説明

油分分離方法及び油切トラップ

【課題】 二層式フライヤーにおいて、揚げカスに付着した油分、及び水にコーティングされた粒状の油等が水に混入して下水に流されるのを防ぐ必要がある。そこで、本発明者は、排水トラップの形状を工夫することにより、油切トラップを開発し、本発明の油切トラップを油槽内の底部に設けることにより、別置きの濾過装置を設けることなく油分を分離し、油槽内上部の油層へ戻すことで環境汚染の軽減と経済的効果を同時実現する分離技術を提供するものである。
【解決手段】油槽の底部中央にある排水口に油切トラップを設け、水層内を逆略円錐形状で回りながら排水口に流れ込んでいく油分の付着した揚げカス等が排水口に吸い込まれる際に油切トラップにぶつかりその衝撃で油分を分離させ、油きりトラップの上方にモーメントを作用させ油分を調理用油の層に戻すようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揚げ物等を調理する際に使用され、比重差により、油槽の上部に調理油、下部に水を配し、熱源に電気ヒーターを用いたフライヤー(以下、二層式フライヤーという)において、水の中に沈殿する揚げカスに付着した油分を分離する技術に関し、より詳しくはその揚げカス等に付着された油分を、排水口に設けられた排水トラップで分離し、該分離した油分を油槽上部の調理用油の層に戻す技術に関する。
【背景技術】
【0002】
二層式フライヤーには、油槽内の油層部分と水層部分が固定され、揚げカス等を手動弁により回収する方法と、水層部分の水を循環して揚げカス等を一ヶ所にまとめ、自動回収する方法との二つの方法がある。
【0003】
油槽の底面にある排水口に設けられた排水トラップの用途は、排水用配管の中で揚げカスや異物が詰まり、フライヤーとしての機能を損なうことを防止するために設けられている。
【0004】
通常のトラップは、排水用の配管内に異物が混入することを防ぐために網状又は格子状の形の物で排水口を塞いで異物の進入を防いでいる。
【0005】
固形物は配管が詰まる可能性があるので除去するが、液状の物は配管の詰まりに影響しないため、排水トラップには何の対策もしていないので素通りする。通常では油分はフライヤー内部で処理をせずに、別置きの濾過装置で油水分離をしている。別置きの濾過装置を取り付けなければ、油分は下水に垂れ流しとなる。
【0006】
しかし、油分を含んだ排水を垂れ流せば、環境破壊にもつながり問題となる。そこで、このような上記問題に鑑み、調理機等においては従来からも多種多様の技術が提案されている。例えば、「調理用の油とこの油から分離した揚げカス等の異物が沈殿する水とを上下2層に貯留する貯槽と、この貯槽内の油の中に配設されたヒーターと、上記貯槽内の水層から吸引した水を導入して水に含まれる異物をフィルターにより濾過する濾過水槽と、上記水層内の水を上記濾過水槽に導入する異物混合水路および上記濾過水槽により濾過された水を上記水層に戻す濾過水路を備えた水循環装置とを有し、上記ヒーターにより加熱された油により食材を天ぷらやフライに揚げるフライヤーにおいて、上記濾過水槽には、上記異物を含んだ水を上記濾過水槽のフィルター上流側から外部へ排出するための排水路と、排水時に上記濾過水槽へ水を供給するための給水路とを接続したことを特徴とするフライヤーの異物除去装置」(特許文献1参照)がある。
【0007】
しかしながら、係る技術は、油に含まれる揚げカス等の異物を水と一緒に異物混合水路を介して濾過水槽に送り、濾過水槽で異物を濾過し、この異物を濾過した水を濾過水槽から濾過水路を介して貯槽の水層に戻して、貯槽の水層と濾過水槽との間で水を循環させる構成を採用したことで、貯槽内の水を常時清浄に維持することを主たる課題としており、油槽の外部に設ける濾過槽に用いる技術である。従って、油槽内で油分と水分を分類することを課題とする本願発明とは、課題を解決しようとする技術的思想としてもアプローチが異なる。また、参考文献1に係る技術と本願発明に係る技術を対比すると、循環系統における濾過槽の有無の相違があり、係る相違点から、本願発明の方が、よりコスト上の問題を解決しているといえる。即ち、濾過水槽に溜まった揚げカス等の異物を外部へ排出させることができて、濾過水槽を取り外すことなく、異物の除去と濾過水槽の洗浄とができる。濾過水槽への洗浄ができるフライヤーの異物除去装置およびその異物除去方法を提供することにあり、揚げカス沈殿物に付着した油分を分離して水層部の油分混入を防ぐものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−54954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
