説明

油脂組成物

【課題】ジアシルグリセロール含量の高い油脂組成物特有の抗肥満効果を有しつつ、加熱調理しても異臭や刺激臭といった不快臭を発生しない、加熱安定性に優れた油脂組成物を提供する。
【解決手段】構成脂肪酸中の不飽和脂肪酸含量が80質量%以上、かつオレイン酸含量が80〜95質量%であるジアシルグリセロールを65質量%以上含有する油脂(A)を含有する油脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジアシルグリセロール含量の高い加熱調理用油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
世の中の健康指向を背景に、油脂中の脂肪酸の機能について、多数の研究がなされてきている。例えば、飽和脂肪酸やトランス型不飽和脂肪酸の健康への影響について報告がある(非特許文献1、2参照)。
また、ω3系脂肪酸であるα−リノレン酸、リノール酸といった特定の脂肪酸含量の高いジアシルグリセロールを含む油脂が、生理効果があるものとして知られている(特許文献1〜3参照)。
【0003】
ところが、炭素鎖中に3個の炭素−炭素二重結合を有するα−リノレン酸は酸化され易く、また加熱安定性もあまり高いとはいえない。そこで、加熱安定性を向上させるために、オレイン酸含量の高い菜種油とリノレン酸をある程度含む大豆油を組み合わせるという技術(特許文献4)や、オレイン酸とリノール酸を中心とした脂肪酸組成とする技術(特許文献5)等がある。更に、オレイン酸高含有油脂がLDL−コレステロールを低下させ、HDL−コレステロールを低下させないという研究結果もある(非特許文献3)。
【特許文献1】国際公開第01/109899号パンフレット
【特許文献2】国際公開第02/11552号パンフレット
【特許文献3】欧州公開第0679712号明細書
【特許文献4】特開平10−191885号公報
【特許文献5】特開2003−158999号公報
【非特許文献1】“The New England Journal of Medicine”,USA,the Massachusetts Medical Society,1999年、340巻、25号、p.1933−1940
【非特許文献2】U.S.FDA、“Questions and Answers about Trans Fat Nutrition Labeling”、[online]、インターネット<URL:http://www.cfsan.fda.gov/〜dms/qatrans 2.html>
【非特許文献3】「予防医学と油脂の役割」 油化学、第40巻、第10号(1991年)、p.815−821
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の技術において、前述の加熱安定性を訴求したものは、オレイン酸を高比率としつつも、リノール酸又はリノレン酸の含有量もある程度の範囲とし、健康効果とのバランスを考慮したものとなっている。しかし、その結果、加熱安定性についてはある程度の犠牲が払われている。
よって、本発明の目的は、生理効果と加熱安定性を高レベルで達成する加熱調理用油脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らが検討したところ、抗肥満効果等の生理効果のあるジアシルグリセロールにおいて、構成脂肪酸中のオレイン酸比率を高くした場合に、ジアシルグリセロール特有の抗肥満効果を保ちつつ、かつ同じ構成脂肪酸としたトリアシルグリセロールと比較して、加熱安定性が極めて高くなることを見出した。
【0006】
即ち、本発明は、構成脂肪酸中の不飽和脂肪酸含量が80質量%以上、かつオレイン酸含量が80〜95質量%であるジアシルグリセロールを65質量%以上含有する油脂(A)を含有する加熱調理用油脂組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ジアシルグリセロール含量の高い油脂組成物特有の抗肥満効果を有しつつ、加熱調理しても異臭や刺激臭といった不快臭の発生が少ない、加熱安定性に優れた油脂組成物とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の態様において、加熱調理用油脂組成物で使用される油脂(A)は、ジアシルグリセロール(DG)を65質量%(以下、単に%で示す)以上含有するが、65〜95%含有するのが好ましく、より好ましくは70〜93%、特に80〜90%含有するのが生理効果、油脂の工業的生産性、外観の点で好ましい。
【0009】
本発明の態様において、油脂(A)に含まれるジアシルグリセロールは、その構成脂肪酸の80〜100%が不飽和脂肪酸であるが、好ましくは90〜100%、更に93〜100%、特に93〜98%、殊更94〜98%であるのが外観、生理効果、油脂の工業的生産性の点でよい。ここで、この不飽和脂肪酸の炭素数は14〜24、更に16〜22であるのが好ましい。
【0010】
ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸のうち、オレイン酸の含有量は80〜95%であることが必要である。また、オレイン酸の含有量は、更に83〜93%、特に85〜90%であるのが、抗肥満効果、脂肪酸の摂取バランス、加熱安定性の点で好ましい。
