説明

油圧緩衝器

【課題】 伸側行程におけるインナチューブの退出体積分の油と、圧側行程におけるインナチューブの進入体積分の油を簡易な構成により補償すること。
【解決手段】 油圧緩衝器10において、ピストン27が、上側油室25Aに開口する上側ポート51Aと下側油室25Bに開口する下側ポート52Aを備え、上側ポート51Aと下側ポート52Aに挟まれる中間油室54を形成するとともに、中間油室54を油溜室26に連絡する連絡流路70を有してなるもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油圧緩衝器に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧緩衝器として、特許文献1に記載の如く、アウタチューブ内にインナチューブを摺動自在に挿入し、アウタチューブの底部中央に中空ロッドを起立し、中空ロッドの上端部をインナチューブ内周に摺接して当該インナチューブ内に油溜室と上側油室とを区画し、アウタチューブ内下方に上側油室に開閉される下側油室を設け、中空ロッド内には油溜室に接続された油室を設け、この油室は中空ロッドに形成した上方の第1のポートと下方の第2のポートを介してそれぞれ上側油室と下側油室に接続されているものがある。
【0003】
更に、インナチューブの下部内側にピストンを設け、ピストンには上側油室と下側油室とを連通する伸側ポートと圧側ポートとを設け、伸側ポートの端部には撓み特性を備えた伸側減衰バルブを、圧側ポートの端部には撓み特性を備えた圧側減衰バルブをそれぞれ開閉自在に設け、更に中空ロッド内上方に上記第1のポートを開閉するパイロットスプールを移動自在に設け、当該パイロットスプールには油溜室から中空ロッド内の油室へのみ油の流れを許容するチェック弁を開閉自在に設けている。そして、パイロットスプールが底部と筒部とからなる有底筒体で構成され、筒部に外周の環状溝と半径方向のポートを形成し、底部にチェック弁を開閉自在に設けている。
【0004】
これにより、伸側行程では、インナチューブとピストンが上昇し、このとき上側油室内の圧力が昇圧し、下側油室と中空ロッド内の油室はインナチューブの退出によって油溜室の圧力より低圧となり、パイロットスプールが押圧されて下降して第1のポートを閉じる。その結果、上側油室の油がピストンの伸側ポートより伸側減衰バルブを開いて下側油室に流出し、伸側減衰バルブによる減衰力を発生させる。この際、インナチューブの退出体積分の油が油溜室よりチェック弁を開いて中空ロッド内の油室、第2のポートより下側油室に導入される。
【0005】
また、圧側行程では、インナチューブとピストンが下降し、このとき上側油室の内圧が低下し、下側油室と中空ロッド内の油室の内圧が上昇し、これにより中空ロッド内の油室の圧力でパイロットスプールが上方に移動し、第1のポートをパイロットスプールの環状溝とポートを介して油溜室側に向けて開口させる。その結果、下側油室の油が圧側ポートより圧側減衰バルブを開いて上側油室に流出し、更にインナチューブの進入体積分の油が第1のポートを介して油溜室に排出される。このとき圧側減衰バルブによる減衰力を発生させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002-161940
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の油圧緩衝器では、インナチューブの下部内周に設けられるピストンにより区画される上側油室と下側油室をアウタチューブとインナチューブの内部に設けるという簡素な構成において、伸側減衰力と圧側減衰力を発生することができる。
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の油圧緩衝器では、伸側行程におけるインナチューブの退出体積分の油と、圧側行程におけるインナチューブの進入体積分の油を補償するため、パイロットスプールを有し、そのパイロットスプールにチェック弁を設けるという複雑な構成を必要としている。
【0009】
また、伸側行程ではパイロットスプールが下降移動し、圧側行程ではパイロットスプールが上昇移動することを必須としており、そのパイロットスプールの移動による減衰力の発生遅れを伴なう。
【0010】
