説明

油性ボールペン用インキ組成物及びその製造方法並びにボールペンレフィール

筆跡の鮮明さが高く、筆跡乾燥性に優れ、筆跡、書き味良好な油性ボールペン用のインキ及び油性ボールペンを得るために、油溶性染料と、水と、水を溶解し20℃における蒸気圧が0.5mmHg以上の有機溶剤と、該20℃における蒸気圧が0.5mmHg以上の有機溶剤を溶解し20℃における蒸気圧が0.1mmHg以下の有機溶剤とからインク組成物を構成した。これら3成分の合計を、インキ組成物全質量に対し、20〜75質量%とする。水の含有量をインキ組成物全質量に対し、3.0〜15.0質量%とする。20℃におけるインキ粘度を、100〜5,000mPa・sとする。水その他の成分を配合し混合・攪拌して製造する。ボールペンレフィールは水蒸気透過度の低いものを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、油性ボールペン用インキ組成物及びその製造方法並びにボールペンレフィールに関するものである。
【背景技術】
一般に、ボールペンとしては、書き味良好で、筆跡乾燥性に優れて、筆跡に滲みや裏抜けがなく、筆跡の鮮明さが高くて、化学的に安定で経時変化の少ないものが望まれる。
書き味や筆跡乾燥性の要請により、従来の油性ボールペン用インキ組成物の多くは、そのインキ粘度が20℃において10,000〜30,000mPa・sの範囲に設定されている。これは、水性ボールペン用インキのインキ粘度に比較して高いものである。油性ボールペンにおいてインキ粘度が高いと、自ずと筆記時のボール回転抵抗が大きくなり、書き味が非常に重く良好とならない。その反面、あまりにインキ粘度を低下させると、インキ漏れ出しが発生したり、筆跡乾燥性が悪化したりするという不具合が生じてしまう。そのため、上記のインキ粘度範囲に設定されていた。
筆跡の鮮明さを高めようとする方法としては、筆端部からのインキ吐出量を増加する方法や、着色材の含有量を増量する方法等種々提案されている。
しかし、油性ボールペン用のインキは水性ボールペン用のインキと比較し、インキ粘度が高く、筆端部からのインキ吐出量が少ない。これは、油性ボールペンのインキ吐出のメカニズムが、ペン先のボールが回転し、ボールに付着したインキが筆記面に転写されることによって筆跡となるのに対して、水性ボールペンのインキ吐出のメカニズムは、ペン先のボールの回転を背景にして、筆記面に毛管・浸透作用によってインキが移行することによって筆跡となる等、インキ吐出のメカニズムが相違しているからである。
したがって、油性ボールペンにおいてインキ吐出量を増量することは水性ボールペンのそれに比較して簡単ではない。
また、着色材の含有量を増量する方法をとると、インキ流動性が悪化したり、経時的に不安定になり着色材が析出するなど不具合が生じる。
以上の問題の解決や各種要求特性の更なる改善にあたり本発明者は、水を含有した油性ボールペン用インキ組成物において、含有水分の有効性に着目するに至った。
近時、少量の水を含有した油性ボールペン用インキ組成物は提案されている。例えば、特開2000−256605号公報には、ボールペンで筆記を行う際に、方向性による描線濃度のムラを生じ難くすることを目的として、水を含有させた油性ボールペンインキが提案されている。特開2001−311032号公報には、ボールペンを長期間保存しても、吸湿によるインキの粘度低下が起こりにくく、従って、筆記時のインキのボタ落ち、チップ下向きでのインキ漏れ出しが起こりにくいといった設計品質が変化しにくいインキを提供することを目的として、水を含有させた油性ボールペンインキが提案されている。
これらの公報に記載の発明にあっては、ベンジルアルコール、フェニルグリコールを用いている。なお、ベンジルアルコール、フェニルグリコールは蒸気圧が0.1mmHg以下という高沸点の有機溶剤として周知である。
本発明者の研究によれば、水と、ベンジルアルコール、フェニルグリコールなどに代表される蒸気圧が0.1mmHg以下という高沸点の有機溶剤のみを溶剤とすると、溶剤以外のインキ組成物の溶解、分散は安定に保てるものの、筆端部からのインキ吐出量を増加して筆跡の鮮明さを高めようとしたときに不具合が生じることが明らかとなった。すなわち、筆端部からのインキ吐出量を増加して筆跡の鮮明さを高めようとしたときには、筆記面に転写されたインキの溶剤蒸発スピードが遅くなる。そのため、筆跡乾燥性が悪く、紙面に対し滲み、裏抜けを起こすなどの問題が生じることが明らかとなった。したがって、上記公報に記載の発明によると、筆跡乾燥性や滲み・裏抜けの抑止性を損なわずに筆跡鮮明度を向上することが困難となる。