【0011】
ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸のうちリノール酸の含有量は、好ましくは0〜20%、更に1〜15%、特に2〜10%であるのが外観、脂肪酸の摂取バランスの点で望ましい。更に、酸化安定性、生理効果の点から、ジアシルグリセロール中のリノール酸/オレイン酸の含有質量比が、好ましくは0〜0.25、更に0.01〜0.2、特に0.02〜0.1であることが望ましい。
【0012】
ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸のうちリノレン酸の含有量は、好ましくは5%未満、更に0〜2%、特に0.05〜0.5%であるのが外観、脂肪酸の摂取バランス、加熱安定性の点で望ましい。リノレン酸には、異性体としてα−リノレン酸とγ−リノレン酸が知られているが、α−リノレン酸が好ましい。
【0013】
ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸のうち、飽和脂肪酸の含有量は20%未満であるが、0〜10%、更に0〜7%、特に2〜7%、特に2〜6%であるのが、外観、生理効果、油脂の工業的生産性の点から好ましい。飽和脂肪酸としては、炭素数14〜24、特に16〜22のものが好ましく、パルミチン酸、ステアリン酸が特に好ましい。
【0014】
ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸のうち、トランス不飽和脂肪酸の含有量は、0〜4%、好ましくは0.1〜3.5%、更に0.2〜3%であるのが風味、生理効果、外観、油脂の工業的生産性の点で好ましい。
【0015】
ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸のうち、共役不飽和脂肪酸の含有量は1%以下であるが、好ましくは0.01〜0.9%、更に0.1〜0.8%、特に0.2〜0.75%、特に0.3〜0.7%であるのが風味、生理効果、外観、油脂の工業的生産性の点で好ましい。
【0016】
ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中、炭素数12以下の脂肪酸の含有量は、風味の点で5%以下であるのが好ましく、更に0〜2%、特に0〜1%、実質的に含まないのが更に好ましい。残余の構成脂肪酸は炭素数14〜24、特に16〜22であるのが好ましい。
【0017】
また、生理効果、保存性、油脂の工業的生産性及び風味の点から、ジアシルグリセロール中の1,3−ジアシルグリセロールの割合が50%以上、より好ましくは52〜100%、更に54〜90%、特に56〜80%であるジアシルグリセロールを用いるのが好ましい。
【0018】
本発明の態様において、加熱調理用油脂組成物で使用される油脂(A)は、トリアシルグリセロールを4.9〜34.9%、更に6.9〜29.9%、特に9.8〜19.8%含有するのが生理効果、油脂の工業的生産性、外観の点で望ましい。
【0019】
本発明の態様において、油脂(A)に含まれるトリアシルグリセロールの構成脂肪酸はジアシルグリセロールと同じ構成脂肪酸であることが、生理効果、油脂の工業的生産性の点で好ましい。
【0020】
本発明の態様において、加熱調理用油脂組成物で使用される油脂(A)は、モノアシルグリセロールを5%以下、更に0.1〜5%、更に0.1〜2%、特に0.1〜1.5%、特に0.1〜1.3%、殊更0.2〜1%含有するのが風味、外観、加熱安定性、発煙、油脂の工業的生産性等の点で好ましい。電子レンジ調理により加熱されやすいという点でモノアシルグリセロールは0.1%以上含有するのが好ましく、電子レンジ調理中の発煙等安全性の点から5%以下が好ましい。また、風味の点からはモノアシルグリセロールは実質的に含まれないことが好ましい。モノアシルグリセロールの構成脂肪酸はジアシルグリセロールと同じ構成脂肪酸であることが、油脂の工業的生産性の点で好ましい。
【0021】
また、本発明の態様において、油脂(A)に含まれる遊離脂肪酸(塩)含量は5%以下に低減されるのが好ましく、より好ましくは0〜3.5%、更に0〜2%、特に0.01〜1%、殊更0.05〜0.5%とするのが風味、加熱安定性、発煙防止、油脂の工業的生産性の点で好ましい。
【0022】
本発明の態様において、油脂(A)を構成する全脂肪酸中、炭素−炭素二重結合を4つ以上有する脂肪酸の含有量は、酸化安定性、加熱安定性、作業快適性、生理効果、着色、風味等の点で0〜20%が好ましく、更に0〜10%、特に0〜5%、殊更0〜1%であるのがよく、実質的に含まないのが更に好ましい。
【0023】
本発明の態様において、油脂(A)を構成する全脂肪酸のうち、トランス不飽和脂肪酸の含有量は0〜4%であることが好ましく、更に0.1〜3.5%、特に0.2〜3%であるのが風味、生理効果、外観、油脂の工業的生産性の点で好ましい。
本発明においては、トランス不飽和脂肪酸は、AOCS法(American Oil Chem.Soc.Official Method:Ce1f−96、2002年)で測定した値のことである。