本発明の課題は、インナチューブの下部内側に設けられるピストンにより区画される上側油室と下側油室をアウタチューブとインナチューブの内部に設けてなる油圧緩衝器において、伸側減衰力と圧側減衰力の発生遅れを伴なうことなく、伸側行程におけるインナチューブの退出体積分の油と、圧側行程におけるインナチューブの進入体積分の油を簡易な構成により補償することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に係る発明は、アウタチューブ内にインナチューブを摺動自在に挿入し、アウタチューブ内の底部に支持ロッドを立設し、支持ロッドの上端部に設けた隔壁部をインナチューブの内周に摺接し、この隔壁部によってインナチューブ内に油溜室と上側油室を区画し、インナチューブの下部内側に、前記支持ロッドの外周を摺動するピストンを設け、このピストンにより前記上側油室と区画される下側油室をアウタチューブ内の下方に設けてなる油圧緩衝器において、前記ピストンが、上側油室に開口する上側ポートと下側油室に開口する下側ポートを備え、上側ポートと下側ポートに挟まれる中間油室を形成するとともに、中間油室を油溜室に連絡する連絡流路を有し、ピストンの上側ポートと中間油室との間に、伸側行程で上側ポートから中間油室へ流れる油に伸側減衰力を及ぼす伸側減衰バルブと、圧側行程で中間油室から上側ポートへのみ油の流れを許容する圧側チェックバルブとを設けるとともに、ピストンの下側ポートと中間油室との間に、圧側行程で下側ポートから中間油室へ流れる油に圧側減衰力を及ぼす圧側減衰バルブと、伸側行程で中間油室から下側ポートへのみ油の流れを許容する伸側チェックバルブとを設けてなるようにしたものである。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において更に、前記連絡流路が、インナチューブに穿設されて油溜室に開口する上側油孔と、インナチューブに穿設されて中間油室に開口する下側油孔と、アウタチューブの内周とインナチューブの外周の間の間隙油路とからなるようにしたものである。
【0013】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に係る発明において更に、前記ピストンが、支持ロッドの外周に摺接する中空ロッドと、中空ロッドの周囲の上側油室と下側油室の間の軸方向に順に積層されて固定される上側プレートと中間カラーと下側プレートを有し、上側プレートに上側ポートを形成し、下側プレートに下側ポートを形成し、中間カラーの内周に中間油室を形成してなるようにしたものである。
【0014】
請求項4に係る発明は、請求項3に係る発明において更に、前記ピストンの軸方向に沿う上側プレートと下側プレートの間に、圧側チェックバルブと伸側減衰バルブと圧側減衰バルブと伸側チェックバルブが順に積層されてなるようにしたものである。
【0015】
請求項5に係る発明は、請求項4に係る発明において更に、前記圧側チェックバルブと伸側チェックバルブのそれぞれが、内径部と、外径部と、内径部の外周の一部と外径部の内周の一部のそれぞれに連結されて支持されるベンディング部とを有し、圧側チェックバルブは、内径部が上側プレートの内縁部と伸側減衰バルブの内縁部とに挟持され、外径部が上側プレートの外縁部と中間カラーの上端面との間に挟持され、ベンディング部の外縁部が中間カラーの上端面に当接され、ベンディング部の内縁部が伸側減衰バルブの外縁部に当接されてなり、伸側チェックバルブは、内径部が下側プレートの内縁部と圧側減衰バルブの内縁部とに挟持され、外径部が下側プレートの外縁部と中間カラーの下端面との間に挟持され、ベンディング部の外縁部が中間カラーの下端面に当接され、ベンディング部の内縁部が圧側減衰バルブの外縁部に当接されてなるようにしたものである。
【0016】
請求項6に係る発明は、請求項5に係る発明において更に、前記圧側チェックバルブの内径部及び伸側減衰バルブの内縁部と、伸側チェックバルブの内径部及び圧側減衰バルブの内縁部との間に、弾性体が挟圧されてなるようにしたものである。
【発明の効果】
【0017】
(請求項1)
(a)伸側行程では、インナチューブとピストンが上昇し、このとき上側油室の圧力が昇圧し、下側油室の圧力はインナチューブの退出によって油溜室の圧力より低圧になる。これにより、上側油室の油がピストンの上側ポートから伸側減衰バルブを開いて中間油室、伸側チェックバルブ経由で下側油室に流出し、伸側減衰バルブによる伸側減衰力を発生させる。同時に、インナチューブの退出体積分の油が油溜室から連絡流路を通って中間油室、伸側チェックバルブ経由で下側油室に補給される。
