説明

波動歯車減速機

【課題】ねじり剛性を高くする。
【解決手段】波動歯車減速機190は、入力軸の回転によって2つの遊星ローラ3が、内歯歯車7aに噛合うリング状の外歯歯車6aの内側を公転しながら自転して外歯歯車6aを長円状に弾性変形させ、内歯歯車と外歯歯車との2箇所の噛合い位置を変えることによって、入力軸11の回転を外歯歯車に接続された出力軸13に減速回転伝達するようになっており、外歯歯車と遊星ローラとの間に弾性変形可能なフレックスリング5を備えている。フレックスリングが遊星ローラの周方向近傍の外歯歯車が楕円の内側に撓むのを抑えることができるので、外歯歯車と内歯歯車との噛合い歯数を増やして、出力軸側の構造のねじり剛性を高くすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに噛合う内歯歯車と楕円の外歯歯車との作動を利用して、高減速比が得られる波動歯車減速機に関する。
【背景技術】
【0002】
波動歯車減速機は、剛体の内歯歯車としてのサーキュラスプラインと、サーキュラスプラインよりも歯数の少ない弾性体の外歯歯車としてのフレクスプラインと、フレクスプラインの内側に接触するウェーブジェネレータ等で構成されている。
【0003】
ウェーブジェネレータは、入力軸に接続されて楕円に形成されたカム板の外周に弾性変形が可能なベアリングを装着した構造になっている。ベアリングは鋼球と外輪と内輪とリテーナで構成されている。鋼球は内輪と外輪の間に配置されリテーナによって等間隔に配置されている。また鋼球は周方向には内輪と外輪それぞれに対して転がり回転しながら相対的に移動し、スラスト方向には内輪の外側と外輪の内側に形成された溝によって保持され、これにより内輪と外輪は相対的に滑らかに回転する。また、ベアリング単品の状態では円形で、ベアリングの内輪内側に楕円形状のカム板を挿入すると、内輪がカム板に倣って楕円形に弾性変形する。楕円形に変形した内輪に倣って、鋼球を介して外輪も楕円形に弾性変形する。そして、ベアリングの外輪の外周にフレクスプラインが装着されている。ウェーブジェネレータは、入力軸が回転すると、ベアリングの外輪を楕円に弾性変形しながら、フレクスプラインに回転力を伝達する。このとき、フレクスプラインも楕円に弾性変形する。
【0004】
そして、楕円に弾性変形したフレクスプラインの長径付近の2箇所の外歯とサーキュラスプラインの内歯との噛合い位置が順次変わる。このため、入力軸が1回転するごとに、フレクスプラインがサーキュラスプラインとの歯数の差分だけ回転する。フレクスプラインには出力軸が設けられており、入力軸の回転が減速されて出力軸から取り出される。このように、波動歯車減速機は、部品点数が少ない割に、バックラッシュレスで高減速比が得られるという特徴がある。
【0005】
しかし、弾性変形するベアリングの外輪とフレクスプラインは、設計、加工が難しくコスト高であるという問題があった。
【0006】
特に、弾性変形するベアリングの外輪は、径方向の肉厚の厚み精度が高い半面、弾性変形を許容する必要があるため、設計、加工ともに特殊であり、コスト高になるという問題があった。
【0007】
そこで、これらの問題に対処した波動歯車減速機が、特許文献1に開示されている。この波動歯車減速機は、図13乃至図15に概略示すように、入力軸909に設けられた保持部材901と遊星ローラとしてのベアリング904とで構成されたウェーブジェネレータ917を備えている。また、この波動歯車減速機990は、フレーム908に固定された内歯歯車としてのサーキュラスプライン907と、出力軸913に設けられて外歯歯車としての弾性変形するフレクスプライン906とを有している。フレクスプライン906は、6つのベアリング904によって楕円に変形することで、2箇所の長径付近でサーキュラスプライン907の歯と噛み合っている。この構成は、ベアリング904が弾性変形する必要がないため、一般的に市販品されているベアリングを使用することができて、ウェーブジェネレータ917をローコスト化することができる。
【0008】