さらに本発明者は研究の末、水をある一定量以上含有させることによって紙面に対するインキの浸透性能を制御することを見出した。
また本発明者は、含有水分が、筆跡のインキ溶剤蒸発スピードの促進、筆跡の滲み、裏抜けの抑制に有効であることを見出した。
その一方で本発明者は、水と、蒸気圧が0.1mmHg以下という高沸点の有機溶剤のみを溶剤とすると、水分の溶解安定性が得られずに、適度な割合に水分含有量を増量することができないため、含有水分によるインキの浸透性能の制御や、筆跡乾燥性の促進効果、並びに滲み・裏抜けの抑止効果が十分に得られないことをも見出した。
本発明の課題は、各種要求特性に対する含有水分の有効性を発揮させ、筆跡の鮮明さが高く、筆跡乾燥性に優れて、筆跡に滲みや裏抜けが少なく、書き味良好で化学的に安定な油性ボールペン用インキ組成物を提供することである。
【発明の開示】
以上の課題を解決するため本発明者は鋭意研究した結果、溶剤として水と、水を溶解し20℃における蒸気圧が0.5mmHg以上の有機溶剤と、該20℃における蒸気圧が0.5mmHg以上の有機溶剤を溶解し20℃における蒸気圧が0.1mmHg以下の有機溶剤を積極的に組み合わせることを見出した。これにより、水分の溶解安定性が得られて、適度な割合に水分含有量を増量することが可能となる。その結果、インキが筆記面に多く吐出された場合でもインキ中の溶剤が速やかに蒸発する筆跡乾燥性と、従来の油性ボールペン用インキにはなかった筆記面にインキが浸透するインキ吐出のメカニズムとが付与される。これらの特性の付与により、筆跡乾燥性を損なわずに、インキ吐出量を増加可能として筆跡の鮮明さを高くできる。以上のことに着目し本発明者は本発明を想到するに至った。
即ち、本発明の油性ボールペン用インキ組成物は、油溶性染料と、溶剤として水と、水を溶解し20℃における蒸気圧が0.5mmHg以上の有機溶剤と、該20℃における蒸気圧が0.5mmHg以上の有機溶剤を溶解し20℃における蒸気圧が0.1mmHg以下の有機溶剤とからなる油性ボールペン用インキ組成物であって、前記水と、水を溶解し20℃における蒸気圧が0.5mmHg以上の有機溶剤と、該20℃における蒸気圧が0.5mmHg以上の有機溶剤を溶解し20℃における蒸気圧が0.1mmHg以下の有機溶剤の合計が、インキ組成物全質量に対し、20〜75質量%であるとともに、前記水の含有量がインキ組成物全質量に対し、2.0〜15.0質量%であることを特徴とする。
本発明の第一の特徴は、紙面へのインク浸透性能の制御、筆跡のインキ溶剤蒸発スピードの促進効果と、紙面に対する滲み、裏抜けの抑制効果を得るために、油性ボールペン用インキ組成物中に水を積極的に添加することにある。
本発明の油性ボールペン用インキ中の水分量は、本発明の油性ボールペンインキ全量に対して、2.0〜15.0質量%、好ましくは3.0〜10.0質量%とする。水の含有量が2.0%未満であると、紙面に対しての滲み、裏抜けが発生してしまい、滲み・裏抜けの抑制効果、筆跡乾燥性が十分でない。また、水の含有量が15.0%より多いと、インキの水溶解能力を超えてしまい、筆記不良の原因となってしまう。
第二の特徴は、インキ成分の溶解、分散媒となる溶剤を、水と、水を溶解し20℃における蒸気圧が0.5mmHg以上の有機溶剤と、該20℃における蒸気圧が0.5mmHg以上の有機溶剤を溶解し20℃における蒸気圧が0.1mmHg以下の有機溶剤とからなるものとしたことである。
水と、水を溶解し20℃における蒸気圧が0.5mmHg以上の有機溶剤とからなる組み合わせだけでは、蒸発する溶剤量が多くなり、ボールペンとしての書き出し性能が悪くなる。また、着色材などのインキ成分の溶解安定性が欠如する。
一方、水と、水を溶解し20℃における蒸気圧が0.1mmHg以下の有機溶剤とからなる組み合わせだけでは、十分な筆跡のインキ溶剤蒸発促進効果、紙面に対する浸透性能の制御、水分の溶解安定性が得られない。
さらに、水を溶解し20℃における蒸気圧が0.5mmHg以上の有機溶剤と、該20℃における蒸気圧が0.5mmHg以上の有機溶剤を溶解し20℃における蒸気圧が0.1mmHg以下の有機溶剤とからなる組み合わせだけでは、含有水分による紙面上でのインキの浸透抑止作用が得られない。そのため、インキが紙面上へ移行した後、インキの紙面上での浸透が制止困難となり筆跡の裏抜けや筆跡滲みが生じやすい。すなわち、含有水分による滲み・裏抜けの抑止効果が得られない。さらに、含有水分による筆跡のインキ溶剤蒸発スピードの促進効果が得られず、適度な筆跡乾燥性が得られない。
