説明

波力発電装置

【課題】海洋波浪を利用した波力発電装置は、大型かつ固定型であり、定期的メンテナンスが必要であった。
【解決手段】密封のブイ1の内壁に振動子2がばね3−1,3−2によって結合され、振動子2の相対運動エネルギーが電気エネルギーに変換される。この変換は、ブイ1の内壁に固定されたラック4−1,4−2と、振動子2に固定され、かつラック4−1,4−2にかみ合わせられたピニオン5−1,5−2と、ピニオン5−1,5−2によって回転駆動される発電機6−1,6−2とによって行われる。発電機6−1,6−2の電気エネルギーはコイル導線7−1,7−2を介してバッテリ8に蓄積される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は海洋波浪を利用した波力発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の波力発電装置として、海洋波浪により直接駆動される水車を用いて発電機を駆動するもの、海洋波浪を密閉室内に誘導して発生した気圧差により回転するフィンを用いて発電機を駆動するもの、2つの浮遊体の相対的位置変位を用いて発電機を駆動するもの等がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述の従来の波力発電装置はいずれも大型かつ固定型という課題があった。また、水車、フィン、浮遊体等は海水に暴露されるので、海水、微生物等による浸食に対して定期的にメンテナンスを行わなければならないという課題もあった。この結果、海洋調査ロボット、SOS発信用救命ブイ等に利用することが困難であった。
【0004】
一般に、航行しながら海洋の環境状態を調査する海洋調査有索ロボットはケーブルによって行動範囲が制限され、他方、海洋調査無索ロボットはバッテリ容量によって活動時間が制限される。従って、行動範囲が広くかつ活動時間が長い海洋調査ロボットとして、海洋波浪を利用した定期的メンテナンス不要、小型かつ移動型の波力発電装置を搭載した海洋調査無索ロボットが期待される。また、活動時間が長いSOS発信用救命ブイとしても、海洋波浪を利用した波力発電装置を搭載したものが期待される。
【0005】
従って、本発明の目的は、海洋波浪を利用した、定期的メンテナンスが不要、小型かつ移動型の波力発電装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決するために本発明に係る波力発電装置は、密封のブイと、少なくとも1つのばねによってブイの内壁に結合された振動子と、ブイに対する振動子の相対運動エネルギーを電気エネルギーに変換する相対運動エネルギー/電気エネルギー変換ユニットとを具備する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、密封のブイを用いているので定期的なメンテナンスを不要にすることができる。また、小型かつ移動型に容易にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1は本発明に係る波力発電装置の第1の実施の形態を示す図である。図1において、1は完全密封のブイであって、その内部に振動子2が2つのばね3−1,3−2によって上下支持されている。
【0009】
ブイ1に対する振動子2の上下の相対運動エネルギーは相対運動エネルギー/電気エネルギー変換ユニットによって電気エネルギーに変換される。この相対運動エネルギー/電気エネルギー変換ユニットは、ブイ1の内壁に固定されたラック4−1,4−2、振動子2に固定され、ラック4−1,4−2にかみ合わされたピニオン5−1,5−2、及びピニオン5−1,5−2によって回転駆動する発電機6−1,6−2によって構成される。すなわち、振動子2がブイ1に対して上下運動すると、その上下運動はラック4−1,4−2及びピニオン5−1,5−2によって回転運動に変換され、この回転運動が発電機6−1,6−2を駆動することになる。
【0010】
図1の波力発電装置においては、振動子2の固有振動数(共振周波数)が海水波浪の上下の揺動振動数になるように、振動子2の質量が予め決定されている。尚、振動子2の固有振動数は振動子2の質量(運動質量と呼ぶことにする)及びばね3−1,3−2のばね定数によって決定されるが、この場合、振動子2にはピニオン5−1,5−2、発電機6−1,6−2が固定されているので、これらの質量も振動子2の運動質量に寄与することになる。従って、振動子2自体の質量はその分小さくなり、この結果、波力発電装置の小型化が図れることになる。
