説明

油吸着材

【課題】軽量で、油吸着性に優れ、しかも取扱時に破袋する虞がない油吸着材を開発することを目的とする。
【解決手段】ポリプロピレン・メルトブローン繊維がポリプロピレン・スパンボンド不織布製袋に充填され、当該不織布製袋の表面がポリオレフィン製ネットで覆われてなることを特徴とする油吸着材を提供するものである。当該油吸着材のポリプロピレン・メルトブローン繊維は、好ましくは裁断してなるメルトブローン繊維である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油や汚水等の漏洩や流出による海洋、河川、湖沼、道路、道路側溝等の汚染、又は、工場内の油や汚水洩れ等を吸着回収するのに好適な油吸着材に関する。
【背景技術】
【0002】
海面や水面に流出した油の流出事故防止対策として従来は、オイルフェンスで流出油を囲み、その中にポリプロピレン製不織布等の親油性素材よりなるマット状の油吸着材を投入して油を吸着することにより流出油を回収する方法が多用されている。
また、袋状の油吸着材として、不織布製の袋に充填する油吸着材として、籾殻活性炭を用いる方法(特許文献1:特開2003−144918号公報)、ピートモスを用いる方法(特許文献2:特開平11−276885号公報)、あるいは古紙の粉砕物を用いる方法(特許文献3:特開2003−164759号公報)など種々の方法が提案されている。
しかしながら、油吸着材として、籾殻活性炭などは吸着性能が充分とは言えず、また、単に不織布製の袋に詰めただけでは、袋の強度が充分とは言えず、使用時に不織布製の袋が破れる虞がある。
【0003】
【特許文献1】特開2003−144918号公報
【特許文献2】特開平11−276885号公報
【特許文献3】特開2003−164759号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、軽量で、油吸着性に優れ、しかも取扱時に破袋する虞がない油吸着材を開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ポリプロピレン・メルトブローン繊維がポリプロピレン・スパンボンド不織布製袋に充填され、当該不織布製袋の表面がポリオレフィン製ネットで覆われてなることを特徴とする油吸着材を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の油吸着材は、ポリプロピレン・スパンボンド不織布製袋の内部に繊維径が細いポリプロピレン・メルトブローン繊維が充填されているので、従来のスパンボンド不織布からなる油吸着材に比べ、油の吸着性能や吸収した油の保持力に優れ、袋状であるので嵩高であり、道路の側溝(U字溝)に漏れた油(廃油)等を効率的に吸着・回収でき、軽量で取扱性に優れ、しかも、袋がポリオレフィン製ネットで覆われているので、使用・回収時にもポリプロピレン・スパンボンド不織布製袋が破れる虞がない。また、本発明の油吸着材は、材料の全てがポリオレフィンからなるので、廃油、流出油などを回収した後に焼却が容易である。
また、ポリプロピレン・メルトブローン繊維を裁断(粉砕)したものを用いた場合でも、当該粉砕物がポリプロピレン・スパンボンド不織布製袋からの粉漏れもなく、しかも粉砕物を用いた場合は、ポリプロピレン・スパンボンド不織布製袋に隙間なく粉砕物を充填することができ、より油の吸着性能や吸収した油の保持力が増すことができ、且つ、油吸着材を所望の形状に変形できるので、U字溝の曲面に合わせて挿入でき、U字溝に漏れた油を堰き止めることができるという特徴をも有す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
<ポリプロピレン>
本発明の油吸着材のポリプロピレン・メルトブローン繊維及びポリプロピレン・スパンボンド不織布製袋の原料となるポリプロピレンは、紡糸し得る限り特に限定はされないが、通常、メルトフローレート(MFR)(ASTM D−1238、230℃、荷重2160g)が10〜2000g/10分、好ましくは10〜1500g/10分の範囲にある。MFRが10g/10分未満のポリプロピレンは、溶融粘度が高く紡糸性に劣るので、細繊維を得ることが困難となる虞があり、一方、2000g/10分を超えるポリプロピレンは、得られる不織布の引張強度等が劣る虞がある。
【0008】
本発明に係るポリプロピレンは、プロピレンの単独重合体及びプロピレンとエチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテン等の炭素数2以上、好ましくは2〜8の1種または2種以上のα−オレフィンとのランダム共重合体(プロピレン・α―オレフィンランダム共重合体)であり、通常、融点(Tm)が135℃以上、好ましくは135〜165℃の範囲にある。α−オレフィンの共重合量は、得られるプロピレン系重合体の融点(Tm)が上記範囲にある限り特に限定はされないが、通常、10モル%以下、好ましくは6モル%以下である。
【0009】
本発明に係るポリプロピレンには、本発明の目的を損なわない範囲で、通常用いられる酸化防止剤、耐候安定剤、耐光安定剤、帯電防止剤、防曇剤、ブロッキング防止剤、滑剤、核剤、顔料等の添加剤或いは他の重合体を必要に応じて配合することができる。