そして、出力軸913のトルクは、カップ形のフレクスプライン906を経て、楕円に弾性変形したフレクスプライン906の長径付近の外歯とサーキュラスプライン907の内歯とが噛み合うことでフレクスプライン906に受け止められる。このため、フレクスプライン906の半径方向の肉厚は、楕円に弾性変形が可能であるとともに、出力軸913からのトルクを受け止めるためのねじり剛性が求められるという、二律背反する条件を同時に満たした厚みになっている。さらに、出力軸913からのトルクは、楕円に変形したフレクスプライン906の長径付近の歯車の圧力角によって、半径方向かつ内側方向にかかるラジアル荷重と周方向の荷重に分解される。このラジアル荷重はフレクスプライン906の内側のベアリング904が受け止め、周方向の荷重はサーキュラスプライン907が受け止めることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】実開昭63−125247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、従来の波動歯車減速機990は、ラジアル荷重によって、ベアリングの周方向近傍のフレクスプライン906がベアリング904の曲率に沿って楕円の内側に撓むことがある(図14の破線を参照)。なお、破線は、撓みを理解し易くするため誇張して書いてあるが、実際にはこれほど撓むことがない。この撓みによってフレクスプライン906の外歯が径方向に離れて、サーキュラスプライン907の内歯と噛み合わなくなる。その結果、出力軸側の構造のねじり剛性が低くなるという問題があった。
【0011】
本発明は、遊星ローラを使用したローコストな構成でありながら、ねじり剛性の高い波動歯車減速機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の波動歯車減速機は、入力軸の回転によって2つの遊星ローラが、内歯歯車に噛合うリング状の外歯歯車の内側を公転しながら自転して前記外歯歯車を長円状に弾性変形させ、前記内歯歯車と前記外歯歯車との2箇所の噛合い位置を変えることによって、前記入力軸の回転を前記外歯歯車と前記内歯歯車との一方に接続された出力軸に減速回転伝達するようになっており、前記外歯歯車と前記遊星ローラとの間に弾性変形可能なフレックスリングを備えた、ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明の波動歯車減速機は、フレックスリングが遊星ローラの周方向近傍の外歯歯車が楕円の内側に撓むのを抑えることができるので、外歯歯車と内歯歯車との噛合い歯数を増やして、出力軸側の構造のねじり剛性を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態1の波動歯車減速機を回転軸に沿った断面図である。
【図2】図1のA−A矢視断面図である。
【図3】図2のB−B矢視断面図であり、一部分省略した図である。
【図4】遊星ローラが進入する溝が内周の周方向に沿って形成されたフレックスリングの断面図である。
【図5】ベアリングの外周に外周ローラが装着された遊星ローラの断面図である。
【図6】ベアリングの外周に外周ローラが装着された遊星ローラの断面図である。
【図7】外周の周方向に沿って潤滑剤を保持する溝が形成されたフレックスリングの断面図である。
【図8】軸線方向の中間が中高の円弧面が形成されたフレックスリングの断面図である。(A)は、図2のB−B矢視断面図に相当する図である。(B)は、図2のC−C矢視断面図に相当する図である。(C)は、図2のD−D矢視断面図に相当する図である。
【図9】外周にテーパ部が形成されたフレックスリングの断面図である。(A)は、図2のB−B矢視断面図に相当する図である。(B)は、図2のC−C矢視断面図に相当する図である。
【図10】外周に樹脂部材を設けたフレックスリングの断面図である。(A)は、図2のB−B矢視断面図に相当する図である。(B)は、図2のC−C矢視断面図に相当する図である。
【図11】ベアリングの外周に外周ローラが装着された遊星ローラの断面図である。(A)は、図2のB−B矢視断面図に相当する図である。(B)は、図2のC−C矢視断面図に相当する図である。
【図12】他の実施の形態の波動歯車減速機の入力軸と出力軸とに沿った断面図である。
【図13】従来の波動歯車減速機の入力軸と出力軸とに沿った断面図である。
【図14】図13のE−E矢視断面図である。
【図15】図14のF−F矢視断面図であり、一部分省略した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態の波動歯車減速機を図1乃至図3に基づいて説明する。なお、数値は、参考数値であって、本発明を限定するものではない。
【0016】
図1は、本発明の実施形態の波動歯車減速機の入力軸と出力軸とに沿った断面図である。図2は、図1のA−A矢視断面図である。図3は、図2のB−B矢視断面図であり、一部分省略した図である。
【0017】
まず、波動歯車減速機を概略説明する。
【0018】
本発明の波動歯車減速機190は、フレクスプライン6と主遊星ローラ3及び補助遊星ローラ4との間に弾性変形可能なフレックスリング5を備えたことに特徴がある。入力軸11が回転すると、2つの主遊星ローラ3と4つの補助遊星ローラ4とが、サーキュラスプライン7に噛合うリング状のフレクスプライン6の内側にあるフレックスリング5内を公転しながら自転する。これによって、フレクスプライン6とフレックスリング5とが長円状に弾性変形して、サーキュラスプライン7とフレクスプライン6との2箇所の噛合い位置が変わる。この結果、波動歯車減速機190は、入力軸11の回転をフレクスプラインに接続された出力軸13に減速回転伝達することができる。
