%以上に調製した加糖卵黄液を糖濃度と殺菌温度、温度条件で調製している。ここでは加糖卵黄液が例示され、凍結加糖卵黄での使用しての実施例は見られない。また使用用途としてはバタークリーム用に限定されている。
特許文献2では蔗糖脂肪酸エステルとアミラーゼ、プロテアーゼなどの酵素をパン生地に添加されている。
特許文献3では冷蔵域のパンの老化を抑える方法としてはグリセリン脂肪酸エステルとα化澱粉を併用して、パン生地に添加されている。
これらは乳化剤や酵素等を使っているので、添加物表示が必要になり、健康志向の高まる中、印象がよくない。しかしながら乳化剤、酵素を使うとパンの味、風味、口溶け、物性が返って悪くなるという問題点がある。
【0004】
【特許文献1】特公平1−56740号公報
【特許文献2】特開平5−168394号公報
【特許文献3】特開平11−262355号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
風味を損なうことなく、しっとりとした口溶けの良い食感で、老化を抑制するために製菓製パン用品質改良剤をパンに配合すると、別添加するという手間がかかる。その上、パンの老化が著しい冷蔵域や粉末含有パンにおいての老化防止効果については従来技術ではその効果は述べられていない。また、パン生地の老化防止のために、乳化剤や酵素等を添加すると、パンの味、風味、口溶け、物性が著しく悪くなるという問題点がある上、健康志向の高まる中、印象がよくない。このように、健康志向にあった天然由来の素材で、パンに必須の材料であり、別添加の手間がかからず、また、乳化剤や酵素などを使わないで冷蔵域でのパンや粉末含有パンの老化防止効果のある素材は少ない。本発明はこのような問題点が解決された油中水型油脂組成物とそのパンの製造法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は鋭意研究を行った結果、本発明に到達した。即ち本発明の第1は加糖凍結卵黄入りで殺菌処理した油中水型油脂組成物である。第2はパン用である第1記載の油中水型油脂組成物である。第3は卵黄量が生換算で10〜39%である第1記載の油中水型油脂組成物である。第4は第1記載の油中水型油脂組成物とココア、茶、キナコなどの粉末原料を練りこんだパンの製造法である。
【発明の効果】
【0007】
殺菌処理された加糖凍結卵黄を殺菌工程を通した油中水型油脂組成物にすることにより、配合して出来たパン類が常温域でソフトで、更に冷蔵域でもソフトさが持続し、またパン類に粉末原料を配合して経時で硬くなりにくいパン類を提供する事が可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の油中水型油脂組成物で使用される油脂類は動植物性油脂及びそれらの硬化油脂の単独又は2種以上の混合物或いはエステル交換、分別など数々の化学処理又は物理処理を施したものが例示できる。かかる油脂としては、大豆油、綿実油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油、パーム油、菜種油、米ぬか油、ゴマ油、カポック油、ヤシ油、パーム核油、カカオ脂、乳脂、ラード、牛脂、魚油、鯨油等の加工油脂(融点10〜45℃程度のもの)が例示される。さらにこの油脂類にバターを配合したものを使用しても良い。
【0009】
本発明の油中水型乳化物は、通常の油中水型乳化物の製造法に準じて行えばよく、油脂、卵類、水及び酸化防止剤等原料を使用し、油相と水相を予備乳化した後加熱し、プレート式連続殺菌機で80〜90℃で30秒〜2分間(好ましくは85℃、1分30秒)もしくは掻取式間接殺菌機で80〜90℃で30秒〜2分間(好ましくは85℃、1分30秒)の殺菌条件で再殺菌し、パーフェクター、ボテーター、コンビネーターなどで、急冷、捏和することにより製造できる。油相は、融解した油脂に必要に応じて、バター、酸化防止剤、などの油溶性成分を添加させ調製することができる。水相は、卵類、糖類、食塩等を添加、溶解させ調製することができる。
【0010】
本発明に使用される卵類としての卵黄は、液卵黄、加糖卵黄、酵素処理卵黄など通常市販され、あるいは容易に利用可能なものであれば特に限定されない。これらの卵黄の殺菌方法としては、連続式殺菌で、例えば、市販の加糖凍結卵黄は65℃、3.5分、液卵黄は61℃、3.5分の殺菌工程を経て冷凍保存されたものである。卵黄は通常65℃以上に加熱すると熱変性がおこるゆえ、砂糖を配合することにより熱変性を抑えている。市販の加糖凍結卵黄は、殺菌による熱変性と冷凍処理による熱変性を若干受けている。