したがって、本発明では、水、水を溶解し20℃における蒸気圧が0.5mmHg以上の有機溶剤、及び該20℃における蒸気圧が0.5mmHg以上の有機溶剤を溶解し20℃における蒸気圧が0.1mmHg以下の有機溶剤の3成分系の溶剤を積極的に組み合わせることが最も重要な構成要件である。また、これら3成分系溶剤の含有量合計は、インキ組成物全質量に対して、20.0〜75.0質量%、好ましくは、35.0〜65.0質量%とする。20.0質量%未満では、インキ組成物の溶解、分散が不十分であり、溶剤としての機能を果たさない。また、75.0質量%を超えると、溶剤配合比率が高くなるため筆跡が不鮮明となり、しかも浸透性能の制御が困難となり滲み、裏抜けが防止できない。
水を溶解し20℃における蒸気圧が0.5mmHg以上の有機溶剤は、前述の有効成分である水のインキ中での安定性を保持することができるための重要な溶剤となる。この有機溶剤は含有水分と有機的に連繋し、筆跡乾燥性と紙面に対する浸透効果を巧みに発揮して、インキ吐出量をアップさせても筆跡の乾燥性は良好であって裏抜けや滲みを生じさせない。
水を溶解し20℃における蒸気圧が0.5mmHg以上の有機溶剤は、インキ全組成物に対して3.0質量%未満であると、筆跡のインキ溶剤蒸発量が十分でなく、紙面に対する浸透効果、水分の溶解安定が得られ難く、また、30.0質量%より多いと、溶剤の蒸発量が多くなりすぎるためインキの安定性が悪く、長時間キャップオフでボールペンを放置した場合に書き出し不良などの筆記不良が発生する恐れがあるので、3.0〜30.0質量%が好ましい。
水を溶解し20℃における蒸気圧が0.5mmHg以上の有機溶剤は特に限定されるものでなく、水分の溶解安定を考慮し、グリコールエーテル類又はアルコール類が好ましい。グリコールエーテル類としてはエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、プロピレングリコールモノピロピルエーテル等が挙げられる。また、アルコール類としてはメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、t−ブタノール、プロパギルアルコール、アリルアルコール、3−メチル−1−ブチン−3−オール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセタート等が挙げられる。これらの有機溶剤は単独又は2種以上混合して使用してもよい。
油性ボールペン用インキ組成物の溶解、分散安定化のため、前記20℃における蒸気圧が0.5mmHg以上の有機溶剤を溶解し20℃における蒸気圧が0.1mmHg以下の有機溶剤も採用する必要がある。前記20℃における蒸気圧が0.5mmHg以上の有機溶剤を溶解し20℃における蒸気圧が0.1mmHg以下の有機溶剤は、インキ組成物の全量に対し10.0質量%未満であるとインキ成分の溶解、分散を安定的に維持することが困難であり、40.0質量%を超えると、溶剤蒸発が遅くなるため筆跡乾燥性が低下する。また、紙面への浸透性能が調整困難となるので筆跡滲み、裏抜けを起こすこともあるので、インキ組成物の全量に対し10.0〜40.0質量%、さらに好ましくは20.0〜30.0質量%とすることが望ましい。
前記20℃における蒸気圧が0.5mmHg以上の有機溶剤を溶解し20℃における蒸気圧が0.1mmHg以下の有機溶剤としては、ベンジルアルコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール等のアルコール類及びグリコール類、エチレングリコールモノフェニルエーテル等のグリコールエーテル類等が使用可能である。これらは、単独又は2種以上混合して使用してもかまわない。
本発明では、着色材として発色性良好でインキ中での安定性良好な油溶性染料を用いる。油溶性染料は特に限定されるものではなく、一般に油性ボールペン用インキに用いられる油溶性染料全てが使用可能である。油溶性染料としては、可溶化やマイクロカプセル化したものでも良く、例えばバリファストカラー、オリエントオイルカラー(オリエント化学工業株式会社製)、アイゼンスピロン染料、アイゼンSOT染料(保土谷化学工業株式会社製)等が挙げられる。これらの油溶性染料は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上適宜組み合わせて用いてもよい。