【0019】
次に、波動歯車減速機を詳細に説明する。
【0020】
波動歯車減速機190は、分割できる2つの第1分割フレーム8Aと第2分割フレーム8Bとを組み合わされて形成されたフレーム8の内部に構成部品が収納されている。図1において左側の第1分割フレーム8Aには、入力軸11が入力軸ベアリング12によって回転自在に設けられている。入力軸11は、不図示の駆動源に接続されている。図1において右側の第2分割フレーム8Bには、出力軸13が出力軸ベアリング14によって回転自在に設けられている。
【0021】
波動歯車減速機190は、中空の円環状の内径面に内歯を形成されて第2分割フレーム8Bに固定されたサーキュラスプライン7を備えている。また、波動歯車減速機190は、サーキュラスプライン7の内歯歯車よりも歯数が2n枚(nは正の整数)、例えば、2枚少ない外歯歯車が形成されかつ可撓性を有するフレクスプライン6を備えている。さらに、波動歯車減速機190は、フレクスプライン6を略楕円形に撓ませるとともにその長径部の2箇所でサーキュラスプライン7とフレクスプライン6を係合させるウェーブジェネレータ17も備えている。
【0022】
入力軸11には、入力軸11と一体に回転する楕円形の保持部材1が設けられている。保持部材1の外周には、支持軸2によって主遊星ローラ3と補助遊星ローラ4とが設けられている。主遊星ローラ3は、ベアリング3Aと支持軸2とで構成され、補助遊星ローラ4はベアリング4Aと支持軸2とで構成されている。保持部材1の外周には、ベアリング3A,4Aを受け入れる凹部1aと支持軸2を受け入れる切欠1bとが形成されている。切欠き1bは、放射状に形成されている。
【0023】
主遊星ローラ3は、楕円形の保持部材1の長径の両端に、支持軸2と切欠1bとの係合により位置決めされて回転自在に設けられている。補助遊星ローラ4は、主遊星ローラ3の両隣の楕円形の保持部材1の長径から外れた位置に、支持軸2と切欠1bとの係合により位置決めされて回転自在に設けられている。すなわち、主遊星ローラ3の中心と入力軸11との距離r1は、補助遊星ローラ4の中心と入力軸11との距離r2より長い(r1>r2)ことになる。この場合、ベアリング3A,4Aの外輪の直径は同じものとする。主遊星ローラ3と補助遊星ローラ4は、都合6つ設けられている。
【0024】
保持部材1、支持軸2、主遊星ローラ3及び補助遊星ローラ4は、ウェーブジェネレータ17を形成している。主遊星ローラ3と補助遊星ローラ4は、ベアリングの内輪に圧入された支持軸を切欠1bに挿入しながら保持部材1の凹部1aに挿入して、入力軸11に取り付けられている。したがって、ウェーブジェネレータ17は、入力軸11が回転すると、保持部材1、支持軸2、主遊星ローラ3及び補助遊星ローラ4が一体に回転するようになっている。このため、主遊星ローラ3及び補助遊星ローラ4は、入力軸11の軸心である公転軸心9を中心に公転し、支持軸2の軸心である自転軸心10を中心に自転するようになっている。
【0025】
円筒状部材としてのフレックスリング5は、薄肉の弾性を備えたリング状の部材であり、主遊星ローラ3と補助遊星ローラ4の外輪に装着され楕円状に形成されている。
【0026】
フレクスプライン6は、薄肉のカップ状に形成されて一端部が出力軸13に取り付けられている。カップ状の他端部である先端部の外周には、外歯歯車6aが形成されている。また、フレクスプライン6は、フレックスリング5の外周に接して、主遊星ローラ3と補助遊星ローラ4との公転と自転とによって、フレックスリング5に対して周方向に滑るようになっており、楕円形に弾性変形するようになっている。
【0027】
サーキュラスプライン7は、リング状に形成されてフレーム8の第2分割フレーム8Bに固定されている。サーキュラスプライン7の内面には、フレクスプライン6の外歯歯車6aと噛合う内歯歯車7aが形成されている。サーキュラスプライン7の歯数は、フレクスプライン6の歯数より2n枚(nは正の整数)多い。サーキュラスプライン7の内歯歯車7aは、主遊星ローラ3、補助遊星ローラ4およびフレックスリング5によって楕円に弾性変形したフレクスプライン6の外歯歯車6aと、楕円の長径付近の主遊星ローラ3の2箇所で噛合っている(図2)。
【0028】
以上の構成において、入力軸11、保持部材1、フレックスリング5、フレクスプライン6及び出力軸13の回転中心と、サーキュラスプライン7の中心は、一致して公転軸心9上にある。