【0011】
相対運動エネルギー/電気エネルギー変換ユニットによって得られた電気エネルギーはコイル導線7−1,7−2を介してバッテリ8に蓄積されることになる。たとえば、発電機6−1,6−2がDCモータである場合には、電気エネルギーは交流電流として得られるので、図示しない整流回路が発電機6−1,6−2側もしくはバッテリ8側に設けられる。
【0012】
尚、図1においては、バッテリ8はブイ1に固定されているが、バッテリ8を振動子2に固定してもよい。この場合、バッテリ8も振動子2の運動質量に寄与するので、振動子2自体の質量をさらに小さくでき、この結果、波力発電装置の小型化がさらに図れることになる。
【0013】
また、図1においては、2つのばね3−1,3−2を設けてあるが、1つのばね3−1もしくは3−2のみでもよい。さらに、2つのラック4−1,4−2、2つのピニオン5−1,5−2、2つの発電機6−1,6−2、2つのコイル導線7−1,7−2を設けて2系統にしているが、1系統でも、3以上の系統でもよい。
【0014】
図2は図1の波力発電装置の静止状態を示す図である。通常、海水波浪の揺動振動数は2Hz以下の定周波数である。このため、ばね3−1,3−2のばね定数k/2は小さくなり、この結果、振動子2(図2では、ピニオン5−1,5−2、発電機6−1,6−2も含む)の荷重は下側のばね3−2に大きくかかり、従って、振動子2は静止状態においても中心値から大きな変位を発生する。これは振動子2の動的状態でのストロークを減少させることになる。
【0015】
図3は本発明に係る波力発電装置の第2の実施の形態を示す図である。図3においては、図1の構成要素に対して定荷重ばね9をブイ1の上壁と振動子2との間に設ける。この場合にも、ブイ1の海水に対する完全密封性を保持する。これにより、ばね3−1,3−2は振動子2(図2では、ピニオン5−1,5−2、発電機6−1,6−2も含む)の慣性質量のみを支持すればよく、図2のストローク減少を補償でき、波力発電装置の安定化、高効率化に寄与できる。
【0016】
また、図1においては、振動子2の固有振動数は一定であるが、海水波浪の揺動振動数は状況により変化する。このため、波力発電装置は不安定、低効率となる。
【0017】
図4は本発明に係る波力発電装置の第3の実施の形態を示す図である。図4においては、図1の構成要素に対して、振動子2に固定された注射器型の可変容量タンク10、可変容量タンク10の液量(たとえば海水量)を調整するアクチュエータ11(たとえばリニアモータ)、及びアクチュエータ11に無線もしくは有線によって接続され、海水波浪の揺動振動数を検出してアクチュエータ11を制御する制御回路12が付加されている。この場合、可変容量タンク10はチューブ10aによりブイ1の底部に設けられたタンク10bに接続されており、アクチュエータ11の動作により液体がタンク10bから可変容量タンク10へ吸入され、あるいは液体が可変容量タンク10からタンク10bへ排出される。また、制御回路12は海水波浪の揺動振動数(振動子2の振動数)を検出するセンサ13から検出された海水波浪の揺動振動数に応じてアクチュエータ11を制御して可変容量タンク10の液量を調整する。これにより、振動子2(図4では、ピニオン5−1,5−2、発電機6−1,6−2も含む)の運動質量を実質的に変化させて振動子2の固有振動数を海水波浪の揺動振動数に近づけるようにし、この結果、波力発電装置の安定化、高効率化を図る。
【0018】
図5は図4の制御回路12の動作を示すフローチャートである。尚、制御回路12はマイクロコンピュータにより構成され、図5のフローチャートは所定時間として実行される。
【0019】
始めに、ステップ501において、センサ13より海水波浪の揺動振動数を検出する。
【0020】
次に、ステップ502において、検出された揺動振動数に応じて可変容量タンク10の液量を演算する。たとえば、揺動振動数と液量との関係は予め演算して制御回路12のROM等にテーブルとして格納しておく。これにより、ステップ501において検出された揺動振動数を用いて液量を補間演算する。
【0021】