【0024】
本発明の態様において、油脂(A)を構成する全脂肪酸のうち、共役不飽和脂肪酸の含有量は1%以下であることが好ましく、更に0.01〜0.9%、更に0.1〜0.8%、特に0.2〜0.75%、殊更0.3〜0.7%であるのが風味、生理効果、外観、油脂の工業的生産性の点で好ましい。共役不飽和脂肪酸のうち、共役ジエン不飽和脂肪酸の含量は0.85%以下であるのが好ましく、更に0.01〜0.8%、特に0.1〜0.75%、特に0.2〜0.7%であるのが風味、油脂の工業的生産性の点で好ましい。共役不飽和脂肪酸のうち、共役トリエン不飽和脂肪酸の含量は0.1%以下であるのが好ましく、更に0.001〜0.09%、特に0.002〜0.05%、特に0.005〜0.02%であるのが風味、油脂の工業的生産性の点で好ましい。共役テトラエン不飽和脂肪酸及び、共役ペンタエン不飽和脂肪酸は、0.05%以下であるのが好ましく、更に0〜0.01%、特に0〜0.005%、実質的に含まれないことが特に好ましい。
共役不飽和脂肪酸量は、基準油脂分析試験法「共役不飽和脂肪酸(スペクトル法)2.4.3−1996」(日本油化学協会編)に従って定量した値のことをいう。
【0025】
本発明の態様において、油脂(A)の起源としては、植物性油脂、動物性油脂のいずれでもよい。具体的な原料としては、菜種油(キャノーラ油)、ひまわり油、とうもろこし油、大豆油、あまに油、米油、紅花油、綿実油、パーム油、やし油、オリーブ油、ぶどう油、アボガド油、ごま油、落花生油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、くるみ油、豚脂、牛脂、鶏油、バター油、魚油等を挙げることができる。またこれらの油脂を分別、混合したもの、水素添加や、エステル交換反応などにより脂肪酸組成を調整したものも原料として利用できるが、水素添加していないものであることが、油脂(A)を構成する全脂肪酸中のトランス不飽和脂肪酸含量を低減させる点から好ましい。また、生理効果、製品が白濁せず外観が良好となる点から、不飽和脂肪酸含有量が高い植物油が好ましく、中でもハイオレインのひまわり油、ハイオレインの菜種油、ハイオレインの大豆油、ハイオレインの紅花油、ハイオレインのコーン油、ハイオレインのあまに油がより好ましい。
【0026】
本発明の態様において、原料油脂は、それぞれの原料となる植物、又は動物から搾油後、油分以外の固形分をろ過や遠心分離等により除去するのが好ましい。次いで、水、場合によっては更に酸を添加混合した後、遠心分離等によってガム分を分離することにより脱ガムすることが好ましい。また、原料油脂は、アルカリを添加混合した後、水洗することにより脱酸を行うことが好ましい。更に、原料油脂は、活性白土等の吸着剤と接触させた後、吸着剤をろ過等により分離することにより脱色を行うことが好ましい。これらの処理は、以上の順序で行うことが好ましいが、順序を変更しても良い。また、この他に、原料油脂は、ろう分の除去のために、低温で固形分を分離するウインタリングを行っても良い。更に、原料油脂は、減圧下で水蒸気と接触させることにより、脱臭することが好ましい。この際、熱履歴を極力低くすることが油脂のトランス不飽和脂肪酸、共役不飽和脂肪酸を低減する点から好ましい。脱臭工程の条件については、前記と同様の理由から、温度は300℃以下、特に270℃以下にコントロールすることが好ましく、また、時間は10時間以下、特に5時間以下とすることが好ましい。
【0027】
更に、原料油脂としては、脱臭油の他、予め脱臭されていない未脱臭油脂を用いることができる。本発明においては、原料の一部又は全部に、未脱臭油脂を使用するのが、油脂のトランス不飽和脂肪酸、共役不飽和脂肪酸を低減し、原料油脂由来の植物ステロール、植物ステロール脂肪酸エステル、トコフェロールを加熱調理用油脂組成物に残存させることができるので好ましい。
【0028】
本発明の態様において、油脂(A)は、上述した油脂由来の脂肪酸とグリセリンとのエステル化反応、油脂とグリセリンとのエステル交換反応等により得ることができる。反応により生成した過剰のモノアシルグリセロールは分子蒸留法又はクロマトグラフィー法により除去することができる。これらの反応はアルカリ触媒等を用いた化学反応でも行うことができるが、1,3−位選択的リパーゼ等を用いて酵素的に温和な条件で反応を行うのが風味等の点で優れており好ましい。
【0029】
本発明の態様において、油脂(A)を構成する脂肪酸は、原料油脂を加水分解して製造することができる。原料油脂の加水分解は、高圧分解法、及び酵素分解法により行うことができる。当該工程においては、油脂のトランス不飽和脂肪酸や共役不飽和脂肪酸の含有量を低減し、原料油脂由来の植物ステロール、植物ステロール脂肪酸エステルを残存させることができるので、原料油脂の一部又は全部を熱履歴の低い酵素分解法により加水分解することが好ましい。油脂のトランス不飽和脂肪酸含有量の低減のみを目的とするならば、原料油脂の全てを熱履歴の低い酵素分解法により加水分解することが好ましい。しかし、高圧分解法により加水分解する原料油脂の割合を30%以上、更に35〜95%、特に40〜90%とすることが、油脂のトランス不飽和脂肪酸を低減しつつ、かつ風味、及び色相を高品質なものとする点、及び油脂の工業的生産性の点から好ましい。
