説明

油揚げの製造方法

【課題】超音波処理によるキャビテーションを利用して均一に溶存空気を含有した豆腐生地を生成し、その豆腐生地を油で揚げることによって、なめらかな組織を備えた油揚げを製造する。
【解決手段】豆乳に超音波処理を施すことによりキャビテーションを発生させ、そのキャビテーションによって豆乳中に微細気泡を含有させ、その微細気泡を含有した豆乳に凝固剤を添加して豆腐生地を生成し、その豆腐生地を油で揚げることによって製造する。また、豆乳の底面に超音波処理を施すことによりキャビテーションを発生させ、豆乳の底面から微細気泡によるエアレーションを発生させる方法を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油揚げの製造方法に関し、特に、超音波処理によるキャビテーションを利用して均一に溶存空気を含有した豆腐生地を生成し、その豆腐生地を油で揚げることによって、なめらかな組織を備えた油揚げを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
油揚げは、一般的に豆乳に凝固剤を加えて、タンパク質を凝集させた後、圧搾して水を切り油揚げ用の生地として、これを低温の油で膨張させた後、高温の油でからしを行い製造する。油揚げ用生地のみに限らず、豆腐を製造する際には呉汁もしくは豆乳の加熱温度及び時間によるタンパク質の変性、また豆乳中の溶存空気が深く関与している。加熱温度が高く長すぎた場合、伸びが悪く、硬い油揚げが出来る。逆に加熱温度が低い場合、へたりやちぢみが多くみられるなどの問題が生じる。油揚げ用生地を低温で揚げる際に起こる膨張は、豆乳中の溶存空気が深く関与しており、溶存空気量が少ない場合は、膨張が遅く、均一な組織の油揚げができない。そのため、呉汁の加熱温度を95℃前後と低めにし(若炊き)、加熱後の呉汁に加水し(戻し水)、溶存空気量を高める等の操作が油揚げ用豆乳に常用されている。しかし、戻し水を加える場合、圧搾時間の長期化による生産性の低下、圧搾不足による生地強度低下による歩留まりの低下などの問題が生じる。
上記問題解決のために、特開昭52−38052号公報、特開平5−137529号公報、特開平10−127248号公報、特開2002−223718号公報で、豆乳中への空気の送給、溶存、分散による方法が取られているが、十分な効果は得られていない。
【特許文献1】特開昭52−38052号公報
【特許文献2】特開平5−137529号公報
【特許文献3】特開平10−127248号公報
【特許文献4】特開2002−223718号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は係る従来の問題点を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、超音波処理によるキャビテーションを利用して均一に溶存空気を含有した豆腐生地を生成し、その豆腐生地を油で揚げることによって、なめらかな組織を備えた油揚げを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記目的を達成するための手段として、請求項1記載の油揚げの製造方法では、豆乳に超音波処理を施すことによりキャビテーションを発生させ、そのキャビテーションによって豆乳中に微細気泡を含有させ、その微細気泡を含有した豆乳に凝固剤を添加して豆腐生地を生成し、その豆腐生地を油で揚げることによって製造する。
【0005】
請求項2記載の油揚げの製造方法では、豆乳に超音波処理を施すことによりキャビテーションを発生させ、そのキャビテーションの発生と共に豆乳に凝固剤を添加して撹拌し、その凝固剤を添加して得られた豆腐生地を油で揚げることによって製造する。
【0006】
請求項3記載の油揚げの製造方法では、豆乳の底面に超音波処理を施すことによりキャビテーションを発生させ、豆乳の底面から微細気泡によるエアレーションを発生させる方法とした。
【発明の効果】
【0007】
前記構成を採用したことにより、本発明では次の効果を有する。
豆乳に超音波による高周波の振動処理を施すため、プロペラ等の回転によるキャビテーションに比べて、均一の微細気泡が形成される。
そのため、豆乳中に微細気泡が均一に混入され、この豆乳を原料とする豆腐に溶存空気が均一に分散される。そして、この豆腐を原料とする油揚げは、組織が均一でありなめらかとなる。
また、豆乳に超音波処理を施すことによりキャビテーションを発生させ、そのキャビテーションの発生と共に豆乳に凝固剤を添加して撹拌する方法としたので、豆乳中に発生した微細気泡を逃がさずに液状成分中に分散している状態で凝固させることができる。
また、豆乳の底面に超音波処理を施すことによりキャビテーションを発生させ、豆乳の底面から微細気泡によるエアレーションを発生させる方法としたので、豆乳全体に均一に微細気泡を分散させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面に基づいて本発明の油揚げの製造方法を説明する。
【実施例1】
【0009】
第1実施例に係る油揚げの製造方法を説明する。
生大豆を水洗して、水に浸漬した後、加水しながら磨砕して、これを蒸煮釜で加熱した。これを絞り機で圧搾して、オカラを分離し、Brix5%の豆乳を得た。
この豆乳1.8kgに、周波数20KH±3KHで数十秒間の超音波処理を行う。
この超音波処理は、容器に収容した豆乳中に上から超音波振動子を挿入して、数十秒の照射を行い、挿入位置をそれぞれ変えながら数回に分けて豆乳全体にキャビテーションが発生するように行う。
あるいは、豆乳を収容した容器の下面に超音波発生部を設置して、下面から超音波を照射することにより行う。これにより、微細気泡が豆乳の底面から発生して、エアレーションのような状態となって、豆乳中を上昇する。そのため、豆乳中に均一に微細気泡が分散することになる。
この他、キャビテーションの発生方法については、部分的に超音波を照射して豆乳を撹拌しながら全体に微細気泡を分散させる方法を採用することもできる。
本発明に使用する超音波装置の一例としては、超音波分散機UH−50(株式会社エスエムテー社製)を使用することができる。
【0010】
前記超音波処理によってキャビテーションによる微細気泡が豆乳中に分散する。そして、キャビテーションの衝撃により、豆乳中に含まれる大きな気泡は分解して排除され、豆乳中の凝集成分も分解されて液状成分もなめらかとなり、そのなめらかな液状成分中に微細気泡が均一に保持される。
次に、超音波処理を停止し、微細気泡を含有した状態で凝固剤を加えて撹拌し、微細気泡を均一に含有した豆腐を製造した。
前記豆腐をプレス処理して余分な水分を除去し、油揚用豆腐生地を得た。これをロールカッターで所定の大きに裁断する。裁断後の豆腐を、110℃で5分間、大豆油にてフライした後、さらに、170℃で5分間フライして、油揚げを製造した。
この油揚げは、部分的な皮の硬化がなく、柔らかくきめの細かい組織によって形成されていることが確認された。
【0011】
次に、図1は本発明によって製造した油揚げ(a)と従来の油揚げ(b)の比較を示す図である。
図1(a)は本発明の製造方法によって得られた油揚げであり、(b)は従来の油揚げの写真である。
この(a)(b)を比較すると、本発明の製造方法によって得られた油揚げの組織は、気泡の跡が小さく密に形成されていることが確認された。
【0012】
本発明の油揚げを熱湯に浸漬して油抜きを行った後、醤油および砂糖をベースとした調味液をしみ込ませて味付けを行い、酢飯を入れ、いなり寿司を製造し、このいなり寿司について官能検査を実施した結果を表1に示す。
【表1】