【0011】
本発明の油中水型油脂組成物中の卵黄量は生換算で10〜39%(凍結加糖卵黄として12.5〜49%)で、好ましくは12〜35%(凍結加糖卵黄として15〜43.75%)で、最も好ましくは13〜30%(凍結加糖卵黄として16.25〜37.5%)である。卵黄量が10%以下では、パンに練り込んだ時のパンの老化、ソフト感の効果が少ない。卵黄量が40%以上になると油中水型油脂組成物の乳化安定性が不安定で製造でき難い。
【0012】
本発明における凍結加糖卵黄入り油中水型油脂組成物をパン生地中に練りこむときの割合はベーカーズ%で10〜70%の範囲である。好ましくは20〜60%、最も好ましくは25〜45%である。10%以下になると老化防止、ソフト感の効果がうすくなる。また80%以上になると、パン生地中の油分が多くなり、パン生地がだれてしまう。
【0013】
冷蔵パンの保管温度としては0℃〜10℃程度の温度帯のことを指す。冷蔵域ではパン生地中のデンプンが時間と共に老化し、硬くなることが一般的に知られている。パン生地にとっては最も過酷な環境下である。冷蔵パンとして代表的なのはサンドイッチやホットドッグなどの惣菜パンであるが、最近では冷やしておいしいパンというコンセプトで売られている菓子パン生地、ブリオッシュ生地のパンもでてきている。 加糖凍結卵黄入りで殺菌処理された油中水型油脂組成物を練り込むことにより常温域15〜35℃でソフトなパンができるが、さらに冷蔵域でもソフトなパンができることで市場性のあるパンができることを見出した。
【0014】
本発明に使用される粉末原料は、ココア、茶粉末、黄粉などで、これらをパンに練り込めば味のバラエティができる。パンに練り込まれるような粉末であれば、特に限定はしない。
【実施例】
【0015】
以下に本発明の実施例を示し本発明をより詳細に説明するが、本発明の精神は以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中、%及び部は、いずれも重量基準を意味する。
【0016】
(油中水型油脂組成物の調製)
油中水型油脂組成物(硬化パーム油15%、硬化大豆油12%、パーム油15%、大豆油10%、乳脂13.5%、バター13.5%、卵黄16%、砂糖4%、食塩1%)は通常の油中水型乳化物の製造法に準じて行なった。油中水型油脂組成物中の加糖卵黄量を(卵黄80%、砂糖20%)20%にして調製し配合した。
【0017】
本願発明の方法で得たパンを以下の基準で、パンの食感、歯切れ感、ソフト感、口溶け感についてそれぞれの観点から評価を行った。
(パンの食感、歯切れ感)
◎:ボソボソ感が無くパン外観、内相、歯切れ感が非常に良好。
○:ボソボソ感が無くパンの外観、内相、歯切れ感が良好。
△:ボソボソ感が少しあり、パンの外観、内相、歯切れ感がやや悪い。
×:ボソボソ感があり、パンの外観、内相、歯切れ感が悪い。
(パンのソフト感)
◎:非常に良好。
○:良好。
△:やや悪い。
×:悪い。
(パンの口溶け感)
◎:非常に良好。
○:良好。
△:やや悪い。
×:悪い。

焼成したパンの保管温度として、焼成後25℃、1時間、次いでこれを冷蔵域である5℃の冷蔵庫で24時間後、72時間後、120時間後、上記基準で評価した。また粉末原料を添加したパンは焼成後25℃、1時間後、24時間後、72時間後、120時間後、上記基準で同じく評価した。
【0018】
実施例1
パン生地は、強力粉(日本製粉製、商品名イーグル)100重量部、上白糖20重量部、食塩1.2重量部、生イースト4重量部、脱脂粉乳3重量部、全卵10重量部、水52重量部(油脂を除く)を縦型ミキサー(愛工舎製作所 、30コートミキサー)に入れ、低速3分、中低速5分で混捏後、加糖凍結卵黄入りで殺菌処理された油中水型油脂組成物30重量部を添加し低速3分中低速5分、最高速1分、混捏し、パン生地とした。本捏生地の捏上げ温度は27℃で、次に混捏でダメージを受けた生地を回復するためにフロアータイムを60分とり、この後60gに分割した。分割した生地を回復するためにベンチタイムを30分とる。丸め直し、ホイロをとる。ホイロ後、釜を上火200℃、下火180℃で10分焼成した。これらの結果を表1に纏めた。一般市販品の加糖凍結卵黄は新鮮な鶏卵から分離した卵黄80%に、砂糖を20%加え、殺菌し、凍結(−18℃)したものである。ここでは65℃、3.5分の殺菌工程を経た市販のキユーピータマゴ株式会社製:商品名加糖凍結卵黄20(卵黄80%、砂糖20%配合品)を使用した。