【0018】
圧側行程では、インナチューブとピストンが下降し、このとき上側油室の圧力が低下し、下側油室の圧力が上昇する。これにより、下側油室の油がピストンの下側ポートから圧側減衰バルブを開いて中間油室、圧側チェックバルブ経由で上側油室に流出し、圧側減衰バルブによる圧側減衰力を発生させる。同時に、インナチューブの進入体積分の油が下側油室から圧側減衰バルブ、中間油室経由で連絡流路を通って油溜室に排出される。これにより、インナチューブの下部内側に設けられるピストンにより区画される上側油室と下側油室をアウタチューブとインナチューブの内部に設けてなる油圧緩衝器において、伸側減衰力と圧側減衰力の発生遅れを伴なうことなく、伸側行程におけるインナチューブの退出体積分の油と、圧側行程におけるインナチューブの進入体積分の油を簡易な構成により補償することにある。
【0019】
(請求項2)
(b)前記連絡流路が、インナチューブに穿設されて油溜室に開口する上側油孔と、インナチューブに穿設されて中間油室に開口する下側油孔と、アウタチューブの内周とインナチューブの外周の間の間隙油路とからなる。これにより、前記連絡流路を簡易に構成できる。
【0020】
(請求項3)
(c)前記ピストンが、支持ロッドの外周に摺接する中空ロッドと、中空ロッドの周囲の上側油室と下側油室の間の軸方向に順に積層されて固定される上側プレートと中間カラーと下側プレートを有し、上側プレートに上側ポートを形成し、下側プレートに下側ポートを形成し、中間カラーの内周に中間油室を形成する。これにより、前記インナチューブの下部内側に設けられるピストンにより、上側ポートと下側ポートと中間油室を簡易に構成できる。
【0021】
(請求項4)
(d)前記ピストンの軸方向に沿う上側プレートと下側プレートの間に、圧側チェックバルブと伸側減衰バルブと圧側減衰バルブと伸側チェックバルブが順に積層される。これにより、前記ピストンの上側ポートと中間油室との間に、圧側チェックバルブと伸側減衰バルブを簡易に設け、該ピストンの下側ポートと中間油室との間に、圧側減衰バルブと伸側チェックバルブを簡易に設けることができる。
【0022】
(請求項5)
(e)前記圧側チェックバルブと伸側チェックバルブのそれぞれが、内径部と、外径部と、内径部の外周の一部と外径部の内周の一部のそれぞれに連結されて支持されるベンディング部とを有し、圧側チェックバルブは、内径部が上側プレートの内縁部と伸側減衰バルブの内縁部とに挟持され、外径部が上側プレートの外縁部と中間カラーの上端面との間に挟持され、ベンディング部の外縁部が中間カラーの上端面に当接され、ベンディング部の内縁部が伸側減衰バルブの外縁部に当接されてなり、伸側チェックバルブは、内径部が下側プレートの内縁部と圧側減衰バルブの内縁部とに挟持され、外径部が下側プレートの外縁部と中間カラーの下端面との間に挟持され、ベンディング部の外縁部が中間カラーの下端面に当接され、ベンディング部の内縁部が圧側減衰バルブの外縁部に当接される。これにより、前記圧側チェックバルブと伸側チェックバルブを簡易に構成できる。
【0023】
(請求項6)
(f)前記圧側チェックバルブの内径部及び伸側減衰バルブの内縁部と、伸側チェックバルブの内径部及び圧側減衰バルブの内縁部との間に、弾性体が挟圧される。これにより、ピストンの上側プレートと下側プレートと中間カラーの寸法と、圧側チェックバルブと伸側減衰バルブと圧側減衰バルブと伸側チェックバルブの寸法の、バラツキを吸収できる。また、弾性体の設定を低めにすることにより、圧側行程と伸側行程で減衰力がある程度以上に上がったときにブロー特性を与えることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1はフロントフォークを示す全体断面図である。
【図2】図2は図1の下部断面図である。
【図3】図3は図1の中間部断面図である。
【図4】図4は図1の上部断面図である。
【図5】図5は図1の要部拡大断面図である。
【図6】図6はピストンを示す断面図である。
【図7】図7は図6のVII−VII線に沿う矢視図である。
【図8】図8は油の流れを示す模式図である。