【0010】
<ポリプロピレン・メルトブローン繊維>
本発明の油吸着材としてポリプロピレン・スパンボンド不織布製袋の内部に充填されるポリプロピレン・メルトブローン繊維は、前記ポリプロピレンを公知のメルトブローン製造装置で製造される繊維であり、種々公知のポリプロピレン・メルトブローン繊維あるいは当該繊維からなる不織布(メルトブローン不織布)を使用し得る。本発明に係るポリプロピレン・メルトブローン繊維は、通常、平均繊維径が10μm未満、好ましくは0.5〜8μm、さらに好ましくは1〜5μmの範囲にある。ポリプロピレン・メルトブローン繊維は、油吸着材として広く使用されているスパンボンド不織布に比べて繊維径が細いので油の吸着性能には優れるが、強度に劣るので単体では油吸着材としては殆ど使用されていない。
【0011】
ポリプロピレン・メルトブローン繊維をポリプロピレン・スパンボンド不織布製袋に充填する際には、ポリプロピレン・メルトブローン繊維あるいはメルトブローン不織布を丸めてポリプロピレン・スパンボンド不織布製袋に充填してもよいが、ポリプロピレン・メルトブローン繊維あるいはメルトブローン不織布を裁断しておくと充填し易く、しかも袋に隙間なく粉砕物を充填することができ、より油の吸着性能や吸収した油の保持力が増すことができ、且つ、油吸着材を所望の形状に変形できるので、U字溝の曲面に合わせて挿入できるので、U字溝に漏れた油を堰き止めることができるという特徴をも有す。
【0012】
ポリプロピレン・メルトブローン繊維を裁断する方法としては、種々公知の方法を採用し得る。本発明における裁断は、ポリプロピレン・メルトブローン繊維を細かくする方法であり、粉砕を含む。
【0013】
本発明に係るポリプロピレン・メルトブローン繊維としては、繊維状物に限らず、不織布となったものも使用し得る。ポリプロピレン・メルトブローン繊維としてメルトブローン不織布を用いる場合は、ポリプロピレン・スパンボンド不織布製袋に充填する際に、上記したように、不織布を巻いたり、折畳んで充填してもよい。
【0014】
<ポリプロピレン・スパンボンド不織布>
本発明の油吸着材に用いるポリプロピレン・スパンボンド不織布は、前記ポリプロピレンを公知のスパンボンド不織布製造装置で製造される不織布であり、種々公知のポリプロピレン・スパンボンド不織布を使用し得る。本発明に係るポリプロピレン・スパンボンド不織布は、通常、平均繊維径が10〜50μm、好ましくは15〜40μmの範囲、目付が10〜100g/m2、好ましくは15〜30g/m2の範囲にある。
【0015】
<ポリオレフィン製ネット>
本発明の油吸着材に用いるポリオレフィン製ネットは、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテンおよび1−オクテン等のα−オレフィンの単独若しくは共重合体であるポリオレフィン、具体的には、高圧法低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン(所謂LLDPE)、高密度ポリエチレン、エチレン・プロピレンランダム共重合体、エチレン・1−ブテンランダム共重合体等のエチレンの単独重合体あるいはエチレン・α−オレフィン共重合体等のエチレン系重合体;プロピレンの単独重合体(所謂ポリプロピレン)、プロピレン・エチレンランダム共重合体、プロピレン・エチレン・1−ブテンランダム共重合体(所謂ランダムポリプロピレン)、プロピレンブロック共重合体、プロピレン・1−ブテンランダム共重合体等のプロピレン系重合体;1−ブテン単独重合体、1−ブテン・エチレン共重合体、1−ブテン・プロピレン共重合体等の1−ブテン系重合体;ポリ4−メチル−1−ペンテン等のポリオレフィンから得られるネットであり、ポリオレフィンのモノフィラメント、あるいはマルチフィラメントを編んでなるネット、例えば、特公昭34−4185号公報、特公昭38−21244号公報などの種々公知の製造方法で、ポリオレフィンを押出し成形して得られるフィラメント状物の交絡部が熱融着されてなるネット等種々公知のネットを用いることができる。
【0016】
本発明に係るポリオレフィン製ネットの網目間隔は、前記ポリプロピレン・スパンボンド不織布製袋を補強し、かつ油などがポリプロピレン・スパンボンド不織布製袋を通してポリプロピレン・メルトブローン繊維に浸透することを阻害しない限り、特に限定はされないが、通常、0.5〜50mm、好ましくは2〜10mmの範囲にある。
【0017】
これらポリオレフィン製ネットの中でも、ポリプロピレンなどのプロピレン系重合体あるいは高密度ポリエチレンなどのエチレン系重合体から得られるモノフィラメントを編んでなるネットが強度に優れるので好ましい。
【0018】
<ポリオレフィン製ロープ>
本発明の油吸着材に用いるポリオレフィン製ロープは、前記ポリオレフィンのフィラメントもしくはマルチフィラメントを撚ってなるロープである。
これらポリオレフィン製ロープの中でも、ポリプロピレンなどのプロピレン系重合体あるいは高密度ポリエチレンなどのエチレン系重合体から得られるモノフィラメントなどを撚ってなるロープが、強度及び取扱の点から好ましい。
