油圧装置
【課題】 従来の油圧装置は、油圧ポンプからの圧油が先ず単動式油圧シリンダを作動させる油圧切替バルブへ供給され、該油圧切替バルブを経由して油圧式無段変速装置へチャ−ジ圧として供給される構成となっているので、油圧切替バルブにより油圧ポンプからの圧油が単動式油圧シリンダへ全量供給する状態に切り替えると、油圧式無段変速装置へチャ−ジ圧が供給されなくなり、油圧式無段変速装置の駆動力が低下するおそれがある。
【解決手段】 単動式油圧シリンダ(10)への圧油の供給と油圧式無段変速装置(16)へのチャ−ジ圧の供給とを行う共通の油圧ポンプ(69)を設け、前記単動式油圧シリンダ(10)への圧油の供給より優先して前記油圧式無段変速装置(16)へのチャ−ジ圧の供給が行われるように油圧ポンプ(69)から単動式油圧シリンダ(10)及び油圧式無段変速装置(16)への油圧供給回路を構成した。
【解決手段】 単動式油圧シリンダ(10)への圧油の供給と油圧式無段変速装置(16)へのチャ−ジ圧の供給とを行う共通の油圧ポンプ(69)を設け、前記単動式油圧シリンダ(10)への圧油の供給より優先して前記油圧式無段変速装置(16)へのチャ−ジ圧の供給が行われるように油圧ポンプ(69)から単動式油圧シリンダ(10)及び油圧式無段変速装置(16)への油圧供給回路を構成した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば農作業機や建設機械等に備え、単動式油圧シリンダと油圧式無段変速装置とを備える油圧装置の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
農作業機の一種である田植機において、車体に対して苗植付部を昇降させる単動式油圧シリンダと車体の走行速度を変速する油圧式無段変速装置とを設け、共通の油圧ポンプからの圧油が単動式油圧シリンダ及び油圧式無段変速装置へ供給されるように油圧供給回路を構成した油圧装置を設けたものがある。上記油圧供給回路は、油圧ポンプからの圧油が先ず単動式油圧シリンダを作動させる油圧切替バルブへ供給され、該油圧切替バルブを経由して油圧式無段変速装置へチャ−ジ圧として供給される構成となっている(特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平11−201280号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記背景技術のものは、油圧切替バルブにより油圧ポンプからの圧油が単動式油圧シリンダへ全量供給する状態に切り替えると、油圧式無段変速装置へチャ−ジ圧が供給されなくなり、油圧式無段変速装置の駆動力が低下するおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この発明は、上記課題を解決すべく次のような技術的手段を講じた。
すなわち、請求項1に係る発明は、単動式油圧シリンダ(10)への圧油の供給と油圧式無段変速装置(16)へのチャ−ジ圧の供給とを行う共通の油圧ポンプ(69)を設け、前記単動式油圧シリンダ(10)への圧油の供給より優先して前記油圧式無段変速装置(16)へのチャ−ジ圧の供給が行われるように油圧ポンプ(69)から単動式油圧シリンダ(10)及び油圧式無段変速装置(16)への油圧供給回路を構成した油圧装置とした。
【0005】
従って、この油圧装置によると、共通の油圧ポンプ(69)からの圧油が油圧供給回路を介して単動式油圧シリンダ(10)及び油圧式無段変速装置(16)へ供給され、単動式油圧シリンダ(10)が作動したり油圧式無段変速装置(16)へチャ−ジ圧が供給されたりする。そして、前記油圧ポンプ(69)からの圧油は単動式油圧シリンダ(10)より優先して油圧式無段変速装置(16)へ供給され、単動式油圧シリンダ(10)の作動に拘らず油圧式無段変速装置(16)へのチャ−ジ圧を供給することができる。
【発明の効果】
【0006】
よって、単動式油圧シリンダ(10)の作動に拘らず、油圧式無段変速装置(16)へのチャ−ジ圧を供給することができるので、油圧式無段変速装置(16)の駆動力が低下するようなことを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
この発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
図1及び図2は、農作業機の一例として乗用田植機を示すものであり、車体(1)の前後には走行車輪としての左右一対の前輪(2)及び後輪(3)が架設されている。車体(1)上前部には上面に操作パネル(4a)を有する操作ボックス(4)及びステアリングハンドル(5)等を有する操縦装置が設置され、車体(1)後方には昇降可能な苗植付部(6)が装備されている。操縦装置の後側に運転席(8)が設置され、運転席(8)の下側に田植機の各部に動力を伝達するエンジン(7)が搭載されている。尚、運転席(8)の内部には、オペレータが運転席(8)に着座したかどうかを検出する感圧式の着座センサ(8a)を設けている。
【0008】
左右一対の後輪3は、車体フレーム(60)に対して前後方向の軸(61)回りに左右ローリング自在の後輪ローリングフレーム(62)に支持されている。該後輪ローリング
フレーム(62)の車体フレーム(60)に対する左右ローリング角度を検出する後輪ローリングセンサ(63)を設け、該後輪ローリングセンサ(63)により後輪ローリングフレーム(62)の左右ローリング角度が所定角度以上であることを検出した状態で所定時間以上経過すると、連繋機構を介して後述するミッションケ−ス(18)内に設けた前輪デフロック機構を作動させ、左右一対の前輪(2)をデフロック状態に切り替える構成となっている。これにより、傾斜地や耕盤が傾斜しているところを走行するときに機体の左右傾斜を後輪ローリングフレーム(62)の回動によりいち早く検出し、車輪(2)のデフロック機構を作動させて機体の直進性を維持させることができる。特に、上述のように左右一対の車輪(3)がローリングフレーム(62)により一体的にローリングする構成においては、前後他側の車輪(2)との左右位置関係が相違しながらローリングすることになるので、機体の左右位置や進行方向が変化しやすく、機体の直進性が著しく低下するおそれがあるが、上述の構成によりその課題を解消することができる。
【0009】
苗植付部(6)は、車体(1)の後部に昇降リンク機構(9)を介して昇降可能に装着され、単動式油圧シリンダである昇降用油圧シリンダ(10)の伸縮作動により昇降する構成としている。昇降リンク機構(9)には苗植付部(6)の昇降位置を検出する昇降リンクセンサ(9a)を設けている。
【0010】
また、この苗植付部(6)には、左右に往復動する苗載タンク(11)、1株分の苗を切取って土中に植込む植込杆を有する植付装置(12)、苗植付面を滑走しながら整地するサイドフロ−ト(13S)及びセンタフロ−ト(13C)等を備えている。センタフロ−ト(13C)には、該フロ−ト(13C)の迎い角を検出するフロ−ト迎い角センサ(13a)を設けている。また、苗載タンク(11)の各条の苗載部には、苗が所定量以下に減少したことを検出する苗減少センサ(64)を設けている。
【0011】
エンジン(7)の回転動力は、エンジン出力軸(14)からベルト(15)を介して油圧式無段変速装置(HST)(16)の入力軸(17)に伝えられ、HST(16)の出力軸からミッションケ−ス(18)のミッション入力軸に伝えられるようになっている。
【0012】
なお、前記苗植付部(6)への動力伝達は、前記ミッションケ−ス(10)内のミッション装置から取り出される作業機用取出伝動軸(19)を介して車体(1)後部に設けた植付クラッチケ−ス(20)内に伝達され、そこから植付伝動軸(21)によって苗植付部(6)へ伝達されるようになっている。なお、植付クラッチケ−ス(20)内に設けた植付クラッチ(図示せず)により、苗植付部(6)の駆動の入切が行われるようになっている。
【0013】
ステアリングハンドル(5)近くには変速レバ−(HSTレバ−)(22)が配置され、この変速レバ−(22)の前後進中立域(N)を挟む前後方向の操作で油圧式無段変速装置(16)を作動させ機体を前進及び後進させる。すなわち、変速レバ−(22)が操作されたことを変速レバ−センサ(HSTレバ−センサ)(22a)で検出し、それに応じてHSTモ−タ(変速アクチュエ−タ)(23)によりピニオンギヤ(24)、減速扇形ギヤ(25)を介して変速作動部(トラニオンア−ム)(27)を回動させ、油圧式無段変速装置(16)の斜板角度を変えて速度調節するものであり、変速レバ−(22)が前後進中立域(N)にある時は速度が零で、変速レバ−(22)を前進操作域(F)に操作すると前後進中立域(N)からの距離に応じた速度の前進速となり、後進操作域(R)に操作すると前後進中立域(N)からの距離に応じた速度の後進速となり、前後進無段階に変速できる。つまり、油圧式無段変速装置(HST)(16)が変速レバ−センサ(22a)の検出値に基づいて制御部を介してHSTモ−タ(23)を作動させる構成となっている。尚、変速作動部(27)は、トラニオン軸(28)と共に回動する構成である。
【0014】
前記変速レバ−センサ(HSTレバ−センサ)(22a)は、変速レバ−(22)からの操作連繋機構により回動操作される変速操作部(65)に固着されており、変速作動部(トラニオンア−ム)(27)との間に設けた検知用部材(検知用ロッド)(66)を介して変速操作部(65)の回動位置に対する変速作動部(トラニオンア−ム)(27)の回動位置を検出する構成となっている。従って、変速レバ−センサ(22a)の検出値が所定の値となるようHSTモ−タ(23)が作動する構成となっている。尚、変速操作部
(65)の回動軸心と変速作動部27の回動軸心(トラニオン軸28)とは、同一直線上に設けられている。そして、変速操作部(65)と変速作動部(27)とは、それらの回動軸心上に設けたト−ションバ−(連結部材)(67)により連結されている。
【0015】
通常は、変速レバ−(HSTレバ−)(22)の操作で変速操作部(65)が回動すると、前記ト−ションバ−(67)が変速操作部(65)と変速作動部(27)との回動位相のずれを許容し、この回動位相のずれを変速レバ−センサ(22a)が検出してHSTモ−タ(23)を作動するので、変速作動部(27)の回動抵抗が変速レバ−(22)に伝達されるのを抑えてHSTモ−タ(23)により変速操作をアシストするようになるため、軽い操作力で変速レバ−(22)を操作することができる。一方、HSTモ−タ(23)や変速レバ−センサ(22a)等の制御系統に故障が生じたときは、前記ト−ションバ−(67)の許容トルクを超える操作力が変速操作部(65)に伝達されるように変速レバ−(22)を操作して変速操作部(65)を回動させると、前記ト−ションバ−(67)を介して変速作動部(27)を強制的に回動させて変速することができる。これにより、仮に前記制御系統に故障が生じても、格別の切替等を行わずに手動で強制的に変速することができて作業を継続することができると共に、制御系統の故障で不測に変速されることがあっても変速レバ−(22)により即座に所望の走行速度に変速することができ、安全に走行することができる。尚、HSTモ−タ(23)には過負荷がかかると伝動を断つ安全クラッチ(図示せず)を備えているので、変速レバ−(22)を強制的に操作することにより変速作動部(27)を回動させることができるのである。尚、上記のものは連結部材としてト−ションバ−(67)を使用した構成であるが、連結部材としてトルクスプリングを使用した構成としてもよい。また、上記のものはHSTモ−タ(23)に備える安全クラッチにより手動で強制的に変速操作できる構成としたが、HSTモ−タ(23)から変速作動部(27)又はトラニオン軸(28)への伝達を断つ格別のクラッチ機構を設け、変速レバ−(22)又は該レバ−(22)からの操作連繋機構に所定以上の操作力がかかると前記クラッチ機構の伝達を断つように構成してもよい。従来は、変速アクチュエ−タ等の制御系統に故障が生じた場合、別途手段により走行を停止させ、変速アクチュエ−タから変速装置への作動連繋機構の伝達を断つと共に変速レバ−の操作連繋機構と変速装置とを連結する切替のための整備を行い手動で変速操作できる構成としていたので、前記切替のための整備が面倒で作業能率低下の要因となったり、オペレ−タの意図に反して変速されたときに即座に所望の速度に変速することができずに危険を伴ったりするおそれがある。特に、機体の畦越え時やトラックへの積込時等のように機体が傾斜して転倒しやすい状態のとき、制御系統の故障により急に走行停止したり逆に急加速したりすると、機体が不安定になりやすく危険である。