二層式フライヤーにおいて、油槽内に沈殿した揚げカスを自動的に回収するには、油槽に連結された揚げカスの溜まり場を設ける必要があり、その揚げカスの溜り場から揚げカス等を放出する際、揚げカスに付着した油分、及び水にコーティングされた粒状の油等が水と混入して下水に流されるのを防ぐ必要がある。
【0010】
そこで、本発明者は、排水トラップの形状を工夫することにより、油切トラップを開発し、本発明の油切トラップを油槽内の底部に設けることにより、別置きの濾過装置を設けることなく油分は分離され、油槽上部の調理用油の層に戻して、環境汚染を軽減するだけでなく経済的効果もある油分の分離技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る油分分離方法は、水と油の比重差により、油槽の上部に調理油の油層、下部に水の水層を配し、熱源に電気ヒーターを用いた二層式フライヤーにおいて、調理中に油層内で生じた油分付着沈殿物を含む水を排出する際に、渦流による回転方向に対して油切りトラップを備え、これに油分付着沈殿物を含む水がぶつかる衝撃によって油分を揚げカス等から分離させ、さらに該油切りトラップに角度を付けることにより、上方に働くモーメントを作用させて、分離した油分がより上昇しやすくしたことを特徴とする油分分離方法である。
【0012】
また、請求項2に記載の発明は、前記油分分離方法を利用するための油切りトラップであって、水と油の比重差により、油槽の上部に調理油の油層、下部に水の水層を配し、熱源に電気ヒーターを用いた二層式フライヤーにおいて、該油槽の底部排水口に備える油切りトラップであり、該油切トラップは油槽の排水口の内径15mmから60mmに対応し、形状は逆U字形で排水口の大きさによって2枚から4枚で組立てられ、逆U字形を成す板は0.5ミリから3ミリの板厚を有し、排水口内面の円周方向に対して直角に差し込んで固定され、油槽の底面の中央に設けられた排水口の上面から流れに沿って15度から45度の範囲内に曲げられ、逆U字形の上方で垂直方向に曲げて形成され、流れに面した部分の幅は1mmから20mmの範囲内であり、逆U字形の上部は2mmから15mmの範囲内で重なり、排水口から逆U字形の上部までの高さが10mmから40mmの範囲内であることを特徴とする油切トラップとした。
【発明の効果】
【0013】
比重差で調理用油と水を油槽の上部と下部に配したフライヤーにおいて、調理素材から生ずる水分、ドリップ等の調理用油の寿命を短くする要因を水層で吸収し、美味しい揚げ物が揚がる等利点は多い。欠点として水蒸気爆発を防ぐ必要上、調理用油と水の接してる境界面の温度を下げる必要があるため、冷却用の補給水が必要となり、定期的に水の交換が生じてくる。境界面では常に調理用油と水が接しているので油分は沈殿しやすい環境にある。又揚げカスの沈殿を促進するために、冷却用補給水の注水と排水とを同時に同量を動かしているので、揚げカスの沈殿は促進され、揚げかすに付着した油分は揚げカスとともに排水口を経由して水と一緒に下水に放出される。揚げカスは回収されるが、揚げカスに付着した油分は水とともに下水に流されることになる。別置きの濾過装置を設けなければ油分は下水に放出され環境汚染の元になる。本発明の油切トラップを使用することで、調理用素材から生じ、沈殿してきた油分は油槽内で油切トラップが油分を分離して油層に戻すので、下水に流れ出る油分を最小限にすることが出来、別置きの濾過装置を設けることも無く経済的効果もある。従来型の排水トラップでは垂れ流し状態なので、環境面は飛躍的に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は本発明に係る油分分離方法の概略説明図である。
【図2】図2は本発明に係る油切トラップの構成を示す説明図である。
【図3】図3は本発明に係る油切トラップの装着状態を示す説明写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、二層式フライヤーにおいて、油槽底部の排出口付近で沈殿物に衝撃を与えることで、コーティングされた油分を分離し、排水への油分の混入防止又は軽減を図る方法を採用したことを最大の特徴とする。以下、図面とともに説明する。
