説明

油中油型化粧料

【課題】塗布後の二次付着レス性に優れ、しかもうるおいやつやに優れ、安定性も良好な油中油型化粧料を提供する。
【解決手段】(a)非揮発性炭化水素系油分 5〜80質量%と、(b)非揮発性シリコーン系油分 1〜70質量%と、(c)ステアリン酸イヌリン 0.1〜10質量%と、を配合し、好ましくは(a)非揮発性炭化水素系油分と(b)非揮発性シリコーン系油分炭化水素系油分は、その配合比(質量比)が、(a)/{(a)+(b)}=0.4〜0.8であるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油中油型化粧料に関し、より詳しくは、二次付着レス性に優れ、しかもうるおいやつやを失わずに安定性も良好な油中油型化粧料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の口紅組成物は、口紅を口唇に塗布した後、該口紅がカップなど口唇に接触する部位に転写されてしまう二次付着性が問題となっていた。これに対し、二次付着を起こしにくい、いわゆる二次付着レス効果をもつ口紅組成物が開発されている。
例えば、特許文献1では、揮発性炭化水素系溶媒、揮発性炭化水素系溶媒に溶解または分散可能な非揮発性シリコーン化合物、及び揮発性溶媒に溶解し、非揮発性シリコーン化合物と非融和性の非揮発性炭化水素系油を含有し、該非揮発性炭化水素系油が、ある溶解パラメーターを有する耐移り性化粧品組成物が開示されている。
しかしながらこの耐移り性化粧品組成物は、安定性の点で改善の余地があり、ワックス量が多いためリキッド状の使用感が得られず、またつやも不十分である。
特許文献2には、非融和性であるペルフルオロポリエーテル型の非揮発性油と揮発性油を含有する耐移り性を有する口紅組成物が記載されている。この特許文献2では支持体への適用中に油分が分離し、第一組成物の上に油分が移動するようになっている。
しかしながら、第一組成物は、かなりのワックスを配合しており、固形状となるため、つややうるおい感が充分に得られない。また、この系では非融和性の油相を良好に分散させることが難しく、発汗などの安定性の問題を生じる。
特許文献3には、揮発性油分と組み合わせてシリコーン界面活性剤を配合し、顔料を良好に分散させた耐移り性を有するステック化粧品が開示されている。
しかしながら、このステック化粧品は揮発性油分の組成物における割合が大きいためマットな仕上がりとなり、唇に乾燥感を生じやすいという欠点がある。
特許文献4には、揮発性油分とシリコーン樹脂を配合した一相型の口紅用組成物が開示されている。
しかしながら、この口紅用組成物は、耐移り性は改善されるものの、揮発性油が蒸発した後に時間が経つと乾燥感が生じやすく、また樹脂の皮膜が唇上に残り、皮膜感や突っ張り感を生じると共に、得られた付着物はマットであるという欠点がある。
特許文献5には、シリコーン系皮膜剤と揮発性シリコーン系油分と非揮発性シリコーン系液状油分と乳化剤とを含む連続相油分と、エステル油分と色材とを含む分散相油分とからなり、分散相油分/(分散相油分+連続相油分)の配合量比が0.05〜0.5である油中油型乳化組成物が記載されている。
しかしながら、この油中油型乳化組成物は色材が分散相に存在するため色むらが生じやすく、更には、この系では経時安定性を保つことが困難な場合がある。
特許文献6には、口紅を塗布した後に、さらに特定のジメチルポリシロキサンと無水ケイ酸を含むリップコートを塗布することで、色移りを防止する技術が記載されている。
しかしながら、通常の口紅を塗布した後に、さらに別のリップコートを塗布する2品使用は煩雑であり、携帯性にも劣る点で課題があった。
【0003】
【特許文献1】特開2001−199846号公報
【特許文献2】国際公開96/40044号公報
【特許文献3】国際公開97/16157号公報
【特許文献4】特開平9−48709号公報
【特許文献5】特開2000−53530号公報
【特許文献6】特開平8−26936号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明は、耐移り性(二次付着レス性)を有しながら塗布後のつやが向上し、安定性にも優れた油中油型化粧料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意研究の結果、互いに相溶しにくい非揮発性炭化水素系油分と非揮発性シリコーン系油分を含有し、ステアリン酸イヌリンを配合することで安定な油中油型組成物が得られ、塗布後の耐移り性を維持したまま、塗布時ののびが良好な油中油型化粧料が得られることを見出した。