【0029】
次に、波動歯車減速機190の動作を説明する。
【0030】
入力軸11に接続された保持部材1が公転軸心9を中心に回転すると、保持部材1を中心に配置された都合の6つの主遊星ローラ3と補助遊星ローラ4とが、フレックスリング5の内周面を転がるようにして移動する。すなわち、主遊星ローラ3と補助遊星ローラ4とが公転軸心9を中心にして公転しながら自転軸心10を中心にして自転する。
【0031】
主遊星ローラ3の移動により、その外側のフレックスリング5とフレクスプライン6の楕円の長径位置も弾性変形しながら移動する。このため、フレクスプライン6の外歯歯車6aとサーキュラスプライン7の内歯歯車7aとの噛合う2箇所の位置も移動する。この噛み合い位置の移動により、保持部材1が1回転するごとに、フレクスプライン6はサーキュラスプライン7との歯数差分だけ減速回転する。
【0032】
このように、フレックスリング5とフレクスプライン6は、周方向に互いに滑るように接して配置されている。このため、フレクスプライン6の厚みをフレックスリング5の厚み分だけ増やした場合に比べて、楕円変形の際の最大応力を緩和することができる。そして、フレックスリング5とフレクスプライン6とを共に楕円に弾性変形可能にすることができる。その一方で、フレックスリング5は主遊星ローラ3の周方向近傍のフレクスプライン6に半径方向かつ内側方向のラジアル荷重が加わった際に、フレクスプライン6が主遊星ローラ3の曲率に沿って楕円の内側に撓むのを抑えるように作用する。すわなち、従来の図14に破線で示したフレクスプライン906のように撓むのを防止することができる。これにより、フレクスプライン6の外歯歯車6aとサーキュラスプライン7の内歯歯車7aとの噛合い歯数が減少するのを防止することができる。
【0033】
したがって、波動歯車減速機190は、フレクスプライン6の外歯歯車6aとサーキュラスプライン7の内歯歯車7aとの噛合い歯数を、遊星ローラを用いた従来例よりも多い状態で、出力軸13のトルクを受けとめるようになっている。このため、出力軸13のねじり剛性を高くできる。また、弾性変形ベアリングを用いた従来の波動歯車減速機では、内輪と外輪が鋼球と接する面を高精度に加工する必要があったが、本発明は内輪が無いため、安価な構成が可能となる。これにより、本発明は、遊星ローラを使用した安価な構成を保ちつつ、ねじり剛性の高い構成をした波動歯車減速機を提供することができる。
【0034】
なお、フレックスリング5は、真円で製作した後、主遊星ローラ3、補助遊星ローラ4によって楕円の形状に弾性変形するようになっている。フレックスリング5の厚みは、楕円に変形した際に、フレックスリング5に使用している材料の弾性域内になるように設定されている。すなわち、フレックスリング5の厚みは、フレックスリング5が塑性変形しない厚みに設定されている。フレックスリングが、材質SUJ2であり、外径60mmの真円であり、厚み1.75mm程度であれば、フレックスリングを楕円に変形する際の長径の変形量が約1mm程度になり、変形時の最大応力はSUJ2の弾性域内となる。
【0035】
また、以上の説明では、主遊星ローラ3の中心と入力軸11との距離r1は、補助遊星ローラ4の中心と入力軸11との距離r2より長く(r1>r2)、かつベアリング3A,4Aの外輪の直径は同一である。しかし、必ずしも、このように設定されていなくてもよい。フレクスプライン6の長径付近の外歯歯車がサーキュラスプライン7の内歯歯車と噛合い、フレクスプライン6の短径付近の外歯歯車がサーキュラスプライン7の内歯歯車から離れる設定関係になっていればよい。
【0036】
なお、補助遊星ローラ4は、必ずしも必要としない。主遊星ローラ3のみであってもよい。主遊星ローラ3のみであると、フレックスリング5が図2より長円になるため、フレックスリング5の内周が楕円の保持部材1の外周に接するおそれがある。このため、保持部材1の形状を図2よりも長円にして、フレックスリング5が接触しないようにする必要がある。
【0037】
なお、図4に示すように、フレックスリング5は、内周の周方向に沿って溝5aを形成し、この溝5aに主遊星ローラ3と補助遊星ローラ4とを進入させてもよい。この場合、入力軸11によって保持部材1が回転すると、主遊星ローラ3と補助遊星ローラ4とが、フレックスリング5の溝5aを転がるようにして移動する。
【0038】
このような構造にすると、フレックスリング5がフレクスプライン6から軸線方向(スラスト方向)の力を受けたとき、フレックスリング5が主遊星ローラ3と補助遊星ローラ4とから外れることを防止することができる。
【0039】
したがって、波動歯車減速機は、入力軸の回転を出力軸に確実に伝達することができる。
【0040】