【0016】
図5に示すように、変速レバ−(HSTレバ−)(22)の操作経路(K)の後進域(R)には、アクセル用連動ア−ム(30)を設けている。該アクセル用連動ア−ム(30)は、該ア−ム(30)の一端側で変速レバ−(22)の操作経路(K)の一方側(左側)の位置に設けた支軸(31)を支点として揺動作動するよう枢支して設け、該ア−ム(30)の他端側で変速レバ−(22)の操作経路(K)の前記支軸(31)とは反対側(右側)の位置にエンジン(7)のスロットルア−ムに連繋するアクセルケ−ブル(32)のアウタ−基部(32a)を固定している。一方、アクセルケ−ブル(32)のインナ−ワイヤ(32b)は、変速レバ−(22)に固着したワイヤ連結具(33)に連結されている。尚、前記アクセル用連動ア−ム(30)は、図示しないトルクスプリングにより変速レバ−(HSTレバ−)(22)の操作経路における前後進中立域(N)及び前進域(F)側(前側)に回動するように付勢されている。
【0017】
変速レバ−(22)を前後進中立域(N)から前進域(F)へ操作すると、HSTモ−タ(23)により変速作動部(27)が回動し、この変速作動部(27)の回動に伴って油圧式無段変速装置(HST)(16)の出力軸が正転して機体が前進する。そして、同時にアクセルケ−ブル(32)のインナ−ワイヤ(32b)が前側へ引かれてエンジン(7)の回転を高速側にアップする。従って、変速レバ−(22)を前進高速側へ操作する程、アクセルケ−ブル(32)のインナ−ワイヤ(32b)が前側へ引かれてエンジン
(7)の回転が上昇する構成となっている。
【0018】
また、変速レバ−(22)を前後進中立域(N)から後進域(R)へ操作すると、HSTモ−タ(23)の作動で変速作動部(27)を回動させ、この変速作動部(27)の回動に伴い油圧式無段変速装置(HST)(16)の出力軸が逆転して機体が後進する。これと同時に変速レバ−(22)がアクセル用連動ア−ム(30)に当接することによりアクセル用連動ア−ム(30)が後方へ回動し、変速レバ−(22)ひいてはワイヤ連結具(33)が後進高速位置側(後側)に移動するのに増してアクセルケ−ブル(32)のアウタ−基部(32a)が変速レバ−(22)の後進高速位置側(後側)に大きく移動する。従って、変速レバ−(22)を後進高速側へ操作する程、アクセルケ−ブル(32)のアウタ−基部(32a)が後側へ大きく移動する分、アクセルケ−ブル(32)のインナ−ワイヤ(32b)が引かれてエンジン(7)の回転が上昇する構成となっている。
【0019】
また、変速レバ−(HSTレバ−)(22)を後進域(R)に操作すると苗植付部(6)を上昇させるバックリフト機能を備えており、変速レバ−(22)の後進域(R)への操作で前記アクセル用連動ア−ム(30)が後側へ回動したことを該ア−ム(30)に取り付けたア−ムセンサ(図示せず)により検出すると、制御部を介して後述する植付昇降切替モ−タ(47)を駆動して苗植付部(6)を上昇させる構成となっている。尚、前記ア−ムセンサが変速レバ−(22)の後進域(R)への操作を検出した後、変速レバ−(22)の後進域(R)に保持されていても、後述する昇降・駆動操作レバ−(上下スイッチ)(44)及び上昇専用スイッチ(45)並びに下降専用スイッチ(46)等により任意の高さに苗植付部(6)を昇降させることができる構成となっている。そして、変速レバ−(22)が前進域(F)又は前後進中立域(N)に操作された後、再度ア−ムセンサが変速レバ−(22)の後進域(R)への操作を検出すれば、バックリフト機能が作動して苗植付部(6)を上昇させることができる構成となっている。
【0020】
よって、前後方向に操作することで前進高速位置から前後進中立域(N)を介して後進高速域まで操作する変速レバ−(22)において、前進域(F)及び後進域(R)のうちの一方(前進域(F))では高速側に操作されるにつれてアクセルケ−ブル(32)のインナ−ワイヤ(32b)が引かれる構成となっており、他方(後進域(R))では高速側に操作されるにつれてアクセルケ−ブル(32)のアウタ−基部(32a)が移動して結果的にインナ−ワイヤ(32b)が引かれる構成となっており、前記アウタ−基部(32a)を取り付ける単一のアクセル用連動ア−ム(30)を設ける等の簡単な構成で油圧式無段変速装置(HST)(16)の変速比とエンジン(7)の回転数とを連動することができ、部品点数を削減してコストダウンが図れる。また、アクセル用連動ア−ム(30)はバックリフト機能における変速レバ−(22)の後進域(R)への操作を検出する部材を兼ねているので、更なる部品点数の削減によるコストダウンが図れる。従来は、変速レバ−の操作に連動して作動する前進用のアクセル用連動ア−ムと後進用のアクセル用連動ア−ムとを設け、各々のアクセル用連動ア−ムに対応してアクセルケ−ブルを各々設けた構成としていたので、部品点数が多くなって構成が複雑になりコストアップの要因となっていた。
【0021】
尚、図6に示すように、アクセルケ−ブル(32)のインナ−ワイヤ(32b)と変速レバ−(22)のワイヤ連結具(33)との間に引張スプリング(融通機構)(68)を設け、変速レバ−(22)を前後進中立域(N)から前進域(F)の中間(前進中速位置)まで操作したときは、前記引張スプリング(68)があまり伸縮せずにアクセルケ−ブル(32)のインナ−ワイヤ(32b)が作動してエンジン回転が大きく変化し、変速レバ−(22)を前進域(F)の中間(前進中速位置)から前進高速位置まで操作したときは、変速レバ−(22)の操作位置に応じて前記引張スプリング(68)が伸縮することでアクセルケ−ブル(32)のインナ−ワイヤ(32b)があまり作動せずにエンジン回転があまり変化しないように構成してもよい。これにより、油圧式無段変速装置(16)の変速比の最高速への上昇に先立ってエンジン(7)の回転数をフルスロットル(最高速)まで上昇させるように、油圧式無段変速装置(HST)(16)の変速比とエンジン(7)の回転数との連動を設定でき、湿田等で走行負荷が大きいとき、変速レバ−(22)を前進域(F)の中間(前進中速位置)へ操作することにより油圧式無段変速装置(16)の変速比の上昇を抑えながらエンジン(7)の回転数をフルスロットルにすることができ、走行駆動力を得ることができる。尚、前記引張スプリング(68)をその自由長が異なるものと交換すれば、エンジン(7)の回転数がフルスロットルに到達する変速レバ−(22)位置を変更調節することができる。
【0022】
また、前記操作ボックス(4)の後部には、有段変速操作される主変速レバ−(41)があり、機体を路上走行させる「移動」位置、機体走行及び苗植付部(6)共に動力の伝動を断つ「中立」位置、通常植付作業等で機体走行及び苗植付部(6)共に駆動する「植付」位置等を設け、ミッションケ−ス(18)内の主変速部の伝動を切り替えるようになっている。
【0023】
変速レバ−(HSTレバ−)(22)のグリップ部(43)において、機体の左右方向内側となる側面(左側面)には、前側に上下に操作する昇降・駆動操作レバ−(上下スイッチ)(44)及び後側の上下に押し操作する上昇専用スイッチ(45)並びに下降専用スイッチ(46)を設けている。なお、上昇専用スイッチ(45)並びに下降専用スイッチ(46)より昇降・駆動操作レバ−(上下スイッチ)(44)の方が、その先端が機体の左右方向内側(左側)に突出している。そして、苗植付部(6)の昇降及び駆動の入切に関する制御構成について説明すると、前記昇降・駆動操作レバ−(上下スイッチ)(44)、上昇専用スイッチ(45)及び下降専用スイッチ(46)に加えて昇降リンクセンサ(9a)からの信号が制御部へ入力され、制御部からの出力信号により植付昇降切替モ−タ(47)が作動する構成となっている。図9に示すように、植付昇降切替モ−タ(47)は一対のギヤ(48),(49)を介して位置決めカム(50)を回動させる構成となっており、位置決めカム(50)に設けたカム溝(50a)に位置決めロ−ラ(51)が嵌入して前記位置決めカム(50)の回動位置を4位置に安定させる。なお、前記位置決めロ−ラ(51)は、トルクスプリング(52)により位置決めカム(50)側に付勢されるロ−ラ用ア−ム(53)の先端に取り付けられ、カム溝(50a)側に付勢されている。そして、前記位置決めカム(50)の回動により、該カム(50)と一体回動する昇降・駆動操作ア−ム(54)が回動して、昇降用油圧シリンダ(10)への油路を切り替える油圧バルブ(55)のスプ−ルピン(55a)を操作すると共に、植付クラッチケ−ス(20)内に設けた植付クラッチを入切させる植付クラッチピン(56)を操作する。すなわち、昇降・駆動操作ア−ム(54)が後側に回動すると、前記スプ−ルピン(55a)が油圧バルブ(55)のケ−ス内に押し込まれて昇降用油圧シリンダ(10)へ油圧を供給する状態となり、苗植付部(6)が上昇する。逆に、昇降・駆動操作ア−ム(54)が前側に回動すると、前記スプ−ルピン(55a)が油圧バルブ(55)のケ−ス内から突出して昇降用油圧シリンダ(10)の油圧を逃がす状態となり、苗植付部(6)が下降する。また、昇降・駆動操作ア−ム(54)が最前まで回動すると、該昇降・駆動操作ア−ム(54)が植付クラッチ操作ア−ム(57)に当接し、植付クラッチ操作ア−ム(57)の回動により植付クラッチピン(56)を植付クラッチケ−ス(20)から突出させて植付クラッチが伝動状態となり、苗植付部(6)が作動する。なお、昇降・駆動操作ア−ム(54)が植付クラッチ操作ア−ム(57)から離れると、別途設けた付勢スプリング(図示せず)により植付クラッチピン(56)が植付クラッチケ−ス(38)内に押し込まれて植付クラッチが非伝動状態となり、苗植付部(6)の作動が停止する。従って、植付昇降切替モ−タ(47)の回動により、位置決めカム(50)が、苗植付部(6)が上昇する「上昇」位置、苗植付部(6)の昇降位置を固定する「固定」位置、苗植付部(6)が下降する「下降」位置及びその下降状態で苗植付部(6)が作動する「植付」位置に操作される構成となっている。なお、位置決めカム(50)が前記「上昇」位置で昇降リンクセンサ(9a)からの信号により苗植付部(6)が最上昇位置にあることを検出すると、植付昇降切替モ−タ(47)を駆動して位置決めカム(50)を前記「固定」位置に切り替える構成となっている。
【0024】
昇降・駆動操作レバ−(上下スイッチ)(44)は、中立復帰位置に対して上側の上側操作位置と下側の下側操作位置とに操作できる。苗植付部(6)が上昇した状態で昇降・
駆動操作レバ−(上下スイッチ)(44)を前記下側操作位置へ一回操作すると、植付昇降切替モ−タ(47)の駆動により位置決めカム(50)が「下降」位置に切り替えられて苗植付部(6)が下降する。そして、下側操作位置へ再度操作すると、位置決めカム(50)が「植付」位置に切り替えられて苗植付部(6)が作動して圃場に苗を植え付ける。以後、苗植付部(6)が下降状態であれば、昇降・駆動操作レバ−(上下スイッチ)(44)を下側操作位置へ操作する度に、位置決めカム(50)が「下降」位置と「植付」位置とに交互に切り替えられ、苗植付部(6)の作動、非作動が交互に繰り返される。また、昇降・駆動操作レバ−(上下スイッチ)(44)を上側操作位置へ操作すると、植付昇降切替モ−タ(47)の駆動により位置決めカム(50)が「上昇」位置に切り替えられて苗植付部(6)が上昇する。そして、昇降リンクセンサ(14)により苗植付部(6)が最上昇位置に到達したことを検出すると、位置決めカム(50)を「固定」位置に切り替えて苗植付部(6)の昇降を停止する。
【0025】
