説明

油性成分含有マイクロカプセルの製造方法

【課題】多糖類水溶液やゲル化剤水溶液に溶解しない油性成分をゲル化多糖類薄膜によりカプセル化する方法において、カプセル中の油性成分の含有率を均一にすることのできる、油性成分含有マイクロカプセルの製造方法を提供する。
【解決手段】ゲル化剤水溶液を油性成分中に分散させて(W/O)一次分散系を調製する工程と、この(W/O)一次分散系を多糖類水溶液中に分散させて(W/O)/W二次分散系を調製する工程と、この(W/O)/W二次分散系を維持して油性成分の液滴表面にゲル化多糖類薄膜を形成させる工程とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油性成分含有マイクロカプセルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロカプセルの製造方法の1つとして、ゲル化多糖類薄膜によりカプセル化する方法が知られており、例えば、多糖類水溶液とゲル化剤水溶液とを直接接触させて多糖類をゲル化させる液中硬化法と呼ばれる方法が知られている。しかし、この方法では、カプセル化される物質が、多糖類水溶液やゲル化剤水溶液に溶解する物質に限定される。
【0003】
これに対して、多糖類水溶液やゲル化剤水溶液に溶解しない油性成分をカプセル化する方法として、油性成分が分散している多糖類水溶液を噴霧や滴下してゲル化剤水溶液と接触、又はゲル化剤水溶液を噴霧や滴下して多糖類水溶液と接触させて、多糖類をゲル化させることにより油性成分をカプセル化する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−98671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この方法では、芯物質として包含される油性成分が複数の微粒子状に分散した多核型のカプセルが形成されたり、これとは反対に、油性成分が全く包含されないカプセルが形成されたりして、必然的にカプセル中の油性成分の含有率が不均一となってしまうという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は上記問題点に鑑み、多糖類水溶液やゲル化剤水溶液に溶解しない油性成分をゲル化多糖類薄膜によりカプセル化する方法において、カプセル中の油性成分の含有率を均一にすることのできる、油性成分含有マイクロカプセルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を達成するため種々検討した結果、ゲル化剤水溶液を油性成分中に分散させて(W/O)一次分散系を調製し、この(W/O)一次分散系を多糖類水溶液中に分散させて(W/O)/W二次分散系を調製して所定時間維持することにより、油性成分中に分散しているゲル化剤の水滴からゲル化剤が油性成分中を拡散して多糖類水溶液と接触し、油性成分の液滴表面にゲル化多糖類薄膜が形成されてカプセル化がなされることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明の油性成分含有マイクロカプセルの製造方法は、ゲル化剤水溶液を油性成分中に分散させて(W/O)一次分散系を調製する工程と、この(W/O)一次分散系を多糖類水溶液中に分散させて(W/O)/W二次分散系を調製する工程と、この(W/O)/W二次分散系を維持して油性成分の液滴表面にゲル化多糖類薄膜を形成させる工程とを備えたことを特徴とする。
【0009】
また、ゲル化剤水溶液が水溶性の生理活性物質を含み、油性成分が油溶性の生理活性物質を含むことを特徴とする。
【0010】
さらに、(W/O)/W二次分散系を調製する工程において、攪拌速度を調整することによりマイクロカプセル径を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、最終的に生成される全てのマイクロカプセルの構造は、単一の油性成分の液滴からなる単核型となり、油性成分のカプセル化効率は必然的に100%となる。したがって、多糖類水溶液やゲル化剤水溶液に溶解しない油性成分をゲル化多糖類薄膜によりカプセル化する方法において、カプセル中の油性成分の含有率を均一にすることができる。
【0012】
また、水溶性の生理活性物質を含むゲル化剤水溶液と、油溶性の生理活性物質を含む油性成分を用いることにより、水溶性と油溶性の複数の生理活性物質を同時に包含したマイクロカプセルを調製することできる。
【0013】
さらに、(W/O)/W二次分散系を調製するときの攪拌速度を調整することで、簡単にマイクロカプセル径を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(W/O)一次分散系及び(W/O)/W二次分散系の模式図である。
【図2】油性成分の液滴表面に多糖類のゲル化薄膜が形成される機構を示す模式図である。
【図3】実施例2において、(W/O)/W二次分散系を調製するときの攪拌速度を変化させたときのマイクロカプセルの粒径、カプセル化率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の油性成分含有マイクロカプセルの製造方法について、添付した図面を参照しながら説明する。
【0016】