【0006】
すなわち本発明は、
(a)非揮発性炭化水素系油分 5〜80質量%と、
(b)非揮発性シリコーン系油分 1〜70質量%と、
(c)ステアリン酸イヌリン 0.1〜10質量%と、
を含有することを特徴とする油中油型化粧料である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の油中油型化粧料は、塗布後の二次付着レス性に優れ、つやがあり、塗布時ののびが良好で、安定性にも優れたものである。また固形油分を配合して固化させても安定性が損なわれず、固形口紅として用いることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に、本発明の最良の実施形態について説明する。
本発明においては、互いに相溶しにくい非揮発性炭化水素系油分と非揮発性シリコーン系油分を含有し、ステアリン酸イヌリンを配合することで、安定な油中油型組成物とすることができる。本発明の油中油型化粧料においては、水添ポリイソブテンのような非揮発性炭化水素系油分は連続相油分、メチルフェニルポリシロキサンのような非揮発性シリコーン系油分は分散相油分となり、色材は表面の濡れの関係から連続相油分に分散する。本発明の油中油型化粧料においては、使用前の容器内ではシリコーン油分と炭化水素系油分は分離することもなく安定な油中油型の状態を保っている。そして、塗布後には非揮発性シリコーン油が表層にしみ出して分離し、それが非揮発性炭化水素系油分の付着層を覆うため、耐移り性を有し、かつ良好なつやを与える。この非揮発性シリコーン油の分離は、塗布時に唇をこすり合わせて圧力を加えることでさらに促進される。更に両方に相溶するイソパラフィンのような揮発性炭化水素を配合することで、塗布後の耐移り性、安定性を維持したまま、塗布時ののびを良くすることができる。
また本発明においては、シリコーン樹脂や、多量のワックスや、揮発性油分を配合する必要がなく液状グロスのようなつややかな質感とうるおい感を実現することができる。また固形油分を配合した場合には十分な硬度を有するスティック状口紅とすることもできる。本発明を口紅として用いた場合は、口紅とリップコートのような2品使いにする手間がなく、1品で落ちにくく、つやを付与し、カップなどにつきにくい効果を発揮する
【0009】
((a)非揮発性炭化水素系油分)
本発明で用いられる(a)非揮発性炭化水素系油分としては、例えば水添ポリイソブテン、ポリブテン、ポリイソブチレン、ポリイソプレン、流動パラフィン、スクワラン、水添ポリデセン、ワセリン等が挙げられる。このうち特に水添ポリイソブテンおよび流動パラフィンが好ましい。水添ポリイソブテンと流動パラフィンは、両成分の配合比が、水添ポリイソブテン/流動パラフィン=3〜10であることが好ましい。ポリイソブテンの割合が少ないと二次付着レス効果が劣る傾向にあり、流動パラフィンの割合が少ないと安定性が劣る傾向にある。
【0010】
(a)非揮発性炭化水素系油分の配合量は、5〜80質量%であり、好ましくは10〜70質量%であり、より好ましくは20〜60質量%である。非揮発性炭化水素系油分の配合量が少なすぎると、しっとりさに欠ける。非揮発性炭化水素系油分の配合量が多すぎると、のびが重くなり、べたつきが増し、耐移り性も悪くなり、発色も悪くなる傾向がある。
【0011】
((b)非揮発性シリコーン系油分)
(b)非揮発性シリコーン系油分としては炭化水素系油分と相溶しにくいものであればよく、同時に配合される炭化水素系油分の種類によって油中油型となるように適宜選択される。かかる非揮発性シリコーン系油分としては、例えばメチルフェニルポリシロキサン、ジメチコン、フッ素変性アルキルシリコーンなどが挙げられる。このうち特にメチルフェニルポリシロキサンが好ましく、さらには粘度が300〜500csのメチルフェニルポリシロキサンが好ましい。市販品としては例えばシリコーンKF54(信越化学工業社製)が挙げられる。
【0012】
(b)非揮発性シリコーン系油分の配合量は、1〜70質量%であり、好ましくは5〜60質量%であり、より好ましくは10〜50質量%である。非揮発性シリコーン系油分の配合量が少なすぎると、耐移り性が悪くなる傾向となる。非揮発性シリコーン系油分の配合量が多すぎると、つやは増すが、経時で剥がれやすくなる。
【0013】
本発明において、(a)非揮発性炭化水素系油分と(b)非揮発性シリコーン系油分炭化水素系油分は、その配合比(質量比)が、(a)/{(a)+(b)}=0.4〜0.8であることが好ましい。{(a)+(b)}成分に対して(a)成分が多すぎるとのびが重くなり、べたつきが増し、耐移り性が悪くなり、発色も悪くなる。(a)成分が少なすぎると、(a)+(b)中の(b)の割合が増すことで、つやは増すが、しっとりさに欠ける傾向となる。