上昇専用スイッチ(45)を押し操作すると植付昇降切替モ−タ(47)の駆動により押している間だけ位置決めカム(50)が「上昇」位置に切り替えられ、上昇専用スイッチ(45)の押し操作を解除すれば位置決めカム(50)が「固定」位置に切り替えられる。従って、前記上昇専用スイッチ(45)により、苗植付部(6)を任意の位置まで上昇させることができる。同様に、下降専用スイッチ(46)を押し操作すると押している間だけ位置決めカム(50)が「下降」位置に切り替えられ、下降専用スイッチ(46)の押し操作を解除すれば位置決めカム(50)が「固定」位置に切り替えられる。従って、前記下降専用スイッチ(46)により、苗植付部(6)を任意の位置まで下降させることができる。よって、上昇専用スイッチ(45)及び下降専用スイッチ(46)により、苗植付部(6)を任意の高さに昇降させることができ、機体を後進させて畦際に近づけるとき等、苗植付部(6)を若干対地浮上させた状態で後進すれば、後進位置が判り易くなる。
【0026】
図11に示すように、この乗用田植機の油圧装置における油圧回路には、油圧式無段変速装置(HST)(16)の入力軸(17)上に設けた油圧ポンプ(69)を備えている。従って、該油圧ポンプ(69)は、エンジン(7)の回転に比例して駆動回転する。この油圧ポンプ(69)からの圧油は、先ず前輪(2)を操舵するステアリングハンドル(5)のパワ−ステアリング装置(70)へ供給され、該パワ−ステアリング装置(70)から昇降用油圧シリンダ(10)を作動させる苗植付部昇降作動装置(71)及び油圧式無段変速装置(HST)(16)へ供給される構成となっている。パワ−ステアリング装置(70)では、油圧ポンプ(69)からの圧油が該パワ−ステアリング装置(70)の油路切替バルブ部(72)へ供給されると共に、ステアリングハンドル(5)の操作で前記油路切替バルブ部(72)により油路が切り替えられ、油圧モ−タ部(73)へ適宜油圧が供給されてステアリングハンドル(5)による前輪(2)の操舵をアシストする構成となっている。尚、油圧モ−タ部(73)に所定以上の圧力(負荷)がかかると油圧ポンプ(69)からの圧油をパワ−ステアリング装置(70)から逃がすパワ−ステアリング用リリ−フバルブ(74)を備えている。パワ−ステアリング装置(70)においては、前記パワ−ステアリング用リリ−フバルブ(74)又は油路切替バルブ部(72)から油圧が全量排出される。そして、パワ−ステアリング装置(70)から排出される油圧は、分岐油路(75)により、苗植付部昇降作動装置(71)側と油圧式無段変速装置(16)側とへ分岐して供給される。
【0027】
前記分岐油路(16)の一方側から油圧が供給される苗植付部昇降作動装置(71)について説明すると、油量(油圧ポンプ(69)の回転数)に関係なく主経路(s)へ一定流量のみ分流する定分流バルブ(76)を設け、該定分流バルブ(76)で分流された主経路(s)の油圧のみを油圧バルブ(55)へ供給する分流状態と、定流量バルブ(76)で分流された油圧を再び合流して全流量油圧バルブ(55)へ供給する合流状態とに切り替えできる流量切替用電磁バルブ(77)を設けている。尚、該流量切替用電磁バルブ(77)を前記分流状態にしたときには、定分流バルブ(76)で分流される余剰流が油圧式無段変速装置(16)へチャ−ジ圧を供給するためのチャ−ジ油路(78)へ供給される構成となっている。前記油圧バルブ(55)は、前記流量切替用電磁バルブ(77)から供給される油圧を昇降用油圧シリンダ(10)側へ供給する上昇状態と、昇降用油圧シリンダ(10)側からの油圧の戻り経路を閉塞すると共に流量切替用電磁バルブ(77)から供給される油圧を前記チャ−ジ油路(78)へ供給する中立状態と、昇降用油圧シリンダ(10)内の油圧を油圧タンクを兼用するミッションケース(18)内へ逃がすと共に流量切替用電磁バルブ(77)から供給される油圧をチャ−ジ油路(78)へ供給する下降状態とに切替できる構成となっている。油圧バルブ(55)と昇降用油圧シリンダ(10)との間の油圧経路には、逆止弁(79)により昇降用油圧シリンダ(10)からの油圧の戻りを規制する下降規制状態と、前記逆止弁(79)が解除されて油圧が行き来できる規制解除状態とに切り替えできる下降規制用バルブ(80)を設けている。該下降規制用バルブ(80)は、昇降用油圧シリンダ(10)に連通する第一パイロット油路(81)を介するパイロット圧と油圧バルブ(55)へ油圧を供給する油路に連通する第二パイロット油路(82)を介するパイロット圧とにより作動し、油圧ポンプ(69)(エンジン(7))が駆動して第二パイロット油路(82)のパイロット圧が上昇すると規制解除状態に切り替えられ、逆に油圧ポンプ(69)(エンジン(7))が停止して第二パイロット油路(82)のパイロット圧が低下すると下降規制状態に切り替えられる構成となっている。尚、定分流バルブ(76)の油路上手側には昇降用リリ−フバルブ(83)を設けており、該昇降用リリ−フバルブ(83)により油圧バルブ(55)の上昇状態で昇降用油圧シリンダ(10)に所定以上の圧力(負荷)がかかると圧油をチャ−ジ油路(78)へ逃がす構成となっている。
【0028】
前記分岐油路(75)の他方側へ供給される油圧は、減圧バルブ(84)を介して前記チャ−ジ油路(78)へ供給される。従って、チャ−ジ油路(78)内の油圧が所定値以下になると、前記減圧バルブ(84)により、チャ−ジ油路(78)へ油圧が供給され、チャ−ジ油路(78)内は常に所定以上の油圧が維持される構成となっている。
【0029】
油圧式無段変速装置(16)は、入力軸(17)と一体回転する無段変速用油圧ポンプ(85)からの圧油により、無段変速用油圧モータ(86)が回転して該油圧モータ(86)と一体回転する出力軸(87)を駆動する無段変速用油路(88)を構成している。該無段変速用油路(88)は、無段変速用油圧ポンプ(85)と無段変速用油圧モータ(86)との間にそれぞれ設けた正転側油路(88a)と逆転側油路(88b)とを備え、この正転側油路(88a)び逆転側油路(88b)とで構成される閉ル−プ状の油路となっている。尚、変速レバ−(HSTレバ−)(22)の操作により変速作動部(27)ひいてはトラニオン軸(28)が作動するのに伴って、無段変速用油圧ポンプ(85)からの吐出量あるいは吐出する側の油路(88a),(88b)が切り替えられ、無段変速用油圧モータ(85)の回転が無段階に変速されたり正逆転したりする構成となっている。そして、この無段変速用油路(88)の正転側油路(88a)内又は逆転側油路(88B)内の油圧が不足する場合には、前述のチャ−ジ油路(78)からそれぞれの逆止弁(89)を介して前記正転側油路(88a)又は逆転側油路(88b)へチャ−ジ圧が供給され、無段変速用油路(88)の油圧を補う構成となっている。尚、チャ−ジ油路(78)には無段変速用リリ−フバルブ(90)を設けており、無段変速用油路(16)へのチャ−ジ圧の供給が不要な状態では、前記無段変速用リリ−フバルブ(90)よりチャ−ジ油路(90)油圧を油圧タンクを兼用するミッションケース(18)内へ逃がす構成となっている。
【0030】
また、正転側油路(88a)と逆転側油路(88b)との間には無段変速用減圧バルブ(91)を設け、該無段変速用減圧バルブ(91)を介して一方側油路から他方側油路へ油圧を逃がすことができる構成となっている。尚、無段変速用減圧バルブ(91)の正転側油路(88a)と連通する側にはオリフィス(92)を設けており、このオリフィス(92)により微量の油圧のみが他方側油路(88b)へ逃げるようにしている。これにより、前後進中立における中立不感帯幅を確保することができ、変速レバ−(22)を前後進中立域(N)に操作したときにトラニオン軸(28)の作動誤差に伴う無段変速用油圧ポンプ(85)からの微少流量により機体が走行するようなことを防止できる。そして、深い圃場や湿田あるいは登り坂等で機体の前進時に走行負荷が増大して正転側油路(88a)内の油圧の圧力が上昇すると、無段変速用減圧バルブ(91)が作動して油路を遮断し、正転側油路(88a)から逆転側油路(88b)へ油圧が逃げるのを防止する。これにより、走行負荷が増大して走行駆動力を要するときには、油圧式無段変速装置(16)の効率低下を防止して走行駆動力を得ることができる。特に、上記構成とすることにより、通常作業時等でよく使用し走行負荷が過大になる頻度の高い前進側で、油圧式無段変速装置(16)の効率低下を防止することができる。尚、後進側油路(88b)内の油圧の圧力が上昇すると、無段変速用減圧バルブ(91)が作動して油路を遮断する構成としてもよい。すなわち、無段変速用減圧バルブ(91)を、正転側油路(88a)内及び逆転側油路(88b)内の何れの油圧の圧力が上昇しても、一方側油路内の油圧上昇で該一方側油路から他方側油路へ油圧が逃げるのを防止する構成とすればよい。また、機体を坂路で停止させている場合でも、重力で機体が坂路を下ろうとすることで一方側油路(88a)内の油圧の圧力が上昇すると、無段変速用減圧バルブ(91)が作動して油路を遮断し、一方側油路(88a)から他方側油路(88b)へ油圧が逃げるのを防止するため、機体が勝手に坂路を下るようなことを防止できて安全である。従来のものは、正転側油路と逆転側油路との間をオリフィスを介して連通しただけの構成であるので、高負荷時に一方側油路が油圧上昇すると常時他方側油路へ油圧が逃げることになり、油圧式無段変速装置の効率低下を招き、またオリフィスに油が流れることにより油温が上昇して更なる油圧式無段変速装置の効率低下を招くおそれがある。また、従来のものは、坂路で停止させている場合に、油圧の圧力が上昇する一方側油路から他方側油路へ前記オリフィスを介して油圧が逃げ、機体が勝手に坂路を下る危惧がある。
【0031】
以上により、この油圧装置は、単動式である昇降用油圧シリンダ(10)への圧油の供給と油圧式無段変速装置(16)へのチャ−ジ圧の供給とを行う共通の油圧ポンプ(69)を設け、分岐油路(75)により昇降用油圧シリンダ(10)を作動させる苗植付部昇降作動装置(71)への油路と前記チャ−ジ圧を供給するチャ−ジ油路(78)とに並列に分岐させると共に、苗植付部昇降作動装置(71)の作動すなわち油圧バルブ(55)の上昇状態による昇降用油圧シリンダ(10)への圧油の供給に拘らず減圧バルブ(84)によりチャ−ジ油路(78)内は常に所定以上の油圧が維持される構成とすることにより、エンジン(7)が低回転で油圧ポンプ(69)が低回転となってその吐出量が少ないときでも、昇降用油圧シリンダ(10)への圧油の供給より優先して油圧式無段変速装置(16)へのチャ−ジ圧の供給が行われるように油圧ポンプ(69)から昇降用油圧シリンダ(10)及び油圧式無段変速装置(16)への油圧供給回路を構成している。よって、昇降用油圧シリンダ(10)の作動に拘らず、油圧式無段変速装置(16)へのチャ−ジ圧を供給することができるので、油圧ポンプ(69)の容量(吐出量)を極力小さくして馬力損失の低減やヒートバランスを良好に維持できるものとしながら、駆動負荷により油圧式無段変速装置(16)がキャビテーションを起こさないようにでき、油圧式無段変速装置(16)の駆動力すなわち走行駆動力が低下するようなことを防止できる。また、流量切替用電磁バルブ(77)の分流状態や油圧バルブ(55)の中立状態では分岐油路(75)で苗植付部昇降作動装置(71)へ供給された油圧がチャ−ジ油路(78)へ供給される構成としているので、チャ−ジ圧が一時的に低下してしまうようなことを極力防止している。尚、上記のものは分岐油路(75)により苗植付部昇降作動装置(71)への油路とチャ−ジ油路(78)とに並列に分岐させる構成としたが、チャ−ジ油路(78)から苗植付部昇降作動装置(71)へ油圧が供給されるようにチャ−ジ油路(78)と苗植付部昇降作動装置(71)とを直列に接続する油圧回路を構成し、昇降用油圧シリンダ(10)への圧油の供給より優先して油圧式無段変速装置(16)へのチャ−ジ圧の供給が行われるようにしてもよい。
【0032】
