説明

油圧装置

【課題】 トランスミッション系油圧回路とブレーキ制御系油圧回路とを備え、トランスミッション系油圧回路の作動油を貯留するオイルパンと、ブレーキ制御系油圧回路の作動油を貯留するオイルタンクとを、連結管を介して互いに連通させて成る油圧装置を対象とし、トランスミッションを潤滑した後の作動油に含まれる金属屑等のゴミに起因するブレーキ装置の動作不良を未然に防止し得る油圧装置の提供を目的とする。
【解決手段】 エンジン停止時における専用タンクの作動油レベルを、エンジン停止時におけるオイルパンの作動油レベル以下に設定するとともに、連結管の中間域における内面底部の最も高い部位を、エンジン停止時におけるオイルパンの作動油レベルと等しい高さ位置に設けている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば建設機械等の各種車輌における油圧装置に関し、詳しくはトランスミッション系油圧回路とブレーキ制御系油圧回路とを備え、トランスミッション系油圧回路の作動油を貯留するオイルパンと、ブレーキ制御系油圧回路の作動油を貯留するオイルタンクとを、連結管を介して互いに連通させて成る油圧装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図8に示した、ダンプトラック等の作業車輌における従来の油圧装置Aは、トランスミッション系油圧回路A1と、ブレーキ制御系油圧回路A2とを備えている。上記トランスミッション系油圧回路A1は、トランスミッションのオイルパンO/Pに貯留した作動油Oを、ポンプP1によってトルクコンバータT/Cに供給する。次いで冷却経路Cを通過する作動油Oによって各ブレーキ装置を冷却したのち、オイルクーラO/Cを経た作動油OによってトランスミッシヨンT/Mの潤滑・冷却を行い、上記作動油OをオイルパンO/Pに環流させている。
【0003】
一方、ブレーキ制御系油圧回路A2は、上記トランスミッシヨンT/MのオイルパンO/Pに貯留した作動油Oを、ポンプP2によってブレーキバルブB/Vから各ブレーキ装置Bに供給し、上記ブレーキ装置Bを経た作動油Oを上記オイルパンO/Pに環流させている。
【0004】
ここで、上述した従来の油圧装置Aにおいては、トランスミッション系油圧回路A1およびブレーキ制御系油圧回路A2ともに、トランスミッションのオイルパンO/Pに貯留された作動油Oを循環使用している。しかしながら、トランスミッション系油圧回路A1においてオイルパンO/Pに環流された作動油Oには、トランスミッションT/Mの潤滑・冷却に伴って金属屑等が混入するため、このゴミがブレーキ制御系油圧回路A2に侵入することにより、ブレーキ装置Bの動作不良を招いてしまう問題があった。
【0005】
上記不都合を解消するべく、トランスミッションのオイルパンとは別個にオイルタンクを設け、上記オイルパンとオイルタンクとを連結管を介して互いに連通させる構成が提供されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
すなわち、図9に示した油圧装置A′においては、トランスミッション系油圧回路A1′を構成するオイルパンO/Pとは別個に、ブレーキ制御系油圧回路A2′を構成する専用のオイルタンクTを設け、これらオイルパンO/PとオイルタンクTとを連結管Sを介して互いに連通させている。また、トランスミッション系油圧回路A1′ではオイルパンO/Pに貯留された作動油Oを主に循環使用し、ブレーキ制御系油圧回路A2′ではオイルタンクTに貯留された作動油Oを主に循環使用している。
【特許文献1】特開昭63−13963号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した従来の油圧装置A′においては、ブレーキ制御系油圧回路A2′がオイルパンO/Pの作動油Oを直接に使用するものではないため、オイルパンO/Pからブレーキ制御系油圧回路A2′へのゴミの侵入を抑えられるものの、連結管Sを通過してオイルパンO/PからオイルタンクTにゴミが流れ込むことは防止できない。このため、このゴミがブレーキ制御系油圧回路A2′に侵入することにより、ブレーキ装置Bの動作不良を招き、該ブレーキ装置Bにおける動作信頼性の大幅な低下を招いてしまう問題があった。
【0008】