【0030】
また、原料油脂の加水分解において、高圧分解法、及び酵素分解法を組み合わせて加水分解する方法としては、(w)原料油脂の一部を高圧分解法、他方を酵素分解法とするのみならず、(x)原料油脂の全部を高圧分解法で途中まで加水分解し、その後酵素分解法により加水分解を行う方法、(y)原料油脂の全部を酵素分解法で途中まで加水分解し、その後高圧分解法により加水分解を行う方法、又は(z)原料油脂の一部を前記(x)で、他方を前記(y)で行う方法等が挙げられる。
【0031】
また、原料油脂を構成する脂肪酸のうち、トランス不飽和脂肪酸が既に高いものは、得られる脂肪酸、又は油脂中のトランス不飽和脂肪酸や共役不飽和脂肪酸の含有量を極力増加させない点から、酵素分解法により加水分解することが好ましい。原料油脂を構成する脂肪酸のうち、トランス不飽和脂肪酸が低いものについては、高圧分解法により加水分解することが、工程の効率化、油脂の風味及び色相の点から好ましい。高圧分解法による加水分解に供する原料油脂としては、原料油脂を構成する脂肪酸のうち、トランス不飽和脂肪酸含量が1%以下、より好ましくは0.01〜0.8%、特に0.1〜0.5%であることが好ましい。更に、高圧分解法と酵素分解法を組み合わせて加水分解する場合、原料油脂全体中のトランス不飽和脂肪酸含有量は1.5%以下、好ましくは1%以下、更に好ましくは0.5%以下であることが、最終製品中のトランス不飽和脂肪酸含有量を低減させる点からより好ましい。ここで、トランス不飽和脂肪酸含有量は、油脂を2種以上使用する場合は、それらの合計量中の含有量である。
【0032】
本発明の態様において、脂肪酸とグリセリンをエステル化する方法は、化学合成法、酵素法のいずれでも可能であるが、最終油脂製品中のトランス不飽和脂肪酸含有量を増加させないという点から、酵素法によるのが好ましい。
【0033】
本発明の態様において、エステル化に用いる酵素としては、リパーゼを用いることが好ましいが、特にジアシルグリセロール等の機能性油脂の製造を目的とする場合、選択的にジアシルグリセロールを合成しやすいリゾプス(Rizopus)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ムコール(Mucor)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ジオトリケム(Geotrichum)属、ペニシリウム(Penicillium)属、キャンディダ(Candida)属等が挙げられる。
また、エステル化に用いる酵素は、固定化されたものを用いることが、コストの点から好ましい。
【0034】
本発明の態様において、エステル化を行い製造したグリセリドは、後処理を行うことにより製品とすることができる。後処理は、脱酸(未反応の脂肪酸を除去)、酸処理、水洗、脱臭を行うことが好ましい。脱臭温度は、200〜280℃が好ましい。脱臭時間は、2分から2時間が好ましい。脱臭時の圧力は、0.01〜5kPaが好ましい。脱臭時の水蒸気量は、原料油脂に対して、0.1〜10%が好ましい。
【0035】
本発明の態様において、加熱調理用油脂組成物には、植物ステロール(B)を含有することが好ましい。本発明において、植物ステロールは、植物ステロール脂肪酸エステル(成分(C))と異なり、その水酸基が、脂肪酸とエステル結合せずに遊離状態(遊離体)であるものをいう。本発明の態様において、成分(B)の含有量は、油脂(A)100質量部に対して0.01〜4.7質量部であることが好ましく、更に0.02〜4.6質量部、更に0.03〜4.5質量部、特に0.05〜4.4質量部、殊更0.1〜4.3質量部であるのが、風味、外観、油脂の工業的生産性の点で好ましい。
また、植物ステロール(B)として、植物油由来のものを残存させる場合には、その含有量は、油脂(A)100質量部に対して、0.01〜1.0質量部、好ましくは0.02〜0.5質量部、更に0.03〜0.3質量部、特に0.05〜0.25質量部、殊更0.1〜0.22質量部であるのが、風味、外観、油脂の工業的生産性の点で好ましい。
更に、植物油由来のものの他に別途添加する場合には、成分(B)の含有量は、油脂(A)100質量部に対して、1.0超4.7質量部以下、好ましくは1.2〜4.6質量部、更に2.0〜4.5質量部、特に3.0〜4.4質量部、殊更3.5〜4.3質量部であるのが、風味、外観、油脂の工業的生産性の点で好ましい。
【0036】
本発明の態様において、植物ステロール(遊離体)には、植物スタノール(遊離体)も含まれる。植物ステロール(遊離体)としては、例えばブラシカステロール、イソフコステロール、スチグマステロール、7−スチグマステノール、α−シトステロール、β−シトステロール、カンペステロール、ブラシカスタノール、イソフコスタノール、スチグマスタノール、7−スチグマスタノール、α−シトスタノール、β−シトスタノール、カンペスタノール、シクロアルテノール、コレステロール、アベナステロール等が挙げられる。これら植物ステロールのうち、ブラシカステロール、カンペステロール、スチグマステロール、β−シトステロールが、油脂の工業的生産性、風味の点で好ましい。