図12に示す油圧式無段変速装置(16)は、他の構成は上述のものと同様であるが、上述の無段変速用減圧バルブ(91)に代えて、正転側油路(88a)と逆転側油路(88b)との間のオリフィス(92)の逆転側油路(88b)側に開閉可能なシャトル弁(93)を設けると共に、前記オリフィス(92)及びシャトル弁(93)を有する油路とは別に並列に設けた正転側油路(88a)と逆転側油路(88b)とを繋ぐ油路(94)にサブオリフィス(95)及び逆止弁(96)を設けたものである。前記シャトル弁(93)は、球体で構成され、正転側油路(88a)の油圧が逆転側油路(88b)の油圧より高くなると開き、正転側油路(88a)の油圧をオリフィス(92)を介して逆転側油路(88b)へ微少流量逃がす。前記逆止弁(96)は逆転側油路(88b)側から正転側油路(88a)側への油の流れを許容する構成であり、前記サブオリフィス(95)により逆転側油路(88b)の油圧を正転側油路(88a)へ微少流量逃がす。前記サブオリフィス(95)の径は前記オリフィス(92)の径より小さく、オリフィス(92)により正転側油路(88a)から逆転側油路(88b)へ流れる油量よりサブオリフィス(95)により逆転側油路(88b)から正転側油路(88a)へ流れる油量の方が極めて少なくなる。従って、オリフィス(92)及びサブオリフィス(95)により一方側油路から他方側油路へ微少流量のみが流れ、前後進中立における中立不感帯幅を確保することができると共に、サブオリフィス(95)により逆転側油路(88b)から正転側油路(88a)へ流れる油量が極めて少なくなるため、油圧式無段変速装置(16)の効率低下を極力防止することができ、また機体が勝手に坂路を下るような逸走を防止できる。また、シャトル弁(93)が閉じた状態であれば正転側油路(88a)から逆転側油路(88b)へ油圧が逃げないので、機体の逸走を防止できると共に、前進時の油圧式無段変速装置(16)の効率低下を確実に防止することができる。尚、これらのオリフィス(92)シャトル弁(93)、サブオリフィス(95)及び逆止弁(96)を、正転側油路(88a)と逆転側油路(88b)とで互いに反対側になるよう設けてもよい。
【0033】
図13に示す油圧式無段変速装置(16)は、他の構成は前述のものと同様であるが、前述の無段変速用減圧バルブ(91)に代えて、正転側油路(88a)と逆転側油路(88b)とに油圧をサブオリフィス(95)を介して油圧タンクを兼用するミッションケース(18)内へ逃がすことができる中立切替バルブ(97)をそれぞれ設けたものである。該中立切替バルブ(97)は、変速レバ−(HSTレバ−)(22)の前後進中立域(N)への操作に連動して開き、変速レバ−(22)が前後進中立域(N)以外に操作されると閉じてミッションケース(18)内へ油圧が逃げるのを阻止する。これにより、機体の逸走を防止できると共に、油圧式無段変速装置(16)の効率低下を確実に防止することができる。また、無段変速用油路(88)には開閉バルブ(98)を介してアキュムレータ(99)が接続され、変速レバ−(22)の前後進中立域(N)以外への操作に連動して前記開閉バルブ(98)を開いて無段変速用油路(88)の油圧をアキュムレータ(99)に貯留し、アキュムレータ(99)に所定の圧力が貯留されれば開閉バルブ(98)を閉じ、変速レバ−(22)の前後進中立域(N)への操作に連動して開閉バルブ(98)を開いてアキュムレータ(99)に貯留した油圧を無段変速用油路(88)へ供給し、走行停止時の機体の逸走を確実に防止するように構成している。尚、図13では、正転側油路(88a)にアキュムレータ(99)を接続した構成を示したが、逆転側油路(88b)にアキュムレータ(99)を接続する構成又は正転側油路(88a)及び逆転側油路(88b)の双方にそれぞれアキュムレータ(99)を接続する構成としてもよい。
【0034】
また、図14に示すように、前後進操作可能な変速ペダル(100)と、該変速ペダル(100)の操作位置を検出するペダルセンサ(ポテンショメータ)(100a)と、油圧式無段変速装置(16)のトラニオンアーム(トラニオン軸(28))の回動位置を検出するトラニオンアームセンサ(101)と、トラニオンアーム(トラニオン軸(28))を作動させるHSTモータ(アクチュエータ)(23)とを設け、トラニオンアームセンサ(101)の検出値がペダルセンサ(100a)の検出値に基づく値となるよう制御部によりHSTモータ(23)を駆動制御する構成とすることができる。尚、前記変速ペダル(100)は、前方への踏み込み操作で前進し、後方への踏み込み操作で後進し、その踏み込み量に応じて無段階に変速でき、該ペダル(100)から足を放すと前後進中立位置に自動復帰する構成となっている。図15のフローチャートに基づいてHSTモータ(23)の駆動制御の詳細について説明すると、先ず上述のようにペダルセンサ(100a)の検出値に基づいて制御部がHSTモータ(23)へ出力して該モータ(23)を駆動制御する(ステップ1)。そして、ペダルセンサ(100a)の検出値に変化があれば「ステップ1」に戻って上記同様にモータ(23)を駆動制御する。ペダルセンサ(100a)の検出値が変化せずタイマカウント中でなければ、タイマカウントを開始し(ステップ2)、タイマアップするまでペダルセンサ(100a)の検出値が前進側で変化がなければ、以後のペダルセンサ(100a)の検出値の変化に拘らずHSTモータ(23)の駆動を停止して油圧式無段変速装置(16)の現状の変速比を維持し(ステップ3)、タイマをクリアする(ステップ4)。これにより、変速ペダル(100)の踏み込み量が所定時間以上変化しなければ該変速ペダル(100)を踏み続けていなくても油圧式無段変速装置(16)の変速比を維持するオートクルーズ状態とすることができ、変速ペダル(100)から足を放して楽に機体を操縦することができる。その後、ペダルセンサ(100a)の検出値が後進側になると、油圧式無段変速装置(16)が前後進中立となるようHSTモータ(23)が駆動しその中立状態を所定時間(2秒程度)維持し(ステップ5)、「ステップ1」に戻る。すなわち、変速ペダル(100)の後進側への操作で、前記オートクルーズ状態を解除し機体を走行停止させる構成となっている。尚、「ステップ5」で中立状態を所定時間維持することで、オートクルーズ状態の解除操作でオペレータの意に反して即座に後進するようなことを防止し、安全性を図っている。また、オートクルーズ状態で変速ペダル(100)を前進増速側へ操作することによりペダルセンサ(100a)の検出値が前進増速側になると、オートクルーズ状態を解除し「ステップ1」に戻って所望の走行速度に変速することができる。
【0035】
図16に示す油圧式無段変速装置(16)は、無段変速用油圧ポンプ(85)からの圧油を正逆転切替可能な正逆転切替バルブ(102)を介して無段変速用油圧モータ(86)へ供給する構成のものである。この油圧式無段変速装置(16)は、チャージ油路(78)を正逆転切替バルブ(102)に接続し、無段変速用油圧モータ(86)側の油圧回路における一方側油路の油圧上昇で他方側油路へ油圧を逃がす高圧リリーフバルブ(103)を備えている。無段変速用油圧ポンプ(85)は一方側油路へのみ油を吐出する一方向可変油圧ポンプの構成であり、正逆転切替バルブ(102)は、無段変速用油圧ポンプ(85)からの油圧を正転側で全量無段変速用油圧モータ(86)へ供給する正転全量位置(a)と、正転側でオリフィス(92)により微少量逃がしながら無段変速用油圧モータ(86)へ供給する正転少量位置(b)と、無段変速用油圧ポンプ(85)側の一対の油路を連通すると共に無段変速用油圧モータ(86)側の一対の油路をそれぞれ遮断する前後進中立位置(c)と、無段変速用油圧ポンプ(85)からの油圧を逆転側でオリフィス(92)により微少量逃がしながら無段変速用油圧モータ(86)へ供給する逆転少量位置(d)と、逆転側で全量無段変速用油圧モータ(86)へ供給する逆転全量位置(e)との5位置へ切り替える構成となっている。この正逆転切替バルブ(102)の切替は、変速レバー(22)の操作に連動して行われるようにすればよい。正逆転切替バルブ(102)を前後進中立位置(c)に切り替えることにより無段変速用油圧モータ(86)側の一対の油路がそれぞれ遮断されるので、確実に前後進中立を維持することができ、機体の逸走を防止できると共に、前後進中立操作が容易になって変速操作性が向上する。また、正逆転切替バルブ(102)を正転全量位置(a)又は逆転全量位置(e)に切り替えることにより無段変速用油圧ポンプ(85)からの油圧を全量無段変速用油圧モータ(86)へ供給することができるので、油圧式無段変速装置(16)の効率低下を確実に防止できる。
【0036】
最後に、この乗用型田植機における植付作業について説明する。先ず植付開始位置で変速レバー(22)のグリップ部(43)に設けた昇降・駆動操作レバ−(上下スイッチ)(44)を下側操作位置へ操作すると、油圧バルブ(55)が切り替えられて苗植付部(6)が下降し、再度下側操作位置へ操作すれば植付クラッチケース(20)内の植付クラッチを伝動状態に切り替える。そして、変速レバー(22)の前進操作により、機体を前進させながら苗植付部(6)を作動させ、苗を植え付けていく。畦際の機体旋回位置に達すると、前記昇降・駆動操作レバ−(上下スイッチ)(44)を上側操作位置へ操作すれば、油圧バルブ(55)が切り替えられて苗植付部(6)が上昇すると共に、前記植付
クラッチを非伝動状態に切り替えて苗植付部(6)の作動を停止させ、ステアリングハンドル(5)を操作して機体を旋回させる。旋回を完了して次行程の植付開始位置に到達すると、昇降・駆動操作レバ−(上下スイッチ)(44)を下側操作位置へ操作して上述と同様に植付作業を行う。
【0037】
この乗用型田植機は、昇降・駆動操作レバ−(44)の操作で植付クラッチが伝動状態となる植付作業状態で、変速レバー(22)の操作位置が前進低速域であることをHSTモータ(23)に内蔵するセンサ又はトラニオンアームセンサ(101)で検出し、苗載タンク(11)の何れかの条の苗減少センサ(64)により苗が所定量以下に減少したことを検出し、且つオペレータが運転席(8)から離れたことを着座センサ(8a)が検出すると、制御部を介してハンドルロックシリンダ(アクチュエータ)(104)によりステアリングハンドル(5)が直進位置で回動しないように固定される。そして、このハンドルロックに連動して後輪ローリングフレーム(62)が左右ローリングしないように固定する後輪ロ−リングロックソレノイド(105)が作動すると共に、ミッションケ−ス(18)内に設けた前輪デフロック機構及び後輪デフロック機構を作動させて左右一対の前輪(2)及び後輪(3)をデフロックさせる。これにより、苗載タンク(11)の何れかの条の苗が所定量以下に減少したときには、機体の直進性を維持させながら、植付作業を中断することなくオペレ−タが苗載タンク(11)へ苗補給を行うことができる。また、変速レバー(22)の操作位置が前進低速域の場合のみ、ハンドルロック、後輪ロ−リングロック及びデフロック機構等が作動するので、苗補給中に機体が高速走行することで機体の進路が所望の進路から大きく外れることがなく、また圃場の凹凸等により機体の姿勢が急激に変化することが抑えられて安全に苗補給作業が行える。苗補給後、オペレータが運転席(8)に着座したことを着座センサ(8a)が検出すると、ハンドルロック、後輪ロ−リングロック及びデフロック機構等が自動的に解除され、オペレ−タが機体を操縦できる状態に切り替わる。尚、畦越えしながら植付を行うとき等、運転席(8)に着座していない状態でもステアリングハンドル(5)の操作が行えるように、このハンドルロックの自動制御を入切できる構成とすればよい。
【0038】
尚、この発明の実施の形態は乗用田植機について記述したが、本発明の油圧装置は、乗用田植機に搭載されるものに限定されるものではなく、トラクタや芝刈機等に使用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】田植機の側面図
【図2】田植機の平面図
【図3】田植機の要部の平面図
【図4】油圧式無段変速装置の変速作動構成を示す一部断面背面図
【図5】変速レバ−からの操作連繋構成を示す平面図(a:前進時、b:後進時)
【図6】他の変速レバ−からの操作連繋構成を示す平面図(a:前進中速時、b:前進高速時)
【図7】変速レバ−のグリップ部を示す斜視図
【図8】ブロック図
【図9】植付昇降切替モ−タ及び位置決めカムを示す側面図
【図10】昇降・駆動操作ア−ムを示す側面図
【図11】油圧装置の油圧回路図
【図12】他の油圧式無段変速装置の油圧回路図
【図13】他の油圧式無段変速装置の油圧回路図
【図14】ブロック図
【図15】フロ−チャ−ト
【図16】他の油圧式無段変速装置の油圧回路図
【符号の説明】
【0040】
(10)…昇降用油圧シリンダ(単動式油圧シリンダ)、(16)…油圧式無段変速装
置、(69)…油圧ポンプ