なお、後述する図7乃至図10のフレックスリング5も、内周の周方向に沿って、ベアリング3A,4Aの外輪が係合する溝5aが形成されて、主遊星ローラ3と補助遊星ローラ4とから外れるのを防止されている。
【0041】
また、図5に示すように、主遊星ローラ3のベアリング3Aの外輪3Aaの外周にリング状の外周ローラ16を装着してもよい。外輪3Aaと外周ローラ16は、一体化されている。そして、外周ローラ16の外周に周方向の溝16aが形成されている。フレックスリング5の内周の周方向に突条5bが形成されている。溝16aと突条5bは、互いに係合している。補助遊星ローラ4のベアリング4Aの外輪の外周にも外周ローラ(不図示)を装着して、フレックスリング5の内周の周方向に形成された突条5bに係合する溝を形成してもよい。なお、図6に示すように、フレックスリング5に溝5cを形成し、その溝5cに外周ローラ16の外周部(突条に相当する)が係合するようにしてもよい。
【0042】
このような構造にすると、フレックスリング5がフレクスプライン6から軸線方向(スラスト方向)の力を受けたとき、フレックスリング5が主遊星ローラ3と補助遊星ローラ4とがから外れることを防止することができる。
【0043】
したがって、波動歯車減速機は、入力軸の回転を出力軸に確実に伝達することができる。
【0044】
さらに、主遊星ローラ3のベアリング3Aの鋼球が受けるラジアル荷重を、長径周辺部の鋼球に分散させることができる。したがって、波動歯車減速機は、耐久性が向上する。
【0045】
また、図7に示すように、フレックスリング5の外周の周方向に沿って潤滑剤を保持する凹部としての溝5dが3本(3本に限定されない)形成されている。溝5dの代わりに凹みを形成してもよい。
【0046】
このような構造にすると、フレックスリング5の外周の溝5dに潤滑剤が保持されるため、フレクスプライン6とフレックスリング5の間の摩擦を低減することができる。図5、図6に示すフレックスリング5も、外周の周方向に沿って溝5dが形成されていてもよい。
【0047】
したがって、波動歯車減速機は、フレクスプライン6とフレックスリング5ともに摩耗の進行を少なくして、耐久性を向上させることができる。
【0048】
また、図8に示すように、フレックスリング5の外周を軸線方向の中間が中高の円弧面5eに形成して、円弧面5eがフレクスプライン6の内周に接触するようにしてもよい。図8(A)は、図2のB−B矢視断面図に相当する図である。図8(B)は、図2のC−C矢視断面図に相当する図である。図8(C)は、図2のD−D矢視断面図に相当する図である。
【0049】
フレクスプライン6は、可撓性を有しているため、図8(A)、(B)、(C)に示すように、主遊星ローラ3が接触している部分と、補助遊星ローラ4が接触している部分と、遊星ローラが接触していない部分とでは、撓み方が異なっている。主遊星ローラ3が接触している部分は図8(A)のように広がり、補助遊星ローラ4が接触している部分は図8(B)のように広がることが殆どなく、遊星ローラが接触していない部分は図8(C)のように窄まっている。このように、フレクスプライン6は、広がったり窄まったり弾性変形するようになっている。このため、図4に示すフレックスリング5のように、円弧面が形成されていないと、フレックスリング5の角がフレクスプライン6に当接して、フレックスリング5とフレクスプライン6とに局所摩耗が生じるおそれがある。
【0050】
しかし、フレックスリング5の外周に円弧面5eを形成すると、図8(A)、(B)、(C)に示すように、フレクスプライン6がフレックスリング5の外周全体に略均一に接触するようになり、上記局所摩耗が少なくなる。なお、円弧面は、フレクスプライン6の内周に形成してもよい。この場合においても、フレクスプライン6がフレックスリング5の外周全体に略均一に接触するようになるので、フレックスリング5とフレクスプライン6とに局所摩耗が生じることが少なくなる。
【0051】
したがって、波動歯車減速機は、フレックスリング5とフレクスプライン6とに局所摩耗が発生することを防止して耐久性を向上させることができる。
【0052】
また、図9に示すように、フレックスリング5の外周に、入力軸側に縮径するテーパ状のテーパ部5fを形成して、テーパ部5fがフレクスプライン6の内周に接触するようにしてもよい。図9(A)は、図2のB−B矢視断面図に相当する図である。図9(B)は、図2のC−C矢視断面図に相当する図である。
【0053】
フレクスプライン6は、可撓性を有しているため、図9(A)、(B)に示すように、主遊星ローラ3が接触している部分と、補助遊星ローラ4が接触している部分とでは、撓み方が異なっている。フレクスプライン6は、主遊星ローラ3が接触している部分は図9(A)のように広がり、補助遊星ローラ4が接触している部分は図9(B)のように広がることが殆どない。なお、フレクスプライン6の図2のC−C矢視断面図に相当する部分は、図8(C)のように窄まっている。
