説明

法面吹付用組成物及び法面構造体及びその施行方法

【課題】急傾斜の法面への定着力を高めることを提案し、該法面吹付け固化層と植物種子を混合した法面吹付け腐植土壌層を組み合わせることにより、植物が一定以上の高さより成長しない法面構造体およびその施工方法を提案する。
【解決手段】本発明の法面構造体は、真砂土100重量部に対し、ポルトランドセメント10〜20重量部、ノニオン系界面活性剤0.1〜0.5重量部粒子径2.5mm篩い目下の川砂20〜30重量部を添加して構成する法面吹付け固化層の上に、樹皮破砕材15〜20重量部、植物種子5〜10重量部及び腐葉土5〜10重量部なる腐植土壌層を形成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、法面に安定的に定着できる法面吹付用組成物と、該法面吹付け固化層に法面吹付け腐植土壌層を積層させる法面構造体およびその施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の法面構造体は、法面にモルタルを塗布した上に、該モルタルが硬化する前に通常の土を吹付け、その上に、バーク堆肥等と共に植物種子を吹付ける方法にて形成される。また、法面にモルタルを塗布し、その上にヤシ製メッシュを配設して、法面表層土や吹付け材料の流動化を抑える工法も一般的に用いられている(特許文献1)。
しかし、これら工法は、植生形成のためには配慮しても、植生形成後の維持管理等にはまったく配慮がなされていない。
例えば、該法面構造体に使用する素材に関しては、モルタル、土、天然植物繊維などでできているので、堆肥と共に吹付けた植物種子はその成長に伴って根が張り出し、時間経過と共に該素材を破壊してしまう恐れがある。
又、植栽した芝生等は、人の手によって一定の高さに刈り揃えるという維持管理が必要であるが、法面が急な傾斜地での刈り取りにおいては、危険を伴う作業となっている。
クズ、ススキ等の雑草も浸入し易く、その雑草も放置されるとともに大型化し、被覆植物などの植生維持には草刈りや手取りによる雑草防除が必要となり、同時に、刈り取った雑草などの収集、運搬、廃棄などの管理に膨大な労力を要する。
更に、これら工法で使われたコンクリートは、いずれは産業廃棄物として処分されねばならないことも重要な課題である。
【特許文献1】特開2003−278163
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで本発明は、土壌中に真砂土を主成分とする固化層を配設し、該固化層上に樹皮破砕材、植物種子及び腐葉土からなる腐植土壌層を配設して植物が一定以上の高さより成長しない法面構造体を形成すると共に、その固化層及び腐植土壌層を形成する際に、例えば30度を超えるような急な斜面であっても迅速且つ安定的に形成できるよう工夫を凝らしたものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために、本発明請求項1記載の組成混合物にあっては、重量比で真砂土100重量部に対し、ポルトランドセメント10〜20重量部、ノニオン系界面活性剤0.1〜0.5重量部と粒子径2.5mm篩い目下の川砂20〜30重量部を添加して構成することを特徴とする。
【0005】
請求項2に記載の法面構造体は、重量比で真砂土100重量部に対し、ポルトランドセメント10〜20重量部、ノニオン系界面活性剤0.1〜0.5重量部と粒子径2.5mm篩い目下の川砂20〜30重量部を添加して構成する法面吹付け固化層の上に、樹皮破砕材15〜20重量部、植物種子5〜10重量部及び腐葉土5〜10重量部なる腐植土壌層を形成することを特徴とする。
【0006】