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば農作業機や建設機械等に備え、単動式油圧シリンダと油圧式無段変速装置とを備える油圧装置の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
農作業機の一種である田植機において、車体に対して苗植付部を昇降させる単動式油圧シリンダと車体の走行速度を変速する油圧式無段変速装置とを設け、共通の油圧ポンプからの圧油が単動式油圧シリンダ及び油圧式無段変速装置へ供給されるように油圧供給回路を構成した油圧装置を設けたものがある。上記油圧供給回路は、油圧ポンプからの圧油が先ず単動式油圧シリンダを作動させる油圧切替バルブへ供給され、該油圧切替バルブを経由して油圧式無段変速装置へチャ−ジ圧として供給される構成となっている(特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平11−201280号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記背景技術のものは、油圧切替バルブにより油圧ポンプからの圧油が単動式油圧シリンダへ全量供給する状態に切り替えると、油圧式無段変速装置へチャ−ジ圧が供給されなくなり、油圧式無段変速装置の駆動力が低下するおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この発明は、上記課題を解決すべく次のような技術的手段を講じた。
すなわち、請求項1に係る発明は、単動式油圧シリンダ(10)への圧油の供給と油圧式無段変速装置(16)へのチャ−ジ圧の供給とを行う共通の油圧ポンプ(69)を設け、前記単動式油圧シリンダ(10)への圧油の供給より優先して前記油圧式無段変速装置(16)へのチャ−ジ圧の供給が行われるように油圧ポンプ(69)から単動式油圧シリンダ(10)及び油圧式無段変速装置(16)への油圧供給回路を構成した油圧装置とした。
【0005】
従って、この油圧装置によると、共通の油圧ポンプ(69)からの圧油が油圧供給回路を介して単動式油圧シリンダ(10)及び油圧式無段変速装置(16)へ供給され、単動式油圧シリンダ(10)が作動したり油圧式無段変速装置(16)へチャ−ジ圧が供給されたりする。そして、前記油圧ポンプ(69)からの圧油は単動式油圧シリンダ(10)より優先して油圧式無段変速装置(16)へ供給され、単動式油圧シリンダ(10)の作動に拘らず油圧式無段変速装置(16)へのチャ−ジ圧を供給することができる。
【発明の効果】
【0006】
よって、単動式油圧シリンダ(10)の作動に拘らず、油圧式無段変速装置(16)へのチャ−ジ圧を供給することができるので、油圧式無段変速装置(16)の駆動力が低下するようなことを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
この発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
図1及び図2は、農作業機の一例として乗用田植機を示すものであり、車体(1)の前後には走行車輪としての左右一対の前輪(2)及び後輪(3)が架設されている。車体(1)上前部には上面に操作パネル(4a)を有する操作ボックス(4)及びステアリングハンドル(5)等を有する操縦装置が設置され、車体(1)後方には昇降可能な苗植付部(6)が装備されている。操縦装置の後側に運転席(8)が設置され、運転席(8)の下側に田植機の各部に動力を伝達するエンジン(7)が搭載されている。尚、運転席(8)の内部には、オペレータが運転席(8)に着座したかどうかを検出する感圧式の着座センサ(8a)を設けている。
【0008】
左右一対の後輪3は、車体フレーム(60)に対して前後方向の軸(61)回りに左右ローリング自在の後輪ローリングフレーム(62)に支持されている。該後輪ローリング
フレーム(62)の車体フレーム(60)に対する左右ローリング角度を検出する後輪ローリングセンサ(63)を設け、該後輪ローリングセンサ(63)により後輪ローリングフレーム(62)の左右ローリング角度が所定角度以上であることを検出した状態で所定時間以上経過すると、連繋機構を介して後述するミッションケ−ス(18)内に設けた前輪デフロック機構を作動させ、左右一対の前輪(2)をデフロック状態に切り替える構成となっている。これにより、傾斜地や耕盤が傾斜しているところを走行するときに機体の左右傾斜を後輪ローリングフレーム(62)の回動によりいち早く検出し、車輪(2)のデフロック機構を作動させて機体の直進性を維持させることができる。特に、上述のように左右一対の車輪(3)がローリングフレーム(62)により一体的にローリングする構成においては、前後他側の車輪(2)との左右位置関係が相違しながらローリングすることになるので、機体の左右位置や進行方向が変化しやすく、機体の直進性が著しく低下するおそれがあるが、上述の構成によりその課題を解消することができる。
【0009】
苗植付部(6)は、車体(1)の後部に昇降リンク機構(9)を介して昇降可能に装着され、単動式油圧シリンダである昇降用油圧シリンダ(10)の伸縮作動により昇降する構成としている。昇降リンク機構(9)には苗植付部(6)の昇降位置を検出する昇降リンクセンサ(9a)を設けている。
【0010】
また、この苗植付部(6)には、左右に往復動する苗載タンク(11)、1株分の苗を切取って土中に植込む植込杆を有する植付装置(12)、苗植付面を滑走しながら整地するサイドフロ−ト(13S)及びセンタフロ−ト(13C)等を備えている。センタフロ−ト(13C)には、該フロ−ト(13C)の迎い角を検出するフロ−ト迎い角センサ(13a)を設けている。また、苗載タンク(11)の各条の苗載部には、苗が所定量以下に減少したことを検出する苗減少センサ(64)を設けている。
【0011】
エンジン(7)の回転動力は、エンジン出力軸(14)からベルト(15)を介して油圧式無段変速装置(HST)(16)の入力軸(17)に伝えられ、HST(16)の出力軸からミッションケ−ス(18)のミッション入力軸に伝えられるようになっている。
【0012】
なお、前記苗植付部(6)への動力伝達は、前記ミッションケ−ス(10)内のミッション装置から取り出される作業機用取出伝動軸(19)を介して車体(1)後部に設けた植付クラッチケ−ス(20)内に伝達され、そこから植付伝動軸(21)によって苗植付部(6)へ伝達されるようになっている。なお、植付クラッチケ−ス(20)内に設けた植付クラッチ(図示せず)により、苗植付部(6)の駆動の入切が行われるようになっている。
【0013】
ステアリングハンドル(5)近くには変速レバ−(HSTレバ−)(22)が配置され、この変速レバ−(22)の前後進中立域(N)を挟む前後方向の操作で油圧式無段変速装置(16)を作動させ機体を前進及び後進させる。すなわち、変速レバ−(22)が操作されたことを変速レバ−センサ(HSTレバ−センサ)(22a)で検出し、それに応じてHSTモ−タ(変速アクチュエ−タ)(23)によりピニオンギヤ(24)、減速扇形ギヤ(25)を介して変速作動部(トラニオンア−ム)(27)を回動させ、油圧式無段変速装置(16)の斜板角度を変えて速度調節するものであり、変速レバ−(22)が前後進中立域(N)にある時は速度が零で、変速レバ−(22)を前進操作域(F)に操作すると前後進中立域(N)からの距離に応じた速度の前進速となり、後進操作域(R)に操作すると前後進中立域(N)からの距離に応じた速度の後進速となり、前後進無段階に変速できる。つまり、油圧式無段変速装置(HST)(16)が変速レバ−センサ(22a)の検出値に基づいて制御部を介してHSTモ−タ(23)を作動させる構成となっている。尚、変速作動部(27)は、トラニオン軸(28)と共に回動する構成である。
【0014】
前記変速レバ−センサ(HSTレバ−センサ)(22a)は、変速レバ−(22)からの操作連繋機構により回動操作される変速操作部(65)に固着されており、変速作動部(トラニオンア−ム)(27)との間に設けた検知用部材(検知用ロッド)(66)を介して変速操作部(65)の回動位置に対する変速作動部(トラニオンア−ム)(27)の回動位置を検出する構成となっている。従って、変速レバ−センサ(22a)の検出値が所定の値となるようHSTモ−タ(23)が作動する構成となっている。尚、変速操作部
(65)の回動軸心と変速作動部27の回動軸心(トラニオン軸28)とは、同一直線上に設けられている。そして、変速操作部(65)と変速作動部(27)とは、それらの回動軸心上に設けたト−ションバ−(連結部材)(67)により連結されている。
【0015】
通常は、変速レバ−(HSTレバ−)(22)の操作で変速操作部(65)が回動すると、前記ト−ションバ−(67)が変速操作部(65)と変速作動部(27)との回動位相のずれを許容し、この回動位相のずれを変速レバ−センサ(22a)が検出してHSTモ−タ(23)を作動するので、変速作動部(27)の回動抵抗が変速レバ−(22)に伝達されるのを抑えてHSTモ−タ(23)により変速操作をアシストするようになるため、軽い操作力で変速レバ−(22)を操作することができる。一方、HSTモ−タ(23)や変速レバ−センサ(22a)等の制御系統に故障が生じたときは、前記ト−ションバ−(67)の許容トルクを超える操作力が変速操作部(65)に伝達されるように変速レバ−(22)を操作して変速操作部(65)を回動させると、前記ト−ションバ−(67)を介して変速作動部(27)を強制的に回動させて変速することができる。これにより、仮に前記制御系統に故障が生じても、格別の切替等を行わずに手動で強制的に変速することができて作業を継続することができると共に、制御系統の故障で不測に変速されることがあっても変速レバ−(22)により即座に所望の走行速度に変速することができ、安全に走行することができる。尚、HSTモ−タ(23)には過負荷がかかると伝動を断つ安全クラッチ(図示せず)を備えているので、変速レバ−(22)を強制的に操作することにより変速作動部(27)を回動させることができるのである。尚、上記のものは連結部材としてト−ションバ−(67)を使用した構成であるが、連結部材としてトルクスプリングを使用した構成としてもよい。また、上記のものはHSTモ−タ(23)に備える安全クラッチにより手動で強制的に変速操作できる構成としたが、HSTモ−タ(23)から変速作動部(27)又はトラニオン軸(28)への伝達を断つ格別のクラッチ機構を設け、変速レバ−(22)又は該レバ−(22)からの操作連繋機構に所定以上の操作力がかかると前記クラッチ機構の伝達を断つように構成してもよい。従来は、変速アクチュエ−タ等の制御系統に故障が生じた場合、別途手段により走行を停止させ、変速アクチュエ−タから変速装置への作動連繋機構の伝達を断つと共に変速レバ−の操作連繋機構と変速装置とを連結する切替のための整備を行い手動で変速操作できる構成としていたので、前記切替のための整備が面倒で作業能率低下の要因となったり、オペレ−タの意図に反して変速されたときに即座に所望の速度に変速することができずに危険を伴ったりするおそれがある。特に、機体の畦越え時やトラックへの積込時等のように機体が傾斜して転倒しやすい状態のとき、制御系統の故障により急に走行停止したり逆に急加速したりすると、機体が不安定になりやすく危険である。
【0016】
図5に示すように、変速レバ−(HSTレバ−)(22)の操作経路(K)の後進域(R)には、アクセル用連動ア−ム(30)を設けている。該アクセル用連動ア−ム(30)は、該ア−ム(30)の一端側で変速レバ−(22)の操作経路(K)の一方側(左側)の位置に設けた支軸(31)を支点として揺動作動するよう枢支して設け、該ア−ム(30)の他端側で変速レバ−(22)の操作経路(K)の前記支軸(31)とは反対側(右側)の位置にエンジン(7)のスロットルア−ムに連繋するアクセルケ−ブル(32)のアウタ−基部(32a)を固定している。一方、アクセルケ−ブル(32)のインナ−ワイヤ(32b)は、変速レバ−(22)に固着したワイヤ連結具(33)に連結されている。尚、前記アクセル用連動ア−ム(30)は、図示しないトルクスプリングにより変速レバ−(HSTレバ−)(22)の操作経路における前後進中立域(N)及び前進域(F)側(前側)に回動するように付勢されている。
【0017】