【図9】図9はフロントフォークを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
フロントフォーク10(油圧緩衝器)は、自動二輪車等に用いられ、図1〜図4に示す如く、車輪側の、一端が閉じ、他端が開口するアウタチューブ11(車輪側チューブ)に、車体側のインナチューブ12(車体側チューブ)を摺動自在に挿入している。アウタチューブ11のインナチューブ12が挿入される開口端には、摺動ガイド13、シールスペーサ14、オイルシール15、ストッパリング16、ダストシール17が設けられる。インナチューブ12のアウタチューブ11に挿入される下端外周部には、摺動ガイド19が設けられる。
【0026】
アウタチューブ11の底部には銅パッキン21Aを介してボルト21が挿入され、このボルト21により固定される支持ロッド22が立設している。ボルト21はアウタチューブ11内の底部の中央に形成した凹部に嵌合されて位置決めされる後述のオイルロックピース44に螺着されてこのオイルロックピース44を固定し、支持ロッド22の下端部はオイルロックピース44の中心に設けた取付孔に挿着され、支持ロッド22の挿着端とオイルロックピース44とがそれらの直径方向に刺通される係止ピン22Aにより連結される。オイルロックピース44の外周に設けた環状溝に装填される止め輪44Aが係止ピン22Aの脱落を防止している。
【0027】
インナチューブ12の上端部にはOリング23Aを介してキャップボルト23の下端部の外周が螺着され、キャップボルト23の中央部にはばね荷重調整手段30が設けられる。
【0028】
ばね荷重調整手段30は、キャップボルト23の中心部の内外にOリング31Aを介して貫通されるとともに、螺着されるアジャストボルト31を有する。アジャストボルト31においてキャップボルト23を貫通してインナチューブ12の内部に挿入された端部には板状の上ばね受部32が固定され、上ばね受部32の下面にばね受カラー33が突き当て支持されている。上ばね受部32及びばね受カラー33と、支持ロッド22の上端部に設けられる拡径状隔壁部24の上端面からなる下ばね受部34との間には、圧縮コイルばね35が介装される。アジャストボルト31の螺動により、圧縮コイルばね35の初期荷重が調整され、設定される。
【0029】
支持ロッド22の上端部には上述の隔壁部24が溶接されて設けられ、隔壁部24の外周の環状溝に、インナチューブ12の内周に摺接するピストンリング24Aを装填している。これにより、支持ロッド22の上端部の隔壁部24はインナチューブ12の内周に摺接し、この隔壁部24によってインナチューブ12内に後述する油室25(上側油室25A)と油溜室26を区画する。
【0030】
インナチューブ12のアウタチューブ11に挿入された下部内側(先端側の内周)に、支持ロッド22の外周を摺動するピストン27を設ける。ピストン27は、支持ロッド22の外周で作動油が充填されている油室25内で、支持ロッド22の外周を摺動し、油室25を上下に仕切る。即ち、ピストン27の上部の支持ロッド22まわりにインナチューブ12と隔壁部24が囲む上側油室25Aを形成し、ピストン27の下部の支持ロッド22まわりでアウタチューブ11の下方に下側油室25Bを形成する。
【0031】
インナチューブ12内でキャップボルト23と支持ロッド22の隔壁部24との間には、油溜室26が区画される。油溜室26に作動油を充填するとともに、油溜室26の上部を空気室26Aとする。
【0032】
ピストン27は、インナチューブ12の下部内側の段差状内径部に挿着され、スペーサ41、ワッシャ42を介して、インナチューブ12のかしめ部12Aにより固定化される。
【0033】
尚、インナチューブ12の下部内側に設けたピストン27と、これに相対する支持ロッド22の隔壁部24との間には、伸側行程の伸切ストロークを規制するリバウンドスプリング43が設けられている。
【0034】
また、アウタチューブ11内の底部の中央にはオイルロックピース44がボルト21により固定される。インナチューブ12の下端内径部に固定したスペーサ41の段差状内周には、該スペーサ41の内周との間に微小隙間を介するオイルロックカラー45がワッシャ42により上下移動範囲を規制される状態で上下移動自在に嵌挿される。オイルロックカラー45は、フロントフォーク10の最圧縮近辺で、アウタチューブ11内の底部に設けたオイルロックピース44との間に微小隙間を介して嵌合し、オイルロックピース44の周囲の油を加圧して最圧縮時の緩衝をする。そして、最圧縮状態からの伸長時には、オイルロックカラー45がスペーサ41内を下方に移動し、オイルロックカラー45とスペーサ41の間の微小隙間からなる油路を開放する。