【0016】
本発明に係る油分分離方法について説明する。図1は本発明に係る油分分離方法の概略説明図である。まず、二層式フライヤー2において、油よりも比重の大きな水で構成される水層5に着目すると、仮に排水口6からの排水がない場合を想定したとき、油層3の壁面付近に設けられた給水口8から吸水される水の作用で生じる渦は、図1(a)のような剛体渦であり、中心よりも外側の流速が速いことになり、流速差から生じる負圧と、水よりも重い揚げカス7に作用する遠心力によって、中心から外側に向かうことになる。他方、排水口6から水が抜ける場合の渦は、図1(b)に示すような自由渦である、流速の最も早い中心部に負圧が生じ、揚げカス7は中心付近に引き寄せられる。従って、本発明のような二層式フライヤーにおいては、異なる渦の発生原因が作用するため、図1(c)のような複合的な渦の流れ場を生じることになる。揚げカス7への作用は、その落下位置によって外向き及び中心向きに作用する。
【0017】
高温油層4内で調理用油を用いて調理する際に、調理用素材から生ずる水分、ドリップ、揚げカス7等が、比重差により油層4内で沈殿し、揚げカス7等の沈殿物は油槽3内の油層5と水層4の境界面9までは、比重差により自然に沈殿する。
【0018】
油槽3内の排水と、冷却用の補給水を水層5内の壁面に沿って注入が同一になされると、油層4部分は動かずに、水層5に注入された冷却用の補給水が、油槽3の壁面をゆっくりと回り始める。水層5の中央部は、排水により逆略円錐形状で、下方にモーメントが働き、壁面からの冷却用の補給水の動きに追随し、水層5の中央部でも緩やかに回り始める。
【0019】
油層4と水層5の境界面9に達した沈殿物は、水層5の動きに呼応し、油層4と水層5の境界面9で中央部に引き寄せられる。
【0020】
油層5と水層4の境界面9で中央に引き寄せられた沈殿物は、中央部から油槽3の底部にある排水口6に向かって水層5内の水とともに移動する。冷却用に注入された冷却補給水も油槽3の壁面を沿って回りながら水層5の中央部に向かっていく。中央部では逆略円錐形状に回りながら逆略円錐形状の頂点のある、油槽底部にある排水口6の中心部に引き込まれていく。
【0021】
沈殿物も比重差により水層4の中央部から引き込まれるものと、油槽5の底面に沈殿する物とがあるが、油槽3底部に中央に設けられた排水口の中央部が最大の流速で流れるため、油槽3の底面に滞留している沈殿物も、排水口6に向かって引き寄せられる。
【0022】
油槽3の底面にある排水口6は油槽3の中心部にあり油槽3内では一番下に設けられている。排水の流れは、油槽3底部の排水口6の中心部が一番流速が早く、注入された冷却補給水は、沈殿物を巻き込みながら排水口6の中心部に向かって、水層5の中心部を逆略円錐形状で回りながら吸い込まれていく。油槽3底部に滞留されている沈殿物も排水口6の流速により引き寄せられる。
【0023】
ここで、排水口6に設けられる通常の排水トラップは、配管の詰まりを防止する目的で作られているので、沈殿物に付着している油分は排水トラップを容易に通り抜けてしまう。
【0024】
そこで、本発明の油切トラップ1は、水層5の流れが底部に設けられた排水口6に向かい回りながら排水口6の中心部に流れ込むことに着目し、排水口6の周囲に油切トラップ1を設け、回りながら流れに沿って沈殿してくる油分を該油切トラップ1のジャマ板Jにぶつけ、その衝撃で油分を分離し、比重差のよる浮力及び、ジャマ板Jに付けられる曲げ部Rによって上昇しやすくされて、上部の油層4に戻すことを目的とする。
【0025】
すなわち、本発明に係る油分分離方法は、排水口6の排水によって生ずる自由渦を利用し、揚げカス7の沈殿方向に対して略対面状態に衝撃壁であるジャマ板Jを設けて、揚げカス7等をこれにぶつけ、その衝撃によってコーティングされた油分を剥離して分離し、比重差による浮力と、分離した油分が上昇しやすい上向きの流れ創り出すことで、簡易なトラップと渦状態の設定という極めて経済的、且つ、効率よく油分を分離する方法である。
【0026】