油溶性染料を着色材として用いることは、インキの化学的安定性を最も好適に維持することができ、キャップオフ性にも優れるためにボールペンの構造体に縛られることがない。また、油溶性染料はインキ中で完全に溶解しているため、化学的に極めて安定であり、筆端部のボール回転を阻害することなく潤滑性良好である。このような技術的背景により、最大限の添加量を突き詰めることが可能となり、筆跡の鮮明さを徹底的に追及する場合には、油溶性染料の採用が最も効果的な選択となる。さらに、油溶性染料を採用することで溶剤の選定範囲も広がることになり筆跡乾燥性、裏抜け、滲みの調整も容易となる。油溶性染料の添加量は特に限定されないが、5.0質量%未満の場合には、所望の筆跡の鮮明さが得られ難く、50質量%を超えるとインキ流動性が悪化したり、経時的に不安定になる傾向となるので、油性ボールペン用インキ組成物の全量に対して、5.0〜50.0質量%が望ましい。
本発明の油性インキ組成物のインキ粘度は、特に限定されるものではないが、20℃におけるインキ粘度が100mPa・s未満の場合には、滲み、裏抜けが発生し易くなったり、強筆圧時での潤滑性能が低く、筆端部が摩耗し易く筆記不良などが発生することがある。また、20℃におけるインキ粘度が5,000mPa・sを超えると、ボールペンとして使用する場合には、筆記時のボール回転抵抗が大きくなり、書き味が重くなる傾向となる。また、インキを多く流出させた場合、筆記面に対するインキの浸透効果が少なくなり、そのため筆跡乾燥性が悪化し易くなるので、20℃におけるインキ粘度は100〜5,000mPa・sが好ましい。
また、所望によりインキ粘度調整剤を添加しても良い。インキ粘度調整剤としては、フェノール樹脂、マレイン樹脂、アミド樹脂、キシレン樹脂、水添ロジン樹脂、ケトン樹脂、テルペン樹脂、ブチラール樹脂等が挙げられる。これらは単独又は2種以上混合して使用してもよい。
また、筆記時の泣き、ボテ性能を良好にするために、所望により曳糸性付与剤を添加しても良い。曳糸性付与剤としては、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、ヒドロキシプロピルセルロース、ゴム系高分子化合物等が挙げられる。これらは、単独又は複合して使用してもよい。
その他添加剤として、界面活性剤、防錆剤、分散剤、潤滑剤、染料溶解安定剤等が適時選択して添加することができる。書き味を良好とするためにリン酸エステル系界面活性剤を添加してもよいが、リン酸エステル系界面活性剤は染料と反応しやすく、インキの経時安定性を阻害するおそれがあるため添加しないことが好ましい。
本発明の油性ボールペン用インキ組成物は、当初より本発明のインキ組成物を構成する成分を上記条件内の所望の比率で配合し、これらを混合・攪拌して製造することが好ましい。この製造過程及びその後において、配合した水の蒸発及び雰囲気中からインキ組成物への水蒸気の吸収、並びにその他の溶剤の蒸発を避けて、組成変化を来たさないように管理することが好ましい。これにより水が有効に作用する本発明を確実に製造することができ、その効力を維持して可及的長期間利用することができる。
理論的には、雰囲気中からの吸湿によって本発明のインキ組成物を得ることができる場合もあり得るが、製造及び管理が難しく、上述のように水以外の成分を配合する時に本発明の有効成分である水をも配合して製造し、組成変化しないように保管することにより、本発明のインキ組成物を確実に構成し利用することができる。
さらに好ましくは、前記油溶性染料と、20℃における蒸気圧が0.5mmHg以上の有機溶剤を溶解し20℃における蒸気圧が0.1mmHg以下の有機溶剤とを混合して比較的高温で攪拌し、得られた混合物に、前記水と、水を溶解し20℃における蒸気圧が0.5mmHg以上の有機溶剤とを混合して比較的低温で攪拌することにより製造する。これにより、水分の吸湿及び水その他の溶剤の蒸発を抑えつつ、各成分を効率よく溶解することができる。
本発明の油性ボールペン用インキ組成物をボールペンへ利用する際には、組成変化を来たさぬよう水分等の透過性の低いペン先付き容器に本発明のインキ組成物を収容することが好ましい。
具体的には、先端にボールペンチップが装着されたインキ収容筒に本発明の油性ボールペン用インキ組成物が充填され、該油性ボールペン用インキ組成物の後端にインキ追従体が充填されたボールペンレフィールを使用する。
また、インキ収容筒の構成材料としては金属材料、樹脂材料その他の各種材料を用いることができるが、できるだけ水蒸気透過度の低い材料を用いてインキ収容筒の側壁の水蒸気透過度を低くするとよい。