【0054】
これによれば、カップ形状のフレクスプライン6が楕円の長径付近で傾斜しても(図9(A))、フレックスリング5がその傾斜と同じ傾斜をしているため、フレクスプライン6とフレックスリング5の接触面積が増加する。
【0055】
したがって、波動歯車減速機は、フレクスプライン6の外歯とサーキュラスプライン7の内歯との噛合い部におけるフレクスプライン6のラジアル方向の剛性が向上し、出力軸側のねじり剛性を高くすることができる。
【0056】
また、図10に示すように、フレックスリング5の外周の周方向に沿って薄肉円筒状の樹脂部材15を設けて、フレックスリング5とフレクスプライン6との間に加圧接触状態で樹脂部材15を介在させてもよい。図10(A)は、図2のB−B矢視断面図に相当する図である。図10(B)は、図2のC−C矢視断面図に相当する図である。
【0057】
フレクスプライン6は、可撓性を有しているため、図10(A)、(B)に示すように、樹脂部材15を介して、主遊星ローラ3が接触している部分と、補助遊星ローラ4が接触している部分とでは、撓み方が異なっている。フレクスプライン6は、主遊星ローラ3が接触している部分は図10(A)のように広がり、補助遊星ローラ4が接触している部分は図10(B)のように広がることが殆どない。なお、フレクスプライン6は、図2のC−C矢視断面図に相当する部分は、図8(C)のように窄まっている。このように、フレクスプライン6は、開いたり窄まったり弾性変形するようになっている。
【0058】
これにより、カップ形状のフレクスプライン6は保持部材1の楕円長径が移動するにつれて、フレクスプライン6の傾斜が変化する。その傾斜に倣うようにして、加圧された樹脂部材15が変形し、図10(A)(B)に示すように、フレクスプライン6とフレックスリング5の接触面積が殆ど変化しない。
【0059】
したがって、波動歯車減速機は、フレクスプライン6の外歯歯車とサーキュラスプライン7の内歯歯車との噛合い部におけるフレクスプライン6のラジアル方向の剛性が向上して、出力軸側のねじり剛性を高くすることができる。
【0060】
また、図11(A)に示すように、主遊星ローラ3のベアリング3Aの外輪3Aaの外周にリング状の外周ローラ16を装着してもよい。外輪3Aaと外周ローラ16は、一体化されている。外周ローラ16の外周の軸線方向に円弧凸面16bが形成され、フレックスリング5の内周の軸線方向に円弧凸面16bに係合する円弧凹面5gが形成されている。図11(B)に示すように、補助遊星ローラ4のベアリング4Aの外輪4Aaの外周にも外周ローラ16が一体に装着されている。この外周ローラ16にもフレックスリング5の円弧凹面5gに係合する円弧凸面16bが形成されている。図11(A)は、図2のB−B矢視断面図に相当する図である。図11(B)は、図2のC−C矢視断面図に相当する図である。
【0061】
フレクスプライン6は、可撓性を有しているため、主遊星ローラ3が接触している部分は図11(A)のように広がり、補助遊星ローラ4が接触している部分は図11(B)のように広がることが殆どない。なお、フレクスプライン6は、図2のC−C矢視断面図に相当する部分は、図8(C)のように窄まっている。
【0062】
このように、フレクスプライン6が広がったり窄まったりして、保持部材の楕円長径付近で傾斜しても、円弧凹面5gと円弧凸面16bとの係合によって、その傾斜に追従するようにフレックスリング5が傾く。このため、フレクスプライン6とフレックスリング5の接触面積が増加する。
【0063】
したがって、波動歯車減速機は、フレクスプライン6の外歯とサーキュラスプライン7の内歯との噛合い部におけるフレクスプライン6のラジアル方向の剛性が向上し、出力軸側のねじり剛性を高くすることができる。
【0064】
なお、外周ローラ16に円弧凹面を形成し、フレックスリング5に円弧凸面を形成してもよい。すなわち、外周ローラ16とフレックスリング5との一方に円弧凹面を形成し、他方に円弧凸面を形成すればよい。
【0065】
また、図7乃至図10のフレックスリング5は、内周の周方向に沿って、ベアリング3A,4Aの外輪が係合する溝5aが形成されている。
【0066】
図12は、図1乃至図3の実施の形態の波動歯車減速機190と構成の異なる、他の実施の形態の波動歯車減速機290の入力軸と出力軸とに沿った断面図である。
【0067】
図12に示す波動歯車減速機290は、図1の波動歯車減速機190と比較して、フレクスプライン206とサーキュラスプライン207との構造が異なっている。以下、異なっている構造のみ説明し、構造が同一の部分については図1と同一の符号を付して説明を省略する。