図2は、本発明に係る油切トラップの構成を示す説明図である。図3は、本発明に係る油切トラップの装着状態を示す説明写真である。以下、油切トラップ1を具体的に説明する。油切トラップ1は油槽3の排水口6の内径Dと対応して15mmから60mmに範囲とする。油切トラップ1の形状は逆U字形で排水口6の大きさにより2枚から4枚で構成されている。板厚tは0.5ミリから3ミリで排水口6の内面に円周に対し直角に差し込まれ固定されている。油槽3の底面の中央に設けられた排水口6の上面から流れに沿って15度から45度に曲げ部Rが設けられ、逆U字形の上方で垂直方向に曲げ部Rが設けられている。流れに面したジャマ板Jの幅Bは1mmから20mm。逆U字形の上部は2mmから15mmで排水口6からの高さHは10mmから40mmの範囲で構成される。
【0027】
排水口6の上部で15度から45度に曲げ部Rが設けられ、1ミリから20mm幅Bで流れに面したジャマ板Jに、油分の付着した沈殿物がぶつかる。その衝撃で沈殿物に付着した油分が分離される。沈殿物がぶつかったジャマ板Jの面には角度Rがついているので、流れに対し上方にモーメントが働く、排水口6にも下方に吸い込む力働いている。比重差で揚げカス7等は水とともに排水口6に、分離された油分は上方の油層4に戻り油分の回収が出来る。
【0028】
ここで、前記寸法D・H・t・B及び角度Rの範囲を限定しているのは、一般的な二層式フライヤーの油槽3の高さや排水口6の口径(内径15mm〜60mm)の範囲において本発明の目的効果を得るためである。トリチェリの定理及びベルヌーイの定理より明らかなように、流速、排出流量及び口径は、これらの相互関係によって定まるため、渦の回転速度や排出水量によっては、油層4内の油が吸引されたり、分離した油分が、比重差による浮力よりも排出口6における吸引力が強くなる影響を受けて排出されてしまう場合も起こり得る。また、ジャマ板Jの面積が大きすぎれば乱流が生じ、小さすぎると上手く沈殿物に衝撃を与えることができない。また、分離した油分の上昇力を高めるための反射角などについても同様に有効範囲がある。しかし、これらの数値を理論上求めることは難しいため、本願発明者は、物理的な可視化実験を行い、前記最適範囲を得たものである。
【符号の説明】
【0029】
1 油切トラップ
2 二層式フライヤー
3 油槽
4 油層
5 水層
6 排水口
7 揚げカス
8 給水口
9 境界面
10 電気ヒーター
D 径
t 板厚
H 高さ
R 曲げ部
B 幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と油の比重差により、油槽の上部に調理油の油層、下部に水の水層を配し、熱源に電気ヒーターを用いた二層式フライヤーにおいて、
調理中に油層内で生じた油分付着沈殿物を含む水を排出する際に、
渦流による回転方向に対して油切りトラップを備え、これに油分付着沈殿物を含む水をぶつけて衝撃を加え、この衝撃によって油分を揚げカス等から分離させ、さらに該油切りトラップに角度を付けることにより、上方に働くモーメントを作用させて、分離した油分がより上昇しやすくしたことを特徴とする油分分離方法。
【請求項2】
請求行1に記載の油分分離方法を利用するための油切りトラップであって、
水と油の比重差により、油槽の上部に調理油の油層、下部に水の水層を配し、熱源に電気ヒーターを用いた二層式フライヤーにおいて、該油槽の底部排水口に備える油切りトラップであり、
該油切トラップは油槽の排水口の内径15mmから60mmに対応し、
形状は逆U字形で排水口の大きさによって2枚から4枚で組立てられ、
逆U字形を成す板は0.5ミリから3ミリの板厚を有し、
排水口内面の円周方向に対して直角に差し込んで固定され、
油槽の底面の中央に設けられた排水口の上面から流れに沿って15度から45度の範囲内に曲げられ、逆U字形の上方で垂直方向に曲げて形成され、
流れに面した部分の幅は1mmから20mmの範囲内であり、
逆U字形の上部は2mmから15mmの範囲内で重なり、
排水口から逆U字形の上部までの高さが10mmから40mmの範囲内であることを特徴とする油切トラップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−183272(P2012−183272A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−63176(P2011−63176)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(511072297)株式会社カラット (2)
【Fターム(参考)】