インキ収容筒の側壁の水蒸気透過度を25℃、90%RHにおいて2.0g/m・24hr以下にすることが好ましい。さらに好ましくは25℃、90%RHにおいて1.0g/m・24hr以下である。一つには、遮断性の高い金属材料を用いることが有効である。厚さ25μm、25℃、90%RHにおける水蒸気透過度が2.0g/m・24hr以下である樹脂材料であれば厚さ50μm以上にすれば、十分な遮断性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の実施形態におけるボールペンレフィールの断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
まず、表1〜4を参照しつつ本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
実施例1の油性ボールペン用インキ組成物は、蒸気圧0.1mmHg以下(20℃)の有機溶剤としてベンジルアルコール、潤滑性向上剤である脂肪酸としてオレイン酸、曳糸性付与剤としてポリビニルピロリドン K−90(和光純薬工業株式会社製)、インキ粘度調整剤としてハイラック 110H(日立化成工業株式会社製)、着色材として、スピロンブラックGMH−スペシャル(保土谷化学工業株式会社製)、バリファーストバイオレット1701(オリエント化学工業株式会社製)の油溶性染料を混合し、ディスパー撹拌機にて60℃で6時間加温撹拌した。次いで、得られた混合物に蒸気圧0.5mmHg以上(20℃)の有機溶剤としてプロピレングリコールモノエチルエーテル、水、ハイラック110H(日立化成工業株式会社製、ケトン樹脂)を混合し、ディスパー撹拌機にて30℃で2時間撹拌して、黒色の油性ボールペン用インキ組成物を得た。具体的な配合量は、下記に示す通りである。尚、B型粘度計(東京計器株式会社製)を用いて、その油性ボールペン用インキ組成物の10rpmの回転数におけるインキの粘度で測定したところ、900mPa・sであった。
有機溶剤(蒸気圧0.1mmHg以下(20℃))
(ベンジルアルコール) 26.0質量%
有機溶剤(蒸気圧0.5mmHg以上(20℃))
(プロピレングリコールモノエチルエーテル) 23.5質量%
着色材(スピロンブラックGMH−スペシャル) 19.0質量%
着色材(バリファーストバイオレット1701) 19.0質量%
水 3.0質量%
潤滑剤(オレイン酸) 2.0質量%
インキ粘度調整剤(ハイラック110H) 7.0質量%
曳糸性付与剤(ポリビニルピロリドンK−90) 0.5質量%
【実施例2】
各油性ボールペン用インキの組成物を表1に示す通りに配合した以外は実施例1と同様にして、油性ボールペン用インキ組成物を得た。インキ粘度の測定結果は表1に示す通りである。
【実施例3】
蒸気圧0.5mmHg以上(20℃)の有機溶剤としてプロピレングリコールモノエチルエーテルに代えてエチレングリコールモノブチルエーテルを用い、各油性ボールペン用インキの組成物を表1に示す通りに配合した以外は実施例1と同様にして、油性ボールペン用インキ組成物を得た。インキ粘度の測定結果は表1に示す通りである。
【実施例4】
蒸気圧0.1mmHg以下(20℃)の有機溶剤としてベンジルアルコールに代えてエチレングリコールモノフェニルエーテルを用い、各油性ボールペン用インキの組成物を表2に示す通りに配合した以外は実施例1と同様にして、油性ボールペン用インキ組成物を得た。インキ粘度の測定結果は表2に示す通りである。
【実施例5】
インキ粘度調整剤のハイラック 110Hを添加せず、各油性ボールペン用インキの組成物を表2に示す通りに配合した以外は実施例1と同様にして、粘度が100mPa・sの油性ボールペン用インキ組成物を得た。
【実施例6】
各油性ボールペン用インキの組成物を表2に示す通りに配合した以外は実施例1と同様にして、粘度が7000mPa・sの油性ボールペン用インキ組成物を得た。
【実施例7】
蒸気圧0.1mmHg以上(20℃)の有機溶剤としてベンジルアルコールに代えてエチレングリコールモノフェニルエーテルを用い、蒸気圧0.5mmHg以上(20℃)の有機溶剤としてプロピレングリコールモノエチルエーテルに代えてエチレングリコールモノブチルエーテルと1−プロパノールの2種類使用したものを用い、各油性ボールペン用インキの組成物を表3に示す通りに配合した以外は実施例1と同様にして、油性ボールペン用インキ組成物を得た。インキ粘度の測定結果は表3に示す通りである。
実施例8、9