【0068】
フレクスプライン206は、弾性変形可能な中空円筒に形成されて主遊星ローラ3と補助遊星ローラ4とに装着され、外周に外歯歯車206aが形成されている。
【0069】
固定サーキュラスプライン207Aは第1分割フレーム8Aに固定されている。固定サーキュラスプライン207Aの内周には、フレクスプライン206の外歯歯車206aと噛合う第1の内歯歯車としての内歯歯車207Aaが形成されている。固定サーキュラスプライン207Aの内歯歯車207Aaの歯数はフレクスプライン206の外歯歯車206aの歯数より2n枚(nは正の整数)多い。内歯歯車207Aaは、主遊星ローラ3、補助遊星ローラ4およびフレックスリング5によって楕円に弾性変形したフレクスプライン206の外歯歯車206aと、楕円の長径付近の主遊星ローラ3の2箇所で噛合っている。
【0070】
出力サーキュラスプライン207Bは出力軸13に取り付けられて、出力軸13と一体に回転するようになっている。出力サーキュラスプライン207Bの内周には、フレクスプライン206の外歯歯車206aと噛合う第2の内歯歯車としての内歯歯車207Baが形成されている。出力サーキュラスプライン207Bの内歯歯車207Baの歯数はフレクスプライン206の外歯歯車206aの歯数と同じである。すなわち、固定サーキュラスプライン207Aの内歯歯車207Aaの歯数は出力サーキュラスプライン207Bの内歯歯車207Baの歯数より2n枚(nは正の整数)多い。このように、固定サーキュラスプライン207Aは、内歯歯車207Aaと内歯歯車207Baとが同軸的に並設されて形成されている。そして、内歯歯車207Baは、内歯歯車207Baより歯数が2n枚少なく形成されて出力軸に回転を伝達するようになっている。
【0071】
主遊星ローラ3と補助遊星ローラ4との外周とフレクスプライン206との間には、フレックスリング5が介在している。
【0072】
波動歯車減速機290の動作を説明する。
【0073】
入力軸11に接続された保持部材1が公転軸心9を中心に回転する。すると、保持部材1を中心に配置された主遊星ローラ3と補助遊星ローラ4との都合の6つのローラが、フレックスリング5の内周面を公転しながら自転して転がり移動する。主遊星ローラ3の移動により、その外側のフレックスリング5とフレクスプライン206の楕円の長径位置も弾性変形しながら移動する。このため、フレクスプライン206の外歯歯車206aと固定サーキュラスプライン207Aの内歯歯車207Aaとの噛合う2箇所の位置も移動する。この噛み合い位置の移動により、保持部材1が1回転するごとに、フレクスプライン206は固定サーキュラスプライン207Aとの歯数差分だけ減速回転する。フレクスプライン206の減速回転は、出力サーキュラスプライン207Bを経て、出力軸13に伝達される。
【0074】
このように、フレックスリング5とフレクスプライン206は、周方向に互いに滑るように接して配置されているため、フレクスプライン206の厚みをフレックスリング5の厚み分だけ増やした場合に比べて、楕円変形の際の最大応力を緩和できる。そのため、フレックスリング5とフレクスプライン206ともに楕円に弾性変形可能にすることができる。その一方で、フレックスリング5は主遊星ローラ3の周方向近傍のフレクスプライン206に半径方向かつ内側方向のラジアル荷重が加わった際に、フレクスプライン206が主遊星ローラ3の曲率に沿って楕円の内側に撓むのを抑えるように作用する。すわなち、従来の図14に破線で示したように撓むのを防止することができる。これにより、フレクスプライン206の外歯歯車206aと固定サーキュラスプライン207Aの内歯歯車207Aaとの噛合い歯数が減少するのを防止することができる。
【0075】
したがって、波動歯車減速機290は、フレクスプライン206の外歯歯車206aと固定サーキュラスプライン207Aの内歯歯車207Aaとの噛合い歯数が従来よりも多い状態で、出力軸13のトルクを受けとめることができる。このため、出力軸13のねじり剛性を高くすることができる。
【0076】
これにより、本発明は、遊星ローラを使用した安価な構成を保ちつつ、ねじり剛性の高い構成をした波動歯車減速機を提供することができる。
【0077】
以上の波動歯車減速機290においても、図4に示すようにフレックスリングの内周の周方向に沿って溝を形成して、この溝に遊星ローラが進入するようにしてもよい。
【0078】
また、図5、図6に示すように、遊星ローラの外周にリング状の外周ローラを装着して、外周ローラの外周とフレックスリングの内周との周方向に、互いに係合する溝と突条とを形成してもよい。さらに、図7に示すように、フレックスリングの外周に潤滑剤を保持する凹部を形成してもよい。