【0035】
しかるに、フロントフォーク10にあっては、インナチューブ12の下部内側に設けられるピストン27により区画される上側油室25Aと下側油室25Bをアウタチューブ11とインナチューブ12の内部に設けるという簡素な構成において、伸側減衰力と圧側減衰力の発生遅れを伴なうことなく、伸側行程におけるインナチューブ12の退出体積分の油と、圧側行程におけるインナチューブ12の進入体積分の油を補償するため、以下の構成を具備する。
【0036】
フロントフォーク10において、ピストン27は、図5、図6に示す如く、支持ロッド22の外周に摺接する中空ロッド50と、中空ロッド50の周囲の上側油室25Aと下側油室25Bの間の軸方向に順に積層されて固定される上側プレート51と中間カラー53と下側プレート52を有し、上側プレート51に上側ポート51Aを形成し、下側プレート52に下側ポート52Aを形成し、中間カラー53の内周に中間油室54を形成する。
【0037】
ピストン27は、中空ロッド50の内周に支持ロッド22の外周に摺接するブッシュ50Aを備える。また、ピストン27は、中空ロッド50の外周に上側プレート51と下側プレート52を挿着し、中空ロッド50の外周の上部に係着した止め輪55Aにより上側プレート51を上側から保持し、中空ロッド50の外周の下部に係着した止め輪55Bにより下側プレート52を下側から保持する。そして、上側プレート51の内縁部と下側プレート52の内縁部の間の中空ロッド50の外周に、上側プレート51の側から順に挿着された、圧側チェックバルブ61、伸側減衰バルブ62、バルブストッパ63、弾性体64、バルブストッパ65、圧側減衰バルブ66、伸側チェックバルブ67を互いに積層して挟持している。また、中空ロッド50は、上側プレート51と下側プレート52と中間カラー53の外周部をインナチューブ12の下部内側の前述した段差状内径部に挿着し、スペーサ41、ワッシャ42を介して、インナチューブ12の下端かしめ部12Aによりこれらの上側プレート51、下側プレート52、中間カラー53を固定している。このとき、圧側チェックバルブ61の外径部を上側プレート51の外縁部と中間カラー53の上端面との間に挟持し、伸側チェックバルブ67の外径部を下側プレート52の外縁部と中間カラー53の下端面との間に挟持している。
【0038】
即ち、フロントフォーク10は、ピストン27が、上側油室25Aに開口する上側ポート51Aと下側油室25Bに開口する下側ポート52Aを備え、上側ポート51Aと下側ポート52Aに挟まれる中間油室54を形成する。このとき、フロントフォーク10は、中間油室54を油溜室26に連絡する連絡流路70を有する。連絡流路70は、インナチューブ12に穿設されて常時油溜室26に開口する上側油孔71と、インナチューブ12に穿設されて常時中間油室54に開口する下側油孔72と、アウタチューブ11の内周とインナチューブ12の外周の間の環状隙間からなる環状間隙油路73とから構成される。インナチューブ12の下側油孔72は、中間カラー53に穿設した中間ポート53Aを介して中間油室54に開口するものとされる。
【0039】
そして、フロントフォーク10は、ピストン27の上側ポート51Aと中間油室54との間に、伸側行程で上側ポート51Aから中間油室54へ流れる油に伸側減衰力を及ぼす伸側減衰バルブ62と、圧側行程で中間油室54から上側ポート51Aへのみ油の流れを許容し、その逆方向の流れを阻止する圧側チェックバルブ61とを設ける。また、フロントフォーク10は、ピストン27の下側ポート52Aと中間油室54との間に、圧側行程で下側ポート52Aから中間油室54へ流れる油に圧側減衰力を及ぼす圧側減衰バルブ66と、伸側行程で中間油室54から下側ポート52Aへのみ油の流れを許容し、その逆方向の流れを阻止する伸側チェックバルブ67とを設ける。
【0040】
尚、圧側チェックバルブ61と伸側チェックバルブ67は、図6、図7に示す如くの板状をなし、内径部Aと、外径部Bと、内径部Aの外周の一部(直径方向の2ヵ所)と外径部Bの内周の一部(直径方向の2ヵ所)のそれぞれに連結部Cにより連結されて支持されるベンディング部Dとを有する。内径部Aとベンディング部Dとの間に円弧状スリットS1を備え、外径部Bとベンディング部Dとの間に円弧状スリットS2を備える。