各油性ボールペン用インキの組成物を表3に示す通りに配合した以外は実施例1と同様にして、油性ボールペン用インキ組成物を得た。インキ粘度の測定結果は表3に示す通りである。
【実施例10〜12】
蒸気圧0.1mmHg以下(20℃)の有機溶剤としてベンジルアルコールとジエチレングリコールの2種類を使用し、各油性ボールペン用インキの組成物を表4に示す通りに配合した以外は実施例1と同様にして、油性ボールペン用インキ組成物を得た。インキ粘度の測定結果は表4に示す通りである。




次に、表5,6を参照しつつ本発明の技術的意義を明らかにするための比較例について説明する。
比較例1
20℃における蒸気圧が0.5mmHg以上の溶剤を配合せず、各油性ボールペン用インキの組成物を表5に示す通りに配合した以外は実施例1と同様にして、油性ボールペン用インキ組成物を得た。
比較例2、3
各油性ボールペン用インキの組成物を表5に示す通りに配合した以外は実施例1と同様にして、油性ボールペン用インキ組成物を得た。
比較例4
20℃における蒸気圧が0.1mmHg以下の溶剤を配合せず、各油性ボールペン用インキの組成物を表5に示す通りに配合した以外は実施例1と同様にして、油性ボールペン用インキ組成物を得た。
比較例5
各油性ボールペン用インキの組成物を表6に示す通りに配合した以外は実施例1と同様にして、油性ボールペン用インキ組成物を得た。
比較例6
各油性ボールペン用インキの組成物を表6に示す通りに配合した以外は実施例1と同様にして、油性ボールペン用インキ組成物を得た。
比較例7
着色材として染料と顔料を併用し、顔料の分散剤としてポリビニルブチラールを用い、表6に示す通りに配合した以外は実施例1と同様にして、油性ボールペン用インキ組成物を得た。
比較例8
着色材として染料を用いず顔料を用い、顔料の分散剤としてポリビニルブチラールを用いて、表6に示す通りに配合した以外は実施例1と同様にして、油性ボールペン用インキ組成物を得た。
以上の各比較例のインキ粘度の測定結果は表5,6に示す通りとなった。


試験方法及び評価
実施例1〜12及び比較例2,5,7,8の油性ボールペン用インキ組成物をボールペンレフィールのインキ収容筒に充填し、そのボールペンレフィールをボールペンの軸筒内に収納してボールペンを作製し、下記の試験を行い、評価した。
ボールペンレフィールとしては、図1に示すように、インキ収容筒1に水分透過性の少ない、インキ収容部の平均厚さ75μmのPP材(厚さ25μmにおける25℃、90%RHの水蒸気透過度が1.6g/m・24hr)を用い、このインキ収容筒1の先端部にボールペンチップ2を装着し、図面では一部省略しているが、内部に本発明の油性ボールペン用インキ組成物3及び油性ボールペン用インキ組成物の後端に、グリース状のインキ追従体4を直に充填してある。
経時等による吸湿での水分量の増加は、ボールペンレフィールとしての初期性能を維持できない恐れがあるため、経時による吸湿を極力防止する必要がある。経時による吸湿の大部分は、油性ボールペン用インキ組成物と空気の接触部から生じるため、油性ボールペン用インキ組成物の後端に水分透過性の極めて少ないグリース状のインキ追従体4を充填し、油性ボールペン用インキ組成物3と空気の接触部を無くすことで、製造時と経時後の含有水分量の変化を極めて微少にすることができる。また、インキ追従体4は、インキ組成物3中の有機溶剤の蒸発防止効果も奏する。
インキ収容筒1には、アルミニウム、真鍮、ステンレス等の金属材料或いは厚さ25μmにおいて、25℃、90%RHにおける水蒸気透過度が2.0g/m・24hr以下の樹脂材料を用いることが好ましい。
樹脂材料において、水蒸気透過度が2.0g/m・24hrを越えるものであると、高湿雰囲気下等の環境下で空気中の水分を透過し、インキ組成物中の水分量を維持しにくくなる。また、前記した厚さ25μmにおいて、25℃、90%RHにおける水蒸気透過度が2.0g/m・24hr以下の材料を厚さ50μm以上とする及び/又は厚さ25μmにおいて、25℃、90%RHにおける水蒸気透過度が、1.0g/m・24hr以下とし、更に優れた透過遮断性を発揮せしめることが好ましい。
インキ収容筒1の材料としては、ポリプロピレン、ポリエチレン(密度0.955)、ポリテトラフロロエチレン等で上記特性を有するものの中から選ばれる少なくとも1種から形成することができるが、耐インキ性や成形性等を考慮すると、PP材が最も好ましい。