【符号の説明】
【0079】
3:主遊星ローラ、3A:ベアリング、4:補助遊星ローラ、5:フレックスリング、5a:溝、5b:突条、5c:溝、5d:溝、5e:円弧面、5f:テーパ部、5g:円弧凹面、6:フレクスプライン、6a:外歯歯車、7:サーキュラスプライン、7a:内歯歯車、11:入力軸、13:出力軸、17:ウェーブジェネレータ、190:波動歯車減速機、206:フレクスプライン、206a:外歯歯車、207A:固定サーキュラスプライン、207:サーキュラスプライン、207Aa:内歯歯車(第1の内歯歯車)、207B:出力サーキュラスプライン、207Ba:内歯歯車(第2の内歯歯車)、290:波動歯車減速機。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸の回転によって2つの遊星ローラが、内歯歯車に噛合うリング状の外歯歯車の内側を公転しながら自転して前記外歯歯車を長円状に弾性変形させ、前記内歯歯車と前記外歯歯車との2箇所の噛合い位置を変えることによって、前記入力軸の回転を前記外歯歯車と前記内歯歯車との一方に接続された出力軸に減速回転伝達する波動歯車減速機において、
前記外歯歯車と前記遊星ローラとの間に弾性変形可能なフレックスリングを備えた、
ことを特徴とする波動歯車減速機。
【請求項2】
前記フレックスリングの内周の周方向に沿って溝が形成され、前記溝に前記遊星ローラが進入している、
ことを特徴とする請求項1に記載の波動歯車減速機。
【請求項3】
前記遊星ローラの外周にリング状の外周ローラが装着され、前記外周ローラの外周と前記フレックスリングの内周との周方向に、互いに係合する溝と突条とが形成されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の波動歯車減速機。
【請求項4】
前記フレックスリングの外周に潤滑剤を保持する凹部が形成されている、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の波動歯車減速機。
【請求項5】
前記外歯歯車が、前記出力軸に一端部が設けられた弾性変形可能な円筒状部材の他端部の外周に設けられ、
前記フレックスリングの外周と前記円筒状部材の内周との一方に軸線方向の中間が中高の円弧面が形成され、前記フレックスリングと前記円筒状部材の内周とが前記円弧面を介して接触している、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の波動歯車減速機。
【請求項6】
前記外歯歯車が、前記出力軸に一端部が設けられた弾性変形可能な円筒状部材の他端部の外周に設けられ、
前記フレックスリングの外周が前記出力軸の側に縮径するテーパ状に形成され、前記テーパ状の部分が前記円筒状部材の内周に接触している、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の波動歯車減速機。
【請求項7】
前記外歯歯車が、前記出力軸に一端部が設けられた弾性変形可能な円筒状部材の他端部の外周に設けられ、
前記フレックスリングの外周と前記円筒状部材の内周との間に樹脂部材を介在させた、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の波動歯車減速機。
【請求項8】
前記外歯歯車が前記出力軸に一端部が設けられた弾性変形可能な円筒状部材の他端部の外周に設けられ、
前記遊星ローラの外周にリング状の外周ローラが装着され、前記外周ローラの外周の軸線方向と前記フレックスリングの内周の軸線方向との一方に円弧凸面が形成され、他方に前記円弧凸面に係合する円弧凹面が形成されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の波動歯車減速機。
【請求項9】
前記内歯歯車は、第1の内歯歯車と、前記第1の内歯歯車と同軸に並設されて前記第1の内歯歯車より歯数が2n枚少なく前記出力軸に接続された第2の内歯歯車とで構成され、
前記外歯歯車との2箇所の噛合い位置を変えることによって、前記入力軸の回転を前記出力軸に減速回転伝達する、
ことを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の波動歯車減速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−57397(P2013−57397A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−176677(P2012−176677)
【出願日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】