植物ステロール中、ブラシカステロール、カンペステロール、スチグマステロール、β−シトステロールの合計含有量は90%以上であるのが好ましく、更に92〜100%、特に94〜99%であるのが、風味、外観、油脂の工業的生産性、結晶析出、低温での保存性、生理効果の点で好ましい。
【0037】
植物ステロール中の、ブラシカステロールの含有量は0.5〜15%であるのが好ましく、更に0.7〜11%、特に3〜10%であるのが、風味、外観、油脂の工業的生産性、結晶析出、低温での保存性、生理効果の点で好ましい。
植物ステロール中の、カンペステロールの含有量は10〜40%であるのが好ましく、更に20〜35%、特に23〜29%であるのが、風味、外観、油脂の工業的生産性、結晶析出、低温での保存性、生理効果の点で好ましい。
植物ステロール中の、スチグマステロールの含有量は3〜30%であるのが好ましく、更に11〜25%、特に17〜24%であるのが、風味、外観、油脂の工業的生産性、結晶析出、低温での保存性、生理効果の点で好ましい。
植物ステロール中の、β−シトステロールの含有量は20〜60%であるのが好ましく、更に30〜56%、特に42〜51%であるのが、風味、外観、油脂の工業的生産性、結晶析出、低温での保存性、生理効果の点で好ましい。
植物ステロール中の、コレステロールの含有量は1%以下であるのが好ましく、更に0.01〜0.8%、特に0.1〜0.7%、特に0.2〜0.6%であるのが、血中コレステロール低下、油脂の工業的生産性の点で好ましい。
【0038】
本発明の態様において、加熱調理用油脂組成物は、植物ステロール脂肪酸エステル(C)を含有することが好ましい。成分(C)の含有量は、油脂(A)100質量部に対して0.1〜8質量部含有することが好ましく、更に0.25〜5質量部、更に0.3〜3質量部、特に0.33〜1質量部、殊更0.35〜0.5質量部含有するのが、風味、外観の点で好ましい。共役酸の生成を抑制するためには0.2質量部以上含有することが好ましい。良好な外観、溶解性を保持するためには8質量部以下であることが好ましい。
【0039】
本発明の態様において、植物ステロール脂肪酸エステルには、植物スタノール脂肪酸エステルも含まれる。植物ステロール脂肪酸エステルとしては、例えばブラシカステロール脂肪酸エステル、イソフコステロール脂肪酸エステル、スチグマステロール脂肪酸エステル、7−スチグマステノール脂肪酸エステル、α−シトステロール脂肪酸エステル、β−シトステロール脂肪酸エステル、カンペステロール脂肪酸エステル、ブラシカスタノール脂肪酸エステル、イソフコスタノール脂肪酸エステル、スチグマスタノール脂肪酸エステル、7−スチグマスタノール脂肪酸エステル、α−シトスタノール脂肪酸エステル、β−シトスタノール脂肪酸エステル、カンペスタノール脂肪酸エステル、シクロアルテノール脂肪酸エステル、コレステロール脂肪酸エステル、アベナステロール脂肪酸エステル等が挙げられる。これら植物ステロール脂肪酸エステルのうち、ブラシカステロール脂肪酸エステル、カンペステロール脂肪酸エステル、スチグマステロール脂肪酸エステル、β−シトステロール脂肪酸エステルが、油脂の工業的生産性、風味の点で好ましい。
【0040】
本発明の態様において、植物ステロール脂肪酸エステル中、ブラシカステロール脂肪酸エステル、カンペステロール脂肪酸エステル、スチグマステロール脂肪酸エステル、β−シトステロール脂肪酸エステルの合計含有量及び、各々の含有量は、植物ステロール遊離体換算で、成分(B)と同様であるのが、風味、外観、油脂の工業的生産性、結晶析出、低温での保存性、生理効果の点で好ましい。
【0041】
本発明の態様において、植物ステロール脂肪酸エステル(C)を構成する脂肪酸のうち、不飽和脂肪酸の含有量は80%以上であるのが好ましく、更に85〜100%、特に86〜98%、特に88〜93%であるのが、風味、外観、低温での保存性、結晶析出、油脂の工業的生産性、酸化安定性、生理効果の点で好ましい。尚、ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸と異なるのが、油脂の工業的生産性、酸化安定性の点で好ましい。
【0042】
本発明の態様において、成分(B)と成分(C)の質量比((B)/(C))は、1.3以下であるのが好ましく、より好ましくは0.1〜1.2、更に0.2〜1、特に0.3〜0.8、殊更0.4〜0.7であるのが、風味、外観、油脂の工業的生産性の点で好ましい。このような組成とするには、原料油脂の一部又は全部に、未脱臭油脂を用い、しかも加水分解工程を、酵素分解法単独で行うか、又は酵素分解法と高圧分解法とを組合せで行うのが好ましい。
【0043】
本発明の態様において、加熱調理用油脂組成物中の水分量は、風味、低温における外観の点から、1300ppm以下であるのが好ましく、更に10〜1100ppm、特に100〜1000ppm、殊更200〜900ppmであるのが好ましい。