【0041】
圧側チェックバルブ61は、内径部Aが中空ロッド50の外周に挿着され、上側プレート51の内縁部と伸側減衰バルブ62の内縁部とに挟持される。また、外径部Bがインナチューブ12の内周に挿着され、上側プレート51の外縁部と中間カラー53の上端面との間に挟持される。また、ベンディング部Dの外縁部が中間カラー53の上端面に載るように当接され、ベンディング部Dの内縁部が伸側減衰バルブ62の外縁部に載るように当接される。
【0042】
伸側チェックバルブ67は、内径部Aが中空ロッド50の外周に挿着され、下側プレート52の内縁部と圧側減衰バルブ66の内縁部とに挟持される。また、外径部Bがインナチューブ12の内周に挿着され、下側プレート52の外縁部と中間カラー53の下端面との間に挟持される。また、ベンディング部Dの外縁部が中間カラー53の下端面に載るように当接され、ベンディング部Dの内縁部が圧側減衰バルブ66の外縁部に載るように当接される。
【0043】
また、伸側減衰バルブ62と圧側減衰バルブ66は、積層板バルブからなり、中空ロッド50の外周に挿着される。バルブストッパ63とバルブストッパ65は、ワッシャからなり、中空ロッド50の外周に挿着される。
【0044】
また、弾性体64は、上側プレート51の内縁部に保持される圧側チェックバルブ61の内径部A及び伸側減衰バルブ62の内縁部と、下側プレート52の内縁部に保持される伸側チェックバルブ67の内径部A及び圧側減衰バルブ66の内縁部との間に、バルブストッパ63、65を介して挟圧される。弾性体64は、例えば2枚の皿ばね64A(図8)を向かい合わせしたものであり、中空ロッド50の外周に挿着される。弾性体64は上側のバルブストッパ63を上側プレート51の側に弾発し、下側のバルブストッパ65を下側プレート52の側に弾発する。
【0045】
従って、フロントフォーク10にあっては、車両が受ける衝撃を圧縮コイルばね35と空気室26Aの空気ばねによって吸収して緩和し、この衝撃の吸収に伴なう圧縮コイルばね35の伸縮振動を伸側減衰バルブ62と圧側減衰バルブ66が発生する減衰力により制振する。
【0046】
即ち、フロントフォーク10によれば、以下の作用効果を奏する。
(a)伸側行程では、インナチューブ12とピストン27が上昇し、このとき上側油室25Aの圧力が昇圧し、下側油室25Bの圧力はインナチューブ12の退出によって油溜室26の圧力より低圧になる。これにより、図8(A)、図9の実線矢印の如く、上側油室25Aの油がピストン27の上側ポート51Aから伸側減衰バルブ62を開いて中間油室54、伸側チェックバルブ67経由で下側油室25Bに流出し、伸側減衰バルブ62による伸側減衰力を発生させる。同時に、インナチューブ12の退出体積分の油が油溜室26から連絡流路70を通って中間油室54、伸側チェックバルブ67経由で下側油室25Bに補給される。
【0047】
圧側行程では、インナチューブ12とピストン27が下降し、このとき上側油室25Aの圧力が低下し、下側油室25Bの圧力が上昇する。これにより、図8(B)、図9の鎖線矢印の如く、下側油室25Bの油がピストン27の下側ポート52Aから圧側減衰バルブ66を開いて中間油室54、圧側チェックバルブ61経由で上側油室25Aに流出し、圧側減衰バルブ66による圧側減衰力を発生させる。同時に、インナチューブ12の進入体積分の油が下側油室25Bから圧側減衰バルブ66、中間油室54経由で連絡流路70を通って油溜室26に排出される。これにより、インナチューブ12の下部内側に設けられるピストン27により区画される上側油室25Aと下側油室25Bをアウタチューブ11とインナチューブ12の内部に設けてなる油圧緩衝器において、伸側減衰力と圧側減衰力の発生遅れを伴なうことなく、伸側行程におけるインナチューブ12の退出体積分の油と、圧側行程におけるインナチューブ12の進入体積分の油を簡易な構成により補償することにある。
【0048】
(b)前記連絡流路70が、インナチューブ12に穿設されて油溜室26に開口する上側油孔71と、インナチューブ12に穿設されて中間油室54に開口する下側油孔72と、アウタチューブ11の内周とインナチューブ12の外周の間の間隙油路73とからなる。これにより、前記連絡流路70を簡易に構成できる。