【0019】
<油吸着材>
本発明の油吸着材は、前記ポリプロピレン・メルトブローン繊維が前記ポリプロピレン・スパンボンド不織布製袋に充填され、当該不織布製袋の表面が前記ポリオレフィン製ネットで覆われてなる。又、ポリオレフィン製ネットの口部をポリオレフィン製ロープで封じておくと、内部のポリプロピレン・メルトブローン繊維が外部の漏れる虞がなく、油吸着材を持ち運び易くなる。
ポリプロピレン・スパンボンド不織布製袋の大きさ、当該ポリプロピレン・スパンボンド不織布製袋に充填されるポリプロピレン・メルトブローン繊維の量等は、適用する用途により適宜決め得る。
【0020】
本発明の油吸着材の例を図で示す。図1は本発明の油吸着材の概略図であり、ポリプロピレン・メルトブローン繊維1がポリプロピレン・スパンボンド不織布製袋2に充填され、当該ポリプロピレン・スパンボンド不織布製袋2の外側がポリオレフィン製ネット3で覆われている。ポリプロピレン・スパンボンド不織布製袋2に充填されるポリプロピレン・メルトブローン繊維1は裁断されていることが好ましく、裁断はポリプロピレン・メルトブローン繊維を裁断(粉砕)してもよいが、ポリプロピレン・メルトブローン繊維からなる不織布(メルトブローン不織布)を裁断(粉砕)してなるものが、嵩高性に優れ、より油の吸着性能や吸収した油の保持力に優れるので好ましい。本発明の油吸着材はポリオレフィン製ネット3の口部をポリオレフィン製ロープ4で封じていてもよい。
【実施例】
【0021】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0022】
〔実施例1〕
ポリプロピレン・メルトブローン不織布(平均繊維径:3μm、目付:20g/m2)を粉砕機〔株式会社ホーライ製、型式:BO−360 (11kwh)〕を用いて10〜50mmの長さに粉砕した後、ポリプロピレン・スパンボンド不織布(平均繊維径:30μm、目付:20g/m2)からなる縦46cm×横33cmの袋に500g充填した後、ポリプロピレン・スパンボンド不織布製袋を、高密度ポリエチレン・モノフィラメントを編んでなるラッセル網袋(網目:6mm)(山本樹脂工業株式会社製)で覆った後、ラッセル網袋の口部をポリプロピレン製ロープ(直径:5mm)で封じて油吸着材を得た。
【0023】
《吸着性能の評価》
吸着性能を評価するために、別途、縦25cm×横30cmのポリプロピレン・スパンボンド不織布を作製し、当該袋の中に、前記粉砕したポリプロピレン・メルトブローン不織布:50gを充填した試料(本試料)を用意した。また、吸着性能を比較するために、同じ重量のポリプロピレン・スパンボンド不織布(対照試料)を用意した。
次いで、本試料及び対照試料を、5分間、20℃のA重油に浸した後、各試料を取り出し重量を比較したところ、本試料は自重の13倍のA重油を吸着し、対照試料の吸着量は自重の11倍であった。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の油吸着材は、ポリプロピレン・スパンボンド不織布製袋の内部に繊維径が細いポリプロピレン・メルトブローン繊維が充填されており、しかも、袋がポリオレフィン製ネットで覆われているので、使用・回収時にもポリプロピレン・スパンボンド不織布製袋が破れる虞がないので、海洋、湖沼、河川などの水面に流出した油の回収をはじめ、事故などにより路上、U字溝、田畑などに漏れた油の回収、ガソリンスタンド、工場などで漏れた油の回収、下水道に流れ出た油の回収、グリーストラップでの廃油処理・回収など、あらゆる箇所での漏れ出た油あるいは廃油などの回収(吸着)に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の油吸着材の概略図
【符号の説明】
【0026】
1・・ポリプロピレン・メルトブローン繊維
2・・ポリプロピレン・スパンボンド不織布製袋
3・・ポリオレフィン製ネット
4・・ポリオレフィン製ロープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン・メルトブローン繊維がポリプロピレン・スパンボンド不織布製袋に充填され、当該不織布製袋の表面がポリオレフィン製ネットで覆われてなることを特徴とする油吸着材。
【請求項2】
ポリオレフィン製ネットが、ポリエチレン・モノフィラメントを編んでなるネットである請求項1記載の油吸着材。
【請求項3】
ポリプロピレン・メルトブローン繊維が裁断されてなる請求項1記載の油吸着材。
【請求項4】
ポリオレフィン製ネットの口部がポリオレフィン製ロープで封じられている請求項1〜3のいずれか1項に記載の油吸着材。

【図1】
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【公開番号】特開2010−115585(P2010−115585A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−289970(P2008−289970)
【出願日】平成20年11月12日(2008.11.12)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】