説明

油除去冶具、油除去方法

【課題】外気温が低い季節であっても、スムーズにワイヤーロープに塗布された油の除去作業を行うことができるようにする。
【解決手段】ワイヤーロープに塗布された油を除去するための油除去冶具100は、電熱線52により加熱され、油を加熱する銅板50と、繊維状材料をより合わせてなるひも状部材40を張設してなる油除去部と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤーロープに塗布された油を除去するための冶具及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、水力発電所の取水口などに設けられたゲートを開閉するためにゲートの上部を吊り下げるワイヤーロープには、腐食を防止し、また、摩擦による磨耗防止のために、表面にグリースなどの油を塗布している。また、定期的に前回塗布した油をへらなどを使って全て削ぎ落とし、再度、塗布する塗り替え作業を行っている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、この油の塗り替え作業は、安全性確保のため水力発電所における発電を停止した状態で行う。しかしながら、通常、水力発電所を停止できるのは、電力使用量が少ない冬季に限られ、冬季は外気温が低く、塗布された油が硬化してしまう。このため、除去作業に非常に手間がかかるという問題があった。
【0004】
本発明は、上記の問題に鑑みなされたものであり、その目的は、外気温が低い季節であっても、スムーズにワイヤーロープに塗布された油の除去作業を行うことができるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の油除去冶具は、ワイヤーロープに塗布された油を除去するための冶具であって、前記油を加熱する加熱部と、前記繊維状材料をより合わせてなるひも状部材を張設してなる油除去部と、を備えることを特徴とする。
【0006】
上記の油除去冶具において、前記加熱部は、前記ワイヤーロープに当接可能な金属製の帯状板材と、前記帯状板材を加熱するヒータとからなるものであってもよい。
また、前記油除去部は、前記ひも状部材の張力を調整する機構を備えてもよい。
【0007】
また、本発明の油除去方法は、ワイヤーロープに塗布された油を除去する方法であって、前記油を加熱し、繊維状材料を縒り合わせてなるひも状部材を前記ワイヤーロープに押し付けた状態で、前記ひも状部材をワイヤーロープに沿って摺動させることにより、前記油を削ぎ取ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ワイヤーロープに塗布された油を加熱部により加熱し、軟化させ、軟化した油をひも状部材により削ぎ落とすことができるため、外気温が低い季節であっても、スムーズに油の除去作業を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明のワイヤーロープの油除去冶具の一実施形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
図1〜図4は、本実施形態のワイヤーロープの油除去冶具100を示す図であり、図1は正面図、図2は裏面図、図3は上面図(図1におけるA矢視図)、図4は側面図(図1におけるB矢視図)である。発電所の取水口等のゲートを上下させるためのワイヤーロープには、磨耗や腐食から保護するために、その表面にグリースなどの油が塗布されている。本実施形態の油除去冶具は、ワイヤーロープに塗布された油の塗り替え作業の際に、塗布された油を除去するためのものである。図1〜図4に示すように、油除去冶具100は、把持部20、この把持部20に接続されたU字型の枠材30、及び枠材30の両先端部にこの枠材30に対して直交するように(すなわち、図1の紙面と垂直方向に延びるように)取り付けられた一対の板材32からなる冶具本体10と、一対の板材32の一方の端部同士を結ぶように取り付けられたひも状部材40と、一対の板材32の他方の端部同士を結ぶように取り付けられた銅板50と、この銅板50を加熱する電熱線52及び電池53からなる加熱部70と、から構成される。
【0010】
枠材20はU字型に成形された鋼材からなり、その中間高さにおいて枠材20の対向する面を結ぶように補強部材31が取り付けられている。また、把持部20は例えば中空のプラスチック製の部材からなる。また、枠材20の一方の先端部には先端が鋭利に形成されたへら部材80が取り付けられている。また、把持部20の基端部には落下防止のためのロープ等を取り付け可能なリング状部材20Aが設けられている。
【0011】
ひも状部材40としては、例えば、ナイロン製の繊維が縒り合わされてなるナイロンロープなどを用いることができる。板材32にはその両端部近傍に内周に螺条が形成された孔(不図示)が形成されており、この孔には、孔の内周の螺条に螺合する蝶螺子42が取り付けられている。ひも状部材40の両端は、蝶螺子42の先端に回転自在に接続されたリング状の固定用金具41に接続されている。また、板材32には固定用金具41が回転したときに、固定用金具41と干渉する位置に回転防止板43が取り付けられている。したがって、固定用金具41の回転は回転防止板43により規制される。
【0012】
かかる構成によれば、蝶螺子42を回転させると、蝶螺子42が板材32に対して進退し、これとともに固定用金具41が板材32に対して進退する。このように蝶螺子42を回転させ、固定用金具41を適宜進退させることにより、固定用金具41の間に取り付けられたひも状部材40に作用する張力を調整することができる。また、何れか一方の蝶螺子42を回転すると、ひも状部材40にねじれが生じる虞があるが、上記のように、蝶螺子42の端部に回転自在に固定用金具41を接続し、また、固定用金具40の回転を回転防止板43により規制する構成としたため、ひも状部材40にねじれが生じるのを防止できる。
【0013】