【0049】
(c)前記ピストン27が、支持ロッド22の外周に摺接する中空ロッド50と、中空ロッド50の周囲の上側油室25Aと下側油室25Bの間の軸方向に順に積層されて固定される上側プレート51と中間カラー53と下側プレート52を有し、上側プレート51に上側ポート51Aを形成し、下側プレート52に下側ポート52Aを形成し、中間カラー53の内周に中間油室54を形成する。これにより、前記インナチューブ12の下部内側に設けられるピストン27により、上側ポート51Aと下側ポート52Aと中間油室54を簡易に構成できる。
【0050】
(d)前記ピストン27の軸方向に沿う上側プレート51と下側プレート52の間に、圧側チェックバルブ61と伸側減衰バルブ62と圧側減衰バルブ66と伸側チェックバルブ67が順に積層される。これにより、前記ピストン27の上側ポート51Aと中間油室54との間に、圧側チェックバルブ61と伸側減衰バルブ62を簡易に設け、該ピストン27の下側ポート52Aと中間油室54との間に、圧側減衰バルブ66と伸側チェックバルブ67を簡易に設けることができる。
【0051】
(e)前記圧側チェックバルブ61と伸側チェックバルブ67のそれぞれが、内径部Aと、外径部Bと、内径部Aの外周の一部と外径部Bの内周の一部のそれぞれに連結されて支持されるベンディング部Dとを有し、圧側チェックバルブ61は、内径部Aが上側プレート51の内縁部と伸側減衰バルブ62の内縁部とに挟持され、外径部Bが上側プレート51の外縁部と中間カラー53の上端面との間に挟持され、ベンディング部Dの外縁部が中間カラー53の上端面に当接され、ベンディング部Dの内縁部が伸側減衰バルブ62の外縁部に当接されてなり、伸側チェックバルブ67は、内径部Aが下側プレート52の内縁部と圧側減衰バルブ66の内縁部とに挟持され、外径部Bが下側プレート52の外縁部と中間カラー53の下端面との間に挟持され、ベンディング部Dの外縁部が中間カラー53の下端面に当接され、ベンディング部Dの内縁部が圧側減衰バルブ66の外縁部に当接される。これにより、前記圧側チェックバルブ61と伸側チェックバルブ67を簡易に構成できる。
【0052】
(f)前記圧側チェックバルブ61の内径部A及び伸側減衰バルブ62の内縁部と、伸側チェックバルブ67の内径部A及び圧側減衰バルブ66の内縁部との間に、弾性体64が挟圧される。これにより、ピストン27の上側プレート51と下側プレート52と中間カラー53の寸法と、圧側チェックバルブ61と伸側減衰バルブ62と圧側減衰バルブ66と伸側チェックバルブ67の寸法の、バラツキを吸収できる。また、弾性体64の設定を低めにすることにより、圧側行程と伸側行程で減衰力がある程度以上に上がったときにブロー特性を与えることもできる。
【0053】
以上、本発明の実施例を図面により詳述したが、本発明の具体的な構成はこの実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、アウタチューブ内にインナチューブを摺動自在に挿入し、アウタチューブ内の底部に支持ロッドを立設し、支持ロッドの上端部に設けた隔壁部をインナチューブの内周に摺接し、この隔壁部によってインナチューブ内に油溜室と上側油室を区画し、インナチューブの下部内側に、前記支持ロッドの外周を摺動するピストンを設け、このピストンにより前記上側油室と区画される下側油室をアウタチューブ内の下方に設けてなる油圧緩衝器において、前記ピストンが、上側油室に開口する上側ポートと下側油室に開口する下側ポートを備え、上側ポートと下側ポートに挟まれる中間油室を形成するとともに、中間油室を油溜室に連絡する連絡流路を有し、ピストンの上側ポートと中間油室との間に、伸側行程で上側ポートから中間油室へ流れる油に伸側減衰力を及ぼす伸側減衰バルブと、圧側行程で中間油室から上側ポートへのみ油の流れを許容する圧側チェックバルブとを設けるとともに、ピストンの下側ポートと中間油室との間に、圧側行程で下側ポートから中間油室へ流れる油に圧側減衰力を及ぼす圧側減衰バルブと、伸側行程で中間油室から下側ポートへのみ油の流れを許容する伸側チェックバルブとを設けてなるものにした。これにより、インナチューブの下部内側に設けられるピストンにより区画される上側油室と下側油室をアウタチューブとインナチューブの内部に設けてなる油圧緩衝器において、伸側減衰力と圧側減衰力の発生遅れを伴なうことなく、伸側行程におけるインナチューブの退出体積分の油と、圧側行程におけるインナチューブの進入体積分の油を簡易な構成により補償することができる。