また、グリース状のインキ追従体4には、難揮発性有機液体あるいは不揮発性液体、具体的には、シリコーンオイル、ポリブデン、鉱物油、動植物油、流動パラフィン、等から選ばれる少なくとも1種を基油とし、増稠剤、可塑剤、樹脂等を適宜添加した、従来から知られている筆記具に用いるグリース状のインキ追従体4を適宜選択して使用することができる。
さらに好ましくは、ボールペンチップ先端に回転自在に抱持したボール5を、コイルスプリング6により直接又は押圧体を介してチップ先端縁の内壁に押圧して、筆記時の押圧力によりチップ先端縁の内壁とボール5に間隙を与えインキを流出させる弁機構を具備し、チップ先端の微少な間隙も非使用時に閉鎖する。
油性インキ組成物中の水分量は、カールフィッシャー水分計(平沼産業株式会社製)等、一般に使用されている方法を適宜選択して測定することができる。
(1)水溶解安定性:
良好であるものを…○
やや劣るものを …△
劣るものを …× とした。
(2)筆跡乾燥性:筆記直後、1分間、500gfで用紙を圧着して、
転写の形成が認められないものを ……○
転写の形成が認めらたが実用上気にならないものを……△
転写の形成が認められ、非常に気になるものを ……× とした。
(3)筆跡鮮明さ:
インキ色が鮮やかで筆跡が鮮明であるものを…○
インキ色が薄く筆跡が鮮明でないものを …× とした。
(4)滲み:筆記後の滲みを観察
全く発生せず極めて良好なものを …◎
実用上において気にならないものを…○
やや気になるものを …△
非常に気になるものを …× とした。
(5)裏抜け:筆記後の紙面の裏を観察
全く発生せず極めて良好なものを …◎
実用上において気にならないものを…○
やや気になるものを …△
非常に気になるものを …× とした。
(6)筆感:手書きによる官能試験を行い評価した。
滑らかで良好なものを…◎
やや劣るものを …○
重く劣るものを …× とした。
各実施例及び比較例の評価結果は、上記各表に示す通りである。
比較例1は、溶剤として、水と20℃における蒸気圧が0.1mmHg以下の溶剤のみを使用したために水分の溶解安定が欠如しインキが安定的でなかったので評価対象外とした。
比較例2は、水の添加量が少ないために、筆記後の溶剤蒸発のコントロールが不十分で筆跡乾燥性が良好とならなかっただけではなく、紙への浸透性能も制御できず筆跡滲み、裏抜けも良好とはならなかった。
比較例3は、水の添加量が多いために、インキ中の水分溶解安定性が損なわれ、水分安定性が良好とはならなかったので評価対象外とした。
比較例4は、20℃における蒸気圧が0.5mmHg以上の溶剤のみを使用したために、インキ組成物が溶解せず十分なボールペン用インキとならなかった。
比較例5は、溶剤3成分(水、0.1mmHg以下の有機溶剤、0.5mmHg以上の有機溶剤)の合計が75%より多いため筆跡の鮮明さが欠如した。また、溶剤配合比率が高くなり過ぎたため紙面への浸透性能が制御できず筆跡滲み、裏抜けが顕著となった。
比較例6は、溶剤3成分(水、0.1mmHg以下の有機溶剤、0.5mmHg以上の有機溶剤)の合計が20%未満である為に、インキ組成物が溶解せず十分なボールペン用インキとならなかった。
比較例7は、着色材として顔料を併用したため、インキ中での顔料の分散が不十分でインキ吐出量が不足するため筆跡の鮮明さが不十分であっただけでなく、ボールの回転が不十分であり良好な筆跡が得られなかった。また経時安定性にも劣る。
比較例8は、着色材として顔料を単独で採用したため、筆跡の鮮明さが不十分であっただけでなく、ボールの回転が不十分であり良好な筆跡が得られなかった。また経時安定性にも劣る。
比較例7,8の結果からわかるように、本発明の油性ボールペン用インキ組成物に顔料を含有しないことが重要である。
【産業上の利用の可能性】
以上詳細に説明したように本発明によれば、筆跡の鮮明さが高く、滲み・裏抜けが少なく、筆跡乾燥性に優れ、筆跡、書き味、書き出し性が良好で化学的に安定な油性ボールペン用インキ組成物を得ることができる。したがって、本発明は油性ボールペン用インキとして有効に利用可能である。また、本発明の油性ボールペン用インキ組成物を用いたボールペンは優れた性能を発揮し、ボールペンとして広く利用可能である。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