銅板50は、蝶螺子51により板材32の間に取り付けられている。銅板50としては、後述するように、ワイヤーロープ1に付着した油を加熱するべく、作業員が油除去冶具100をワイヤーロープ1に押し付けた際に、ワイヤーロープ1と銅板50との接触面積が大きくなるよう、銅板50が撓む程度の厚さのものを用いるとよい。
【0014】
加熱部70は、銅板50の両端部に巻き付けられた電熱線52と、把持部20の内部に収容され、電熱線52に電力を供給する電池53とからなる。電熱線52は、銅板50の端部より枠材30に沿って把持部20まで延び、把持部20の内部を通り電源スイッチ54を介して電池53に接続されている。また、電熱線52の枠材30に沿って延びる部分の外周には、電熱線52を保護するとともに、作業中に高温の電熱線52が露出した状態であると作業員が電熱線52に触れる虞があるため、ガラスチューブ55が取り付けられている。
【0015】
以下、上記の油除去冶具100を用いてワイヤーロープ1の油を除去する方法を説明する。
予め、電源スイッチ54をオンにして、電熱線52により銅板50を加熱しておく。そして、銅板50が充分に加熱されたら、図5に示すように、銅板50の一方の面をワイヤーロープに押し付けた状態で、油除去冶具100をワイヤーロープ1に沿って動かし、銅板50によりワイヤーロープ1に塗布された油を加熱しながら、加熱された油を削ぎ落とす。外気温が低いと油が硬化してしまうが、銅板50により加熱されて軟化するため、容易に削ぎ落とすことができる。ただし、銅板50では、ワイヤーロープ1の表面に密着させることができず、ワイヤーロープ1の表面に油の一部が残存する。
【0016】
次に、図6に示すように、油除去冶具100を裏返し、ひも状部材40をワイヤーロープ1に押し付けて密着させた状態で、油除去冶具100をワイヤーロープ1に沿って動かし、ひも状部材40によりワイヤーロープ1に塗布された油を削ぎ落とす。これにより、銅板50により除去できずにワイヤーロープ1の表面に残存した油を確実に取り除くことができる。なお、予め、ひも状部材40がワイヤーロープ1に確実に密着するように適宜蝶螺子42を回転させて、ひも状部材40の張力を調整するとよい。また、ひも状部材40が痛んでしまった場合には、適宜なタイミングで交換し、再度張力を調整するとよい。
【0017】
また、この際、ワイヤーロープ1に素線切れが生じていると、切れた素線がひも状部材40に引っかかる。このため、油の除去作業を行うとともに、ワイヤーロープ1の素線切れを発見することができる。
【0018】
さらに、ワイヤーロープ1を構成するストランドの間の隙間に油が付着している場合には、この隙間に枠材のへら部材80を挿入して掻き出す。
以上の工程により、ワイヤーロープ1に付着した油を除去することができる。
【0019】
本実施形態によれば、外気温が低いために硬化してしまった油を銅板50により加熱し、軟化させた上で油の削ぎ取り作業を行うため、容易に油を除去することができる。
【0020】
また、ひも状部材40の両端を蝶螺子42に固定用金具41を介して蝶螺子42に取り付けることとしたため、蝶螺子42を回転させることによりひも状部材40の張力を調整することができ、これにより、確実にひも状部材40をワイヤーロープ1に密着させることができる。
【0021】
なお、本実施形態では、銅板50により油を加熱する構成としたが、これに限らず、例えば、油除去冶具100にドライヤーのように温風が吹き出すような装置を設けておき、この装置により油を加熱してもよい。この場合、銅板50により油を除去する作業は行わず、ひも状部材40により油を除去すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施形態のワイヤーロープの油除去冶具を示す正面図である。
【図2】本実施形態のワイヤーロープの油除去冶具を示す裏面図である。
【図3】本実施形態のワイヤーロープの油除去冶具を示す上面図(図1におけるA矢視図)である。
【図4】本実施形態のワイヤーロープの油除去冶具を示す側面図(図1におけるB矢視図)である。
【図5】銅板によりワイヤーロープの付着した油を加熱する様子を示す図である。
【図6】ひも状部材によりワイヤーロープの付着した油を除去する様子を示す図である。
【符号の説明】
【0023】
1 ワイヤーロープ
10 冶具本体
20 把持部
30 枠材
31 補強部材
32 板材
40 ひも状部材
41 固定用金具
42 蝶螺子
43 回転帽子板
50 銅板
51 蝶螺子
52 電熱線
53 電池
54 スイッチ
55 ガラスチューブ
70 加熱部
80 へら部材
100 油除去冶具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤーロープに塗布された油を除去するための冶具であって、
前記油を加熱する加熱部と、
前記繊維状材料をより合わせてなるひも状部材を張設してなる油除去部と、を備えることを特徴とする油除去冶具。
【請求項2】
請求項1記載の油除去冶具であって、
前記加熱部は、
前記ワイヤーロープに当接可能な金属製の帯状板材と、前記帯状板材を加熱するヒータとからなることを特徴とする油除去冶具。
【請求項3】
請求項1又は2記載の油除去冶具であって、
前記油除去部は、前記ひも状部材の張力を調整する機構を備えることを特徴とする油除去冶具。
【請求項4】
ワイヤーロープに塗布された油を除去する方法であって、
前記油を加熱し、
繊維状材料を縒り合わせてなるひも状部材を前記ワイヤーロープに押し付けた状態で、前記ひも状部材をワイヤーロープに沿って摺動させることにより、前記油を削ぎ取ることを特徴とする油除去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−167556(P2009−167556A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−7244(P2008−7244)
【出願日】平成20年1月16日(2008.1.16)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】