本発明の目的は上記実状に鑑みて、ゴミの侵入に起因するブレーキ装置の動作不良を未然に防止し、もってブレーキ装置の動作信頼性を大幅に向上させ得る油圧装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するべく、本発明に関わる油圧装置は、トランスミッション系油圧回路とブレーキ制御系油圧回路とを具備し、トランスミッション系油圧回路の作動油を貯留するオイルパンと、ブレーキ制御系油圧回路の作動油を貯留する専用タンクとを、連結管を介して互いに連通させて成る油圧装置であって、エンジン停止時における専用タンクの作動油レベルを、エンジン停止時におけるオイルパンの作動油レベル以下に設定するとともに、連結管の中間域における内面底部の最も高い部位を、エンジン停止時におけるオイルパンの作動油レベルと等しい高さ位置に設けたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明に関わる油圧装置によれば、連結管の中間域における内面底部の最も高い部位を、エンジン停止時における作動油レベルと等しい高さ位置に設けたことで、エンジン運転時においては作動油の使用に伴って作動油レベルが下がり、連結管の中間域が作動油の液面よりも高くなるために、オイルパンおよび専用タンクに貯留している作動油が、連結管を介して互いに流通することがない。このため、オイルパンの作動油に混入している金属屑等のゴミが、専用タンクに流入することを未然に防止でき、もってブレーキ制御系油圧回路へのゴミの侵入に起因するブレーキ装置の動作不良が防止され、該ブレーキ装置の動作信頼性を大幅に向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に関わる油圧装置の構成を、実施例を示す図面に基づいて詳細に説明する。
図1〜図4は、建設機械(作業車輌)の1つであるダンプトラックの油圧装置に、本発明を適用した一実施例を示しており、図1に示す如く上記ダンプトラック100は、前輪101fおよび後輪101rを含む走行装置、ベッセル102を含む作業機装置、運転室103を含む操縦装置等を備えている。
【0012】
さらに、上記ダンプトラック100は、図4に示す油圧装置1を搭載しており、上記油圧装置1は、後述するトランスミッション系油圧回路10と、後述するブレーキ制御系油圧回路20とを備えている。
【0013】
上記トランスミッション系油圧回路10は、後述するトランスミッション16のオイルパン16Pを構成要素とし、該オイルパン16Pに貯留した作動油Oを、ポンプ11によってトランスミッションコントロールバルブ(図示せず)やトルクコンバータに供給する。次いで冷却経路14に供給した作動油Oによって後述するブレーキ装置23を冷却したのち、オイルクーラ15を経て冷却された作動油Oをトランスミッション16に供給し、該トランスミッション16の潤滑・冷却を行ったのちオイルパン16Pに作動油Oを環流させている。
【0014】
一方、ブレーキ制御系油圧回路20は、上記トランスミッション16のオイルパン16Pとは別個に設けられた専用のオイルタンク(専用タンク)20Tを構成要素とし、該オイルタンク20Tに貯留した作動油Oを、ポンプ21によってブレーキバルブ22からフットブレーキやパーキングブレーキ等の油圧ブレーキ装置23に供給する。こののち、上記油圧ブレーキ装置23を経た作動油Oを上記オイルタンク20Tに環流させている。
【0015】
また、上記トランスミッション系油圧回路10の構成要素であるオイルパン16Pと、上記ブレーキ制御系油圧回路20の構成要素であるオイルタンク20Tとの間には、例えばゴム配管等から構成された連結管30が接続されており、上記連結管30を介して、オイルパン16Pとオイルタンク20Tとが互いに連通している。
【0016】
ここで、図1(b)および図2に示す如く、ダンプトラック100のフレーム104には、左ビーム104lと右ビーム104rとに挟まれた中央域に、トランスミッション16が搭載されている。一方、該トランスミッション16のオイルパン16Pと連結管30を介して接続されたオイルタンク20Tは、上記オイルパン16Pに対して右ビーム104rを挟んだフレーム104の右外方域に設置されており、上記連結管30は適宜な手段によって上記フレーム104に固定されている。
【0017】
なお、フレーム104における右ビーム104rの外方域には、上記オイルタンク20Tとともに燃料タンク106が設置されている一方、左ビーム104lの外方域には、ステアリング機構やホイスト等を動作させる油圧回路(図示せず)の作動油タンク105が設置され、該作動油タンク105の給油口105aとオイルパン16Pの給油口16Paとはフレーム104の左外方域に臨んでいる。
【0018】
因みに、フレーム104の左外方域には、作動油タンク105と該作動油タンク105に関連する油圧機器が密に配置されており、オイルタンク20Tを設置するに足る十分なスペースがないため、実施例のダンプトラック100においては、上記オイルタンク20Tを燃料タンク106とともにフレーム104の右外方域に設置している。
【0019】