本発明の態様において、成分(A)に、成分(B)及び/又は(C)を配合すると、配合する成分(B)及び/又は(C)に含まれている水分が、風味、低温における外観に影響する場合がある。これを防止するために、予め水分量の低い成分(B)及び/又は(C)を油脂(A)に配合したり、成分(B)及び/又は(C)を成分(A)に配合した後に、減圧下で加熱して脱水操作を行うことにより、本発明の加熱調理用油脂組成物の水分量を低減させることが好ましい。更に、熱履歴をより低くしてトランス不飽和脂肪酸の生成を抑制するために、成分(A)に予め成分(B)及び/又は(C)を高含量配合した組成物(マスターバッチ)を製造し、上記脱水操作を行った後に、成分(A)を添加して希釈することにより、本発明の加熱調理用油脂組成物を製造することが好ましい。
【0044】
本発明の態様において、加熱調理用油脂組成物は、抗酸化剤(D)を含有することが好ましい。抗酸化剤の含有量は、風味、酸化安定性、着色等の点で油脂(A)100質量部に対して、0.005〜0.5質量部であるのが好ましく、更に0.04〜0.25質量部、特に0.08〜0.2質量部であるのが好ましい。抗酸化剤としては、通常、食品に使用されるものであれば何れでもよい。例えば、ビタミンE、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、t−ブチルヒドロキノン(TBHQ)、ビタミンC又はその誘導体、リン脂質、ローズマリー抽出物等の天然抗酸化剤が挙げられるが、ビタミンE、ビタミンC又はその誘導体が好ましく、これらを併用するのが更に好ましい。
【0045】
本発明の態様において、ビタミンEとしては、α、β、γ、δ−トコフェロール又はこれらの混合物を使用することができる。特に、酸化安定性の観点から、δ−トコフェロールが好ましい。ビタミンEの市販品としては、イーミックスD、イーミックス80(エーザイ(株)製)、MDE−6000((株)八代製)、Eオイル−400(理研ビタミン(株)製)等が挙げられる。本発明の態様において、ビタミンEの含有量は、油脂(A)100質量部に対して、トコフェロールとして0.02〜0.5質量部であるのが好ましく、より好ましくは0.05〜0.4質量部、更に0.1〜0.3質量部、特に0.18〜0.25質量部、特に0.19〜0.22質量部であるのが好ましい。
【0046】
本発明の態様において、加熱調理用油脂組成物に、更に結晶抑制剤(E)を添加することが好ましい。本発明で使用する結晶抑制剤としては、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル等のポリオール脂肪酸エステルが挙げられ、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルが好ましく、特にポリグリセリン脂肪酸エステルが好ましい。またポリオール脂肪酸エステルのHLB価(Griffinの計算式、J.Soc.Cosmet.Chem.,1,311(1949))は4以下、特に0.1〜3.5であるのが好ましい。
【0047】
本発明の態様においては、ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸のうち、不飽和脂肪酸の含有量は50〜95%であるのが好ましく、更に51〜80%、特に52〜60%であるのが作業性、結晶抑制の点で好ましい。油脂へのポリグリセリン脂肪酸エステルの溶解を容易に行う点で、不飽和脂肪酸の含有量を50%以上とするのが好ましい。また、油脂の結晶化を抑制する点で、不飽和脂肪酸の含有量を95%以下とするのが好ましい。この不飽和脂肪酸の炭素数は10〜24、更に16〜22であるのが好ましい。具体的には、パルミトレイン酸、オレイン酸、ペトロセリン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、ガトレン酸、エルカ酸等が挙げられ、オレイン酸、リノール酸、ガトレン酸が好ましい。ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する不飽和脂肪酸中、オレイン酸の含有量は80%以上であるのが好ましく、特に90〜99.8%であるのが作業性、結晶抑制、コストの点で好ましい。ポリグリセリン脂肪酸エステルの構成不飽和脂肪酸中、リノール酸の含有量は10%以下であるのが好ましく、特に0.1〜5%であるのが作業性、結晶抑制、コストの点で好ましい。ポリグリセリン脂肪酸エステルの構成不飽和脂肪酸中、ガトレン酸の含有量は10%以下であるのが好ましく、特に0.1〜5%であるのが作業性、結晶抑制、コストの点で好ましい。
【0048】