請求項3記載の法面構造体の施工方法は、法面に金網メッシュを配設し、該金網メッシュに重量比で真砂土100重量部に対し、ポルトランドセメント10〜20重量部、ノニオン系界面活性剤0.1〜0.5重量部と粒子径2.5mm篩い目下の川砂20〜30重量部を添加して構成する法面吹付け土壌を吹付け、該吹付け固化層の表面硬化時間内に、樹皮破砕材15〜20重量部、植物種子5〜10重量部、腐葉土5〜10重量部なる腐植土壌を吹付けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の組成混合物は、真砂土を主成分とする固化層及び樹皮破砕材、植物種子及び腐葉土からなる腐植土壌層が形成されるので、植生された種から自然発生的に芽生えると共にその植物の成長は一定以上の高さより成長せず、刈り取り等の生育後の維持管理が不要となる。
その施工の際、比重が大きく且つ粒子径2.5mm篩い目下とした川砂を配して組成物を構成したので、一定距離離れた箇所にも吹き付け可能とすると共に、その吹き付け時間を短縮化させる。吹き付け後にあって、30度を超える急斜面であっても、組成物の下方への雪崩れ現象を抑制し得る。
最終処分の際には、真砂土、川砂等へのポルトランドセメント及び界面活性剤等の配合が適正なので容易に破砕でき、自然土に還元可能で産業廃棄物扱いから除外される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
そこで、この発明の実施の形態を説明する。
本発明は、真砂土、ポルトランドセメント、ノニオン系界面活性剤及び川砂からなる法面吹付け用組成物と、樹皮破砕材、植物種子、腐葉土からなる法面吹付け腐植土壌で構成する。
以下、上記構成材料の特徴について説明する。
【0009】
吹付け固化層の一つである真砂土は、山砂の主として花崗岩などが風化してできた土で、火山灰などの粘土質を除いた骨材である。その粒度は、通常2mmのふるい目下のものが用いられ、粗い粒径(2〜0.5mm)のもの、細かい粒径(0.5〜0.075mm)のもの、微粒径(0.075mm未満)のものが満遍なく分布し、各粒子間にランダムに僅かな空隙が形成されて、ポーラス状で空気や水が保存できる保水性と透水性の両方の性質を保有する材料である。
【0010】
ポルトランドセメントは、真砂土の表面を実質的に囲繞し、真砂土の各粒子を結合して、多数の空隙を形成する。ポルトランドセメントは川砂、真砂土も一体に固化し、固化層をポーラス状に保持する役割を担っている。しかしながら、ポルトランドセメントは骨材間の接合力を大きく保持できるが、それ自体が団子状、塊状になり易く空隙を埋め易いので、使用量は少量が望ましく、真砂土100重量部に対し10〜20重量部が適する。
【0011】
ノニオン系界面活性剤は、真砂土の濡れ性を高め、真砂土の表面にポルトランドセメントを均一に分散させ、水の表面張力を抑えて均一な保水と透水を可能とする性状を保有する。ポルトランドセメントが真砂土の表面において均一に分散されると、固化層として適度な強度が現れる。一方、ポルトランドセメントが真砂土の表面において不均一であると、団子状、塊状となり、強度が強い部分と弱い部分が生まれ、弱い部分では植物の根が伸びて、植物は大きく成長してしまう。該植物の成長を防ぐには、該ポルトランドセメントの分散を良くし、且つ該吹付け固化層の表面硬化が成されることで可能となる。
配合剤の濡れ性や分散性を高めることを担う界面活性剤は、ノニオン系界面活性剤を用いる。
【0012】
上記組成物の構成によって透水性と保水性を備えた固化層が形成可能であるが、これだけでは、(イ)比重が軽量過ぎて一定圧力で吹き付ける際に粒子が周辺に飛び散ってしまい、法面の目的箇所になかなか定着させられない、(ロ)又、吹き付け後には、細かい粒子が自重によって崩れ落ち、一種の雪崩れ現象を惹起する恐れがある。
そこで、粒子径2.5mm篩い目下の川砂に着目する。
該川砂は、砂土に分類され砂岩や花崗岩に由来する石英、長石などからなるが、比較的比重が大きく、その比重の大きさによって、吹き付け作業をする際に吹き付け圧に抗して、例えば1〜2メートル程度の対象法面までの飛行が可能となるからである。
その川砂にあって、粒子径2.5mm篩い目下の川砂を選択する。その理由は、粒子径2.5mm篩い目以上であると、真砂土等との混合が悪く、下に沈降する傾向があり、粒子径2.5mm篩い目下とすれば真砂土等と均一に混合が可能となり、且つ、吹き付けに必要な若干の流動性も確保できる。更に、粒子径2.5mm篩い目下の川砂は、粗粒の土質で粒子の円摩度も低いので、真砂土と混合されるとゲル性が高まり、例えば30度以上の急傾斜であっても、吹き付け後に下方にずり落ちる所謂雪崩れ現象を惹起させない。