図3に示す如く、オイルパン16Pとオイルタンク20Tとを接続する連結管30は、上記オイルパン16Pに臨む端部開口30pと、上記オイルタンク20Tに臨む端部開口30tとが、ともにエンジン運転時における作動油レベルLonより低い位置に設けられている。
【0020】
さらに、上記連結管30は、長手方向における中央域を上方へ張り出す態様で湾曲しており、その内面底部における最も高い部位30hは、エンジン停止時における作動油レベルLoff と等しい高さ位置に占位している。
【0021】
上述した構成の油圧装置1においては、エンジン停止時、図5(a)に示す如く、トランスミッション系油圧回路10(図4参照)のオイルパン16Pに貯留する作動油Oの液面Opと、ブレーキ制御系油圧回路20(図4参照)のオイルタンク20Tに貯留する作動油Oの液面Otとは、ともに作動油レベルLoff に位置している。
【0022】
一方、エンジン運転時においては、図5(b)に示す如く、トランスミッション系油圧回路10(図4参照)の稼働に伴い、オイルパン16Pにおける作動油Oの液面Opが作動油レベルLonにまで下降するとともに、ブレーキ制御系油圧回路20(図4参照)の稼働に伴い、オイルタンク20Tにおける作動油Oの液面Otが作動油レベルLonにまで下降する。
【0023】
このとき、連結管30の内面底部における最も高い部位30hが、作動油レベルLoff と等しい高さ位置に占位しているため、液面Op、Otが作動油レベルLonにまで下降することで、連結管30の中間域が作動油Oの液面Op、Otよりも高くなり、オイルパン16Pとオイルタンク20Tに貯留している作動油Oが、連結管30を介して互いに流通することはできない。
【0024】
これにより、オイルパン16Pの作動油Oに混入している金属屑等のゴミが、連結管30を介してオイルタンク20Tに流入することが未然に防止され、もってブレーキ制御系油圧回路20へのゴミの侵入に起因する油圧ブレーキ装置23の動作不良が防止され、フットブレーキやパーキングブレーキ等の動作信頼性を大幅に向上させることが可能となる。
【0025】
また、オイルタンク20Tにおける作動油Oの液面Otが、連結管30の中間域より低いことで、ブレーキ制御系油圧回路20のポンプ21が稼働(吸引)しても、オイルパン16Pの作動油Oがオイルタンク20Tに流れ込むことはない。これによって、オイルタンク20Tへゴミの流入が防止されることと併せ、オイルパン16Pの作動油Oをブレーキ制御系油圧回路20が消費することもない。
【0026】
なお、図5(a)に示したエンジン停止時においても、オイルパン16Pにおける作動油Oの液面Opと、オイルタンク20Tにおける作動油Oの液面Otとが、連結管30の内面底部における最も高い部位30hを越えない。このため、基本的にオイルパン16Pとオイルタンク20Tとの間で作動油Oの流通はなく、もってオイルタンク20Tへのゴミの流入が未然に防止されることとなる。
【0027】
ところで、上述した構成の油圧装置1においては、ブレーキ制御系油圧回路20の稼働時において、フットブレーキやパーキングブレーキ等の油圧ブレーキ装置23から漏れた作動油は、図4中における破線矢印Reで示す如く、トランスミッション系油圧回路10の冷却経路14を介してオイルパン16に環流する。このため、オイルタンク20Tに貯留されている作動油Oは、ブレーキ制御系油圧回路20の稼働に伴って減少することとなる。
【0028】
すなわち、図6(a)に示す如く、エンジン運転時においては、オイルパン16Pにおける作動油Oの液面Opと、オイルタンク20Tにおける作動油Oの液面Otとが、ともに作動油レベルLonにまで下降する。さらに、上述した如くブレーキ制御系油圧回路20の油圧ブレーキ装置23から漏れた作動油Oが、破線矢印Reで示す如くオイルパン16に流入することで、オイルタンク20Tにおける作動油Oの液面Otが、作動油レベルLonから作動油レベルLreへ下降する一方、オイルパン16Pにおける作動油Oの液面Opが、作動油レベルLonから作動油レベルLreへ上昇することとなる。
【0029】
この状態においてエンジンを停止すると、図6(b)に示す如く、オイルパン16Pにおける作動油Oの液面Opが作動油レベルLoffより高く、かつオイルタンク20Tにおける作動油Oの液面Otが作動油レベルLoffより低くなる。このため、オイルパン16Pに貯留されている作動油Oが、連結管30の内面底部における最も高い部位30hを越えてオイルタンク20Tに流れ込むこととなる。
【0030】
これにより、図6(c)に示す如く、オイルパン16Pにおける作動油Oの液面Opと、オイルタンク20Tにおける作動油Oの液面Otとが、作動油レベルLoffにおいて平衡し、もって油圧ブレーキ装置23からの漏れに起因する、オイルタンク20Tにおける作動油Oの減少分が補充されることとなる。
【0031】