本発明の態様においては、ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸のうち、飽和脂肪酸の含有量は5〜50%であるのが好ましく、更に20〜49%、特に40〜48%であるのが作業性、結晶抑制の点で好ましい。この飽和脂肪酸の炭素数は10〜24、更に12〜22であるのが好ましい。具体的には、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸等が挙げられ、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸が好ましい。ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する飽和脂肪酸中、パルミチン酸の含有量は80%以上であるのが好ましく、特に90〜99.8%であるのが作業性、結晶抑制、コストの点で好ましい。ポリグリセリン脂肪酸エステルの構成飽和脂肪酸中、ミリスチン酸の含有量は10%以下であるのが好ましく、特に0.1〜5%であるのが作業性、結晶抑制、コストの点で好ましい。ポリグリセリン脂肪酸エステルの構成飽和脂肪酸中、ステアリン酸の含有量は10%以下であるのが好ましく、特に0.1〜5%であるのが作業性、結晶抑制、コストの点で好ましい。また、構成脂肪酸中のパルミチン酸とオレイン酸の質量比(C16:0/C18:1)は0.6〜1.2であるのが好ましく、更に0.7〜1.1、特に0.8〜1、特に0.8〜0.9であるのが作業性、結晶抑制、コストの点で好ましい。
【0049】
本発明の態様において、結晶抑制剤(E)は、エステル化度80%以上のポリグリセリン脂肪酸エステルであるのが好ましく、更にエステル化度85〜100%、特にエステル化度90〜100%であるのが、低温耐性の点から好ましい。ここで、エステル化度とは、ポリグリセリン1分子中の全水酸基数に対する、ポリグリセリン脂肪酸エステル1分子中のエステル化された水酸基数を百分率で表した数値(%)のことである。また、該ポリグリセリン脂肪酸エステルにおいて、ポリグリセリンの平均重合度は2〜30であるのが好ましく、更に3〜20、特に3〜12であるのが、低温耐性の点から好ましい。本発明において、ポリグリセリンの平均重合度は、水酸基価から算出したものである。該ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸中の不飽和脂肪酸含量が52〜60%で、オレイン酸、リノール酸、ガトレン酸からなる不飽和脂肪酸中のオレイン酸含量が90〜99.8%であるのが特に好ましい。また、該ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸中の不飽和脂肪酸含量が40〜48%で、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸からなる飽和脂肪酸中のパルミチン酸含量が90〜99.8%であるのが特に好ましい。更に、該ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸中のパルミチン酸とオレイン酸の質量比(C16:0/C18:1)が0.8〜0.9であることが好ましい。
本発明の態様において、結晶抑制剤(E)の含有量は、油脂(A)100質量部に対して0.01〜2質量部、更に0.02〜0.5質量部、特に0.05〜0.2質量部であるのが作業性、風味、結晶抑制の点で好ましい。
【0050】
本発明の態様において、加熱調理用油脂組成物に、更に炭素数2〜8の有機カルボン酸を添加することが好ましい。炭素数2〜8の有機カルボン酸の含有量は、油脂(A)100質量部に対して、0.001〜0.01質量部であるのが好ましく、更に0.0012〜0.007、特に0.0015〜0.0045質量部、特に0.0025〜0.0034質量部であるのが風味、外観、酸化安定性、加熱安定性の点で好ましい。ここでいう有機カルボン酸には、有機カルボン酸塩又はその誘導体も含まれ、有機カルボン酸又はその塩を用いることが安定性の点で好ましい。有機カルボン酸としては、炭素数2〜8、好ましくは2〜6のヒドロキシカルボン酸、ジカルボン酸等が挙げられる。具体的にはクエン酸、コハク酸、マレイン酸、シュウ酸、アコニット酸、イタコン酸、シトラコン酸、酒石酸、フマル酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、ガラクツロン酸、グルクロン酸、マンヌロン酸が好ましく、更にクエン酸、酒石酸、リンゴ酸が好ましい。有機カルボン酸の塩としては、これらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩が挙げられ、ナトリウム塩、カルシウム塩が特に好ましい。有機カルボン酸の誘導体としては、クエン酸モノグリセリド、酒石酸モノグリセリド、酢酸酒石酸混合モノグリセリド等の有機酸モノグリセリドが挙げられ、特にクエン酸モノグリセリドが好ましい。
【0051】
また、本発明の加熱調理用油脂組成物は、フライ油、炒め油、離型油等として用いることができる。また、本発明の加熱調理用油脂組成物は、揚げ物、焼き物、炒め物等の食品の製造に使用することができる。揚げ物としては、例えば、コロッケ、天ぷら、とんかつ、空揚げ、魚フライ、春巻き等の惣菜、ポテトチップス、トルティーヤチップス、ファブリケートポテト等のスナック菓子、揚げせんべい等の揚げ菓子、フライドポテト、フライドチキン、ドーナツ、即席麺等を調理することができる。焼き物としては、例えば、ステーキ、ハンバーグステーキ、ムニエル、鉄板焼き、ピカタ、卵焼き、たこ焼き、お好み焼き、焼きそば等を調理することができる。炒め物としては、チャーハン、野菜炒め等の中国料理を調理することができる。本発明の油脂組成物は、従来油脂に比べて、調理品の風味、外観が良好である。
【実施例】
【0052】