【0014】
((c)ステアリン酸イヌリン)
(c)ステアリン酸イヌリンは、市販品としては千葉製粉社製のレオパールISK2が挙げられる。
【0015】
(c)ステアリン酸イヌリンの配合量は、0.1〜10質量%であり、好ましくは0.5〜8質量%であり、より好ましくは1〜5質量%である。ステアリン酸イヌリンの配合量が少なすぎると、安定性が悪くなる。ステアリン酸イヌリンの配合量が多すぎると、べたつくようになる。
【0016】
((d)固形油分)
本発明においては、さらに、(d)固形油分を含むことが好ましい。固形油分を配合すると、硬度が確保されると共に、口紅を塗布した後のべたつきが少なく、化粧持ちにも優れる。
【0017】
固形油分としては、通常化粧料に配合されるものであれば、特に限定されず、例えば、カルナバロウ、キャンデリラロウ、ポリエチレンワックス、ビースワックス、セレシン、マイクロクリスタリンワックス、固形パラフィン、モクロウ等が挙げられる。これらの固形油分のうち、特にポリエチレンワックス、マイクロクリスタリンワックスが好ましい。
【0018】
固形油分の配合量は、化粧料中、5〜10質量%であることが好ましく、より好ましくは6〜9質量%である。固形油分の配合量が5質量%未満では、固化しづらい。また10質量%を超えると、のびが重く、つやもなくなる。
【0019】
本発明においては、上記必須成分以外に色材を配合することができる。色材は口紅に通常用いられる色材であれば良く、粉末状でもレーキ状(油を練り込んだ状態)でもよい。無機顔料であっても、有機顔料であっても、パール剤であっても、シリコーン系油分に比較して、炭化水素系油分のほうに濡れやすく、最終的には顔料は自発的に連続層である炭化水素系油分に移行する。色材を配合する場合、その配合量としては、0.01〜30質量%、好ましくは、0.1〜20質量%である。
【0020】
本発明においては、揮発性炭化水素をさらに配合することができる。
揮発性炭化水素は(a)非揮発性炭化水素系油分および(b)非揮発性シリコーン系油分のいずれにも可溶のものが好ましく、例えば、8〜16の炭素原子を有する揮発性油及びそれらの混合物を挙げることができる。特に、これらの揮発性炭化水素は、分枝状のC8−C16アルカン類、分枝状のC8−C16エステル類及びそれらの混合物から選択される。かかる揮発性炭化水素として好ましくは、特に石油から得られるC8−C16イソパラフィンが挙げられ、例えば「アイソパー(Isopar)」(イソパラフィン系溶剤、エクソン社製)や「パーメチル(Permetyl)」(日本光研工業社製)がある。特に、イソドデカン又はイソヘキサデカン、ネオペンタン酸イソヘキシル及びそれらの混合物が好ましく、さらに好ましくは、イソドデカンである。
【0021】
揮発性炭化水素を配合することにより、塗布時ののびに優れたものとなる。揮発性炭化水素を配合する時の好ましい配合量は、0.1〜50質量%であり、好ましくは1〜30質量%である。
【0022】
本発明の油中油型化粧料は、25℃における硬度が0.15〜0.40Nであるものが好ましい。この硬度の測定には、RHEO METER(不動工業株式会社製)で、感圧軸1.0φ、針入速度2cm/min、針入度10mmで測定した値を用いた。この硬度範囲とすることで、安定で二次付着レス効果のある固形口紅とすることができる。
【0023】
本発明の油中油型化粧料には、上記必須成分の他、通常の油性化粧料に用いられる上記以外の油剤、粉体、顔料、染料、高分子化合物、保湿剤、香料、界面活性剤、酸化防止剤、防腐剤、美容成分等を、本発明の効果を損なわない範囲で適宜配合することができる。保湿剤としては、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、1,3ブチレングリコール等の多価アルコール系保湿剤が挙げられる。
また、皮膜剤については、多量配合はごわつき感を生じさせるため、配合しないか、あるいは配合しても5質量%以下であることが望ましい。
【0024】
本発明の油中油型化粧料は、口紅、リップグロス、下地用のリップベース、口紅オーバーコート、リップクリームなどに応用することができる。特に、色材を配合した口紅に用いた場合には、口紅としての発色効果と二次付着レス性、リップグロスのようなつやを併せ持つことができるので好適である。本発明の油中油型化粧料は、特に固形口紅として用いるのが好適である。
【実施例】