本発明の油性成分含有マイクロカプセルの製造方法は、ゲル化剤水溶液を油性成分中に分散させて(W/O)一次分散系を調製する工程と、この(W/O)一次分散系を多糖類水溶液中に添加して(W/O)/W二次分散系を調製する工程と、この(W/O)/W二次分散系を維持しながら油性成分の液滴表面に多糖類のゲル化薄膜を形成させる工程とを備えたものである。
【0017】
はじめに、ゲル化剤水溶液を油性成分中に分散させて(W/O)一次分散系を調製する工程において、油性成分にゲル化剤水溶液を注入して撹拌することにより、(W/O)一次分散系を調製する。図1の左側に、調製された(W/O)一次分散系の模式図を示す。油性成分1中にゲル化剤水溶液の水滴2が分散している。
【0018】
ここで、例えば、撹拌にホモジナイザーを用いることにより、油性成分中に直径が1μm〜数十μmのゲル化剤水溶液の水滴が分散した(W/O)一次分散系を容易に調製することができる。
【0019】
油性成分としては、特定のものに限定されず、例えば、ユーカリ油、ビタミンE、リモネン、その他の油脂類などを用いることができる。また、ゲル化剤としては、後の工程で用いられる多糖類と反応して多糖類をゲル化する作用を有するものが用いられ、ゲル化剤と多糖類の組み合わせとしては、タンニン酸/メチルセルロース、塩化カルシウム/アルギン酸ソーダ、塩化カルシウム/ペクチン、塩化カルシウム/ジェランガム、カルボキシメチルセルロース/キトサンなどが使用可能である。
【0020】
なお、ゲル化剤水溶液が水溶性の生理活性物質を含んでいてもよく、また、油性成分が油溶性の生理活性物質を含んでいてもよい。水溶性の生理活性物質としては、例えば、L−アスコルビン酸などの水溶性のビタミン類、ポリフェノール類、コラーゲン、キノン類、グリコール類など、油溶性の生理活性物質としては、例えば、コエンザイムQ10などの油溶性のビタミン類、カロチノイド、リグナン類などを用いることができる。ゲル化剤水溶液に水溶性の生理活性物質を含有させ、油性成分に油溶性の生理活性物質を含有させることにより、後の工程を経て、水溶性と油溶性の複数の生理活性物質を同時に包含したマイクロカプセルを調製することが可能となる。
【0021】
つぎに、上記の工程で得られた(W/O)一次分散系を多糖類水溶液中に分散させて(W/O)/W二次分散系を調製する工程において、多糖類水溶液中に(W/O)一次分散系を注入して撹拌することにより、(W/O)/W二次分散系を調製する。図1の右側に、調製された(W/O)/W二次分散系の模式図を示す。多糖類水溶液3中に、油性成分1中にゲル化剤水溶液の水滴2が分散した(W/O)一次分散系が分散している。
【0022】
ここで、撹拌には、インペラーなどを用いることができる。多糖類としては、前述のゲル化剤によりゲル化するものが用いられる。
【0023】
なお、この(W/O)/W二次分散系を調製する工程において、攪拌速度を調整することによりマイクロカプセル径を数μm〜数百μmの範囲で制御することができる。
【0024】
さらに、上記の工程で得られた(W/O)/W二次分散系を維持しながら油性成分の液滴表面に多糖類のゲル化薄膜を形成させる工程において、(W/O)/W二次分散系の撹拌を継続することにより、油性成分の液滴表面に多糖類のゲル化薄膜を形成させる。
【0025】
図2に、油性成分の液滴表面に多糖類のゲル化薄膜が形成される機構を示す。油性成分1中に分散しているゲル化剤水溶液の水滴2に含まれるゲル化剤5が油性成分1中を拡散して、油性成分1の液滴表面において、ゲル化剤5が多糖類水溶液3中の多糖類6と接触、反応して多糖類のゲル化薄膜4が形成される。そして、この油性成分1の液滴表面に形成された多糖類のゲル化薄膜4により油性成分1の液滴がカプセル化される。すなわち、多糖類のゲル化薄膜4がマイクロカプセルのシェルとなる。
【0026】
このようにして得られたマイクロカプセルは、単一の油性成分を芯物質とした単核型となり、油性成分のカプセル化効率は必然的に100%となり、カプセル中の油性成分の含有率は均一となる。そして、このマイクロカプセルは、多糖類のゲル化薄膜によりカプセル化されており、長期にわたって安定である。
【0027】
以上のように、本発明の油性成分含有マイクロカプセルの製造方法は、ゲル化剤水溶液を油性成分中に分散させて(W/O)一次分散系を調製する工程と、この(W/O)一次分散系を多糖類水溶液中に分散させて(W/O)/W二次分散系を調製する工程と、この(W/O)/W二次分散系を維持しながら油性成分の液滴表面に多糖類のゲル化薄膜を形成させる工程とを備えたものであり、最終的に生成される全てのマイクロカプセルの構造は、単一の油性成分の液滴からなる単核型となり、油性成分のカプセル化効率は必然的に100%となる。したがって、多糖類水溶液やゲル化剤水溶液に溶解しない油性成分をゲル化多糖類薄膜によりカプセル化する方法において、カプセル中の油性成分の含有率を均一にすることができる。
【0028】
また、ゲル化剤水溶液が水溶性の生理活性物質を含み、油性成分が油溶性の生理活性物質を含むものであり、水溶性の生理活性物質を含むゲル化剤水溶液と、油溶性の生理活性物質を含む油性成分を用いることにより、水溶性と油溶性の複数の生理活性物質を同時に包含したマイクロカプセルを調製することできる。
【0029】
さらに、(W/O)/W二次分散系を調製する工程において、攪拌速度を調整することによりマイクロカプセル径を制御するものであり、(W/O)/W二次分散系を調製するときの攪拌速度を調整することで、簡単にマイクロカプセル径を制御することができる。