以下に実施例を記載するが、本発明の範囲は下記実施例に限定されるものではない。
【0053】
〔油脂組成物1の製造〕
原料油脂としてハイオレインひまわり油を用いた。原料油脂は酵素分解法により加水分解を行い、脂肪酸を得た。即ち、リパーゼAY(天野エンザイム社製)を用いて、温度40℃、反応時間15時間にて油脂の酵素分解を行った後、油層を減圧脱水し、菜種脂肪酸を得た。
得られた脂肪酸とグリセリンを、固定化リパーゼ(ノボザイムズ社製Lipozyme RM IM)を用いて、脂肪酸とグリセリンのモル比2:1、温度50℃、減圧脱水、反応時間4時間にて、エステル化反応を行った。反応終了後、固定化酵素を分離し、エステル化油を得た。
エステル化油を、減圧蒸留により脱酸(未反応脂肪酸の除去)し、クエン酸水溶液を添加混合した。次いで、減圧脱水した後、水洗した。これを、温度240℃、減圧下、脱臭時間1時間にて脱臭を行い、ジアシルグリセロール高含有油脂を製造し、トコフェロール含量及び植物ステロールを添加して油脂組成物1とした。ジアシルグリセロール含量の測定は、ガスクロマトグラフィーにより行った。トランス不飽和脂肪酸含量の測定は、前記の方法により行った。
【0054】
〔油脂組成物2の製造〕
原料油脂としてサフラワー油を用いた以外は、油脂1の製造と同様の工程により、ジアシルグリセロール高含有油脂を製造し、油脂組成物2とした。
【0055】
ハイオレインひまわり油にトコフェロール及び植物ステロールを添加し、油脂組成物3とした。
【0056】
〔油脂組成物4の製造〕
原料油脂として菜種油を用いた以外は、油脂組成物1の製造と同様の工程により、ジアシルグリセロール高含有油脂を製造し、油脂組成物4とした。
また、菜種油にトコフェロール及び植物ステロールを添加し、油脂組成物5とした。
【0057】
油脂組成物1〜5の脂肪酸組成、及びグリセリド組成、トコフェロール含量及び植物ステロール含量を表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
〔加熱安定性の評価方法〕
製造した油脂1〜3を用い、表2に示した質量比で混合して油脂組成物を調製した。それぞれの試験品をステンレスシャーレに10gずつ計り取り、ホットプレートにて150℃に加熱し、5分保持した後に発生する異臭、刺激臭について、3名の専門パネルにより、下記基準にて官能評価した。結果を表2に示す。
【0060】
〔評価基準〕
5:臭わない
4:ほとんど臭わない
3:かすかに臭う
2:やや臭う
1:臭う
【0061】
【表2】

【0062】
表2から明らかなように、構成脂肪酸中のオレイン酸含量が高いジアシルグリセロールを高含有する油脂組成物は、加熱しても異臭や刺激臭が発生せず、加熱安定性が極めて高いことが示された。
【0063】
〔油脂加熱時発生成分の分析〕
〔装置構成〕
フライヤー上部の気体を連続的に吸引し、吸引した気体をアルデヒドサンプラー(Sep−pak DNPH:Waters社製)に通すことで、フライ油から発生する揮発アルデヒドを選択的に捕集できる装置を構成した。アルデヒドサンプラー内で捕集・誘導体化され、揮発性アルデヒドをアセトニトリルで溶出し、HPLCで分析した。その主要成分は,プロパナール、アクロレイン、2−ブテナール、ペンタナール、2−ペンテナール、ヘキサナール、2−ヘキセナール、ヘプタナール、2−ヘプテナール、2,4−ヘプタジエナール、オクタナール、2−オクテナール、ノナナール、2−デセナール、2,4−デカジエナール、2−ウンデセナールであり、それらの総量を総アルデヒド量とした。
【0064】
〔フライ条件〕
上記装置のフライヤーに油脂1〜5のいずれかの油脂300gを入れ、180℃に加熱し、スライスポテト30gのフライ調理を15分間に2回行った。この間に発生した揮発性アルデヒドの総量を測定した。結果を表3に示す。
【0065】
【表3】

【0066】
表3の結果より、構成脂肪酸中のオレイン酸含量が高いジアシルグリセロールを高含有する油脂は、フライ調理中の揮発性アルデヒドの発生量が少ないことが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成脂肪酸中の不飽和脂肪酸含量が80質量%以上、かつオレイン酸含量が80〜95質量%であるジアシルグリセロールを65質量%以上含有する油脂(A)を含有する加熱調理用油脂組成物。
【請求項2】
油脂(A)中のモノアシルグリセロール含量が5質量%以下、トリアシルグリセロール含量が4.9〜34.9質量%、遊離脂肪酸含量が5質量%以下である請求項1記載の加熱調理用油脂組成物。
【請求項3】
加熱調理用がフライ調理用である請求項1又は2に記載の加熱調理用油脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載の加熱調理用油脂組成物を用いて調理して得られるフライ食品。

【公開番号】特開2008−61577(P2008−61577A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−243205(P2006−243205)
【出願日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】