表1では、超音波未処理(従来のいなり寿司)と、超音波処理を施したいなり寿司の官能検査の比較を示している。
未処理区を0として、13名にパネル検査を実施した結果、柔らかさ、口溶け感において、超音波処理を施した油揚げが優れていることが確認された。
【0013】
本発明の油揚げを熱湯に浸漬して油抜きを行った後、醤油および砂糖をベースとした調味液をしみ込ませて味付けを行い、引張り突刺し強度を測定した結果を表2に示す。
【表2】

表2では、超音波未処理(従来の味付油揚げ)と、超音波処理を施した味付け油揚げの引っ張り・突刺し強度測定結果の比較を示している。測定にはクリープメーター(山電株式会社製)を使用した。
未処理区を0として、油揚げ30枚に引張り突刺し強度測定を実施した結果、引張り突刺しともに明らかに有意差があり、超音波処理を施した油揚げが未処理のものよりも柔らかさにおいて、優れていることが確認された。
【実施例2】
【0014】
次に、第2実施例に係る油揚げの製造方法を説明する。
第2実施例の油揚げの製造方法は、超音波処理によるキャビテーションの発生と共に豆乳に凝固剤を添加する方法である。
豆乳を第1実施例と同様にして生成した後に超音波処理を行う。
超音波処理の一例としては、豆乳を収容した容器の下面に超音波発生部を設置して、下面から超音波を照射することにより行う。これにより、微細気泡が豆乳の底面から発生して、エアレーションのような状態となって、豆乳中を上昇する。そのため、豆乳中に均一に微細気泡が分散することになる。
ここで、豆乳中に均一に微細気泡が分散したことを確認して、凝固剤を添加する。
そして、凝固剤を全体に撹拌させて、超音波処理を停止する。
超音波処理を停止する時期は、豆乳の濃度・粘度、凝固剤の添加量・種類等に応じて適宜設定されるが、凝固剤が全体に撹拌した時点、あるいは、凝固剤が全体に撹拌した後に、数秒〜数十秒経過した時点で停止させる。
これにより、微細気泡を逃がさずに液状成分中に分散している状態で凝固させることができる。
このようにした得られた豆腐を、第1実施例と同様にプレス処理して余分な水分を除去する。そして、ロールカッターで所定の大きに裁断する。裁断後の豆腐を、110℃で5分間、大豆油にてフライした後、さらに、170℃で5分間フライして、油揚げを製造した。
この油揚げは、部分的な皮の硬化がなく、柔らかくきめの細かい組織によって形成されていることが確認された。
【0015】
以上、実施例を説明したが、本発明の具体的な構成は前記実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても本発明に含まれる。
例えば、超音波発生機の機種・出力等については、豆乳の量・種類等に応じて設定されるが、高周波の振動により豆乳中に微細気泡を発生させる装置であれば使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明によって製造した油揚げ(a)と従来の油揚げ(b)の比較を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
豆乳に超音波処理を施すことによりキャビテーションを発生させ、そのキャビテーションによって豆乳中に微細気泡を含有させ、その微細気泡を含有した豆乳に凝固剤を添加して豆腐生地を生成し、その豆腐生地を油で揚げることによって製造する油揚げの製造方法。
【請求項2】
豆乳に超音波処理を施すことによりキャビテーションを発生させ、そのキャビテーションの発生と共に豆乳に凝固剤を添加して撹拌し、その凝固剤を添加して得られた豆腐生地を油で揚げることによって製造する油揚げの製造方法。
【請求項3】
豆乳の底面に超音波処理を施すことによりキャビテーションを発生させ、豆乳の底面から微細気泡によるエアレーションを発生させる方法とした請求項1又は2記載の油揚げの製造方法。

【図1】
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