変速レバ−(22)を前後進中立域(N)から前進域(F)へ操作すると、HSTモ−タ(23)により変速作動部(27)が回動し、この変速作動部(27)の回動に伴って油圧式無段変速装置(HST)(16)の出力軸が正転して機体が前進する。そして、同時にアクセルケ−ブル(32)のインナ−ワイヤ(32b)が前側へ引かれてエンジン(7)の回転を高速側にアップする。従って、変速レバ−(22)を前進高速側へ操作する程、アクセルケ−ブル(32)のインナ−ワイヤ(32b)が前側へ引かれてエンジン
(7)の回転が上昇する構成となっている。
【0018】
また、変速レバ−(22)を前後進中立域(N)から後進域(R)へ操作すると、HSTモ−タ(23)の作動で変速作動部(27)を回動させ、この変速作動部(27)の回動に伴い油圧式無段変速装置(HST)(16)の出力軸が逆転して機体が後進する。これと同時に変速レバ−(22)がアクセル用連動ア−ム(30)に当接することによりアクセル用連動ア−ム(30)が後方へ回動し、変速レバ−(22)ひいてはワイヤ連結具(33)が後進高速位置側(後側)に移動するのに増してアクセルケ−ブル(32)のアウタ−基部(32a)が変速レバ−(22)の後進高速位置側(後側)に大きく移動する。従って、変速レバ−(22)を後進高速側へ操作する程、アクセルケ−ブル(32)のアウタ−基部(32a)が後側へ大きく移動する分、アクセルケ−ブル(32)のインナ−ワイヤ(32b)が引かれてエンジン(7)の回転が上昇する構成となっている。
【0019】
また、変速レバ−(HSTレバ−)(22)を後進域(R)に操作すると苗植付部(6)を上昇させるバックリフト機能を備えており、変速レバ−(22)の後進域(R)への操作で前記アクセル用連動ア−ム(30)が後側へ回動したことを該ア−ム(30)に取り付けたア−ムセンサ(図示せず)により検出すると、制御部を介して後述する植付昇降切替モ−タ(47)を駆動して苗植付部(6)を上昇させる構成となっている。尚、前記ア−ムセンサが変速レバ−(22)の後進域(R)への操作を検出した後、変速レバ−(22)の後進域(R)に保持されていても、後述する昇降・駆動操作レバ−(上下スイッチ)(44)及び上昇専用スイッチ(45)並びに下降専用スイッチ(46)等により任意の高さに苗植付部(6)を昇降させることができる構成となっている。そして、変速レバ−(22)が前進域(F)又は前後進中立域(N)に操作された後、再度ア−ムセンサが変速レバ−(22)の後進域(R)への操作を検出すれば、バックリフト機能が作動して苗植付部(6)を上昇させることができる構成となっている。
【0020】
よって、前後方向に操作することで前進高速位置から前後進中立域(N)を介して後進高速域まで操作する変速レバ−(22)において、前進域(F)及び後進域(R)のうちの一方(前進域(F))では高速側に操作されるにつれてアクセルケ−ブル(32)のインナ−ワイヤ(32b)が引かれる構成となっており、他方(後進域(R))では高速側に操作されるにつれてアクセルケ−ブル(32)のアウタ−基部(32a)が移動して結果的にインナ−ワイヤ(32b)が引かれる構成となっており、前記アウタ−基部(32a)を取り付ける単一のアクセル用連動ア−ム(30)を設ける等の簡単な構成で油圧式無段変速装置(HST)(16)の変速比とエンジン(7)の回転数とを連動することができ、部品点数を削減してコストダウンが図れる。また、アクセル用連動ア−ム(30)はバックリフト機能における変速レバ−(22)の後進域(R)への操作を検出する部材を兼ねているので、更なる部品点数の削減によるコストダウンが図れる。従来は、変速レバ−の操作に連動して作動する前進用のアクセル用連動ア−ムと後進用のアクセル用連動ア−ムとを設け、各々のアクセル用連動ア−ムに対応してアクセルケ−ブルを各々設けた構成としていたので、部品点数が多くなって構成が複雑になりコストアップの要因となっていた。
【0021】
尚、図6に示すように、アクセルケ−ブル(32)のインナ−ワイヤ(32b)と変速レバ−(22)のワイヤ連結具(33)との間に引張スプリング(融通機構)(68)を設け、変速レバ−(22)を前後進中立域(N)から前進域(F)の中間(前進中速位置)まで操作したときは、前記引張スプリング(68)があまり伸縮せずにアクセルケ−ブル(32)のインナ−ワイヤ(32b)が作動してエンジン回転が大きく変化し、変速レバ−(22)を前進域(F)の中間(前進中速位置)から前進高速位置まで操作したときは、変速レバ−(22)の操作位置に応じて前記引張スプリング(68)が伸縮することでアクセルケ−ブル(32)のインナ−ワイヤ(32b)があまり作動せずにエンジン回転があまり変化しないように構成してもよい。これにより、油圧式無段変速装置(16)の変速比の最高速への上昇に先立ってエンジン(7)の回転数をフルスロットル(最高速)まで上昇させるように、油圧式無段変速装置(HST)(16)の変速比とエンジン(7)の回転数との連動を設定でき、湿田等で走行負荷が大きいとき、変速レバ−(22)を前進域(F)の中間(前進中速位置)へ操作することにより油圧式無段変速装置(16)の変速比の上昇を抑えながらエンジン(7)の回転数をフルスロットルにすることができ、走行駆動力を得ることができる。尚、前記引張スプリング(68)をその自由長が異なるものと交換すれば、エンジン(7)の回転数がフルスロットルに到達する変速レバ−(22)位置を変更調節することができる。
【0022】
また、前記操作ボックス(4)の後部には、有段変速操作される主変速レバ−(41)があり、機体を路上走行させる「移動」位置、機体走行及び苗植付部(6)共に動力の伝動を断つ「中立」位置、通常植付作業等で機体走行及び苗植付部(6)共に駆動する「植付」位置等を設け、ミッションケ−ス(18)内の主変速部の伝動を切り替えるようになっている。
【0023】
変速レバ−(HSTレバ−)(22)のグリップ部(43)において、機体の左右方向内側となる側面(左側面)には、前側に上下に操作する昇降・駆動操作レバ−(上下スイッチ)(44)及び後側の上下に押し操作する上昇専用スイッチ(45)並びに下降専用スイッチ(46)を設けている。なお、上昇専用スイッチ(45)並びに下降専用スイッチ(46)より昇降・駆動操作レバ−(上下スイッチ)(44)の方が、その先端が機体の左右方向内側(左側)に突出している。そして、苗植付部(6)の昇降及び駆動の入切に関する制御構成について説明すると、前記昇降・駆動操作レバ−(上下スイッチ)(44)、上昇専用スイッチ(45)及び下降専用スイッチ(46)に加えて昇降リンクセンサ(9a)からの信号が制御部へ入力され、制御部からの出力信号により植付昇降切替モ−タ(47)が作動する構成となっている。図9に示すように、植付昇降切替モ−タ(47)は一対のギヤ(48),(49)を介して位置決めカム(50)を回動させる構成となっており、位置決めカム(50)に設けたカム溝(50a)に位置決めロ−ラ(51)が嵌入して前記位置決めカム(50)の回動位置を4位置に安定させる。なお、前記位置決めロ−ラ(51)は、トルクスプリング(52)により位置決めカム(50)側に付勢されるロ−ラ用ア−ム(53)の先端に取り付けられ、カム溝(50a)側に付勢されている。そして、前記位置決めカム(50)の回動により、該カム(50)と一体回動する昇降・駆動操作ア−ム(54)が回動して、昇降用油圧シリンダ(10)への油路を切り替える油圧バルブ(55)のスプ−ルピン(55a)を操作すると共に、植付クラッチケ−ス(20)内に設けた植付クラッチを入切させる植付クラッチピン(56)を操作する。すなわち、昇降・駆動操作ア−ム(54)が後側に回動すると、前記スプ−ルピン(55a)が油圧バルブ(55)のケ−ス内に押し込まれて昇降用油圧シリンダ(10)へ油圧を供給する状態となり、苗植付部(6)が上昇する。逆に、昇降・駆動操作ア−ム(54)が前側に回動すると、前記スプ−ルピン(55a)が油圧バルブ(55)のケ−ス内から突出して昇降用油圧シリンダ(10)の油圧を逃がす状態となり、苗植付部(6)が下降する。また、昇降・駆動操作ア−ム(54)が最前まで回動すると、該昇降・駆動操作ア−ム(54)が植付クラッチ操作ア−ム(57)に当接し、植付クラッチ操作ア−ム(57)の回動により植付クラッチピン(56)を植付クラッチケ−ス(20)から突出させて植付クラッチが伝動状態となり、苗植付部(6)が作動する。なお、昇降・駆動操作ア−ム(54)が植付クラッチ操作ア−ム(57)から離れると、別途設けた付勢スプリング(図示せず)により植付クラッチピン(56)が植付クラッチケ−ス(38)内に押し込まれて植付クラッチが非伝動状態となり、苗植付部(6)の作動が停止する。従って、植付昇降切替モ−タ(47)の回動により、位置決めカム(50)が、苗植付部(6)が上昇する「上昇」位置、苗植付部(6)の昇降位置を固定する「固定」位置、苗植付部(6)が下降する「下降」位置及びその下降状態で苗植付部(6)が作動する「植付」位置に操作される構成となっている。なお、位置決めカム(50)が前記「上昇」位置で昇降リンクセンサ(9a)からの信号により苗植付部(6)が最上昇位置にあることを検出すると、植付昇降切替モ−タ(47)を駆動して位置決めカム(50)を前記「固定」位置に切り替える構成となっている。
【0024】
昇降・駆動操作レバ−(上下スイッチ)(44)は、中立復帰位置に対して上側の上側操作位置と下側の下側操作位置とに操作できる。苗植付部(6)が上昇した状態で昇降・
駆動操作レバ−(上下スイッチ)(44)を前記下側操作位置へ一回操作すると、植付昇降切替モ−タ(47)の駆動により位置決めカム(50)が「下降」位置に切り替えられて苗植付部(6)が下降する。そして、下側操作位置へ再度操作すると、位置決めカム(50)が「植付」位置に切り替えられて苗植付部(6)が作動して圃場に苗を植え付ける。以後、苗植付部(6)が下降状態であれば、昇降・駆動操作レバ−(上下スイッチ)(44)を下側操作位置へ操作する度に、位置決めカム(50)が「下降」位置と「植付」位置とに交互に切り替えられ、苗植付部(6)の作動、非作動が交互に繰り返される。また、昇降・駆動操作レバ−(上下スイッチ)(44)を上側操作位置へ操作すると、植付昇降切替モ−タ(47)の駆動により位置決めカム(50)が「上昇」位置に切り替えられて苗植付部(6)が上昇する。そして、昇降リンクセンサ(14)により苗植付部(6)が最上昇位置に到達したことを検出すると、位置決めカム(50)を「固定」位置に切り替えて苗植付部(6)の昇降を停止する。
【0025】
上昇専用スイッチ(45)を押し操作すると植付昇降切替モ−タ(47)の駆動により押している間だけ位置決めカム(50)が「上昇」位置に切り替えられ、上昇専用スイッチ(45)の押し操作を解除すれば位置決めカム(50)が「固定」位置に切り替えられる。従って、前記上昇専用スイッチ(45)により、苗植付部(6)を任意の位置まで上昇させることができる。同様に、下降専用スイッチ(46)を押し操作すると押している間だけ位置決めカム(50)が「下降」位置に切り替えられ、下降専用スイッチ(46)の押し操作を解除すれば位置決めカム(50)が「固定」位置に切り替えられる。従って、前記下降専用スイッチ(46)により、苗植付部(6)を任意の位置まで下降させることができる。よって、上昇専用スイッチ(45)及び下降専用スイッチ(46)により、苗植付部(6)を任意の高さに昇降させることができ、機体を後進させて畦際に近づけるとき等、苗植付部(6)を若干対地浮上させた状態で後進すれば、後進位置が判り易くなる。
【0026】
図11に示すように、この乗用田植機の油圧装置における油圧回路には、油圧式無段変速装置(HST)(16)の入力軸(17)上に設けた油圧ポンプ(69)を備えている。従って、該油圧ポンプ(69)は、エンジン(7)の回転に比例して駆動回転する。この油圧ポンプ(69)からの圧油は、先ず前輪(2)を操舵するステアリングハンドル(5)のパワ−ステアリング装置(70)へ供給され、該パワ−ステアリング装置(70)から昇降用油圧シリンダ(10)を作動させる苗植付部昇降作動装置(71)及び油圧式無段変速装置(HST)(16)へ供給される構成となっている。パワ−ステアリング装置(70)では、油圧ポンプ(69)からの圧油が該パワ−ステアリング装置(70)の油路切替バルブ部(72)へ供給されると共に、ステアリングハンドル(5)の操作で前記油路切替バルブ部(72)により油路が切り替えられ、油圧モ−タ部(73)へ適宜油圧が供給されてステアリングハンドル(5)による前輪(2)の操舵をアシストする構成となっている。尚、油圧モ−タ部(73)に所定以上の圧力(負荷)がかかると油圧ポンプ(69)からの圧油をパワ−ステアリング装置(70)から逃がすパワ−ステアリング用リリ−フバルブ(74)を備えている。パワ−ステアリング装置(70)においては、前記パワ−ステアリング用リリ−フバルブ(74)又は油路切替バルブ部(72)から油圧が全量排出される。そして、パワ−ステアリング装置(70)から排出される油圧は、分岐油路(75)により、苗植付部昇降作動装置(71)側と油圧式無段変速装置(16)側とへ分岐して供給される。