【0030】
本発明の油性成分含有マイクロカプセルの製造方法は、油性成分の種類及び油性成分中に同時に包含される水溶性の生理活性物質を選択することにより、水系分散系を利用形態とする医薬品分野、農業品分野、化粧品分野、文房具類分野、食品分野、塗料・接剤分野などで利用可能である。
【0031】
以下、具体的な実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0032】
油性成分としてユーカリ油、ゲル化剤としてタンニン酸、多糖類としてメチルセルロースを用いて、室温においてマイクロカプセルを調製した。
【0033】
ユーカリ油10cm中に、1.0mol/lのタンニン酸水溶液3cmを注入して、ホモジナイザーを用いて攪拌速度5000rpmで3分間攪拌することにより、直径が1μm〜数十μmの水滴が分散した(W/O)一次分散系を調製した。
【0034】
この(W/O)一次分散系を、1.0質量%のメチルセルロース水溶液100cm中に注入して、直径5.0cmの6枚羽根ディスクタービン型インペラーを用いて攪拌速度200rpmで攪拌することにより、(W/O)/W二次分散系を調製した。
【0035】
この(W/O)/W二次分散系を攪拌したまま30分間維持することにより、ユーカリ油を芯物質とし、ゲル化したメチルセルロース薄膜をシェルとした、単核型のマイクロカプセルが得られた。このマイクロカプセルは数ヶ月以上の長期にわたり安定であった。
【実施例2】
【0036】
(W/O)/W二次分散系を調製する時の攪拌速度を変化させたほかは、実施例1と同じ条件でマイクロカプセルを調製した。そして、実体顕微鏡写真により、最終的に得られたマイクロカプセルの粒径を測定した。
【0037】
その結果、図3に示すように、撹拌速度を300rpmから600rpmに変化させると、マイクロカプセルの粒径は、150μmから30μmに変化し、撹拌速度を上げるにしたがってマイクロカプセルの粒径が小さくなった。この結果より、(W/O)/W二次分散系を調製するときの攪拌速度を調整することで、最終的に得られるマイクロカプセルの粒径を数μm〜数百μmの範囲で制御することができることがわかった。
【0038】
また、油性成分のカプセル化効率は、撹拌速度によらずほぼ100%であった。なお、カプセル化効率とは、原料として使用した油性成分に対するカプセル中の油性成分の割合をいう。
【実施例3】
【0039】
ユーカリ油に、油溶性のコエンザイムQ10を500mg溶解し、また、タンニン酸水溶液にL−アスコルビン酸500mgを溶解させたほかは、実施例1と同じ条件でマイクロカプセルを調製した。
【0040】
水溶性のL−アスコルビン酸と油溶性のユーカリ油とコエンザイムQ10を同時にカプセル化することができた。
【実施例4】
【0041】
ユーカリ油の代わりにビタミンEとリモネンを用いたほかは、実施例1と同じ条件でマイクロカプセルを調製した。
【0042】
ビタミンEとリモネンを芯物質としたマイクロカプセルが得られた。
【実施例5】
【0043】
ゲル化剤と多糖類の組み合せとして、塩化カルシウム/アルギン酸ソーダ、塩化カルシウム/ペクチン、塩化カルシウム/ジェランガム、カルボキシメチルセルロース/キトサンをそれぞれ用いたほかは、実施例1と同じ条件でマイクロカプセルを調製した。
【0044】
いずれのゲル化剤と多糖類の組み合わせにおいても、ユーカリ油を芯物質としたマイクロカプセルが得られた。
【実施例6】
【0045】
ユーカリ油に複数の油溶性の生理活性物質(コエンザイムQ10、カロチノイド、リグナン類など)を溶解させ、タンニン酸水溶液に種々の水溶性の生理活性物質(L−アスコルビン酸、キノン類、グリコール類など)を溶解させたほかは、実施例1と同じ条件でマイクロカプセルを調製した。
【0046】
複数の油溶性及び水溶性の生理活性物質を包含したマイクロカプセルが得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲル化剤水溶液を油性成分中に分散させて(W/O)一次分散系を調製する工程と、この(W/O)一次分散系を多糖類水溶液中に分散させて(W/O)/W二次分散系を調製する工程と、この(W/O)/W二次分散系を維持して油性成分の液滴表面にゲル化多糖類薄膜を形成させる工程とを備えたことを特徴とする油性成分含有マイクロカプセルの製造方法。
【請求項2】
ゲル化剤水溶液が水溶性の生理活性物質を含み、油性成分が油溶性の生理活性物質を含むことを特徴とする請求項1記載の油性成分含有マイクロカプセルの製造方法。
【請求項3】
(W/O)/W二次分散系を調製する工程において、攪拌速度を調整することによりマイクロカプセル径を制御することを特徴とする請求項1又は2記載の油性成分含有マイクロカプセルの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−45820(P2011−45820A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−195485(P2009−195485)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)
【Fターム(参考)】