油溶性染料と、水と、水を溶解し20℃における蒸気圧が0.5mmHg以上の有機溶剤と、該20℃における蒸気圧が0.5mmHg以上の有機溶剤を溶解し20℃における蒸気圧が0.1mmHg以下の有機溶剤とからなる油性ボールペン用インキ組成物であって、前記水と、水を溶解し20℃における蒸気圧が0.5mmHg以上の有機溶剤と、該20℃における蒸気圧が0.5mmHg以上の有機溶剤を溶解し20℃における蒸気圧が0.1mmHg以下の有機溶剤の合計が、インキ組成物全質量に対し、20〜75質量%であるとともに、前記水の含有量がインキ組成物全質量に対し、2.0〜15.0質量%であることを特徴とする油性ボールペン用インキ組成物。
【請求項2】
前記水と、水を溶解し20℃における蒸気圧が0.5mmHg以上の有機溶剤と、該20℃における蒸気圧が0.5mmHg以上の有機溶剤を溶解し20℃における蒸気圧が0.1mmHg以下の有機溶剤の合計が、インキ組成物全質量に対し、35〜65質量%であることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
【請求項3】
前記20℃における蒸気圧が0.5mmHg以上の有機溶剤を、インキ組成物全質量に対し、3.0〜30.0質量%含有したことを特徴とする請求の範囲第1項又は第2項に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
【請求項4】
前記20℃における蒸気圧が0.1mmHg以下の有機溶剤を、インキ組成物全質量に対し、10.0〜40.0質量%含有したことを特徴とする請求の範囲第1項又は第2項に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
【請求項5】
20℃におけるインキ粘度が、100〜5,000mPa・sである、請求の範囲第1項から第4項のうちいずれか一に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
【請求項6】
水と、水を溶解し20℃における蒸気圧が0.5mmHg以上の有機溶剤と、該20℃における蒸気圧が0.5mmHg以上の有機溶剤を溶解し20℃における蒸気圧が0.1mmHg以下の有機溶剤の合計が20〜75質量%、水が2.0〜15.0質量%の範囲内で、油溶性染料と、水と、水を溶解し20℃における蒸気圧が0.5mmHg以上の有機溶剤と、該20℃における蒸気圧が0.5mmHg以上の有機溶剤を溶解し20℃における蒸気圧が0.1mmHg以下の有機溶剤とをそれぞれ0でない所定の割合で配合し、混合することを特徴とする油性ボールペン用インキ組成物の製造方法。
【請求項7】
前記油溶性染料と、20℃における蒸気圧が0.5mmHg以上の有機溶剤を溶解し20℃における蒸気圧が0.1mmHg以下の有機溶剤とを混合して比較的高温で攪拌し、得られた混合物に、前記水と、水を溶解し20℃における蒸気圧が0.5mmHg以上の有機溶剤とを混合して比較的低温で攪拌することを特徴とする請求の範囲第6項に記載の油性ボールペン用インキ組成物の製造方法。
【請求項8】
先端にボールペンチップが装着されたインキ収容筒に請求の範囲第1項から第5項のうちいずれか一に記載の油性ボールペン用インキ組成物が充填され、該油性ボールペン用インキ組成物の後端にインキ追従体が充填され、前記インキ収容筒の側壁の水蒸気透過度が25℃、90%RHにおいて2.0g/m・24hr以下であることを特徴とするボールペンレフィール。
【請求項9】
先端にボールペンチップが装着されたインキ収容筒に請求の範囲第1項から第5項のうちいずれか一に記載の油性ボールペン用インキ組成物が充填され、該油性ボールペン用インキ組成物の後端にインキ追従体が充填され、前記インキ収容筒の側壁が金属材料により構成されたボールペンレフィール。
【請求項10】
先端にボールペンチップが装着されたインキ収容筒に請求の範囲第1項から第5項のうちいずれか一に記載の油性ボールペン用インキ組成物が充填され、該油性ボールペン用インキ組成物の後端にインキ追従体が充填され、前記インキ収容筒の側壁が、厚さ25μm、25℃、90%RHにおける水蒸気透過度が2.0g/m・24hr以下である樹脂材料により厚さ50μm以上にされてなるボールペンレフィール。

【国際公開番号】WO2004/072196
【国際公開日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【発行日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−504959(P2005−504959)
【国際出願番号】PCT/JP2004/001328
【国際出願日】平成16年2月9日(2004.2.9)
【出願人】(303022891)株式会社パイロットコーポレーション (647)
【Fターム(参考)】