【0027】
前記分岐油路(16)の一方側から油圧が供給される苗植付部昇降作動装置(71)について説明すると、油量(油圧ポンプ(69)の回転数)に関係なく主経路(s)へ一定流量のみ分流する定分流バルブ(76)を設け、該定分流バルブ(76)で分流された主経路(s)の油圧のみを油圧バルブ(55)へ供給する分流状態と、定流量バルブ(76)で分流された油圧を再び合流して全流量油圧バルブ(55)へ供給する合流状態とに切り替えできる流量切替用電磁バルブ(77)を設けている。尚、該流量切替用電磁バルブ(77)を前記分流状態にしたときには、定分流バルブ(76)で分流される余剰流が油圧式無段変速装置(16)へチャ−ジ圧を供給するためのチャ−ジ油路(78)へ供給される構成となっている。前記油圧バルブ(55)は、前記流量切替用電磁バルブ(77)から供給される油圧を昇降用油圧シリンダ(10)側へ供給する上昇状態と、昇降用油圧シリンダ(10)側からの油圧の戻り経路を閉塞すると共に流量切替用電磁バルブ(77)から供給される油圧を前記チャ−ジ油路(78)へ供給する中立状態と、昇降用油圧シリンダ(10)内の油圧を油圧タンクを兼用するミッションケース(18)内へ逃がすと共に流量切替用電磁バルブ(77)から供給される油圧をチャ−ジ油路(78)へ供給する下降状態とに切替できる構成となっている。油圧バルブ(55)と昇降用油圧シリンダ(10)との間の油圧経路には、逆止弁(79)により昇降用油圧シリンダ(10)からの油圧の戻りを規制する下降規制状態と、前記逆止弁(79)が解除されて油圧が行き来できる規制解除状態とに切り替えできる下降規制用バルブ(80)を設けている。該下降規制用バルブ(80)は、昇降用油圧シリンダ(10)に連通する第一パイロット油路(81)を介するパイロット圧と油圧バルブ(55)へ油圧を供給する油路に連通する第二パイロット油路(82)を介するパイロット圧とにより作動し、油圧ポンプ(69)(エンジン(7))が駆動して第二パイロット油路(82)のパイロット圧が上昇すると規制解除状態に切り替えられ、逆に油圧ポンプ(69)(エンジン(7))が停止して第二パイロット油路(82)のパイロット圧が低下すると下降規制状態に切り替えられる構成となっている。尚、定分流バルブ(76)の油路上手側には昇降用リリ−フバルブ(83)を設けており、該昇降用リリ−フバルブ(83)により油圧バルブ(55)の上昇状態で昇降用油圧シリンダ(10)に所定以上の圧力(負荷)がかかると圧油をチャ−ジ油路(78)へ逃がす構成となっている。
【0028】
前記分岐油路(75)の他方側へ供給される油圧は、減圧バルブ(84)を介して前記チャ−ジ油路(78)へ供給される。従って、チャ−ジ油路(78)内の油圧が所定値以下になると、前記減圧バルブ(84)により、チャ−ジ油路(78)へ油圧が供給され、チャ−ジ油路(78)内は常に所定以上の油圧が維持される構成となっている。
【0029】
油圧式無段変速装置(16)は、入力軸(17)と一体回転する無段変速用油圧ポンプ(85)からの圧油により、無段変速用油圧モータ(86)が回転して該油圧モータ(86)と一体回転する出力軸(87)を駆動する無段変速用油路(88)を構成している。該無段変速用油路(88)は、無段変速用油圧ポンプ(85)と無段変速用油圧モータ(86)との間にそれぞれ設けた正転側油路(88a)と逆転側油路(88b)とを備え、この正転側油路(88a)び逆転側油路(88b)とで構成される閉ル−プ状の油路となっている。尚、変速レバ−(HSTレバ−)(22)の操作により変速作動部(27)ひいてはトラニオン軸(28)が作動するのに伴って、無段変速用油圧ポンプ(85)からの吐出量あるいは吐出する側の油路(88a),(88b)が切り替えられ、無段変速用油圧モータ(85)の回転が無段階に変速されたり正逆転したりする構成となっている。そして、この無段変速用油路(88)の正転側油路(88a)内又は逆転側油路(88B)内の油圧が不足する場合には、前述のチャ−ジ油路(78)からそれぞれの逆止弁(89)を介して前記正転側油路(88a)又は逆転側油路(88b)へチャ−ジ圧が供給され、無段変速用油路(88)の油圧を補う構成となっている。尚、チャ−ジ油路(78)には無段変速用リリ−フバルブ(90)を設けており、無段変速用油路(16)へのチャ−ジ圧の供給が不要な状態では、前記無段変速用リリ−フバルブ(90)よりチャ−ジ油路(90)油圧を油圧タンクを兼用するミッションケース(18)内へ逃がす構成となっている。
【0030】
また、正転側油路(88a)と逆転側油路(88b)との間には無段変速用減圧バルブ(91)を設け、該無段変速用減圧バルブ(91)を介して一方側油路から他方側油路へ油圧を逃がすことができる構成となっている。尚、無段変速用減圧バルブ(91)の正転側油路(88a)と連通する側にはオリフィス(92)を設けており、このオリフィス(92)により微量の油圧のみが他方側油路(88b)へ逃げるようにしている。これにより、前後進中立における中立不感帯幅を確保することができ、変速レバ−(22)を前後進中立域(N)に操作したときにトラニオン軸(28)の作動誤差に伴う無段変速用油圧ポンプ(85)からの微少流量により機体が走行するようなことを防止できる。そして、深い圃場や湿田あるいは登り坂等で機体の前進時に走行負荷が増大して正転側油路(88a)内の油圧の圧力が上昇すると、無段変速用減圧バルブ(91)が作動して油路を遮断し、正転側油路(88a)から逆転側油路(88b)へ油圧が逃げるのを防止する。これにより、走行負荷が増大して走行駆動力を要するときには、油圧式無段変速装置(16)の効率低下を防止して走行駆動力を得ることができる。特に、上記構成とすることにより、通常作業時等でよく使用し走行負荷が過大になる頻度の高い前進側で、油圧式無段変速装置(16)の効率低下を防止することができる。尚、後進側油路(88b)内の油圧の圧力が上昇すると、無段変速用減圧バルブ(91)が作動して油路を遮断する構成としてもよい。すなわち、無段変速用減圧バルブ(91)を、正転側油路(88a)内及び逆転側油路(88b)内の何れの油圧の圧力が上昇しても、一方側油路内の油圧上昇で該一方側油路から他方側油路へ油圧が逃げるのを防止する構成とすればよい。また、機体を坂路で停止させている場合でも、重力で機体が坂路を下ろうとすることで一方側油路(88a)内の油圧の圧力が上昇すると、無段変速用減圧バルブ(91)が作動して油路を遮断し、一方側油路(88a)から他方側油路(88b)へ油圧が逃げるのを防止するため、機体が勝手に坂路を下るようなことを防止できて安全である。従来のものは、正転側油路と逆転側油路との間をオリフィスを介して連通しただけの構成であるので、高負荷時に一方側油路が油圧上昇すると常時他方側油路へ油圧が逃げることになり、油圧式無段変速装置の効率低下を招き、またオリフィスに油が流れることにより油温が上昇して更なる油圧式無段変速装置の効率低下を招くおそれがある。また、従来のものは、坂路で停止させている場合に、油圧の圧力が上昇する一方側油路から他方側油路へ前記オリフィスを介して油圧が逃げ、機体が勝手に坂路を下る危惧がある。
【0031】
以上により、この油圧装置は、単動式である昇降用油圧シリンダ(10)への圧油の供給と油圧式無段変速装置(16)へのチャ−ジ圧の供給とを行う共通の油圧ポンプ(69)を設け、分岐油路(75)により昇降用油圧シリンダ(10)を作動させる苗植付部昇降作動装置(71)への油路と前記チャ−ジ圧を供給するチャ−ジ油路(78)とに並列に分岐させると共に、苗植付部昇降作動装置(71)の作動すなわち油圧バルブ(55)の上昇状態による昇降用油圧シリンダ(10)への圧油の供給に拘らず減圧バルブ(84)によりチャ−ジ油路(78)内は常に所定以上の油圧が維持される構成とすることにより、エンジン(7)が低回転で油圧ポンプ(69)が低回転となってその吐出量が少ないときでも、昇降用油圧シリンダ(10)への圧油の供給より優先して油圧式無段変速装置(16)へのチャ−ジ圧の供給が行われるように油圧ポンプ(69)から昇降用油圧シリンダ(10)及び油圧式無段変速装置(16)への油圧供給回路を構成している。よって、昇降用油圧シリンダ(10)の作動に拘らず、油圧式無段変速装置(16)へのチャ−ジ圧を供給することができるので、油圧ポンプ(69)の容量(吐出量)を極力小さくして馬力損失の低減やヒートバランスを良好に維持できるものとしながら、駆動負荷により油圧式無段変速装置(16)がキャビテーションを起こさないようにでき、油圧式無段変速装置(16)の駆動力すなわち走行駆動力が低下するようなことを防止できる。また、流量切替用電磁バルブ(77)の分流状態や油圧バルブ(55)の中立状態では分岐油路(75)で苗植付部昇降作動装置(71)へ供給された油圧がチャ−ジ油路(78)へ供給される構成としているので、チャ−ジ圧が一時的に低下してしまうようなことを極力防止している。尚、上記のものは分岐油路(75)により苗植付部昇降作動装置(71)への油路とチャ−ジ油路(78)とに並列に分岐させる構成としたが、チャ−ジ油路(78)から苗植付部昇降作動装置(71)へ油圧が供給されるようにチャ−ジ油路(78)と苗植付部昇降作動装置(71)とを直列に接続する油圧回路を構成し、昇降用油圧シリンダ(10)への圧油の供給より優先して油圧式無段変速装置(16)へのチャ−ジ圧の供給が行われるようにしてもよい。
【0032】
図12に示す油圧式無段変速装置(16)は、他の構成は上述のものと同様であるが、上述の無段変速用減圧バルブ(91)に代えて、正転側油路(88a)と逆転側油路(88b)との間のオリフィス(92)の逆転側油路(88b)側に開閉可能なシャトル弁(93)を設けると共に、前記オリフィス(92)及びシャトル弁(93)を有する油路とは別に並列に設けた正転側油路(88a)と逆転側油路(88b)とを繋ぐ油路(94)にサブオリフィス(95)及び逆止弁(96)を設けたものである。前記シャトル弁(93)は、球体で構成され、正転側油路(88a)の油圧が逆転側油路(88b)の油圧より高くなると開き、正転側油路(88a)の油圧をオリフィス(92)を介して逆転側油路(88b)へ微少流量逃がす。前記逆止弁(96)は逆転側油路(88b)側から正転側油路(88a)側への油の流れを許容する構成であり、前記サブオリフィス(95)により逆転側油路(88b)の油圧を正転側油路(88a)へ微少流量逃がす。前記サブオリフィス(95)の径は前記オリフィス(92)の径より小さく、オリフィス(92)により正転側油路(88a)から逆転側油路(88b)へ流れる油量よりサブオリフィス(95)により逆転側油路(88b)から正転側油路(88a)へ流れる油量の方が極めて少なくなる。従って、オリフィス(92)及びサブオリフィス(95)により一方側油路から他方側油路へ微少流量のみが流れ、前後進中立における中立不感帯幅を確保することができると共に、サブオリフィス(95)により逆転側油路(88b)から正転側油路(88a)へ流れる油量が極めて少なくなるため、油圧式無段変速装置(16)の効率低下を極力防止することができ、また機体が勝手に坂路を下るような逸走を防止できる。また、シャトル弁(93)が閉じた状態であれば正転側油路(88a)から逆転側油路(88b)へ油圧が逃げないので、機体の逸走を防止できると共に、前進時の油圧式無段変速装置(16)の効率低下を確実に防止することができる。尚、これらのオリフィス(92)シャトル弁(93)、サブオリフィス(95)及び逆止弁(96)を、正転側油路(88a)と逆転側油路(88b)とで互いに反対側になるよう設けてもよい。
【0033】