【符号の説明】
【0055】
10 フロントフォーク
11 アウタチューブ
12 インナチューブ
22 支持ロッド
24 隔壁部
25 油室
25A 上側油室
25B 下側油室
26 油溜室
27 ピストン
50 中空ロッド
51 上側プレート
51A 上側ポート
52 下側プレート
52A 下側ポート
53 中間カラー
54 中間油室
61 圧側チェックバルブ
62 伸側減衰バルブ
64 弾性体
66 圧側減衰バルブ
67 伸側チェックバルブ
70 連絡流路
71 上側油孔
72 下側油孔
73 間隙油路
A 内径部
B 外径部
C 連結部
D ベンディング部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アウタチューブ内にインナチューブを摺動自在に挿入し、
アウタチューブ内の底部に支持ロッドを立設し、支持ロッドの上端部に設けた隔壁部をインナチューブの内周に摺接し、この隔壁部によってインナチューブ内に油溜室と上側油室を区画し、
インナチューブの下部内側に、前記支持ロッドの外周を摺動するピストンを設け、このピストンにより前記上側油室と区画される下側油室をアウタチューブ内の下方に設けてなる油圧緩衝器において、
前記ピストンが、上側油室に開口する上側ポートと下側油室に開口する下側ポートを備え、上側ポートと下側ポートに挟まれる中間油室を形成するとともに、
中間油室を油溜室に連絡する連絡流路を有し、
ピストンの上側ポートと中間油室との間に、伸側行程で上側ポートから中間油室へ流れる油に伸側減衰力を及ぼす伸側減衰バルブと、圧側行程で中間油室から上側ポートへのみ油の流れを許容する圧側チェックバルブとを設けるとともに、
ピストンの下側ポートと中間油室との間に、圧側行程で下側ポートから中間油室へ流れる油に圧側減衰力を及ぼす圧側減衰バルブと、伸側行程で中間油室から下側ポートへのみ油の流れを許容する伸側チェックバルブとを設けてなることを特徴とする油圧緩衝器。
【請求項2】
前記連絡流路が、インナチューブに穿設されて油溜室に開口する上側油孔と、インナチューブに穿設されて中間油室に開口する下側油孔と、アウタチューブの内周とインナチューブの外周の間の間隙油路とからなる請求項1に記載の油圧緩衝器。
【請求項3】
前記ピストンが、支持ロッドの外周に摺接する中空ロッドと、中空ロッドの周囲の上側油室と下側油室の間の軸方向に順に積層されて固定される上側プレートと中間カラーと下側プレートを有し、上側プレートに上側ポートを形成し、下側プレートに下側ポートを形成し、中間カラーの内周に中間油室を形成してなる請求項1又は2に記載の油圧緩衝器。
【請求項4】
前記ピストンの軸方向に沿う上側プレートと下側プレートの間に、圧側チェックバルブと伸側減衰バルブと圧側減衰バルブと伸側チェックバルブが順に積層されてなる請求項3に記載の油圧緩衝器。
【請求項5】
前記圧側チェックバルブと伸側チェックバルブのそれぞれが、内径部と、外径部と、内径部の外周の一部と外径部の内周の一部のそれぞれに連結されて支持されるベンディング部とを有し、
圧側チェックバルブは、内径部が上側プレートの内縁部と伸側減衰バルブの内縁部とに挟持され、外径部が上側プレートの外縁部と中間カラーの上端面との間に挟持され、ベンディング部の外縁部が中間カラーの上端面に当接され、ベンディング部の内縁部が伸側減衰バルブの外縁部に当接されてなり、
伸側チェックバルブは、内径部が下側プレートの内縁部と圧側減衰バルブの内縁部とに挟持され、外径部が下側プレートの外縁部と中間カラーの下端面との間に挟持され、ベンディング部の外縁部が中間カラーの下端面に当接され、ベンディング部の内縁部が圧側減衰バルブの外縁部に当接されてなる請求項4に記載の油圧緩衝器。
【請求項6】
前記圧側チェックバルブの内径部及び伸側減衰バルブの内縁部と、伸側チェックバルブの内径部及び圧側減衰バルブの内縁部との間に、弾性体が挟圧されてなる請求項5に記載の油圧緩衝器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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