次に、ステップ503では、制御回路12はアクチュエータ11を制御して可変容量タンク10の液量をステップ502にて演算された液量にする。
【0022】
そして、ステップ504にてこのルーチンは終了する。
【0023】
本発明に係る波力発電装置は高さ1cm程度まで小型化できるが、20m程度大型にもできる。
【0024】
本願の発明者らの実験によると、海水波浪の振幅0.07m、揺動振動数1.5Hzの場合に、1つの発電機当り最大出力0.22Wが得られ、つまり、2つの発電機6−1,6−2から最大出力0.44Wが得られ、効率は約11%であった。この結果、同程度のサイズの太陽光発電装置の最大出力0.28Wを上回った。
【0025】
尚、図3の波力発電装置と図4の波力発電装置とを組合せることもできる。また、発電機の出力を直接利用する場合には、バッテリ8は不要とすることができる。
【0026】
さらに、本発明に係る波力発電装置においては、バッテリ8をその底部に設けている場合には、バッテリ8が重しの作用をし、海水波浪の上下方向の運動によって発電するようになっているが、海水波浪面の斜め方向に存在するときにもその上下方向運動成分に応じて発電できるので、バッテリ8が振動子2に結合されても、特別の重しを設ける必要はない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る波力発電装置の第1の実施の形態を示す図である。
【図2】図1の波力発電装置の静止状態を示す図である。
【図3】本発明に係る波力発電装置の第2の実施の形態を示す図である。
【図4】本発明に係る波力発電装置の第3の実施の形態を示す図である。
【図5】図4の制御回路の動作を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0028】
1:ブイ
2:振動子
3−1,3−2:ばね
4−1,4−2:ラック
5−1,5−2:ピニオン
6−1,6−2:発電機
7−1,7−2:コイル導線
8:バッテリ
9:定荷重ばね
10:可変容量タンク
10a:チューブ
10b:タンク
11:アクチュエータ
12:制御回路
13:センサ





【特許請求の範囲】
【請求項1】
密封のブイ(1)と、
少なくとも1つのばね(3−1,3−2)によって前記ブイの内壁に結合された振動子(2)と、
前記ブイに対する前記振動子の相対運動エネルギーを電気エネルギーに変換する相対運動エネルギー/電気エネルギー変換ユニットと
を具備する波力発電装置。
【請求項2】
前記相対運動エネルギー/電気エネルギー変換ユニットは、
前記ブイの内壁に固定されたラック(4−1,4−2)と、
前記振動子に固定され、前記ラックにかみ合わせられたピニオン(5−1,5−2)と、
該ピニオンによって回転駆動する発電機(6−1,6−2)と
を具備する請求項1に記載の波力発電装置。
【請求項3】
前記発電機が前記振動子に固定され、これにより、前記振動子の運動質量を実質的に増加させた請求項2に記載の波力発電装置。
【請求項4】
さらに、前記相対運動エネルギー/電気エネルギー変換ユニットの電気エネルギーを蓄積するバッテリ(8)を具備する請求項1に記載の波力発電装置。
【請求項5】
前記バッテリが前記振動子に固定され、これにより、前記振動子の運動質量を実質的に増加させた請求項4に記載の波力発電装置。
【請求項6】
さらに、前記ブイの上壁と前記振動子との間に結合された定荷重ばね(9)を具備する請求項1に記載の波力発電装置。
【請求項7】
さらに、
前記振動子に設けられ、該振動子の運動質量を実質的に変化させる可変容量タンク(10)と、
該可変容量タンク内の液量を調整するアクチュエータ(11)と、
該装置の揺動振動数に応じて前記アクチュエータを制御して前記振動子の固有振動数を前記装置の揺動振動数に近づけるように制御する制御回路(12)と
を具備する請求項1に記載の波力発電装置。
【請求項8】
前記可変容量タンクが注射器構造である請求項7に記載の波力発電装置。
【請求項9】
前記発電機がDCモータであり、
さらに、前記DCモータの出力を整流する整流器を具備する請求項2に記載の波力発電装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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