【0025】
本発明について以下に実施例を挙げてさらに詳述するが、本発明はこれによりなんら限定されるものではない。配合量は特記しない限り質量%で示す。
実施例の説明に先立ち本発明で用いた効果試験方法について説明する。
【0026】
(1)製剤の分離の評価試験
製剤の分離について、以下の方法で評価した。
(評価方法)
スティック状口紅に成型し、外観を目視にて評価した。
【0027】
(評価基準)
○:分離は全くなかった。
△:分離がわずかに認められ、黒い点状の凝集が生じていた。
×:分離が非常に認められ、斑状のスティックであった。
【0028】
(2)硬度の測定
装置にはRHEO METER(不動工業株式会社製)を用い、1.0mmφの針を用いて、針進入深さ10mm、針進入速度2cm/minの条件で硬度測定を行った。測定サンプルは予め25℃恒温槽に2時間静置させて、取り出した後速やかに、測定した。
【0029】
(3)二次付着レス性の評価試験
10名の専門パネルによる実使用性試験を行った。使用性項目は、二次付着レス性であり、下記の評価点基準に基づいて5段階官能評価(スコア)した。そのスコア平均値により、下記評価基準で判定した。塗布時の二次付着レス性の評価は、塗布直後の評価である。
塗布方法は、本発明の化粧料を唇に塗布した後、唇の上下をこすり合わせ5秒ほど圧力を加える方法にて行った。二次付着レス性の評価はカップへの移りのなさを評価した。
【0030】
(スコア)
5点:非常に優れている。
4点:優れている。
3点:普通。
2点:劣る。
1点:非常に劣る。
【0031】
(評価基準)
◎:評価値(平均値)4.0以上5.0点以下
○:評価値(平均値)3.0以上4.0点未満
△:評価値(平均値)2.0以上3.0点未満
×:評価値(平均値)1.0以上2.0点未満
【0032】
試験例
次の表1〜4に示す処方で固形口紅を調製し、硬度、二次付着レス性および分離安定性について、上記した基準で評価した。その結果を併せて表1〜4に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
【表3】

【0036】
【表4】

【0037】
※1:シリコーンKF−54(信越化学工業社製)
※2:レオパールISK2(千葉製粉社製)
※3:レオパールKL2(千葉製粉社製)
※4:レオパールTT2(千葉製粉社製)
【0038】
表1は、ステアリン酸イヌリンの配合量を変化させた時、およびステアリン酸イヌリンに代えてデキストリン脂肪酸エステルを用いたときの結果を示す。ステアリン酸イヌリンに代えてデキストリン脂肪酸エステルを用いたときは固化しないので固形口紅として用いることはできなかった。また、表1の比較例S−98,S−99はいずれもスティックとして十分な硬度を有していなかった。
表2、表3は、(a)成分として、水添ポリイソブテンのみを用いた場合と、流動パラフィンと併用した場合とを比較検討した結果を示す。水添ポリイソブテンと流動パラフィンを併用することで、安定性および二次付着レス効果が共に良くなることが分かる。
表4は、ステアリン酸イヌリンの配合量を変化させた時の結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)非揮発性炭化水素系油分 5〜80質量%と、
(b)非揮発性シリコーン系油分 1〜70質量%と、
(c)ステアリン酸イヌリン 0.1〜10質量%と、
を含有することを特徴とする油中油型化粧料。
【請求項2】
(a)非揮発性炭化水素系油分と(b)非揮発性シリコーン系油分は、その配合比(質量比)が、(a)/{(a)+(b)}=0.4〜0.8であることを特徴とする請求項1に記載の油中油型化粧料。
【請求項3】
(a)が水添ポリイソブテンと流動パラフィンを含み、両成分の配合比が、水添ポリイソブテン/流動パラフィン=3〜10であることを特徴とする請求項1に記載の油中油型化粧料。
【請求項4】
さらに(d)固形油分を5〜10質量%配合することを特徴とする請求項1に記載の油中油型化粧料。
【請求項5】
固形口紅であることを特徴とする請求項1に記載の油中油型化粧料。

【公開番号】特開2011−121908(P2011−121908A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−281563(P2009−281563)
【出願日】平成21年12月11日(2009.12.11)
【出願人】(000001959)株式会社 資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】