【0013】
次に、法面吹付け腐植土壌層を構成する樹皮破砕材は、伐採された樹木の樹皮をリサイクルしたものである。主に、広葉樹や針葉樹の樹皮を長期間野外堆積して堆肥とし、該樹皮を粉砕して水分調整し、熟成期間を設けた環境に優しい有機質土壌改良剤である。
該樹皮破砕材は、給水性及び保水性を高め、種子に発芽に必要な水分・栄養を供給すると共にその後の生育にあっても植物を乾燥から守る。
更に、粉砕された上記樹皮破砕材は、その繊維が絡んでいるので、発芽後の種子が根を伸ばしてきたとき、その根と繊維とが相互に絡み合い植物全体が固定される。
【0014】
腐葉土は、広葉樹の落ち葉を2〜3ヶ月に一度切り返し2年位で完熟させた落葉堆肥で、雨水が入らないように上からシ−ト等を掛けて保存したもので、上記樹皮破砕材のみでは不足する栄養分を補充する。
【0015】
固化層は、その空隙部に植物の毛根を浸入させ、その毛根により法面への固定を促す。一方、それ以上の太い根の浸入を抑えるので、根域の拡張が抑制され、植物は一定範囲での成長は許されるが、背丈の高い植物への生育は抑制される。
【実施例】
【0016】
この発明の実施例を、上記実施の形態に基づいて製造した。表1は本発明の法面吹付け固化層の組成を示し、表2は本発明の法面吹付け固化層の組成に至るまでの試験配合およびその特徴を示す。表3は一般的な法面吹付け腐植土壌の組成を示すと共に、本発明の法面吹付け固化層と共に法面構造体を形成する方法について説明する。
【0017】
【表1】

【0018】
表1は本発明の法面吹付け固化層の組成を示す。この組成を配合するには、粒子径2.5mm篩い目下の川砂を25重量部採取し、真砂土100重量部、ポルトランドセメント15重量部、ノニオン系界面活性剤0.1重量部で構成される吹付け組成物と混合して、水10重量部を投入して撹拌した。
すると、該混合組成物の見かけ比重が大きくなるので、四方に飛散することがなく、目的の法面に向けて1〜2メートルを飛んで定着できた。また、該土壌が飛び散ることがないので、思った位置に吹付けが可能となった。
【0019】
次に、上記本発明の法面吹付け固化層の組成に至るまでの試験配合およびその特徴を表2に示す。
【0020】
【表2】

【0021】
表2(イ)の配合組成は川砂のない吹付け土壌で、この吹付け土壌が30度の法面勾配に敷設された場合は、見かけ比重が小さいので、軽量で、吹付け時に四方に飛び散った。その結果、法面表面が平滑にならないで、でこぼこ状態で起伏を持った吹付け状態になった。斯様な状態では、該吹付け土壌は吹付け面に定着できなく、法面から表層剥離して、ずり落ちてしまう土壌でとなった。
表2(ロ)の配合組成は川砂10重量部を添加した配合で、この配合では、上記表2(イ)の配合組成より幾分法面表面が平滑になったが、起伏を持った吹付け状態が残った。
表2(ハ)の配合組成は吹付け固化層に川砂20重量部を添加した配合で、この配合では、上記表2(ロ)の配合組成より更に数段、法面表面が平滑になり、起伏のない吹付け状態となった。この配合は上記表1に示すものであり、本発明の法面吹付け固化層の組成配合である。
更に、表2は、該法面吹付け固化層と川砂のない吹付け土壌の施工効率を比較した。即ち、吹付け施工時間は20分とし、そのときの吹付け面積で施工効率の向上度合いとした。その結果、該法面吹付け固化層は15m、一般的な吹付け土壌は3mとなり、本発明の法面吹付け固化層は5倍の施工効率の向上を果たした。
【0022】
固化層の粒子の結合状態は、図1に示す如く、真砂土及び川砂表面がセメントによって実質的に囲繞され、真砂土及び川砂の各粒子がセメントによって結合され多数の空隙を有しポーラス状であり、且つ、界面活性剤により真砂土及びセメントの濡れ性を高め、水の表面張力を抑えて透水性及び保水性が高くなる。
【0023】
次の表3に一般的な法面吹付け腐植土壌の組成を示すと共に、本発明の法面吹付け固化層との法面構造体の形成方法を説明する。