図13に示す油圧式無段変速装置(16)は、他の構成は前述のものと同様であるが、前述の無段変速用減圧バルブ(91)に代えて、正転側油路(88a)と逆転側油路(88b)とに油圧をサブオリフィス(95)を介して油圧タンクを兼用するミッションケース(18)内へ逃がすことができる中立切替バルブ(97)をそれぞれ設けたものである。該中立切替バルブ(97)は、変速レバ−(HSTレバ−)(22)の前後進中立域(N)への操作に連動して開き、変速レバ−(22)が前後進中立域(N)以外に操作されると閉じてミッションケース(18)内へ油圧が逃げるのを阻止する。これにより、機体の逸走を防止できると共に、油圧式無段変速装置(16)の効率低下を確実に防止することができる。また、無段変速用油路(88)には開閉バルブ(98)を介してアキュムレータ(99)が接続され、変速レバ−(22)の前後進中立域(N)以外への操作に連動して前記開閉バルブ(98)を開いて無段変速用油路(88)の油圧をアキュムレータ(99)に貯留し、アキュムレータ(99)に所定の圧力が貯留されれば開閉バルブ(98)を閉じ、変速レバ−(22)の前後進中立域(N)への操作に連動して開閉バルブ(98)を開いてアキュムレータ(99)に貯留した油圧を無段変速用油路(88)へ供給し、走行停止時の機体の逸走を確実に防止するように構成している。尚、図13では、正転側油路(88a)にアキュムレータ(99)を接続した構成を示したが、逆転側油路(88b)にアキュムレータ(99)を接続する構成又は正転側油路(88a)及び逆転側油路(88b)の双方にそれぞれアキュムレータ(99)を接続する構成としてもよい。
【0034】
また、図14に示すように、前後進操作可能な変速ペダル(100)と、該変速ペダル(100)の操作位置を検出するペダルセンサ(ポテンショメータ)(100a)と、油圧式無段変速装置(16)のトラニオンアーム(トラニオン軸(28))の回動位置を検出するトラニオンアームセンサ(101)と、トラニオンアーム(トラニオン軸(28))を作動させるHSTモータ(アクチュエータ)(23)とを設け、トラニオンアームセンサ(101)の検出値がペダルセンサ(100a)の検出値に基づく値となるよう制御部によりHSTモータ(23)を駆動制御する構成とすることができる。尚、前記変速ペダル(100)は、前方への踏み込み操作で前進し、後方への踏み込み操作で後進し、その踏み込み量に応じて無段階に変速でき、該ペダル(100)から足を放すと前後進中立位置に自動復帰する構成となっている。図15のフローチャートに基づいてHSTモータ(23)の駆動制御の詳細について説明すると、先ず上述のようにペダルセンサ(100a)の検出値に基づいて制御部がHSTモータ(23)へ出力して該モータ(23)を駆動制御する(ステップ1)。そして、ペダルセンサ(100a)の検出値に変化があれば「ステップ1」に戻って上記同様にモータ(23)を駆動制御する。ペダルセンサ(100a)の検出値が変化せずタイマカウント中でなければ、タイマカウントを開始し(ステップ2)、タイマアップするまでペダルセンサ(100a)の検出値が前進側で変化がなければ、以後のペダルセンサ(100a)の検出値の変化に拘らずHSTモータ(23)の駆動を停止して油圧式無段変速装置(16)の現状の変速比を維持し(ステップ3)、タイマをクリアする(ステップ4)。これにより、変速ペダル(100)の踏み込み量が所定時間以上変化しなければ該変速ペダル(100)を踏み続けていなくても油圧式無段変速装置(16)の変速比を維持するオートクルーズ状態とすることができ、変速ペダル(100)から足を放して楽に機体を操縦することができる。その後、ペダルセンサ(100a)の検出値が後進側になると、油圧式無段変速装置(16)が前後進中立となるようHSTモータ(23)が駆動しその中立状態を所定時間(2秒程度)維持し(ステップ5)、「ステップ1」に戻る。すなわち、変速ペダル(100)の後進側への操作で、前記オートクルーズ状態を解除し機体を走行停止させる構成となっている。尚、「ステップ5」で中立状態を所定時間維持することで、オートクルーズ状態の解除操作でオペレータの意に反して即座に後進するようなことを防止し、安全性を図っている。また、オートクルーズ状態で変速ペダル(100)を前進増速側へ操作することによりペダルセンサ(100a)の検出値が前進増速側になると、オートクルーズ状態を解除し「ステップ1」に戻って所望の走行速度に変速することができる。
【0035】
図16に示す油圧式無段変速装置(16)は、無段変速用油圧ポンプ(85)からの圧油を正逆転切替可能な正逆転切替バルブ(102)を介して無段変速用油圧モータ(86)へ供給する構成のものである。この油圧式無段変速装置(16)は、チャージ油路(78)を正逆転切替バルブ(102)に接続し、無段変速用油圧モータ(86)側の油圧回路における一方側油路の油圧上昇で他方側油路へ油圧を逃がす高圧リリーフバルブ(103)を備えている。無段変速用油圧ポンプ(85)は一方側油路へのみ油を吐出する一方向可変油圧ポンプの構成であり、正逆転切替バルブ(102)は、無段変速用油圧ポンプ(85)からの油圧を正転側で全量無段変速用油圧モータ(86)へ供給する正転全量位置(a)と、正転側でオリフィス(92)により微少量逃がしながら無段変速用油圧モータ(86)へ供給する正転少量位置(b)と、無段変速用油圧ポンプ(85)側の一対の油路を連通すると共に無段変速用油圧モータ(86)側の一対の油路をそれぞれ遮断する前後進中立位置(c)と、無段変速用油圧ポンプ(85)からの油圧を逆転側でオリフィス(92)により微少量逃がしながら無段変速用油圧モータ(86)へ供給する逆転少量位置(d)と、逆転側で全量無段変速用油圧モータ(86)へ供給する逆転全量位置(e)との5位置へ切り替える構成となっている。この正逆転切替バルブ(102)の切替は、変速レバー(22)の操作に連動して行われるようにすればよい。正逆転切替バルブ(102)を前後進中立位置(c)に切り替えることにより無段変速用油圧モータ(86)側の一対の油路がそれぞれ遮断されるので、確実に前後進中立を維持することができ、機体の逸走を防止できると共に、前後進中立操作が容易になって変速操作性が向上する。また、正逆転切替バルブ(102)を正転全量位置(a)又は逆転全量位置(e)に切り替えることにより無段変速用油圧ポンプ(85)からの油圧を全量無段変速用油圧モータ(86)へ供給することができるので、油圧式無段変速装置(16)の効率低下を確実に防止できる。
【0036】
最後に、この乗用型田植機における植付作業について説明する。先ず植付開始位置で変速レバー(22)のグリップ部(43)に設けた昇降・駆動操作レバ−(上下スイッチ)(44)を下側操作位置へ操作すると、油圧バルブ(55)が切り替えられて苗植付部(6)が下降し、再度下側操作位置へ操作すれば植付クラッチケース(20)内の植付クラッチを伝動状態に切り替える。そして、変速レバー(22)の前進操作により、機体を前進させながら苗植付部(6)を作動させ、苗を植え付けていく。畦際の機体旋回位置に達すると、前記昇降・駆動操作レバ−(上下スイッチ)(44)を上側操作位置へ操作すれば、油圧バルブ(55)が切り替えられて苗植付部(6)が上昇すると共に、前記植付
クラッチを非伝動状態に切り替えて苗植付部(6)の作動を停止させ、ステアリングハンドル(5)を操作して機体を旋回させる。旋回を完了して次行程の植付開始位置に到達すると、昇降・駆動操作レバ−(上下スイッチ)(44)を下側操作位置へ操作して上述と同様に植付作業を行う。
【0037】
この乗用型田植機は、昇降・駆動操作レバ−(44)の操作で植付クラッチが伝動状態となる植付作業状態で、変速レバー(22)の操作位置が前進低速域であることをHSTモータ(23)に内蔵するセンサ又はトラニオンアームセンサ(101)で検出し、苗載タンク(11)の何れかの条の苗減少センサ(64)により苗が所定量以下に減少したことを検出し、且つオペレータが運転席(8)から離れたことを着座センサ(8a)が検出すると、制御部を介してハンドルロックシリンダ(アクチュエータ)(104)によりステアリングハンドル(5)が直進位置で回動しないように固定される。そして、このハンドルロックに連動して後輪ローリングフレーム(62)が左右ローリングしないように固定する後輪ロ−リングロックソレノイド(105)が作動すると共に、ミッションケ−ス(18)内に設けた前輪デフロック機構及び後輪デフロック機構を作動させて左右一対の前輪(2)及び後輪(3)をデフロックさせる。これにより、苗載タンク(11)の何れかの条の苗が所定量以下に減少したときには、機体の直進性を維持させながら、植付作業を中断することなくオペレ−タが苗載タンク(11)へ苗補給を行うことができる。また、変速レバー(22)の操作位置が前進低速域の場合のみ、ハンドルロック、後輪ロ−リングロック及びデフロック機構等が作動するので、苗補給中に機体が高速走行することで機体の進路が所望の進路から大きく外れることがなく、また圃場の凹凸等により機体の姿勢が急激に変化することが抑えられて安全に苗補給作業が行える。苗補給後、オペレータが運転席(8)に着座したことを着座センサ(8a)が検出すると、ハンドルロック、後輪ロ−リングロック及びデフロック機構等が自動的に解除され、オペレ−タが機体を操縦できる状態に切り替わる。尚、畦越えしながら植付を行うとき等、運転席(8)に着座していない状態でもステアリングハンドル(5)の操作が行えるように、このハンドルロックの自動制御を入切できる構成とすればよい。
【0038】
尚、この発明の実施の形態は乗用田植機について記述したが、本発明の油圧装置は、乗用田植機に搭載されるものに限定されるものではなく、トラクタや芝刈機等に使用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】田植機の側面図
【図2】田植機の平面図
【図3】田植機の要部の平面図
【図4】油圧式無段変速装置の変速作動構成を示す一部断面背面図
【図5】変速レバ−からの操作連繋構成を示す平面図(a:前進時、b:後進時)
【図6】他の変速レバ−からの操作連繋構成を示す平面図(a:前進中速時、b:前進高速時)
【図7】変速レバ−のグリップ部を示す斜視図
【図8】ブロック図
【図9】植付昇降切替モ−タ及び位置決めカムを示す側面図
【図10】昇降・駆動操作ア−ムを示す側面図
【図11】油圧装置の油圧回路図
【図12】他の油圧式無段変速装置の油圧回路図
【図13】他の油圧式無段変速装置の油圧回路図
【図14】ブロック図
【図15】フロ−チャ−ト
【図16】他の油圧式無段変速装置の油圧回路図
【符号の説明】
【0040】
(10)…昇降用油圧シリンダ(単動式油圧シリンダ)、(16)…油圧式無段変速装
置、(69)…油圧ポンプ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単動式油圧シリンダ(10)への圧油の供給と油圧式無段変速装置(16)へのチャ−ジ圧の供給とを行う共通の油圧ポンプ(69)を設け、前記単動式油圧シリンダ(10)への圧油の供給より優先して前記油圧式無段変速装置(16)へのチャ−ジ圧の供給が行われるように油圧ポンプ(69)から単動式油圧シリンダ(10)及び油圧式無段変速装置(16)への油圧供給回路を構成した油圧装置。
【請求項1】
単動式油圧シリンダ(10)への圧油の供給と油圧式無段変速装置(16)へのチャ−ジ圧の供給とを行う共通の油圧ポンプ(69)を設け、前記単動式油圧シリンダ(10)への圧油の供給より優先して前記油圧式無段変速装置(16)へのチャ−ジ圧の供給が行われるように油圧ポンプ(69)から単動式油圧シリンダ(10)及び油圧式無段変速装置(16)への油圧供給回路を構成した油圧装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2006−153192(P2006−153192A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−346352(P2004−346352)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】
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