【0019】
比較例1
表1に示した配合に従って、実施例1と同様の方法で殺菌・凍結された市販のキユーピータマゴ株式会社製:加糖凍結卵黄20を配合した油中水型油脂組成物は殺菌しない油中水型油脂組成物30重量部、水52重量部にした比較例1を得た。実施例1と同様に評価しこれらを表1に纏めた。
比較例2
表1に示した配合に従って、実施例1と同様の方法で加糖凍結卵黄の代わりに殺菌・凍結しない加糖卵黄(生卵黄80%と砂糖20%)を配合した油中水型油脂組成物は殺菌した油中水型油脂組成物30重量部、水52重量部にした比較例2を得た。実施例1と同様に評価しこれらを表1に纏めた。
比較例3
表1に示した配合に従って、実施例1と同様の方法で加糖凍結卵黄の代わりに殺菌・凍結しない加糖卵黄(生卵黄80%と砂糖20%)を配合した油中水型油脂組成物は殺菌しない油中水型油脂組成物30重量部、水52重量部にした比較例3を得た。実施例1と同様に評価しこれらを表1に纏めた。
【0020】
実施例1、比較例1〜3において表1に示したパン配合の結果として、実施例1では焼成後25℃1時間後は歯切れ感、ソフト感、口溶けの良いパンができた。これを冷蔵5℃で保存して経時変化を見ると、120時間経ても歯切れ感、ソフト感、口溶けの良いパンができた。比較例1は焼成後25℃、1時間はソフト感は良いが歯切れ感、口溶けはやや悪い。5℃では経時で悪くなり、72時間、120時間では歯切れ感、ソフト感、口溶けの悪いパンになった。比較例2では焼成後25℃、1時間ではやや悪く、5℃で比較例1と同様に歯切れ感、ソフト感、口溶けの悪いパンになった。比較例3は焼成後25℃、1時間はソフト感は良いが特に歯切れ感、口溶け感が悪いパンができた。5℃で比較例1、2と同様の経時変化となった。
【0021】
【表1】

【0022】
粉末原料を配合してのパンの食感、歯切れ、ソフト感、口溶けについて評価した。
実施例2
実施例1にココアを配合し、実施例2を得た。表2にその配合と評価を纏めた。
比較例4
比較例3にココアを配合し、比較例4を得た。表2にその配合と評価を纏めた。
【0023】
表2から(実施例2、比較例4)実施例1に粉末原料であるココアを配合した実施例2は殺菌した加糖凍結卵黄を使用し殺菌した油中水型油脂組成物で作成したパンはソフト感が120時間経過しても持続し、老化防止の効果が見られた。通常ココア等の粉末原料を配合したパンは経時でパンは硬くなるがこの油中水型油脂組成物を使用することにより、粉末原料を使用してもソフトで歯切れ感のあるパンが出来た。比較例4は殺菌・凍結していない加糖卵黄を配合した油中水型油脂組成物を殺菌していないとパンは25℃、24時間後で特にパンが歯切れ感がやや悪く、パンが硬くなりソフト感、口溶けの悪いパンが出来た。経時でも悪いパンができた。
【0024】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、食品添加物を使用せずに、油中水型油脂組成物に凍結加糖卵黄を配合することで、冷蔵域でもパンの食感、歯切れ感、ソフト感に優れ、パンの老化が改善され、更に粉末原料を配合してもソフトなパンを得るための、油中水型油脂組成物及び当該油脂組成物を使用するパンの製造法に関するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加糖凍結卵黄入りで殺菌処理された油中水型油脂組成物。
【請求項2】
パン用である請求項1記載の油中水型油脂組成物。
【請求項3】
油中水型油脂組成物中、卵黄量が生換算で10〜39%である請求項1記載の油中水型油脂組成物。
【請求項4】
請求項1記載の油中水型油脂組成物とココア、茶、キナコなどの粉末原料を練り込んだパンの製造法。

【公開番号】特開2007−259771(P2007−259771A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−89939(P2006−89939)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000236768)不二製油株式会社 (386)
【Fターム(参考)】