ここで、上述した如くエンジンを停止した際には、オイルパン16Pに貯留されている作動油Oが、連結管30を介してオイルタンク20Tに流れ込むが、オイルパン16Pの作動油Oに混入している金属屑等のゴミは、自身の重さによってオイルパン16Pの底に沈殿していることと併せ、連結管30の内面底部における最も高い部位30hを乗り越えて、作動油Oの表層(上澄み部分)がオイルタンク20Tに流れ込むことにより、オイルパン16Pの作動油Oに混入しているゴミがオイルタンク20Tに流れ込むことはない。
【0032】
かくして、ブレーキ制御系油圧回路20へのゴミの侵入に起因する、油圧ブレーキ装置23の動作不良を招来することなく、上記油圧ブレーキ装置23からの漏れによる、オイルタンク20Tにおける作動油Oの減少分を補充することができる。
【0033】
なお、図1〜図6に示した実施例では、オイルパン16Pにおける作動油レベルLoffと、オイルタンク20Tにおける作動油レベルLoffとが同じ高さに設定されているが、図7に示す他の実施例のように、オイルタンク20T′における作動油レベルLoffが、オイルパン16P′における作動油レベルLoffより低い場合でも、油圧装置の稼働に際して何らの支障もないことは勿論である。
【0034】
また、図1〜図6に示した実施例では、連結管30の端部開口30pおよび端部開口30tを、オイルパン16Pにおける作動油レベルLon、およびオイルタンク20Tにおける作動油レベルLonより低い位置に設けているが、図7に示す他の実施例のように、連結管30′においてオイルタンク20T′に臨む端部開口30t′を、上記オイルタンク20T′における作動油レベルLonよりも高い位置に設け得ることは言うまでもない。
【0035】
さらに、上述した各実施例においては、本発明に関わる油圧装置をダンプトラックに適用した例を示したが、上記ダンプトラック以外の様々な建設機械、さらには建設機械以外の様々な車輌に対しても、本発明を有効に適用し得ることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】(a)は本発明の油圧装置を搭載したダンプトラックの外観側面図、(b)はダンプトラックの機器レイアウトを示す概念的な要部平面図。
【図2】図1に示したダンプトラックの機器レイアウトを示す概念的な要部背面図。平面図。
【図3】図1に示したダンプトラックに搭載された油圧装置のオイルパンとサブタンクと接続管とのレイアウトを概念的に示す断面図。
【図4】図1に示したダンプトラックに搭載された本発明に関わる油圧装置の一実施例を示す概念図。
【図5】(a)および(b)は、図4に示した油圧装置のエンジン停止時/運転時におけるオイルレベルの変化を示す概念図。
【図6】(a)、(b)および(c)は、図4に示した油圧装置のエンジン運転時/停止時におけるオイルレベルの変化を示す概念図。
【図7】本発明に関わる油圧装置の他の実施例を示す概念図。
【図8】従来の油圧装置を示す概念図。
【図9】従来の他の油圧装置を示す概念図。
【符号の説明】
【0037】
1…油圧装置、
10…トランスミッション系油圧回路、
11…ポンプ、
13…トルクコンバータ、
14…冷却経路、
15…オイルクーラ、
16…トランスミッション、
16P、16P′…オイルパン、
20…ブレーキ制御系油圧回路、
20T、20T′…オイルタンク(専用タンク)、
21…油圧ポンプ、
22…ブレーキバルブ、
23…ブレーキ装置、
30、30′…連結管、
100…ダンプトラック(建設機械/作業車輌)、
104…フレーム、
105…作動油タンク、
106…燃料タンク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスミッション系油圧回路とブレーキ制御系油圧回路とを具備し、前記トランスミッション系油圧回路の作動油を貯留するオイルパンと、前記ブレーキ制御系油圧回路の作動油を貯留する専用タンクとを、連結管を介して互いに連通させて成る油圧装置であって、
エンジン停止時における前記専用タンクの作動油レベルを、エンジン停止時における前記オイルパンの作動油レベル以下に設定するとともに、前記連結管の中間域における内面底部の最も高い部位を、エンジン停止時における前記オイルパンの作動油レベルと等しい高さ位置に設けたことを特徴とする油圧装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−62426(P2007−62426A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−247692(P2005−247692)
【出願日】平成17年8月29日(2005.8.29)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】