【0024】
【表3】

【0025】
表3は本発明の法面吹付け腐植土壌層の組成を示す。
上記法面構造体は、この法面吹付け腐植土壌層と本発明の法面吹付け固化層で形成される構造体をいう。30度の法面勾配を持ち、且つ法面の土面の上に該法面構造体を形成するために、副材料として金網メッシュを張設した。該金網メッシュは、吹付け固化層が土面から離型もしくは層間剥離を起こすことから守る働きを担っている。
金網メッシュの施工後、該法面に重量比で真砂土100重量部、川砂25重量部、ポルトランドセメント15重量部、ノニオン系界面活性剤0.1重量部なる法面吹付け固化層を厚さ4〜5cmで吹付けた。その後、夏場においては8〜12時間、冬場においては24時間程度の該法面吹付け固化層の硬化時間を設け、最後にその上に樹皮破砕材17重量部、植物種子8重量部、腐葉土8重量部からなる法面吹付け腐植土壌を3〜5cm程度吹付けて、該法面構造体を形成した。
【0026】
形成された上記法面構造体の中で、種子は法面吹付け腐植土壌層内で成長し、やがて根は本発明の法面吹付け固化層表面に張り付き、毛根部だけが、空隙に入り込む。
しかし、それ以上の根の成長は、真砂土及び川砂の固化層により抑制され、植生の根はそれ以上進むことができなくなり、根域の拡張が抑えられて、背丈の高い植物に成長しない。所謂、該植生は抑制の効いた成長をすることになる。植生の根が吹付け固化層の中へ拡張していくことが抑制されたので、草木や低木は育つが、大木は育たなかった。
この結果、草刈りや手取りによる雑草防除が不要となり、管理の労力が大幅に軽減される。
【0027】
最終処分の際には、真砂土、川砂等へのポルトランドセメント及び界面活性剤等の配合が適正なので容易に破砕でき、自然土に還元可能で産業廃棄物扱いから除外される。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、主に30度を超える急な傾斜を有する法面への吹き付けを対象とした組成物と法面構造体およびその施工方法を提供するが、比較的緩やかな傾斜の法面に使用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、本発明法面構造体の粒子分布を示す模式的拡大断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真砂土100重量部に対し、ポルトランドセメント10〜20重量部、ノニオン系界面活性剤0.1〜0.5重量部と粒子径2.5mm篩い目下の川砂20〜30重量部を添加して構成することを特徴とする法面吹付け用組成混合物。
【請求項2】
真砂土100重量部に対し、ポルトランドセメント10〜20重量部、ノニオン系界面活性剤0.1〜0.5重量部粒子径2.5mm篩い目下の川砂20〜30重量部を添加して構成する法面吹付け固化層の上に、樹皮破砕材15〜20重量部、植物種子5〜10重量部及び腐葉土5〜10重量部なる腐植土壌層を形成することを特徴とする法面構造体。
【請求項3】
法面に金網メッシュを配設し、該金網メッシュに重量比で真砂土100重量部に対し、ポルトランドセメント10〜20重量部、ノニオン系界面活性剤0.1〜0.5重量部と粒子径2.5mm篩い目下の川砂20〜30重量部を添加して構成する法面吹付け土壌を吹付け、該吹付け固化層の表面硬化時間内に、樹皮破砕材15〜20重量部、植物種子5〜10重量部、腐葉土5〜10重量部なる腐植土壌を吹付けることを特徴とする法面構造体の施工方法。













【図1】
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【公開番号】特開2006−336386(P2006−336386A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−164778(P2005−164778)
【出願日】平成17年6月3日(2005.6.3)
【出願人】(596180423)日本硝子工業株式会社 (9)
【Fターム(参考)】